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日消外会誌 8(5):463∼ 465,1975年 ― と くに 胃狩 特別講演 進 癌 の 展 ル スの成 り立 ちに つい て 一 国立 が ん セ ンタ ー病 理 部 佐 野 量 造 PROGROSES OF GASTRIC CANCnR ― HISTOCENESIS OF LINITIS PLSTICA TYPE OF STOMACH CANCER― Ryozo Sano,M.D. Division of Pathology National Cancer Center Tokyo,Japan 日本においていわゆる早期癌 の発見 は過去 10年間にお いてめ ざましい進歩を とげ,手 術 された 冒痛 の約20%が 早期痛を占め ,か つ ,そ の 5年 生存率 もmの 癌 は100%, Smの 痛 は90%近 くの好成績 が得 られ ている. しか し,こ れ らの早期 胃癌 が果 してすべ ての 目癌 の真 の早期を意味す るものであ るか ,否 か ,言 い換えれば, いわゆる早期 胃癌 と進行痛 のつなが りを現時点において 筆者 らは IC早 期癌 の 進行 した と考えられ る 進行癌 相違 の有 (IC進 行型 と仮称す る)と Limitis PlastiCaの 々の してみた。 ら検討 面か 無を種 行型 とした ものは肉眼的 に早期痛 と診断 さ れたが組織学的 には Sm以 下に浸潤 した痛 であ り, そ の ① EC進 あ らためて 再検討 す る必要 が あ るのでは ないか と考え 浸潤範囲は 胃全体か らみると,せ いぜ いその 1領 域 (胃 癌規約 の A.M.Cの 1領 域)を 占めているに過 ぎないが, スキル ス,ま たは Limitis PlastiCaと 肉眼的 に診断 され る。とくに早期 胃癌中最 も多 くを占めているIC型 早期 る例はいずれ も,A.M.Cの 癌 がいかなる進行癌に推移す るのか ,こ れ と,ス キルス ルマンIV型癌)の 関連性 の有 (Limitis Plastica type,ボ 無は臨床的 に も,ま た病理学的 に も重要な問題 であ る. 行型 とスキルスの頻度 は筆者 らの 648例の潰 瘍型進行癌 では前者 は24.5%,後 者は10.8%を 占めてい 胃癌 の進展を これに重点を置いて筆者 の考えをのべ てみ ② IC進 行型 とスキルスの深部浸潤型式を組織学的 に検討す ると,前 者では粘膜内癌巣 よ り漸次的あるいは 連続性 に深部 に浸潤 しているが ,後 者 では粘膜内癌巣 の ることにす る. 早期 胃癌は果 してスキルスに移行するか 肉眼的 に IC型 早期痛 と診断 された もので も,そ れが Sm以 下 の深部 に浸潤 した 進行癌 であれば ,そ れはめだ 1)HC型 つた 潰瘍形成 もな く,ま た 隆起 もない とい う理 由 で こ れをボル マンIV型癌 として,分 類 して ヽヽ る研究者 が 多 全領域 に 及 んで浸潤 してい る.IC進 る. 大小 に関係な く,そ れ よ りはるかに広範に,か つ非連続 的あ るいは飛躍的 に深部 に浸潤 している。 ③ IC進 行型 スキルスに 合併 して い る 消化性潰瘍 (この部 にはほ とん ど粘膜内の癌巣が発見 され,原 発部 い.ま ず ボル マ ンIV型癌 の定義であるが ,それ は Difuse とみて良い)の 種類 と部位を比較す ると,前 者 では早期 Karzinomeと 分類 されてお り,そ の説明 として,IV型 痛 癌 の IC型 と同 じく,Ull,Ul皿 ,Ullvの 潰瘍 がほぼ 早期癌 と同様 の頻度 で小弯,胃 角を中心 として多 く存在 は肉眼的に大 きな潰瘍 も隆起 もない平板状 に浸潤す る痛 として のべ られて ヽヽ る.こ の点 , 日本 の学者 の間には ``Diruse''と ぃ ぅ意味 よ りも “平担な力進行痛 とヽヽう点 にボル マ ンIV型癌 の分類 の重点を置 いているよ うに思は れ る。日本では臨床的 に一般 には スキル ス と呼ばれ,欧 ポルマ ンIV型癌 に 相当 米では Limitis PlastiCa typeが す る。 す る。これに対 し,ス キル スではUII の 浅 い潰瘍 が大 部分 で ,か つそれは胃体部 とくに大弯附近に多 く存在す る. ④ ス キルスは広 い コC早 期癌 (表層拡大型 胃瓶)が 緩慢 に 深部浸潤 して 生 じたものでは ないか とい う学者 がいる。この点について筆者 らは IC進 行型 とスキルス 8(464) 冒痛 の進 展 日消外 会 誌 8 巻 5号 cm,5,lcm以 上の 3種 に分け て比較 した 。その結果は大 硬化 は一様 に生 じているのではな く,硬 化 した部 と水腫 様 の部 の混在 しているのに気づ く。これ らの多 くの経験 きさに 関す る頻度 の相違 は 両者 の間 に認められ なかつ か ら線維性硬化をきたす前に水腫様の時期 が先行す るの た 。すなわち,よ り広 い ⅡC型 早期癌 がスキルスになる とい う根拠 はな く,ま た ,こ の研究 の結果 ,0。1∼2.Oom ではないか と推測 した 。多 くの材料を収集 してい る うち 以内の微小粘膜内癌巣 もスキルスの原発巣 となることが びまん性痛 の 2例 を手に入れ ることがで きた 。この 2例 判明 した。 はいずれ も胃壁は高度に水腫状肥厚を示 しているが硬化 はな く,ま た組織学的には至 る所 の リンパ管内に癌細胞 における粘膜内癌巣の大 きさを,0.1∼ 2.Ocm,2.1∼5.0 ③ 胃 癌 にか ぎらず悪性腫瘍 においてそれを同一 の も の として扱か うか,ま た別個のもの として分類す るか, この点 において最 も重要な ことは予後 の相違であ る。 IC進 行型 とスキル スの 5年 生存率 を 筆者 ら の 材料 について検討す ると,IC進 行型 とした ものはボルマ ン I型 と同 じく,そ の 5生 率 は38.5%で あるが,ス キルス は全例が 3年 以内に死亡 している。 0 ス キル スは従来 ヵ他 の進行癌 と異な り,若 い女性 に多いこ とが知 られている. 筆者 らの材料 では潰瘍型進行痛 (IC進 行型を合む) 648例の平均年令 は54.1歳,ス キルス61例では49.1歳で ある。また性別 については前者は男女比は 1.7で男に多 いが,後 者では 0.9で女性 に多い。 以上,IC進 行型 とスキルスを比較 したが浸潤範囲, 深部浸潤 の型式,発 生部位 ,お よび予後などについて両 者 には 明らかな相違があ り,こ れを同一 に論ずべ きもの ではない と考え る. 2)ス キルスにおける広範囲の漠潤 について スキルスはびまん性癌 とよばれ るように 胃全体に及ぶ 広範な浸潤を きたす点にその大 きな特徴がある. この原因 について検索 した結果 ,ス キル スの大部分 の 例 に高度 の リンパ管内浸潤を認め ることがで きた 。この に ,こ れ らの推測を うらづける水腫様肥厚を主体 とした の栓塞 の認 め られたびまん性癌 であつた。当時 これ らの 水 腫様変化 はおそ らく,癌 細胞 の リンパ管内栓塞 の結 果生 じた渉出, あ るいは リンパ液が うつ 滞 しそれが 線 維増生を促がす とい う EPinger,R6ssieの Ser6se Entz‐ iimdllngの概念で説明で きるのではないか と考えた 。同 様 の考えは S2Phiret(1943)によつてのべ られてい る. 筆者 らは この水腫液 について線維素 の検出を試みたが証 明で きず ,ま た,PAS染 色に よる酸性多糖類 の 増力Rも 認め られなかつた. この水腫液 の性状を さらに ,元 本院研究所 ,生 化学 の 竹内博士 (現 。東京女子医大,消 化器 センター教授)の lineの 測定 を行 うことが で き 協力 に より Hガ rOxypr。 た。現在 ,膠 原線維 の生成 の機序 については ,つ ぎの よ うに考えられ ている。すなわち,ア ミノ該を母体 として 細胞内においてプ ロ トコラーゲンがつ くられ ,そ れが細 胞外 に出ると水溶性 ヨラーゲンとなる。この水溶性 コラ ー ゲンは間質中に存す る酸性多糖類 と結合 し,さ らに酵 素 (monoaminoxydase)の作用 に よ り不溶性 コラーゲン に変化す る.不 溶性 コラーゲンになつ て初めてアザ ン染 色等 で染出され る膠原線維 として認め られ る.こ の水溶 性 コラー ゲン量はHydroXyProlineを 測定す ることに よ り 所見は硬化のあま り進行 していない部分 に良 く識別 され 間接的 にその量を知 ることがで きる。前述 した 2例 の水 る。すなわち,ス キル スにおける胃壁 の広範 な浸潤 は リ ンパ管を通 じて行はれ るものと推測 され る。(lymPhang‐ 腫様肥厚を主 とす るびまん性痛 について Itydroxttroline の測定を行つた結果では ,水 腫様部 には ,膠 原線維 の多 iosis carcinomatosa),こ れは 乳癌 の 胃転移 に み られ る Limitis PIasticaぉ よび 百腸原発 の Limitis plasticaに い部 と同様あ るいはそれ以上に高 い値 の HydroxyprOline る。しか し,臨 床経過 で も知 られ るように ,か な り短期 間 に 胃全体に及が広範な硬化を単純な間質反応 として理 なる細胞に よつて産生 され るかについてである。現在 , 一般 に膠原線維は線維芽細胞か らつ くられ ると 考えられ 解 され るものか ,ど うか甚 だ問題があ る. まず,ス キルスの切除材料 の書」 面を注意 してみ ると, ている。 が証明された 。すなわち,この結果 より,水腫様液には多 おいても同様 の高度 の lymphangiOsis carcinomatosaの 量 の水溶性 コラーゲンの含まれ ていることが知 られた 。 所見が認め られた ことに よつ て もうらづけ られ る。 これ らの 測定結果 か ら筆者 らは スキルスにおける 広範 3)ス キルスにおける修原線維の増生 について かつ高度 の 胃壁 の硬化 は水溶性 コラーゲンが不溶性 ヨラ ー ゲンに変化す ることに よつて生ず るもの と スキルスを最 も特徴づ ける膠原線維の増生については 考えた 。し 一般 に 痛細胞 に対す る宿主 の 問質反応 と考えられ てい か し,こ こで残 る大 きな問題は水溶性 コラーゲンがいか しか し,今 回のスキルスの材料 においては水溶性 コラ 1975年9月 ― ゲンが多量 に証明された水腫様部 には線維芽細胞 の増 殖 はな く,こ の部 には多数 の癌細胞 の リンパ管内栓塞が 認め られた 。以上のことか ら,癌 細胞 が水溶性 コラーゲ ンを産生す るとい う可能性 も否定 されない。 直接 ,痛 細胞が これを産生 し得 ない としてもスキルス における癌細胞 の性格 が水溶性 ヨラーゲンの産生 に大 き く関与 していることは事実であろ う.筆 者 らは この問題 を別な面か ら推測 してみた.す なわち ,種 々の他臓器に 9(465) 期癌 の断端 浸潤例 の再発 を きた した ものでは術後 5∼ 6 年 で残 胃に再発 して も,そ れが粘膜 内に とどまるmの 痛 で あ る ことが 多 い . 他方 ,ス キル スの よ うに 4∼ 5年 前異常 な しとされた 患者 が短期間 に 胃全体 にお よぶ硬 化 を きた して死亡す る 例 が あ る.胃 癌 の進展を論ず る場合 に癌細胞 の性格 を 同 一 の もの として扱か うことは危険 で あ る。 目癌 の進展 を 左右す る ものは癌 細胞 の発育速度 ,脈 管浸潤 の有無 が主 原発 した癌が胃に転移 した場合における間質反応を検査 要 な因子 で あ り,そ れ はす べ て癌細胞 の生物学的態度 に した 結果では 乳癌 の転移 のみが 高度 の膠原線維 の増生 を伴 つて ヽヽ た。 乳痛 の 胃転移がまれに Limitis plastica tweの 所見を示す ことは以前か ら報告 され てお り,筆者 関係す るもの と考 え られ る. 表層拡大型 の ご とき早 期痛 は深部浸潤す る傾 向が 少 な く長期間粘膜 内に とどまる低悪性 度 の癌 とすれば ス キル スは好 んで リンパ管 に 浸潤 し胃全 体 を 侵 かす 悪性度 の らもこれ に相当す る ものを 2例 経験 してい る。 何故 に 乳癌 の転移巣 のみに 胃の間質 は Limitis Pias‐ 強 い病 で あ る と考 え る。この点 ,ス キル スは早期癌 の見 tiCa様の反応を示す のか ,こ の点 について も,単 にこれ 逃 が しに よつて生 じた癌 の終末像 で あ る との考 えは 胃痛 を宿主 の痛細胞 に対す る単純 な間質反応 として理解す る ことは困難であろ う。 4)ス キルスの経過について の生物学的 な態度 の差を無視 した もので あろ う。現在手 ''の “ うち には 真 の早期 を意味す る 術 され てい る 早期癌 癌 も含 まれ てい ることは確かであ るが ,そ の多 くは生物 上述 の病理学的 お よび生化学的検索 の結果か ら,筆 者 らは スキル スの 経過 につ ぎの 時期 のあることを 想定 し 学的 に低悪性度 の癌 で あ る と考 え られ る。これを うらづ こ. プ 検 された 胃癌 の平均年令を筆者 らの材料 に よつ て調 らべ け る資料 の 1つ として ,切 除 され た早期痛 ,進 行癌 ,剖 ① 浸 潤期 :癌 細胞が もつば ら リンパ管を通 じて胃壁 る と,早 期癌 (400例 )は 55.6歳 ,進 行癌 (手術例 1,0 に広範 に浸潤す る時期 ② 水 腫時 :水 溶性 コラー ゲンが多量 に産生 され る時 最 も若年 で あ る.こ の事実 は急速 に進展す る 胃癌 の多 く 期 あ るこ とを物語 つ てい る。 ③ 硬 化期 :水 溶性 ヨラーゲンが不溶性 コラーゲンに 変化 し胃壁が高度に線維性 の肥厚を きたす時期 像 の把握 とその対策であろ う。 浸潤期 と水腫期が どの程度 の期間存続す るものか ,こ れを推測 させ る資料 がないので不明であるが水腫期 よ り 硬化期へ の移行は予想外 に短期間に行はれ るのではない か と考える.す なわちスキルスの臨床追跡資料を検討す ると,そ の患者 の多 くは 4∼ 5年 前異常な しとされた も のが 術前 1年 あ るいは 極端 な例で は 1カ 月前 に初 めて 目の硬化 に気付 きスキル ス と診断 され る例が珍 らしくな ヽヽ . 5)胃 寝の進展における生物学的態度の相違 について 5年 以上 10年近 く良性潰易 として観察 された患者が癌 として診断 され ,手 術 された例が粘膜内に とどまるいわ “ "で ゆる 早期痛 あることが経験 され ,ま た,IC型 早 93例)57.0歳 ,剖 検例 (410例 )は 54.5歳で ,剖 検例 が 今後 ,残 された問題 は急速 に進展す る 胃癌 の真 の初期 主要文献 1)佐 野量造 ほか : BOrrmann w型 癌 の成 り立 ちに ついて, 日本病理学会 々誌,60,1971. 1)佐 野量造 ほか :ス キ ルス Linitis PlastiCa)の 組織発生 に関す る病理学的 な らびに生化 学的研 究, 日 と腸 , 9, 455, 1974. 3 ) 佐 野量造 : 胃 疾患 の臨床病理, 1 9 7 4 , 医学書院, 東京, 4 ) 竹 内 正 ほか : ボ ルマ ンⅣ 型癌 ( スキ ルス) の 成立機序 に 関す る研究, 日本消化器病学会誌, 69, 83, 1972. 5)Saphir, o. et al.: Linitis Plastica type of carcinoma Surg Gynec. Obstet., 76: 206, 1943