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外貨投資の視点 (No.250) - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

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外貨投資の視点 (No.250) - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
外貨投資の視点
(No.250)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2015年11月27日
ドル円相場:2015年11月の回顧と今後の展望
ポイント






11月のドル円相場は約3ヶ月ぶりとなる1ドル=123円台に復帰しつつも、上値の重いレンジ取引が継続
今年年初来の値幅は10円00銭。年間最小記録更新の可能性もあるが、永遠のレンジ取引はあり得ない
ドル高の負の側面だけに着目した米景気悪化懸念は杞憂となり、来年にかけて緩やかな利上げが継続
日銀の金融政策は物価上昇の質も睨んだ持久戦に転換も、その分長期化、時期尚早な円高の防波堤に
本邦の基礎収支はまだ円売り優位、2016年中のドル円相場は右肩上がり、いずれ「125円超の空中戦」へ
ただ、17年以降は為替需給が変化、日銀緩和の出口論も意識され、ドル高・円安局面は反転の可能性も
11 月上旬のドル円相場~
良好な米 10 月雇用統計
の結果を受けて、約 2 か
月半ぶりの 123 円 60 銭付
近まで急伸
11月のドル円相場は約3ヶ月ぶり高値圏に復帰しつつも、上値の重いレンジ取引が続
いている。月初来の動きを振り返ると、上旬は急伸。2日のオセアニア市場で寄り付き120
円70銭を刻んだ後、序盤に小緩み一時120円26銭付近に軟化する場面もあったが、同日
夜の米10月ISM製造業指数が予想を上回ると翌3日にかけて米2年国債利回りが上昇、
ドル円も一時121円20銭台へ値を上げた。4日に郵政3社株が無難に上場すると市場のリ
スク許容度が緩和、同日夜の米10月ADP雇用報告が良好な結果になったほか、イエレン
米連邦準備制度理事会(FRB)議長の年内利上げを示唆する発言も追い風になって上
値探査に勢いがつくと5日のNY市場では一時122円00銭界隈まで続伸した。その後は米
10月雇用統計を控えて伸び悩んだが、6日に発表された非農業部門雇用者数(NFP)が
前月比+27.1万人と市場予想を大幅に上回ると123円20銭台へ急騰、同時に公表された
失業率が5.0%に改善していたことや平均時給の高い伸びも好感され、週明け9日のロン
ドン市場では一時123円60銭と約2か月半ぶりの水準へ吹き上がった。急速なドル買い・
円売りが一服すると流石に高値警戒の売りも出て反落したが、123円00銭前後では下値
が堅く、10日かけては123円台前半で保ち合った。
11 月中旬のドル円相場~
パリ同時多発テロで軟化
するも 122 円台前半の下
値が堅く、米 FOMC 議事
録で上昇しても 123 円台
後半の上値が重い
中旬のドル円相場は約3ヶ月ぶりの高値圏で一進一退。11日から13日にかけては国内
外の要人発言や経済指標に細かく反応しつつもジリジリ軟化、一時122円44銭まで下落
したが、122円台前半では下げ渋った。週末のNY市場引け後に勃発したパリ同時多発テ
ロが嫌気されると週明け16日は窓開けオープン、東京朝方には一時122円23銭付近へ差
し込む場面もあったが、国内外の株価が堅調に推移すると市場のリスク回避ムードが緩
和、17日のNY市場では一時123円49銭界隈まで買い戻された。18日の東京市場で「パリ
郊外での銃撃戦」が伝えられると123円20銭台に小緩む一幕もあったが、米2年国債利回
りの上昇が意識されると反発、同日深夜に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)
議事録で年内の利上げ観測が強まると一時123円76銭と8月20日以来の高値圏に吹き上
がった。ただ、この水準では13週間ぶりの高値をみた達成感で伸び悩み、19日の日銀金
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-1-
外貨投資の視点
融政策決定会合が「現状維持」の結果になると追加緩和を期待していた向きが軽く失望、
122円台後半へ押し戻された。20日に週末ゴトウ日のドル買い観測が意識されると一時
123円00銭台に強含んだが、その後は日本の3連休を控えた持ち高調整で伸び悩み、
122円81銭で週末取引を終了した。
11 月下旬のドル円相場~
国内外のイベントや要人
発言を消化しつつ 122~
123 円台で保ち合い
下旬のドル円相場は、これまでのところレンジ取引。週明け23日は日本の祝日もオー
プンしている本邦の店頭外国為替保証金(FX)取引による上値試しが先行、シカゴ日経
平均先物の2万円台回復が好感されて市場のリスク許容度が緩和したほか、「靖国神社
での爆発物騒ぎが円売り材料視された」との指摘もあって一時123円26銭まで上昇した。
ただ、手掛かり材料難から上値は重く、24日に「トルコ軍機がシリアとの国境付近でロシア
の爆撃機を撃墜した」との報道が流れると地政学的リスクの高まりを嫌気したドル売り・円
買い圧力が強まり、25日午前には一時122円26銭まで軟化した。ただ、パリ同時多発テロ
後の安値122円23銭が下値サポートとして意識されると反発、日本の内閣府幹部による黒
田日銀総裁の伝聞報道で米国の年内利上げ開始に伴うドル高期待が強まったほか、欧
州中銀(ECB)関係筋の発言で次回理事会での追加緩和観測が高まるとドルのミニ全面
高が加速、一時122円90銭台へ値を上げた。ただ、米国の感謝祭前日とあって上値は伸
びず、122円70銭前後に押し戻された。26日は米国の感謝祭入りで活発な為替売買が封
印され、注目材料見当たらない中、122円50銭台~70銭台までの狭いレンジで保ち合っ
た。
図1:ドル円相場の年間値幅の推移
350円
160円
年間高値(左軸)
300円
140円
ドル円相場(年間値幅中央値・左軸)
120円
250円
過去最小値幅
10.18円(2011年)
75.35~85.53円
200円
2015年1月からの
値幅=10.00円
115.86(1月安値)
125.86(6月高値)
年間安値(左軸)
100円
80円
150円
60円
100円
40円
50円
20円
年間の値幅(右軸)
0円
0円
1973
1978
1983
1988
1993
1998
2003
2008
2013
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-2-
外貨投資の視点
今年のドル円相場は、今
のところ値幅 10 円 00 銭で
しか動いておらず、年間値
幅の最小記録 10 円 18 銭
を更新しそうな雰囲気も
本稿を執筆している27日(金)の12:40現在、ドル円相場は1ドル=122円60銭台で取
引されている。来週11月30日(月)のニューヨーク(NY)市場で月末の引け値が確定する
まで、まだ週末を挟んで約1.5営業日を残っているが、月初の寄り付き120円66銭に比べ、
「ドル高の貯金」は+2円程度も残っている。ため、この先よほど強烈な円高ショックに見
舞われない限り、今月の月足は「2ヶ月連続の陽線」になりそうな気配が濃厚だ。ただ、今
月のローソク足が陰陽どちらで着地するにせよ、この先のドル円相場がよほど強烈な暴落、
あるいは急騰劇に巻き込まれない限り、1月安値の115円86銭、6月高値の125円86銭は
いずれもやや遠い印象が否めない。今年のドル円相場は、これまでのところ最大高低差
10円00銭の幅でしか動いていないが、1973年に変動相場制を導入してからの記録をみ
ると、「年間値幅の最小記録」は2011年に記録した10円18銭だった。今年もそろそろ師走
の雰囲気が漂い始めているがが、このまま大晦日の大団円を迎えた場合、今年のドル円
相場は「史上最小値幅」という地味な大記録を更新することになる(図1)。中国発の世界
同時株安、新興国市場の混乱、資源価格の暴落などに巻き込まれ、今年は為替相場も
大荒れだったような印象もあるが、「ドル円」という通貨ペアに限って言えば、今のところ歴
史的に見ても稀なほどしか動いていないのが実情だ。
図2:2011年来のドル円相場と「前年同期の雲」の水準
130円
130円
125円
125円
120円
120円
115円
115円
ドル円相場
(週間取引レンジ)
110円
110円
105円
100円
105円
52週移動平均線
100円
95円
95円
90円
52週間前の週足終値
※ドル円の前年割れ
※52週線の下降ゾーン
85円
80円
75円
2011
90円
85円
80円
75円
2012
2013
2014
2015
2016
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
早ければ年内、遅くとも半
年程度の時間軸の中で
は、上下どちらかにレン
ジ・ブレークを果たしそう
ただ、先月末の本レポートでも指摘した通り、筆者を含めた為替市場の住人は、「長く
ジッとしているのが大変苦手」というタイプが非常に多い。過去のプライス・アクションを眺
めただけで自明だが、未来永劫に渡って値幅10円00銭以内のレンジ取引が続くことだけ
は恐らくあり得ない。早ければ年内、遅くとも向こう半年程度の時間軸の中では、上下い
ずれかの方向へレンジ・ブレークを果たす時が来るだろう。現在、国内外の市場関係者の
間では、6月高値の1ドル=125円86銭を今回の上昇相場のピークだとみる「そろそろ円高
派」と、通過点だとみる「まだまだ円安派」が真二つに分かれているが、もしも1月安値の
115円86銭を先に下抜けした場合は、ドル円相場の現値が「前年割れの雲」の中に突入
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-3-
外貨投資の視点
するため、多くのドル円ファンがトレンド判定の際に重視している52週移動平均線が右肩
下がりの円高示唆に転じる一方、125円86銭を超えていく場合は右肩上がりの円安シグ
ナルが維持される(図2)。ドル円トレードの基本戦略をそろそろ「戻り売り」に切り替えるべ
きなのか、まだまだ「押し目買い」で臨むべきなのか、正念場の局面が接近しつつある。
以下、本稿では毎月のこの時期に実施しているドル円相場の定点観測の結果を踏まえ、
現時点における我々の見解を提示しておきたい。
「ドル円相場=右肩上が
り」の大局観を維持する 3
つの理由
結論から先に述べると、我々は依然として「ドル円相場=右肩上がり」の大局観を維持
すべきだと考えており、「1ドル=115円86銭割れ」をみるよりも先に、「125円86銭超え」が
実現する可能性が高いと考えている。ドル円相場を取り巻くファンダメンタルズ及び需給
環境がいずれもまだドル高・円安局面の継続を示唆しているとみられるからだ。これまで
主張してきたことの再確認になるが、以下3つの着眼点を示しておきたい。
今年年末以降、米国の利
上げ開始観測がいよいよ
実現のプロセスに
第一に、米連邦準備制度(FED)による利上げ開始がいよいよ指呼の間に迫りつつある。
10月28日(火)~29日(水)に開催されたFOMCでは「金融政策=現状維持」の決定が下
されたが、同時に公表された声明文からは、9月会合での利上げを見送る主因となった
「世界経済・金融市場動向が経済活動を抑制する可能性」に関する文言が削除されてい
たほか、「次回の会合で(at its next meeting)利上げの是非を判断する」との生々しい表
現が盛り込まれていた。市場の焦点となっている「年内利上げ開始の是非や当否」に関し、
具体的な時期を明文化して最終判断を行うとの意思表示があったことから、FEDによる年
内利上げ観測は急速に高まっている。今月は年に4回しかない「FOMCの無い月」となっ
たが、6日(金)に発表された米10月雇用統計では、①非農業部門雇用者数(NFP)が前
月比+27.1万人と十分に増加、②失業率が「完全雇用」への接近を示す5.0%の節目に
到達、③平均時給の伸びも前月比+0.4%に加速するなど、「申し分の無い結果」が示さ
れた。18日(水)に公表された10月分のFOMC議事録では、「殆どのメンバー」が12月会
合での利上げを正当化する可能性が高いと予想していたことも明らかになっており、次回
12月15日(火)~16日(水)のFOMCでの利上げ開始は多くの市場関係者によって、ほぼ
確実視され始めている。
来年以降の米国の利上げ
回数に焦点が移り始めて
いるが、市場の期待が多
少増減しても、利上げの
可能性がゼロだとみられ
ている日本との印象格差
は変わらない
こうした状況下、市場関係者の注目点は「年内のゼロ金利解除の当否」から離れ、「来
年実施される利上げの回数」に移り始めている。次回のFOMCで開示される最新の「ドッ
ト・プロット」が、市場の期待をリードする水先案内人の役割を果たすことになりそうだが、
この先発表される米国の経済指標によって緩やかな景気回復期待が極端に変化しない
限り、9月16日(水)~17日(木)の会合で示された「年内1回、来年4回」の未来予想図(図
3)が極端に上方修正されたり、大幅に下方修正されたりする可能性は低いだろう。その
後の政策金利が、実際に「ドット・プロット」が示す経路の通りに引き上げられるかどうかは、
来年の投票権を与えられるFOMCメンバーが経済指標を眺めて"Data-dependent"に判断
することになるが、「2016年中の米国の利上げ回数」に関するマーケットの期待に多少の
増減があったところで、「利上げ開始の時期が全く見えない日本」との大局的な印象格差
は変化のしようがない。来年を通じて、米国で断続的かつ緩やかな利上げ期待が維持さ
れる限り、イントラ・イヤーのドル円相場は米国経済指標の結果を踏まえて細かい上下動
を繰り返しつつも、趨勢的には右肩上がりの傾向を維持することになるだろう。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-4-
外貨投資の視点
図3:米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の政策金利見通し
4.50
【2015年6月17日時点】
【2015年6月17日時点】
4.25
4.00
3.75
●
4.50
3.750
●●
●●
●●
●
4.25
●●
4.00
4.50
【2015年9月17日時点】
●
●●●●●●
3.75
●●●●●
3.50
●●●
3.25
3.50
●
●●
●
●
●
●●●
●●●
●
●●
●●
●
●●●
●●●
2.625
●
●
●●
●
3.25
●
3.00
3.00
●●
●
●
●●●
●
2.875
2.75
3.375
2.75
2.50
3.500
4.25
●
4.00
●●●
●
●●●●●
3.50
●●●●●●
3.25
●
3.00
2.75
2.50
●
●
●
2.25
2.00
2.50
●●●
●●●
●●
●●
●●
●
●●
2.25
2.00
2.00
●
1.75
●
2.25
●
●
1.75
1.625
1.75
●●●
1.50
1.50
●●●●
1.375
1.50
●●
1.25
1.25
1.25
●
●●●●
1.00
1.00
●●●●●
●
●●●●●
0.625
●●●●●
●
0.75
●
●
●●
●●●●●
0.375
1.00
0.75
0.50
0.75
0.50
0.50
●●●●●●●
0.25
0.25
0.25
●●
●●●
0.00
0.00
2015
3.75
2016
2017
0.00
長期
●
●
2015
2016
2017
2018
長期
注:赤いフォントで示した値が、中央値予想(予想提供者17人の場合は9人目の値)
出所:FRB資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
図4:米国サプライマネジメント協会(ISM)景況指数の推移
65
65
非製造業景気指数
60
60
55
55
50
50
45
45
製造業景気指数
40
40
35
35
30
30
07
08
09
10
11
12
13
14
15
注:網掛けは米国の景気後退局面
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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-5-
外貨投資の視点
図5:米国名目国内総生産の内訳(2014年)
25兆
20兆
15兆
(ドル)
設備投資
在庫投資
2.3兆ドル
政府支出
3.2兆ドル
GDP総額
17.3兆ドル
5兆
0兆
(ドル)
20兆
GDP`総額
17.3兆ドル
18兆
13.5%
13.3%
16兆
30.6%
14兆
18.2%
12兆
コア内需
89.7%
10兆
個人消費・
住宅投資
12.4兆ドル
輸出
2.3兆ドル
10兆
建築
1.3兆ドル
7.6%
8兆
71.6%
6兆
サービス
10.7兆ドル
財
5.3兆ドル
61.8%
非財生産
部門
69.4%
4兆
‐16.6%
輸入
‐2.9兆ドル
2兆
0兆
‐5兆
2014年
2014年
出所:米国商務省より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
既往のドル高には米国の
個人消費を刺激するなど
のメリットも存在している
はずであり、 米国景 気を
腰折れさせるほどの悪影
響は拡散しない
「FEDが利上げを強行すると、ドル高と金利上昇のダブル・パンチで米国経済が失速
するため米利上げ期待を背景としたドル高ストーリーは持続しない」、「米国で利上げが
始まれば新興国からの資金流出が加速してリスク・オフの円高圧力が再燃する」などの見
解もある。いずれも傾聴すべき意見であり、その可能性がゼロだとまでは言い切れないが、
我々はメイン・シナリオに据えるほどの高い確率を付与すべきだと考えていない。既往の
ドル高進行の影響で米国の輸出や製造業に悪影響が及びやすいのは事実だが、洋の
東西を問わず、通貨高にはデメリットとメリットの両方がある。米国の国内総生産(GDP)の
圧倒的シェアを占める個人消費にはドル高の好影響も及ぶはずであり、米サプライマネ
ジメント協会(ISM)が発表している景況指数によれば、米国経済の6割以上を占めるサー
ビス産業の景況はこのところのドル高局面で上向きの傾向を示しているのが実情だ(図4、
図5)。昨今のマーケット・トークの現場で良く耳にする「既往の円安進行が日本の個人消
費の打撃になっている」との見方が正しいのなら、その逆の好影響が米国の家計に及ぶ
経路も存在しているはずである。
金融政策の正常化を目的
とする利上げでは、米国
景気は腰折れしない
また、これまで本レポートで何度か紹介したように、過去において米国の景気後退を引
き起こした利上げは、ほぼ例外なく物価上昇率を大幅に上回る水準にまで政策金利が上
昇した後にリセッションを招いている(図6)。過去約7年近くもマイナス圏に水没していた
実質政策金利が1年以上の長い時間をかけてゆっくりと水面を目指して浮上する程度の
利上げで、米国の景気が腰折れするほどのダメージが及ぶとは考えにくい。今年の年末
から来年にかけて我々が目撃する米国の利上げは、従来型の金融の「引き締め
(Monetary tightening)」ではなく「正常化(Monetary normalization)」を目的とするもので
あり、「Data-dependentに利上げの時期と速度を判断する」というイエレンFRB議長らの言
葉に象徴されるように、景気にブレーキを踏む意図はそもそも存在しない。実施されてみ
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-6-
外貨投資の視点
ないと何が起きるか分からないのは事実だが、恐らく米国景気悪化の引き金にはならな
いのではなかろうか。
図6:米国の実質政策金利と経済成長率
11%
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
米フェデラルファンドレート(A)
(誘導目標水準)
1985
8%
1990
1995
米消費者物価上昇率(B)
(除く食品・エネルギー)
2000
2005
2010
2015
米実質GDP成長率
(4区移動平均近似線)
6%
4%
2%
0%
-2%
米国の実質政策金利
(A-B)
-4%
-6%
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
注:月次データ。米国の政策金利は月末値。網掛けは景気後退期
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
図7:中国、米国の実質経済成長率の推移
16%
16%
10年1Q
12.2%
14%
14%
12%
12%
15年3Q
10%
6.9%
中国
(左軸)
8%
6%
10%
8%
6%
10年1Qからの平均(2.1%)
4%
4%
2%
2%
0%
0%
米国(右軸)
‐2%
‐2%
‐4%
‐4%
‐6%
‐6%
07年
08年
09年
10年
11年
12年
13年
14年
15年
注:網掛けは米国の景気後退局面
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-7-
外貨投資の視点
米国の利上げを嫌気して
新興国から逃げる資金は
ある程度 出尽 くした 可能
性もあり、そろそろ新興国
通貨安のメリットに市場が
注目し始める可能性も
「米国の利上げが新興国からの更なる資金流出を加速させる」との見方についても、
我々の債券市場分析チームでは疑義を唱えている。「米国による年内利上げストーリー」
は今年の春先頃から既に散々各所で議論されてきたネタであり、12月FOMCで利上げが
実施されるのを確認してから慌てて資金を巻き戻すようなヘッジ・ファンドがそれほど沢山
いるとは思い難いからだ。為替市場が政府によって一定の管理を受けている中国の人民
元を除き、主要な新興国からの資金逃避観測による通貨の下落は既に相当進んでいる。
米国の利上げを嫌気して新興国を売るような性格を持つ足の速い資金は、既にある程度
逃げたと考えるのが自然だ。中国を始めとする新興諸国の景気はこの先もしばらく減速
基調を辿るかもしれないが、前掲の図5に示した非常に分厚い国内需要とサービス産業
のクッションを持つ米国経済は、過去5年間の中国景気減速局面でも平均2%強の成長
速度を維持している(図7)。これまで進んできた自国通貨安には新興国経済の輸出を刺
激するというプラスの効果もあるはずであり、米国景気が安定的な回復軌道を歩み続けて
いることが確認できれば、来年頃になると「既往の通貨安が新興国経済に及ぼすメリット」
に対し、市場が光を当て始める可能性もある。
日銀の金融政策は物価上
昇率の数字にこだわる「短
期決戦型」から、物価上昇
の質も睨んだ「持久戦型」
に変化
第二に、日銀が現行政策の枠組みを放棄しない限り、物価目標未達の間は時期尚早
な円高期待の伸長は抑止されそうだ。日銀の金融政策は、今秋を境にして「先手必勝の
短期決戦型」から「後手に回ることも厭わない持久戦型」へ変質したとみられるが、「物価
上昇率の質的改善」に政策運営の軸足が移るにつれ、異次元緩和の超・長期化観測が
強まり始めている。10月30日(金)の金融政策決定会合で日銀は物価目標2%の達成予
想時期を「2016年度後半ごろ」に延期する一方、非常に強気の景気・物価見通しを示し
た上で追加緩和を見送った。日銀が現行の「量的・質的金融緩和(通称:異次元緩和)」
を導入した2013年4月4日の当初、「物価目標2%」は「2年程度」で実現すると予想されて
いたが、14年10月の展望リポートでは「2015年度を中心とする期間」へと微妙に延長され
た。その後は概ね半年ごとに目標達成時期が先送りされており、15年4月には「2016年度
前半ごろ」へ、同年10月には「2016年度後半ごろ」へと引き延ばされて現在に至っている。
日銀が市場に提示する目標2%の達成予測は、これまで3度も後ずれしており、ほとんど
「蕎麦屋の出前」のような状態になっている。
この先しばらくの間、日銀
は現行の年率 80 兆円ペ
ースでの量的緩和を出口
の見えない状態で淡々と
継続
日銀が物価目標の達成納期をガンガン延期しながら動かなくなった背景は良く分から
ない。「日銀が国債を今以上のペースで購入しても、国債発行残高に占める日銀保有割
合などからみた技術的・道義的な限界に到達する時期を早めるだけなので、思い切った
追加策の余地が無くなっている」、「一段の円安で物価だけ上昇しても一般家計の消費
生活を圧迫するだけなので、安倍政権から追加緩和を行わないように釘を刺されている」、
「日銀が示す楽観的な景気・物価予測は、上記のような理由で追加緩和の意志と能力を
喪失してしまったことを覆い隠すための方便である」など、市場の見解は様々だ。日銀が
明確に説明していない以上、真相は不明だが、我々の円債市場分析チームでは日銀が
物価目標2%の「出来るだけ早い」達成を表面的に目指す「短期決戦型」の金融政策を
「何らかの事情」で放棄、今後は「物価上昇率の質的改善」を粘り強く待つ「持久戦型」の
政策運営に切り替えたと考えている。実際、最近の政府・日銀の要人からは「賃金の上昇
を伴わない物価上昇には持続力がない」といった趣旨の発言が目立つようになっている。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-8-
外貨投資の視点
しばらくの間は、現在実施されている年率80兆円ペースでの量的緩和が出口を封印した
状態で淡々と続くことになりそうだ。
日銀が物価上昇の質にも
コミットする姿勢を強めれ
ば、市場が想定する異次
元緩和の想定時間軸は一
段と長期化へ
問題となるのは、そのような日銀の政策運営の質的変容が、今後のドル円相場に及ぼ
す影響だ。日銀が「物価目標2%という数字の達成だけを目指して先手必勝を期した金
融緩和爆弾を次々に投下する」という政策運営スタイルから決別したとの仮説が正しけれ
ば、恐らく今後は本邦の金融政策変更が主役になってドル円相場の急騰劇が喚起され
ることはなくなるだろう。ただし、日銀の金融政策運営スタイルが「物価上昇率の質的向
上」にもコミットする持久戦の色彩を強めるにつれ、現行の異次元緩和の継続期間に対
する市場の想定時間軸が一段と長期化することで、時期尚早な円高期待の台頭が抑止
される可能性が高くなっている。過去十数年間にも及ぶデフレ局面で一旦染みついてし
まった「モノは値下げしないと売れない」、「従業員の給料を上げてしまうとグローバルな競
争社会では生き残れない」といった世の中のデフレ・マインドを完全に融解させ、賃金と
物価の好循環が定着したと日銀が判断するまでには相当な時間がかかるとみられるから
だ。
図8:日本のマネタリーベースと名目国内総生産の推移
600兆円
120%
(予想)
500兆円
100%
名目国民/国内総生産
(GNP/GDP、左軸)
400兆円
300兆円
80%
マネタリーベース
(名目GNP/GDP比、右軸)
60%
マネタリーベース
(左軸)
200兆円
40%
100兆円
20%
0兆円
0%
1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
注:1945年のマネタリーベースは1944年末との平均値。1945年のGNPは当社推定
出所:日本銀行、ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
現在の日銀執行部の在任
末期まで現行の異次元緩
和が続けられた場合、日
本のベースマネーは前代
未 聞 の 名 目 GDP 比
100%超えの領域へ
我々の円債市場分析チームでは、日銀が新たな物価目標の達成時期として提示した
「2016年度後半ごろ」は勿論、現在の日銀執行部の在任期間中の安定確保も恐らく無理
だと判断している。結果的に、日銀は「蕎麦屋の出前」などと揶揄されつつも、物価目標
の達成時期を先送りしながら「現状維持」の金融政策運営を続けることになるだろう。その
場合、日本のベースマネーは現行の80兆円ペースで淡々と増加、2018年3月末には約
535兆円と名目GDP比100%を突破するとみられる(図8)。これほど強烈な量的緩和策を
出口戦略を示さずに継続している国の通貨(=日本円)が、昨年10月いっぱいで量的緩
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-9-
外貨投資の視点
和を打ち切って今後は利上げを実施しようとしている国の通貨(=米ドル)を相手に、今
すぐ趨勢的な値上がり局面に向かうとは考え難い。日銀の金融政策が「物価上昇の質的
改善」を粘り強く待つ長期戦の様相を強めるにつれ、一足先に利上げ局面入りする米国
との印象格差は、今後も地味だが着実に開いていくことになるだろう。過去数年間のドル
円相場を右肩上がりの局面に誘(いざな)ってきた「日米金融政策の印象格差」はしばらく
不変だ。
図9:日銀短観事業計画前提レートとドル円相場の実績
140円
140円
ドル円相場(四半期期末値)(A)
130円
130円
120円
120円
110円
110円
100円
100円
90円
90円
日銀短観想定為替レート(B)
(大企業・製造業)
80円
80円
70円
70円
20円
20円
乖離幅=実績値(A)-想定レート(B)
10円
10円
0円
0円
‐10円
‐20円
97年
‐10円
‐20円
99年
01年
03年
05年
07年
09年
11年
13年
15年
出所:ブルームバーグ、各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
想定外の円高ショックに見
舞われた場合でも、1 ドル
=117 円台より下の水準
のどこかでは、日銀が追
加緩和に追い込まれそう
もちろん、為替市場は「筋書きのないドラマ」に満ちており、「何が起きるか分からない」
のが日常だ。今年の夏場に勃発した中国発の世界株安連鎖などはその典型例だと言え
るだろう。この先年末から来年にかけても、「想定外の円高ショック」が襲ってこないという
保証はない。ただ、現下の局面で大幅な円高が進行してしまった場合、日本の企業業績
に対してほぼ確実に下振れ懸念が拡散、最近10年程度かなり安定しているドル円相場と
日経平均株価の連動性が急に消滅しない限り、円高と株安の共鳴現象が加速するリスク
が高まるだろう。そのような環境の下では、日本政府にどんなに強く要請されたとしても、
企業経営者が思い切った賃上げを是認するのは難しくなり、「過去最高の企業収益が起
点になって賃上げの動きが広がり、消費と設備投資が両輪となって経済の好循環が本格
稼働する」という政府・日銀のシナリオに強い疑義を唱える市場関係者が増えることになり
そうだ。あくまで私見だが、大幅な円高を是認してかつてのような輸入デフレを再発させ
れば日本の個人消費が盛り上がるとは考えにくく、むしろインバウンド消費などへの悪影
響も懸念されることになるだろう。結果的に、時期尚早な円高シグナルが強まる場合には、
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- 10 -
外貨投資の視点
ドル円相場の水準に反比例する形で、日銀が追加緩和カードを切ってくる可能性が高ま
るだろう。具体的な水準を決めるのは日銀だが、我々の外国為替市場分析チームでは、
9月調査の日銀短観で示された大企業・製造業の今年度の事業計画前提レートである1
ドル=117円39銭という数字は一つの目安になると考えている(図9)。
日本の基礎収支は依然と
して円売り優位で、海外投
機筋の円売り投機巻き戻
し局面での大幅な円高進
行を抑止
第三に、最近1ヶ月間に新たに得られた為替需給絡みの指標は、今すぐ大幅な円高が
進行する可能性が低いことを示唆している。まず海外仮需筋のポジション動向とドル円相
場の値動きを並べてみると、中国発の株安連鎖に巻き込まれてシカゴ筋の円売り・ドル買
い超過が▲1万3067枚とほぼポジション・ニュートラルの状態へと大幅に整理される過程
でも、ドル円相場の下値探査は8月24日(月)に記録した116円18銭で終了、その後も120
円台を割り込む水準では非常に底堅かったことが確認された(図10)。これまで本レポート
で主張してきた通り、近年のドル円相場は「仮需系プレイヤーが急速に円売りポジション
を急速に手仕舞う局面では何故か底堅い一方、円売り投機が再開されると値動きが良く
なってドル高・円安が加速する」という特徴を有している。後述するように、日本の基礎収
支に形成される為替需給環境が円売り超過に傾いている可能性を如実に示す証左であ
ると言えるだろう。
図10:シカゴ通貨先物市場ドル円持ち高とドル円相場(2012年以降)
(万枚)
8
(円)
75
↑円買い持ち超過↑
6
80
ドル円ポジション
(左軸)
ドル円レート
(右軸、逆目盛)
4
2
▲1.3万枚
85
90
0
▲6.8万枚
-2
▲3.3万枚
2014/10/31
追加緩和
-4
-6
100
13/4/4
異次元緩和
-8
95
105
-10
110
-12
115
-14
-16
-18
120
12/12/26
安倍内閣発足
↓円売り持ち超過↓
-20
2012/07
2013/01
2013/07
2014/01
125
▲15.7万枚
▲18.5万枚
▲17.4万枚
2014/07
2015/01
130
2015/07
注:為替持ち高は前週火曜時点での非商業筋と非報告筋の合計。為替相場は週平均値
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
海外投機筋による円売り
持ち高が再び膨張すれ
ば、5 円程度のドル高・円
安インパクトは生じる可能
性は十分にある
このような状態に変化がなければ、8月安値の116円18銭や1月安値の115円86銭を下
抜けするようなドル安・円高局面が到来するには海外投機筋のポジションが「円買い・ドル
売り超過」の領域に踏み込んで行く必要がありそうだが、「年内にも利上げが始まりそうな
ドルを借りてきてまで空売りし、追加緩和期待が明滅している日本円の買いを膨張させ
る」という円高推しのポジションが積み上がっていく可能性は非常に低い。直近11月17日
(火)時点でシカゴ筋の円売り・ドル買いポジションは再び▲11万1224枚まで膨張、ドル円
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- 11 -
外貨投資の視点
相場を123円台復帰に導く原動力になったことが確認されているが、過去、クレジット・ライ
ンの限界近くまで円売りポジションが拡大する際には▲17~18万枚程度まで膨らむ局面
も目撃されている。この先どこかのタイミングで追加▲5万枚程度の円売り投機が炸裂した
場合、現状から+5円程度のドル高・円安への振れ幅が生じる可能性は十分にあると言え
るだろう。
リアル・マネーの円売り
が、経常黒字の増加を相
殺して余りある状態に
他方、最近1ヶ月間に更新された本邦国際収支統計の主要項目を眺めてみると、これ
までのドル高・円安局面で安定的な外国有価証券購入の主体になっていた年金、生保、
投信などといった金融系のリアル・マネー筋による対外証券投資や日系企業による対外
直接投資は、依然として非常に強い勢力を保っている。個別の通貨ペアに対する需給イ
ンパクトを正確に推し測るのは困難だが、我々の外国為替市場分析チームでは、経常収
支の黒字を十分に凌駕する規模での資金流出が続いているとの判断をキープしている。
図11:日本の経常収支の推移
(年率兆円)
30
(年率兆円)
30
経常収支(A+B+C+D)
25
25
第一次所得収支(C)
20
20
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
第二次
所得収支(D)
-15
サービス収支(B)
-15
貿易収支(A)
-20
-20
96
98
00
02
04
06
08
10
12
14
注:季節調整済み3ヶ月移動平均
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
日本の経常黒字は殆どが
第一次所得収支に占めら
れており、円転割合は過
去に比べて低下
まず日本の経常収支についてみると、昨年の春先頃までは断続的な赤字に陥ってい
たが、足下では年率15兆円を超える黒字に変貌している。このため、この部分だけに着
目すると、為替需給が円高示唆に転じそうな気配が漂い始めたのは事実だ。ただ、その
内訳をみると、現時点では貿易収支、サービス収支、移転収支などが小幅赤字か収支ト
ントンの状態で、所得収支だけが大幅な黒字という偏った構造になっている(図11)。所得
収支の黒字には実際には円転されていない日本からの外国証券投資や海外直接投資
が生み出した利子や配当の現地滞留分が含まれているため、観測されている黒字額が
そのまま円高圧力に結び付く訳ではない。実際、これだけ所得収支の黒字が増えている
状況でも市場を飛び交う需給トークの現場では、対外証券投資の利子収入の円転とおぼ
しきフローが存在感のある噂として流布するのは、米国債の四半期入札前後の時期ぐら
いだ。海外直接投資の利益還流に至っては、四半期末や年度末ぐらいしか耳にする機
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- 12 -
外貨投資の視点
会がない。経常黒字の大部分が所得収支に占められている間は、日々の需給トークの現
場で存在感のある「まとまった規模」でのドル売りが視認しにくいこともあり、円高インパクト
は心理的にも大きくなり難い。
視認性の高い貿易実需の
フローでは、依然としてド
ル買い・円売り超過が年
率 4 万本以上持ち込まれ
ている可能性が大
あくまで私見だが、経常収支の各種構成項目のうち、為替需給トークの現場における
登場頻度が非常に高く、金額の把握も容易であるが故に心理的インパクトも安定している
のは、長年の経験則に基づいて、やはり貿易収支だと感じている。日本の貿易収支は最
近急速に改善しており、足下では非常に小幅の赤字でしかなくなっていることから、過去
に比べて輸入企業の買い切りによるドル高圧力は相当程度目減りしていることは疑いよう
がない。だが、日本の貿易輸出入の通貨別決済構造をみると、輸出に比べて輸入サイド
のドル建て決済比率が圧倒的に高い。財務省が公表している比率を用いて日本の貿易
収支を決済通貨別に要因分解してみると、円決済の収支尻が年率10兆円未満の水準で
低迷しているのに対して、ドル決済の部分は依然として年率15兆円を超える赤字状態に
あることが分かる(図12)。1ドル=120円、100万ドル=1本で概算しても年率4万本近い実
需の買い越し超過が、「ドル円」という通貨ペアに持ち込まれている計算になる。経常収
支のその他の項目の通貨別決済比率は分からないが、上記のような円転されない部分
の存在も加味すると、恐らくドル円絡みの決済フローが極端なドル売り超過の状態にはな
っていないのではなかろうか。
図12:本邦の決済通貨別貿易収支(詳細版)
(年率兆円、3か月移動平均)
(年率兆円、3か月移動平均)
20
20
ユーロ決済
日本円決済
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
その他通貨決済
-15
-15
貿易収支
(季節調整済)
-20
-20
-25
-25
米ドル決済
-30
-30
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
注:通貨別貿易収支は通関輸出入額に貿易取引通貨別比率を乗じて算出。
出所:財務省統計より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
年金、生保、投信は、いず
れも年初来の 10 ヶ月間で
昨年 1 年間の対外証券投
資実績を突破
そのような状況の下、日本の資本収支に目を転じると、日々の外国為替市場を飛び交
う需給トークにおける存在感の大きい金融系のリアル・マネー「御三家」について、いずれ
も前年同期を上回る外国有価証券の買い越し主体になっているのが印象的だ(表1)。信
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- 13 -
外貨投資の視点
託勘定を経由して行われる年金系資金等の外国有価証券投資は10月の指定報告機関
ベースの段階で4859億円を記録、年初来10ヶ月間の累計では8兆6464億円と、昨年12ヶ
月間の実績3兆6679億円の2倍を優に超える額の投資がなされている。生保保険会社に
よる対外証券投資についても、10月に5051億円と地味に増加、年初来の累計でも既に4
兆8838億円と前年実績の4兆1244億円を上回っている。更に特筆すべきなのは外貨系
の投資信託を通じた本邦個人マネーの外国有価証券への純投資であり、年明けから10
ヶ月間の累計で11兆3322億円と「二桁兆円」の大台を突破、前年同期比3倍増に迫る勢
いでの買い越しが続いている。
表1:日本からの主体別対外証券投資動向(国際収支ベース)
(億円)
対外証券投資(合計)
一般政府
(暦年)
2010
2011
2012
2013
2014
2015/1
2
3
4
5
6
7
8
9
258,341
61,228
146,968
-60,687
121,218
34,178
34,328
52,642
-1,707
44,795
-17,090
36,318
40,671
54,596
預金取扱
機関
124
-672
227
-872
-727
-62
-65
-290
4
-32
-305
-98
-13
-388
106,198
9,048
88,414
-29,743
-31,631
8,749
9,375
27,070
-41,107
17,961
-30,698
5,320
11,756
31,823
その他部門
銀行等及び
金融商品取
信託銀行
引業者
(信託勘定)
152,019
52,853
58,327
-30,071
153,575
25,491
25,019
25,863
39,396
26,866
13,913
31,096
28,928
23,160
32,425
15,931
6,809
-33,409
36,679
10,612
10,912
12,283
9,510
2,337
1,222
10,198
14,284
10,247
61,994
65,302
64,335
75,569
103,107
7,953
7,914
13,589
9,919
10,560
7,315
11,934
3,248
1,799
生命保険
39,659
-1,630
40,818
6,944
41,244
4,460
1,541
-3,079
13,887
14,073
3,879
1,615
5,726
1,685
損害保険
-4,430
-4,375
-1,707
1,351
-130
645
276
656
448
-45
155
180
-55
-231
投資信託委
託会社等
49,466
5,644
-17,034
17,820
47,896
9,030
12,269
14,026
12,822
8,715
9,347
15,556
10,806
14,421
その他
-27,096
-28,020
-34,894
-98,346
-75,220
-7,210
-7,894
-11,613
-7,190
-8,774
-8,005
-8,387
-5,081
-4,760
10
31,877
-31
11,374
20,534
4,859
7,404
5,051
-55
6,330
-3,054
年初来累計
310,608
-1,280
51,623
260,266
86,464
81,635
48,838
1,974
113,322
-71,968
注:直近月が斜字体となっている場合は、指定報告機関ベース。一般政府の指定報告機関ベースは公的部門の数字。
出所:財務省より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
信託勘定を通じた本邦年
金マネーの対外投資は、
向こう半年以上は続く
これらのうち、信託勘定経由の海外投資については、4-6月期に一旦減速したため、
「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による外国有価証券への投資は、許容乖
離幅も勘案すると概ね目標の40%(=外国株25%+外国債15%)に接近、今後はもう出
てこなくなる」との見方が一部で強まった時期もあった。ただ、今のところ明白なペース・ダ
ウンの兆候は確認されていない。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の公表資
料をみると、今年6月末時点でまだ数%ポイント程度の外貨運用目標の未達分が残って
いたほか、10月1日付けで、GPIF以外の3つの共済基金が同じ運用目標を付与されてい
る(図13)。将来的な4基金の統合も見据えた上で、本邦の公的年金群が「新規の外貨資
産積み増し」や「リバランスの外貨投資」に動いているのかもしれない。筆者の大雑把な試
算では、4基金の合計で170兆円を超える運用資産の約4割相当が外国有価証券に配分
されるまでには、毎月1兆円近く買い続けてもあと半年程度はかかりそうだ。民間企業や
団体による年金運用の実態を正確に把握するのは難しいが、日銀緩和の長期化観測に
より、国内債での運用難がすぐに解消するとは思い難い。いずれ収束する時期は必ず来
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
- 14 -
外貨投資の視点
るはずだが、当面は本邦年金マネーの海外シフトが、安定的なドル円相場の下ヒゲ・カッ
ターとしての存在感を示す状態が続きそうだ。
図13:日本の公的年金基金の基本ポートフォリオの比較
100%
90%
その他 1%
15%
12%
その他 3%
海外株式
13%
22%
3%
80%
70%
その他 5%
その他 6%
11%
13%
13%
13%
13%
22%
60%
25%
海外債券
15%
国内株式
50%
23%
25%
40%
30%
67%
56%
51%
38%
20%
国内債券
35%
10%
0%
国家公務員
地方公務員
日本私立学校振興
年金積立金管理運用
公的年金基金
共済組合連合会
共済組合連合会
・共済事業団
独立行政法人(GPIF)
基本運用配分
(15年3月末7.8兆円)
(15年3月末=21.0兆円) (15年3月末=4.2兆円) (15年6月末=141.1兆円) (15年3月末=176.9兆円)
出所:年金積立金管理運用独立行政法人、各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
日銀による規格外の国債
買占め政策が続く中、生
保の対外証券投資も地味
な積み増しが継続
一方、本邦の生保業界を取り巻く環境も大同小異の状況が続きそうである。今年の6月
以降に一時的に観測された対外証券投資の減速は、①当時約13年ぶりとなる1ドル=
125円台までドル円相場が一気に駆け上がったことで台頭した高値警戒感、②国内外で
株株価が乱高下したことによるリスク許容度の萎縮、などが背景だったとみられるが、今
年度下期の発射台となっている「1ドル=120円前後」のレベルと言えば、新年度明けの4
月、5月の段階では業界全体で月間1.4兆円に迫る勢いで外国有価証券を買い越してい
た水準だ。国内外の株式市場が徐々に落ち着きを取り戻しつつある中、各種メディアが
伝える主要生保の年度下期の運用計画では、大多数の大手が外債投資の積み増しを計
画しているとも報じられていた。日銀による規格外の国債買占め政策が継続されて超低
金利の環境が長期化する中、ポートフォリオにロー・クーポンを入れ続けることに嫌気が
差した生保マネーの一部が海外に染み出ていく流れは当面続くだろう。実際、日銀によ
る異次元緩和開始前と直近の資産構成を比べてみると、生保業界全体で最もシェア・ア
ップが目立つのは外国有価証券となっている(図14)。これらの中には為替需給への影響
が概ね中立のヘッジ付き外債や円建て外債が半分以上含まれていると思われるが、来
年にかけて米国で緩やかな利上げが進めば、ドル調達によるヘッジ・コストは期末要因な
どの一時的な変動を除くとジワジワ上昇していくイメージが強い。日銀緩和の長期化観測
が広がり、円金利の上昇がしばらく見込み難い環境の中で、本邦生保による対外証券投
資も地味に積み増される可能性が高いのではなかろうか。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
- 15 -
外貨投資の視点
図14:国内生保の運用資産の内訳
株式
16.7兆円
不動産
6.4兆円
株式
23.7兆円
その他
31.9兆円
社債・
地方債
39.1兆円
H25/3末時点
運用資産
339.1兆円
不動産
6.3兆円
その他
32.3兆円
社債・
地方債
38.2兆円
国債
148.8兆円
147.1兆円
H27/6末時点
運用資産
362.3.兆円
国債
149.1兆円
147.1兆円
貸し出し
36.5兆円
貸し出し
40.2兆円
外国証券
56.0兆円
外国証券
76.2兆円
16.2%
20.7%
注:上記の有形固定資産は、土地、建物、建設仮勘定を合計したもの。運用資産は、上記の主要な資産及び買現先勘定、債券貸借取引支払保証金等を合計したも
の。
決算データ(有価証券の時価評価等を反映)が公表されるのは3月、6月、9月、12月分のみ
出所:社団法人生命保険協会 生命保険事業概況より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
今年最大の対外投資主体
は、投資信託。顔の見え
ない小口投資家のフロー
も、まとめてみれば業界の
グッド・ネームを凌ぐ国際
資金移動の担い手に
他方、今年10月までの累計で既に11兆円を超える外国有価証券を買い越している投
資信託についても、中国発の株安騒動の最中にも、安定的な対外投資残高の積み上げ
基調を崩さなかった腰の強さが確認されている。株式市場関係者のメンタルヘルスが著
しく蝕まれた局面でも日本の個人マネーの外貨投資が下火にならなかったのは、今年最
大の驚きだと言えるかもしれない。背景には、様々な環境変化が関与しているとみられる
が、①国内超低金利の長期化に辟易としている投資家サイドの需要増加、②資産運用
各社による不断の新商品開発努力、③小額投資非課税口座(NISA)の導入以来、証券
業界および各社が続けてきた地道な長期投資家の啓蒙活動、④金融商品販売各社の
営業員による日々の預かり資産積み上げ努力、などの複合現象であるとみられる。顔の
見えない無数の小口投資家による外貨資産への投資は、個別にみると巨大な年金基金
や大手生保のような「ネームの神通力」には欠けるものの、まとまった一つのフローとして
みた場合には、時に「業界のグッド・ネーム」を凌ぐほどの国際資金移動の担い手になる
こともある。
長期的な視野に立脚した
国内外バランス型、コツコ
ツ型の投信信託によるフ
ローは「市場の盲点」にな
っていた可能性も
かつて日本で幾度か盛り上がった外貨系投信ブームの頃の「売れ筋商品」は、「相対
的に高利回りの海外資産への分散投資」を前面に押し出したイメージのものが多かった。
だが、最近は退職後の生活防衛などを見据えた非常に長い目でみた資産形成を目的に、
国内外の株、債券、その他の金融資産にバランスよくリスクを配分する投資信託の保有
残高を淡々と積み上げていくタイプの投資家層の育成が、様々なチャネルを通じて進み
始めているとの意見も散見される。個人金融資産の半分以上が現預金に冷凍保存され
ている状態がようやく解(ほぐ)れ、業界関係者が切望している「貯蓄から投資へ」と向かう
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外貨投資の視点
個人マネーの潮流変化が本当に起きているのかについては、依然として慎重な見方もあ
って拙速な判断は避けるべきだ。ただ、昨年以降に限って言えば、外貨系の投資信託を
通じた個人等による対外証券投資が、年金マネーや生保マネーをも凌ぐ円の売り手にな
っていた事実を見逃すべきではない。日々の為替需給トークの現場で派手に取り上げら
れる機会が少ない分だけ、近年のドル高・円安局面で「市場の盲点」になっていた可能性
があると言えるだろう。
表2:2015年に発表された日本企業による主な海外への企業買収・事業出資案件など
発表日
案 件
金額
発表日
案 件
金額
約6,000億円
東京海上ホールディングスによる米保険会社HCC
6月10日
インシュアランス・ホールディングスの買収
9400億円
キヤノンによるスウェーデン系監視カメラ最大手ア
クシス・コミュニケーションズの買収
約3,300億円
7月24日
日本経済新聞社が英フィナンシャル・タイムズ・グ
ループを全株取得で買収
1600億円
2月17日
近鉄エクスプレスによるシンガポール系物流会社
APLロジスティクスの買収
約1,400億円
7月24日
明治安田生命が米中堅生保のスタンコープ・フィナ
ンシャル・グループを全株取得で買収
6200億円
2月18日
日本郵政グループによる豪州物流大手トール・
ホールディングスの買収
約6,200億円
7月27日
三菱UFJフィナンシャル・グループ平野CEOが米
資産運用会社の買収を検討していると表明
約3,000億円
2月23日
旭化成による米系燃料電池絶縁材製造ポリポア
の買収
約2,600億円
8月11日
住友生命保険が米中堅生保のシメトラ・ファイナン
シャルを買収することで合意
約4700億円
2月24日
日立製作所による伊大手防衛航空フィンメカニカの
車両事業会社アンサルドブレダの買収
約2,500億円超
8月19日
キリンホールディングスがミャンマー最大手ミャン
マー・ブルワリーを買収
約700億円
2月26日
みずほフィナンシャル・グループがRBSからの北米
融資関連業務の買い取りを発表
3500-4000億円
8月25日
三菱電機がイタリアの空調メーカーデルクリマ社を
買収
約900億円
3月6日
損保ジャパン日本興亜による再保険世界大手の
仏スコールへの出資
約1,100億円
8月27日
三菱商事が東南アジア最大の食糧・食品メジャー
のオラム・インターナショナルに20%出資
約1300億円
3月11日
ブラザー工業は産業用印刷機器の英ドミノ・プリン
ティング・サイエンスを買収
約1,890億円
9月8日
三井住友海上火災保険が英損保大手のアムリン
を買収
約6240億円
3月19日
楽天が米電子図書館事業最大手オーバードライブ
を買収
約500億円
9月29日
日本たばこ産業が米大手レイノルズからナチュラ
ル・アメリカン・スピリットの米国外事業を買収
約6000億円
4月3日
トヨタ自動車が中国の広東省、メキシコのグアナ
ファト州に新工場を建設
約1500億円
10月15日
日本生命保険が豪銀行大手ナショナル・オースト
ラリア銀行傘下の生保事業買収を合意
約2100億円
4月22日
信越化学工業が米ルイジアナ州にエチレン生産工
場を新設(傘下の米シンテックの自己資金)
約14億ドル
(1700億円)
11月13日
三井住友フィナンシャルグループが米ゼネラル・エ
レクトリックの日本のリース事業を買収
約5000億円台後半
6月4日
(交渉中)日本生命が豪ナショナル・オーストラリ
ア・バンク傘下の保険事業買収交渉開始
伊藤忠商事による中国最大の国有複合企業・中
1月20日
国中信への出資
2月10日
2000~3000億円
計 8 兆2 5 8 0 億円
注:金額は報道時点。買収資金・出資金の調達形態により、為替需給への影響は変化する
出所:各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
加速する日本企業の海外
進出絡みの玉も、過去最
大に膨張中
加えて、これまで本レポートで継続的にフォローしている日本企業の外国企業買収
(M&A)などに絡んだ円売り・外貨買いのフローも依然として衰えていない。先月30日
(金)の本レポート配信後に新たに報道された比較的大きな事例(表2)は、「三井住友フィ
ナンシャル・グループ(FG)が米ジェネラル・エレクトリック(GE)から日本のリース事業を約
5000億円台後半で買い取る」と報じられた1件ぐらいだが、今年はほぼ毎月のようにワン・
ショット数千億円を超える海外絡みのM&A案件が報じられる状況が続いており、9月分の
国際収支統計で日本の直接投資収支は一段と海外への資金流出超過幅を拡大、直近
12ヶ月分の年率換算では過去最大となる16兆円台の資本流出超過を記録している(図
15)。個別の案件ごとに買収資金の調達方法や売却代金の活用方法は千差万別であり、
例えば上記の事案の場合、①三井住友FGがGEに対して事業購入代金を円とドルのどち
らで支払うのか、②もしも売却代金を円で受け取った場合、GEがそれを円のまま保有す
るのか、それともドル転するのか、などによって為替需給へのインパクトは変わってくる。た
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外貨投資の視点
だ、国際収支統計で確認できる数字の全てが円売り・外貨買いに直結する訳ではないと
言う点では、所得収支中心で増えている日本の経常黒字も大同小異だ。マクロ統計で確
認できる日本の直接投資収支赤字の膨張ぶりからみて、恐らく今年は日本企業の海外
進出絡みの円売り玉も過去最大級に膨張している可能性が高い。少子高齢化に伴う急
速な国内市場の収縮に対応して積極化せざるを得ない日本企業の海外進出への取り組
みは、「為替相場の水準にあまり左右されない」という特徴がある。為替需給を考える上で
引き続き必須のチェック・ポイントの一つであり続けるだろう。
図15:日本の直接投資収支とドル円相場
(年率、兆円)
(円)
170
↑円安・ドル高↑
↑対外資金流出超過↑
160
150
140
20
18
ドル円相場
( 左軸)
直接投資収支
(12ヶ月移動平均)
(右軸・逆目盛)
16
14
130
12
120
10
110
8
100
6
90
4
80
70
直接投資収支
( 同上:除く再投資収益)
60
1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
2
0
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
ド ル 高 ・ 円安の 大 局 観 を
今月も維持、現時点での
上値目処は、2016 年末=
127 円 50 銭(121 円 00
銭~134 円 00 銭)
以上の要因を総合的に勘案した上で、これまで我々が標榜してきたドル高・円安の大
局観を今月も維持しておきたい。具体的なレベルについても、先月提示した四半期ごと
の予測パターンをそのまま踏襲、2016年10-12月期末の予測値である1ドル=127円50銭
(想定レンジ=121円00銭~134円00銭)に変更は施さない。前掲の図2に示されているよ
うに足下のドル円相場は、再び「前年同期割れの雲」より上の巡航高度を確保し始めたた
め、筆者がトレンド判定の師として仰ぐ52週移動平均線は、現値がすぐに125円86銭の6
月高値を上抜けしなくても来年早春頃までは「右肩上がり」の形状を崩さない。もちろん、
長期トレンドはいずれ方向転換を迫られる時期を迎えるが、過去において52週線が方向
転換を果たした後の「ファースト・ブレーク」や「セカンド・ブレーク」は上下ともに「ダマシ」
だったケースが殆どであり、上向きの局面においては「押し目買い」の好機となることが多
かった。ファンダメンタルズや為替需給環境の裏付けを失ったテクニカル判断に固執し過
ぎると悲惨な目に遭うが、本稿で縷々述べたように、現時点においては、日米両国の金
融政策運営に明白な格差が存在しているほか、為替需給の基礎的環境も依然として円
売り優位が続いている。「テクニカル」、「ファンダメ」、「需給」を包括的に加味した上で主
張しているドル高・円安の大局観を今月も変えることなく、当面は「レベル感よりも方向感
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
- 18 -
外貨投資の視点
の方が大切」との見方を維持しておきたい。「この先どこかで1ドル=125円超の空中戦が
再開される」との基本観をキープしておく。
あくまで暫定的判断だが、
2017 年中頃からは、緩や
かなドル安・円高局面へ
の転換を意識したい
なお、長らく「判断保留」の状態で見解の明示を避けていた2017年以降のドル円相場
予測については、あくまで暫定的な判断ではあるが、今月から大雑把なイメージを提示す
ることにした。2017年の年明け頃までは2016年10-12月期のレンジを引き継いだ高値圏で
の保ち合いが続きそうだが、その後は上値の重い印象が次第に強くなり、2017年の後半
になると緩やかな円高局面への転換が始まる可能性を意識しておきたい。理由は2つだ。
図16:ドル円相場(1975年以降)の推移
325円
ドル円相場(円)
日付
ボトム
日付
ピーク
78年10月
177.05
80年04月
261.40
81年02月
202.90
82年11月
277.65
84年04月
222.70
85年02月
262.80
88年11月
121.10
90年04月
160.20
95年04月
79.75
98年08月
147.66
99年11月
101.25
02年01月
135.15
05年01月
101.69
07年06月
124.14
11年10月
75.35
(15年06月) (125.86)
平均(過去7回分のドル高局面)
306.84
300円
275円
277.65
261.40
262.80
250円
225円
222.70
200円
202.90
ドル高・円安局面
期間
騰落率
戻り率
18ヶ月
47.6%
65.0%
21ヶ月
36.8%
127.8%
10ヶ月
18.0%
73.0%
17ヶ月
32.3%
27.6%
40ヶ月
85.2%
84.4%
26ヶ月
33.5%
73.0%
29ヶ月
22.1%
67.1%
(44ヶ月) (67.0%) (103.5%)
23.0ヶ月
39.4%
74.0%
160.20
175円
177.05
147.66
150円
135.15
124.14
125円
121.10
100円
101.25
75円
50円
1975年
101.69
79.75
1980年
1985年
1990年
1995年
75.35
2000年
2005年
2010年
2015年
注:折れ線は月中平均値、高値と安値はザラ場の値
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
為替のトレンドが 5 年前後
に達すると、 日柄的な満
足感や高値警戒感が渦を
巻き始める可能性
第1に2016年10-12月期までドル高・円安局面が継続した場合、2011年10月31日の75
円35銭をボトムに始まって過去最長記録を更新している現在のドル円相場の上昇局面は、
概ね60ヶ月前後に達することになる。過去、日本の貿易収支が黒字だった時代のドル円
相場が1990年4月の160円20銭から95年4月の79円75銭まで、延々60ヶ月間に及ぶドル
安・円高局面入りしたことがあったが、他の通貨ペアの循環変動を眺めてみても、5年(=
60ヶ月)を超えるトレンドは、上下双方向ともに、ほとんど観察されることがない(図16)。そ
れだけ長く一方向への動きを続けると、市場関係者の間で「日柄的な満足感や疲労感」、
あるいは「循環的な高値到達への警戒感」などが渦を巻き始め、現在観測されている日
本からの活発な対外投資にもブレーキがかかる可能性があるだろう。その際、経常収支
黒字の対外還流に十分な資本流出の規模が維持できなくなっていれば、為替需給の基
礎的環境が円高優位に転換する可能性もある。ちなみに、近年の円安局面で強い存在
感を示している本邦の年金基金群による対外証券投資も、恐らく2016年内には目標比率
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
に到達、長期的な為替相場に中立的に働く「リバランス・モード」に移行するとみられる。
2017年まで続くとは思い難い。
黒田日銀総裁の任期満了
まで 1 年を切ってくると、
市場が「日本版テーパリン
グ・ストーリー」を意識し始
める可能性も
第2に、ファンダメンタルズ的にみても、2018年の3月19日に日銀の岩田副総裁、中曽
副総裁が任期満了を迎え、同年の4月8日には黒田総裁の任期も終わるため、2017年春
先以降は現在の日銀執行部の任期満了までのカウントダウン・タイマーが1年を切ってく
ることになる。前掲の図8で示したように、日銀が現在実施している年率80兆円ペースで
の量的緩和は、未来永劫にわたって続けられる政策ではなく、いずれ「技術的な限界」や
「道義的な臨界」に達することは自明の理なので、物価目標2%の安定確保の当否に関
わらず、どこかで誰かが幕引きをしなくてはならない。かつて米国で前例の無い大規模な
量的金融緩和を導入したバーナンキFRB議長も、自身の任期満了となる2014年1月31日
から逆算して約7ヶ月前の13年6月には資産購入ペースの段階的縮小(テーパリング)に
ついて語り始め、後任となるイエレン議長が金融政策の正常化に動く道筋をつけてから
退任した。規格外の勢いで実施されている異次元緩和をオープン・エンドで導入だけし
て出口を語らず退任する黒田日銀総裁の姿は想像しにくい。「黒田日銀総裁が戦後類
例のない2期10年間の長期政権になる」というシナリオをメインに据えない限り、2017年度
中のどこかでは「日本版テーパリング・ストーリー」の提示を市場が意識せざるを得ない局
面が到来するとみておきたい。
米国の利上げプロセスも
2017 年中は一旦小休止、
日米金融政策の印象格差
が微妙に変化
その際、米国の金融政策がどのようなスタンスで運営されているかについても目配せの
必要があるが、我々の外債市場分析チームでは2016年中にフェデラル・ファンド(FF)レ
ートが「金融政策の正常化」を目的として1%台に引き上げられた後、「金融引き締め」を
目的とする利上げが再開される2018年までは一時的な政策金利据え置き局面に移行す
ると予測している。「日本版テーパリング・ストーリーの台頭」と「米国利上げプロセスの一
時休止」という組み合わせが実現した場合、既往のドル円相場を右肩上がりの局面に誘
導してきた「日米金融政策の印象格差」が微妙に変化、既往の上昇局面で貯め込んでき
た「ドル高の貯金」の一部を吐き出す程度の循環変動が促される可能性はあるだろう(図
17)。我々の読み通り、2018年に入って米国で本格的な利上げが再開された場合にはド
ル円相場が循環的に底入れし、再び反発に向かう可能性もあるが、今月から新たに予測
のカバー期間に加えた「2018年」は、為替市場関係者にとってはあまりにも遠い先であり、
前提となる経済・政治・政策環境の全てについて、不透明要素に満ち溢れていると言わ
ざるを得ない。このため、2018年1-3月期以降についてはマクロ経済予測への中立を期す
るという意味合いも込めて、17年10-12月期の想定レンジを機械的に延長、「判断保留」の
数字を入れておきたい。
※次ページに見通しのグラフと予測表を掲載
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
図17:2015年~18年のドル円相場の見通し
140円
135円
130円
125円
120円
115円
110円
予想レンジ
ドル円相場実績値
105円
100円
95円
90円
85円
80円
75円
70円
08年
09年
10年
11年
12年
13年
14年
15年
16年
17年
18年
出所:実績はブルームバーグ提供の週末値。予想は三菱UFJモルガン・スタンレー証券
表3:2015年~18年の為替相場の見通し
予想
予想
2015年
ドル円
[円/ドル]
ユーロ円
[円/ユーロ]
ユーロドル
[ドル/ユーロ]
レンジ
2016年
2017年
2015年
2016年
2017年
7-9月期
10-12月期
1-3月期
4-6月期
7-9月期
10-12月期
1-3月期
4-6月期
7-9月期
(予想)
(予想)
(予想)
2018年
(予想)
116.18-125.28
117.0-129.0
119.5-132.5
120.0-133.0
120.5-133.5
121.0-134.0
121.0-134.0
120.0-133.0
119.0-132.0
115.86-129.0
119.5-134.0
118.0-134.0
117.5-131.5
期末値
119.88
124.0
126.0
126.5
127.0
127.5
127.5
126.5
125.5
124.0
127.5
124.5
124.5
レンジ
132.23-139.00
126.4-141.5
125.4-141.7
123.4-139.7
121.4-137.7
119.3-135.7
119.3-135.7
120.9-137.2
122.4-138.7
126.1-145.48
119.3-141.7
119.3-140.1
123.2-140.8
期末値
133.99
135.2
133.6
131.6
129.5
127.5
127.5
129.0
130.5
135.2
127.5
132.0
132.0
レンジ
1.081-1.171
1.030-1.160
0.995-1.125
0.975-1.105
0.955-1.085
0.935-1.065
0.935-1.065
0.955-1.085
0.975-1.105
1.030-1.211
0.935-1.125
0.935-1.125
0.990-13130
期末値
1.118
1.090
1.060
1.040
1.020
1.000
1.000
1.020
1.040
1.090
1.000
1.060
1.060
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成。ユーロドルは小数点以下4桁を四捨五入。予想は弊社:最終変更日時は11月27日8:00
(11月27日 14:45)
Appendix A
アナリストによる証明
本レポート表紙に記載されたアナリストは、本レポートで述べられている内容(複数のアナリストが関与している場合は、それぞ
れのアナリストが本レポートにおいて分析している銘柄にかかる内容)が、分析対象銘柄の発行企業及びその証券に関するアナリ
スト個人の見解を正確に反映したものであることをここに証明いたします。また、当該アナリストは、過去・現在・将来にわたり、
本レポート内で特定の判断もしくは見解を表明する見返りとして、直接又は間接的に報酬を一切受領しておらず、受領する予定も
ないことをここに証明いたします。
開示事項
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社(以下「MUMSS」
)は、MUMSS のリサーチ部門・他部門間の活動及び/又は情報
の伝達、並びにリサーチレポート作成に関与する社員の通信・個人証券口座を監視するための適切な基本方針と手順等、組織上・
管理上の制度を整備しています。
MUMSS の方針では、アナリスト、アナリスト監督下の社員、及びそれらの家族は、当該アナリストの担当カバレッジに属するい
ずれの企業の証券を保有することも、当該企業の、取締役、執行役又は顧問等の任務を担うことも禁じられています。また、リサ
ーチレポート作成に関与し未公表レポートの公表日時・内容を知っている者は、当該リサーチレポートの受領対象者が当該リサー
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
チレポートの内容に基づいて行動を起こす合理的な機会を得るまで、当該リサーチに関連する金融商品(又は全金融商品)を個人
的に取引することを禁じられています。
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MUMSS 及びその関連会社等は、本レポートに記載された会社が発行したその他の経済的持分又はその他の商品を保有することがあり
ます。MUMSS 及びその関連会社等は、それらの経済的持分又は商品についての売り又は買いのポジションを有することがあります。
MUMSS・その他 MUFG 関連会社、又はこれらの役員、提携者、関係者及び社員は、本レポートに言及された証券、同証券の派生商品
及び本レポートに記載された企業によって発行されたその他証券を、自己の勘定もしくは他人の勘定で取引もしくは保有したり、本レ
ポートで示された投資判断に反する取引を行ったり、マーケットメーカーとなったり、又は当該証券の発行体やその関連会社に幅広い
金融サービスを提供しもしくは同サービスの提供を図ることがあります。
MUMSS の役員(以下、会社法(平成 17 年法律第 86 号)に規定する取締役、執行役、又は監査役又はこれらに準ずる者をいう)は、
次の会社の役員を兼任しています:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。
免責事項
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英国及び欧州経済地域: 本レポートが英国において配布される場合、本レポートは MUFG のグループ会社である Mitsubishi UFJ
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「PRA」
)の認可及び Financial Conduct Authority(金融行動監視機構、以下
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外貨投資の視点
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三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社
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(加入協会)日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品
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