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地理・地図資料
スロベニア・カルスト地形(解説p. 2)
地理・地図資料
2012年度 1学期①号
表紙写真でめぐる旅 ⑪
スロベニア
2011年9月、スロベニア
取材を行った。
「カルスト」
という用語の由来ともなっ
た、スロベニアのカルスト
①
●
写真はすべて2011年9月撮影/帝国書院
地形を目の当たりにした体
験をレポートする。
②
●
③
●
④
●
⑤
●
解説
スロベニア:カルスト地形
東京大学 教授 小 口 高 写真は、スロベニアのディヴァーチャ(Divač a)町の
される。このような場所では雨水が地下に容易にしみこむ
郊外に広がる石灰岩台地を低空から撮影したものである。
ため、地表を流れる川は少ない。また、雨水が急傾斜の岩
写真の中央付近では崖に石灰岩が露出している。この石灰
の表面を繰り返し伝わると、垂直方向の筋が形成される。
岩は白亜紀〜古第三紀に形成され、地層の全体の厚さは数
写真の地域とその周辺は、現地のスロベニアではクラス
百メートルに達する。かつて、現在の中部ヨーロッパの多
(Kras)地方とよばれている。一方、同じ地域をイタリア
くは熱帯〜亜熱帯の海域に位置しており、サンゴの活動に
ではコルソ(Corso)、ドイツではカルスト(Karst)とよ
より多量の石灰岩が堆積した。その後、プレートの移動に
んでいる。ドイツ語の地方名であるカルストが、この地域
ともなって地域が北上しつつ隆起したため、温帯に石灰岩
の特徴的な地形を表す言葉として採用され、その後、世界
の台地が形成された。
各地で使われるようになった。その理由は、この地域の地
台地の上面は全体的には平坦であるが、緩やかにうねっ
形を研究していたセルビア人の地理学者、ヨヴァン・ツ
ており、一部には崖や円状の凹所もみられる。たとえば写
ヴィイッチ(Jovan Cvijić )が、研究の成果を1893年にド
真の中央やや左寄りには、切り立った岩に囲まれた凹所と、
イツ語で発表したためである。
その底にある水がみられる。また、岩の表面には垂直方向
写真の地域の地下には多数の洞窟が発達しており、シュ
の筋が多数認められる。一方、台地の上を水が流れた形跡
コツィアン洞窟群とよばれている。古くからの観光地で、
は少ない。これらは、石灰岩からなる地域に発達するカル
1986年にユネスコの世界自然遺産に登録された。洞窟の中
スト地形の特徴である。石灰岩を構成する炭酸カルシウム
には無数の美しい鍾乳石があり、地底には大規模な水流や
が水に接すると、水に含まれる炭酸と化学反応を起こし、
湖もみられる。洞窟の中は暗いが、外部よりも気温差が小
岩が溶けて侵食(溶食)が生じる。その結果、地表には凹
さく、水を得やすいため、食事や就寝の場に適している。
地(ドリーネ、ウバーレ、ポリエ)ができ、地下には空洞
このため、今から1万年以上前の先史時代から、人類が居
ができる。さらに地表と地下をつなぐ洞窟やパイプも形成
住していた形跡がみつかっている。
イト。朝一番に世界自然遺産のシュコ
ここは、街中をイタリアとの国境が貫く。
ツィアン洞窟(写真①)へ向かった。洞
現在の国境は日本でもみかける「柵」程
窟は主要な部分だけでも全長6㎞にもお
度だ。いたるところに通用口が設けられ、
「カルスト地形の写真を撮ってきてほ
よぶ。2時間以上かけて洞窟内を歩きま
人々は自由に行きかう。かつての検問所
しい-」この要請により、取材班はスロ
わり、スケールの大きさを実感する。午
は無人で、車は止まることなく通り過ぎ
取材レポート
帝国書院取材班
ベニアに向かうこととなりました。2011
後、カルスト地形を空撮するため、飛行
る(写真⑤)。冷戦時代、ここが東西最
年9月に実施した2泊3日の取材活動を
場のある町ディヴァーチャに向かう。セ
前線であったとは思えないほど平和なの
ご紹介します。
スナが離陸すると、カルスト地方らしい
が印象的だ。
ドリーネ(写真②)やウバーレが目に飛
取材前、スロベニアは「旧社会主義国
イタリアのトリエステから車を走らせ
び込んでくる。午前中に取材したシュコ
(ユーゴスラビア)」や「内戦」のイメー
ること数十分、いつの間にかスロベニア
ツィアン洞窟、前日に取材したポストー
ジが強く、ミステリアスな国だった。実
に入り、中世のたたずまいを残す村シュ
イナ洞窟も確認できる。高所恐怖症であ
際にスロベニアを訪れて、近代的で美し
タニエル(写真③)へ到着する。村の中
ることを忘れて、一心不乱にカメラの
い国であることを理解した。目からウロ
心部は小高い丘の上に形成され、周囲に
シャッターを押し続けた。
コが落ちる思いがした。
はぶどう畑が広がる。門をくぐって村に
空撮を終え、宿泊地のリュブリャナへ
入ると、タイムスリップしたような錯覚
向かう。スロベニアの首都リュブリャナ
にとらわれる。特産品の生ハムなどを昼
は人口が28万ほどで、中世の雰囲気に満
食にいただいて、宿泊地のポストーイナ
ちあふれる都市だ(写真④)。取材班は、
へ向かう。ポストーイナでは世界的観光
空撮の大仕事をやり遂げた達成感にひた
地であるポストーイナ洞窟や洞窟城を取
りつつ、市役所近くのレストランで鹿肉
材し、初日を終えた。
や鱒の郷土料理を堪能した。
取材2日目はスロベニア取材のハイラ
最終日、ノヴァゴリツィアへ向かう。
ハンガリー
オーストリア
スロベニア
イタリア
⑤
●
トリエステ
④
③
リュブリャナ
クロアチア
ポストーイナ
①②
0
50km
アドリア海
2
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