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喧嘩行為による被保険者死亡事故における犯罪行為免責適用事例

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喧嘩行為による被保険者死亡事故における犯罪行為免責適用事例
支帯環境事例研究会レポート
\:32 !≡7 ≡再
財団法人 生命慣検文化研究粁
次
喧 嘩行 為 に よ る被 保険 者 死亡 事 故 に おけ る
犯 罪 行 為 免 責 適 要 事 例 … … … … … … … … … … 1 ∼ 6 頁
詐 欺 に よ る保 険 契 約 … … … … … … … … … … … … … … … … 7 ′
- 10 貢
喧嘩行為による被保険者死亡事故における犯罪行為免責適要事例
長崎地裁島原支部昭和61年9月30日判決(確定)
昭和60年(ワ)第21号保険金請求事件
(判例集末登載)
〔事実〕
1・訴外AはY生命保険会社(以後Y会社)との間に
次のとおり生命保険契約を締結したO
契約日 昭和58年1月13日
被保険者 A
死亡保険金受取人 Ⅹ
死亡保険金 2,000万円
傷害特約 500万円
2・訴外Aは、昭和58年1月23日午前4時頃、自宅
付近の路上で小・中学校時代の同級生訴外Bと会
い、Bを自宅に誘い、Bと共に自宅でウイスキー
の水割りを飲んでいたが、中学校時代お互いに悪
かったと云い合ったり、Bの妹が夜よく出歩いて
いるとAが話したりしているうちに、お互いが不
快の念を募らせ、BはA宅から帰宅しようとしたO
Aが引き止めたのでBはAの居室に引返し、Aは
Bにウイスキーの水割を飲むよう勧めたO ところ
がBが「もう飲まん」と云って断ったので、Aは
「のぼすんな」などと云ってBに急に殴りかかり、
Bも立腹して両手でAの胸付近を強く押返したO
するとAはなおもBに殴りかかっていったため、
以後AとBは互いに殴り合いとなり、更に取っ組
み合いとなって互いに同室の畳の上に倒れたが、
Aは先に立上ってBの背中を2回位足蹴りにした。
そのうち、同室の蛍光灯が消えたので、その際
にBはA宅の玄関から素早く屋外へ逃れたものの、
同玄関のドアーを右足で力一杯蹴って閉めながら
「人をばなむんなよ」と怒鳴った。すると、Aが屋
内から「なんて」と怒鳴り返すと共に、刃体の長さ
20cmのステンレス製包丁1本を台所から持出し
て、包丁を左手に持って玄関から飛び出して行き、
A宅玄関前においてBに向かって包丁を2・3回
突き出した。
その際Bは右手の甲に傷害を受けたが、更にA
が突き出した包丁がBの右肘と右脇腹の間に挟ま
ったため、その瞬間Bは右肘と右脇腹の間で包丁
の刃を強く挟み込んだまま2、3歩後退した。
そこでAが包丁を手放したので、Bはすぐ包丁
を左手で取り、その後包丁を右手に持ち変えたが、
その際BはAから殴られたりしたO
Bは上述のようにAから包丁で刺し殺されそう
になったことなどから、憤激の感情が極度に達し、
咄嗟に包丁でAを殺害しようと決意し、同日午前
5時50分頃Aの胸腹部付近を狙って包丁を1回突
出したが、包丁がそれて、Aの左上腕部に刺創を
与えたに止まった。Aはその場から10m程逃げた
が、そこで振り返りざまBに対し、「わらあ覚え
とけ、明日みんなでやってやる」と云ったため、
これを聞いたBは今Aを逃してしまうと、明日は
自分がA達一派から殺害されると思い、A宅隣家
前の路上にいたAの近くまで走りよりAと対噂し
た状態となったが、その場は前記の憤激の念を押
え、Aが逃げてくれることを願いつつ、逃げなけ
れば刺すと威嚇する趣旨で傍らの路上に止めてあ
った自転車のタイヤを数回切って見せたが、Aは
なおも逃げようとせず、「お前も刺されちょっけ
んか、もうすぐ死んとたい。刺しきんなら刺して
みろ。」とかえって挑発する言動に出たため、Bは
逆上し、いよいよAを殺害しようとする決意を強
めて包丁でAの左腹部付近を狙って力一杯1回突
き刺して左腹部に刺剤を与え、よって同日午前6
時37分頃、Aを左上腕部刺創および左腹部刺別に
よる失血により死亡させたものである。
XはY会社に対しA死亡による死亡保険金
2,000万円と災害保険金500万円を請求したが、Y
会社は約款所定の犯罪行為による死亡として死亡
保険金、災害保険金の免責としたため、Xはその
支払を求めて訴を捏起した。
〔xの主張〕
Aに若干の暴行行為があったとしても、それをも
って保険約款第8条1項1号所定の保険金を免責さ
れる被保険者自らの犯罪行為による死亡と云うのは
失当である。Bの殺害行為がAの行為に対する正当
防衛行為、過剰防衛行為にも当らないので被保険者
自らの犯罪行為による死亡とは云えず、また、Aは
保険金受取人であるⅩに本件保険金を取得させる目
的でBから刺殺されたわけでもなく、ⅩにとってA
の死亡は全くの偶然の事故による死亡と変わりがな
いから、保険金を受け取っても公益に反することに
はならない。
〔判旨〕−Xの請求を棄却
1.……ところで保険は同じような経済上の危険に
ある多数人が偶然な事故による財産上の需要をみ
たす制度であり、この制度を利用する保険契約者
や保険金受取人に経済的危険を分散することによ
り経済生活を保証する利点がある反面、保険給付
が偶然な事故によって左右される射倖性を有して
いることから、この面について一般的公序による
制約受けることがあってもやむをえないことであ
る。
このような保険についての契約の一つである生
命保険契約は、当事者の一方が相手方又は第三者
の生死に閑し、一定の金額を支払うべきことを約
し、相手方が之にその報酬を与えることに因って
其の効力が生ずる契約であるが、商法第680条1
項1号には保険者の保険金支払免責事由の一つと
して被保険者が犯罪によって死亡した場合が規
定されている。このような規定がなされるに至っ
2
た根拠の一つには生命保険契約による保険金の給
付が被保険者の死亡事故によりなされるところか
ら、被保険者が、保険金受取人となる人のことを
心配しないで安心して犯罪行為に走ることができ
るという公益に反する面を防止しようとして規定
されたものと解される。
2.右本件保険契約の約款の保険者免責の規定の解
釈に当っては、前記商法第680粂1項1号の保険
者免責の解釈とはぼ同様の趣旨に解釈するのが相
当であり、本件保険契約の約款において被保険者
の犯罪行為による死亡の場合には、保険者に保険
金支払の義務が免除されている根拠の一つは、被
保険者が自らの犯罪行為によって死亡しても保険
金受取人に保険金が支払われることになると、被
保険者は保険金受取人となる人のことを心配しな
いで安心して犯罪行為に走ることにもなりかねず、
/へ
この保険によって犯罪の発生を誘発することにも
なりかねないので、このような公益に反すること
を防止する趣旨で、この保険者免責の条項が定め
られているものと解するのが相当であり、これと
異なって、被保険者が保険金を取得させる目的で
刺殺されたのでなければ保険金の受領が公益に反
することにならず、本件保険契約の保険者免責規
定に該当しないと解するのは相当でない。
3.本件保険契約の約款の保険者免責の規定にいう
被保険者の犯罪行為による死亡とは、被保険者の
犯罪行為がなかったならば、被保険者の死亡の結
果は生じなかったであろうという条件関係が存在
しており、前記本件保険契約の約款の保険者免責
の条項が規定された趣旨から、被保険者の犯罪行
為の時に被保険者の立場に立って、通常人が知り
又は予見することができたであろう一般的事情及
び被保険者が現実に知り又は予見していた特別事
情を基礎として、この事情のもとで被保険者の犯
罪行為により、その結果被保険者が殺害されたと
するのが、一般的、社会的見地から妥当であると
認められる場合をいうと解するのが相当であり、
原告の主張する被保険者の犯罪行為に対する正当
防衛行為もしくは過剰防衛行為に起因して被保険
者が死亡した場合を被保険者の犯罪行為による死
亡と限定的に解すべきであるとの根拠は見出し難
い。
4.前記…で認定した事実、特に
(1)本件事故発生時の直前、被保険者Aと加害者
Bは共に相当量の酒を飲んでいたこと。
(2)A,BはAの自宅で飲酒の上口論を始め、A
が先にBを殴り、その後双方が殴り合いの
喧嘩になっていたこと。
(3)BがAの自宅から逃げ出そうとしたとき、A
が刃体の長さ約20cmの包丁を持出して、B
に向って数回突出し、Bが手の甲に傷を受け
たが、包丁は右肘と右脇腹の間に挟ったこと。
(4)BがAから包丁を取り上げて、Aに向って突
出し、Aの上腕部に刺創を与えたのでAは
10m程逃げたが、振返ってBに対し、「明日
皆でやってやる」とか「刺しきんなら刺してみ
ろ」とか、BにAを刺すのを挑発するようなノ
発言や態度をとったこと。
Ⅱ.犯罪行為による免責条項について
(1)商法第680粂1項1号の趣旨
a.商法が被保険者の犯罪行為による死亡の場
合に保険者を免責としている趣旨について、
学説は「このような場合に保険金を支払うこ
とにすると被保険者が遺族のことを心配しな
いで安心して犯罪行為に走ることができるた
め公益に反するとの考慮によるもの」という
見方ではぽ一致している。(西島・保険法
P.395大森・保険法P.292石田滴・商法Ⅳ
P.332伊澤・保険法P.366田辺・現代保険
法P.277金沢・基本法コンメンタール商法
1P.245)
b.本判決も同じ立場をとっている。
(2)各社の約款の定め
a.被保険者の犯罪行為による死亡について各
社の約款は(普通死亡保険金について)①全期
間免責とするもの②契約(または復活)後、一
定期間免責とするもの③免責としないものの
3つに分かれる。
b.表にすると大概、次のとおりである。
(5)その結果Bが包丁でAの左上腕部及び左腹部
を刺して死亡させたこと。
の事実からすると、Aは自己の暴行・傷害等の犯
罪行為により、その結果Bに殺害されたと認める
のが一般的社会的見地から妥当であり、本件保険
事故は本件保険契約の約款上の保険者の免責条項
(傷害特約上のものを含む沖の被保険者が犯罪行
為により死亡した事実に該当し、被告は本件保険
金の受取人とされている原告に対し、本件保険金
(傷害特約保険金を含む)を支払う義務はないとい
わなければならない。」
〔研究〕
I.判旨の大筋
(1)免責条項の趣旨
犯罪行為による免責条項(商法第680条1項1
号、約款第8条1項)の趣旨は、被保険者が自
らの犯罪行為によって死亡した場合についても
死亡保険金を支払うと、被保険者は保険金受取
人のことを心配しないで安心して犯罪行為に走
ることになりかねず、この保険によって犯罪の
発生を誘発することになりかねないので、この
ような公益に反することを防止することである。
(2)犯罪行為による死亡の意義
犯罪行為による死亡とは、当該犯罪行為と被
保険者の死亡との間に条件関係が存在し、被保
険者の犯罪行為の時に被保険者の立場に立って
通常人が知りまたは予見したであろう一般的事
情および被保険者が現実に知りまたは予見して
いた特別事情を基礎として、被保険者の犯罪行
為の結果、被保険者が死亡したとするのが一般
的・社会的見地から妥当と認められる場合をい
う。
(3)認定した事実からAは自己の暴行・傷害等の
犯罪行為の結果Bに殺害されたと認めるのが一
般的・社会的見地から妥当であり、本件保険事
故は、免責条項に該当するので、保険者は保険
金を支払う義務はない。
(4)私見では判旨は妥当であると考える。
(
》全期 間免
責 とす る
富国 東京 朝 日 日産 東 邦
三 井 ア メ リカ ン ・フ ァ ミリー
9社
第百 太陽
② 一定 期 間
免責 とす る
平和 (2年間 )
明治 (1年間 )住友 (
1年 間 )
西部 オー ルス テー ト(1年 間 )
4社
日本 ソニ ー ・プル デ ン シャル
③ 免責 と し
ない
ア リ コ ・ジ ャパ ン 大 同
千 代 田 協 栄 第 一 大 和
1 3社
日本 団体 オハ マ 大 正
安 田 全共連
(3)約款規定をめぐる学説の対立
a.被保険者の犯罪行為による死亡を免責とし
ない約款(③のタイプ)の効力をめぐって学説
が分れている。
ィ.有効説(西島前掲P.395、大森・前掲
P292、田辺・生命保険と保険者の免責事
由「ジュリスト」No.736、石田・前掲P333、
青谷・保険契約法論IP293等)
大森教授の見解
「かかる場合は、被保険者が保険金を受取
るべき者に保険金を取得させる目的で死亡
したものとはいえず、また、保険金受取人
の立場から見れば、やはり偶然の出来事に
よる被保険者の死亡にはかならない。犯罪
行為などをした者に対する制裁は、その本
人のみに及ぼすべく、犯罪行為に関係のな
い被養者などにまでおよぽす必要はない。」
3
青谷教授の見解
「…被保険者が第三者をして保険金を取得
せしめるためにあえて犯罪をおかしてまで
死亡するがごときはありえないのみでなく、
保険金受取人としても被保険者の犯罪によ
る死亡という偶然の出来事によって保険金
請求権を失うことは、条理に反する。被保
険者の犯罪による死亡も、…刑法上受刑者
その者において責任を負えば十分であって、
その遺族にまでこれを及ぼすがごときは
「刑は犯罪者その人の一身にとどまる」とい
った近代刑法の原則に反するものとしなけ
ればならない。」
ロ.無効説(野津・新保険契約法論P626、田
中誠二・保険法P268、伊澤・前掲P366)
野津教授の見解
「犯罪死亡の場合にも保険金を支払う特約
は、犯罪者の後顧の菱を除き、安んじて
犯罪させることになり、・・・公序違反の契
約としなければならない。保険契約が最
大善意の契約である点からいっても当然
である」
b.また、契約(復活)後一定期間について免責
とする約款(②のタイプ)についても、上記有
効説の立場から批判がある。
青谷教授の見解
「保険契約者が犯罪による死亡を予期して自
己または第三者を被保険者として保険契約を
締結するといった弊害は、通常考えられない
ところであるから、契約後定年限経過後の自
殺を不可争とする場合と同視して、犯罪条項
につき、このような約款を設けることの当否
は、はなはだ疑わしい」
(4)私見
a.犯罪行為免責条項の趣旨について
犯罪行為を誘発させ公益に反することを防
止するためとの見解に賛成だが、このことを
もっと保険者サイドからみて、当該免責条項
の趣旨は契約者(被保険者)が自らの犯罪行為
による危険を保険者に負担させる目的で保険
制度を悪用することを防止する趣旨であると
考える。
犯罪に対する制裁を保険金受取人に及ぼす
趣旨であるとは考え難い。
b.一方、保険金受取人サイドからみるならば、
犯罪行為による死亡であっても被保険者が偶
然の出来事によって死亡したことに違いはな
いので、このような場合に死亡保険金を支払
う特約を結んだとしても公序良俗違反の契約
とまではいえないと考える。
4
C.私見としては契約(復活)後一定期間免責と
することにより、保険制度の不正利用を阻止
する約款が妥当と考える。(②のタイプの約
款)
なお、一定期間免責とする約款に対して批
判があるのは上述のとおりであるが、「近時、
ハイジャックや銀行襲撃等の生命を賭して行
なわれる計画的犯罪行為が多発していること
を考慮するかぎり、少なくともこのような犯
罪を計画して保険契約を締結して犯罪行為を
実行することを阻止する必要があることから、
この種の約款の意義は認められると考える」。
(田辺・前掲ジュリストⅣ0.736)
Ⅲ.免責とすべき犯罪行為についての考察(私見)
(
(1)「過失犯」は含まれるか
犯罪行為による死亡を免責とする趣旨は刑事
責任の問題を私法関係たる保険契約の関係にま
で取り入れるということではなく、保険契約を
締結することによって安んじて犯罪行為を行な
い、保険制度を不正に利用することを防止する
趣旨であると考えられるので、免責の対象は
「故意犯」に限れば十分であり、「過失犯」は含ま
れないと考える。
(2)「刑事犯」と「行政犯」(「自然犯」と「法定犯」)
「犯罪構成要件に該当する行為である以上、
それが自然犯または法定犯、ないし、刑法犯
または行政犯たるを闘わない」(生命保険普通
保険約款の解説(その12)生命保険経営第30巻
第2号)とする見解があるが疑問である。
公益に反する結果を防ぐという免責条項の
趣旨から考えて、免責とされる犯罪行為はよ
り反社会性の高い「刑事犯」に限ってよいので
(
はなかろうか。
常識的にも、たとえば道交法違反を犯した
被保険者が交通事故で死亡した場合、犯罪行
為による死亡として死亡保険金が免責とされ
るのは妥当とは思われないからである。
(3)免責に該当する刑事犯とは
この間題は、当該犯罪行為について死亡の結
果発生の蓋然性がどの程度存在するかという問
題と係わっているので、どの程度の犯罪が免責
とされるかは結局、死亡との因果関係の判断を
含めて検討すべきであり、具体的ケースによっ
て判断せざるをえないと考える。
Ⅳ.犯罪行為と死亡との因果関係
a.保険法における因果関係説
(1)条件説 結果発生について不可欠な条件す
それを避けようとして過って転落死した場
ベてを結果発生の原因とする。
(2)相当因果関係説 結果発生について不可欠の
条件のうち「相当な」条件
のみを結果発生の原因とす
る。
「相当性」を判断するにあたって3つの説に分
かれる。
ィ.主観説…当事者が知り、または予見するこ
とができたはずの事情を基礎とす
る。(ドイツのクリースの学説)
ロ.客観説・・・原因発生当時、客観的に存在した
すべての事情を基礎とする。(客
観的事後推測説とも呼ばれる。ド
イツ リューメリンの学説)
へ 折衷説…原因発生当時、客観的に知ること
ができた一般的事情および当時、
当事者が知っていた特別な事情を
基礎とする。(ドイツのトレー
ガーの学説)
この3説のうち、ドイツの判例に採り入れられ、
かつ我国の学説にもなじみの深いのは、トレー
ガーの学説である。(平井・損害賠償法の理論
P48)
(3)近因説 ある結果に対しその条件と認めら
れる数個の事実のうち時間的に最
も近接する事実をもってその原因
とする。(最後条件説とも呼ばれ
る)ただし、時間的な問題にとら
われず、真の近因とは結果発生の
効果の点において近接な原因であ
るとする見解もある。(野津・保
険法の因果関係)
(4)最有力条件説 ある結果に対し作用した
種々の条件のうち最も有
力な起果力と解される条
件をもってその原因と解
する。
(5)自然成行説 ある結果が先行する条件の
不可避的結果または自然の
成行である場合、その条件
をもってその原因とする。
b.犯罪行為免責における因果関係説
(1)相当因果関係があればよいとする見解
(田辺・前掲ジュリスト736号、金沢・前掲)
ィ.犯罪死とされるケース
・犯罪行為に対する警察官の正当行為または
相手方の正当防衛による犯罪者の死亡、相
手方の過剰防衛による死亡
・高層ビルの屋上から通行人を射殺する目的
で銃を構えたところ警察官の射撃を受け、
A
⊂コ
ロ.犯罪死とはいえないとされるケース
・犯罪行為の際の過失死…高層ビルの屋上か
ら忍び込んで窃盗を試みようとして、過っ
て転落死した場合
・強盗に出かける途中、釣橋がこわれて谷に
落ち死亡した場合
(2)直接の因果関係を必要とする見解
(青谷・前掲P295)
ィ.犯罪死とされるケース
・婦女を強姦しようとして、かえってその被
害者たる婦女のために殺害せられた場合。
・強盗が財物を強取しようとして他人の家に
侵入したところ、かえってその他人により
射殺せられた場合。
ロ.犯罪死とはいえないとされるケース
・犯罪のとき誤って毒物をのんだとき。
・狭い橋の上で他人の財物を強取しようとし
て他人に飛びかかったところ誤って谷底に
墜落したとき。
C.本判決の立場
「犯罪行為による死亡とは犯罪行為と被保険
者の死亡の間に条件関係が存在し、被保険者
の犯罪行為の時に被保険者の立場に立って通
常人が知りまたは予見することができたであ
ろう一般的事情及び被保険者が現実に知りま
たは予見していた特別事情を基礎として…」と
の記載から考えて、相当因果関係折衷説の立
場に立つものと考えられる。
したがって、犯罪行為に対する相手方の正
当防衛や過剰防衛によって被保険者が死亡し
た場合に限らず、犯罪行為と死亡とに相当因
果関係が存在する場合は免責とする趣旨であ
る。
d.私見
公益に反する結果を防ぎ、また保険制度の不
正な利用を防ぐ犯罪免責条項の趣旨から考える
と、免責とすべきは当該犯罪行為から死亡の結
果が発生することが通常予想可能な場合と考え
られる。
相当因果関係があれば免責としてよいと思う。
したがって、犯罪行為による免責とされる被保
険者の死亡は、犯罪行為に対する相手方の正当
防衛または過剰防衛によって被保険者が死亡し
た場合に限定されないという判旨は妥当と思わ
れる。
(浜本一郎)
5
〔質疑応答要旨〕
1.本判決は犯罪行為免責の趣旨および因果関係に
論及しているという点で珍しい判決である。
なお、犯罪行為免責に関する事例は比較的に少
ないが他に下記のものがある。但し、災割特約に
関するものである。
・S.56.2.25札幌高判 昭和55年(ネ)第156号
2.犯罪行為免責約款ほど取扱いが各社バラバラな
ものは珍しい。すなわち、①全期間免責とする会
社②一定期間免責とする会社③免責としない会社
があり、また簡易保険および共済においては免責
とはしていない。
3.商法第680条1項1号の趣旨および犯罪行為免
責を規定しない約款の効力について
(1)商法の規定は1974年ベルギー法第41条よりき
たものと考えられているが、ドイツ法およびフ
ランス法においてはこの様な規定はない。
(2)無効説を解釈論として貫く場合には、商法第
680粂1項1号を絶対的強行法規と解するしか
ないのではないかと思われるが、立法論として
は理解し得ても、解釈論としては無理があるの
ではないかと思われる。
(3)野津・新保険契約論627頁は無効説の立場を
とった上で、例外として「保険金受取人の善意
が証明される場合には、右の特約の効力を認
めるべきである」として、犯罪行為を免責とす
る規定は半強行的と解すべきとされている。
しかし、本来問題とされていたのは被保険
者の意思であり、受取人の善意が入る余地が
あるのかどうかという疑問が残る。
(4)約款上、犯罪行為を免責としていない会社は、
有効説の立場に従ったものと思われる。
(5)犯罪行為を一定期間免責とする約款について、
計画的犯罪の防止および受取人の保護をその根
拠とすると、商法第680条1項1号の趣旨との
対比上、受取人に保険金を取得させる目的の有
無が解釈上表面に出て来てしまうのではないか
との疑問が残る。
(6)学説上、商法第680条1項1号の趣旨は、「こ
のような場合に保険金を支払うことにすると被
保険者が遺族のことを心配しないで安心して犯
罪に走ることができるため、公益に反するとの
考慮によるもの」という見方ではぼ一致してい
る。立法趣旨を受取人との関係でみるよりも被
保険者の反社会的行為に求める方が理解がし易
いのではないか。しかし、そうした場合でもた
かが喧嘩ぐらいで何故免責にしなければならな
いのか疑問が残る。報告書が私見として述べて
いる「契約者(被保険者)が自らの犯罪行為によ
,6
る危険を保険者に負担させる目的で保険制度を
悪用することを防止する趣旨である」という考
え方も参考にして更に検討の余地がある様に思
われる。
4.因果関係について
(1)本判決は相当因果関係説の立場をとっている
と思われるが、設定された事実を見る限り、死
亡に致るまでに他人の行為および意思が介在し
ており、このような場合に相当因果関係がある
といえるか否か疑問が残る。(因果関係の中断
となるのではないか)
(2)研究の中で挙げられている具体的事例につい
ても、因果関係が有るとされるものと無いとさ
れるものとの間の区別が不明確であると思われ
る。(例えば、(1)イ②、(1)ロ①、(2)ロ②の関
(
係)
5.商法および約款上にいう犯罪行為とは刑法犯
(過失犯は除く)のみを対象とするのが妥当である
と思われる。またその際の犯罪行為については刑
法上の犯罪行為と同義に解して良いと思われる。
(構成要件該当性、違法性、有責性等)
6..犯罪行為免責の約款を持たない会社についても、
災割特約については、場合によっては重過失免責
を適用し得る可能性がある。
7.約款上の死刑執行による免責についても各社バ
ラバラとなっている。また、犯罪行為免責約款の
規定とも一致していない状況である。なお、死刑
執行を約款上規定しているのは、富国、東京、朝
日、日産、東邦、三井、住友、大正の8社である。
(小島)
(大阪:S.62.7.24)
報告:住友生金 浜本一郎氏
指導:坂本弁護士、山下弁護士
′ヽ
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