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第2回 池田真治 人文棟・第3講義室
西洋思想史 第2回 池田真治 人文棟・第3講義室 1 本日のメニュー • ルネサンス期の解剖学の発達 • デカルト紹介 • オートマトン(自動人形) • 動物機械論 2 ルネサンス∼初期近代 • 自然哲学から科学への移行期。 • 自然哲学・・・自然を説明する学問。 • 科学・・・実験・観察に基づく経験的 研究や数学的分析に基づく学問。→近 代科学の原型が確立。 3 数学の位置づけの変化 • アリストテレス主義者(∼16C)・・・数学は量的 に記述するだけ。対象の真の自然本性には到達せ ず、自然現象を説明しない。 • ルネサンス→数学の学問的地位、数学者の社会的地 位の向上。自然哲学的論証に対する、数学的証明の 優位性(クラヴィウス)。 • その中で、もっとも大きな成功を修めた典型とし て、ガリレオ・ガリレイがいる。 4 近世あるいは初期近代 • 近世・初期近代・・・新しい諸科学が勃興 し、伝統的哲学の限界がいろいろな形で露呈 した時代。 • 「科学革命」・・・ガリレイ、デカルトの数 学的自然学など. • 伝統的な目的論的世界像と、新しい機械論的 世界像との対決。 5 近世期の科学と哲学 • 16、17世紀の科学思想および哲学 思想は、ごく緊密に相関しあい絡み 合っているので、互いに切り離しては 理解しえなくなる。 6 近世あるいは初期近代 • それまでアリストテレス的自然哲学で 説明してきた現象を、どうやって科学 的に説明するかという問題。 • 伝統的哲学の概念が残るなかで、 新し い科学が勃興し、 独自の哲学が発展。 7 ルネサンス • ルネサンス(Rennaissance)・・・14C後 半-17世紀初頭ヨーロッパにおける、古代 ギリシァ・ローマの文芸の「再生」運動。 イタリア語 “rinascita” に由来。 • • 科学革命、宗教改革、経済の発展。 三大発明:コンパス、火薬、活版印刷術。 8 人文主義 • 人文主義(Humanism, humanismus) • ルネサンス期の文化運動の総称で、人 間性の研究を重視 • 古代の学芸を中心に置き、さまざまな 文化活動を展開した。 9 人文主義 • • プラトン、アリストテレス、など古代哲学の復興。 ユークリッド、アルキメデスなどの数学の復興。天文 学・光学・機械学などの数学的諸科学の発展。 • 医学(解剖学・生理学・薬学)や魔術思想(占星術・ 錬金術)なども復興。パラケルスス派の医学。 • ルター派、カルヴァン派など、カトリック協会の司祭 の権威に対抗し、聖書を一般にも解放する、新しい宗 教思想の誕生。 10 ルネサンス • 中世までの学問や宗教の権威の失墜。 • 神ではなく、人間を中心とした、新し い学問の可能性。 11 17世紀科学革命 • 17世紀:無限に関わる新しい数学が 登場。無限級数論、無限小解析(すな わち微分積分)。 • ガリレイやデカルトらによって、数学 的自然学が誕生。 • 「自然という偉大な書物は数学(幾何 学)の言語で書かれている」(ガリレ イ) 12 ルネサンス∼初期近代 • 近代科学の方法を基礎づける革命 i. 実験・観察 ii. 数学的分析 • ルネッサンスの芸術に、すでに近代科 学の成立の温床が見られる。 13 ルネッサンス期 • 解剖学の発達 • レオナルド・ダ・ヴィンチ 1452-1519 (1) 身体・生命の真理の探究 (2) 古代の伝統的知識の誤 (3) 「人間機械」という見方 14 レオナルドの自動人形 • ヴァザーリ『美術家伝』「レオナルド・ダ・ ヴィンチ伝」:「フランス王がミラノに入城し たときのことである。レオナルドは乞われるま まに、風変りな歓待のし方で人々を喜ばせるこ とになった。つまり、彼は一頭の獅子を作り、 それは数歩歩いてその胸を開き、咲き乱れた百 合を見せるという仕掛けのものであった」 15 Codex Madrid I. 90 16 Codex Madrid I. 91 17 18 レオナルドの絵画論 • 絵画や彫刻など芸術もまた学芸(ars) • 『絵画論』 • 絵画は科学→徹底した自然観察。 • 絵画の数学的基礎→遠近法の幾何学。 19 レオナルドの絵画論 • 絵画や彫刻など芸術もまた学芸(ars) • 『絵画論』 • 絵画は科学→徹底した自然観察。 • 絵画の数学的基礎→遠近法の幾何学。 科学と芸術は不可分なんじゃ! 20 レオナルドの絵画論 • 魂は調和より成る、そし て芸術作品の調和的比例 は、この調和の反映であ る。 • 絵画でそれを実現しよう としたのがルネサンス、 音楽ではバロック。 21 レオナルドの人体解剖図 22 レオナルドの人体解剖図 23 ヴェサリウス『人体解剖図』 De Humani Corporis Fabrica, 1543 24 レオナルドの生命観 • 小宇宙としての人間。 • 目的論的自然観。 • 古代ギリシアにおいて生命の根源とさ れた「プネウマΠνεύµα」を、解剖学的 に立証しようとした。 25 プネウマ • ギリシア古代哲学において「プネウマΠνεύµα」と 呼ばれた、気息ないし息吹を意味する生命の原 理は、ラテンでは、「スピリトゥスspiritus」、す なわち「精気」と呼ばれるようになる。 • この言葉が、デカルトにも受け継がれ、身体を 動かす動因は、「動物精気 spiritus animales」と呼 ばれる。 26 アニマとスピリトゥス • アニマ(anima)は、 命の「息」、命を吹き込まれた「魂」を意味 する。 英語では ‘‘soul’’、仏語で ‘‘l’âme’’。animal=命を持つもの=動 物。 • 身体(corpus)と対をなす語として、animus (精神、精神のはたら き)が用いられたが、やがて廃れた。 • スピリトゥス(spiritus)は、ギリシャ語で「息」や「命」を意味す るプネウマの訳語として使われる。こちらが、肉体と区別される精 神の意味で用いられるようになる。 • 元来、「息、呼吸」の意味を持つspiritusが「精神、聖霊」を意味す るように。英語 ‘‘spirit’’ や仏語 ‘‘esprit’’(エスプリ)はこれに由来。 27 デカルト • • • 近代科学・近代哲学の父 数学的自然学。 われ考えるゆえにわれ在 り(コギト・エルゴ・ス ム)。 • 機械論的自然観。 28 デカルト ルネ・デカルト(René Descartes, 1596-1650) 1596 弁護士の息子として、フラ ンスはトゥレーヌ州、ラ・エー (現在はデカルト)に生まれる。 1607-1615 イエズス会の名門校、 ラ・フレーシュ学院に学ぶ。 1616 ポワティエ大学で、法学・ 医学を学ぶ。 29 デカルト 1616-1619 書物による学問を捨 て、従軍を兼ねた旅に出る。 1618 オランダで志願兵として軍 隊入り。 オランダで、ベークマンと出会 う。数学を自然学に応用するこ とに目覚める。『精神指導の規 則』の構想と執筆(未完)。 1619 ドイツの軍隊に入る。 (『序説』第1部、第2部)。 30 デカルト 冬の陣営の、炉部屋での思 索(『序説』第2部、第3 部)。 パリに戻って、数学や光学 などを研究。 1628- 研究と思索に集中す るためオランダへ移住。 1637 『方法序説および三試 論』をフランス語で出版。 31 デカルト • 1641年、『省察』が論 と答弁 を付してパリで出版される。 『序説』では十分に描けなかっ た形而上学の基礎を考察。 • 1644年、『哲学の原理』を出 版。人間認識の原理と自然学に 関する体系的哲学を4部に渡っ て展開。 • 1649年、『情念論』をパリで出 版。生理学的知見をふまえて心 身問題を扱う。 32 デカルト • クリスティーナ女王の懇 請に応じ、スウェーデン に渡るも、極寒の地での 早朝勤務がこたえたの か、1650年、肺炎で亡く なる。 33 デカルトの業績 • • • • 『精神指導の規則』(1619-28?) :方法論の萌芽。 『世界論』(1633) :自然学、宇宙論。 『方法序説および三試論』(1637):方法と応用。 『省察』(1641) : 方法的懐疑、 コギト、認識 論。 • • 『哲学の原理』(1644) :体系的哲学。 『情念論』(1649):心身合一。生理学的考察。 34 動物精気 • 動物精気・・・「きわめて微細な空気 か、あるいはむしろきわめて純粋で活発 な炎のようなものであって、たえず大量 に心臓から脳に上り、そこから神経を 通って筋肉のなかに入り、身体の各部分 に運動を与えるのである。」『方法序 説』第5部 (AT VI, 54) 35 ハーヴィーの血液循環説 Exercitatio Anatomica de Motu Cordis et Sanguinis in Animalibus, 1628 36 動物精気 • • 動物精気とは・・・血液の微細な粒子。 血液が心臓の熱によって気化されて生じ、蒸気のように脳にま でたち上ったもの。 • さらに脳から、神経を通って、全身を循環し、脳からの情報を 筋肉に伝えてそれを動かしたり、身体の情報を脳に伝達したり するもの。 • • 身体の内にあって、身体を動かす力となるもの。 現代生物学で言う「神経伝達物質」のような役割を持つものだ が、循環的なもので、血液から生じている点がユニーク。 37 共通感覚 • • 共通感覚とは、 感覚を介して受け取られた光・音・香・味・熱 などの観念を受け取る場所 • • 飢えや渇きやその他の内的情念を受け取る場所 デカルトにおいて、これらの観念は、脳におい て受け取ると考えられている AT VI, 55。 38 共通感覚 • アリストテレスでは、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚) を統一する感覚を、共通感覚と呼んだ。ただし、これは、五感 と独立する何か別の感覚ではない。 • • デカルトは、共通感覚の座が松果腺にあると断定した。 松果腺は脳の中央に位置する小さな器官。そこに感覚器官から の諸情報がすべて集められて受け取られ、そしてこの器官に直 接結びついている精神に伝えられる、とデカルトは考えた。 • 「精神の座」あるいは「魂の座」、心身の結合点としての共通 感覚器官(松果腺)。 39 記憶と想像力 • 記憶・・・共通感覚が受け取った観念 を保存する。 • 想像力・・・観念をさまざまに変えた り新しく組み立てたりできる。 40 自動機械 • 想像力は、動物精気を筋肉に配分し、感覚に現れる対 象や身体の内的情念に応じて、身体の各部を動かすこ とができる。 • ここで、精神のはたらきとされていた想像力が身体の 機械的運動と連結する。 • ここから、デカルトはオートマットつまり「自動機 械」の議論に移る。 • デカルトにとって、身体は「自動機械」である。 41 自動機械 • オートマットautomatesあるいは自動 機械とは、機械仕掛けで自動的に動く 人形やおもちゃ。 • • アルキュタスの機械仕掛けで飛ぶハト 人間の身体もまた、そのような一つの 機械。世界全体も機械。→「動物機械 Αρχύτας BC 428 - BC 347 論」へ 42 自動人形 • 人間の身体と似ていて、可能な限り人 間の行動をまねる、ものまね機械を想 定してみよう。 • このとき、人間とものまね機械を見分 ける手段はあるのか? 43 自動人形 • デカルトは、「見分ける手段がある」と答え る。 • • 1つ目。機械はまともに言葉が使えないはず。 オウム返しのような、単純な返答なら、自動 人形にもできるかもしれない。しかし、会話 のすべての意味を み取った返答はできない だろう、とする。 44 自動人形 タチコマに自己言及のパラドクスを投げかけ られ、返答できずに無限に考え込むオペ子。 (攻殻機動隊SAC, 第8話より) 45 自動人形 • 2つ目の手段。必ず何かほかにできないことがあ る。デカルトは理性(による認識)に、機械がで きないことを見ている。 • 機械は諸器官の配置によって動いているだけで、 個々の行動に別個に、個別な配置を必要とする。 あらゆる出来事に対して用いることが出来る理性 が、諸器官を統括してわれわれを動かすというこ とは、機械にはできっこない、とする。 46 自動書記ができる18世紀のオートマトン 47 動物機械論 • 人間は、さまざまな言葉を配列し、そこから一つの 話を組み立てて、自分の考えを人に分からせること ができる。 • 動物は、言葉を発することはできても、自分が何を 言っているのかをはっきり意識して、話すことはで きない。 • ということは、動物も、自動人形と同じで、理性を 持たない。 48 動物機械論 • デカルトは、動物が「理性」をまった く持たないとする。 • そして、動物は機械であり、理性を持 つ人間と区別される、と考えた。 • これが、「動物機械論」である。 49 心身二元論 • • 人間のみが、理性的精神を持つ。 精神は物質の力から引き出されえず、特別に創 造されたもの。 • 人間の精神は、身体からまったく独立した本性 を持つ。 • 精神は、身体と共に死なない。精神は不死であ る。 50 デカルトの娘 • • フランシーヌ(Francine)1635-1640 デカルトと家政婦のあいだに生まれた娘。デカルト は 愛したが、幼くして亡くなった。形見として、 娘の自動人形を作らせたという。 • デカルトは1650年、肺炎で亡くなったとされる。彼 の遺品を乗せたフランスへの船は、北海に沈んでし まい、現在なお見つかっていない。フランシーヌ は、まだ北海に眠っているのだろうか。 51 アンケート • 人間と動物を見分けるには、どうした らよいだろうか?考えられる手段やテ ストを考えてみよ。 52 参考文献 原典 デカルト『方法序説』第5部 1)二次文献 (1)伊藤邦武『物語 哲学の歴史』第二章、 102-132頁 (2)金森修『動物に魂はあるのか』第2章 (3)佐藤康邦『哲学史における生命概念』第3章 (4)木村陽二郎『原典による生命科学入門』第4章 (5)下村寅太郎『レオナルド・ダ・ヴィンチ』 53