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野村茂雄(核燃料サイクル工学研究所 所長)
Features 読者の皆様へ 先端基礎研究センターでは、 「センタービジョン」(参照:http://asrc.tokai-sc.jaea.go.jp/index.html)に基づいて、日 本原子力研究開発機構の特徴(物的・人的資源)を生かした「原子力」に関する先端基礎研究を目指しています。 「巻 頭言」では、核燃料サイクル工学研究所 野村茂雄所長による原子力の技術開発の立場から期待する「先端基礎研究」 についての提言を掲載しています。前号から新たに掲載がはじまったサイエンスライターによる「Interview」記事では、 先端性の高い最近の研究成果と今年度発足した新しいグループをわかりやすく紹介しています。研究者が研究成果を解 説する「Notes」は、 「用語の説明」を加えるなど、本センターにおける最先端の研究内容を多くの皆様に理解してい ただけるよう工夫しています。 「研究短信」では、国際会議の参加報告をとおして、最新の情報をお届けします。また、 多彩な話題を提供する「談話室」では、 今回、 客員研究員のエッセイと外国人若手研究者による滞在記を掲載しています。 本センターの研究活動のみならず、研究員の“顔”をお伝えするメディアとして、「基礎科学ノート」に親しんでいた だけることを期待しています。皆様からのご意見・ご感想等をお送りいただければ幸いです。([email protected]) 2007 年 9 月 基礎科学ノート編集委員会 西中 一朗(幹事) 中川芙美子 徳永 陽 鹿園 直哉 熊田 高之 西尾 勝久 立岩 尚之 北條 喜一 Interview P2 超ウラン元素のフロンティアを探索する 芳賀 芳範 東北大学と JAEA の共同研究グループは、ネプツニウム化合物として世界初の超伝導体を発見しまし た。物質科学のフロンティアである超ウラン元素研究の最先端を紹介します。 P6 放射線作用基礎過程研究グループが目指すもの 勝村 庸介 2007 年 4 月、物理学・化学・生物学の視点から放射線作用を探る放射線作用基礎過程研究グループが 誕生しました。新グループ発足に当たり、勝村グループリーダーに抱負を聞きました。 Notes P10 固体パラ水素を用いた H6 +イオンの電子スピン共鳴分光研究 熊田 高之 固体パラ水素マトリックスを用いた高感度・高分解能電子スピン共鳴分光法により、H6+ イオンとそ の同位体置換体の分光学的観測にはじめて成功しました。本成果は、質量 3 以上の水素イオンは全て H3+ とその複合体であるという、従来の考えに一石を投じるものであります。今後、H6+ にまつわる、新 たな水素原子化学反応、放射線化学、天文化学、核融合等の研究が期待されます。 P14 集光型中性子超小角散乱装置の開発とセルロース生産バクテリアのその場観察への挑戦 橋本 竹治 ソフトマターが内蔵する階層構造のその場観察を可能にする集光型中性子超小角散乱装置を開発しま した。その応用例として、セルロース生産菌(酢酸菌)の 0.1nm-10μm にわたる階層構造の横断的観察 に挑戦し、本方法を用いた新しい研究展開が可能であることを示しました。 P20 Se-Te 半導体における超重力場下での原子スケールの傾斜構造形成 小野 正雄 極限環境場(超重力場)を用いた物質創成を目指した研究です。2 成分半導体 Se-Te にて原子スケー ルの傾斜構造を形成しました。バンドギャップ値が連続的に変化する傾斜機能材料を実現しました。 Preface 巻頭 言 原子力技術開発と先端基礎研究 野村 茂雄 核燃料サイクル工学研究所長 Shigeo Nomura Nuclear Fuel Cycle Engineering Research Institute 周知のとおり、科学的、工学的進歩は、それらの源流に当たる重 要な発見、発明を原動力に、非連続的に生まれる場合が多い。湯川 博士がノーベル物理学賞の受賞式典から帰国された折、色紙に書か れた言葉「量」は、 今日の世界を支配する根源的な基礎概念であるが、 これをベースに実用の世界まで展開する組み合わせには、天文学的 ‘可能性’が秘められている。しかし開発、実証、実用化のプロセス で、こうした可能性の多くが排除され、最後まで生き残るものは限 られる。ここに研究開発の難しさがあると考える。この過程は、シー ズとニーズの融合でもある。価値ある結果を生み出すには、着眼点 や方法論が重要で、有限の時間内での挑戦と地道な努力、時には運も見方につける必要があることを、歴史 は教えている。 最近、社会的ニーズの多様化が進み、研究開発分野でも切り口を変えた新たな発想、対応が必要となる。 エネルギーは、あるものをどんどん使えばいい時代ではなく、環境に負荷をかけないで、持続的に利用でき るものが求められるようになってきている。原子力は有望な選択肢であるが、利用され始めて 50 年、主要 な概念は昔の教科書にかかれたものが多い。燃料サイクルやバックエンド分野の課題は、依然深刻である。 我国の燃料サイクルは産業としてウランからプルトニウムにようやく踏み出そうとしている段階にある。放 射性廃棄物は負の遺産として、厄介で危険とする発想から抜けきれず、単に分別処分する以外、ほとんど手 付かずである。国際舞台では、原子力発電が現状の 400 基からアジアを中心に 1,000 基に展開する壮大な計 画が議論されているが、年間約 2 万トンの使用済燃料が出てきて、行き先に困ることになる。不都合な課題 を避けたままでは、とても原子力ルネッサンスは実現しない。原子力は科学工学の総体からなる巨大技術で あり、その慣性力は大きい。これまで技術的改良が王道ではあったが、このままでは限界が見えている。英 知を集結し、多様なニーズを満たす革新的な科学技術で、課題を解決すべきである。 原子力機構には、ほぼ全分野の基本インフラと人材が備わっている。これら「場のアドバンテージ」を最 大限利用することで、先端基礎研究がもつ‘可能性’を具体的に検討、評価できる環境にある。先端基礎研 究側と技術開発側との融合により、原理原則に基づく基礎研究から画期的な新技術が創生できるよう、目的 の共有化、人的交流を積極的に進めることが不可欠である。50 年先を見越し、原子力エネルギー分野の課題 を正面から解決できる価値あるブレークスルーは、先端基礎分野がそのキイを握っている。 基礎科学ノート Vol.15 No.1 September 2007 1