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動画像を用いた歩行運動の特徴量抽出による 統計的歩行評価

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動画像を用いた歩行運動の特徴量抽出による 統計的歩行評価
動画像を用いた歩行運動の特徴量抽出による
統計的歩行評価
Statistical Gait Analysis by Extraction of Walking Features from the Movie Data
経営システム工学専攻
1
はじめに
人間動作の研究は,工場における人員配置やス
ポーツマネジメントなど,人間の動作が結果に大き
く影響を及ぼす分野で重要な役割を果たしている.
また,より人間に近いロボットの設計にも必要で
ある.統計的扱いとしては Ramsay & Silverman
(1997, 2005) では関数データ解析的なアプローチ
がなされ,そのなかでもレジストレーションの問
題は,大きく取り上げられている.また,Alshabani et al. (2007) や Faraway et al. (2007) では,
手の軌跡について統計的アプローチによって解析
を行っている.
これまでの研究は,主としてモーションキャプ
チャシステムなどの精度の高い測定をベースとし
てきたが,実験室環境が必要であるだけでなく,被
験者の負荷により不自然な動きとなることも問題
点として指摘される.
それ故,モーションキャプチャシステムより簡易
に計測や解析のできるの映像分析ツールを用いた
動作分析も行われている.しかし,それらの機能
は,模範的な動作との比較がほとんどである.ま
た,幾つかのソフトでは,実際に数値的な要素を
測定することが可能であるが,測定可能な動作に
制限がある.
それらの制限の代表的なものとしては,映像上
の対象の拡大という要素を含む動作である.例え
ば,観測対象が同じ動作を繰り返した場合,同じ
場所での動き,あるいは対象が拡大してこない動
きであれば,対象の観測値は定常的に変化し,そ
のままのデータとして活用できるが,対象が近づ
いてくる映像の場合,映像上の観測値が増大し,本
来の動きをみることができない.
これらの問題に際し,大草・鎌倉・村上(2008)
によって提案された手法では,統計的手法により
大草 孝介
Kosuke Okusa
映像上の対象の拡大という要素を含むデータから,
本来の動きを推定する方法を提案しており,実際
にその結果から得られた個々の歩行の違いから,こ
の手法が歩行の評価にも応用可能である可能性を
示している.
本報告では,大草・鎌倉・村上(2008)の手法
を元に,歩行運動の特徴量を算出し,その結果に
対して統計的比較を行い,歩行の評価を行う手段
について論じる.
2
解析方法
ビデオカメラで撮影された映像では,センサー
などによって計測された情報と違い,対象以外の
背景なども含まれてしまう.そのため,対象の移
動情報の抽出が困難となるので,はじめに背景か
らフレーム間差分法を用いて動作対象の抽出を行
い,大草・鎌倉・村上(2008)の補正手法によっ
て,対象の移動や拡大などによって変化する観測
値の補正を行った.
2.1
フレーム間差分(Temporal Differencing)
フレーム間差分法は時刻 t と時刻 t − 1 の画像
の差分により移動物体を検出する手法である.一
般的にフレーム間差分は次式により求められる.
∆t = |It − It−1 |
(1)
ここで, It は現在の画像とし, It−1 は 1 フレー
ム前の画像とする.移動物体の移動速度が遅い場
合,1 フレーム間では変化が少ないので,n フレー
ム前までの画像と比較することによって,フレー
ム間差分の計算を行う場合がある.
急激な輝度値の変化がピクセル上に生じたとき,
変化量 ∆t の値は大きくなる.ここでピクセルの
状態を表す B は輝度の値にある程度の閾値 T h を
もうけさせることによって,0と1で判別を行う
ことが可能である.
たとえば,時点 t でのピクセル座標 (u, v) にお
ける閾値 T h の時の0と1の判別は,以下の式で
表すことができる.

 1 (∆ (u, v) > T h)
t
Bt (u, v) =
 0 (Otherwise)
図2より,第 i フレーム目のスクリーン上の yi
の大きさは, θi に依存している.ここで, yi は
yi = ℓ0 tan θi
観測値の補正手法
観測値の補正法には,大草・鎌倉・村上(2008)
の手法を用いる.フレーム間差分によって抽出さ
れた対象の動作情報を, 撮影された映像解像度
である 640 × 480 の行列として捉え,それを列方
向に加算することにより,対象の長さ情報を算出
した.
得られた長さの情報には,対象の拡大要素が含
まれており,その補正が必要となってくる.この
補正には,画面上から得られる情報のみで補正を
行うことになる.
簡単のため,カメラで観測された観測点から対
象を見たとき,そこにスクリーンがあると仮定し,
そこに映る対象の長さを観測値とする.
長さの情報を用いた時,i 番目,j 番目といった
フレーム番号に対する,対象物の長さのスクリー
ン上の観測地を yi , yj としよう.全体の関係を表
すと,図2のようになる.ここで, ℓi , ℓj を観測
点と対象の距離, ℓ0 を観測点と仮想スクリーンの
距離, θi , θj を観測点から見た i, j 番目のフレー
ム上の対象物の見込み角.d を第 1 フレームから
(3)
で与えられる.また,第 i フレームと第 j フレー
ムの移動対象の長さ L は変わらないものと仮定す
ると,
(2)
上記のような方法によって計算を行うことによっ
て,変化のあるピクセルにおける情報を検出する
ことが可能である.また,今回撮影された映像は
カラー映像であるが,それに対しても単純平均法
や NTSC 加重平均法を用いることによってグレー
スケール化することが可能であり,その処理を行っ
た後に差分をとることによって,移動物体の検出
を行うことができる.
2.2
観測点までの距離 ,v を対象の移動速度とする.
ℓi tan θi = ℓj tan θj = L
(4)
が成立する.また,移動速度が一定であると仮定
した場合,
ℓi = d − vi
(5)
が成り立つので,
(4)式に代入して yi (d − vi) =
yj (d−vj) となり,未知の変数を左辺にまとめると,
jyj − iyi
d
=
v
yi − yj
(6)
となる.仮定より v が一定であるので, d/v が一
定の値になるので,
yj
=
yi
d
v
d
v
−j
−i
= Ci,j
(7)
となり, i フレームのデータを j フレームで比較
するために,補正は yj = Ci,j × yi で補正を行う
ことが可能となる.ここで d/v 値を推定が必要と
なるので,次節でその d/v の推定法を述べる.
2.2.1
d/v 値の推定
我々は課題となる未知の値である d/v 値の推定
を,v を一定にした場合の算術平均と非線形最小
二乗法による手法で推定を行った.
算術平均 算術平均による推定では,
(6)式の d/v
の全ての組み合わせを算出することによって,
1 ∑ ∑ jyj − iyi
d
= (n)
v
yi − yj
2
n
n
i=1 j=1
として, d/v を推定する.
(8)
非線形最小二乗法 非線形最小二乗法による d/v
の推定では,
(3)
(4)
(5)から導出された(9)式を,
非線形最小二乗法によって解くことにより, d/v
値の推定を行う.
n {
∑
S(β, γ) =
yi −
i=1
β }2
γ−i
S(d/v, β0 , β1 , β2 , β3 ) =
n {
d
}2
∑
−n
yi − vd
(β1 sin(2πβ2 i + β3 ) + β0 ) (14)
v −i
i=1
(9)
ここで, γ = d/v , β = L/dγ である.初期
値の与え方によっては γ の値によって収束しない
こともあるので,慎重に検討した結果,γ の値に
は算術平均のアプローチで得られた d/v の推定値
を用い,β に関しては比較的ロバストであるので,
yi の平均値を用いた.
提案する手法によって補正された結果が図3で
ある.破線が平均値を d/v として算出した結果で
あり,点線が非線形最小二乗法による推定された
値を d/v として算出した結果である.各補正手法
によって多少の違いは見られるものの,全体的に
うまく拡大してくる成分を補正できていることが
分かる.
3
に近いものであると仮定すると,対象の長さの変
化は,Li = h × sin(x) + w となり,ここで h は振
幅,w は最終フレームの幅である.これらを(13)
式に当てはめ,モデルとして表現すると,
速度一定とした場合のモデル化
となる.但し β0 は最終フレームの幅,β1 は対象
の振幅,β2 は動作の周波数 1/T ,β3 は sin カーブ
の位相である.
こ こ か ら ,非 線 形 最 小 二 乗 法 に よって
d/v, β0 , β1 , β2 , β3 の各値を求めることで,個々の
歩行動作のモデル化が可能である.
初期値の与え方によっては結果が大きく変わっ
てしまうので,検討を重ねた結果, β0 には観測
値の最終フレームの値を,β1 には非線形最小二乗
法による補正した後の振り幅の値を,β2 には見か
けの動作の周波数の値を,β3 には π の値を用い
た.当然のことながら個々の歩行の特徴は違うた
め,求められる各値は一人一人異なることになる.
以下の結果は,実際に適用してみた結果であるが,
非常に当てはまりの良い結果になっていることが
分かる.
歩行速度を一定と仮定したとき,その関係は
0
4
yi = ℓ0 tan θi
(10)
Li = ℓi tan θi
(11)
1
0
2
1
0
h
0
として表現できる.これらの式を組み合わせると
t
d
1
i
w
0
ℓ0
yi = Li
ℓi
8
(12)
0
6
として表現することが可能である.ここで Li は対
象の i 時点での長さである.
(5)式を元に ℓ0 の時
は i が最終フレーム n の位置に来ているとすると,
ℓ0 = d − vn となり,ここから(12)式は
yi =
d
v −n
Li
d
v −i
0
2
0
4
0
I
n
6
d
e
0
8
0
x
図 3: 速度一定のモデルで計算した結果
(13)
として表現可能である.
対象の長さの変化が周期的に変化するものとす
ると,Li は周期関数として表現できる.sin カーブ
4
特徴量の統計的比較
各歩行データの d/v, β1 , β2 の推定値を元に,歩
行状態の特徴量の比較を行い,歩行の特徴量の比
較を行う.尚,β0 , β3 に関しては,撮影開始時点や
フレーム内での対象の占める割合によって変わっ
てきてしまうので,対象としては外す.
以下の図 4 と図 5 は,歩行の周期の逆数と,長
さの振幅をプロットしたものである.縦軸が前者,
横軸が後者となる.図 4 が被験者の通常歩行の場
合の結果であり,図 5 が被験者が速歩を行った場
合の結果である.
1/T
0.06
0.08
0.10
0.12
0.14
k-SVM classification
4
2
6
8
10
12
また, ▲ は歩行の異常が外見上で見られない成
人を対象に補正を行った結果を示している.
図から正常歩行と異常歩行の間には何らかの境
界線が見られ,また移動速度が速くなると,その
境界線がはっきりすることが見て取れる.これは
歩行時に速く歩こうと腕の振りなどを大きくする
ために,歩行時のバランスが何らかの理由で崩れ
てしまい,正常歩行と異常歩行の境界線がよりはっ
きりしたものと推測される.
また,図から見て分かるとおり,成人の歩行デー
タの多くは全て正常歩行の識別領域に入っており,
映像中からも異常歩行と見られる被験者は老人の
歩行者とは違いなかったことから,この結果は妥
当なものであると考えることが出来る.
また,同一人物の歩行映像について解析を行っ
た見たところ,両者の特徴量は非常に近い位置に
存在しており,このことから,歩容認証技術など
への応用も考慮に入れることが可能なのではない
かと考えられる.
14
amplitude
図 4: 各パラメータと k-SVM を用いた結果:通
常歩
0.14
k-SVM classification
参考文献
[1] Alshabani, A.K.S. & Dryden, I.L. & Litton, C.D. & Richardson, J. (2007).Bayesian
analysis of human movement curves. J. R.
Statist. Soc. C.56, 4, 415–428.
0.10
0.12
[2] 江原義弘 (2006).人間の歩行 ロボットの歩
行,計測と制御.45, 12, 1018–1023.
0.04
0.06
0.08
1/T
[3] 大草孝介・鎌倉稔成・村上秀俊 (2008).
動画像に基づく移動オブジェクトの大きさに
関する統計的レジストレーション – 歩行動画
像への応用,
(投稿中).
4
6
8
10
12
14
16
amplitude
図 5: 各パラメータと k-SVM を用いた結果:速歩
プロットの ○ と ● は老人の歩行を対象に補正
を行った結果を示している.これらのデータは第
三者によって正常歩行と異常歩行の判断が下され
ており, ○ は非正常な歩行と判断された人物を
示し, ● は正常な歩行と判断された人物を示す.
[4] Faraway, J.J. & Reed, M.P. & Wang, J.
(2007).Modelling three-dimensional trajectories by using Beizier curves with application to hand motion. J. R. Statist. Soc. C.
56, 4, 571–585 .
[5] Ramsay, J. & Silverman, B.W. (1997). Functional Data Analysis, Springer.
[6] Ramsay, J. & Silverman, B.W. (2005). Applied Functional Data Analysis, Springer.
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