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[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが間違っているのかな?!』 第 9 回

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[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが間違っているのかな?!』 第 9 回
[アイディ英文教室連載コラム]
『どこが間違っているのかな?!』
第 9 回『キス・キス』(開高健訳) 形容詞編
2015 年 11 月号
その III
柴田耕太郎
10 年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。
一字一句精読し、市販訳(早川書房版)と比べてゆくのである。
このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて
読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても
苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけ学習者に裨益しようと、当欄の姉妹
コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう
複雑でないものを選んで解説してゆく。5 作品集×12 品詞として計 60 回。5 年かかるだろ
うが、辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただけ
れば幸いです。
①『暴君エドワ-ド』より
(ⅰ)原文と市販訳:
‘You’re not ill, are you, Louisa?’
「お前はまさか病気じゃないだろうね、ルイザ?」
背景:
更年期らしき妻が不可解な言動をするのに、業を煮やした夫の発言。
ヒント:
ill は意味範囲が広い。私などいつも具合が悪いが、病気ではない。若い頃は「怠け病」と
言われた。
解説:
ill は狭義では「病気」だが、広義では「体の具合がよくない」
。ここは、妻を慮って、ある
いは呆れて、あるいは揶揄して、いやそうした気持ちが全部混ざっているのだろう。
元訳でも間違いではないが、もうすこし意味範囲を広くとったほうが会話としてよさそう。
修正訳:
君、具合でも悪いのかい?
(ⅱ)原文と市販訳:
‘We’ve been having too many of these scenes just lately, Louisa,’ he was saying. ‘No no,
don’t interrupt.
Listen to me. I make full allowance for the fact that this may be an
awkward time of life for you, and that…’
「おれたちは、このところ、こんなことばかりくり返しているね、ルイザ」と彼はいって
いた。「いやいや、だまっててくれ。おれのいうことも聞いてくれ。こういえばきみにいや
な思いをさせるということは、こっちだって百も承知なんだ、それに・・・」
背景:
つまらないことでの諍いが日常化している、初老の夫婦。
ヒント:
どこから「いやな思い」との訳がでてくるのか。
解説:
この an awkward time of life とは、女性の更年期のことだろう。
修正訳:
君がいま、たいへんな時期にいるのは
(ⅲ)原文と市販訳:
She was only a fair cook, and she couldn’t be sure of always having a soufflé come out
well, but she took extra trouble this time and waited a long while to make certain the
oven had heated fully to the correct temperature.
ただ彼女の料理の腕前は相当なものだった。スフレがうまくできあがるかどうかは、かな
らずしも自信がなかったものの、今日は苦心に苦心を重ね、長い時間をかけてオヴンの火
が適度の温度でまわっているかどうかをたしかめた。
背景:
家に入ってきた迷いネコを、妻は名作曲家の生まれ変わりと思い込み、彼のために手料理
を振る舞おうとする。
ヒント:
英語の成績で fair とあったら嬉しいですか?
解説:
fair は「まあまあの」
。Only は
a fair cook を強調する副詞「まずもって、まさに、それ
こそ、ほんの」などを文脈に合わせ、適宜採用する。
修正訳:
腕前はそこそこでしかない。
(iv) 原文と市販訳:
Unskilled labourers
不熟練労働者
Those in the Path of Initiation
創造者
背景:
妻が読んでいた、輪廻・生まれ変わりの本にある記述。
ヒント:
前のは、日本語としておかしくないか。後のは、initiation の意味を広げ過ぎているのでは。
解説:
「不熟練」とはふつう言うまい。 initiation は(1)入門 (2)秘法の伝授。ここは(2)で受身の
意味(秘法の伝授を受ける途上にある人)だが、ここはもっともらしい位階が列挙されて
いるところなので、元訳ほどでないが少し意味をずらせた方が読んでいて面白いかも知れ
ない。
修正訳:
未熟練労働者、解脱者
②『豚』より
原文と市販訳:
They had known her for two days, that was all, and had a thin mouth, a small
disapproving eye, and a starchy bosom, and quite clearly she was in the habit of
sleeping too soundly for safety.
二人があの女と暮らしたのはたった二日、たったそれだけ、知っていることといえば、薄
い唇、それと認めがたいような小さな眼、骨ばった胸、それに、ぐっすりと実によく眠る
女だということぐらいだ。
背景:
若夫婦が派遣ベビ-シッタ-に新生児のお守りを委ね、遊びに出かける。帰宅したところ
当のベビ-シッタ-は眠り込んだのか、いくらベルを鳴らしても出ない。二人は不安にか
られてくる。
ヒント:
自動詞の現在分詞形の形容詞か、他動詞の現在分詞形の形容詞か?
解説:
英和辞書を引くと disapproving: 形容詞「不満の、不賛成の」とある。『
「小さな不賛成の
目」
・・・「小さな目に対し人が不賛成である、ということか」
・・・「小さくてよく見えな
い目」ということだな。』そう考えて「それと認めがたいような小さな眼」との訳にしたの
だろう。現在分詞形の形容詞は誤訳の元となることが多い。辞書にでている意味があいま
いだからである。おっくうがらずに、次のように考えるくせをつけるとよい。
(1)他動詞の現在分詞系の形容詞は 「人を・・・させる(する)
」
例: an interesting person(人≪自分も含まれる≫を面白がらせる人 ≪当人≫→≪自分
を含めた一般の人にとって≫面白い人)
(2)自動詞の現在分詞形の形容詞は「・・・している」
例:a sleeping baby (眠っている赤ん坊)
disapprove には自動詞と他動詞両方があるが、ここは他動詞(her eye disapproves others:
彼女の目は他人を認めない、と読める)だから、直訳すれば「小さな、他人を好ましく思
わない目」。ついでに eye が単数なのは、単数で全体を示す代表単数の使い方。別に、片眼
なわけではない。too ~ for O は「(人・事)にとって~すぎる」
例: too beautiful for words (言葉にするには美しすぎる→美しすぎて言葉にできない)
修正訳:
いつも文句がありそうな小さな眼
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