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福岡臨海工場余熱利用施設(タラソ福岡) 整備事業について
資料3 福岡臨海工場余熱利用施設(タラソ福岡) 整備事業について 「タラソ福岡の経営破綻に関する調査検討報告書」より 1.事業概要 ○ 福岡市のごみ焼却処理施設「臨海工場」の整備の後,ごみ焼却に伴って発生する熱エネ ルギーによる発電から得られる電力を有効に活用し,温海水を利用するタラソテラピー, 運動施設,地域コミュニティの交流促進等の機能を備えた「福岡市臨海工場余熱利用施 設」を整備し,施設の運営・維持管理をする。 <事業方式> BOT方式 ○ タラソ福岡が,資金調達, 施設の設計・建設, 運営・維持管理 を行う。 福岡市 施設無償譲渡 (運営期間終了後) 土地の無償貸与・電気の無償供給 サービス提供料の支払い 貸出 金融機関等 サービスの提供 タラソ福岡 返済 <事業スキーム> ○ 独立採算型(利用者からの料金収入)と サービス購入型(市からのサービス提供料) を組合わせたミックス型 出資金 代表企業等 施設利用者 利用料金 配当等 1.事業概要 ○ 事業コンセプトは「健康・運動・交流」。温海水利用の水中運動プールを中心とした「健 康増進ゾーン」と地域交流の促進を目的とした「コミュニティーゾーン」から構成される複 合施設として整備。 <供用開始当初の機能> 健康増進ゾーン :プール,スポーツサウナ,アンジェ,ジムスタジオ コミュニティーゾーン:ふるさと交流館 <施設外観> <施設内部> 等 2.PFI事業の経緯 平成12年3月 事業方針の公表 平成12年5月 特定事業の選定・募集要項等の配布 応募者の募集期間は2週間で,応募は2グループのみ 平成12年11月 優先交渉権者の決定 平成13年2月 事業契約締結 平成14年4月 施設供用開始 初年度利用者数10.9万人(事業提案時 利用者当初見込み24.7万人) 初年度総売上額 2.1億円(事業提案時 総売上額見込み4.4億円) → 初年度決算では約6,000万円の最終損失を計上 平成15年7月 施設リニューアル タラソテラピーに加えマシンジムやスタジオを増設,一般プールを改修 し,フィットネス部門の強化を図る。 2.PFI事業の経緯 平成16年1月 市に対するSPC(運営会社)からの収支悪化懸念の報告 利用者から徴収する施設利用料について基本料金を含め自由裁量により変 更できるように,契約内容の変更を求める申し入れ。 市は事業者公募の際の条件変更となるため基本料金については承諾せず。 → 当該年度決算では,総売上額2.2億円,1.2億円の最終損失を計上し, 債務超過に陥る。 平成16年3月 SPCの代表企業の破たん 平成16年11月 施設閉鎖 平成17年2月 新SPCへ施設譲渡 平成17年4月 事業の再開 平成17年5月 福岡市PFI事業推進委員会において「タラソ福岡の経営破綻を越えて ∼PFI事業の適正な推進のために∼ タラソ福岡の経営破綻に関する 調査検討報告書」を発表 3.事業者の経営破たんと事業中断の原因 ① 需要リスクに関して ・ 当該事業は,民間事業者が負う需要リスクの割合が民間事業者の提案するサービスの 提供料の価格に連動して変動するスキームであったが,当該リスクへの備え及びその備 えを行うための意識が十分でなかった。 ・ 提案審査段階において,民間事業者のリスク処理能力を客観的に審査する仕組みに不 備があった。 ② 事業推進時の市の行動 ・ 予定された時期に施設供用を開始するために,時間的な余裕がなく,事業手法やスケ ジュールの見直しや別の手法の採用等,柔軟に対応する姿勢が欠如することとなった。 ・ 事業推進部局が一貫してすべての事務手続きを担い,福岡市内部で十分な相互確認機 能がなかった。 <需要リスクに関して(補足)> タラソ福岡の主たる収入は,福岡市からの「サービス提供料」と利用者からの「利用料 金」の2つ。 事業者が提案するサービス提供料の価格が低い場合,安定的な収入であるサービス提供 料が減少するため,民間事業者が負う需要リスクの割合が高まる。 3.事業者の経営破たんと事業中断の原因 ③ 経営破たん時の具体的な対応策の事前検討の不足 ・ 施設のサービス水準維持に関するモニタリングシステムは存在したが,財務面で事業 継続が困難となる危険性に関して対応可能なシステムとなっていなかった。 ・ 民間事業者の経営悪化時に想定していた,融資者の事業介入や市の施設の買取による 事業継続についての具体的な手続きや,事業中断なく事業者を変更する方策の検討が不 足していた。 ④ PFI事業におけるプロジェクトファイナンスの役割 ・ 本事業では,融資者が「市による施設の買取価格の金額で回収可能な範囲」でしか融 資を行わず,プロジェクトファイナンスにおいて融資者に期待される役割(事業の経済 性や民間事業者の事業遂行能力・信用力の審査)が機能する前提が欠如していた。 ・ 市は,融資者が事業の経済性,事業遂行能力・信用力の審査を行うという期待,ある いは経営悪化時には事業に介入するであろうという期待を抱き,タラソ福岡の経営悪化 について迅速な対応ができなかった。 <プロジェクトファイナンス> プロジェクトの資金調達において,返済原資をその事業から生み出されるキャッシュフ ローのみに限定するファイナンスの手法。担保は当該事業に関連する資産に限定され,原 則として,プロジェクトを実施する親会社の保障等はとらない。 【参考】三菱UFJリサーチ&コンサルティング レポート 1.タラソ福岡における破綻の「表層的な」原因 ○ 来館者の「予測」と「実績」の大きな差異 ・ タラソ福岡に関しては,2回の来館者予測が実施されている。 1回目 1999年度 福岡市マーケティング調査 タラソテラピー施設利用者についてのデータの蓄積がなかったことから,同施設の 潜在需要となりえる関連需要(プール,フィットネス)をもとに需要予測を行い,年 間施設利用者を「10万人」と見込む。 2回目 2000年度 代表企業グループマーケティング調査 タラソ福岡の年間利用者数を一般のフィットネスクラブにおけるデータから推計 し,「24.7万人」と予測。 ○ 来館者の見込み違いによる事業主体の赤字 ・ 来館者の「予測」と「実績」の大きな差異は,結果としてタラソ福岡の赤字を引き起 こした。 <初年度実績> 利用者数10.9万人 (事業提案時 利用者当初見込み24.7万人) 総売上額2.1億円 (事業提案時 総売上額見込み4.4億円) 2.タラソ福岡における破綻の「本質的な」原因 ① 需要リスク移転のパラドックス ・ 「需要リスク移転のパラドックス」が発生していたものと推測される。 ② 民間事業者の参画意欲が十分に喚起されずに競争原理も機能不全 ・ タラソ福岡は,隣接する臨海工場「グリーンパーク臨海」の開業から速やかに開業す ることが求められていたため,民間事業者の応募期間はわずか2週間しか設定されてい なかった。 ・ 十分な応募期間が設定されていれば,より現実的な評価のできる民間事業者が複数参 加したかもしれず,その場合には,「事業者の需要予測は他社と比較して甘いのではな いか」という比較・評価を行うこともできた可能性もある。 <需要リスク移転のパラドックス> 需要リスクをPFI事業者に対して全面的に移転した場合において,需要リスクに関 して現実的な評価のできる民間事業者は応札しない,または,より確実で低めのVFM を提示するために競争力を欠くことから,結果として,事業リスクに甘い事業者が選定 されてしまうこと。 2.タラソ福岡における破綻の「本質的な」原因 ③ 事業主体による自律的な経営に対する裁量の欠如 ・ 平成16年1月にSPC(運営会社)から福岡市に対し収支悪化懸念の報告を行った 際,利用者から徴収する施設利用料について基本料金を含め自由裁量により変更できる ように,契約内容の変更を求める申し入れを行ったが,市は事業者公募の際の条件変更 となるため基本料金については承諾しなかった。 ・ 料金の変更に関しては,公共サービスの提供という観点から慎重に判断すべき事項で はあるので,福岡市の決定そのものは正しい判断であったと考えられるが,施設使用料 を自由に決定できる裁量が民間事業者に委譲されていたら,経営破たんは回避できた可 能性は否定できない。 ④ 事業のサービス品質や事業者自身に関する不十分なモニタリング ・ 「3.事業者の経営破たんと事業中断の原因 ④ PFI事業におけるプロジェクト ファイナンスの役割」と同様