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公民学習 「世界平和の実現をめざして」 に おける地図帳の活用について 兵庫県公立中学校教諭 下、地図帳)を活用する場面を設定した。 第1時 国家と国際社会 教師「地図帳p.1〜3を見なさい。南極大陸が白 く表現されているのはなぜだろうか?」 生徒「雪と氷におおわれているから? どこの国 の領土でもないから?」 はじめに 教師「凡例の注に、白い部分は国の領有が決まっ 中学3年生の公民学習は、社会科で学んできた ていない地域、と書いてある。また、未確定の国 内容を総合する学習でもあり、 『社会科 中学生の 境・係争中の国境(p.4の凡例)というものもある。 公民』 (以下、教科書)の第4部「私たちの暮ら 南極大陸のほかにも探してみなさい。」 しと国際関係」は、とりわけその意味合いが強い。 作業の結果、西サハラ、エジプト・スーダンの 主として地理授業において用いてきた地図帳には、 国境、インド・パキスタン・中国の国境、南樺太・ 3年生だからこそ理解できる情報も数多く含ま 千島列島などが挙げられるであろう。本時ではそ れ、公民の授業においてもぜひ活用したいもので のなかから千島列島に注目させ、p.163「日本の ある。今回は「世界平和をめざして」の単元の各 位置とまわりの国々」で日本の領土と国境を確認 授業における導入として『中学校社会科地図』 (以 したうえで、国家の領域などのルールも含む国際 法について学習させる。北方四島、竹島などの領 NAVIGATION 地図活用 土問題や尖閣諸島などの政治問題についても、地 図を参照しながらしっかりと理解させたい。わが 国の主張のみならず、p.29〜30「①東アジアと日本 において、歴史や地理学習との関連性が見えにく く、繰り返しての学習が困難であった。『社会科 中学生の公民』(以下、教科書)には、「地理・歴 史をふりかえる」コーナーが設けてあり、社会的 「環境問題」 における 地図の活用実践例について 佐賀市立城北中学校 田中 学 な問題の背景にある地理的、歴史的な要因を捉え 直しながら、学習が進められるように工夫されて いる。ぜひ、有効活用したい。 2、単元構成 本稿では、環境問題において、地図を有効活用 1、はじめに する。活用のねらいは、グローバルな視点での思 公民的分野の最終単元は小論文作成 考を促すこと、既習知識の想起と活用である。地 3年生に卒論として、小論文を書かせたい。 図の活用で、自分と地球環境問題との関連づけや そのためには、公民的分野では社会的な問題に 思考の広がりをねらう。 ついて討論し、みずから提言する経験をつむこと 教科書の「環境問題」の単元を見ると、1地球 が大切になる。下支えする力は、社会的な問題に 規模の環境問題、2国際的な対応策、3環境問題 気づく力や問題の歴史的、地理的要因をつかむ力、 の社会的な背景、4日本の取り組みに分けられる。 政策などを吟味し、自分なりの考えを提言する力 まとめの学習では、自分をふりかえり、生活レベ である。これらの能力や解決のために必要な知識 ルで提言するようになっている。 は、1、2年生の地理的分野や歴史的分野におい 3、実際の授業について て育てることができる。しかし、とくに知識の点 30 (1)学習課題づくり −大陸から日本を見わたす地 地 理 図−」を活用して対立してい る相手国の主張も紹介しなが ら、解決への方策を考えさせ 歴 史 る展開も可能であろう。その 際、過去の領土問題の解決例 (マレーシアとシンガポール 上:『中学校社会科地図』p.1〜4、下:p.35 が国際司法裁判所に付託して解決した2008年の事 そのほか、p.41「② 例など)を紹介することを通じて、国際司法裁判 ヨーロッパの国境の変 所の存在と役割について学ばせることもできる。 化」を用いて、歴史学 第2時 今なお解決しない紛争 習をふりかえりながら、 教師「地図帳p.1には、イスラエルはエルサレム 民族紛争の例としてバ を首都として宣言していますが国際的な承認は得 ルカン半島問題やユー ていません、という注もある。イスラエルの首都 ゴスラビア紛争につい が認められていないのは、なぜなのだろうか?」 て扱うこともできる。 地図帳p.35「②イスラエル・パレスチナ」を示し、 第3時 軍縮の動きと 未確定・係争中の国境に注目させる。補足資料な 新たな問題 ども用いてパレスチナ問題の原因や経過を紹介し、 教師「以前に調べた、 紛争の背景の複雑さと解決が困難な理由について 領有が決まっていない 理解を深めさせたい。 地域・未確定の国境が 教科書p.192のホッキョクグマの写真と北極の て、調査し、自分にもできる解決策を提言しよう」 衛星画像より、ホッキョクグマの生息地域が減少 を設定する。 していることを確認する。その原因について、既 公 民 地 図 社会科 (2)学習計画を立てる 習知識をもとに、学習課題を立てる。地図帳p.19 学習計画は、基本的に生徒と教師の話し合いで と教科書p.192で、北極海の海氷の1996年と2007 決める。①調査内容と調査時間②討論の議題③発 年のようすを確認し、チェックペンでその範囲を 表の方法である。①の調査内容は、現状と問題の なぞる。氷床の減少は、地球温暖化が原因であり、 歴史的な背景、日本国内と国際的な取り組みの比 とくに、北極には「残留性有機汚染物質(POPs) 」 較、関連づけ。身近な自治体の取り組みとみずか とよばれる有害な 化学物質が、はる か遠くの発生源 から北極圏へと 集まっているこ と(WWFホ ー ム ページより)を確 認する。環境問題 が自分の生活との 関連が深いことか ら、学習課題「地 球環境問題につい 『中学校社会科地図』p.19 海氷の範囲 :1996年9月 :2007年9月 31 残るインド・パキスタンの両国は、紛争を続ける らに未来の紛争解決や人権保障への道を考えるこ なかで、どんな武器を持つようになったのだろう とへ展開を図りたい。 か?」 終わりに 生徒「核兵器です。核兵器を持っている発展途上 第5時以降の授業においても、以下のような地 国もあるのですね。 」 図帳の活用例が考えられる。 ここでも歴史学習をふりかえりながら、冷戦を ・国連の平和維持活動(PKO)の例を確認する。 背景にした米ソの核開発競争とともに、核抑止の ・各種の地域機構の加盟国を確認する。 考え方により核保有国が増加したことを理解させ ・沖縄県の米軍基地の範囲を確認する。 たい。 ・南北問題を分布図や統計資料により確認する。 第4時 戦争の被害と人権 以上、教科書に取り上げられた題材になるべく 教師「以前に調べた、領有が決まっていない地 沿った形で、地図帳に掲載された各資料の豊富な 域・未確定の国境は、西サハラ、エジプト・スー 情報量を活かす導入の例を紹介した。指導者の授 ダン国境などアフリカにも見られた。p.40の主題 業スタイルによって、授業展開の中ほどで考察さ 図⑤からは、紛争が多発していることも読み取れ せる場面や、まとめの場面で活用することも可能 る。アフリカで戦争が多い原因は何だろうか?」 であろう。 戦争の背景にあるものの多様さ・複雑さについ 生徒たちには、中学校での社会科学習の締めく てより深く学習していく。1、2年生で学習した、 くりにあたり、地図帳を使い尽くしたという実感 民族の境界と異なる国境やモノカルチャーなど、 を少しでももたせたい。また、将来にわたって地 過去の植民地支配に起因する課題のふりかえりか 図を活用して社会の動きを知り、未来の社会をつ ら、不公正な統治と貧困などの現状の追究へ、さ くっていくことの大切さを強調しておきたい。 らが実践する方法の提案とその効果である。調査 ギーの課題から、家庭で取り組む活動の効果につ 報告では、必ず位置を地図帳で示し、明確にさせ いて話し合う。 る。例えば、教科書p.193に環境問題国際会議の 年表がある。開催された場所とその地域に関する 学習のまとめでは、レポートを作成する。レポ 環境問題は関連づけをする。日本ならば、北海道 ートは、学習の過程がわかるように記述させる。 洞爺湖サミット(2008年)の「洞爺湖」の場所を 例えば、学習課題の設定理由、調査結果の報告、 地図帳p.120で確認し、洞爺湖で開催され理由を 調査するなかでうかび上がった問題点とそれに対 自然との共生の視点から解釈する。また、ほかの する自分の考えの記述である。このようなレポー 都市も同様に、位置と環境問題を関連づけて、空 トをさまざまな単元で作成していくことで、最終 間的に認識するようにしたい。 単元での小論文作成につながっていく。 (3)うかび上がった問題点を話し合う 32 (4)学習のまとめを行う 4、終わりに〜地図帳の活用と学習の定着〜 討論をすることで、収束的な思考力を育成する 歴史や地理での学習で得た知識や培った能力は、 ことができる。この単元では、論題を二つ設定す 必ず公民的分野に生きて働く。問題はそれが、授 る。一つは、京都議定書に関しての先進国と発展 業者により意図的に繰り返されるかである。その 途上国の主張の違いである。とくに、中国やイン 点において、地図帳で位置を確認することは、歴 ドの主張は、論理的に整理をさせる。また、先進 史的な背景や地理的な要因との関連性を想起させ 国であるアメリカ合衆国の主張も同様である。そ ることにつながる。もし、その時に知識が不明確 の後、立場討論を行う。二つめは、電力を中心と なら、教科書や資料集などで調べ直せばよい。地 した日本のエネルギー問題である。原子力の安全 図帳で確認するという行為の定着は学習の定着そ 性の問題と日本の電力消費量の関係、自然エネル のものを意味すると考えている。