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連続撮影ビデオ画像を用いた車両走行危険事象分析

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連続撮影ビデオ画像を用いた車両走行危険事象分析
連続撮影ビデオ画像を用いた車両走行危険事象分析
An Analysis of Traffic Conflicts Using Continuous Recording of Vehicular Movements
宇野伸宏*・日吉健至**・飯田恭敬***・有野充朗****
by
Nobuhiro UNO, Kenji HIYOSHI, Yasunori IIDA and Mitsuo ARINO
はじめに
1.
2.
道路交通システムは人流,物流において大きな役
分析対象区間と交通事故発生状況
(1)名阪国道の概要
割を担っており,社会経済活動の発展には欠かせな
名阪国道(一般国道 25 号)は,奈良県天理市と三重
い存在であるが,その一方で,交通事故による人命
県亀山市を結ぶ全長 31.6km の一般国道であり,昭
や財産の損失は少なくなく,大きな問題となってい
和 40 年に供用が開始され,昭和 52 年に全線 4 車線
る.日本の年間交通事故件数は 936,721 件,死者数
化が完成した.規制速度は,60km/h に設定されてい
は,8,326 人に上る(平成 14 年度データ).事故件数
る自動車専用道路でもあり,125cc 以下の二輪車・
は平成 14 年度にわずかに減少したものの,平成 13
自転車・歩行者は通行できない.名阪国道は名神高
年度まで 24 年間連続で増加し続けている.また,事
速道路と共に,関西圏と中部圏を結ぶ東西主要幹線
故原因の約8割が運転者の不注意や操作・判断ミス
道路であり,その東西は高速道路である「東名阪自
などの人的ミスによるものであるという事実からも,
動車道」
「西名阪自動車道」に接続されている.しか
道路交通システムの安全性向上が不可欠であり,そ
し,モーターリーゼーションの進展と相まって交通
のためには,道路線形・道路案内の改善や ITS 技術
量が増加し,さらに,東西の高速道路を接続する道
の有効活用などによって人的ミスそのものを予防す
路であることや急勾配が多いなどの理由で高速走行
るということが望まれる.
車両が多く,交通渋滞や交通事故の増加などが大き
このような事故対策を効率的かつ有効的に施すた
な問題となっている.
めには,事故要因の詳しい分析が必要であり,様々
名阪国道の中でも最も多数の事故が発生するのが
な方法(運転時の視点挙動分析・アンケート調査な
天理東 IC∼福住 IC までのΩカーブ区間である(図
ど)が考えられるが,本研究では,名阪国道のカーブ
-1).特にこの区間の下り線(天理方向)での事故が
区間に連続的に設置されたビデオカメラで収集した
多く観測されているが,この区間では 5%∼6%とい
画像データを用いて車両の軌道解析を行い,走行車
う急な下り勾配が多く連続しており,さらに半径
両の挙動を時間的・空間的に分析し,事故多発時の
200m・300m というドライバーから見れば非常に厳
交通状況に内在する潜在的な危険性を明らかにする.
しいカーブが連続しているという道路線形上の特徴
本研究では特に車両単独の危険性を評価する指標と
を有している.
して車線中心からの走行位置の乖離度,車両の遠心
本研究では,Ωカーブ区間のうちでも中畑地区と
加速度やその変化率といったコンフリクト指標を用
呼ばれるブロークンバックカーブを含む範囲を対象
いる.
とする(図-1 の太枠内).ブロークンバックカーブ
とは連続する2つのカーブの間に短い直線区間が入
るような道路線形であり,運転操作の難しい線形と
Keywords: 画像データ,交通事故,コンフリクト分析,走行軌道
*正員
(〒
博士(工)京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻
606-8501 京都市左京区吉田本町,Tel:075-753-5126)
**学生員
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻
***フェロー
工博
****国土交通省
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻
近畿地方整備局
奈良国道事務所
言える.
(2) 交通事故の発生状況
中畑地区における交通事故の発生状況(統計デー
タ)を図-2 に示す.図-2 より明らかな点として,カ
至 天理
至 亀山
図-1 対象道路区間の概要
ーブ2(半径 300m)に至る緩和曲線 3 付近におけ
事故形態別に見ると,前者では車両単独事故(分
る事故が最も多く記録されており,
次いで半径 200m
離帯,防護柵などへの衝突)の占める割合が非常に
のカーブ 1 における事故が多くなっている.
高くなっているのに対し,後者では車両相互事故が
カーブ1
C8 C7 C6 C5
緩和2
直線
C9
C10
緩和3
緩
和
1
過半数を占めている.事故の発生件数を天候別・KP
別に集計した結果を表-1 に示す.表-1 より,雨天時
直線
C4
における車両単独事故の多さをうかがい知ることが
C3
C2
人身事故
C11
できる.
(下り線)
C12
カーブ2
C13
緩和4
表-1 天候別の事故発生状況
C14
物損事故
直線
(下り線)
車両進行方向
事故類型別天候別の物損事故発生件数
車両単独
その他の
追突
KP
(工作物)
車両単独
合
雨
雨
合
雨
雨
雨
雨
計
以
計
以
以
外
外
外
87.1
1
1
87.2
87.3
87.4
87.5
87.6
1
1
87.7
1
1
1
1
87.8
2
2
87.9
88.0
1
1
1
88.1
1
88.2
88.3
5
1
6
1
88.4
5
5
88.5
21
21
2
2
88.6
3
3
3
88.7
1
1
1
1
88.8
88.9
1
89
89.1
合
計
その他の
車両相互
合
雨
雨
計
以
外
1
1
1
1
1
1
1
4
3
1
1
1
総
計
2
1
1
1
1
2
3
1
1
3
7
1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
総計
2
2
14
5
24
7
3
1
3
1
中
畑
地
区
(3) 車両軌道データの収集方法
本研究では,既設のカメラを含めて,路側に設置
図-2 事故発生状況
された合計 13 台のデジタルビデオカメラを利用し
て,約 900m の区間における車両の走行軌道を記録
した.各カメラの撮影範囲は道路進行方向に対して,
についても評価を試みる.
70∼100m としている.本研究で利用したビデオカ
メラのデータは,連続的な車両の走行軌道の記録を
コンフリクト評価指標と事故発生との関連性
4.
目的としたものであり,各カメラの撮影範囲を上
流・下流で 10m 程度ずつ重複させることを目標とし
(1)乖離度に基づく考察
て,カメラを設置し,カメラ間での走行軌道データ
図-3 に,事故の多発する時間帯における車線ごと
の欠落を防止している.なお,本研究で利用してい
の乖離度平均と標準偏差を示した.乖離度は前述の
るデータは,平成 15 年 10 月 16 日∼11 月 3 日の間
定義から正の値をとる時は車両が車線の中央より右
に記録されたデータを利用しており,交通量や天候
側(カーブの外側・中央分離帯側)を走行しているこ
条件により,必要なデータを抽出して分析している.
とになり,逆に負の値をとる時は車線中央の左側(カ
ーブの内側・路肩側)を走行していることを意味する.
3.
事故形態を考慮したコンフリクト評価指標
事故の多発する日(11時帯)
走行・乖離度標準偏差
追越・乖離度標準偏差
走行・乖離度平均
追越・乖離度平均
8
-6
7
畑地区においては,車両単独事故が最も多く発生し
6
-2
5
4
0
3
2
2
ている.この点を踏まえて,本研究ではとりわけ車
4
緩 和 4出 口
緩 和 4中 央
カ ー ブ 2∼ 緩 和
3
カ ー ブ 2中 央
緩 和 3∼ カ ー ブ
2
緩 和 3中 央
直線
緩 和 3入 口
緩 和 2出 口
緩 和 2中 央
カ ー ブ 1∼ 緩 和
2
カ ー ブ 1中 央
緩 和 1∼ カ ー ブ
1
フリクト指標を用いて分析を行う.
緩 和 1中 央
両単独事故の潜在的な危険性を評価するためのコン
1
緩 和 1入 口
6
0
(1)乖離度
車線中心からの乖離度(以下「乖離度」と略す)は,
図-3 乖離度平均および標準偏差
車両が車線の中心からどのぐらい離れた位置を走行
しているかを表す指標である.道路の進行方向と垂
図-3 は特に事故の発生が多い午前 11 時台のデー
直に X 軸をとった場合の,車線中央の X 座標と車両
タを集計した結果である.一つの特徴としては,カ
の X 座標の差を乖離度と定義する.
X 座標の原点は,
ーブ 1 の中央地点において最も走行車線走行車と追
走行車線の路肩と車線との境界とする.
越車線走行車の走行位置が接近するということであ
る.中畑カーブの地点別の事故発生状況を見てみる
乖離度 = X c − X l ・・・(1)
と,追突以外の車両相互事故(追越追抜,すれ違いの
X c : 車両のX座標
際の事故)が圧倒的に多いのはカーブ 1 の中央地点
X l : 各車線の中央のX座標
であり,両車線を走行する車両の接近により接触事
とりわけ,当該区間においては追越車線の右側に
故を起こす可能性が推測される.加えて,カーブ 1
連続して分離帯が設置されているため,この乖離度
の終わりから直線を経てカーブ 2 の始まり付近まで
という指標を用いることで,このような車両単独事
の間で,常に追越車線走行車が車線中央より中央分
故の潜在的危険性を推測できるものと考えられる.
離帯側(車線の右側)に寄っているということが分か
(2)遠心加速度
る.地点別の事故状況を見ると,中央分離帯や防護
カーブ区間走行時の力学的安定性を評価するため
式(2)を用いて遠心加速度の推定値を求める.
遠心加速度 = V 2 / R ・・・(2)
柵への衝突事故のほとんどが,カーブ 1 の終端から
カーブ 2 の始端にかけての区間で起きており,この
ことと乖離度のデータが示す,追越車線走行車の中
央分離帯への接近傾向は何らかの関連性を有すると
V : 車両速度(m / s )
考えられる.
R : 曲率半径(m)
(2)遠心加速度の推定結果と考察
あわせて遠心加速度の変化率も推定し,カーブ区
中畑地区においては雨天時の車両単独事故が顕著
間走行中の運転者のハンドル操作の難しさの程度等
である.カーブ走行車両のスリップによる事故発生
乖離度標準偏差(10cm)
2(2)で述べたように,本研究で対象としている中
乖離度平均(10cm)
-4
の可能性が考えられるため,本研究では,式(2)に基
以上となり,ハンドル操作上の困難を感じる可能性
づき,走行軌道データより各車両の遠心加速度を推
の高い車両の割合を示した.
定した.図-4 は,雨天時の車線ごとの遠心加速度推
事故の多い日(11時帯)
走行・0.6以上の割合
雨天時
追越・遠心加速度標準偏差
追越・遠心加速度平均
3.5
3
3
2.5
2.5
30
20
-1.5
10
緩和4中央
緩和4出口
カーブ2∼緩和
3
カーブ2中央
緩和3∼カーブ
2
緩和3中央
直線
-2
緩和3入口
緩和4出口
緩和4中央
カーブ2∼緩和
3
カーブ2中央
緩和3∼カーブ
2
緩和3中央
直線
緩和3入口
緩和2出口
緩和2中央
カーブ1∼緩和
2
カーブ1中央
緩和1∼カーブ
1
0
40
-1
緩和2出口
0.5
緩和1中央
0
50
-0.5
カーブ1∼緩和
2
1
60
0
緩和2中央
1
0.5
70
0.5
カーブ1中央
1.5
80
1
緩和1∼カーブ
1
1.5
90
緩和1中央
2
追越・変化率平均
1.5
緩和1入口
2
遠心加速度標準偏差(m/s^2)
3.5
緩和1入口
遠心加速度平均(m/s^2)
走行・遠心加速度標準偏差
走行・遠心加速度平均
走行・変化率平均
2
変
化
率
0.6以
上
の
割
合
(%)
遠
心
加
速
度
の
変
化
率
の
平
均
(m/s^3)
定値の平均およびその標準偏差を表している.
追越・0.6以上の割合
0
図-5 遠心加速度の変化率の推定結果
全体的な傾向としては,遠心加速度の変化率が
図-4 雨天時の遠心加速度平均および標準偏差
0.6 m / s 3 を超え,運転操作に困難を感じている可能
カーブ 1 の方がカーブ 2 よりも曲率半径が小さい
性が高い車両の割合がかなり存在するということで
ため,全体的にカーブ 1 の遠心加速度が大きくなっ
ある.特に緩和 1 区間からカーブ 1 区間にかけては
ている.また,カーブ 1 区間中央部では最も大きな
全体の 60%以上もの車両が運転操作の困難を感じる
値を示しており,車両にかなり大きな遠心力がかか
可能性があるという結果になっている.
っていると思われる.ここでは,カーブ区間走行中
の車両の横滑り摩擦に着目し,式(3)を用いて走行危
5.
まとめ
険性の評価を試みる.
g (i + f ) ≥
本研究では,車線中心からの乖離度・遠心加速度
V2
= a ・・・(3)
R
およびその変化率の推定値を用いて,潜在的な事故
R : 曲率半径 (m), V : 車両速度(m / s )
2
危険性とその要因について分析した.乖離度から判
g : 重力加速度(m / s ), i : 路面の片勾配
断すれば,カーブ区間 1 における走行車線走行車と
f : タイヤと路面の横滑り 摩擦係数
追越車線走行車の接近傾向,カーブ区間 1 後半部か
2
a : 遠心加速度(m / s )
らカーブ区間 2 入口部までの中央分離帯への接近傾
カーブ 1 中央の曲率半径は 200m,片勾配は 0.0826
であり,fは乾燥時の摩擦係数を最も低く見積もった
1)
時の 0.4 に対し雨天時は約 0.3 である .さらに,g
向などの全体的な傾向が,車両単独事故の発生状況
とよく一致している.遠心加速度を用いた分析では,
特にカーブ区間 1 において,大きな遠心力がかかる
を 9.8 m / s とすると,その限界速度は 98.6km/hと推
ことが証明され,雨天時の横すべり摩擦力の低下が
定される.雨天時のカーブ 1 中央追越車線における
引き起こす危険性について示した.
2
平均速度は約 80km/hであるが,雨天時にも 100km/h
今後の課題としては,収集した車両軌道データを
前後で走行する車両が少なくないため,この場合の
データベース化し,それを用いて潜在的事故危険性
スリップ危険性はかなり高いと推測される.
が高い走行挙動を抽出するとともに,そのような挙
(3)遠心加速度の変化率の推定結果と考察
動に至るプロセスについて分析する.
一般に,遠心加速度の変化率が 0.6 m / s 3 を超える
と,運転者がハンドル操作に困難を感じる可能性が
高いとされている.特に緩和区間を設計する際,遠
心加速度の変化率を一定値以下に抑えることはかな
り重要な条件である.図-5 に事故の多い時間帯の遠
心加速度の変化率の平均および,変化率が 0.6 m / s 3
【参考文献】
1) ハンス・ローレンツ:道路の線形と環境設計,鹿島出版
会,1976
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