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安直すぎる日本の風評被害対策
1P 香港の「愛 日本料理!」キャンペーン 2011・07・15 735号 安直すぎる日本の風評被害対策 財部誠一 今週のひとりごと 15日の午後、日本で数少ないパッケージ・ソフトを作っている インフォテリアという企業のカンファレンスに参加しました。ビジ ネスの現場でスマートフォンがいかに活用されているか、また 今後どのような利用価値が創出できるか、といったことをテー マに講演とシンポジウムを行いました。 ちなみにインフォテリアが開発した「Handbook」というクラウ ドを利用したソフトは、パソコン上で書類や写真や動画等々の データを管理することができ、その情報が自動的にiPadに同 期されるというものです。わかりやすくいえば、会社のPCで管 理している最新情報が、iPad上で、自動的に更新されて閲覧 できるというものです。たとえば会議で分厚い資料は不要にな ります。コピー無用。会議直前の最新情報を、役員たちはiPad で確認できるのです。また詳しくお伝えします。 (財部誠一) ※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。 もともと香港には根強い日本食人気がありました。 中華料理に次ぐ食の一大カテゴリーはイタリアンで もフレンチでもなく、日本食だったのです。ことに20 代、30代でビジネスに成功した若者たちにとって日 本食は特別な存在。ある高級日本食レストランの経 営者によれば「毎年一番賑わうのは2月14日のバ レンタインデー」というほど、日本食は美味しくて、健 康的なだけではなく、トレンディなスタイルでした。さ らにメインランド中国からの旅行客急増が香港経済 を押し上げ、なかば必然的に香港では日本食レスト ランが増えていきました。 ところが福島の原発事故で香港の日本食事情が 一変しました。 それまで圧倒的だった日本産食材への信頼が一 挙に崩壊してしまいました。放射能汚染のリスクを 恐れた香港人グルメたちが、まるで蜘蛛の子を散ら したように日本食レストランから逃げてしまったので す。3月、4月は売上高が前年比で50%減、ひどい 場合は80%減という状況が続き、高い家賃負担に 耐えられず、倒産してしまった日本食レストランも少 なくありませんでした。 いったいその回復にはどれだけの時間がかかる のか。何をしたらいいのか。日本国内では香港や台 湾、上海等々での風評被害の厳しさをメディアが伝 えることはあっても、具体的な救済策には誰も言及 できない無力感が広がるばかりでした。 ところが7月12、13日と香港を訪ねてみると、意 外や意外、風評被害を乗り越え、いまでは震災前よ りも売り上げが増えたというお店もでてくるほど、香 港の日本食レストランは活況を呈していたのです。 そのきっかけとなったのが香港政府も巻き込んだ 「愛 日本料理!50%優恵 100%安心」キャンペ ーンでした。香港には600店ほどの日本食レストラ ンがありますが、その約半分に相当する270店が キャンペーンに参加。その中心となったのは日本食 ◆愛・日本料理 「50%優惠 100%安心」 香港飲食業連合総会が主催し、 在香港日本総領事館などが支援 するキャンペーン福島第1原発事 故のあおりで客足が遠のいてい た香港の日本料理店が、5月25 日(水)~6月15日(水)までの毎 週水曜日を「半額の日」に設定。 日本食の安心・安全を訴える。料 亭など高級店に加え、味千ラーメ ンや白木屋などのチェーン店など 270店の店舗が参加した。 ◆震災直後の香港の 日本料理店の状況 【3月23日 台湾中央通信】 「日本で起きた地震および原子力 発電所事故の影響で香港の日式 餐庁(日本料理店)は、顧客が食 材の放射能汚染を心配して利用 を控え、売り上げが大幅に落ち込 んでいる。香港餐飲聯業協会の 黄家和会長によると、香港にある 日式餐庁約600店の売り上げは1 週間で20~30%落ち込んでいる。 また、「日本から空輸の鮮魚」を 売りにしているレストランは顧客 に敬遠されており、売り上げの落 ち込みは50%を超えている。」 2P レストランを経営する香港人の実業家たち でした。 そのなかの一人は、この数年、築地のマ グロの初競りで最高値で落札をしていること で、日本でもその名を知られているリッキ ー・チェン氏です。かつて日本の寿司屋で修 行をし、いまや香港では「寿司王」「魚王」の 異名をとるほどの大成功をおさめました。ま た「板前寿司」チェーンを東京都内に逆輸入 してもいます。彼ら香港人経営者たちの呼 びかけに日本人経営者も呼応し、大きな流 れができていきました。最終的には香港行 政府まで動かし、キャンペーンへの資金援 助を引き出したのです。 毎週水曜日、キャンペーンに加盟した日本 食レストランでは、「刺身」や「アルコール」や 「定食」など、各店の創意工夫で、メニュー の中から何かを50%オフのセールをする。 しかもそこで使用される日本産食材は、通 関時の検疫できちんと放射能チェック済み のものばかりだから100%安心ですよとい う趣旨を、テレビや新聞などのマスメディア を通じて大量に流しました。 また「愛 日本料理!」キャンペーンの公式 ホームページを作り、参加した270店のどこ にいけば、どんなメニューが50%オフなの かが、WEB上ですぐに分かるサービスも用 意しました。ちなみにこのHPは主に香港人 向けであるため、言語は広東語だそうです。 日本食材に対する絶大な信頼感 このキャンペーンに積極的に参加した日 本人経営者は、原発事故直後には自分の 会社も倒産するのではないかと危機感を抱 いたと言いますが、その一方で、こんな確信 をずっと抱いていたというのです。 「それほど長い間、香港人が日本料理を我 慢することなんてできやしない」 香港はアジア屈指の食通が集まる都市です。 「日本人よりも刺身を好み、日本人以上に日 本食を愛している若者が香港にはたくさんい ます。『愛 日本料理!』キャンペーンでは水 曜日に半額セールをしましたが、それはあく までもきっかけにすぎない。日本の食材に対 する信頼感、日本料理に対する信頼感がベ ースにあるんですよ」 実際に街中で道行く香港の人たちに尋ねて みても、まさにこの経営者の言葉通りの返事 ばかりが返ってきました。日本や日本の食材 に対する絶大な信頼感があるのです。また 香港の通関が行っている日本産品への放射 能検査が、その信頼感をさらに補強していま した。「香港に入ってくる日本の食材は安全 ですよ」というわけです。 この話題をツイッターでつぶやいたところ、 早速、こんなツイートが返ってきました。 「台湾も似たような状況!」 日本の食材や日本料理に対するアジアの 人々の信頼感は根強い。風評被害を見事に 克服しつつある現実がアジアのあちらこちら で見られるようになってきました。その一方で、 気になるのはむしろ日本国内の風評被害で す。海外の風評被害克服になんの貢献もし なかった菅政権は、この4ヶ月間、むしろ国 内の風評被害を自ら拡散する役割だけを担 ってきました。本当に情けない限りです。 特定の畜産農家が放射能汚染された福島 産牛肉を市場に流通してしまったことはニュ ースですでにご存知だと思いますが、この先 しばらく、福島産牛肉すべてに対してきわめ て深刻な風評被害が起こるでしょう。政治も 行政も口先での対策しかとらないし、とる能 力もありません。アジア各地で日本産品へ の信頼が回復しつつあるというのに、わが 国では全面的に信頼をおける情報源がなく、 疑心暗鬼が蔓延するばかりです。 風評被害対策としてとられる具体的行動 といえば、産地の代表者が東京の繁華街な どでご当地産品の販売イベントを単発で行 い、それがたまにニュースになるといった程 度。正直な感想を述べれば、政治も行政も 風評被害克服に効果的な対策を何一つとっ ていないけれど、風評被害を自らの手で乗 り越えようとしている当事者(多くの場合は 地元自治体や農協など)の行動も、きわめ て形式的で安直に過ぎます。 香港の「愛 日本料理!50%優恵 100% 安心」キャンペーンとは天地の差です。倒産 の危機を抱えた経営者たちが連帯して、自 らコストを負担して宣伝広告費を出し合い、 行政府の資金支援も自らの力で引き出し、 マスメディアの力をいかんなく使い切りまし た。またその宣伝を見た消費者が日本食を 食べに行くという行動を起こすきっかけとし て、50%オフセールを毎週水曜日に実施 するという仕掛けまで参加企業全社で用意 したのです。 個人的野心で復興とは無縁の施策を次々 と繰り出し、延命に汲々とする菅総理への 怒りはいまや国民共通のものとなりました。 また政治全般に対する不平不満も極限に 達しています。しかし、日本人はあまりにも 傍観者になりすぎてはいないでしょうか。自 らの力で困難を切り開いていく自主自立の 精神があまりにも欠落してはいないでしょう か。自主自立。香港取材で強く感じました。 (財部誠一) ◆リッキー・チェン氏 1968年香港生まれ。子供の頃に 食べた寿司が忘れられない味とな る。それから日本文化に興味を持 ち、19歳の時、歌舞伎町「喜久寿 司」でアルバイトをする。皿洗い、 掃除をしながら寿司の握り方の技 を盗もうとおしぼりを使ったり見よ う見まねで練習。 90年に香港に戻り、日本への旅 行ツアーガイドなどをして資金を貯 める。92年に日本風クレープ屋チ ェーンを香港で展開して成功。96 年に味千ラーメン(本社・熊本市) の香港チェーン店展開に成功。 4000万円の資金を貯める。 日本の水産会社に交渉して直接、 魚を仕入れる契約を結ぶ。2004年 にようやく香港に念願の寿司チェ ーン『板前寿司』を開業。本場・日 本の寿司が、リーズナブルな価格 で食べられると評判になり大成功。 3年間で5店舗に拡大。「寿司王」 「魚王」などの異名を手に入れる。 07年、東京・赤坂に『板前寿司』オ ープン。 08年1月、東京・築地のマグロの 初競りに参加し、大間産の本マグ ロを607万円競り落とす。築地市場 の競りで外国人初の快挙となる。 その後09年、10年の初競りで、最 高値で競り落としリッキー・チェン の名が日本中の市場に知られる ようになる。