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スギコンテナ苗の夏季植栽における優位性の評価 -植栽時の水ストレス

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スギコンテナ苗の夏季植栽における優位性の評価 -植栽時の水ストレス
スギコンテナ苗の夏季植栽における優位性の評価
-植栽時の水ストレスから 1 年後の活着・成長・物質分配までの比較-
宮崎大学農学部
森林緑地環境科学科
平田
令子
1.目的
近年,林業の採算性は悪化しており,経営の健全性を確保するためにはコスト削減が必要不可欠
である。造林・保育の分野では,コンテナ苗を導入することでコストを削減できると期待されてい
る。コンテナ苗は根に培地が付いた苗の一種であり,植え付け時に根が良く発達して培地ごと植栽
できることから活着も良く,裸苗での活着が悪いとされる夏季植栽も含めた通年の植栽が可能であ
るとされ,伐採・造林一貫作業による低コスト化への期待が大きい。しかし,夏季植栽における活
着・成長に対して,コンテナ苗が裸苗より優位性があるかを科学的に検証した例は少ない。夏季に
おけるコンテナ苗の優位性が裸苗との比較により科学的に検証されれば,冬~春季の伐採後に一生
育期間置くことなく,夏季植栽も含めて引き続き植栽作業を行うことが可能となる。そこで本研究
では,スギ挿し木コンテナ苗(1 年生および当年生)と裸苗(当年生)を 9 月に同時植栽し,植栽
直後の生理的なストレスを評価するとともに,植栽後 1 年間の活着および初期成長を苗種間で比較
することを目的とした。
2.方法
調査は宮崎大学農学部附属田野フィールドで行った。ここには 2014 年 9 月に 1 年生および当年
生コンテナ苗各 92 本,当年生裸苗 96 本が植栽されている。植栽から約 1 ヶ月後まで,水ストレス
の状態を評価するために各苗種について葉の水ポテンシャル,光合成時の電子伝達速度(ETR),
および葉温を測定されており,また,植栽直後の 2014 年 9 月と 2014 年 12 月には全ての植栽苗の
苗高と地際直径が測定され,活着状況も目視で確認された。さらに,植栽時に持ち帰った苗と植栽
3 ヶ月後(2014 年 12 月)に掘り取った苗を,主軸,側枝および根に分類して乾燥重量を計量し,
各苗種の物質分配特性を比較している。今回は,植栽から 1 年後にあたる 2015 年 7 月に苗高と地
際直径,活着状況を再測定し,さらに 2015 年 9 月に苗を掘り取った。これらのデータを苗種間で
比較し,裸苗と比較したコンテナ苗の優位性を植栽 1 年後までの結果を含めて総合的に評価した。
3.結果
植栽から 3 ヶ月後および翌年 7 月の累積枯死数は苗種間で差がなかった(表-1)。裸苗の水ポテ
ンシャルは植栽直後に著しく低下し,その後 1 か月はコンテナ苗よりも低い値で推移した。ETR
と葉温は苗種間で大きな差はみられなかった。植栽から 2014 年 12 月までの苗高は 1 年生コンテ
ナ苗で最も大きく,次いで当年生コンテナ苗であり,裸苗が最も小さかった(図—1)。しかし,植
栽 1 年後には裸苗と当年生コンテナ苗の苗高差がみられなくなった(図—1)。直径は 1 年生コンテ
ナ苗が最も大きく,当年生コンテナ苗と裸苗には有意差がなかった。この傾向は,第 2 生育期にお
いても同様であった。
表-1.各調査時期におけるコンテナ苗(1 年生および当年生)と当年生裸苗の高さおよび
直径の測定本数と累積枯死率
調査時期
2014 年 9 月
2014 年 12 月
2015 年 7 月
苗種
苗高・直径
測定本数
累積被害
本数 1)
累積枯死
本数
累積枯死率
(%)2)
1 年生コンテナ苗
89
3
0
0
当年生コンテナ苗
88
4
0
0
当年生裸苗
93
3
0
0
1 年生コンテナ苗
86
6
0
0
当年生コンテナ苗
87
4
1
1.1
当年生裸苗
91
5
0
0
1 年生コンテナ苗
74
6
2
2.4
当年生コンテナ苗
74
5
3
3.7
当年生裸苗
75
10
1
1.2
食害などの被害を受けた本数。
1)
(累積枯死本数/全植栽本数)×100。なお,2015 年 7 月は全植栽本数から掘り取り個体数
2)
を除いて計算した。
また,植栽当年は苗の地上部および地下部への配分が苗種間で異なっていたが,植栽 1 年後には
差がなくなった(図-2)。さらに,植栽当年は 1 年生コンテナ苗で傾斜被害が多く,裸苗では主軸
先端の萎れや枯れがみられ,健全苗の割合に苗種間で差が生じていたが,植栽 1 年後には差がみら
れなくなった(図—3)。
4.考察
ストレス評価の結果から,コンテナ苗は裸苗よりも潜在的に高い耐乾性を有することが示唆され
た。苗種によってこのような違いが生じたのは,育苗方法と苗の構造,および移植の過程の違いに
よると推察される。さらに,植栽当年の伸長成長は,裸苗よりもコンテナ苗の方が優位であったこ
とから,植栽当年は裸苗よりもコンテナ苗の方が優位であることが示唆された。
しかし,今回の乾燥条件であれば,裸苗の活着率に影響はなく,初期にみられた苗高,物質分配,
および活着状況の違いは植栽 1 年後にはみられなくなることが明らかとなった。したがって,今回
の乾燥条件においては夏季植栽におけるコンテナ苗の優位性は示されなかった。なお,本調査地で
は植栽翌日から約 1 週間降雨が続いたため,植栽後の水ストレスが軽減され,各苗種の活着を高め
た可能性がある。したがって今回より降雨が少ない条件では,植栽直後の水ストレスが継続・悪化
し,裸苗の方が成長低下や枯死が発生しやすく,コンテナ苗が相対的に有利になる可能性が示唆さ
れた。今後,コンテナ苗を実際の施業に導入するためには,コンテナ苗がどの程度まで乾燥条件に
耐え,どの程度の乾燥条件で裸苗より優位になるのかを検証する必要がある。
図—1.各苗種の平均苗高と平均地際直径の変化
誤差バーは標準偏差を示す。
図—2.各苗種の乾燥重量構成比の変化
図中の正負記号は,直前の測定時期の値と比較して有意に増加(+)または減少(-)したことを示す。
+/-:p<0.05,++/--:p<0.01,+++/---:p<0.001。
図—3.各苗種の苗の状態の変化
図中の異なるアルファベットは各調査時期の健全苗の割合に苗種間で有意差があることを示す
(p<0.05)。図中の正負記号は,直前の測定時期の値と比較して健全苗の割合が有意に増加(+)また
は減少(-)したことを示す。+/-:p<0.05,++/--:p<0.01,+++/---:p<0.001。
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