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共役二重結合を有する脂肪酸のアレルギー症状緩和作用に関する研究
上原記念生命科学財団研究報告集, 24(2010) 34. 共役二重結合を有する脂肪酸のアレルギー症状緩和作用に関する研究 都築 毅 Key words:アレルギー,RBL-2H3,共役脂肪酸, 共役リノレン酸,脱顆粒 東北大学 大学院農学研究科 生物産業 創成科学専攻 生体分子機能学分野 緒 言 近年,日本をはじめとする先進諸国でアトピー性皮膚炎,花粉症,気管支喘息などのアレルギー性疾患が増加している.ア レルギー性疾患にかかると日常生活に多大な支障をきたすので,その対策は急務である. マスト細胞はこれらアレルギー性疾患の基礎となる即時性アレルギー反応の発現に必須の細胞である.マスト細胞の表面には 免疫グロブリン E(IgE)に対する高親和性の受容体が発現している.食物,花粉,ダニに由来する抗原が高親和性 IgE 受 容体に結合するとマスト細胞は細胞質内の好塩基顆粒を放出する.この好塩基顆粒に含まれている生理活性物質(ヒスタミ ン,ロイコトリエン,プロスタグランジンなど)が作用することにより,即時性アレルギー反応が起こる(図1). 図 1. マスト細胞と即時性アレルギー反応との関係. マスト細胞は抗原刺激により脱顆粒を行う. 天然には,通常の二重結合ではなく共役化した二重結合をもつ,共役脂肪酸が存在する.牛肉や乳製品には,リノール酸 (LA, 9Z12Z-18:2)の幾何,位置異性体である共役リノール酸(CLA, 18:2, 図2)が,含まれている.CLA は抗発癌作 用,脂質代謝改善作用,動脈硬化抑制作用,免疫増強作用,骨代謝改善作用などが認められ,健康補助食品として販売さ れている. 1 図 2. 共役脂肪酸の化学構造. 一方,天然には CLA 以外にも共役二重結合をもつ脂肪酸が存在する.キリやニガウリ,ザクロなど,ある種の植物種子には 共役リノレン酸が存在している(図2,3). 図 3. ニガウリ. 共役リノレン酸はニガウリの種子の中に多く含まれる. CLA についてはさかんに研究されているが,共役リノレン酸は食品成分として摂取している可能性はあるものの,生理活性 や栄養的な調査はほとんどされていない.私は,この共役リノレン酸に興味をもち共役リノレン酸の物性,構造解析,分析法, 生理機能について研究してきた 1-3) .そして,共役リノレン酸の新規生理作用としてマスト細胞からの脱顆粒を防ぐことが示唆さ れた. 本研究は,共役リノレン酸がマスト細胞の脱顆粒を抑制する作用を有するかどうかに着目して,マスト細胞の増殖,分化及び 機能に対する影響を調べるとともに,アレルギーモデルマウスに共役リノレン酸を経口投与して症状の変化を観察し,アレルギー 予防に対する有効性を検討する. 2 方 法 ラット好塩基球性白血病細胞株(RBL-2H3)を用いて,共役リノレン酸の脱顆粒抑制作用を詳細に検討した.RBL-2H3 を IgE で感作し共役リノレン酸で処理した後,抗原(DNP-HSA)を添加し,脱顆粒を引き起こした.脱顆粒の指標として顆粒 に含まれる β-Hexosaminidase を定量した.さらに,共役リノレン酸の compound 48/80 による高親和性 IgE 受容体 (FcεRI)を介さない脱顆粒反応も検討した. 次に,ICR マウス(9 週齢,雄性)を用いて,即時性アレルギー反応の特徴である痒みに対する共役リノレン酸の影響を調べ た.マウスに米糠から抽出した共役リノレン酸を 1 週間経口投与した後,肩甲骨間に compound 48/80 を皮内投与し,痒み を引き起こした.この痒みによるマウスの擦過行動をビデオカメラで撮影し,30 分間の擦過回数と擦過時間を解析した.また, 共役リノレン酸を経口投与したマウスの炎症部位周辺の皮膚を採取し,共役リノレン酸量を測定した. 結果および考察 RBL-2H3 を用いて,共役リノレン酸の脱顆粒抑制作用を検討したところ,共役リノレン酸はマスト細胞の脱顆粒量を濃度依存 的に減らした(図4). 図 4. 共役リノレン酸の IgE 依存性脱顆粒に対する影響. Mean ± SD, n=6, *P < 0.05 (vs 0μM). さらに,共役リノレン酸は compound 48/80 による FcεRI を介さない脱顆粒反応も抑制した(図5). 3 図 5. 共役リノレン酸の IgE 非依存性脱顆粒に対する影響. Mean ± SD, n=6, *P < 0.05 (vs 0μM). 次に,マウスを用いて,即時性アレルギー反応に対する共役リノレン酸の影響を調べた.共役リノレン酸を経口投与したマウス は未投与のものと比べて擦過回数,時間ともに有意に減少した(図6). 図 6. 共役リノレン酸のマウス擦過行動に対する影響. Mean ± SE, n=8, *P < 0.05 (vs -). 共役リノレン酸を経口投与したマウスの炎症部位周辺の皮膚を採取し,共役リノレン酸量を測定したところ,共役リノレン酸が多 く検出された(図7). 4 図 7. マウス皮膚への共役リノレン酸移行量. Mean ± SE, n=8, *P < 0.05 (vs -). 以上から,共役リノレン酸はマスト細胞の脱顆粒を抑制することによりアレルギー症状を軽減する可能性が示唆された. 現在では,癌,心臓病,脳卒中,糖尿病などの生活習慣病に加えてアレルギー性疾患に罹患する患者数が急増している.こ れらの疾患が増加するにつれて医療費も高騰し社会問題になっている.また,アレルギー性疾患,とりわけアトピー性皮膚炎に 対する治療としてステロイド剤が用いられるが,副作用が強く,その使用にあたっては専門医による指導が不可欠となっている. このような現状のなか,「健康の維持増進と病気の予防は食事で」という考え方が重要視されている.食品成分の持つ生体防 御,体調リズム調節,疾病の防止と回復等に関わる体調調節機能を,生体に対して充分に表現できるように設計し,加工され た食品が機能性食品であり,現在,あらゆる疾患においてこのような食品の開発が求められている.本研究はアレルギー症状 を緩和・抑制する機能性食品開発の一助になると考えられる. 文 献 1) Tsuzuki, T. & Kawakami, Y.:Tumor angiogenesis suppression by α-eleostearic acid, a linolenic acid isomer with a conjugated triene system, via peroxisome proliferator-activated receptor γ. Carcinogenesis, 29 : 797-806, 2008. 2) Tsuzuki, T., Kawakami, Y., Abe, R., Nakagawa, K., Koba, K., Imamura, J., Iwata, T., Ikeda, I. & Miyazawa, T.: Conjugated linolenic acid is slowly absorbed in rat intestine, but quickly converted to conjugated linoleic acid. J. Nutr., 136 : 2153-2159, 2006. 3) Tsuzuki, T., Tokuyama, Y., Igarashi, M. & Miyazawa, T.: Tumor growth suppression by α-eleostearic acid, a linolenic acid isomer with a conjugated triene system, via lipid peroxidation. Carcinogenesis, 25 : 1417-1425, 2004. 5