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W-CDMA無線基地局装置
特 集 W-CDMA無線基地局装置 Base Transceiver Station for W-CDMA あらまし W-CDMA方式用BTSについて,富士通ではすでにNTT DoCoMo向けに実験用装置の 開発を完了し,製品化の目処をつけた。実験用装置は,現在,英国Orange社との共同 フィールド実験にも使われている。現在富士通では,3GPP(3rd Generation Partnership Project) で進められている標準化仕様に基づき,無線技術,ネットワーク技術,デバイ ス技術など富士通の総力を結集して,商用BTSの開発に取り組んでいる。 本稿では,実験用装置および開発中の商用試作装置について,その概要と特徴を紹介 する。 Abstract Fujitsu has already developed an experimental W-CDMA BTS for NTT DoCoMo and is ready to commercialize it. An experimental BTS is also currently being used for joint field trials with Orange of the UK. Currently, Fujitsu is concentrating on developing radio techniques, network technologies, and device technologies based on the standardization specification forwarded in the 3rd Generation Partnership Project (3GPP) to develop a commercial BTS. This paper outlines the experimental BTS and the commercial prototype BTS being developed and introduces their features. 丸山 聡(まるやま さとし) 矢部敏寛(やべ としひろ) 守 恒祐(もり こうゆう) 移動・ワイヤレスシステム開発統括 部第一開発部 所属 現在,移動通信システム無線基地局 装置の開発に従事。 移動・ワイヤレスシステム開発統括 部第一開発部 所属 現在,移動通信システム無線基地局 装置の開発に従事。 移動・ワイヤレスシステム開発統括 部第一開発部 所属 現在,移動通信システム無線基地局 装置の開発に従事。 FUJITSU.51, 1, pp.41-44 (01,2000) 41 W-CDMA無線基地局装置 ○○○○○○○ ま え が き および無線制御・交換模擬装置(以下,MCC-SIM) と接続 (2) される。 富士通では,第三世代移動通信システム(IMT-2000)と 実験用無線基地局装置の外観を図-1に,W-CDMA実験 しての標準化が進められているW-CDMA方式のシステム システムの構成図を図-2に示す。 開発を積極的に行っている。従来の携帯電話システムを ● 機能構成 音声サービス中心のシステムとすれば,IMT-2000で要望 実験用無線基地局装置は,以下の機能部より構成さ されるシステムはマルチメディアサービスを実現するシ れる(図-2) 。 ステムである。この要望を実現するために無線基地局装 (1) AMP 置(BTS)には,音声から種々の高速データを混在して伝 送受信RF信号を増幅する送信電力増幅アンプと受信低 送する機能,固定網なみの高品質伝送などの高機能・高 雑音アンプを具備し,アンテナと接続する。 性能化が要求される。また,需要の増加,サービス内容 (2) TRX の変化に対応していくための拡張性・柔軟性・小型/低消 ベースバンド帯で拡散された送信信号をD/A変換し, 費電力化も不可欠である。 直交変調によりRF信号に変換する。受信アンプからの受 富士通は,1997年のNTT DoCoMoによるW-CDMAシス 信信号を準同期検波,A/D変換する。 テム実験用装置の調達メーカとして,無線基地局装置, 模擬基地局制御装置を納入した。本装置は,富士通にお (3) BB 送信データの誤り訂正符号化,フレーム化,データ変 いても基本的な無線性能の確認に使用するとともに,欧 (1) 州事業者との共同フィールド実験にも用いている。 現在富士通は,商用化をめざした装置開発を鋭意進め ている。 ○○○○○○○ 本稿では,実験用無線基地局装置,および現在開発中 の商用試作無線基地局装置の概要について紹介する。 W-CDMA 無線方式の特徴 IMT-2000では音声ばかりでなく,FAX,電子メール, 高速データ通信,高精細画像伝送,動画伝送,インター ネットなど種々のマルチメディアサービスが求められて いる。これらを実現するために,無線基地局装置(以下, BTS)には,音声から種々の高速データを混在して伝送す る機能や,伝送品質の高品質化などが要求される。 W-CDMAは,情報信号を約5MHzの広帯域に拡散する CDMA(符号多重)通信方式で,従来の移動通信システム にはない以下の特長を持ち,マルチメディアサービスを 可能とする。 図-1 実験用無線基地局装置 Fig.1-Base transceiver station for experiment. (1) 音声から最大384 kbpsまでをユーザレートに応じて 可変とし,かつこれらを混在しての伝送。 (2) 有線伝送路なみの高品質伝送。 BTS 64 kbps AMP MCC-SIM TRX MS BB HWY -INT 384 kbps (3) 携帯端末の移動による基地局ゾーン変更を通信が途 COM 無 線 制 御 部 交 換 制 御 部 切れることなく行う,無瞬断ハンドオーバ。 ○○○○○○○ (4) CDMA方式により全基地局が同じ周波数を利用でき るため,周波数配置の管理が不要。 実験用無線基地局装置 実験用無線基地局装置は,無線移動局装置 (以下,MS) 42 BTS AMP : 送受信増幅部 TRX : 無線部 BB : ベースバンド信号処理部 HWY-INT : 有線伝送路インタフェース部 COM : 共通制御部 図-2 W-CDMA実験システムの装置構成 Fig.2-Configuration of W-CDMA experimental system. FUJITSU.51, 1, (01,2000) W-CDMA無線基地局装置 調,拡散変調を行う。受信信号の逆拡散,チップ同期, ・RAKE受信機能 誤り訂正復号,データの多重分離,RAKE受信,セクタ間 実現機能の一例としてRAKE受信特性を図-3に示す。 ダイバーシチハンドオーバなどのベースバンド信号処理 RAKE受信は,電波伝搬の過程で主信号から遅れて到達す を行う。 る反射波(マルチパス)信号の電力を,遅延時間を合わせ (4) COM 積極的に主信号電力に加算する技術である。図-3は,マ MCC-SIMと制御信号の送受信を行い,無線回線管理, ルチパス(パス) の合成数が増えるに従って,主信号電力 無線回線の設定・開放などを行う。 対干渉雑音電力比が低くても同様のビット誤り率を得る ことができることを示している。 (5) HWY-INT 局間伝送路インタフェース部で,ATM処理・終端,伝 また,128 kbpsのチャネルを3チャネル多重して行う 送路からのクロック抽出を行う。 384 kbps伝送において,高精細動画像伝送も行い,機能 ● 特長 の有効性を確認した。 送受信増幅部の送信増幅器は,フィードフォワード歪 実験用無線基地局装置は,種々のシステム試験および み補償技術を用いて1キャリアあたり20 Wの小型・高効 無線データ取得に貢献した。また,英国Orange社との共 率増幅器を開発した。 同フィールド実験 (1)にも使用され,フィールドにおける ベースバンド信号処理部,共通制御部,および伝送路 384 kbps動画伝送も確認された。 インタフェース部は,FPGA(Field Programmable Gate Array) ,DSP (Digital Signal Processor) ,LSIを最適な構 ○○○○○○○ 無線基地局商用試作装置 成で組み合わせて,装置機能を確保しながら小型・高密 実験用装置で確認された技術をベースとして,現在, 度化を図った。これによって実験用無線基地局装置を1 商用化をめざして商用試作装置の開発を進めている。 架でコンパクトに実現した。 ● 商用試作装置の特徴 実験用無線基地局装置の主要諸元を表-1に示す。 本装置の特徴は以下のとおりである。 (1) 拡張性 ● 成果 実験用無線基地局装置の主な機能を以下に示す。 需要に応じて,装置容量を簡単に拡張できる。すなわ ・高品質音声通話 ち,セクタ,キャリア,チャネル,送信出力をパネルを ・32∼384 kbps非制限ディジタル伝送およびパケット伝送 追加するだけで拡張可能としている。 ・無瞬断ハンドオーバ (2) 柔軟性 ・上下非対称の伝送速度による通信 トラヒックがセクタ間で偏っても,装置のチャネルリ ・閉ループ送信電力制御 ソースを必要なセクタにダイナミックに配分可能であ る。また,伝送速度も音声から高速データまで柔軟に設 表-1 実験用無線基地局装置の主要諸元 項 目 10-1 諸 元 8パス合成 下記バンド内の連続20 MHz帯域 上り:1,920∼1,980 MHz 下り:2,110∼2,170 MHz キャリア間隔 5 MHz キャリア数 4キャリア中の任意の2キャリア アクセス方式 DS-CDMA/FDD★ セクタ構成 6セクタ 最大送信電力 40 W/セクタ(1キャリアあたり20 W) 収容チャネル数 192チャネル チップレート 4.096 Mcps シンボルレート 16 ksps∼512 ksps 伝送速度 音声∼最大384 kbpsまで可変 伝送路インタフェース 6.3 Mbpsまたは1.5 Mbps 装置形状 幅800 × 奥行600 × 高さ1,800(mm) ★: Direct Sequence−Code Division Multiple Access/Frequency Division Duplex FUJITSU.51, 1, (01,2000) 4パス合成 2パス合成 1パス合成 -2 10 ビット誤り率(BER) 無線周波数帯 10-3 10-4 10-5 10-6 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 目的信号対干渉波電力比(Bo/Io) [dB] 図-3 実験用装置の無線特性 Fig.3-Radio characteristics of experimental equipment. 43 W-CDMA無線基地局装置 表-2 無線基地局商用試作装置の主要諸元 定可能な構成をとっている。 (3) 小型・低消費電力 項 目 諸 元 無線周波数帯 下記バンド内の連続20 MHz帯域 上り:1,920∼1,980 MHz 下り:2,110∼2,170 MHz キャリア間隔 5 MHz キャリア数 2キャリア アクセス方式 DS-CDMA/FDD 下の要素技術が必要である。富士通ではこれらの技術開 セクタ構成 6セクタ 発に総力を上げて取り組んでいる。 収容チャネル数 960チャネル ・無線高速同期技術 チップレート 3.84 Mcps ・高効率送信電力増幅技術 伝送速度 音声∼最大384 kbpsまで可変 ・高速信号処理(DSP) 伝送路インタフェース 6.3 Mbpsまたは1.5 Mbps 大規模LSIの開発,高効率送信増幅器の開発により,低 消費電力・小型大容量装置を実現する。 ● 要素技術 無線基地局装置の高機能化・高性能化のためには,以 ・ATM伝送技術 ・高効率放熱技術(小型・高密度実装) ○○○○○○○ また,商用試作装置は拡張性・柔軟性・小型/低消費電 ● 主要諸元 力を重視して開発を進めている。 商用試作装置の主要諸元を表-2に示す。 富士通では,高速データ通信サービスの需要増に伴い む す び W-CDMA方式の無線基地局装置について,実験用無線 必要となる,アダプティブアレイアンテナや干渉キャン セラ技術などの周波数利用効率拡大技術についても開発 を進めている。 基地局装置および商用試作装置の概要を説明した。 富士通では実験用無線基地局装置の開発により,WCDMAの高度な無線技術および各サービスについてその 動作を確認し,商用装置開発の目処をつけた。また,実 験用無線基地局装置はフィールド実験にも使用され,良 好な動作結果を得ている。 44 参考文献 (1) 松沢,長谷川:W - C D M A システムのフィールド実験. FUJITSU,51,1,pp.23-28(2000). (2) NTT移動通信網株式会社:NTT DoCoMoテクニカルジャー ナル,6-3,1998. FUJITSU.51, 1, (01,2000)