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トップインタビュー
黒田
広 NTT西日本 常務取締役
チャレンジ!社会インフラ
を支える気概を持とう!
つなぎ,デザインする日本
の未来
インターネットの利用が日進月歩で増加する
現代.利用者がストレスフリーで活用できる裏
側には,盤石なインフラ整備に尽力している社
員の日々の努力や豊富な経験,蓄積された英知
がありました.より快適な通信環境を整備する
◆PROFILE:1981年日本電信電話公社に入社.NTTコミュ
ニケーションズコンシューマ&オフィス事業部企画部長,
ヒューマンリソース部 担当部長を経て,2008年NTT総務
部門担当部長,2011年NTT西日本 取締役中国事業本部長広
島支店長兼務,2014年取締役設備本部ネットワーク部長を
経て,2015年 6 月より現職.
地道な努力と着実な仕事で経営目標を達成
◆まずは,NTT西日本グループの事業概況をお聞かせく
そして今後の展望を黒田𠮷広NTT西日本常務
取締役に伺いました.
ジネス営業をもう ₁ つの収益の柱にすることにしました.
これらの目標がなぜ必要だったのか,設備面を例にご
説明しましょう.
実は,コンシューマ向け光サービスの工事というのは
ださい.
開通と廃止の繰り返しなのです.例えば,繁忙期といわ
NTT西日本は,光サービスを活用し,人々の暮らし
れる ₂ ~ ₃ 月の工事量は例月の₁.₅倍くらいあります.
や働き方を変える新しいライフスタイルの創造をめざし
何とか総動員して期間内に工事を終わらせましたが,後
ています.₂₀₁₅年度は「営業戦略の転換」
「地方創生へ
でその工事内容を確認すると,開通と廃止の数がほぼ同
の貢献」
「成長ビジネスへの展開」を掲げました.
じで,ストックは増えていませんでした.これでは,収
「営業戦略の転換」については,コンシューマ向けは光
コラボレーションモデル(以下,光コラボ)に転換し,ビ
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ためにどのような姿勢で臨むべきか,経営戦略,
NTT技術ジャーナル 2016.6
入は増えないので,多額の営業費が無駄になるだけで,
ビジネスモデルとしては長続きしません.
そこで,光コラボという仕組みをつくったのです.私
たちのこれまでの主力サービスであるブロードバンド
サービスの「フレッツ光」を,協力してくれそうな事業
者様に卸して彼らの自社サービスと組み合わせて提供し
てもらう事業提携モデルです.光コラボはこうした営業
費用の使い方を見直すための,NTTグループ全体のビ
ジネスモデルの大変革でもありました.₂₀₁₅年 ₂ 月から
サービスを開始し,光サービス純増₂₀万契約をめざして
取り組みましたが,計画を上回り,このモデルの手ごた
えを感じました.
また,ビジネス営業の分野においては,売上高₆₀₀₀億
ントを拡大するプロジェクトを発足しています.新しい
円の目標を掲げ,ほぼそれを達成しましたが,営業利益
技術を山間地を含む観光エリアでもご利用いただけるよ
についてはもう一歩という状況でした.引き続き,今後
うにさらなるアクセス光の整備も課題です.訪日外国人
の事業の柱になるように収支改善を続けていかないとい
に人気のある熊野古道や白川郷等,観光地はやはり自然
けません.
豊かな地域が多いですから,文化財や美しい景観を損な
ビジネス系サービスの収益改善のためには,設備コス
わないようにインフラを整えなくてはいけません.目立
ト全般を削減していく必要があります.そのために,淘
たない場所へのアクセスポイントの設置やサービストラ
汰サービスを廃止するとともに,設備を撤去し,オペレー
イアルも順調に進んでいます.
ションコストを下げるなどして,₂₀₁₅年度から ₃ カ年で
設備コストを₈₀₀億円低減する計画を立てました.
◆目標を達成するための重要課題はどんなことですか.
また,今後はどのような取り組みを考えているので
しょうか.
問題を解決したいなら現場へ赴き,直に
確認せよ
◆改革に挑み,経営的にも手ごたえがあったのですね.
光コラボでは,お客さまがワンストップで,かつスムー
だいぶ,行ったり来たりがありました.コラボ光の販
ズにサービスを利用いただけるように,光コラボレー
売では, ₁ 年かけて光コラボレーション事業者様とじっ
ション事業者様と連携して準備を進めました.
くりと話し合いを重ねてきた結果,当初は気付かなかっ
また,光コラボレーション事業者様が売りやすい仕組
た点もかなり見えてきました.
みを構築しなければいけないと考え,私たちの故障切分
また,ビジネス系サービスも,マス系に比べると,こ
けシステムの一部をご利用いただけるようにしました.
れまであまり力が入っていなかったので多くの課題が見
こうした中で,光コラボレーション事業者様から私た
つかりました.トラブルに関してはあちこちからノイズ
ちが気が付かなかった光サービスの使い方などもご提案
が上がってきます.トラブルが発生したら,少しでも早
いただき,私たちの光インフラを有益に活用いただく機
くそれに気付き,手当てをすることが大切です.現場が
会が増えました.
困っているときに,本社ではどんなサポートができるか
ビジネス営業の分野では,お客さまの要望に合わせて,
を考えるのが私の仕事です.現場に赴いたときには何か
さまざまなサービスを組み合わせてご希望の日時にきち
困ったことはないか,できることはないかと直接声をか
んと提供していく必要があります.そのためにはデリバ
け,本社でするべきこと,現場ですべきことの整理に務
リの体制やカスタマコントロール機能の強化が課題にな
めています.自分で直接聞いて確かめることで判断の間
ります.
違いを少なくすることはできます.部長,課長クラスを
また,これらの光サービスを支える設備の仕組みづく
はじめ,さまざまな立場の人から話を聞くことはとても
りも重要です.スマートフォンやタブレットで,動画配
重要です.数が少ないと意見が偏りますから,できるだ
信サイトを利用して映像を楽しむ人が増えていること等
け多くの人から話を聞いて物事を多面的にとらえるよう
から,トラフィックが急増傾向になりつつあり,さらに
にしています.
は₂₀₂₀年のビッグイベントも想定して,ネットワークの
この,人と会って直接話しを聞くという習慣は,会社
大容量化や高速化に取り組んでいます.Wi-Fiに関して
内ではもちろん,外での会合の席でも実践していますよ.
は,地方創生も兼ねて,自治体と連携し,アクセスポイ
電話で聞けなかったことも,顔を合わせるとより具体的
NTT技術ジャーナル 2016.6
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に聞くことができますからね.その場合でも,相手に本
一方で企業としての成長と社会貢献についてのバラン
社へ来てもらうのではなく,自分から訪ねて行って相手
スを忘れてはなりません.NTTグループには日本の社会
のテリトリーで話をすることです.より本音の話が聞け
インフラを支えているという自負があります.この使命を
ますよ.
永続的に果たすためには一企業としての成長も充実させ
そして,私たちの仕事は常にやり方を見直さないと,
ていく必要があるからです.より良いインフラを提供す
タイムリーにお客さまのご期待に沿うことはできませ
る,適正な投資をする,お客さまに存分に活用していた
ん.例えば,設備面においては ₃ ~ ₅ 年先を予測して計
だく,ご利用いただいた利益をまたインフラを整えるた
画を立てているのですが,私たちが想像していた以上に
めに投資するという好循環を生み出していきたいですね.
トラフィックの伸びが急上昇することもあるので,緊急
現在,新しいサービスを生み出すための営業フロント,
対応を余儀なくされたこともありました.マーケティン
サービス開発,研究開発,設備の社内のさまざまな部署
グやお客さま個人の動向を注視し,技術的な可能性等を
からメンバーを募ったワーキンググループがあります.
総合的に判断し,臨機応変に対応できる余裕も常に持っ
これは「何か問題が起きたとき,どの部署に相談するの
ていなければなりません.
が適切かどうか分からないので各部署の仕事を把握した
◆技術のみならずマーケティングや消費者の動向など,
うえで相談できるようにしてほしい」という社内の声に
常に総合的な判断やタイムリーな対応が求められるの
端を発しています.そのために一連の関係部署,営業を
ですね.
しているフロントから研究開発センタまで,忙しい中で
ただし,大きなイベントがあるから,ニーズがあるか
らといって,それに合わせてタイムリーに設備やサービ
スを充実させるだけで良いわけではありません.例えば,
映像トラヒックの増加に関してはある程度の予測がつき
ますが,IoT(Internet of Things)に関しては今後どの
ような変化が起きるのか予測できない部分もあります.
見えてこない部分を次のネットワークの仕掛けにどう反
映するかも考えなければなりません.確かに農業や他の
産業においてIoTの活用は伸びると思いますが,どのよ
うなビジネスモデルになり,どんなネットワークにすれ
ば良いか,まだまだ検討が必要です.
時間のやりくりをしながらワーキンググループに参加し
ています.それぞれの部署が最善を尽くしているという
自負もありますから,意見をまとめるのには相当の時間
がかかります.しかし,あるポイントを過ぎると,霧が
晴れたように,ゴールがクリアに見えてきます.ゴール
が見えないと前進することをためらったり,諦めたりす
ることもありますが,私はとにかくやってみよう.ダメ
なら戻って違う方法を試したら良いと呼びかけていま
す.私の役割は彼らに方向性をはっきりと示すことだと
思っていますので,生み出された意見や結果等に応じて
そのゴールは少しずつ変化していきますが,目的をしっ
かりと伝え共有してもらうことに努めています.
プロセス,時間の感覚を大切にしながらゴールをめざ
していきたいですね.結果は必ずしも時間に比例して付
いてくるものではありません.しかし,思いどおりの想
定した結果が得られないからといって叱っていては,皆
の遂行する意欲は萎えてしまいます.上手くいったこと
は具体的に褒め,それを原動力にゴールをめざしていた
だきたいと思います.
チャレンジ!チャレンジ!変化は怖くない!
◆研究者の皆さんに一言お願いします.
日々新しい技術やサービスに関する成果をさまざまな
企業や研究所が発表しているのは周知のとおりです.以
前のように情報通信に関するすべての分野の牽引役を
NTTが一手に引き受けるというのは難しい時代になっ
てきました.しかし,自前主義を捨ててさまざまな企業
が生み出した技術を目利きし,私たちの独自の技術と組
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NTT技術ジャーナル 2016.6
み合わせて新しいものを生み出すことができるのではな
いか,またそういう存在になるべきだと思っています.
これまでのように年単位の時間をかけて,ゼロから出
発するのでは時代やニーズに追いつきません.その技術
の専門家でありながらも,プロデューサの視点に立って
新しい技術,サービスを迅速に生み出してほしいですね.
また,足繁く事業会社を訪ねていただけたら良いですね.
困っていることを目の当たりにしたり,生の声を直接聞
ける事業会社はアイデアの種の宝庫なんですよ.
◆社員の皆さんにも一言お願いします.
開発やサービスの部署において経験を積んでいくと
サービス開発を担当していたとき,私は次々と新しい
「答えのない仕事,先の見えない仕事」にぶつかります.
サービスを手掛けましたが,現在まで残っているのはIP
課長,部長クラスになるとこういった経験をしたことの
電話くらいです.もちろん,百発百中は理想ですがそん
ある人も増えてくるでしょう.そんなとき,周囲のデキ
なに上手くいかないのが世の常です.結果にこだわらず
る同僚は一歩ずつ着実に進んでいました.落としどころ
に生み出すことにチャレンジしないと成功するチャンス
が見えなければ不安で進めないのではないかと思ってみ
も逃してしまいます.
ていましたが,その同僚はあれこれ悩まず,できること
皆さんが「チャレンジ」しやすいように,会社も環境
をきちんと一歩ずつ進めて,結果的に仕事を早く成功裏
を整えています.今年度はトライアルとして,各部署か
に終わらせました.
らの自発的な発案に予算をつけて,チャレンジしても
私は「チャレンジ」という言葉を良く使います.変化
らっています.成功,失敗という結果は問いません.結
を厭わずに何事にもどんどん取り組んでほしいと思って
果から何らかの知見は得られるでしょうし,日常のルー
います.手法,戦略,方法を変えないことが一番のリス
チンから離れて,好奇心や達成感が得られて, 次につな
クだと考えています.失敗しても良いのです.失敗して
がれば成功だと思います.
会社をクビになった人はいません.自ら発案し,実施し,
成功すれば,これほど楽しいことはないと思います.昔,
どうぞ思い切って新しい可能性へ飛び込んでください.
(インタビュー:外川智恵/撮影:太田未来子)
インタビューを終えて
黒田常務のお人柄について,社員の方にインタビューの前後に伺ったとこ
ろ,「“常務が褒めていたよ” と人伝えに聞いたことがあります.嬉しかった
です」とにこやかにエピソードを語ってくださいました.部下やプロジェク
トは褒めて育てるという黒田常務.部下を思いやり,話しやすい環境を整え
ていらっしゃる様子はこんな一言からも伺い知ることができます.インタ
ビュー中,常に分かりやすい言葉で経営環境や展望について解説してくださ
いましたが,ご趣味について伺うと,
「散歩をしているか,本を読んでいるか,
あまり特別なことはしていないですよ」と急に口が重くなられたのです.そ
れでもと食い下がりどんな本を読んでいらっしゃるかを尋ねると,若干照れ
ながら,「図書館で本を借りています.最近はISのニュースを見ながら彼らが
どんな思想に基づいているのか知りたくてコーラン(イスラム経典)関係の
本を読んでみました」とおっしゃいます.物事の根本を知るという探究心,そして,図書館に自ら足を運ぶとい
う行為そのものも,問題解決に全力で取り組む黒田常務の姿勢の表れかもしれません.お話しなさるときは努め
て冷静ですが,時折見せてくださる笑顔がとても印象的でした.
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