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仮想物体の相互接触による破壊の表現
日本バーチャルリアリティ学会第 8 回大会論文集(2003 年 9 月) 仮想物体の相互接触による破壊の表現 Destruction of virtual materials caused by their Collision 高橋琢理,本間達,若松秀俊 Takuri TAKAHASHI, Satoru HONMA and Hidetoshi WAKAMATSU 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 (〒113-8519 東京都文京区湯島 1-5-45, [email protected]) Abstract: The deformation of materials is discussed using their virtual ones. The virtual materials are realized as combinations of trihedral structure of mass and Kelvin-Voigt model. Its destruction is regarded as the collision of two virtual materials and their interrelated force. The materials are subdivided to several self-similar trihedral parts for collision detection. Then, the human head model is virtually synthesized, applying the proposed method to human MRI data. Key Words: Destruction, Virtual materials, Medical image data , MRI 1. はじめに 外科手術シミュレータなどをはじめとして医学分野で 様々な VR 技術を応用した研究が行われている.人工的に 構築した人体を用いることで,生体に対する侵襲的な行為 の反復的なシミュレートが可能になる.このために,粘弾 性体モデルを用いて人体もしくはその一部を仮想的に構 築し,様々な操作を加える研究が試みられてきた[1]. これらの研究の多くは医療措置を前提としているので, 弾性限界内での操作もしくは操作者の意図する破壊のみ を目的としている.このため偶発的な外的要因に基づく人 体の破壊を模擬することは困難であり,交通事故などの際 に人体が受ける被害を予想しうるものではない. 著者らはこれまでに仮想物体の破壊を前提とした力覚 表示システムを構築してきた.これは粘弾性体モデルで構 築した仮想物体を任意の形状に切離するシステムであり, この実現のためにリアルタイムで破壊可能な仮想物体の 構築手法について提案してきた. 本研究では,これらを基礎として仮想空間内に存在する 複数の仮想物体が相互に及ぼす作用について考える.次に, 粘弾性体モデルを用いて仮想人体モデルを構築し,このモ デルに外力が作用した場合の破壊について検討する. 2. 粘弾性体モデルを用いた人体モデルの構築 2.1 基本モデルの構築 仮想物体に物性値を与えるために,質点を粘弾性体モデ ル(Kelvin-Voigt model)(以下,接続要素)で連続的に接続 して構成する.仮想物体は正四面体を基本構造とし,その 頂点に質点を配置する[2][3]. 質点に及ぼす力は式(1)で表される.ただし,k は弾性係 数であり,L は質点間の基本の長さである.また l はある 時刻 t における質点間の長さである.すなわち(L-l)は質点 間の変化長を表す.またγは粘性係数であり v は質点間の 相対速度である. (1) F = k ( L − l ) − γv 2.2 仮想物体の相互作用と演算処理の低減 次に複数の仮想物体が接触する場合について述べる.仮 想物体の各質点と,もう一方の仮想物体の質点との距離を 調べ,これが仮想物体を構成する単位正四面体構造の一辺 の長さより小さい場合接触したとみなす.しかし,この方 法では質点の増加に伴い計算量が指数オーダーで増大す るので,短時間で処理するには不適当である.そこで領域 分割を用いて処理を簡略化する. 本研究では,あらかじめ仮想物体に接触判定に用いる領 域を正四面体構造で設定する.これを大きな正四面体と呼 ぶ.この大きな正四面体が接触したら,小さな正四面体に 分割する.分割は自己相似形であるシェルピンスキー (Sierpinski)のガスケットを基本とした 3 次元ガスケット 構造で分割する.シェルピンスキーのガスケットを採用し た理由は接触判定の必要な個所を限定することが可能な ことと,仮想物体の基本構造に正四面体を用いていること が挙げられる. 以下,自己相似を用いた接触にかかわる処理について述 べる.接触判定の第一段階では分割前の接触判定領域に対 して判定を行う.仮想物体が相互に接触可能な距離に配置 された場合,仮想物体の接触していると判定された各部位 を先に述べたガスケットの形式で分割する.第二段階では これらの分割された部分について衝突判定を行う.接触が 発生したとみなせる場合には,その領域に対してのみ改め て分割を行う.以下,同様に接触個所に対して適当な回数 だけ分割および接触判定処理を繰り返す.第三段階ではこ れらの処理が終了した時点で,接触領域に属する質点に対 して,接触による力の算出を行う.仮想物体間の接触での 判定処理に要する計算量が削減できる. 本手法では物体が変形すると質点間の接続要素が破壊 される場合があることを想定している.また,仮想物体の 自己相似モデルによる接触判定を行う.これにより仮想物 体の接触によって変形が生じる.このようにして複数の仮 想物体が接触し,相互作用を与え合うことで物体の破壊を 表現することを可能とする. この力による変形は差分法を用いて解析的に求める.接 続要素には耐久限界を設定して破壊を表現する.すなわち, 2.3 仮想人体モデルの構築 ある一定値以上の力を接続要素が発生する条件で要素は MRI あるいは X 線 CT などから得られる人体の医用画像 切断する.すなわち質点を結ぶ接続がなくなるので力は発 に基づいて仮想人体モデルを構築する手法について検討 生しない.これにより,物体の変形と破壊を表現する. する.これらの医用画像ではボクセルベースの三次元デー タによって記録されているので,まず基本モデルの四面体 構造を立方体構造であるボクセルに対応する手法につい て述べる. 正四面体構造を図 1 のように組み合わせて面心立方構造 とする.この立方体をボクセルデータと対応するように配 置する.これにより医用画像から得られたボクセルデータ に粘弾性体モデルを対応した.この場合,単独のボクセル に対し,1 ボクセルあたり 14 個の質点が配置される. この手法により,頭部 MRI のデータから皮膚部分およ び頭蓋骨に注目し,仮想人体の頭部モデルを構築する. 視点方向 1層 2層 3層 クセルである.この 1 ピクセルがすなわち上述のボクセル データに対応する.このデータに対し平滑化をした上で 1/4 に縮小したものを用いた.更に二値化処理を行い,閾 値の範囲内のデータ部分に,面心立方格子を配置した.ま た,面心立方格子のうち,隣接するボクセルと共通の質点 を有するものは,これを取り除いた.処理の単純化のため, すべての部分で質点が持つ質量および接続要素のパラメ ータは一定とした.この仮想頭部モデルの構成に使用した 接続要素数は 12672,質点数は 4928 であった. これらの実験は Athlon 1.4GHz×2, メモリー1G バイト, ビデオメモリ 128M バイト,Linux Ver.2.4.21 の自作機上で C 言語を用いて記述したプログラムにより行った.プログ ラムによる動作は両眼視差を用いて立体視を可能とした. 4層 図 1 立方体の面心立方格子による表現 3. 実験と結果 3.1 基本モデルの破壊 まず,ボクセルデータを正四面体構造を用いて構築し, これに対して正四面体構造を用いて外力を与えた場合の 変形および破壊について観察した. 立方面心構造を用いてボクセルを表現した柔らかい仮 想物体(以下物体 A)上に,正四面体構造の硬い仮想物体(以 下物体 B)を接触させた場合のシミュレーションを行った. このときの変形の様子を解析した.単位四面体構造は一辺 の長さを 14.142 とした.ただし,上述の手法を用いて構築 したボクセルの一辺を 20 とした.物体 A は 2×2 のボクセ ルで構成した.物体 B は重力に従い自由落下し,弾性力に よる跳ね返りを抑えて破壊を実現するために重力方向へ さらに力を加えた.これらにより下に設置されたボクセル 状仮想物体に衝突し,破壊と一部を切り離す様子を図 2 に 示した. 1 2 3 図 3 頭部 MRI 画像から構築した仮想人体頭部 4. 考察 本研究では十分に硬い仮想物体と柔らかい仮想物体の 相互作用により切離を表現した. ところで,衝突が生じていない場合に物体内部の相互作 用による力の計算量を削減する方法については今回十分 な議論をおこなっていない.構築した仮想物体が多量の質 点・接続要素をもつため,本例では実時間で変形・破壊を 表現することが出来ていない.今後実時間内でのシミュレ ーションの方法について考える必要がある. 5. おわりに 複数の仮想物体が仮想空間内において相互に影響を与 える状況の処理,すなわち衝突の判定と衝突に伴う仮想物 体の破壊について議論した.また,この方法を用い,実際 に複数の仮想物体が相互作用を行う状況についての実験 を行った.更に,頭部 MRI 画像データを用いて仮想人体 モデルを構築した.複数の仮想物体を仮想空間内に構築し, その破壊を表現することができた. 参考文献 4 5 6 図 2 仮想物体の変形の様子 3.2 仮想人体モデルの構築 次に,本手法を用いて人体頭部 MRI データから仮想物 体を構築した例を図に示す.これは Analyze フォーマット で記録されている.一画像あたりの解像度は 256×256 ピ [1]溝渕友樹,広田光一,金子豊久:頭部変形の実測とば ねモデルによる力覚の再現,電子情報通信学会論文誌 Vol. J85-D-II No.3,pp. 466-474, 2002. [2]本間達,若松秀俊,張暁林:粘弾性体モデルで表現し た仮想物体の構築と加工,電気学会論文誌,Vol. 119-C, No.12, pp. 1437-1443, 1999. [3]本間達,若松秀俊:リアルタイムで切離可能な仮想粘 弾性物体の構築,日本バーチャルリアリティ学会論文 誌,Vol. 6, No.2, pp. 137-144, 2001. [4]本間達,若松秀俊:ノコギリによる切離抵抗力の表現, 電子情報通信学会論文誌 Vol. J84-A No.6,pp. 860-869, 2000.