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テーマ「スポーツによる味覚嗜好性の変化 ―生理学的な考察―」
平成 23 年度 第 5 回スポーツ講座 平成 23 年 6 月 15 日 テーマ「スポーツによる味覚嗜好性の変化 ―生理学的な考察―」 講師:岡山大学大学院医歯学総合研究科 口腔生理学分野 松尾龍二先生 報告者:岡山大学農学部 1 年 林孝晴 内容 味覚・嗜好・スポーツの相互関係を題材とした講座である。そもそも味覚とは食物に含まれる塩味 甘味・酸味・苦味・うま味などの味物質が舌状にある乳頭の味蕾へ到達して、そこから味神経を介し、 脳内で味の情報処理がなされることで発生する感覚であるが、実はこの過程において唾液が大きな役 割を担っている。唾液に味物質が溶けることで唾液由来物質との化学反応が起きて、味蕾へ到達する ことができ、唾液があることにより味蕾の感受性が保たれている。唾液が分泌される唾液腺には耳下 腺、舌下腺、顎下腺の三大唾液腺があり、これらの開口部は複数の乳頭の近くに位置している。味蕾 の下にもエブネル腺という小さな唾液腺がある。機能的にも、構造的にも味の受容には唾液が大切で あるとわかる。 また、嗜好は脳での情報処理により発生している。識別した味からその食物が何であるかを判断し て、それが好きか嫌いか、美味しいか不味いか、さらにはもっと食べたいか、二度と食べたくないか という決定がなされているが、体が必要とする物質を摂取するために本能的に嗜好が決定されること もある。体内環境の変化による嗜好への影響は大きい。 以上から、これら味覚や嗜好性はスポーツをすることで大幅に変化することがある。スポーツによ る口腔内環境の変化、すなわち唾液の分泌量の減少や唾液のイオン組成の変化により、味受容器の感 度が変わり味覚が変化する。スポーツによる体内環境の変化、すなわち血液中の水分・血糖量・イオ ンなどの減少で、水分・糖分・塩分を望む嗜好性に働く。個人差はあるが、スポーツ終了後のスポー ツ飲料が美味しく感じられるのはこのためであり、これらの変化は運動中適度にスポーツ飲料を摂取 することで改善することが可能である。またスポーツでなくとも、たとえば緊張しているときのスト レス負荷状態でも味覚が変化することもある。総じて体調の変化で味覚・嗜好が変わるといえる。 動物実験の結果から、唾液が少ないと固形物の味は感じにくい、唾液が無いと塩分をより敏感に感 じ、甘味を薄く感じるようになる、体に不足している物質があるとき、それを積極的に摂取するよう になる、嗜好には学習効果が存在するなどいろいろなことが判明している。 感想 体内環境によって嗜好性が変わり、食べたいものが変わってくることは幾つか経験していますが、 運動後に水分が欲しくなったり、イライラしているときに甘いものが欲しくなったりと、それらが体 の望むものであるから摂取したくなるのだというのは、今回の講座に参加して納得がいきました。 味覚における唾液の重要性、スポー ツによる口腔環境の変化など、初め て知ったことも数多くありました。 普段の生活では思い付かないような 内容を、短い時間ながら考えること ができ、生物の身体機能の奥深さに ついて学べたことを嬉しく思います。 松尾先生は分かりやすい図を用い たスライド形式で、丁寧にお話しく ださいました。貴重なお時間ありが とうございました。 講座風景