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ア メリカ Stowers Institute for Medical Research(`11)

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ア メリカ Stowers Institute for Medical Research(`11)
Stowers Summer Scholars Program
平成 20 年度入学 文平令法
はじめに
す。10 週間の期間を確保することが求められ、その間スト
私は 4 回生のマイコース期間に武田先生のご紹介でアメリ
ワーズの研究室に配属されて研究・実験をすることになり
カ・カンザスシティのストワーズ研究所にサマースカラー
ます。あとから研究所の担当の方に聞いた話ですが倍率は
として短期留学しました。マイコース期間中に海外で研修
非常に高く、200 人以上の応募に対して参加できたのは 20
された先輩方や、もっと早くから海外留学を経験していた
人程度だったとのことです。
同回生の話を聞いてこの期間には海外に出たいと思い、武
田先生に相談したところこのプログラムを紹介していた
アプリケーションについて
だき、とても貴重な経験が出来ました。
サマープログラムへの応募には、エッセー2 通、推薦状 2
通、成績表などが必要です。エッセーは、1 つはストワー
研究所について
ズ研究所の研究で興味を持ったものについて、もう 1 つは
今までに自分がしたことのある実験について書くことに
なっていました。私の場合、アプリケーションのための準
備を始めたのが 1 月中旬で、締め切りが 2 月 1 日だったの
で本当にギリギリでした。エッセーを武田先生に何度も添
削していただいたことが受け入れてもらえた一番の理由
だと思います。応募は、来年は少し変わるようですが、今
年はオンラインか郵送ですることになっていました。
海外の学生について
Stowers Institute for Medical Research は米ミズーリ
このプログラムにはいろいろな国の学生が参加していま
州・カンザスシティにある医学研究所です。不動産王スト
した。
ワーズ夫妻の寄付によって約 10 年前に設立されました。
もちろんアメリカ人・ヨーロッパ人が最も多かったのです
アメリカ中部としては珍しく、非常に資金に恵まれた研究
が、彼らは主に修士課程の学生でした。
所です。for Medical Research という名前ですが基礎的な
新聞などでも話題になるように中国人学生はアメリカ留
研究に非常に力を入れていました。研究所で出会った日本
学志向が強く、このプログラムを利用して留学先の候補と
人の Ph.D コースの院生の方から聞いた話ですがストワー
してこの研究所を体験しているようでした。留学思考が強
ズは生化学者が多く、蛋白に焦点を当てて研究している人
いため TOEFL や GRE に向けた勉強をしっかりとしてい
が多いとのことでした。
るようで、英語のレベルも相当に高かったように思います。
サマープログラムについて
全体としてアメリカから 3 割程度、ヨーロッパから 3 割程
今回私が参加したプログラムはストワーズ研究所が世界
度、中国から 2 割程度という感じを受けました。
各国の学生に医学研究、またストワーズ研究所を体験させ、
Ph.D コースに志願してもらうために行なっているもので
滞在中の生活について
やく空きを見つけ面接の予約をすることが出来ました。キ
このプログラムは非常にサポートが手厚く、旅費・宿舎・
ャンセルがあったみたいでとてもラッキーでした。ビザは
食事・保険の援助が受けられました。カンザスシティは市
すぐに発行されるのではなく 5 日ぐらいで郵送されてきま
街域がとても広範囲に広がっており、車がないと移動が困
した。アメリカ大使館のホームページでは 7 日〜10 日、
難なところです。実際、一番近いスーパーまでは 40 分く
場合によっては 1 ヶ月くらいかかることもあると書いてあ
らい歩いていかなければなりませんでした。そのため夕食
ったので早めに行動するようにしましょう。
に困ることがないようにカフェの冷蔵庫にランチの残り
ちなみに B1 ビザは短期商用ビザです。渡米前からいろい
物がおいてあり、これをセルフレジで購入することができ
ろと手引きをしてくださったストワーズの研究者の杉村
るようになっていました。カフェの食事はボリュームたっ
さんはかつてこのプログラムに参加するとき B1 ビザを持
ぷりでしたがとても豪華で美味しかったです。
っていったとのことでした。
プログラム期間中は研究所から歩いて 20 分くらいのとこ
ろにあるホテルに宿泊していました。私の滞在していたと
研究所での生活
ころは長期滞在用のホテルでキッチンがついていました。
これは研究室によって、また各研究者によってずいぶん異
ベッドメイクも 1 週間に 1 度してもらえたので快適でした。
なります。僕はアメリカ人のボスの研究室に配属されてい
このホテルも研究所が用意してくれました。
たので比較的自由にスケジュールを決めることが出来ま
した。だいたい 9 時には研究室について夜は 7 時くらいま
ビザについて
で実験していることが多かったです。でも決して何時から
サマープログラム参加にあたってはビザが必要でした。
「3
何時まで働くようにと言われていたわけではなく、自分で
ヶ月以内なのでビザ無しでもいけるのでは?」と尋ねたの
決めた分だけ働いていました。日本の研究室では 10 時く
ですが必ず必要とのことでした。私は J1 ビザでアメリカ
らいまで実験することもあったのですが、ここでは夕方 5
に入国しましたが B1 ビザでも良かったのかもしれません。
時になると研究室には他には誰もいないのであまり遅く
J1 ビザとは交換訪問者ビザで留学の時に使うことが多い
ならないようにしていました。中国人のボスの研究室で研
ビザです。1 人 5 年までのビザなのでここで使ってしまっ
究していたスカラーのなかには 9 時くらいまで働くように
たのは勿体無かったかもしれません。私の場合、約 3 ヶ月
言われている学生もいました。ヨーロッパ系のボスの研究
分使ってしまったのであと 4 年 9 ヶ月までということにな
室では逆にゆったりしているのかもしれません。
るみたいです。J1 ビザの申請には DS-2019 という文書を
配属された研究室でスカラーはポスドクなどの研究者と
受け入れ先の機関から発行してもらうことが必要です。こ
一緒に働くことになります。自分の研究分野と同じ事を研
れが届いた後、その他にいくつかの書類を用意してアメリ
究している研究室に受け入れられたスカラーのなかには
カ領事館で面接を受けることになります。面接ではどこで、
自分一人で興味のままに実験しているのもいました。私は
どれだけの期間、何をするのか、など 3 つか 4 つの簡単な
今までやったことのないプロテオミクスの研究室に配属
質問に答えます。面接自体はとても簡単でほとんどのケー
されたのではじめは一人のポスドクの方にプロトコール
スで認可されるようですが、私が面接をうけた 7 月は短期
を教えてもらいながら実験していましたが、慣れてくると
留学シーズンで面接の予約が取りにくいので注意が必要
一人で実験するようになりました。私の場合、プロトコー
です。面接の予約はオンラインですることになっているの
ルを書いた紙をもらっていましたし、質問したら答えても
ですが、私の場合 2 日にわたって何度もチェックしてよう
らえるので今までやったことのない実験をすることにな
RelA のみではなくその他蛋白も強発現させてどんな蛋白
っても大丈夫でした。
が complex を形成するか調べていました。
研究内容
プログラムに参加するスカラーはプログラムの終わりに
私はプロテオミクスのラボで研修していました。この研究
ラボミーティングに於いて自分のプロジェクトについて
Protein
プレゼンすることが求められます。私の場合パワーポイン
Identification Technology) を 用 い て 転 写 に 関 わ る
トを用いて 40 分程度のプレゼンをしました。ラボのメン
machinery の研究をしていました。MudPIT とは Liquid
バーから質問されることもあり、サマープログラムを通し
Chromatigraphy で 泳 動 し た ペ プ チ ド 断 片 を mass
て最もハードな体験でした。
spectrometer で分析し、得られたスペクトルをさらにコン
また自分のプロジェクトについての報告書を、プログラム
ピューターでゲノムデーターベースと照合し、それぞれの
を主催している大学院学生課に提出することも求められ
スペクトルがどの蛋白を示すのか解析するものです。普通
ます。これを提出することにより学生課のトップの方に将
の質量分析だと蛋白の質量を調べるだけですが、コンピュ
来的に使える推薦状を書いてもらえることになっていま
ーター解析と組み合わせることで即時に蛋白の同定がで
した。この推薦状はアメリカの大学院やメディカルスクー
きる所がこの技術の特徴です。この技術を最初に確立した
ル出願の際に使えるらしいです。
室
で
は
MudPIT
(Multidimensional
John Yates という人がアメリカ西海岸にいるのですが、
ストワーズ研究所での私のボスの Washburn さんは Yates
カンザスシティについて
の研究所でその確立に携わった人物です。
研究所のあるカンザスシティはミズーリ州とカンザス州
にまたがっています。その名前に反してカンザスシティの
なかで繁栄している部分はミズーリ州側にあります。アメ
リカのほぼ中央に位置し、Heart of America の別名を持ち
ます。数十年前まではギャングがはびこり非常に治安の悪
い都市でしたが近年では改善し、滞在中も危険を感じるこ
とはありませんでした。私が滞在していたホテルや研究所
は Country Club Plaza という観光客の集まるショッピン
グモールのある地域にあり、とても安全なところでした。
しかしシティの中には治安の悪い地域もあり、道を一本超
HPLC ポンプと Mass Spectrometer
えるだけでとても危険と言われているところもありまし
た。残酷な話ですがアメリカでは高所得者と低所得者の地
MudPIT を用いて転写因子 NF-κB と complex を形成する
域の住み分けがはっきりしており、犯罪が起こる地域も集
蛋白を同定することがここでの私の研究プロジェクトで
中しているとのことです。アメリカ留学を考えられる方は
した。NF-κB family のメンバーの一つである RelA をタグ
現地に住む人にどこが、また何をするのが危険なのか聞き、
付けしておいて、これを培養細胞の中で強発現させて
危険だと言われたことは絶対にしないことが重要です。
complex を形成させて RelA とともに pull down します。
マイコースプログラムでヨーロッパに行かれる方も多い
得られた蛋白を Lys-C とトリプシンにより制限酵素処理
と思いますが、ヨーロッパに比べるとカンザスシティは楽
した後に MudPIT でどの蛋白が得られたのか探索します。
しみの少ないところかもしれません。ただアメリカは飛行
機が交通手段として普及しており、航空券の価格も安いの
このプログラムに興味を持たれた方へ
で飛行機を使って旅行するといいと思います。私はアメリ
このプログラムは医学・生物学研究者になろうとしている
カ滞在中にニューヨークとロサンゼルスに行きました。航
学部学生・院生を対象にしたプログラムなので、実験がで
空券は NY までが 300 ドルくらい、LA までが 200 ドルく
きる、あるいはできる実験があることが必要条件です。こ
らいでした。(いずれも往復)
のプログラム中に所属しているラボのボスに使えると判
断されると研修期間終了後も undergraduate researcher
出発までに
として引き続き研究を続けることができます。また見込み
私は 3 回生の 2 月から斎藤先生の研究室で実験を教わりま
があると判断された学生はボスに強力な推薦状・紹介状を
した。斎藤先生の研究室ではトランスジェニックマウスの
書いてもらうことができ、それは Stowers の Ph.D コース
作成を教えて頂きました。それまで私は生物学実験の経験
に合格する助けとなります。京都大学医学部の学生でその
は殆ど無く、大学に入ってからカリキュラムにある実習で
ままアメリカの研究所に残りたいと思う人はほとんどい
実験をしたことがあるくらいでした。授業の実習では意味
ないと思いますが、そうしたプログラムの性格上実験はし
もあまり理解できないまま実習書のプロトコール通りに
っかりできるようにしておきましょう。
試薬を加えるだけでしたので、始めた時点では当然何もで
研修は基本的にエッセーで取り上げたラボでさせてもら
きませんでした。4 回生になると授業や部活も忙しかった
えるようでしたが、私は希望に反してプロテオミクスのラ
のですが、実験を教わっていた栗本先生から「自分のスケ
ボですることになりました。あとから聞いた話ですが、僕
ジュールを考えて無理のない範囲で」とおっしゃっていた
が希望を出した研究室は都合上サマースカラーの受け入
だき、アメリカ出発まで実験を習うことが出来ました。斎
れができなかったので大学院学生課が私をプロテオミク
藤先生の研究室では、PCR のやりかたや制限酵素反応・ラ
スのラボに振り分けたとのことでした。希望はかなわなか
イゲーション反応のセットの仕方から BAC modification
ったものの MudPIT という新しい技術に触れられたこと
までを教わりました。またその過程で DNA シークエンス
は自分にとってとても良い経験になったと思います。ホー
の仕方なども習いました。半年弱の短い期間でしたがいろ
ムページを見ればどんなことをやっているか知ることが
いろなことを教わり、このことがアメリカで実験をする上
できますが、Stowers はクロマチンについて研究している
で本当に助けとなりました。
人が多いです。また研究者の多くは生化学者だと聞きまし
英語については準備が不十分であったと思います。海外で
た。現地の日本人研究者の方に聞いた話ですが、ウエスタ
話されている英語というのは思っていた以上に速かった
ンブロットなど蛋白の扱いに慣れた学生が来ると良いと
です。(センター試験のリスニングよりもずっと高速でし
思うけどマウスに慣れている人にはおすすめじゃないか
た。)もう少しリスニングのトレーニングをしていけばよ
も、とのことでした。もちろんそれ以外の研究もしていて、
かったなと思いました。
数学を用いて生物現象を解析する研究室や、マウスで嗅神
ただ実験に関して言うと、日本でもアメリカでも同じ実験
経の研究をしている研究室もありました。ちなみに私が希
キットを使って実験することが多いので、日本の研究室で
望を出したのはマウスを用いて造血幹細胞の研究をして
実験のプロトコールを英語で読むようにしていれば問題
いるラボでした。
ないと思います。実験について会話するときもこれくらい
サマープログラム出願にあたってエッセーは非常に重要
の単語がわかれば問題なくコミュニケーションできると
なものだと感じました。この研究所の人は自分が一緒に働
思います。
いた人のことを除けば海外にはあまり興味のない人が多
く、日本の大学のことはよく知らないようでした。したが
ってアピールする上で先生からの紹介状と自分で書くエ
ッセーは非常に重要なものです。しっかりと時間をかけて
書き、可能であれば先生に見て頂くようにお願いしましょ
う。
最後に
日本ではあまり行われていない研究、用いられていない技
術を体験するというのは海外に留学する一つの意義だと
思います。実際この期間中に私も MudPIT という新しい技
術を学ぶことが出来ました。しかし海外に留学するなによ
りの意義は外国人と一緒に働くことができるという点に
あると思います。私のいた研究室にはアメリカ人はもちろ
んイギリス人、フランス人、インド人、中国人、ルーマニ
ア人がいました。国際感覚、という単語がありますが、今
回のアメリカ短期留学はまさにこれを養う上でとてもよ
い経験になったと思います。また将来の留学を考える上で
今回アメリカの研究所を経験したことはすごくプラスに
なったと思います。貴重な機械を与えてくださった武田先
生、実験を教えてくださった栗本先生と斎藤研の皆様、ス
トワーズ研究所でお世話になった皆様に心より感謝して
います。
「海外に行ってみたい」
「将来的には海外留学を考
えている」というみなさんには学部生のうちに海外へ出る
ことをお勧めします。
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