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日本学術振興会ワシントン研究連絡センター 米国学術研究の動向
日本学術振興会ワシントン研究連絡センター 米国学術研究の動向 NIAID、ワクチン研究センター新所長にジョン・マスコラ氏を指名(10月17日) 国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)傘下機関の国立アレルギー感染症研究 所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases:NIAID)は、ワクチン研究センター (Vaccine Research Center:VRC)の新所長にジョン・マスコラ氏(John R. Mascola)を指名 した。マスコラ氏は、HIV・エイズやインフルエンザなどといった世界的に重要視されてい る感染症に対するワクチン候補の考案・開発・試験の責任者となると共に、VRC ウィルス 学研究所(virology laboratory)所長も務めることになる。同氏はジョージタウン大学医学部 (Georgetown University School of Medicine)で医学博士号を取得後、HIV ウィルス研究で多 くの実績を積んでおり、VRC 所長に指名される前は、2012 年 11 月に退任したゲリー・ネ ーベル前所長(Gary J. Nabel)に代わり、VRC 所長代理兼副所長を務めてきた。 National Institutes of Health, NIAID selects new director of the Vaccine Research Center http://www.nih.gov/news/health/oct2013/niaid-01.htm 1 NIH、アフリカにおけるゲノミクス研究10件総額1,700万ドルを助成(10月18日) 国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、「アフリカにおけるヒトの遺伝と 健康(Human Heredity and Health in Africa:H3Africa)」プログラムの第2次助成として、ア フリカにおけるゲノミクス研究10件に対し、今後4年間にわたり総額1,700万ドルを助成する と発表した。NIH 傘下機関の国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute:NHGRI)が運営する H3Africa プログラムは、NIH と英国の医学研究支援を目的と する公益信託団体ウェルカム・トラスト(Welcome Trust)との共同出資の下、一般的疾患 のゲノム・環境的決定因子の理解促進のために最先端研究を行うアフリカ人研究者の能力 を強化すること、長期的にアフリカ住民の健康状態を向上させることを目標として、2010 年の発足以来、今回を含めて約7,400万ドルの助成を行っている。今回の助成はアフリカの 遺伝科学者を養成し、アフリカ大陸における科学施設の建設を支援することを目的として いる。具体的には①共同研究センター、②個別研究プロジェクト、③倫理司法社会関連研 究プロジェクト、④試験的バイオレポジトリー研究プロジェクトの4部門に分かれており、 ①では、最高416万ドルを受給するユニバーシティ・カレッジ病院(University College Hospital、 ナイジェリア)による「アフリカ微生物叢ゲノミクス共同研究センター(African Collaborative Center for Microbiome and Genomics Research)」など2件、②では、最高74万ドルを受給する アジスアベバ大学(Addis Ababa University、エチオピア)による「エチオピアにおける結核 の分子解析のためのシステム生物学(Systems Biology for Molecular Analysis of Tuberculosis in Ethiopia)」など5件、③では、最高16万2,000ドルを受給するケープタウン大学(University of Cape Town、南アフリカ)による「ゲノミクスと鎌状赤血球症に対する公衆衛生学的介入に 関する見解調査(Exploring Perspectives on Genomics and Sickle Cell Public Health Intervention)」、④では、最高24万6,000ドルを受給するウィットウォーターズランド大学 (University of the Witwatersrand、南アフリカ)による「臨床実験サービスにおける H3Africa バイオレポジトリーの設立試験プロジェクト(Establishment of an H3Africa Biorepository at Clinical Laboratory Services:pilot project)」など2件、の合計10件となっている。 National Institutes of Health, NIH awards $17 million in grants to augment genomics research in Africa http://www.nih.gov/news/health/oct2013/nhgri-18.htm 2 NSF、北大西洋亜寒帯循環の研究を進める海洋学者らに総額1,600万ドルを助成(10月18日) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)は、米国が主導する北大西洋亜寒帯循環 プログラム(Overturning in the Subpolar North Atlantic Program:OSNAP)の一環として、地 球気候システムの重要な要素である海洋大循環の研究を進めるため、OSNAP の米国主任研 究員を務めるデューク大学(Duke University)、ウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institution)及びマイアミ大学(University of Miami)に所属する海洋学者に対 し、5年間にわたり総額1,600万ドルを助成すると発表した。NSF と英国の自然環境研究委員 会(Natural Environment Research Council)が共同出資する OSNAP は、米国、英国、カナダ、 ドイツ、フランス、オランダの研究者による国際共同研究事業で、北極海に向かう暖流の 表層海流と赤道に向かう寒流の深層海流を同時に測定することを目標としている。最近行 われたモデリング研究によると、これらの海流によって引き起こされる循環の強度の変化 が北米・欧州・アフリカの気温と降水量に多大な影響を与えることが判明しており、これ らの変化をもたらす要因を解明することも OSNAP の目的の1つとされている。 National Science Foundation, NSF awards grants for deployment of new observing system in the North Atlantic Ocean http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=129117&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=c lick 3 NSF、自然災害の予測と災害対応能力を向上させる研究プロジェクトに総額3,200万ドルを 助成(10月21日) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)は、2012年10月29日に自然災害では米国 史上2番目に高い被害額をもたらしたハリケーン・サンディー(Hurricane Sandy)の経験を 生かし、自然災害の予測と発生後の対応能力を向上させ、被害を縮小させるための研究プ ロジェクト12件に対して「危険・災害に関する学際的研究(Interdisciplinary Research in Hazards and Disasters)」プログラムを通じ総額3,200万ドルを助成すると発表した。「持続 可能性のための科学・工学・教育 (Science, Engineering and Education for Sustainability:SEES) 」 助成の一環として行われる同プログラムは、大気地球空間、地球海洋科学やサイバーイン フラなどの6学問領域に跨る学際的研究プログラムで、NSF の地球科学局(Directorate of Geosciences)、工学局(Directorate of Engineering)、社会経済行動科学局(Directorate of Social, Economic and Behavioral Sciences)、数理物理科学局(Directorate of Mathematical and Physical Sciences)及びコンピューター情報科学工学局(Directorate of Computer and Information Science and Engineering)から予算が拠出される。今回助成を受給する研究は、29万9,852ドルの助成 を受給し、カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)が主導する「高密度 海底圧力計によって観測された2011年東北地方太平洋沖地震の津波データを利用した時間 依存型地域特定警報のエンドツーエンド開発(End-to-End Development of Time-Dependent Geo-targeted Alerts and Warnings Enabled by Dense Observations of the 2011 Tohoku Tsunami)」 など12件である。 National Science Foundation, In wake of Hurricane Sandy, Oklahoma tornadoes, NSF awards $32 million in hazards sustainability grants http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=129307&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=c lick 4 ARPA-E、次世代電力変換装置の開発研究プロジェクト14件に総額2,700万ドルを助成(10 月21日) エネルギー省高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency-Energy:ARPA-E)は10月 21日、コスト削減と電力工学の効率向上のために画期的な手段を活用した次世代電力変換 装置の開発を目的とする研究プロジェクト14件に対し、「高効率システム制御のための広 バンドギャップを利用した低価格トランジスタ戦略(Strategies for Wide-Bandgap, Inexpensive Transistors for Controlling High-Efficiency Systems:SWITCHES)」プログラムを通じて総額 2,700万ドルを助成することを発表した。助成を受けるプロジェクトでは、送電網の電動機 及び電源切り替え装置の広範な電力工学適用範囲において、エネルギー密度とスイッチン グ周波数の増加や、温度制御の強化及び停電の削減などを可能とする画期的な広バンドギ ャップ半導体マテリアル、デバイスアーキテクチャー及び製造工程などの開発が行われる ことになる。助成を受給するのは、電力変換に必要な低価格かつ高性能のトランジスタ開 発を行うマイクロリンク・デバイシズ社(MicroLink Devices、受給額170万ドル)を含む企 業8社と、高出力電子機器の性能向上とコスト削減に向けて垂直窒化ガリウム半導体技術を 開発するカリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California at Santa Barbara: UCSB、受給額300万ドル)を含む研究機関6団体の合計14団体である。 なお、今回の助成受給プロジェクトの詳細は、 <http://www.arpa-e.energy.gov/sites/default/files/documents/files/SWITCHES_ProjectDescriptions_ 102113_0.pdf>からダウンロード可能。 Advanced Research Projects Agency - Energy, U.S. Energy Department’s ARPA-E Announces $27 Million for Transformational Grid Technologies http://www.arpa-e.energy.gov/?q=arpa-e-news-item/us-energy-department%E2%80%99s-arpa-e-ann ounces-27-million-transformational-grid 5 エネルギー省、サンショット・イニシアティブの下でイノベーティブな太陽エネルギー研 究開発事業に総額約6,000万ドルを助成(10月22日) エネルギー省(Department of Energy)は10月22日、価格競争力のある太陽光発電の実現を目 指した「サンショット・イニシアティブ(SunShot Initiative)」の下で、画期的な太陽エネ ルギー研究開発事業に対し、総額約6,000万ドルを助成することを発表した。今回の助成は、 ①ハードウェア及びソフトウェアのコスト削減を通じた太陽光発電の低価格化、②効率的 でシームレスな送電網へ太陽光電力を統合させる技術の開発、③太陽光発電分野における 人材育成の3分野をターゲットとしたものとなっている。①ではアプライド・ノーベル・デ バイシス社(Applied Novel Devices, Inc.、テキサス州)など企業17社、②ではペプコ・ホー ルディングス社 (PEPCO Holdings Inc.、ワシントン DC) など8団体、 ③では電力研究所 (Electric Power Research Institute、テネシー州)など5団体が助成を受ける。 US Department of Energy, Energy Department Announces $60 Million to Drive Affordable, Efficient Solar Power http://energy.gov/articles/energy-department-announces-60-million-drive-affordable-efficient-solarpower 6 NSF、NIH、USDA 及び NASA、次世代ロボットの開発・利用を行うプロジェクトに総額3,800 万ドルを助成(10月23日) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)は10月23日、国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、農務省(Department of Agriculture:USDA)及び米航空宇宙局 (National Aeronautics and Space Administration:NASA)と共同で、作業能力や安全性を増進 するために人と共同作業を行うことができるロボットの開発・利用に向けて、総額約3,800 万ドルを助成することを発表した。これは、オバマ大統領が推進する「先端製造業パート ナーシップ・イニシアティブ(Advanced Manufacturing Partnership Initiative)」の一環である 「米国ロボティクス・イニシアティブ(National Robotics Initiative:NRI)」の下での第2次 助成で、助成受給プロジェクトは、①先進製造業、②公共インフラ・環境インフラ、③医 療とリハビリ、④軍隊と国土安全保障、⑤宇宙・海底探査、⑥食品製造・加工・流通、⑦ 自立と生活の質向上、⑧運転者の安全性、に重点を置いた次世代協力型ロボットの作成を 行うものである。今回新規に助成を受給するのは、ⒶNSF から総額約3,100万ドルの助成を 今後3年間にわたり受給するプロジェクト30件、ⒷNIH から総額240万ドルの助成を今後5年 間にわたり受給するプロジェクト3件、ⒸUSDA から総額約450万ドルを受給するプロジェク ト5件、の合計38件で、NASA は2012年の第1次助成で採択されたプロジェクト8件を継続し て支援する。 なお、NSF から助成を受給するプロジェクトの詳細は、 <http://www.nsf.gov/awardsearch/advancedSearchResult?ProgEleCode=8013&BooleanElement=A NY&BooleanRef=ANY&ActiveAwards=true&>から、 NIH から助成を受給するプロジェクトの詳細は、 <http://www.nibib.nih.gov/news-events/newsroom/nih-funds-development-novel-robots-assist-peopl e-disabilities-aid-doctors-0>から、それぞれ閲覧可能。 National Science Foundation, National Robotics Initiative invests $38 million in next-generation robotics http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=129284&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=c lick 7 大統領諮問委員会、NIH の「ゲノムデータ共有方針」草案を支持(10月23日) 生命倫理問題研究のための大統領諮問委員会(Presidential Commission for the Study of Bioethical Issues)は、2013年9月に国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が発 表した「ゲノムデータ共有方針(genomic data sharing policy)」草案は、同委員会の2012年 報告書「ゲノム配列解析全体におけるプライバシーと進歩(Privacy and Progress in Whole Genome Sequencing)」における提案事項及び主要倫理原則に沿ったものであるとし、同草 案を支持するとの見解を明らかにした。同委員会は、NIH の方針草案でゲノムデータの使 用にあたり、「個人の尊重」と「責任ある管理」の2つを重要な原則として強調している点 及び科学の進歩を推進するためにゲノムデータの使用と共有を奨励しながら、厳格なプラ イバシー管理を維持する方針を打ち出している点が同委員会の見解と合致しているとして、 個人のプライバシー保護の重要性を改めて強調した。 なお、同委員会が2012年に発表した報告書は、 <http://bioethics.gov/sites/default/files/PrivacyProgress508_1.pdf>からダウンロード可能。 また、NIH による方針草案は、 <https://www.federalregister.gov/articles/2013/09/20/2013-22941/draft-nih-genomic-data-sharing-p olicy-request-for-public-comments#h-9>から閲覧可能。 Presidential Commission for the Study of Biotechnological Issues, NIH Requests Comment on Genomic Data Sharing Policy Draft http://blog.bioethics.gov/2013/10/23/nih-requests-comment-on-genomic-data-sharing-policy-draft/ 8 NSF、サイバーインフラストラクチャー「アース・キューブ」構築に総額1,450万ドルを助 成(10月28日) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)は、地球科学に関するデータを集積・管 理する高性能コンピュータシステム「アース・キューブ(EarthCube)」の確立を目指して いる。NSF は10月28日、地球科学者、生物科学者及びサイバー科学者間の対話を促進させ アース・キューブのフレームワークを形作るプロジェクト13件に対し、総額1,450万ドルを 助成することを発表した。同プログラムには、地球システム研究における課題に取り組む ために、ガバナンス、データの発見・検索・アクセス、ワークフローなどを専門とする科 学者が関与することになる。NSF の地球科学局(Directorate for Geosciences)とコンピュー ター情報科学工学局(Directorate for Computer and Information Science and Engineering)から 拠出される本助成を受給するのは、 南カリフォルニア大学(University of Southern California) の「アース・キューブの構成要素 ~地球科学のためのソフトウェア管理~(EarthCube building blocks:Software stewardship for the geosciences)」などを含む13件である。 National Science Foundation, EarthCube: NSF funds $14.5 million in grants to improve geosciences cyberinfrastructure http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=129413&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=c lick 9 NIH、NIAAA 所長にジョージ・クーブ氏を任命(10月31日) 国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)のフランシス・コリンズ所長(Francis S. Collins)は10月31日、NIH 傘下機関の国立アルコール乱用依存症研究所(National Institute on Alc0hol Abuse and Alcoholism:NIAAA)の所長にジョージ・クーブ氏(George F. Koob)を 任命したと発表した。クーブ氏は、ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University) で行動生理学博士号を取得後、感情システムと情緒機能の神経科学との解剖学的関連を解 明する研究に貢献し、アルコール・薬物中毒では世界的に著名な研究者である。現在、同 氏はスクリプス研究所カリフォルニアキャンパス(Scripps Research Institute, California Campus)で嗜癖障害神経委員会(Committee on the Neurobiology of Addictive Disorder)議長 とアルコール研究センター(Alcohol Research Center)所長を務めており、NIAAA 所長代理 を5年間務めたケネス・ウォレン氏(Kenneth R. Warren)の後任として2014年1月に NIAAA 所長に就任する予定である。 National Institutes of Health, NIH Names Dr. George Koob Director of the National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism http://www.nih.gov/news/health/oct2013/od-31.htm 10