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おすすめの一冊 さんちょう 山にのぼると うみ ●小野十三郎 海は天まであがってくる。 なだれおちるような若葉みどりのなか。 ほう たか 下の方で しずかに ふ かっこうがないている。 かぜ 風に吹かれて高いところにたつと せ かい だれでもしぜんに世界のひろさをかんがえる。 ぼくは手を口にあてて さけ なにか下の方に向かって叫びたくなる。 五月の山は あか ぎらぎらと明るくまぶしい。 さんちょう きみは山頂よりも上に こ 青い大きな弧をえがく すいへいせん 11 水平線を見たことがあるか。 松野正子/さく 瀬川康男/え 福音館書店 1966年 むかし、魚もこんぶもない山奥の村にすむ「たろ」 は、誕生日にごちそうのたけのこを掘りに行きました。 たろがたけのこを掘っていると暑くなったので、近くのたけのこに上着をかけたと たん、たけのこは、たろを乗せたまま、とてつもない高さにのびはじめました。 いつまでも戻らないたろをかあさんが探しに行くと、たろの声は、大きなたけの この上からかすかに聞こえ、たけのこはのび続けていました。かあさんはびっくり して、とうさんや村人たちを呼び、やっとのびるのをやめたたけのこを切りはじめ ました。 たろがたけのこの先に必死でしがみついていると、たけのこはいくつもの山々を。 おしわけて倒れていきました。そして、倒れたたけのこに沿って、とうさんたちが たろの元にかけつけると、その側には広い砂浜があり、目の前には大きな海がひ ろがっていました。 昔風の絵で画面いっぱいにのびたたけのこは迫力があり、村人たちの表情も豊 かに描かれています。また、100年もの間、迷子になるからと海へと行かなかった 村人たちが、たけのこのおかげで、魚やこんぶの豊富な海へと行き来できるよう になった結末は喜びにあふれています。読んであげるなら5歳から。(N・T) 山頂から 『ふしぎなたけのこ』 『少年少女のための日本名詩選集 』あすなろ書房 Bo o k r e v i e w としょかんの本棚から 『小さい牛追い』 マリー・ハムズン作 石井桃子訳 岩波書店 1950年 ノルウェーの小さな農場に、オーラ、エイナール、インゲ リド、マルタという4人の兄妹がいました。オーラたちの家は 村じゅうの牛を預かって夏のあいだ山の上の農場で過ごしま す。今年、男の子のオーラとエイナールは、初めて牛追いをすることになりました。 エイナールは、牛追いの前の晩とても心配で眠れずにいました。朝になり、不 安なエイナールは、おかあさんから勇気づけられて出かけました。はじめは、道 をまちがえずうまくやっていたのですが、そのうち牛の鈴を聞きながら眠ってしま います。ヤギのスヴァルトコンスタにおこされたとき、鈴の音はまったく聞こえず、 牛たちとはぐれてしまったことに気づくと、エイナールはとてもみじめな気持ちにな りました。スヴァルトコンスタに導かれ、牛の群れをやっと発見したのですが、何 度数えても教会の役僧さんの牛ポティマーがいません。牛たちが勝手にいってしま うのもかまわず、エイナールは不名誉にうちのめされ、座りこんで泣いていました。 そのころ、家では牛追いよりも先に牛たちが帰ってきたことで、大さわぎになって いました。 4人の兄妹が、豊かな自然に囲まれた農場で動物とふれあい、牛追いという責任 のある仕事をやりとげ成長していく姿をあたたかく描いています。作者自身の子ども たちをモデルにしたこの作品には、続編に『牛追いの冬』があります。(M・Y) 1 しょうぼうじどうしゃじぷた/渡辺茂男/31回 2 おおきなかぶ/内田莉莎子/30回 3 せきたんやのくまさん/フィービ・ウォージントン/24回 4 三びきのやぎのがらがらどん/マーシャ・ブラウン/22回 5 はらぺこあおむし/エリック=カール/21回 児童書 一般書 1 阪急電車/有川 浩/14回 靖国への帰還/内田康夫/14回 3 ダイイング・アイ/東野圭吾/13回 たすけ鍼 山本一力/13回 5 女性の品格/坂東眞理子/12回 貸出ベスト5 集計期間 1/1~4/30 『そこに日本人がいた! -海を渡ったご先祖様たち』 熊田忠雄/著 新潮社 2007年 この4月、ブラジル移民開始から百年を迎えたというニュースがテレビや 新聞で報道されていた。目にされた方もいらっしゃるだろう。政府の募集に応え、明治から戦後に かけ多くの日本人が夢と希望を抱いて中南米やハワイへと旅立って行ったのだが、同時期、単独 または少人数でまだ見ぬ世界へ出かけていった者も多くいたという。 本書は、幕末から明治にかけて個人で出かけた人、特に、最初の渡航者や居住者となった 人々に焦点をあて、旅の目的や経路、その後の人生を紹介したものである。 今でも飛行機を乗り継いで1日はかかる南アフリカのケープタウンに、明治半ば、横浜からイン ドを経由し船で3~6ヶ月かけて渡った1組の若い夫婦がいた。茨城出身の古谷駒平と喜代子であ る。両者とも英語が堪能で、「日本人が全く進出していない地で、誰の力も借りず、一旗あげ る」ことをモットーにした駒平が、当時英国植民地だった彼の地を移住先に選び、日本からたくさ んの荷物を持ち込んで雑貨商を起こしたのだ。欧米との取引や日本への輸出も行い、後に一等地 に2店を構える実業家になっている(第1話 南アフリカ)。この他、異教徒には許されないアラビ ア入境とメッカ訪問のために回教徒となった山岡光太郎やマダガスカルでのホテル経営で財をな した赤崎伝三郎など21話が収められている。 海を渡った人の多さや地域の多様さに驚くとともに、未知の地へ足を踏み出した先人たちの行動 力や強い意志と誇りをもって切り開いたその人生は興味深く、畏敬の念を禁じえない。(T・Y)