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2014 農業機械化フォーラムの概要

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2014 農業機械化フォーラムの概要
【2014 農業機械化フォーラムの概要】
本会は 12 月 11 日、さいたま市の(独)農研機構・生物系特定産業技術研究支援センター
で「2014 農業機械化フォーラム―情報通信技術(ICT)を農業経営に活かす!―」を開催
した。
2014 農業機械化フォーラム会場(参加者数約 230 名)
フォーラムでは、主催者を代表して染会長の挨拶(松本専務理事の代読)があり、次に農
林水産省大臣官房技術総括審議官の別所智博氏が来賓祝辞を述べた。続いて特別講演に移り、
農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室長の松岡謙二氏が「攻めの農林水産業―
スマート農業の推進―」と題して講演を行った。
昼休みには、GPS車速連動コントロールやAG-PORT対応ブロードキャスタ、GP
S経路誘導車速連動施肥機などといった農業機械における最新のICT技術の展示及びプレ
ゼンテーション(計7社)が行われた。
午後からは九州大学大学院農学研究院教授・南石晃明氏による基調講演「農業法人経営に
よるICTの活用と効果」、(有)横田農場代表取締役・横田修一氏による「横田農場にお
けるICT導入事例」、(独)農研機構・中央農業総合研究センター作業技術研究領域長・
細川
寿氏による「ICT利用による土地利用型作業技術の現状と課題」、農研機構・生研
センター主任研究員・林
和信氏による「大規模営農情報管理システム(FARMS)の開
発」、農研機構中央農業総合研究センター上席研究員・吉田智一氏による「農業ICTの現
状と取組み」―の5講演とパネルディスカッションが行われた。
ここでは、染会長挨拶(松本専務理事代読)、別所審議官の祝辞、並びに松岡室長の特別
講演の要旨をまとめた(基調講演は次号で紹介)。(文責:本会)
【主催者挨拶 (一社)日本農業機械化協会 会長
染英昭(松本訓正専務理事代読】
染会長の挨拶を代読する松本専務理事
日本農業機械化協会の松本でございます。会長染英昭は先日より体調が優れず、皆さまに
お会いしたかったものの、どうしても難しいということで、申し訳ございませんが、会長の
挨拶を代読させていただきます。
皆さんおはようございます。開会にあたりまして、一言ご挨拶申し上げます。本日は 2014
年農業機械化フォーラムを開催いたしましたところ、多くの皆さまにご参加をいただきまし
て、誠にありがとうございます。
また、農林水産省からは来賓として別所技術総括審議官をはじめ、関係者の皆さまにご出
席いただいております。併せて厚く御礼申し上げます。
昨年のこの農業機械化フォーラムのテーマは、「ICT・ロボット技術は農業・ 農作業を
どこまで変えるか」でしたが、今年はテーマを重点化・具体化いたしまして「情報通信技術
(ICT)を農業経営に活かす!」というテーマで開催いたします。本日このように多数の
皆様にお集まりいただきましたのも、皆様の認識の中に、ちょっと大げさに言えば、これま
で他産業分野に比較すれば大きく遅れていた農業経営分野でのICT革命がいよいよ進み始
め、ICTで農業が大きく変わるのではないか、今日はその農業のICT革命の進捗状況を
見極めたい、こういう気持ちがあったからではないかと推測いたします。
さて、最近の農業の情勢をみますと、我が国農業は急速に変化しつつあります。例えば、
土地利用農業では、高齢化や後継者不足から農地が流動化し、農業経営の規模拡大が進みつ
つあります。少し古いデータになりますが、2010 年の農業センサースによれば、都府県だけ
で 50ha 以上の経営体が約 1500 ありました。5年前に比較しますと、2.4 倍に増加しており
ます。これらの経営体は、生産性の向上や品質の向上、コストの低減を図りつつ、加工や販
売などの6次産業化、さらには輸出にも挑戦して、所得の向上や経営の拡大を目指しており
ます。
その場合、ICTは、経営戦略の策定や生産工程管理、圃場管理、労務や財務管理、さら
には消費者への生産履歴情報の提供などに大きく貢献するものと期待され、また、農業生産
や農業経営のこれまでのあり方を大きく変えていくものとみられます。
これらの大規模経営体の増加や、農村における担い手不足など、農業をめぐる状況の変化
によりまして、農業におけるICTの導入条件は整いつつあると思われます。
本日のフォーラムは、いわゆる農業のICT革命がどのような課題を持ちつつ、どのよう
に進んでいるのか、農業のICT革命に関連する技術開発がどのような方向に進んでいるの
か、講師の皆さまの講演とパネルディスカッションで明らかにしていただくものであります
ので、ご参加の皆さまにとって有意義なものとなりますよう願っております。
最後になりますが、大変ご多忙な中、本日の講演を快くお引き受けくださった講師の皆さ
まに心から感謝を申し上げます。併せて本日のフォーラムの開催に多大なご協力をいただき
ました農業・食品産業技術総合研究機構の生研センターをはじめ、関係者の皆様に厚く御礼
を申し上げ、開会の挨拶とさせていただきます。
以上、代読させていただきました。本日は何卒よろしくお願い申し上げます。
【来賓祝辞
農林水産省大臣官房技術総括審議官
別所智博氏】
来賓挨拶する別所技術総括審議官
本日、2014 年の農業機械化フォーラムに参加させていただきまして、誠にありがとうご
ざいます。また、これだけ多くの方々にご出席をいただきまして、機械化行政やスマート農
業の推進など旗振り役を務めさせていただいております農林水産省を代表いたしまして、皆
さま方に改めてお礼を申し上げたいと思います。
我が国農業をめぐる情勢の急速な変化というのは皆さま方も日々肌で感じておられると
ころだと思います。
私ども農林水産省といたしましては、いわゆる攻めの農林水産業ということで「農林水
産業地域の活力創造プラン」、あるいはその親許の計画になりますが、政府全体の計画であ
る「日本再興戦略」のなかで、どれだけ攻めの農林水産業を進めていけるかということで日々
取り組んでいるところでございます。
大きな変化という中には、1つは土地利用農業を中心とする大規模化をどう支えていく
かという問題があり、また、人口減少社会に突入する中で、中山間地域での労働力不足や、
園芸といった集約型農業における人材不足が非常に厳しくなっている状況もございますので、
そういった状況を技術でどうやって支えていけるかというのは我々にとって大きな課題でご
ざいます。
一昨年よりスマート農業という看板を掲げまして、例えばロボット技術であるとか、今
日のテーマであるICTを使ってどうやって農業を支えていけるか、変革をしていけるかと
いうことで検討を行い、具体的な施策を始めつつあるところでございます。先ほど農業をめ
ぐる状況の変化が速いというお話もございましたが、そういう意味では、農業技術にしても
ICTにしても、市場はかなりできつつありますし、大きくなりつつあると我々は受け止め
ております。
例えば、ロボット技術の実用化という意味では、無人走行可能なGPSトラクターです
とか、農業用アシストスーツ、農業用除草機など、そういうものは実用化一歩手前のところ
まで来ております。それをどうやって現場にうまく導入していけるかというのは非常に大き
な課題でございまして、我々としても予算措置などを今要求中ですけれども、なんとか現場
にうまく、ある程度の規模で入れていただけるようなやり方を考えて、そういった中で市場
を創出していきたいと思っております。
実際、現場の方々とお話ししていると、そうした新しい技術を待っている方々が非常に
多いと感じます。先般も、愛媛と長崎でみかん農家の方々と意見交換をした際、農業用アシ
ストスーツの開発を紹介しますと、皆さま方目を輝かせて聞いていただけます。ただ、やは
り細部、コストという話になると、なかなか現実的な課題がございます。
今日テーマのICTも同様でして、ICT技術も最近進歩が著しいですけれども、一方
で農家の方々が若干それを躊躇されている部分の1つとして、コストの問題が大いにあると
思います。ICTを使うと経営管理や生産管理に効果があると、導入された方はおっしゃい
ますが、なかなかそこから大きく、爆発的に広がっていかないというところで、やはり一歩
二歩ブレークスルーが必要なんだと考えます。
コストの問題というのは、コストダウンを図るか、あるいはコストに見合うだけの価値
を作るかでありますけれども、やはりそこは両方一体のものとして進めていかなければなら
ないと思います。もちろん、新しい技術の中でコストダウンを図っていくことも重要です。
ただ、ICTの技術においては例えば多くの枚数の圃場の生産管理をする、栽培記録を作る
という意味では非常に有効なツールであるとはっきりしてきておりますが、そこから一歩二
歩、どうやって価値を高めていくかということが重要であると考えます。
その意味では、例えばさまざまな気象データやセンシングデータを、栽培の工程見直し
に活用して、どうアドバイスしていくのかとか、そういった形でコンテンツがどんどん積み
あがっていけば、ICTがコストに見合う価値のあるものになっていくのではないかと考え
ます。
さらに、そういう意味で、今日は民間ビジネスをサポートしてICTの普及が進むよう
な、そういったところに研究の重点化もお願いしたいと考えております。そういう中で研究
のプレゼンス、評価も上がっていくものだと私どもは考えています。研究機関、民間企業、
現場の農家の方々が三者 win-win の関係を築けるように努力を私ども含めてやっていきたい
と思います。
今日は大変お忙しい中、たくさんの講師の方にお越しいただき、実りあるお話をしてい
ただけると期待しておりますし、会場の皆さま方からもぜひ積極的に質問などいただければ
幸いでございます。今日のフォーラムが有意義になりますことをご祈念申し上げまして、挨
拶とさせていただきます。
【特別講演「攻めの農林水産業―スマート農業の推進―」
農林水産省生産局農産部技術普及課生産資材対策室長 松岡謙二氏
特別講演の松岡生産資材対策室長
本日は機械化フォーラムにあたって、スマート農業の施策について報告させていただく
機会を作っていただき、ありがとうございます。今日の議題はICTということですので、
政府全体でのICT関連の取り組みについてご報告させていただき、さらに、本日最後のパ
ネルディスカッションに向け、問題提起をさせていただきたいと思っております。
1 担い手の高齢化に対応
まず、スマート農業の検討の背景についてですが、今、農業をめぐる問題の1つに担い
手の高齢化があります。農家人口のうち 60 歳以上の世代が占める割合が非常に高く、あと
10 年経つとそのピークの山が右にずれてくるということです。そういう状況を見越して対応
を考えていかなければならない。耕作放棄地も現在 40 万 ha で、増加していく傾向にありま
す。
新規就農者の増加推進についても進めておりますが、新規就農者については、農業技術
の習得が難しいということが一番の課題としてあげられています。経済的な問題などもあり
ますが、技術の習得が一番大きな課題となっています。
2 地域の活力創造プランで農業を活性化
こういったさまざまな問題を抱えて、これからの農業、地域をどうしていくかというこ
とで、政府全体で今後の施策について議論をしております。そこで、政府全体では農林水産
業・地域の活力創造本部、農林水産省の中では攻めの農林水産業推進本部、あるいは産業競
争力会議などを立ち上げ、検討してきました。昨年 12 月に取りまとめた農林水産業・地域の
活力創造プランでは、4つの柱で農業や地域を活性化していこうということで進めておりま
す。
1つは需要拡大。国内、海外の両方で需要拡大を行う。2つ目は農産物を作って終わり
ではなく、消費者まで届ける間にバリューチェーンを構築してその間の付加価値を高めて、
農業の本当の成長産業化を図っていこうというものです。3つ目は現場の強化。農産物は当
然、圃場である田んぼや畑で作っていくので、現場をちゃんと強化していかなければならな
い。4つ目はエネルギーなど地域にあるいろいろな資源を活用しながら、農業や地域を活性
化するということで、まとめています。
3 スマート農業で超省力生産、所得向上
これらを通じて、農業農村全体の所得を 10 年間で倍増させていく。その具体的な施策の
1つが、本日ご報告させていただくスマート農業・ICTの位置づけで、6次産業取り組み
支援という項目の中にあるIT・ロボット技術による労働効率を高めるシステム。それから
もう1つ、生産流通システムの高度化という項目があり、ICT・ロボット技術の導入によ
って超省力・超高等技術生産を達成する新しい農業を作っていく、これがスマート農業であ
り、その実現に向けて進めていくと位置づけられています。
スマート農業を進めるにあたり、スマート農業は農業を変えていくものですが、変えた
後にどうなるのかという疑問があります。スマート農業はいったい何なのか、何をもたらす
のかということで、コンセプトを固めなければならない。コンセプトは、①技術の活用と②
労働力不足に対応した超省力生産、さらに③所得を向上していくために高品質生産をしてい
く。これらを実現するための農業がスマート農業であると定義しています。
4 スマート農業研究会を設立し進め方検討
昨年農林水産省の中で、スマート農業をどう進めていくか検討するスマート農業研究会
を設立いたしました。広く産業界や関係者を巻き込んで議論するために、ロボットやICT
における先行分野の自動車業界や産業ロボット業界、IT企業などにも参加いただいていま
す。さらには当然ながら、ユーザーニーズを踏まえるために先進農家にも参加いただき、ま
た、農機メーカーも参加しています。関係府庁においては、IT戦略ということで内閣官房、
通信分野では総務省、産業ロボット分野では経産省、自動車などもあるため国交省などにも
参加いただいています。
こういった産業界や経済界を巻き込んだメンバーで議論しておりまして、3月に中間取
りまとめを発表しました。取りまとめの項目としては、①スマート農業を実現するとどうい
うことができるのかといった将来像、②将来像を出すためにどういう課題があるのか、それ
をいつまでに解決するのかというロードマップの策定、③実現に当たっての制度構築やルー
ルづくりなどといった、スマート農業推進に当たっての留意点―としています。
5 スマート農業の5つの利用場面
具体的な推進に向けた取り組みとしては、①研究開発・実用化、②生産現場への導入、
③ルールや制度づくりなど、残された課題の検討―となっています。その取りまとめのうち、
スマート農業の将来像についてご報告させていただきます。ここでは大きく5つの利用場面
が考えられるとして整理しました。
6 超省力・大規模生産の実現
1つは、昨年の機械化フォーラムでも紹介されましたが、農業機械のロボット化による
超省力・大規模生産の実現です。無人・自動で作業する農業機械など、そうした技術が実用
化する直前まで来ています。これは早く現場で使っていく必要がある。使うとどうなるかと
いうと、1人のオペレータが2台のトラクターを運用するなど、規模の拡大に対応できる。
また、夜間に無人の農業機械による収穫などができるようになれば、非常に大きな面積の圃
場を処理できる。土地利用型農業ではこれまで大規模化によってコスト削減を目指してきた
のですが、こうした技術が規模の拡大の限界を打破することができると期待されています。
7 精密農業による収量・品質向上の実現
2つ目は、栽培管理による収量及び品質向上の実現です。他産業でICTの技術を活用
して生産工程や経営の無駄を省いている活用事例がありますが、農業においてもこれを活用
する。センシング技術のデータを蓄積して、作物のポテンシャルを最大限に引き出し、収量
を極限まで向上する。品質についても、目的の成分や糖度向上など、高品質生産を実現して
いく。圃場を機械・トラクターなどのセンサーによって土壌成分を計測し、位置情報などと
組み合わせて土壌養分マップを作る。刈取りしながら収量を計測するコンバインなども用い
て、例えばこの圃場のこの部分の収量が低い、ここは生育の過程で何か問題があったのかと
振り返ることができます。そこで過去の圃場データをみながら栽培管理にフィードバックす
ることで課題の解決につなげていくことができる。これを精密農業ともいいます。
以前、精密農業を実施している農業法人の経営者に話を聞いたとき、土壌分析の結果に
基づいて適正な施肥を行っていくのは当然のことだが、分析するのはいいものの、分析した
結果からどうしたらいいのかがなかなか難しいと言っておられました。JA担当者や県の普
及員なども人事異動で替わってしまうためあまり詳しい人がおらず、自分の経験や体験など
に基づいて、普及員らに教えながらやっているとおっしゃっていました。経営ノウハウを外
部に蓄積してリスク軽減をしているともいえます。また、その方がおっしゃるには、工業製
品であれば工程を見直すときに工程を変えるプロセスを何回もトライできるが、農業では年
に1回しかトライできず、なかなか難しいとのことでした。その方はお父さんおじいさんの
代からの営農データがあるので、今はあまり悩むことがないとのことですが、農業では基本
的に1年に1回しかトライの機会がなく、何か改善したいときに何をみればいいのか、さら
には何をどうみればいいのか、どう管理を変えていくのかという課題があります。そうした
際、農家の方に経営に合わせて選択していただけるようにすることがICT活用で必要なこ
とではないかと考えます。
8 アシストスーツなどによるきつい・危険な業からの解放
3つめは、きつい作業・危険な作業からの解放です。アシストスーツによって体感の荷
重が半分くらいになる。これにより収穫物の積み下ろしなどの重労働を軽労化するなどが期
待され、実用化がすぐそこまできている。また、危険な作業としては、畦畔の草刈りがあげ
られます。草刈り中に足を滑らせてけがをする事故が多発しているため、除草ロボットを活
用する。このように、人間では労働負荷の高いまたは危険な作業を自動化・ロボット化で人
間の労働負荷を解放する。
9 誰もが取り組みやすい農業を実現
4つめは誰もが取り組みやすい農業を実現するということで、農業機械の操作をアシス
トするアシスト装置などがあります。位置情報に合わせてまっすぐ走る、曲がる、作業機を
コントロールするなどを実現できれば、経験の浅いオペレータでもプロ農家のような高精度
の作業が可能になります。あとは、何か問題が発生した時に、栽培のデータをみたり、簡単
に検索したりして、これはどういう病気か、生育障害かなどが判断できる体制があると対応
しやすい。また、判断できないときは専門家につながるなどのフォローを行ったり、判断す
るだけでなく、どういう薬をまけばいいかなど対応策まで示すことができれば経験の少ない
人でも安心していろいろな農業にトライすることができます。
10 ビッグデータを活用して生産者と消費者の情報をつなぐ
5つめはクラウドシステムによるビッグデータを活用して消費者・実需者に安心と信頼
を提供する。購買履歴のビッグデータを活用して消費者のニーズをつかみ、売上げをのばし
ている企業もあります。そういったことを農業でも取り入れていくということで、生産者か
らは生産に関する情報、実需者からはニーズに関する情報を提供し、つなげていく。それに
よって、消費者は購買の選択肢が広がり、さらに安心や信頼を得ることができ、生産者は経
営戦略に活かすことができると期待されます。
11 スマート農業が切り開く新たな農業
こういった5つの場面をスマート農業が実現していくことで、日本農業の将来像として、
①これまでにない大規模経営の実現といった農業構造の改革を技術でサポート、②やる気の
ある若者・女性などが農業にチャレンジし、農業の新たな担い手・労働力を確保、③販路拡
大など担い手における新しいビジネスチャンスの拡大、④ブランド化を実現して品質と信頼
で世界と勝負する農産物を生産、⑤農業周辺産業をソリューションビジネス化し、新たなビ
ジネスを創出する―こういったことができるのではないか。言い方を変えるとスマート農業
によって、日本の農業をこのように変えていかなければならないのではないか。こういった
内容が日本農業の将来の姿と考えます。
それを実現するために、いつまでに何をするのかを整理したのが、中間とりまとめのロ
ードマップです。その中でスマート農業の部分を抜き出すと、▽篤農家における「匠の技」
をデータ化・形式化し、技術の継承と新規参入の増大、▽ICTを活用した大規模経営にお
ける農作業・経営の効率化、▽気象情報や農業ベースの発生予察などを活用し、生育環境を
制御、▽ニーズに応じた戦略的生産・出荷を実現、▽生産状況を踏まえた購買の実現―に取
り組んでいくことがスマート農業の課題です。このマイルストーンについても中間とりまと
めで提示されていて、これに向けて要素技術を開発していこうとなっております。
12 本当に必要な部分のみを自動化する
次は、技術開発のほかに、ルール作りなど社会的な問題を取りまとめた取組上の留意事
項についてです。スマート農業の推進に必要な視点として、先行業界から指摘されたのが▽
開発に着手する前に全体の作業システムを分析し、本当に自動化等で解決すべきものは何か
を特定のうえ、効率化することが必要、▽ロボット等だけが働く自動化技術でなく、機械と
人がともに働く視点で検討すべき―ということでした。全て自動化すると非常に高価なシス
テムになってしまい、メリットを受けにくくなってしまうため、ロボット・ICTで効率化
する部分を特定しなければならない。ロボットと人が協調する環境を整えるということを考
える必要があるということです。
あとは、新たな技術の導入コストと具体的なメリットを明らかにする、地域の全体戦略
の作り手や実施拠点を作る、導入資金の調達をどうするか検討―などがあげられています。
経営体以外で技術を導入する場合に、新しい形のコントラクターを育成するなども考えてい
く必要があります。
13 受け皿として社会制度の構築を
一方で、社会の受け皿として、インフラやルール作り、導入への道筋、ロボット技術の
安全確保についても継続的な取組みが必要です。
インフラについては、現状のGPSでは数mの誤差が出るため、誤差をなくすための補
正信号を出すRTK-GPSの基地局配備や、圃場の情報を集めるための通信インフラ整備
が必要です。また、水管理や除草の自動化等に向けては、畦畔の形をどうするかなど土地基
盤整備との連携も必要ですし、農業分野における行政データのオープン化、農地情報の電子
化なども必要ではないかとされています。
ルール作りについては、機械がロボット化した場合、位置情報を取るGPSとトラクタ
ー、作業機をつなぐデータの標準化が必要です。また、作業記録を作る場合、農作業や資材、
飼料、農産物などの名前を統一しなければデータの互換性が保てません。これについては、
いま政府で農作業及び資材の名前の統一について検討しています。さらに、ビッグデータに
ついて、どこまでが個人情報でどこまで利用できるのかなど、ビッグデータを扱う環境づく
りについても政府で検討しています。
導入の道筋については、ビジネスモデルの構築を進めていかなければならないと考えて
います。技術・ノウハウの輸出やICTをベースにしたコンサルティングビジネス、ロボッ
ト技術を駆使した付加価値の高いコントラクター型事業などが考えられます。また、ICT
を活用した研究開発も進める必要があり、農業系研究機関やICT企業との連携体制づくり
も進めていきます。
無人トラクターなどロボット技術の安全確保については、リスクアセスメント手法を確
立し安全策を講じなければならないということで、先行事例として、介護ロボットや生活支
援ロボットを参考に検討を進めています。これを受けてモデル実証を進め、安全ガイドライ
ンを策定し、機械だけで安全が確保できない部分にはみんなで守るルールを作り、保険など
の導入も進めてロボット・ICT技術が現場に早く導入されるようにしていきたいと考えて
います。
14 政府全体でロボット革命・IT国家創造の実現へ
次に、ICT・スマート技術関連で、政府全体の動きを紹介したいと思います。
その1つが安倍総理の提案でスタートした「ロボット革命実現会議」です。5カ年計画
を策定しアクションプランを作るほか、2020 年までにロボット市場規模を非製造業で 20 倍
にするという目標に向け、研究開発・導入実証も各省連携して進められており、現在議論が
行われています。
もう1つの動きとしては、世界最先端IT国家創造宣言を政府としてまとめています。
その中で、農業情報創成・流通促進戦略をまとめており、この工程表でスマート農業が位置
づけられています。また、関連産業の高度化にも触れられており、農業機械へのセンサー搭
載による圃場データなどを活用していき、農業関連の流通情報・ノウハウを商品とセットで
販売する複合サービスを展開し、収益源の1つに成長させることなどが書かれています。
15 費用対効果明確化や研究成果の更なる活用を提案
最後に、本日のパネルディスカッションへの問題提起を示させていただきます。
①農業へのICT導入に向けて、これまで民間企業や研究機関が商品開発や研究を行っ
てきたが、農業者の経営判断に資する定量的な費用対効果を示せていなかったことが、導入
が進んでいない大きな原因ではないか。
②経験が浅い者でも安心して農業に取り組めるようにするためには、技術の習得に係る
時間を短縮することが必要だが、これまで農業系研究機関が行ってきた収量安定・品質向上・
被害軽減等に関する研究成果が農業ICTに活かされていないのではないか。
③地域できめ細かなサポートを継続的に提供する役割を誰が果たすべきか。また、地域
の農業ICTサービスのビジネスモデルを構築するために欠けている要素は何か。
以上で私からの報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。
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