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mhf-101
2010/03/02 9:47
Medical Human Factors TOPICS
1.ヒューマンファクターって、なに?
―ヒューマンファクターの定義1―
ヒューマンファクターという言葉の使い方について説明します。
事故の解析の中から生まれたヒューマンファクター工学ですが、言葉の使用については多
少の混乱があります。
筆者が調べたところ、二つの使い方があることがわかりました。
一つは、たとえば「その事故には疲労、睡眠不足といったヒューマンファクターが関係し
ていた」というような使い方で、まさに、ファクター=要因、要素、という使い方です。
もう一つは、たとえば、
「事故防止にはヒューマンファクターからの知見が必須である」と
いうような使い方です。この使い方では、要素、要因という意味ではなく、ヒューマンフ
ァクターを体系的に取り扱う学問、という使い方です。
航空界においては、両者を区別するために、知識体系の場合は Human Factors と常に大文
字と複数形を用いて表記し、
「ヒューマンファクタース(ズ)」と読み、要因としての使い
方では human factor (s)と、小文字で表記し、要因が一つの場合は単数、複数の場合は複
数形を表す s をつけて、区別して用いています。
筆者は、この使い分けを原子力業界やってみましたが、あまりうまくいきませんでした。
日本語では、単数形と複数形の区別の意味がわかりにくく、説明を何度か試みましたが、
現場の人にはなかなか分ってもらえませんでした。
そこで、体系付けられた知識の場合は、ヒューマンファクター工学という言葉で表すこと
にしました。金融工学や都市工学では必ずしもモノを扱っているのではありません。この
使い方と同ように、ヒューマンファクターに関する工学という意味で使えば、スッキリす
ると考えました。
それでは、いったいどのような定義がされているのでしょうか?
筆者の調べたものを紹介します。
(1)大川雅司:人間工学用語辞典、日刊工業新聞社 1976 年
システムにおける工学的、生理学的、心理学的な人的要因
(2)
(財)発電設備技術検査協会、原子力発電信頼性向上調査委員会報告 1988 年
期待されたシステムの特性からの偏り、あるいは不具合が、システムと人間との関連に
より生じた場合の人間側の要因
(3)全日空総合安全推進委員会、ヒューマンファクターへのアプローチ 1986 年
1
定義(definition):概念の内容を限定すること。すなわち、ある概念の内包を構成する本質的
属性を明らかにし他の概念から区別すること。その概念の属する最も近い類いを挙げ、さらに種
差を挙げて同類の他の概念から区別して命題化すること。例えば、
「人間は理性的(種差)動物
(類概念)である」。広辞苑(第四版)
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Medical Human Factors TOPICS
人間、機械、環境系の設計および運用の際に考慮されるべき、人間の特性、能力に関す
るもの
(4)電中研ヒューマンファクター研究センター、電中研レビュー、No.32、p.9、1995 年
ある社会システムが有機的にパフォーマンスを発揮するために必要な要因のうち、人間
側に関わる要因(人間の心理・生理・身体・社会的な特性、・人間と他のシステム構成要素
の相互作用等)
ここに揚げた定義は、要素としての定義です。大川の定義と全日空の定義は、良い悪いと
いう意味はないニュートラルな意味でのヒューマンファクターの定義です。しかし、発電
設備技術検査協会のものは、悪い場合に使うもののようです。
電中研の定義は、PSF(Performance Shaping Factor)と呼ばれるものうち、人間に関するも
のとほぼ同じといえます。PSF とは、Swain(1983)が提唱している概念で、人間のパフォー
マンスに影響を与える要因のことです。
一方、知識体系としての定義には以下のようなものがありました。
(1)Edwards, E. Human Factors in Aviation, edited by Wiener, E. L. & Nagel, D. C.,
Academic Press, 1988
The technology concerned to optimize the relationships between people and their
activities by systematic application on the human sciences, integrated within the
framework of system engineering.
(2)黒田勲、小特集:ヒューマンファクター、電気学会雑誌 10 月号、1993 年
機械やシステムが、有効かつ安全にその機能を発揮するために必要な人間の能力、人間
の限界、人間の特性などに関する知識の集合体である。
(3)日本航空技術研究所、ヒューマン・ファクターガイドブック、1995 年
環境の中で生きる人間をありのままにとらえて、その行動や機能、限界を理解し、その
知識をもとに人間と環境の調和を探求し、改善すること
(4)全日空総合安全推進委員会、ヒューマンファクターズへの実践的アプローチ、1993
年
人間にかかわる多くの学問領域での知見をシステムの安全性や効率向上に実用的に活用
しようとする総合的学問/技術の体系(もっと実践的にいえば有用な概念・知識と手法の
集まり)のこと
(5)日本エアシステム(現在は、株式会社日本航空)
人間を取り巻く環境の中で安全に快適に効率よく働けるようにするため、人間の特性・
能力・限界に関する知見を総合的に応用し、人間と機械やシステムとの調和のとれた共存
について探求する実践的学問
最初の、Edwards の定義は、ICAO(国際民間航空機構)の annex で用いられているものです。
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Medical Human Factors TOPICS
仮に訳してみますと「システム工学の枠組みの中で統合された、人間科学の体系的な応用
によって人間と諸活動の関係を最適化するための技術」ということになるでしょうか?
ここでのヒューマンファクターは、ヒューマンファクタースですから、知識体系としての
ヒューマンファクターです。
黒田の定義は、明らかに知識体系としての捉え方です。
日本航空の定義は、ちょっとニュアンスが異なっています。「改善すること」が定義になっ
ているところに特徴があります。
全日空、日本エアシステムなどの定義を見ると、知識体系あるいは学問という捉え方をし
ています。
知識体系としてのヒューマンファクターの定義を見ると、次の共通点が見られます。
1.人間や機械で構成されるシステムの存在
2.システムの達成すべき目標があること
3.環境と人間の調和を求めること
4.安全性を追求すること
5.効率を追求すること
6.人間の諸限界を理解すること
7.実用的あるいは応用的で、役に立つものであること
こうして並べてみると、知識体系としてのヒューマンファクターのイメージをぼんやりと
描くことができるのではないでしょうか?
さて、ここまでヒューマンファクターに関する定義を説明してきましたが、ここで筆者の
執筆した東京電力株式会社ヒューマンファクター研究室編「Human Factors TOPICS(1994)」
の定義を紹介します。
●ヒューマンファクター
人間と機械等で構成されるシステムが、安全かつ効率よく目的を達成するために、考慮し
なければならない人間側の要因
●ヒューマンファクター学
人間に関する基礎科学を、人間と機械等で構成される産業システムに応用して、生産性、
安全性および人間の健康と福祉を向上させるための応用的科学技術
その後、筆者は医療用に定義を見直しましたので定義を紹介します。
■ヒューマンファクター
人間や機械等で構成されるシステムが、安全かつ効率よく目的を達成するために、考慮し
なければならない人間側の要因
■医療ヒューマンファクター工学
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Medical Human Factors TOPICS
人間に関する基礎科学で得られた知見を、人間や機械等で構成される医療システムに応用
して、安全性、生産性および医療システムに関係する人間の健康と充実した生活を向上さ
せるための応用的科学技術
(注:ヒューマンファクター学をヒューマンファクター工学としました。その他、
「福祉」
を「充実した生活」としました。
)
まず、要素としてのヒューマンファクターですが、これはここにある通りです。人間や機
械などで構成されるシステムとは、今日の労働の現場はほとんど当てはまるでしょう。原
子力発電システム、航空管制システム、交通システム、航空機、自動車、医療システムな
どです。人間だけで構成される組織なども広い意味でシステムと考えてもよいでしょう。
そのシステム(組織)は必ず目的を持っています。そこでこの目的を安全に、かつ、効率
よく達成することが大事です。安全を無視してはダメであり、しかし、安全のために効率
を無視すると、システムそのものが成立しなくなります。
知識体系としての定義については、生産性と安全性を求めるだけでは足りません。そこで
働く人間を無視してはなりません。例えば、「法外な報酬を与えるので 36 時間連続して働
け」
、というのは人間への配慮を欠いています。できないことはないかも知れません。また、
報酬が大きいのでそれでもいいという人がいるかも知れません。しかし、36 時間連続して
働くことは、もともと人間の持っている生理的心理的身体的限界を超えています。そのよ
うな仕事の仕方をしていたら体を壊すかもしれません。したがって、システムの目的を安
全に効率よく達成する時に、人間の持つ心理的、生理的、身体的限界を超えないだけでな
く、そこで働く人が満足感の得られるような場合にのみ、システムが存在する意味がある
というものです。人間を犠牲にしてもシステム目的を果たすことは、長期的に見ると許さ
れることではないのです。
筆者の定義するヒューマンファクター工学では、ヒューマニズムの視点を入れました。
参考として、広辞苑(第四版)から工学の定義を紹介しますので、ヒューマンファクター
工学の定義と比較してみてください。
工学(engineering):基礎科学を工業生産に応用して生産性を向上させるための応用的科学
技術の総称
また、Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English, 1989 では、
engineering : practical application of scientific knowledge in the design,
construction and control of machines, public services such as roads, bridges, etc.
となっています。
工学は、主に物理学をベースにして得られた法則を、現実の世界に適用するという応用的
科学技術として考えられていましたが、最近では、金融工学というような使い方がされて
いて、必ずしもハードウェアだけを対象にしたものとは限らなくなっています。広い意味
では、組織や法律なども工学の取り扱う分野になっていると言えるでしょう。
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英和辞典では、engineering の訳として、工学、工学技術、巧みな工作、たくらみ、画策と
いうようなものが挙げられています。
筆者の気持ちとしては、
「ヒューマンファクター学」という用語を使いたいのですが、現場
への応用を明確に伝えるために、ヒューマンファクター工学という言葉を使うのがよいと
考えています。
参考文献
Swain, A. D. and Guttmann, H. E., Handbook of Human Reliability Analysis With Emphasis
on Nuclear Power Plant Application, Sandia National Laboratories, NUREG/CR-1278, U.
S. Nuclear Regulatory Commission, Washington, DC, August 1983.
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