...

《特集》鼎談会 食のリコールをどう考えるか

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

《特集》鼎談会 食のリコールをどう考えるか
vol.
2
2010
(社)
日本青果物輸入安全推進協会
特 集
食のリコールを
どう考えるか
N T S
E
T
C O N
特集
鼎談会 食のリコールをどう考えるか
02
メディア検証
09
トピックス
11
気軽に検索、ネット情報にみる食の安全情報
21 世紀の果樹の品種改良技術
果物とポリフェノール
世界の果物文化
∼レイシ∼
FRUITS Q & A
1970 年代フィリピン・パイナップル農園
01
saika forum
13
14
絵: 高村 哲 ( たかむら さとし)
特集
(鼎談会)
食のリコールを
どう考えるか
中国餃子問題以降、食品のリコールが急増しています。
(独)農林水産消費安全技術センターの調査によると、
平成15 年度には年間159 件だった自主回収件数が、平成19 年度には839 件に跳ね上がり、その中には健康
被害がないものも多く含まれています。
なぜリコールが行われるのか、
現状に問題はないのか。
平成22 年4 月8 日、
編集部では消費者、
メディア、有識
者のそれぞれの第一人者をお迎えして、リコールの現状、ポジティブリスト制度と一律基準、食の安全と安心
など、幅広い観点からお話頂きました。
森田邦雄氏
(社団法人全国はっ
酵乳乳酸菌飲料協会
専務理事、元厚生労
働省東京検疫所所
長)
リコールに至る理由と
健康被害
阿南 久氏
松永和紀氏
(全国消費者団体連
絡会事務局長)
(サイエンスライター)
うものがあるでしょうか。アレルギーの表示漏れは、健康危害
の恐れありということで対処しなくてはいけないし、消費期限が
過ぎているものも難しい。安全性には問題が無いのに、リコー
ルの判断をしたという明確な事例を挙げていただけますか。
松永)ここ数年のリコールの種類をみると、規格基準オーバー
森田)ちょうど数日前に、あるパスタの回収がありましたよね。
のものだけでなく、様々な理由が見受けられます
(図1)
。
小麦由来の微細な砂が入ったとして回収した事例、健康への影
阿南)リコールプラス
(全業種リコールと自主回収 /お詫びのネッ
響はないと明確に書いています。この様なものを回収する必要
トの広報サイト)で今年 3月の事例を調べてみたら、食品関係は
はあるのかな、と思いますね。
58 件あって、賞味期限誤記載など
「期限表示のミス」が1番め
松永)これは食べても全く問題無さそうですね、典型的な事例
に多く、アレルギー表示漏れなどが2 番めでした。期限表示は、
ちょっとした印字ミス程度でも、回収や交換、返金がなされてい
ます。これらのデータを見ていると、もし食べたら、どのくらい健
康影響があるのかということが明確に示されないままリコールさ
れているのではないかと思ってしまいます。そのリコールが、安
全にかかわる問題に基づくものなのか、安心確保に基づくもの
1000
800
森田)アレルギー表示は、食物アレルギーの人にとっては健康被
害を引き起こす大変な問題であり重要な表示です。期限表示も
特に消費期限は食の安全性の観点から重要なものです。一方で、
製造者の固有の記号を間違えただけで、しかも製造工場までト
レースができているのに回収しているような事例もあります。
松永)食の安全に全く懸念の無いリコールのパターンは、どうい
839件
600
400
200
0
なのか切り分ける共通の
“ライン”が定まっていないのではない
でしょうか。
図1 15年度∼19年度の自主回収件数推移 159件
15年度
225件
16年度
301件
351件
17年度
18年度
原因別の推移
年度
15
表示不適切
品質不良
容器・包装不良
16
17
18
19
19年度
規格・基準不適合
異物混入
その他
容器・包装不良
規格・基準
不適合
表示不適切
100
200
300
400
品質不良 異物混入
500
600
その他
700 800件
(独)農林水産消費安全技術センター資料より
saika forum
02
Features
ですね。
森田)製粉工程中で、何か微細なものが除去できないままだっ
たのでしょう。お客様からのお問い合わせがあって、コンプライ
アンスか何かの事情でこうせざるを得なかったのでしょうか。
阿南)今から何十年も前になりますが、おコメに石が混ざってい
て、歯が欠けたというのがありましたが、当時はこのような事例
は珍しくはなかったですよね。
回収するのは消費者の
ため ?
松永)回収には、法律違反で回収しなければならないものと、企
業の自主的な判断による回収と、二通りがありますね。自主回
収の中には、風味がちょっと違っているので回収しました、とい
うようなものもあります。企業が味やブランドを守るために自分
ない…。
の都合で回収する。
森田)日本独特のものの様で、人の健康に影響がないのに回収
森田)企業側が売りたくない事情もあるのでしょうが、消費者が
するというのは日本の食品業界もガラパゴス化現象
(国際的にみ
どう見るか、ですよ。消費者が問題視しなければ、こういう問題
て孤立した状況)が起きているということですかね。
は起こらないと思います。
松永)そう、消費者の要求とは別の問題で、そこまでいってしまっ
松永)そうじゃないと思いますよ、今の企業は。消費者が受け
た企業というのはおかしいと思います。
自分たちでこだわって縛っ
入れてくれれば、リコールしないというメーカーは、実は意外に
てしまっています。
少ないと思うんです。企業が、味とか品質にどうしても妥協でき
森田)外資系企業の人に聞くと、外国ではいちいち回収なんてし
ない、人の健康影響に関係のない不良品であれば正常品と取り
が要求しているという問題が一つポイントとしてあるのではな
替えてもらえばいい話です。これは回収しないと許されないとい
いでしょうか。それぞれが、体面重視でがんじがらめになってい
う、日本特有の風土でしょうか。
ます。
松永)私は消費者なので、その理由のすべてを消費者のせいに
森田)ディズニーランドで販売されていた製品が以前回収されて
しないでほしい、企業の勝手なことですよねという思いもありま
いますが、それはTDLというブランドのプライドが許さないとい
す。
うことで回収したようです。実際には回収の告知をしても、ほと
阿南)全く同感です。
んど回収されることはないようです。それでも企業イメージが大
松永)やっぱり見直すとしたら、両方だと思います。企業も自分
事ということです。
たちのやっていることが、ある種の無駄に繋がっているという自
松永)それからもう一点、今の企業は多少の問題があったとき
覚をもってもらわないといけないし、消費者も当然そういう感覚
に、隠さず公表しましょうという傾向にあります。そうなると自
を持って、双方から働きかけないと前に進みません。そうしない
主回収したほうがいいし、簡単に済みます。もし企業が
「こうい
と法律が変わる、制度が変わるには至りません。
う理由があるけれども回収まではしません」と発表すると、お客
阿南)消費者も環境問題に対する関心の高まりから意識が変
様相談室の対応の手間や別のコストがかかってくる。そこまで考
わってきています。中国餃子事件で、コープは餃子の回収を始
えると、むしろさっぱりと、全部自主回収しますと言って引き揚げ
めましたが、その後すぐにレトルトビーフカレーの回収も始めまし
たほうが、コストとしては安いのです。
た。それは、原材料の一部のボイル肉が、一時期、例の餃子と
同じ工場から仕入れされていたという理由でした。安全性とは関
係ありませんでした。私は
「そんなにもったいないことをなぜする
回収判断をめぐる背景
のだ」と思いましたが、同様に思った組合員も多かったと思いま
03
す。
森田)企業が自主的に回収するかどうか、管轄の自治体に相談
松永)それは生協が、流通として生協ブランドを守りたいという
した場合に、回収しなければ法に基づき命令を出す、と言われて
ことだったのでしょう。回収の事例を聞いていると、流通の問
自主回収に至る事例もあります。
題も非常に大きいと思います。消費者が要求するよりも流通
阿南)伊藤ハムの井戸水問題のリコールが、確かそのパターンで
saika forum
特集 食のリコールをどう考えるか
図 2 米国 FSIS のWEB サイトによる
リコール告知
した。そうなると困りますよね。安全と安心を区別できず、混乱
基づいて)でと言う共通認識でいかないと、安全と安心が混乱し
や混同を助長することになります。
てしまいます。人への健康影響があるかどうかだけでリコールを
森田)食品の安全性についてはサイエンスベース
(科学的事実に
考えましょうという考え方は、世界各国の標準です。米国では農
務省
(USDA)の中の食品安全検査局
(FSIS)において、
リコー
ることはどうか、米国のように0.01∼ 0.1ppmとして考えた方が
ルの判断のクライテリア
(尺度)を作っています。その基準に従っ
合理的だと思います。つまり、ダブルスタンダードでいいと思い
て、企業が判断すればいいのです
(図2)
。
ます。リコールについてもヨーロッパがやっているように、人に
阿南)その判断を超えて、企業が自主的にリコールすることは構
健康影響の有無を基準にしたらいいのではないでしょうか。
わないということですね。
阿南)でもそうすると、モラルの観点からどうでしょう。
ポジティブリスト制度を
どう考えるか
松永)それではポジティブリスト制度
(表1)を具体例として考える
と、健康影響についてどう整理したらいいでしょうか。ポジティブ
リスト制では、食品衛生法第11条の3項
(表 2)で、基準を超え
たら流通の販売ストップが決められています。それに従い、市場
に既に出ているものについては、回収する流れができています。
森田)基準のあるものは当然守るべきでしょう。しかし、流通さ
れているもので後から違反が判明した場合、ADI
(一日摂取許容
量)がわかっているものは、違反の食品を通常の食生活で食べ
た場合、その多くはADIの範囲内にあると思われます。仮に、
ADIを一回くらい超えたからといっても人の健康に影響は無い、
一方でADIの無いものは厳しく取り締まると分けて考えてはどう
でしょうか。一律基準値についても0.01ppmで本当にいいので
表1
ポジティブリスト制度とは
農薬や動物用医薬品などが残留する食品の販売等を、原則
禁止する制度で、
2006年5月から施行されています。
制度施行以前は、世界中で使用される多種類の農薬に基準
値を設定することができず、残留農薬基準値が定められていた
農薬と農産物の組み合わせは限られ、基準値が定められていな
い場合の規制を行うことができませんでした。2002年の中国産
冷凍ホウレンソウ事件等を契機に、消費者団体や生協などが規
制強化のため食品衛生法の改正を求め、
それに応えて残留農
薬・動物医薬品等がすべて規制できるようにするポジティブリス
ト制度が導入されました。
制度施行以降は、使用できる農薬を規定し、残留基準値が
定められていない農薬と食品の組み合わせについては、一定量
以上を超えた場合は食品の販売禁止などの措置がとれるように
なりました。
この「一定量以上」
という値として、
ほとんどの物質で
ヒトの健康を損なう恐れの無い量とする一律基準の0.01ppm
が採用されました。
食品衛生法では定められた基準値を超えた量が残留する食
品を販売等はしてはならないと定めており、
ポジティブリスト制度
の一律基準0.01ppm超過も例外ではありません。
しょうか。ADIが設定されているものにまで、0.01ppmを適用す
saika forum
04
Features
森田)日本は法治国家ですから、生産者は当然基準を守るべ
者が理解できないのも無理ありません。
きでしょう。しかし、マーケットでの調査はあくまで生産者が
阿南)誰も説明してくれませんよね。たとえば基準値の何倍で
HACCP
(食品の衛生管理手法の一つ、危害分析重要管理点)
あったということだけが、ことさらメディアで報道される。ADI
でいうところの確実に実施する、すなわちCCP
(重要管理点)と
の説明は全くされない。
して農薬等の用法、容量を適切に守っているかどうか、その結果
松永)そこはメディアの問題ですよ。最近は、行政の広報の文書
を生産者にフィードバックするための検証であって、本来取り締
では書いてありますから、メディアがどの部分をニュースにするか
まりのためのものかどうか、議論していく必要があります。マー
という問題です
ケットの100%は検査できないわけですから、いかに生産者が
阿南)メディアにも説明していないのでは?
守っているかどうかが大事です。BSEの話と同じです。反芻類
松永)いや、広報文にはたいていADIはこのくらいで、食べても
の肉骨粉を牛の飼料として与えないことがCCPであって、と畜
影響は無いということが書かれています。
場の検査は肉骨粉が飼料として与えられていないことを立証する
森田)そうなると、食べても影響ないのになぜ回収するのか、と
ための検証といえます。それをあたかもCCPのようにしてしまっ
いうことになります。
たということが誤解を生んでしまったのです。
阿南)そう、回収するということは、やっぱり危ないから回収す
松永)検証という考え方からいえば、たとえば青果物の場合、一
ると。消費者からはそう見えます。
個だけ基準超えになったとして、そのロットで共同選果をしてい
たら、そのロットは他の生産者のものも含めて全部ストップして
しまいます。しかもそれは一律基準違反だったり、ごくわずかな
法令 解釈が難しい
基準超えだったりするわけです。しかし、法的には流通を止めて
しまわなければならない。このケースでは、流通ストップや回収
松永)でも、
「法律で決めた基準を超えたら流通はストップです」
は必要ないということを、きちんと考えていかなくては、と思いま
ということは、食品衛生法で明確に決まっているので、どうしよ
す。こういう事態が起きていることを、消費者は知らされていな
うもないですよね
い。そういう説明がないまま、基準超えのものは全部ストップし
森田)そこもね、食品衛生法で決めることが本当にいいのか。
ますという、非常にわかりやすい部分だけが伝わっている。消費
食品衛生法は取り締まるための法律だから、そこで決めたら融
通が利かなくなります。ただ、それも法律の運用として、一律基
使用した食品が一律基準を超えていない場合は、人の健康に影
準を超えた原材料を使用したことが後でわかった場合、それを
響のないものとして回収しないと、食品衛生法で解釈している場
表 2 食品衛生法の中の回収に関わる条文
第十一条(食品又は添加物の基準及び規格)
厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意
条第三項の規定に基づく農林水産省令で定める用途に供することを目的
見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、
として飼料(同条第二項に規定する飼料をいう。)に添加、混和、浸潤そ
調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品
の他の方法によつて用いられる物及び薬事法第二条第一項に規定する
若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる。
医薬品であつて動物のために使用されることが目的とされているものの成
② 前項の規定により基準又は規格が定められたときは、その基準に合
分である物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含み、人の
わない方法により食品若しくは添加物を製造し、加工し、使用し、調理し、
健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が
若しくは保存し、その基準に合わない方法による食品若しくは添加物を販
定める物質を除く。
)が、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労
売し、若しくは輸入し、又はその規格に合わない食品若しくは添加物を製
働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める量を超えて残留
造し、
輸入し、
加工し、
使用し、
調理し、
保存し、
若しくは販売してはならない。
する食品は、これを販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使
③ 農薬(農薬取締法 (昭和二十三年法律第八十二号)第一条の二
用し、調理し、保存し、又は販売してはならない。ただし、当該物質の当
第一項に規定する農薬をいう。次条において同じ。)
、飼料の安全性の確
該食品に残留する量の限度について第一項の食品の成分に係る規格が
保及び品質の改善に関する法律(昭和二十八年法律第三十五号)第二
定められている場合については、この限りでない。
第五十四条(廃棄処分・危害除去命令)
05
厚生労働大臣又は都道府県知事は、営業者が第六条、第九条、第
命ずることができる。
十条、第十一条第二項若しくは第三項、第十六条若しくは第十八条第
② 内閣総理大臣又は都道府県知事は、営業者が第二十条の規定に
二項の規定に違反した場合又は第八条第一項若しくは第十七条第一項
違反した場合においては、営業者若しくは当該職員にその食品、添加物、
の規定による禁止に違反した場合においては、営業者若しくは当該職員
器具若しくは容器包装を廃棄させ、又はその他営業者に対し虚偽の若し
にその食品、添加物、器具若しくは容器包装を廃棄させ、又はその他営
くは誇大な表示若しくは広告による食品衛生上の危害を除去するために
業者に対し食品衛生上の危害を除去するために必要な処置をとることを
必要な処置をとることを命ずることができる。
saika forum
特集 食のリコールをどう考えるか
ティブリスト制度も消費者団体や生協の活動の成果、と見なさ
れています。
阿南)そうです。1,370万筆の署名を集めました。
森田)食品衛生法で回収等の行政処分を規定する第54条には、
「違反する食品について、営業者に対し食品衛生上の危害を除去
するために必要な処理をとることを命じることができる」としてお
り、行政処分を行う場合、行政庁の裁量の余地があります。行
政の目的に合致し公益に適するかの裁量です。法に基づく命令
を出さず自主的な回収を指導することも裁量といえます。これか
ら見ても、世論が変われば、食品衛生上支障の無いものまで回
収しなくてもいいという解釈がされてもおかしくはありません。
松永)回収までいくとそうでしょうね。流通ストップは11条で、
罰則だとか行政処分がどうかは54 条で
「命ずることはできる」と
なっています。
阿南)それでは、法律がちゃんと解釈されていないということで
合があります。
すか?
松永)そういう解釈があるのですか。
森田)社会の考え方すなわち世論が変われば、そういう取り扱
森田)いわゆるポジティブリスト制度ができた時に厚生労働省
いも可能ということです。世論が回収はおかしいとなると、厚生
は都道府県等にそのような通知を出しています。
労働省もそういう解釈で議論すると思います。
松永)加工食品についての解釈は複雑ですが、加工前の農畜水
阿南)今の法律の範囲内では、回収しないでいいということで
産物については、
食品衛生法11条に明確に書いてありますよね。
しょうか?
2003 年、BSE 問題を受けて食品安全委員会ができて食品衛
森田)必ずしも全部回収しろと規定しているものではないという
生法が大改正されて、消費者団体があそこまで勝ち取った。ポジ
ことです。
松永)ただ、ポジティブリスト制度で実際に問題が大きいのは、
るまでにはタイムラグがあるので、回収できないケースが多い。
輸入検疫でひっかかって、シップバックされる、あるいは廃棄さ
森田)実はそれがだんだん変わってきて、モニタリング検査の対
れてしまうということです。市場に出て回収に至るというよりも、
象となる輸入品は国内に流通してもいいのに、万が一リコールが
その前段階で止められて、出てきません。たとえば、穀物なんか
かかったら困るので結果が出るまで止めおくケースが出てきてい
でサンプリングしたものが一律基準超過で、シップバックとなる、
ます。国産農産物は、検査結果が出るまで待たずに流通してい
その点が本質的な問題として大きいと思うのです。
ます。
森田)そこはいったん決めたんですから。私もポジティブリスト
制度が導入されようとしたとき、一律基準超過の扱いについて
は、将来、食料の安定確保のうえで大きな問題になる、と言った
ことがあるのですが、一方でポジティブリスト制度によって輸入
中国産食品と
原料原産地表示
食品が制限できて、国産食品消費の推進派にとってはいいとい
う意見もありました。
森田)輸入食品に対する不安と一口にいっても中国産食品嫌い
阿南)その点については、消費者団体も、団体ごとに考え方は
の消費者が多いのです。でも中国の肩を持つ気はありませんが、
異なりますが、大勢としては、輸入制限は厳しい方がいいとする
我が国の食料事情を考えると中国産食品と真剣に向き合ってい
団体が多いのではないかと思います。
かなければならないのも、現状です。
森田)輸入食品の監視取り締りは国産よりも厳しい現状もあり
阿南)私も昨年中国に行って、現地を見せてもらっていますので、
ます。輸入時の検査は、一つは命令検査と言って荷物を止めた
今中国で実際、どういう取り組みが行われているのか、政府はど
ままの検査、もう一つはモニタリング検査といって流通させなが
う対応しているのか、どう改善されているかについて、情報提供
らの検査です。前者は問題があれば先ほどの話のシップバック
はできます。ですので、今話題になっている加工食品への原料
ですが、後者の場合、いったん流通させている食品は、検査で問
原産地表示拡大の議論については、ますます中国製品排除に繋
題があっても既に売れてしまっているから回収できないとして、国
がっていくのではないかと心配です。
内の農産物と同じように考えればいいと思います。
松永)原料原産地表示に関しては、消費者庁は
「消費者が望ん
松永)現実にはそうなっていますよね。検疫所の検査結果が出
でいるから、表示をやらなくてはいけない」と言っていますが、阿
saika forum
06
Features
南さんはどのようにお考えですか?
いろんなものを配合するので産地も日々変わっていく、それに対
阿南)消費者が望んでいるといいますけれども、その内容や方
応して表示することは、最終的には消費者負担になるということ
法は様々だと思います。要するに何か問題があったときに、それ
を、消費者はわかっているのだろうかという点なのです。そのコ
がどこで作られていたか、また消費者から質問があったときに応
ストは、インターネットによる情報提供になっても、ある程度か
えることができる情報として確保されていればいいのだと思いま
かると思います。
す。そして、必ずしもパッケージに付ける表示ではなく、インター
阿南)全くそういう情報がなくても平気だわ、という消費者もい
ネット等による情報提供でもいい。むやみに海外のものを排除
るでしょうけれども、おそらく大半の消費者は、普段はいちいち
するためだけに求めているわけではありません。
確認するようなことはしないけれども、商品情報の一つの重要な
松永)企業側が指摘しているのは、コストがかかるという点です。
要素として、必要だと思っていると思います。
松永)でも、インターネット情報はほとんどみられていないとい
う現状もあります。生協ですら、ほとんど見られていない。
森田)冷凍食品業界では東京都が原料原産地表示に関する条
例を作ったことで対応しましたが、ある会社に聞いたら原料原産
地表示に関するインターネットでのアクセスは年間 7件、もう一
つの会社では3 件しか無かったそうです。それでも消費者の中
国産食品嫌いから、対応が迫られます。
阿南)中国は実際に努力もしていて、決して中国産だから安全性
に不安があるということではない。その点ははっきりと捉えて、
伝えていきたいと思います。餃子問題で消費者は、とにかく中国
産は食べたくないという思考に固まってしまいました。今はまだ、
中国産を食べたくないから中国産と表示してもらわなくては困る
という段階ではないかと思います。最近はずいぶん回復はしてき
ていますけれども、そこを克服しなければならない。事実をちゃ
んと見なくてはいけないと思います。
めていけばいいと思います。ADIを設定できるもの、できないも
松永)中国産に関しては、ある意味犯罪リスクまで考えると制御
のについて分けて考えて、食品安全委員会が判断を出すというこ
が難しいので、だから避けたいという消費者の気持ちもわからな
とがいいのではないでしょうか。
いでもありません。だからといって、中国産を外しては生きてい
阿南)でも、それは食品安全委員会が作るのでしょうかね。
けないこともわかっている。この問題は難しいですね。
松永)そうすると、ポジティブリスト制違反で考えると、厚生労
阿南)はい。中国の日本向け輸出食品の加工工場では、衛生管
働省の食品衛生法11条を変えないといけない。11条では、販
理施設の整備とともに、従業員の管理と教育にもすごく気を使っ
売してはならない、となっています。したがって、市場に出ている
ていて、できるだけフラットな組織を作って、安心して働けるよう
ものは必然的に回収せざるを得ない、ということになります。
な環境をつくることに努力していると思います。そういう情報が
森田)法11条を改正するというのではなく、先ほどもお話しした
ちゃんと伝われば、中国に対する信頼は高まると思います。私も
法第 54 条をどう適用するのかだと思います。法第11条に違反
視察で得た情報を、
様々な場で伝えています。そういう情報が今、
した場合に回収するか、営業停止にするかといった行政処分の
必要だと思います。
裁量になってきます。たとえば法第11条で規定する製造等の基
松永)メディアの問題も大きいでしょうか。中国で日本向け冷凍
準に合わない方法による原材料を使用した食品であっても最終
食品を作っている会社は、活動を強化していて、情報公開もして、
食品に食品衛生上の危害が認められない場合は法第 54 条に基
かなり努力をしています。しかしそういう情報は一般消費者には
づく対応、行政指導等の措置をとる必要がない場合があるいう
伝わらない。
通知も出されているのです。
誰がリコールの
回収要件を決めるのか
松永)そこを整理してもらわないと、
話は進まないと思うのですが。
阿南)私は回収要件を決めるのはリスクアセスメント
(リスク評
価)の機関ではないと思います。米国のUSDAのリコールは、
どうやっているのですか。
森田)米国では食肉についてアセスメント
(評価)とマネジメント
07
森田)リコールの問題に話を戻しましょう。現状では法令解釈
(管理)を分けていないので、USDAでできるのです。日本も人
が難しいわけですが、USDAの事例のように回収する要件を決
の健康影響があるかどうかの判断は、食品安全委員会の所掌だ
saika forum
特集 食のリコールをどう考えるか
から、それに付随してのリコールの話となると、安全委員会が要
程かと言う議論があっていい。そのような食品安全庁であれば
件を決めるのがいいと思います。そうでなければ、何か問題が
いいと思います。
出てきたときに厚生労働省が回収するかどうか、健康影響を食
阿南)食品安全庁の創設については、消費者庁とは分けて考え
品安全委員会に聞かなくてはなりません。
るということのようですが、じっくりと議論することが必要だと思
松永)でも、ADIが設定されているものについては、食品安全委
います。全国消団連でも、これからあるべき食品安全庁の姿を
員会は判断済みでしょう。残留基準には安全委員会はタッチし
考える議論を始めます。
ていないし、基準を決めるときに回収という管理も含めて厚生労
森田)消費者庁ができたばかりで、もう食品安全庁の議論です
働省が検討すべきではないですか。
ね。消費者庁に関しては、現状として食品安全委員会で評価し
阿南)厚生労働省は基準値を超えても健康に影響は無い、とい
たものを、なぜ消費者委員会が評価したいのかといった新たな
うことは言っていますよね。健康影響に触れています。
問題もあります。
森田)いずれにしても、リコールの要件を健康影響があるかどう
阿南)確かに食品安全委員会での評価と消費者委員会での議
かで判断しようと、厚生労働省や食品安全委員会で決めてほし
論は、そのすみ分けはしっかりとして行うべきだと思っています。
いということですよね。そう考えると食品安全庁として一本化し
このほど
「消費者基本計画」と同時に
「食料・農業・農村基本計
てもらうのもいいのでしょうかね。
画」がまとまりましたが、両方の計画の中で、リスク評価機関の
阿南)食品安全庁は、賛成ですか。
機能強化と、リスク管理機関の一元化が強調されています。こ
森田)カナダや英国、ニュージーランドは、食品安全庁を設けて
うしたことを踏まえた上での
「食品安全庁」の検討だということを
います。厚生労働省と農林水産省のマネジメント
(リスク管理)
しっかりととらえる必要があると思います。
を一本化してフードチェーンととらえていくのも一つの考え方で
森田)食品安全委員会と厚生労働省及び農林水産省、すなわ
はないでしょう。今のように畑までは農林水産省で、収穫後は
ちリスク評価機関とリスク管理機関を同じところに持っていく
厚生労働省とするのではなくて、食品供給行程の一貫で考えた
という議論もあります。リスクアセッサー
(リスク評価機関)と
ほうがいいです。その中で確実に対応しなければならないCCP
マネージャー
(リスク管理機関)が良く意見交換するという点で
はどこになるのか、生産から消費までどの過程が効果的で効率
は、一つの組織とするのも、一つの考え方だと思います。
的かつ経済的なのか、特にコストをかけなくてもいいのはどの行
松永)確かにそこをはっきり分けすぎると、現実に即した動き
ができないですよね。
図3 NACS提案
「食のリコールガイドライン」
の骨子
まとめ
森田)リコールの問題について、現状の法令解釈や運用が慎重
な現状で、新たに回収要件をつくるにはたくさんの課題があるこ
とがわかりました。
松永)役所からは言い出せないでしょうから、それを引き出すの
が消費者団体とメディアだと思っています。阿南さんの役割であ
り、私の役割だと思います。この法律はおかしい、こんなにもっ
たいないことをしているということを表に出して、社会的な問題
にしてゆかなければ、と思います。
①回収の判断基準は健康危害があるかどうかで決める
②回収する判断の主体は事業者とする
③事業者は無駄な回収を防ぐため、情報開示に努め、
説明責任を果たす
④事業者と行政はあらゆる手段を使って、消費者への
情報伝達を心がけ、
適切な行動を促す
⑤マスコミの活用など資金力のない企業でも回収できる
ような方法を考える
⑥適切な回収ができ、消費者が冷静に判断できる目安
となるデータベースをつくる
阿南)そうですね、リコールガイドラインを作りましょうといった
提案ですね。社会を変えていくのは私たちの役割だと思います。
松永)それは今までの消費者の動きとは異なりますよね。
松永)そのベースとなる健康影響があるかどうか、ということに
阿南)そうですね。新しい提案型の運動スタイルですね。地球
ついて、市民の科学的理解が求められるのですが、そこが難しい
環境問題と、国際的な食料需給問題に対する消費者の関心が
ですね。行政機関や研究機関等の説明も覚束ないし、非常に難
高まる中で、食品ロスが大きな問題になっています。そこから考
しい。
え、提案し、行動する運動をすすめていきたいと思います。
阿南)全国消団連の会員でもあるNACS
(社団法人 日本消費
生活アドバイザー・コンサルタント協会)は、そうした提案を作成
されていますし、私たちも一緒に勉強しようという機運はありま
※本稿におけるリコールとは、何か問題が起こった時に企業が
販売停止や店頭回収に加えて、消費者回収までの対応を行う
ことを意味して用いています
す
(図 3)
。
saika forum
08
メディア検 証
Verif i c a t i o n o f m e d i a
気軽に検索、ネット情報にみる食の安全情報
インターネットは誰もが手軽に情報を得ることが
できて、いまや私たちの生活には欠かせないメディ
ア(媒体)となっています。しかしその情報は玉石
混交で、情報の中には「責任の所在が明らかでない
誰かが、無料で手軽に発信しているもの」も多くみ
られます。この特徴を良く理解しないでいると、間
違った情報やトンデモ情報を鵜呑みにする可能性
があります。食の安全情報において、どんな情報が
あるのか、検索してみましょう。
知りたいことに何でも応えてくれる?「知恵袋」サイト
輸入されているような答えぶりです。
実際はどうでしょうか? 輸入食品の安全性を確保するた
め、検疫所では水際における監視体制を年々強化して対応して
何か知りたいことがあったら、ネットに投稿して聞いてみる、
います。現在、輸入食品の監視を行う窓口は全国で31ヶ所あり
というネットユーザーによく利用されるのが、
「知恵袋サイト」で
ます。多種多様な輸入食品の中から一定数量を抜き取るモニタ
す。大手検索サイト
「YAHOO!知恵袋」は、
「参加者同士で楽
リング検査が行われ、この検査の結果、違反が見つかった場合
しく知恵や知識を教えあい、わかち合える知識検索サイトです」
は国内に流通している違反品は調査され回収・廃棄が命じられ
というキャッチコピーで、2004 年 4月から2009 年 4月までの
ています。モニタリング検査では、検疫所が残留農薬、動物用
質問数は2600万件、回答数は7300万件という膨大なデータ
医薬品、食品添加物等の検査が行われます。
「検査をすること
量を誇っています。また、
もう一つのサイト
「GOO 知恵袋」は
「あ
はありえない」ということは事実ではありません。
なたの質問に 50万人以上のユーザーが回答を寄せてくれます」
ちなみに厚生労働省が発表している平成 20 年度の輸入食品
と、こちらも気楽に投稿を呼びかけています。
違反発生状況一覧をみると、中国産の違反件数は輸入件数が
たとえば
「中国産野菜が不安です」という投稿に対して、どの
473,343 件中 259 件となっており、違反頻度は0.05%です。
ような答えが返ってくるのでしょうか。前者のサイトでは
「中国
世界各国から輸入された食品の違反頻度の平均値が0.07%で
産野菜は、輸入業者によっては汚染土壌の農家から安く買い入
すから、他国と比べても違反頻度、検出頻度において中国が高
れています。しかも日本の検疫所は、膨大な量の輸入品を全て
いということではありません。
チェックするのは不可能ですから、多くはすり抜けてしまいます」
また、知恵袋サイトの表記には
「野菜類は基本的に白い粉が
というような答えが返ってきます。また後者では
「検疫所自身が
輸入する食品を残留検査する事はありえない。輸出国が検査し
表 中国からの輸入食品違反頻度比較
輸入件数
(件) 違反件数
(件) 違反頻度
(%)
て検疫所で書類審査するだけ。とりあえずの予防方法として、
中国産の魚介類は安くても買わない、野菜類は基本的に白い粉
が付着しているものは買わない」と言う答えが
「質問者が選んだ
ベストアンサー」として紹介されています。まるでフリーパスで
09
saika forum
中国
輸入食品合計
473,343
259
0.05
1,759,123
1,150
0.07
付着しているものは買わない」とありますが、野菜についている
なっており、信頼性が高いと言えます。
白い粉は、ブルーム
(果粉)といって、病気や乾燥から守るため
輸入食品の安全性であれば、厚生労働省の輸入食品専用
に植物自身が出すもので、農薬ではありません。白い粉 = 農薬
のWEBサイトである
「輸入食品の安全性を守るために
(http://
を想起させて、まるで輸入食品の残留農薬が高いような誤解を
www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html)
」が正確な
招く表現ですが、平成16 年度の厚生労働省調査結果では、国
一次情報となります。ここでは
「輸入食品の安全確保を目指して
産農産物の検査で残留農薬が検出された違反率については、
∼検疫所の仕事」として、港や空港で輸入食品の手続きがどの
国産農産物、輸入農産物とも0.01%でした。これは、対象農
ように行われているのか、動画とパンフレットで紹介されていま
産物と検査農薬の組み合わせで、国産品約 40万件、輸入品約
す。トップページには検査の結果、違反となった輸入食品につ
204万件の合計約 244万件の検査を全国で行った結果です。
いての最新情報が掲載されており、過去の違反事例についても、
国産品、輸入品とも違反率は同じく低いレベルであることがわ
違反になった理由、措置について、遡って月ごとにデータが公開
かります。
されています。ここにアクセスすれば、実際にどんな国のどんな
無記名の回答者ですから、口コミの域を出ないのは仕方あり
輸入食品について廃棄やシップバック
(積み戻しされて国内に入
ませんが、知恵袋では正確な情報はなかなか得られません。誰
らないようにする措置)されているのか、一目瞭然にわかります。
でも投稿できる気軽さによって、不安を増長させるような情報が
また、輸入食品については、フリーパスで入ってこないための
流れやすいということを、よく認識しておく必要があるでしょう。
もう一つの手続きがあります。輸入青果物に有害な病害虫が付
着していないかどうかを検査する、農林水産省の植物検疫所の
インターネットで正確な情報を知るためには
手続きです。国境を越えて病害虫が侵入・まん延するのを防ぐ
ため、世界各国で植物検疫が実施されていますが、こうした植
物防疫制度を紹介したWEBサイト
(http://www.maff.go.jp/
それではインターネットで、正確な情報を入手するためにはど
pps/)も基本情報として役立つでしょう。
うしたらいいのでしょうか。情報の信頼性については、政府機
さらに行政のWEBサイト以外で、民間でも科学的な視点で
関の発表や研究機関の学術論文が様々な情報の一次情報源と
正確な情報を発信しているサイトもあります。
(財)日本食品化
学研究振興財団のサイト
(http://www.ffcr.or.jp/)では食品化
不安をあおるような情報に触れても、落ち着いて対応できるよう
学分野における国内外の情報を整理して情報発信されており、
になります。基準値オーバーのものが検出されても、健康影響
食品添加物や残留農薬等の化学物質の基準がデータベース化
について問題がないということも理解できるはずです。
されていて、最新情報をスピーディに調べることができます。
総務省調査によると、
2009年1月時点で日本国内のインター
ネット利用者は、調査開始以来初の 9000万人を超え、増加の
正確な情報を読み解くために必要となるリテラシー
一途を辿っています。
便利になる一方で、情報発信が簡単にできることから信頼性
のないゴミ
(ノイズ)のような情報も流れ、ユーザー側がどのよ
上記に紹介した基本情報となるWEBサイトは、
「知恵袋」サ
うに取捨選択して判断するのかが課題になってきています。こ
イトのように投稿したらすぐに答えてくれる、といった内容では
うした情報活用能力を、
情報リテラシーと呼びます。リテラシー
ありませんし、残念ながらわかりやすく記述されているわけでも
とは読み書き能力という意味ですが、食品安全情報を理解する
ありません。
ためには、情報リテラシーに加えて科学リテラシーも必要とな
こうした情報を理解するためには、インターネットユーザー側
ります。これらのリテラシーをどう高めるのか、一人ひとりのイ
にも科学とリスクの知識を最低限持つことが求められます。内
ンターネットユーザー、消費者に求められています。
容や用語が難しいようであれば、まずは食品安全委員会 WEB
内のキッズボックス
(http://www.fsc.go.jp/sonota/kids-box/
foodkagakume/kagakume_index.html)の
「どうやって食べる
の?」
「科学の目でみる食品安全
(中学校技術家庭科用副読本)
」
がお勧めです。ここでは中学生向けにわかりやすいことばで、
「化
学物質の量と作用はどういう関係か」
「食品添加物や農薬の基
準値をどう考えるか」といった、食べる量と安全性についての基
本情報を得ることができます。
こうしたサイトを一度読み込んでおけば、食品安全に関する
saika forum
10
トピックス
21世紀の果樹の品種改良技術
私たちが日頃食べている青果物は、長い時間をかけて昔の原
ていた品種改良が、確実性の高いものになってきたのです。
種が品種改良されて、今の形になったものです。この品種改良
さらに遺伝子工学の発展によって、ここ十数年で植物の遺伝
技術は一昔前まで、良いものどうしを見つけてはかけ合わせると
子の配列や働きがわかるようになり、品種改良技術は大きく変
いう方法に頼ってきました。特定の形質をもつ品種を交配
(か
わりました。味が良い、病害虫に強いと言った様々な形質が遺
け合わせ)して、選抜を繰り返して目的の品種を得る方法で、交
伝子レベルでわかってきて、遺伝子地図が作成されるようになり
雑育種法と呼ばれる方法です。たとえば
「病気に強い」という形
ました。また遺伝子の本体であるDNAの配列を増やす技術が
質をもった品種と、
「味が良い」という品種をかけ合わせて
「病
開発され、目的の性質を持つ DNA 断片を大量に調製すること
気に強くて味が良い」種を得ることを目的とするのですが、実際
もできるようになりました。
には自然の力に頼るもので確実性が低く、長い時間がかかるの
これらの技術によって、たとえば両親それぞれの持つ遺伝子
が難点でした。農家が一生涯かけても目的を果たせないことも
でどんな働きをするのかわかる部分をマークして、それを交配さ
ありました。
せ、子どもに受け継がれたかどうか、そのマークが調べればすぐ
近年、放射線による突然変異によって確実性を高める方法や、
にわかるようになりました。このマークをDNAマーカーといい
試験管内で細胞から植物を再生する細胞・培養技術が進んで、
ます。こうした技術を用いた育種方法は、マーカー育種と呼ば
育種改良技術は大きく発展してきました。これまで偶然に頼っ
れています。
マーカー育種は、世代の長い作物の品種改良において、結果
でに多大なコストと年月がかかります。一方、マーカー育種の場
がすぐにわかることから効率的で最適な育種方法といえます。
合は、遺伝子組み換え技術のような試験や手続きを必要としな
昔から
「桃、栗三年、柿八年」と言われるように、果樹において
いことから、国内の種苗会社や農業試験場等で積極的に取り
は結実まで特に長い年月を要します。従来の品種改良は、かけ
組みが行われています。
合わせによる交配を行って、得られた種を植えてから結実するま
で、目的の形質が得られたかどうかはわからないまま、待つしか
ありませんでした。しかし、果実の大きさや色、甘さやすっぱさ
など、果実のいろいろな形質を推定することが可能なDNAマー
カーを開発できれば、種を植えた直後の幼苗期の段階で、その
形質を本当に兼ね備えているかどうかすぐに判別できます。
現在、国内の大学や農業試験場で果実の味や果皮色、病気
抵抗性に連鎖するDNAマーカーが開発されています。また、健
康に良い機能性成分を含んだ品種育成に役立つ DNAマーカー
開発も盛んになっています。今後、果樹の分野でも効率的に品
種改良技術が進むことが期待されます。
一方、遺伝子工学の最先端育種技術といえば、遺伝子組み
換え技術が知られています。目的とする形質の遺伝子を導入す
る方法で、さらに早くて確実な品種改良技術といえます。しか
し遺伝子組み換え農作物の開発は、組み換え実験やほ場試験
に様々な規制があり、環境面と食品・飼料としての安全性につ
いては様々な側面から試験をクリアせねばならず、市場に出るま
11
saika forum
果物とポリフェノール
ポリフェノールは、私たちが普段食べている果物や野菜、カ
ています。果肉中に含まれるポリフェノールとポリフェノール酸
カオ豆などに、苦味や渋味などの味に深みを与える食品成分と
化酵素は、細胞内の別の場所に存在しており、これが切ったり
して含まれています。化学構造からみるとフェノール性水酸基
すり下ろしたりすることで一緒に混ざり合います。この状態で
を分子内に数個以上持つ有機化合物のグループとして分類さ
空気に触れると、ポリフェノールが酸化反応を起こして色が変
れ、自然界には 5000 種以上あると言われています。ビタミン
わります。例えばナシのように、ポリフェノールが比較的少ない
やミネラル等の微量栄養素と構造は異なりますが、様々な機能
果物はすぐに色が変わることは無く、酸化して茶色くなるまでに
成分で注目されるようになってきました。
時間がかかります。このように果物の表面が酸化反応を起こし
有名なところではフラボノール、アントシアニンなどのフラボ
て変色するのは、カビや病気から植物自身が身を守ろうとする
ノイド群が色素成分としても知られています。またお茶に含まれ
からだ、とする説もあります。
るカテキンもポリフェノールの一種です。もともと果物にも多く
私たちはこれまで長い間の食経験によって、意識することなく
のポリフェノールが含まれており、特に渋みや苦みの強いもの、
ポリフェノールを摂取してきました。その機能性成分が明らか
色の濃いもの、中でも表皮や種子に多く含まれます。
になったのは、つい最近のことです。ポリフェノールは1990 年
リンゴやバナナ、アボカドなど皮をむいて放っておくと色が変
代、
「動物性脂肪を多く摂取するフランス人に動脈硬化が少な
わりますが、この反応も果物に含まれるポリフェノールが関与し
いのは、赤ワインを多く飲むからである」というフレンチパラドッ
クス説で、一躍有名になりました。その後、赤ワインの原料であ
アレルギー作用や、神経変性抑制作用が確認されたことからア
るブドウに多く含まれるポリフェノールが、活性酸素を抑制し、
ツルハイマー病などの神経疾患の予防にも有効ではないかとい
脳梗塞や動脈硬化に効果があることが次第に明らかになってき
う文献もあります。ポリフェノールの種類は多く、その成分ごと
ました。
に機能性研究が行われており、新しい効果が次々と発表されて
さらに、赤ワインの論文が契機となり、ヒトの体内における
いるのです。
ポリフェノールの抗酸化作用をはじめ、その機能性研究が盛ん
果物は、人の健康維持に役立つポリフェノールの宝庫でも
になってきました。がんや脳梗塞、動脈硬化などの生活習慣病
あります。特にポリフェノールが多く含まれるものとして、バナ
は、細胞間や細胞内、細胞膜上で発生した活性酸素によって、
ナ、ブドウ、ブルーベリー、柿、プルーン、イチゴ、マンゴーなど
発がん物質や酸化 LDLコレステロールなどが生成されて発症す
が知られています。また、カンキツ類には、ポリフェノールの一
るものです。ポリフェノールは、体内の水溶性部分から脂溶性
種であるヘスペリジンやナリンギンというフラボノイドが多く含
部分にわたって広く抗酸化作用を持ち、活性酸素の除去能力が
まれています。これらのフラボノイドが骨代謝にプラスに影響す
高いことが研究によって明らかになっています。
るとする論文が発表され、オレンジジュースやグレープフルーツ
ジュースを用いた実験でもその効果が確認されています。果物
抗酸化だけではない、
ポリフェノールの機能性
にはもともと骨の形成・維持
に重要な働きをするビタミ
ンCやマグネシウム、カリウ
ムといったミネラル成分が多
最近のポリフェノール研究は、抗酸化機能研究だけではあり
く含まれていますが、さらに
ません。血中のコレステロールを抑制して高血圧を予防する効
新しいポリフェノール作用
果、肝機能の向上効果、ホルモン促進作用、殺菌効果、糖尿病
が明らかになって、機能が解
の改善効果など、新たな機能性が次々と報告されています。抗
明されていくことでしょう。
saika forum
12
世界の果物文化
レイシ
Fruit c u l t u r e i n t h e w o r l d
レイシ
(茘枝)はライチとも
呼ばれ、中国南部からインドシ
ナ半島にかけて原生するムク
中国では古来より南方の珍果として愛され、唐の時代には盛
ロジ科の果物です。その歴史
んに栽培されるようになりました。宋の時代になるとレイシに関
は古く、漢の歴史書
『漢書』や、
する最古の書物
『茘枝譜』が記され、そこには 32の品種が記録
中国最古の植物誌といわれる
されているといいます。また、この頃の有名な詩人・白居易や蘇
『南方草木状』
、農書
『斉民要
東坡も、レイシに寄せる人々の想いや、その味わいを歌につづり
術』などにその記載がみられる
ました。
ことから、中国では2000 ∼
唐の玄宗皇帝の妃・楊貴妃がレイシを好んで食べたというの
3000 年前から栽培されていたことが分かっています。中国内
は有名な話。玄宗は寵愛する楊貴妃
に存在する品種は100 以上、木は寿命が長く、福建省の各地
に新鮮なレイシを食べさせるために、は
には樹齢数百年の老樹が残っているそうです。
るか南方の嶺南
(現在の広東)へ馬を
18 世紀にインドや西インド諸島に伝えられ、19 世紀に入ると
遣わせ、首都長安までの数千里におよ
ハワイやフロリダ、カリフォルニア、南アフリカへと広まりました。
ぶ道のりを8日8晩かけて運ばせまし
現在も世界各地の熱帯・亜熱帯地方で栽培されています。
た。そのために犠牲となった人馬の数
ははかり知れず、国が滅びる一因になったともいわれるほどで
女・楊貴妃の美しさの秘訣はレイシだったといわれるように、レ
す。ちなみに楊貴妃が食べたレイシの木は、福建省福州に近い
イシには女性に嬉しい栄養成分がたくさん含まれています。特
西禅寺の境内にあると伝えられています。
に葉酸は豊富で、ビタミン Cやミネラルも摂取できます。
■レイシはとてもデリケート
生で食べられるほか、乾果、ジュース、シロップ漬けなどにも
加工されます。なかでも乾果は
「茘乾」といい、中国の冠婚葬
前述の楊貴妃のエピソードは、レイシがとてもデリケートで
祭には欠かせないものだそうです。また、果実を漬け込んだ茘
傷みやすい果物であることを物語っています。鮮度を保つため、
枝酒、香りを茶葉に移した茘枝紅茶なども、その上品な香りと
現地では枝付きのまま収穫されます。果皮の色は品種によって
甘美な味わいが女性を中心に人気です。
異なりますが、多くのものは樹上では鮮やかな赤色。それが収
中国では古くからレイシには強壮効果があると信じられてい
穫して1、2日間に色あせ、褐色に変色してしまうのです。
ますが、食べ過ぎると鼻血の原因になるという話もあります。種
このように長期保存に向かないことから、日本に年間を通し
子は咳止め、痛み止めにも用いられるということです。
て輸入されているレイシは冷凍品ですが、旬を迎える初夏から
夏にかけては、中国や台湾から生鮮品が輸入されています。生
のレイシはより一段と香り高く、濃厚な甘さが楽しめるといい
ます。
■楊貴妃の美の秘訣はレイシ?
レイシの木は7∼10m 程度の常緑樹、1枝には数個∼数十個
の果実が房状に実をつけます。果実は3∼4cmの円形ないし
楕円形で、こぶ状に突起した固い果皮が果肉を覆います。果肉
は半透明の乳白色で、その中央には大きな種子が1つあります。
ゼリー状の果肉は水分をたっぷり含んでみずみずしく、上品な
甘さと程よい酸味があり、独特の香りも魅力的です。絶世の美
13
■楊貴妃が好んで食べた果物
saika forum
Fruits
身近な疑問にお答えします
Q &A
Q
A
Q
A
食品の安全性や機能性、
また日常ふと感じる疑問などにお答えします
品種や時期、産地によって
果物に栄養成分の表示を見つけました。
栄養成分が異なると思うのですが。
消費者の健康志向の高まりや、特定の栄養成分を強
ぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム並びに特徴のある成分の
化した新品種が流通するようになったことなどを背景に、
含有量を併せて表示します。食品の特性上、栄養成分の含有
生鮮食品にも栄養成分表示ができるようになりました。
量にばらつきがある場合は、「ビタミン C34∼124mg」 のよう
栄養成分の表示は、健康増進法に基づいて
「栄養表示
に下限値と上限値による記載もできます。
基準」が定められており、これまでは加工食品と鶏卵が
一方で消費者を誤認させるような表示は望ましくありません。
対象でした。生鮮食品についても、この基準に沿った適
例えば、元々ビタミンCが多い食品に
「高ビタミン Cみかん」など
正な表示が求められます。
と表示することで、他の品種よりビタミン Cを多く含むかのよう
表示の方法には
「オレンジはビタミン Cを多く含む食
な誤解を与える表現や、実際の含有量と表示が著しく異なるよ
品です」のように、一般的な特徴を表示するほか、成分
うな場合は
「虚偽誇大表示」に該当する恐れがあります。表示
に特徴のある品種については
「一般的な品種より○○成
しようとする生産者は、制度への理解を深めるとともに、栄養
分が△割多く含まれています
(「日本食品標準成分表」 と
成分を安定的に確保するための栽培管理や、定期的に成分測定
比較)
」といった表示も可能です。この場合、熱量、たん
を行うなどの努力・工夫が求められます。
生の梅には毒があると聞きました。
梅干しやシロップ着けに毒は無
いのですか?
昔から
「青梅は毒」
、
「梅は食べても核食うな、天神様
こすことも報告されています。
が寝てござる」ということわざがあります。これは、梅の
しかし、果実が成熟するにつれてアミグダリンは酵素分解され
核
(種子の部分、仁ともいう)や未熟果実には、アミグダ
て糖に変わるため、次第に消失していきます。さらに、梅干し、
リンという青酸配糖体が含まれるためです。
梅酒、シロップ漬けなどの加工によっても減っていくので、梅加工
アミグダリンは、核に存在する酵素や人の消化管内の
食品を日常的に食べたり飲んだりしても、健康被害の心配はあり
酵素によって分解されると、毒性の強い青酸を発生しま
ません。なお、
アミグダリンは、
梅と同じバラ科植物であるアンズ、
す。そのため、若い梅の実を食べると下痢や腹痛を起こ
モモ、スモモ、ビワなどの種子や未熟果実にも存在します。
すことがあります。また、核の部分を多量に摂取すると、
ちなみに、ことわざにある
「天神様」とは学問の神様、菅原道
嘔吐や目まい、けいれん、呼吸困難などの中毒症状を起
真のこと。道真は梅をこよなく愛したことで知られています。
あ と が き
本年1月の創刊号以来、
ご意見や送付希望のメールをたくさん頂戴し
ました。心より御礼申し上げます。2号は創刊号同様、WEB上で見や
すいレイアウトに留意しておりますので、協会のWEBサイト
(http://
www.fruits-nisseikyo.or.jp/activities_publication.html)
も
ご利用頂ければ幸いです。また、
ご意見等は[email protected]までお寄せ下さい。
なお、創刊号6pの消費者委員会の松本恒雄委員長の漢字表記に誤
りがありましたこと、深くお詫び申し上げます。
菜果フォーラム 第2号
発行日: 2010年5月
発 行: 社団法人 日本青果物輸入安全推進協会
〒101-0024 東京都千代田区神田和泉町1-12-16
末広ビル6階
TEL.03-5833-5141 FAX.03-5833-5140
http://www.fruits-nisseikyo.or.jp
編集人: 米倉幸夫
saika forum
14
(社)
日本青果物輸入安全推進協会
Fly UP