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第2章 司法書士の業務

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第2章 司法書士の業務
第
2
章
司法書士の業務
❶ 司法書士のメイン業務
●
司法書士は、登記業務・裁判所への提出書類作成・供託業務を業務の柱として、従来から行
ってきました。まず初めに、これらの業務の具体的な内容を見てみましょう。
司法書士法では、全ての司法書士が行うことができる業務を以下のように定めています。
第3条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事
務を行うことを業とする。
1.登記又は供託に関する手続について代理すること。
2.法務局又は地方法務局に提出し、
又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、
磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記
録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第4号にお
いて同じ。
)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
3.法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続につ
いて代理すること。
4.裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平
成16年法律第123号)第6章第2節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定
の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第8号において同じ。
)において
法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を
作成すること。
5.前各号の事務について相談に応ずること。
(6~8号省略)
第73条 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。
)は、
第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、
他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
条文だけ見ても、なんだかイメージが湧きませんね。以下、詳しく見ていきましょう。
⑴ 登記業務
⒜ 司法書士業務の大きな柱
近年では、職域拡大によりさまざまな業務を行うことができるようになりましたが、従来か
らのメイン業務であるこの登記業務は、司法書士業務全体の7~8割を占める大きな柱です。
ここにいう登記業務とは、土地や建物、いわゆる「不動産に関する権利の登記」及び会社
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
や法人などに関する「商業登記」です。
この登記業務を「業として(報酬を得て継続的に)
」行うことが出来るのは、現在、司法書
士か弁護士に限られていますが、弁護士で登記業務をされている方はごく少数です。これは、
例えば、売買契約における売主と買主や、金銭消費貸借契約における借主と貸主、抵当権設
定契約における抵当権者と設定者のように、利益が相反する実体形成上においては一方の代
理人である弁護士が、その後の手続において相手方・第三者を含めて全関係当事者の代理人
として、登記申請の代理をすることは回避されているという倫理的な問題によります(業務
上の双方代理禁止規定による自己規制)
。
登記申請の代理を中心に安全な不動産取引を業務として支援してきた、“中立的立場”とい
う独自性・優位性を持つ司法書士に、弁護士から登記の依頼があることも多いのです。
登記については、その手続きも難しく、不動産登記においては司法書士の関与率が90%以
上(日司連事業報告より)であることから見ても、今後も土地や建物の売買など不動産取引
のあるところ、企業のあるところには登記業務は必ず発生するため、日本全国どこにでも司
法書士の需要はあるのです。
⒝ そもそも「登記」って何?
不動産は一般に高額な財産であり、特に不動産を巡る権利関係は、円滑な取引やその安全
性を図るという目的からも、所有者は誰か、担保が付いていないか(借金のカタになってい
ないか)など、それらの情報を公開することが必要です。土地や建物の所在・面積のほか、
所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記記録)に記録し、これを一般公開する法律上の公
示制度が「登記」なのです。
登記をしておかなければ、第三者への対抗力がないため、不動産に関して権利を取得した
者(例えば土地の買主)は、
せっかく買った土地を失ってしまうケースもあるのです。よって、
不動産取引などではその場で司法書士に登記を依頼するのが通常です。また、不動産取引に
おいて融資を行う金融機関や仲介業者なども、法律上問題のない確実な取引を行うため、司
法書士の関与を求めてきます。
商業登記における登記の必要性も取引安全のためです。目に見えない存在である会社と多
額の取引や継続的な取引をする場合、通常はその会社がどのような会社なのか(所在や役員
構成・資本金の額・事業内容等)を調査します。会社と称する者と取引をしたが、実はそん
な会社は存在しなかったという不測の損害を被ることにならないように登記制度を活用して
います。相手方とすれば、その会社について出来るだけ多くの情報を登記によって公開して
欲しいものですが、対象となる会社にとっては企業秘密もあり、何でもかんでも公開するわ
けにもいきません。そこで、商業登記においては、法律上決められた事項についての登記が
義務付けられているのです。
ア 不動産登記 ~安全で公平な不動産取引と市民の権利の保全~
一般に不動産取引や融資の場合が多く、不動産仲介業者や金融機関から登記の依頼があ
ります。他にも相続などの場合には弁護士や税理士などから、住宅新築の場合には住宅メ
ーカーなどから、事案に応じてさまざまな依頼がくることがあります。具体的にどのように
して不動産登記が行われるのか、不動産の売買を例に見ていきましょう。
不動産仲介業者から事前に連絡が入り、司法書士はその際入手した情報を基に、書類等
をチェックし、事前準備を開始します。登記によって、対象不動産について現在の権利関
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
第
2 章 司法書士の業務
係の調査などを行います。不動産売買であれば、通常は銀行等に融資を受けて購入資金に
充てることとなるため、売買契約の最終履行である代金の支払いは銀行の応接室などで行
うこととなります。これを登記の「立会」などと言いますが、この場は司法書士なくしては
成立しません。
ここでは、売主と称する者・買主と称する者が本当に本人かを確認する「本人確認」
、対
象不動産についての確認「物の確認」
、さらに、当事者に行為能力と意思能力があり、本当
に売る意思があるのか・買う意思があるのかの「意思確認」も必須です。なお、この場に
来られない方がいれば、事前に面会を行ったりもします(勤め先や病院、老人ホームなど
に出向くこともあります)
。司法書士がこの「人・物・意思の確認」を行い法律上問題ない
ことを確認したら、銀行にOKを出し、それに基づき銀行が融資を実行します。これにより、
売主は売買代金の支払いを受けることができ、また、銀行も今回の融資について返済を確
実化するために、当該不動産について抵当権などの担保を設定するのです。
司法書士のOKサインで数千万、時には数億円という資金移動が行われ、不動産の所有
権も移転することになるため責任重大、ミスは許されないため緊張する場面です。しかし、
不動産取引の場においては、成立すると売主・買主双方に感謝され、また、仲介業者や銀
行も無事取引が成立して安心できるのです。そのような取引の場に専門家として立ち会う
ことができ、取引を成立させることはこの上ない職務上の喜びを感じ、また責任が重い分
やりがいも大きいものです。もちろん司法書士の仕事はこれだけでは終わりません。その後、
預かった書類等を基に登記を申請する。登記が完了して、売主・買主双方に登記識別情報
や登記完了証等の書類をお渡しする。このような流れになるのです。
この不動産登記については、2005(平成17)年3月にインターネットでのオンライン申
請も可能とすることを契機とする大改正がなされました。この改正で、今まで以上に司法
書士の「人・物・意思の確認」業務を基礎とした「登記原因証明情報」
「本人確認情報」の
作成や法的チェックは重要となりました。その手続きも専門性を要し複雑であるため、今
後も変わらず司法書士が必要とされ、活躍の大きな舞台であることに変わりはありません。
不動産登記(主なもの)
・所有権保存登記
・所有権移転登記(売買、贈与、交換、相続)
・抵当権設定登記、根抵当権設定登記
・その他(変更登記・抹消登記・更正登記・回復登記)
イ 商業登記
会社をつくるには登記をしなければ成立しません。また、成立後にも、本社を移転する、
支店を開設する、役員の変更、増資…さまざまな局面において定期的にその変更登記など
が必要となります。これらについての登記の申請も司法書士が企業などから依頼を受け、
手続きを行います。この場合,司法書士は「変更したから登記をお願い。
」と依頼を受ける
こともありますが、多くの場合「変更したいのだがどうすればいいか?」と事前に相談を受
け、法律知識に基づいて、場合によっては税理士などと連携をし、その企業にとってベス
トな方法を提案し、事前調査や準備などをする、つまり登記申請手続きだけでないことも
多いのです。そういう面からも、企業とはある程度、継続的な関係となることも多いです。
近年においては、合併などの企業再編も多いですが、これはなにも大企業に限ったこと
ではなく、特にベンチャー企業などでは多い動きです。複雑な法律知識を要し、更には登
記も必要となることから、従来にましてその必要性は高いのです。
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司法書士
さらに、度重なる企業の不祥事や経済状況の変化に応じて法律の改正も多く、コンプラ
イアンス(法令遵守)の重要性が高まっていることからも、特に法務部などを持たない中
小企業等においては、司法書士は法律改正の対応だけでなく、身近な法務アドバイザーと
して、その必要性が再確認されています。最近では個人の司法書士事務所でも、企業と顧
問契約を結ぶ事務所が増えています。
商業登記・法人登記(主なもの)
・会社設立登記、支店登記、合併登記、会社分割登記
・役員変更登記、機関設置変更登記
・本店移転登記、商号変更登記、目的変更登記
・増資登記、減資登記、新株予約権登記
・各種法人登記
⑵ 裁判事務
一般的には、裁判に関与するのは弁護士だけだと思われがちですが、司法書士も従来から民
事訴訟に関与しています。市民に最も身近な裁判所である簡易裁判所では、弁護士をつけるこ
となく訴訟の当事者本人が裁判手続をする場合がほとんどで、多くの事件が弁護士なしで裁判
が行われています。このような裁判で、司法書士は裁判に不慣れな当事者に代わって訴状・準
備書面など、裁判に必要な書類の作成をしたりアドバイスを与えたりします。すなわち、司法
書士は弁護士と異なり、本人の訴訟遂行を裏側からサポートし、本人と二人三脚で訴訟を進め
ていきます。この裁判事務(裁判に必要な書類の作成)は、後に説明する「簡裁訴訟代理等関
係業務」と異なり、すべての司法書士が行うことができる業務です。
裁判所に提出する書面作成(訴額に関係なく、また審級にも関係なく)
主なもの
・訴状
・答弁書
・準備書面
・仮差し押さえ、仮処分命令の申立書
・支払命令申立書
・失踪宣告
・調停事件申立書
・家事事件申立書
本人訴訟支援
(調停・督促・和解・少額訴訟・裁判)
⑶ 供託
供託とは、供託所といわれる公の機関に金銭などの財産を一旦預ける制度のことです。法律
的に相手に払ったのと同じ効果を生じます。供託する理由はさまざまですが、例えば、これま
で家賃が5万円だったものが、家主(賃貸人)が急に家賃を10万円に値上げしたとします。お
かしいからといって、
家賃を支払わないと債務を履行しないということで契約を解除されますし、
利息もついてきます。そこで賃借人は、供託所に値上がり前の家賃を預けることによって、家
賃の未納という事態を回避することができます。本人でも書類を書くことはできますが、手続き
が複雑なため、多くの場合司法書士に依頼します。
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第
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❷ 広がる司法書士の業務
●
司法書士の業務は、ここ約10年で大きく様変わりしました。司法書士の業務範囲は拡大し、
市民に最も身近な法律家としてますます活躍が期待されています。簡易裁判所における裁判業
務、高齢者の財産を守る成年後見業務、相続に関する業務、企業法務など、近年広がった新し
い業務、成長分野の業務を紹介します。
⑴ 簡裁訴訟代理等関係業務
⒜ 法廷に立って弁護活動
2003(平成15)年4月より、一定の研修を受け、法務大臣認定考査(試験)によって認定
を受けた司法書士には、簡易裁判所の訴訟代理権が付与され、司法書士も簡易裁判所では弁
護士と同様に訴訟代理人として法廷に立って弁護活動をしたり、当事者の代理人として訴訟
外での和解交渉をすることが出来るようになりました。
140万円以下の訴訟や和解交渉という制限がありますが、代理できる事件はさまざまです。
例えば、単純に「貸したお金を返してもらいたい。
」
「売買代金を払ってもらいたい。
」
「敷金
を返してもらいたい。
」という金銭の支払いを請求する訴訟はもとより、アパートの住人との
賃貸借契約を解除してアパートから出て行って欲しいという場合には、契約の解除及び建物
の明渡しの請求をします。他にも雇用関係のトラブル、比較的軽微な交通事故等の損害賠償
請求訴訟など、挙げるとキリがありません。一般市民間に生じる紛争解決の担い手として活
躍の場が広がっています。
一般に、
「裁判と言うと弁護士さん?」と思われる方も多いでしょうが、上記のような比較
的軽微な事件の場合、弁護士ではなかなか敷居が高く、依頼を躊躇してしまうこともあります。
このような場合でも、泣き寝入りをせず、また裁判になった場合でも、本人訴訟で法律を知
らないが故に負けてしまうということのないよう、司法書士が本人に代わって訴訟をサポート
します。
下図を見ても、司法書士に簡裁訴訟代理権が認められた2003(平成15)年以降、簡易裁判
所の新受件数が大きく増加していることが分かります。
資料:簡易裁判所の新受件数の推移(通常訴訟)
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成
13 年 14 年 15 年 16 年 17 年 18 年 19 年 20 年 21 年 22 年
裁判所司法統計平成22年度より(平成24年7月13日現在)
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司法書士
これはまさに社会に司法書士に対する訴訟代理のニーズがあり、着々と司法書士が活躍の
場を広げていることをも意味しています。
条文では、
「簡裁訴訟代理等関係業務」は以下のように定められています。
第3条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事
務を行うことを業とする。
(1~5は省略)
6.簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起
(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを
除く。
)
、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。
)については、
代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定による手続(ロに規定する手続及
び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。
)であつて、訴訟の目的の価額
が裁判所法(昭和22年法律第59号)第33条第1項第1号に定める額を超えな
いもの
ロ 民事訴訟法第275条の規定による和解の手続又は同法第7編の規定による支
払督促の手続であつて、請求の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に
定める額を超えないもの
ハ 民事訴訟法第2編第4章第7節の規定による訴えの提起前における証拠保全手
続又は民事保全法(平成元年法律第91号)の規定による手続であつて、本案
の訴訟の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ニ 民事調停法(昭和26年法律第222号)の規定による手続であつて、調停を求
める事項の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
ホ 民事執行法(昭和54年法律第4号)第2章第2節第4款第2目の規定による
少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第33条第1項第1
号に定める額を超えないもの
7.民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対
象となるものに限る。
)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1
号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しく
は裁判外の和解について代理すること。
8.筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第123条第3号に規定する対
象土地をいう。
)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計
額の2分の1に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割
合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第33条第1項第1号
に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること。
2 前項第6号から第8号までに規定する業務(以下「簡裁訴訟代理等関係業務」という。
)は、
次のいずれにも該当する司法書士に限り、行うことができる。
1.簡裁訴訟代理等関係業務について法務省令で定める法人が実施する研修であつて法務大
臣が指定するものの課程を修了した者であること。
2.前号に規定する者の申請に基づき法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な
能力を有すると認定した者であること。
3.司法書士会の会員であること。
⒝ 債務整理
この訴訟代理権があることで、法廷での訴訟活動以外にもさまざまな分野で活躍すること
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
第
2 章 司法書士の業務
ができるようになりました。そのひとつが社会問題化したクレサラ問題です。これは、クレジ
ットや消費者金融(いわゆるサラ金)等からの過剰な借り入れにより多重債務に陥り困って
いる方に対し、人生の再スタートのサポートを行うものです。
「自己破産」
「特定調停」
「個人
民事再生手続」などの法的債務整理手段、
及び裁判外の和解による「任意整理手続」などから、
その方にあったメニューを選択し、手続きを行います。行き過ぎる取り立てによって日常生
活もままならないという場合には、司法書士が金融業者に対して介入通知を出せば、債務者
には直接請求できなくなります。また、
債務者の代理人として取引履歴の開示請求ができます。
違法な利息分の返済については元本の弁済に充当できるため、それら開示された履歴をもと
に司法書士が計算し直してみると、実は払いすぎだったという場合も多々あります。その場
合は「払い過ぎた分を返して下さい!」と昨日まで請求される側だった債務者が、一転、請
求する側に回ることもあるのです。この場合にも司法書士が代理人として交渉をしていくこと
で有利に進めることができるのです。債務で苦しんでいる方に再スタートのチャンスときっか
けを作ることができ、社会的意義が大きい仕事です。
⒞ 法廷以外にも広がる活躍の場
訴訟代理権の取得により、140万円以下という制限はありますが、活躍の場も大きく広がり
ます。訴訟を予定した「法律相談業務」も訴訟代理権がないと受けられない業務です。さらに、
公にしたくない、時間をかけたくないなどの理由により、裁判外での紛争解決(ADR)を望
む方も多いですが、この場合には司法書士が仲裁や調停などの紛争解決の場に、本人に代わ
って臨むこともあります。また、各司法書士会がADR法の認証を受けて調停センターとして
の役割を果たす試みが始まっています。法律上のトラブルは全て裁判の判決により解決する
ものばかりでなく、相手方との話合いにより解決する和解契約の締結も多くあります。紛争
の当事者同士ではなかなか進まない和解契約も、間に司法書士を立てることによりスムーズ
にいくケースも多いのです。更には少額訴訟手続きの代理からその強制執行手続きも可能に
なりました。
⒟ 訴訟代理権取得には
司法書士試験に合格しただけでは、これらの簡裁訴訟代理等関係業務を行うことはできま
せん。日本司法書士会連合会が行う100時間の「特別研修」を受け、法務大臣が行う別個の認
定考査という試験をパスすることで訴訟代理権を取得できます。業務の幅を広げるためにも、
これからの司法書士は、ぜひ取得しておくべきでしょう。
なお、考査の認定率(合格率)は60~70%と司法書士試験のそれに比べると低くはありま
せんが、油断は禁物です。
⑵ 成年後見業務
⒜ 成年後見って何?
少子高齢化社会といわれる現代においては、認知症や知的障害、精神障害などの理由で、
自ら不動産や預貯金などの財産管理ができなくなってしまう方が増えているという現実があ
ります。
またこのような場合、財産管理だけでなく、介護サービスや施設の入所契約の締結、遺産
分割協議など自ら行うのが難しい場合もあるでしょう。もしくは判断能力の低下により、住宅
リフォーム詐欺にみられるような悪徳商法により、自己に不利益な契約を結んでしまうケース
もみられます。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
こういった判断能力の不十分な方を保護する制度として、2000(平成12)年4月に法整備
が行われて、
「成年後見制度」がスタートしました。介護が必要であれば介護サービス契約の
締結や施設への入所契約、そのための資金として所有不動産の売却等が必要であればそれら
の売買契約、不当な契約の取消し、要介護認定の申請行為など、本人に代わって財産管理の
みならず身上監護に関するさまざまな法律事務を行うのが成年後見業務です。本人の保護と
いう側面もありますが、本人の残存能力を活用し、自己決定権を尊重した運用が求められます。
無駄遣いのないようにがっちり管理するのではなく、本人の望み・希望を叶えるために、本
人のために有効に財産を使うということも必要です。
「成年後見」には、ご本人の判断能力が
あるうちに契約を締結しておく「任意後見」と、サポートが必要になった時に申立てをして裁
判所が選任する「法定後見」があります。
成年後見業務は、司法書士法29条1項1号の法令で定める業務として、
「当事者その他関係
人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類す
る地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれら
の業務を行う者を監督する業務」
(司法書士法施行規則31条2号)として、すべての司法書士
が行うことができる業務です。
⒝ 司法書士の関与率NO.1
親族が成年後見人となる場合が多いですが、さまざまな事情により親族が後見人になるの
が適さない場合には、司法書士・弁護士・社会福祉士などの第三者として専門職が後見人に
選任されます。
最高裁判所発表の「成年後見関係事件の概況(平成23年度)
」によると、親族以外の第三者
が後見人に選任されるケースが年々増加しており、平成23年は全体の44.4%に達しています。
成年後見制度の担い手として、親族以外の第三者(士業等)では、司法書士が選任される
ケースが一番高く、次いで弁護士、社会福祉士となっています。成年後見制度のスタートと
ともに、司法書士がいち早く社団法人として全国組織を設立し、積極的に取り組んだことから、
他の士業と比べ高い選任件数となっているのです。
資料:成年後見人等と本人との関係別件数
6,000
弁護士
司法書士
社会福祉士
法人
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成
14 年 15 年 16 年 17 年 18 年 19 年 20 年 21 年 22 年 23 年
最高裁判所発表の「成年後見関係事件の概況」データより
※「成年後見関係事件の概況」平成14年度~平成23年度より(平成14年~19年度は4月~3月、平成20
年~23年度は1月~12月の数字)
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第
2 章 司法書士の業務
⒞ 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート
高齢者・障害者の権利を擁護することを目的として、日本司法書士会連合会が中心となり、
社団法人成年後見センター・リーガルサポートを1999(平成11)年12月22日に設立しました。
司法書士を正会員とする全国組織です。2000(平成12)年4月の成年後見制度スタートに先
駆けて、いち早く設立されたのです。社団法人成年後見センター・リーガルサポートは、後
見人としての倫理や法律・医療・福祉等幅広い後見に関する知識・技能を身につけるための
研修、会員の行う成年後見業務の指導監督、成年後見制度の調査・研究、成年後見制度の普
及活動などを行い、司法書士がその担い手として活躍できる環境をバックアップしています。
2011(平成23)年4月1日にリーガルサポートは、公益社団法人に移行しました。
現在、司法書士5,942名、司法書士法人62法人、法人賛助会員4社が会員として参加してお
り、成年後見人として司法書士が選任される割合も年々増加しています(リーガルサポート
HPより、平成24年6月14日現在)
。
⒟ 信頼関係の構築・社会経験が要求される仕事
他人の財産を管理することになるため、この成年後見業務は家庭裁判所の監督下で行うこ
ととなりますが、預貯金の名義変更等も必要になり、
「この人になら財産を預けても大丈夫」
と思える位の信頼関係の構築が重要です。
「法定後見」は、判断能力が衰えてからの制度ですが、
「将来、そのような状態になった時
に備えて」ご本人の判断能力があるうちに契約を締結しておく「任意後見」では、判断能力
があるうちはもちろんご自身で管理して頂きますが、サポートが必要になった時には司法書士
が管理することとなります。そのために、ご本人と財産状況の確認や将来のご希望等を伺っ
ておきます。これにより、将来、そのような状況になった場合にどうしたいかを事前に確認し
ておくことで、いざという時にもご本人の希望に沿ったサポートが実現できることとなります。
そのため、判断能力が低下するまでの間も定期的に面会するなどして、財産状況や要望の変
化などをお伺いし、法的な相談に応じる「見守り契約」を結ぶことが多いです。判断能力が
衰えてしまってからではご本人との意思の疎通も上手くいかないことが多いため、判断能力
があるうちに信頼関係を築き、将来の意向を把握しておくことが出来れば、万が一の時にも
充実したサポートが可能となるものです。
また、成年後見業務では、ご親族などから依頼があることも多いため、ご親族との信頼関
係も重要です。他人の財産管理をすることになる以上、強い信頼関係の構築と高い倫理観が
必要でしょう。
⒠ 依頼者の人生に触れる仕事
継続的なお付き合いになり、場面に応じてさまざまなサポートが必要となる仕事ですが、
ご本人やご親族をはじめ多くの方と、さまざまなお話を重ねることとなります。過去の生い立
ちから将来設計にわたってお話を伺うことにより、逆に多くのことを教わることもあります。
また、判断能力が低下された方であっても、その状況は人によって違うことは当然のこと、
同じ方でも日によって異なることは多く、その時々に応じたサポートも必要になります。司法
書士はそのご意向を汲み取った上で、かつ客観的な判断も求められるため、大変ではありま
すが、定型化した仕事でなくやりがいも大きいものです。
成年後見では、多くの手続きが必要となりますので、それらの手続きを進めながら、ご本
人やご親族の方と面会を重ねていくことになります。そこからその方の特徴やご意向を汲み
取って、形式的でないサポートが必要となるのです。
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司法書士
頼りにされ、感謝されることも多く、本当に「この仕事をやってよかった」と思える仕事と
言えるでしょう。
⑶ 財産管理・処分業務
⒜ 法令に規定されているのは弁護士と司法書士のみ
相続が発生した場合、亡くなられた方の名義になっている預貯金や株券等の有価証券など
を相続人が解約したり、相続人の名義に書き換えたりする必要がありますが、それらの手続
きは煩雑で手間のかかるものです。また、アパート経営をしていたりして、多様な財産を持
っているが、その管理が自分ではなかなかできないので、だれか専門家に手伝ってもらいた
いという方もいるでしょう。司法書士はこのような場面において、相続財産や不良債権等の
各種債権の財産管理・処分をサポートすることを業務として行うことができます。
一方で、遺産である預貯金を解約して相続人に配分したり、みなさんの貴重な財産をお預
かりして管理したり処分したりするには、専門的な法律知識と高度な倫理観が求められます。
司法書士は、法令(司法書士法29条、同施行規則31条)により、他人の事業の経営、他人
の財産の管理若しくは処分を行う業務をすることができるとされています。他人の事業の経
営や他人の財産の管理若しくは処分を行う業務をすることができる旨、法令で規定されてい
る職業は、司法書士の他は弁護士のみです。
⒝ 法的根拠のある財産管理・処分業務
2002(平成14)年の司法書士法改正により、司法書士法29条1項1号で、
「法令等に基づ
きすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部または一部」
とあります。本条の趣旨は、
「司法書士は、本来的な業務のほか、他の士業法で独占業務とし
て規制されていない業務について、附帯的に行うことができるし、実際にも行っている。本
条1項1号は司法書士法人についても、本来的業務のほか、このように司法書士が行うこと
ができる附帯業務を行うことができることを可能とする趣旨である(テイハン『注釈司法書士
法』小林明彦・河合芳光著から引用)
」
。
また、法務省令で定める業務は司法書士法施行規則31条1号で、
「当事者その他関係人の依
頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業
の経営、他人の財産管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し若しく
は補助する業務」と規定し、非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止を規定している弁護士法
72条但書きでは、
「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りではない。
」
とあります。
したがって、他の法律(司法書士法ならびにその省令委任事項)に別段の定めがあるとこ
ろの、他人の事業の経営、他人の財産管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う
者を代理し若しくは補助する業務のいわゆる財産管理業務等は、司法書士法人事務所でなく
とも司法書士個人であっても、当然に司法書士の附帯業務として行える業務であります。
⒞ 組織的な展開も既に始まっている
この司法書士の附帯業務としての不動産を中心とする「財産管理・処分業務」は組織的な
取り組みをもって積極的に展開必要があります。それは、少子高齢化社会を迎え、遺言・相
続などが多く発生していることに加えて、経済不況の下、中小企業の事業譲渡や債務整理を
原因とする担保付不動産の任意売却もよく見られるなど、財産の承継・管理処分業務等の法
的事務処理の需要が多く発生しているからです。
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
第
2 章 司法書士の業務
これらの財産管理業務等は、本来法律の専門家が適切かつ公正な手続きをもって処理すべ
きものですが、そのようなノウハウを持っている専門家の数は不足しており、法的資格のな
いコンサルタントなどが不透明な方法で処理することも稀なことではありません。ここに法律
専門家としての司法書士の新たな活躍の場が見込まれるのです。
この分野を担うべく、司法書士を中心に財産管理業務等の普及推進を目的とした「一般社
団法人日本財産管理協会」や「一般社団法人民事信託推進センター」という組織が立ち上げ
られています。
2011(平成23)年10月22日に横浜で「一般社団法人日本財産管理協会設立記念シンポジウム」
が開催されました。財産管理業務の専門家を養成するために、知識・技能・倫理などの研修
を実施し、修了者に専門能力の認定をし、名称独占資格を付与することを目指すことが明ら
かにされました。この分野の今後の組織的な展開が期待されるところです。
⑷ 相続業務
高齢化社会の進展に伴い、今後、相続に関連する業務はますます増加することが推定されます。
人が死亡したことをきっかけに、さまざまな手続きが必要になります。死亡届をはじめとする役
所へ提出しなければならない書類の手続き、遺族年金などの社会保険事務所での手続き、公共
料金に関する手続きや、銀行・カード会社などの金融機関での預貯金の解約や名義変更手続き、
生命保険・健康保険などの手続き、勤務中だった場合には、会社に提出する書類や手続もあり
ます。また、相続に関連して税金に関する手続き、土地や建物などの不動産、自動車などに関
する名義変更手続きもあります。専門的な手続きについては、司法書士・税理士・行政書士・
社会保険労務士・弁護士など、さまざまな専門職種が関わります。
⒜ 相続に関連する手続きの流れ
ア 相続人の調査
相続は、誰でもできるわけではありません。誰が相続できるのか、相続人の優先順位、
財産の分配方法などが法律で定められています。この法律において定められた財産を承継
する人を、相続人といいます。また、この法律に定められた方法で行なわれる相続手続き
を法定相続といいます。例外として、遺言書がある場合には、相続人より遺言書で指定さ
れた人が優先されます。したがって、遺言書の有無の確認が最初に必要となります。
相続の手続きは、相続人に漏れがある場合には無効となってしまいますので、遺言書が
無い場合には、戸籍を基に正確な相続人を調査することが必要となります。相続人から委
任状をもらって戸籍収集の代行することは誰でも可能ですが、国家資格者が代行する場合、
業務目的が明確でなければ、代行できない場合もあります。
イ 財産の調査
土地や建物などの不動産については、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し
て確認します。また、自動車・機械・美術品などの動産、売掛金や貸付金などの債権、現金・
預貯金、被相続人名義の株式、被相続人を受取人としている生命保険金や死亡退職金など、
プラスの財産もあれば、ローンや銀行からの借り入れ、知人からの借金など、マイナスの
財産もあり、全ての財産を調査し、確認することが必要です。相続人から委任状をもらっ
て財産調査を代行することは誰でも可能ですが、土地や建物など、十分な知識が無い方の
場合、手続きが困難な場合もあります。
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
ウ 遺産分割協議(遺産分割協議書作成)
遺産分割協議とは、法定相続人共有の財産となった遺産を、個々の相続人に分割する協
議のことを指します。遺産分割は、相続人同士の話し合いで決めるのが原則ですので、法
定相続通りに分配しなくてはいけないという強制力はありません。しかしながら、誰かが自
己主張を始めると、まとまらないということもあり、法定相続を基本に話し合うのが一般的
です。この協議は、全員の同意が必要で、1人でも同意しない相続人がいた場合には、分
割協議は成立しないことになります。
遺産分割協議がまとまると、相続人共有の遺産が、各相続人の個人所有物になります。
この協議の内容を記載した正式な文書が「遺産分割協議書」となります。
遺産分割協議書の作成にあたっては、司法書士・弁護士・行政書士が関与することが多く、
特に、不動産の「名義変更」については「相続登記」との関係で、司法書士が関わること
が多くなります。
エ 名義変更
遺産分割協議書によって、対外的には誰が何を相続するのかが明確になります。各相続
人は遺産分割協議書に拘束され、撤回する事ができません。万一、遺産分割協議書を書き
換える場合には、
相続人全員の合意が必要となります。遺産分割協議書の作成が完了すると、
各種の名義変更はスムーズに進めることが可能となります。相続を原因とする名義人変更
登記など、法務局に申請する土地・建物に関する不動産登記については、司法書士の資格
領域となります。弁護士でも担当できますが、他資格者が作成・申請することは、司法書
士法違反となります。
オ 相続税の申告
相続税の申告は税理士の資格領域となります。個人でも申請可能ですが、土地等の評価・
有価証券の評価などは、専門の税理士に依頼する場合がほとんどです。
カ 相続に関する紛争の処理
遺産分割協議が調わないとき、または行方不明者などがあって協議ができないときは、
共同相続人は共同して、または1人で、家庭裁判所に遺産の分割の調停あるいは審判を申
立てることができます。相続に関するトラブルについては、代理権をもって対応できるの
は弁護士のみとなります。
以上のような流れで相続に関連する手続きが行なわれますが、専門領域ごとに司法書士・税
理士・行政書士・社会保険労務士・弁護士など、さまざまな専門職種が関わります。そのため、
相続人は専門的な手続きをそれぞれの士業事務所に個別に依頼しなければなりません。
司法書士は、遺言書チェック、遺言書作成支援、相続人調査、戸籍謄本等必要書類の取得代行、
遺産分割協議書作成、相続放棄の手続き、未成年の特別代理人選任など裁判所申立書類作成、
相続登記申請などの手続きを中心に業務を行います。税理士や弁護士など、
他の士業と連携して、
相続に関連する手続き全てをワンストップで対応するような事務所も増えてきています。
この相続に関する業務では、相続登記は司法書士(弁護士)のみが行える業務ですが、遺言
書チェック、遺言書作成支援、相続人調査、戸籍謄本等必要書類の取得代行、遺産分割協議書
作成などの業務は、行政書士も行うことができる業務です。他の士業との競争分野であり、い
かにして司法書士の強みを発揮し、相談者の信頼を得るサービスを提供できるかが重要になり
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
第
2 章 司法書士の業務
ます。
⑸ 企業法務
日本には中小企業が約420万社あり、日本の企業の99.7%が中小企業です(中小企業庁HPよ
り)
。会社は、その企業活動においてさまざまな法律上の問題に直面しますが、弁護士と顧問契
約をしているのは、上場企業や一部の中小企業だけです。顧問弁護士、さらには法務部もない
という中小企業が多数あります。司法書士が積極的に参入し、業務拡大できる膨大なマーケッ
トがあるのです。
⒜ 企業法務は司法書士の業務!?
以前は、弁護士法72条との関係で、業務範囲も明確でないこともあり、商業登記以外の法
律事務については書面の作成を中心に行われていました。2002(平成14)年の司法書士法改
正により、簡裁訴訟代理等関係業務(司法書士法3条1項6号・7号)が認められ、訴訟額
が140万円を超えない民事上の紛争について、
「簡易裁判所における民事訴訟、訴え提起前の
和解、支払催告、証拠保全、民事保全及び民事調停の手続について代理すること」が可能と
なり、当事者の法的利益を代理する立場に立って、積極的に問題の解決にあたることができ
るようになったのです。また、附帯業務(司法書士法29条1項1号の法令で定める業務)と
して、
「他人の事業の経営、他人の財産管理若しくは処分を行う業務又はこれら業務を行う者
を代理し若しくは補助する業務」
(司法書士法施行規則31条1号)を司法書士が行うことがで
きる業務として明記されました。
これにより、司法書士が企業法務の分野において、業務が拡大し、活躍の幅が広がったと
いえます。これまで商業登記を通じて企業にたずさわってきた司法書士は、登記手続きだけ
でなく、会社運営全般に関する、法務アドバイザーとして活躍することが期待されます。
会社に関する手続き・業務(文書作成・手続代行・助言)
・会社設立、機関設計
・会社の運営方法
・各文書作成(定款、議事録、株主名簿、就業規則、社内規定・社内社外文書)
・契約書作成、公正証書作成
・株主総会・取締役会、役員の責任問題
・役員の報酬、退職金問題
・株券発行・不発行、株式公開、新株予約権の発行、資本金の変更
・組織再編、合併、事業譲渡、解散、清算、企業再編、会社乗っ取りへの対応
・事業承継
法律相談に関する業務他
・取引先とのトラブル
・契約上のトラブル
・役員間のトラブル
・労働問題
・売掛金回収等の債権保全、回収
・不動産などの資産管理
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
⒝ 会社法改正に伴い、より戦略的なアドバイスが必要に!
近年の急激な経済状況の変化、経営環境の変化に対応できるようにするため、会社法が改
正(平成18年5月施行)されました。最低資本金制度、機関設計、合併等の組織再編行為など、
会社に係る各種の制度の在り方について、体系的かつ抜本的な見直しが行なわれました。こ
れにより、どのような法人を設立するのか、会社の機関をどのように設計するのか、組織を
どのように変えるのかなど、自由度が増しました。自由度が増した分、経営改善・資本政策・
組織再編等のあらゆる場面で、会社の経営戦略上もっとも有効な方法は何か、を選択するこ
とは難しくなっているともいえます。会社法に強い司法書士が、経営者に対して効果的なア
ドバイスを行うことが、より一層求められています。
⒞ 企業に関係する専門職種は?
企業に関する業務は、司法書士のみが行えるという業務ではありません。法律問題全般は
弁護士、会計監査は公認会計士、税務に関しては税理士、社会保険・人事労務関係は社会保
険労務士、経営に関する助言指導は経営コンサルタント(中小企業診断士)
、許認可手続は行
政書士というように、会社の運営においてさまざまな専門職種が関係します。
また、独占業務以外の業務については、企業に関する業務は誰でも行うことができるのです。
ということは、各士業の競合分野であり、独占業務・専門業務の強みを活かしつつ、いかに
してより川上にある関連領域の分野に広げて業務を行えるかがポイントとなります。
M&A(合併や買収)のような大型案件については、一人の専門家だけでは機能しない場
合も少なくありません。会計士や税理士が在籍している大手法律事務所で行うようなワンス
トップ型の遂行方法もあれば、さまざまな士業と連携して進めるコンソーシアム型の場合もあ
ります。コンソーシアム型の場合は、どの組み合わせで行くか、案件ごとに最適な組み合わ
せが可能となりますが、誰が全体のコーディネーターか、毎回新しい組み合わせだとルール
決めが大変、などの問題もあります。部分最適ではなく、全体最適の観点から、ベストな方
法を考えて進める必要があるのです。
⒟ 手続請負型からさまざまな経営課題に対する提案型へ
近年、企業へのリーガルサービスの提供を主要な業務のひとつとする司法書士事務所も増
えつつあります。契約書のチェックや作成、債権回収などのアシスト、商業登記などの事務
的業務・手続業務のみならず、いかにして経営者の悩みに応えるか、経営者が今後どのよう
にしたいと思っているのか、
企業の抱えるさまざまな経営課題についてのコンサルティング
(相
談・助言・企画・提案)を行っていくことが重要です。会社への関与を、単なる事務手続代
行から、事務手続代行+アドバイス、さらには、コンサルティング+事務手続代行へと展開
することによって、より大きな仕事の受注につながるのです。経営者の性格も把握して、最
善の提案を行うためには、中小企業の相談窓口機能として気軽に何でも相談できる関係作り、
コミュニケーションが大切です。そこから、顧問契約に発展して企業からの法律に関する日
常的な相談に応じたり、会社の法務部門のアウトソーシングに対応したり、会社の設立や組
織再編、募集株式の発行、総会運営など企業の抱えるさまざまな経営課題についてのコンサ
ルティングする業務に至るまで、活動の場が広がるのです。
(6)渉外法務
渉外法務とは、日本における法律問題について、外国人・外国企業との関連において、その
法律問題を処理することで、
その過程で外国法の知識を必要とします。経済取引の国際化が進み、
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
第
2 章 司法書士の業務
多くの外国人・外国企業が日本に進出し、また日本人が海外で活躍する場も増え、それに伴い
法律業務も国際化し、渉外業務のマーケットが発生します。
外国企業に対する種々の法的助言などを主に取り扱っていた渉外事務所と呼ばれる事務所も
ありましたが、近年はどの事務所においても国内案件の割合がかなり増加しており、その実態
は渉外案件“も”扱うといったほうがむしろふさわしいと思われます。
⒜ 渉外法務は司法書士の業務!?
外国人の多くは、日本に司法書士・弁護士・行政書士・税理士・弁理士・公証人などの専
門家が存在し、それぞれが法律問題に関与していることを知りません。したがって、外国人
が司法書士のところへ業務の依頼に来る場合、司法書士が関連する法律問題をすべて処理し
てくれるものと思っています。すなわち、ワンストップリーガルサービスを求めているのです。
渉外と言っても取り扱うものは日本の法律です。会社設立や事業所設置の登記も、外国語
ができないだけで渉外弁護士がやっていたりもしますが、司法書士の本来業務である登記な
ので、もっと積極的にサービスできる、参入できる分野です。
⒝ 複数のライセンス所持や他士業とのネットワークが武器
外国人が、司法書士事務所へ会社設立の依頼に来た場合、又は外国企業より外国会社の日
本における営業所設置の依頼が来た場合、司法書士の皆さんは得意の会社設立登記・営業所
設置をどうすればよいかが浮かぶかと思います。
ここでの留意点は、会社設立も営業所設置も日本でビジネスをするという目的で依頼して
きているということです。日本でビジネスするためには、日本に在留して営業活動をする必要
があることを常に念頭においていなければなりません。
ここで関連してくるのは次の法律です。
・会社法
・商業登記法
・外国為替及び外国貿易管理法
・私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
・金融証券取引法
・出入国管理法
・社会保険・労働保険関係
・税法関係
司法書士試験の科目にもなっている商法・会社法・商業登記法のみならず、その周辺知識
が必要になります。設立後も、自分の専門でない税務などで相談された場合は、税理士等に
依頼することになるでしょうが、先にも申し上げたとおりクライアントは日本の細かい士業の
分類を知らないことも多く、目的はビジネスですので、すべての窓口になることが求められま
す。複数のライセンスをお持ちであればそれを駆使して、また自身の範疇外のものであれば
他士業とのネットワークが大事です。
日本に在留する外国人(外国法人を含む)又は外国に居住する日本人が当事者である不動
産の所有権移転(売買・相続)を依頼された場合、皆さんは外国人が印鑑を持っていない時
どうしますか。
ここで関連してくるのは次の法律です。
・民法
・不動産登記法
2012 士業最前線レポート 司法書士編
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司法書士
・法の適用に関する通則法
・外国為替及び外国貿易管理法
この場合も民法、不動産登記法のみならず、法の適用に関する通則法をはじめ周辺知識や
外国法を探すことも必要になります。こちらも自身の範疇外のことがあれば他士業とのネット
ワークが大事です。
⒞ 外国語会話能力よりも重要なのは計画作成能力と経過報告
クライアントはいつまでにどのような手続きをしていくのかという経過と時期を気にされま
すので、ここも留意点です。交渉ごとになりますと、そのスケジュールを計画するのが困難
なものもありますが、デッドラインから逆算してスケジュールを作成し、実行する能力も必要
になります。
そして、経過報告は常にしていないとクレームがすぐに来ますので、報告を忘れてはいけ
ません。
外国人・外国企業を相手にリーガルサービスを展開するのですから、外国語の必要性につ
いてはよく聞かれるのですが、外国からビジネスに来る方々を対応するコミュニケーションが
外国語になることもあると思います。外国語は出来るに越したことはありませんが、文書の作
成は日本語文・外国語文を併記していきますので、作成能力は必要です。
確認しておかないと、後でとんでもないトラブルとなることがあります。細かい事項の確認
は、対話・通話ではなく、メールなどの文書で確認をとるようにしたほうがよいでしょう。
「言
った、言わない」の話になると困ってしまいますので、特に外国語となると自分の都合のい
いようにしか聞こえないような齟齬の発生を回避する為に、なるべく証拠として文書を残す
ほうがよいと思われます。
⒟ 渉外法務の身につけ方
渉外法務を学ぶ方法として、実際業務展開している渉外司法書士事務所・渉外弁護士事務所・
外国法事務弁護士事務所、外資系や商社系企業の法務部への勤務、この他にもNPO法人渉
外司法書士協会・国際行政書士協会などの研修があります。
研修の例として、NPO法人渉外司法書士協会では、会員も司法書士が大数を占めますが、
税理士や弁護士の方も入って月3回のペースで研修を行っています。
⒠ 依頼人を獲得する為には
依頼人は、日本に滞在する外国人、外国人を雇用する日本企業、外資系企業とさまざまです。
依頼人を獲得する為には、色々な異業種団体への出席や各国大使館又は派遣された経済団体
が主催するセミナーへの出席、渉外弁護士事務所・外国法事務弁護士事務所などへのコネク
ション、各種団体への登録など、待っているだけではなくこちらから外へ出ていってネットワ
ークをつくることは必要だと思います。また、インターネット・ホームページの作成や、電話
帳への掲載、名刺・事務所パンフレット作成の際にも、当然日本人だけを対象としたもので
はいけません。
経済取引の国際化が進み、それに伴い法律事務も国際化しているこの時代、積極的に渉外
法務のマーケットに参入して活躍の場を広げてみませんか。
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2012 士業最前線レポート 司法書士編
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