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遮断器一括監視装置の開発
研究レポート 遮断器一括監視装置の開発 エネルギア総合研究所 流通設備担当 橋本 和文 1 流を計測し,得られた電流波形から遮断器に流れる制 御電流波形と投入電流波形のみを自動抽出する。そし まえがき 配電線遮断器において,グリス固化等に起因する動 作不良が発生すると配電線系統事故時に公衆災害・停 電範囲拡大につながる恐れがあるため,遮断器の動作 不調兆候を早期に発見し,動作不良による影響を極小 化する必要がある。しかしながら,市販の動作特性測 定装置は遮断器1台ごとに設置する必要があることや, 装置本体が高価といったことから問題があった。 これらの状況を踏まえ,電気所に1台の装置を設置 することで,電気所の全遮断器の動作特性を一括して 測定・診断が行える安価な監視装置を開発したので紹 介する。 2 概 要 本装置の外観を写真1に示す。本装置は遮断器投入 電流および制御電流を検出するクランプ式直流センサ を直流電源装置の遮断器投入用電源線および制御用電 源線に取付け,装置電源を直流電源母線に接続する。 て,遮断器動作時間を自動計測するとともに遮断器制 御電流波形および投入電流波形を自動記録するもので ある。なお,遮断器不調兆候の実例,ハードウエア構 成や,装置の使用法などを文献(1) , (2)において 既に紹介しているため,本稿では電気所の遮断器を制 御電流波形と投入電流波形のみから,一括して監視す るソフトウエア開発の基本となった考え方を中心に紹 介する。 3 研究成果(一括監視を実現する手法の構築) (1)各種電流波形の整理 一括監視を実現するソフトを開発するにあたり, 遮断器投入用電源線と制御用電源線に流れる電流を整 理した。図1に制御用電源・投入用電源に現れる波形 を示す。 遮断時の波形 直流電源装置 (変電所本館内) 制御 投入 投入用電源 整流器 時間 制御用電源 蓄電池 共通 電磁ソレノイド電流 電動ばね投入タイプ 投入時の波形 制御 一括監視装置 電磁ソレノイド電流 モータ突入電流 ばね蓄勢電流 投入 時間 遮断器以外の負荷変化 電磁投入タイプ 投入時の波形 制御電流 制御電流 制御電流 制御 時間 時間 0A 0A 0A 制御電流の緩変化 ランプ等の抵抗負荷 配電盤電源投入 投入 制御リレー電流 投入操作コイル 大きな電磁ソレノイド電流 時間 図1 制御用電源・投入用電源に現れる波形 a. 遮断器の遮断時 遮断時は,遮断器のタイプに関係なく制御用電源 回路(以後制御回路という)に,4∼5Aの引き外し 用電磁ソレノイドの電流が流れる。このとき投入用 写真1 装置外観 装置の動作としては,制御電流および遮断器投入電 流を常時監視し,電流が変化した場合に,これらの電 Page 2 電源回路(以後投入回路という)には電流は流れな い。 b. 遮断器の投入時 投入方式には電動ばねタイプと電磁投入タイプの 2つがあり,投入時に制御回路,投入回路に現れる エネルギア総研レビュー No.27 遮断器一括監視装置の開発 波形がタイプにより異なる。 ・電動ばねタイプ チェックを行う。 (図3参照) 投入に必要な力をバネに蓄勢しておき,電磁ソレ ノイドで投入機構を動かす方式。 制御回路には機構を動かすための電磁ソレノイド 電流が流れる。そして投入後,モータでバネを再 度蓄勢するため投入回路にはモータの突入電流に続 き,ばね蓄製のための電流が流れる。 ・電磁投入タイプ 推力の大きい電磁ソレノイドで直接主コンタクト を駆動する方式。大電流が必要なため, 制御用リレー で一旦受け,大電流用のコンタクタでソレノイド電 流を開閉する。制御回路にはリレーの駆動電流(通 常数百mA)が流れる。 c.遮断器以外の負荷 変電所内の制御装置やランプ回路の電流が常時流 れている。また,これらの電源投入時にはステップ 的な変化の電流が流れる。 (2)装置起動(トリガ処理) 前項での整理をもとに,図2のようにトリガ処理を 決定した。 投入回路には遮断器が動作しない限り電流は流れな いため,単純な電流レベルトリガとし,制御回路は, 常時遮断器以外の負荷電流が流れているため,電流急 変トリガとした。 条件を満足しない A: 突入電流チェック 破棄 C : 制御電流チェック トリガレベル 常時負荷電流の移動平均値 ベース電流 B: 時定数条件チェック 電流 O ①電流変化トリガ 常時電流の移動平均値 (ベース電流) を減算し, 波形を記録 図3 遮断器波形の抽出・記録 A:急激に減衰する突入電流ではないこと B:時定数をもって立ち上がっていること C:トリガから一定時間後も電流が流れていること これらのチェックをパスした波形のみを記録対象と し,トリガ時点での常時負荷電流の移動平均値(ベー ス電流)を減算して,遮断器波形の部分だけを切り出 す処理を行う。これにより変電所内の制御装置の電源 投入など,遮断器動作以外の負荷変化による誤動作を 防止している。 (4)投入・遮断動作判定 タイプによらず共通 遮断時波形 直流電源装置 投入用電源 制御用電源 投入回路 投入回路のトリガの場合,投入電流の最大値を抽出 し,しきい値以上であれば,投入動作と判断する。 電動ばね投入タイプ 投入時波形 制御回路 電磁投入タイプ 投入時波形 制御 制御電流トリガ 一括監視装置 電動ばね投入タイプ Max抽出 電磁投入タイプ 投入時波形 投入電流トリガ しきい値 しきい値 投入 投入 投入動作 と判断 a 遮断器以外の負荷 図2 一括監視装置のトリガ部 タイプによらず共通 (3)遮断器波形の抽出・記録 前段のトリガ処理が制御回路のトリガだった場合, 遮断器波形であるかを確認し抽出するために以下の エネルギア総研レビュー No.27 Max抽出 投入動作 と判断 ばね蓄勢モータ 突入電流 b 遮断時波形 チェック 制御 投入 投入時波形 制御 しきい値 c 投入電源が流れない 遮断動作 と判断 図4 投入・遮断動作の判定 Page 3 研究レポート 制御回路トリガの場合は,図4b(電動ばねタイプ の投入動作)かc(遮断器遮断動作)のどちらかである。 電動ばねタイプには,投入後,モータ電流が流れるの に対し,タイプによらず遮断時には投入回路に電流が 流れないのを利用して,この2つを見分けるようにし 電動ばねタイプの投入電流には,ピーク点直前の電 流が少ないという特徴がるため,これを利用し,遮断 器タイプ判別をピーク点前1−5msecの平均値(IAV5) で行うことで小型電磁投入との区別が可能となった。 ている。 表1 動作遅延(投入側)警報出力領域の設定 判定条件 (5)動作時間の計算 遮断器動作時間の計算では,パレット接点が動作し, アーク抵抗によって電流が減少し始める点を,記録し た波形の後ろ側から検索する。図5において,検索現 ポイントを“1”とすると,ポイント“2,3,4”の 最大値が現ポイントより小さくなった時点を動作ポイ ントとして認識し,トリガ点から,このポイントまで の時間を遮断器の動作時間として記録する。これによ り図5aのような部分的な凹みをパレット動作点と誤 認することがなくなった。 判定電流 警報設定時間 ⅠAV5≧Ⅰ2 投入電流 T3(大型電磁投入) Ⅰ2>ⅠAV5≧Ⅰ1 投入電流 T2(小型電磁投入) Ⅰ1>ⅠAV5 制御電流 C_T1(電動ばね) 遮断動作は定格遮断時間が規定されているため, T_T1のように,一律設定することで運用できると判 断した。 (図6および表1参照) 投入 動作 T3 ピーク点の1∼5ms前の 投入電流平均値 T2 I2 小型 電磁投入 検索 I1 制御電流 制御電流 投入電流 検索 大型 電磁投入 投入電流 遮断動作または 電動ばねタイプの投入 動作は 電磁投入タイプの投入 遮断 動作 動作は T_T1 電動バネ パレット接点動作ポイント検索 4 トリガ 点 4 3 2 C_T1 3 a 図6 動作遅延警報出力領域の設定 2 b 遮断器動作時間 図5 遮断器動作時間の計算 (6)動作遅延警報 動作遅延警報は,遮断器動作時間が設定値を超過す ると出力する(LED点灯と無電圧接点出力) 。投入動 作時間の警報値は,投入電流および制御電流の波形か ら遮断器を「電動ばね方式」 「小型電磁投入式」 「大型 電磁投入式」であるかを自動判別し,それぞれについ て設定した値を超えると警報出力するようにしてい る。 これは,投入動作には動作責務はなく,また実力値 に幅があることから必要な機能と判断した。一般的に 大型の電磁ソレノイドをもつ遮断器は,投入動作時間 が長く,電流のピーク値も大きく,小型になるにつれ, 動作が速く,電流ピークが小さくなる。 Page 4 警報出力領域 制御電流 パレット接点動作点 (7)電圧変動対策 DC/DCコンバータ等の入力部に大容量コンデン サが接続されており,なおかつ直流電源母線の電圧が 変動すると遮断器動作時の波形と一括監視装置で取得 した波形が異なってしまう現象がフィールド試験実施 中に確認された(図7参照) 。電圧変動対策は,この問 題に対処するものである。 図8のCはDC/DCコンバー タの入力コンデンサ,Rはコンデンサの直流抵抗と配 線の抵抗の合成値である。 遮断器のような大電流負荷が動作し,蓄電池内部イ ンピーダンスZの存在,直流電源装置のフィードバッ ク系により電圧変動を起こすとコンデンサの電荷が移 動し,ΣiRとなって負荷に供給されたり,再度充電さ れたりして監視装置で観測できるiと遮断器波形iCBと は異なった波形になってしまう。 (図9参照) エネルギア総研レビュー No.27 遮断器一括監視装置の開発 icb 遮断機 投入用電源 整流器 制御用電源 蓄電池 ΣiR i = iCb+ ΣiR 一括監視装置 Ry盤 (DC/DC) iR1 R1 iR2 C1 C2 R2 電圧 変動 図7 コンデンサがある場合の電流分布 icb i 整流器 Z フィードバック i R 電圧 変動 Cp*RpとC*Rの時定数は一致し,Rp/Rが補正倍率 となる。デジタルRy盤などの機器の増設等でCが変更 されないかぎり,補正は有効である。図11はパイロッ ト回路を使用した波形補正の例である。 ΣiR ? 図10に示すように模擬負荷装置にて人為的に電圧 変動を発生させ,入力コンデンサと直列抵抗を模擬す るパイロット回路に流れる電流Ⅰpと,ΣiRを計測し, 可変抵抗Rpと,アプリケーションソフト上で補正倍 率を調整しながら2つの波形を一致させる。このとき, 遮断器 C パイロット回路を使用した波形補正の例 電流[A] ―― 基準 6.00 電流[A] ―― 基準 6.00 4.00 図8 図7の簡易等価回路 電圧変動 2.00 0.00 0.00 -2.00 -2.00 遮断器波形 -4.00 -6.00 -10.00 0.0 i 4.00 icb 2.00 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 -6.00 -10.00 0.0 60.0 4.00 0s +40ms +80ms + -6.00 -10.00 0.0 図9 コンデンサがある場合の各波形 入力コンデンサに流れるiRを直流CTを設けて計測し iと合成すれば解決可能であるが,それには電気所ご とに遮断器動作時の電流分布の調査が必要となり,現 実的ではない。そこで,入力コンデンサと直流抵抗を 装置内部で模擬し,その影響を補正する方法を考案し た。 模擬負荷装置 (5A, 0.1Sec負荷) 制御回路 ΣiR DO 電源部 ip Rp Cp Ry盤 R アナログIF パイロット回路 MCU RTC LAN IF 40.0 50.0 時間 [msec] 60.0 0.00 -2.00 計測した波形 -4.00 +120ms 30.0 2.00 0.00 -2.00 電圧:5V/div 電流:1A/div 20.0 推定した―ΣiR 4.00 i 2.00 ΣiR 10.0 電流[A] ―― 基準 6.00 電流[A] ―― 基準 6.00 i cb 補正後の波形 -4.00 時間 [msec] 時間 [msec] 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 -4.00 パイロット回路波形 -6.00 -10.00 0.0 時間 [msec] 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 図11 パイロット回路を使用した波形補正 4 あとがき 本装置は平成22年度より3年計画で当社電気所へ本 格導入中である。 今回の開発で困難と思われていた遮断器の一括監視 を可能なものにした。これは着想段階,試作,フィー ルド試験期間の全てにおいて,電気所に設置される各 種の遮断器を保守・運用してきた各社員のアイデアが 多く盛り込まれてきた結果である。 C 【文献】 (1)永田,藤井「遮断器一括監視装置の開発」 月刊 電気現場技術 2010 9月号 (2)布上 「遮断器一括監視装置の開発」 エネルギア総研レビュー第17号(2009・9月) 図10 パイロット回路の使用方法 エネルギア総研レビュー No.27 Page 5