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第3編 市民経済計算の概念と用語解説

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第3編 市民経済計算の概念と用語解説
第3編
1
市民経済計算の概念と用語解説
市民経済計算の考え方
市民経済計算とは,京都市という行政区域内において,経済活動により1年間に新しく生み出され
た価値(付加価値)を貨幣価値で評価したものです。
経済活動を生産を起点に考えますと,まず,企業等が,土地,資本,労働などの生産要素を組み合
わせ,財貨やサービスを生産します。これらの生産物を市場価格によって合計したものが生産額(産
出額)となります。この中には生産のために使用した原材料や燃料などの中間生産物(中間投入)が
含まれていますので,生産額から中間投入額を差し引くことにより,生産活動によって新たに生み出
された付加価値(総生産)が得られます。
生産活動によって新たに生み出された付加価値は,土地,資本,労働等の生産要素を提供した者に
対し,地代,利潤,賃金等の形で報酬として分配されます。そして,その所得は,消費又は投資のた
めに支出され,新たな需要となって生産活動を誘発します。
このように,経済活動は,生産→所得(分配)→支出という循環を繰り返しますが,これは同一の
価値を3つの異なった側面から捉えたものなので,概念上の調整によって等価となります。これを,
「三面等価の原則」といいます。
2
評価方法
(1)市内概念と市民概念
市民経済計算では,市内概念と市民概念の2つの概念があります。市内概念は,市という行政区
域内で生み出された所得を,その生産活動に従事した者の居住地を問わず把握する属地主義であり,
市民概念は,市内の居住者が生み出した所得を,その生産活動の場を問わず把握する属人主義です。
この報告書では,生産及び支出を市内概念,分配を市民概念で捉えています。
それぞれの概念で表示された値には,次のような関係があります。
市民総所得 = 市内総生産(支出側)+ 市外からの所得(純)
市外からの所得(純)額は,市内の居住者が市外の生産活動に参加して得た所得(雇用者報酬,
財産所得及び企業所得)から,市外の居住者が市内の生産活動に参加して得た所得を差し引いて求
めます。
(2)総(グロス)と純(ネット)
建物や機械設備などの固定資産は,生産の過程で破損,老朽化等が発生し,その価値を減少させ
ていきます。この減少分を評価した値を固定資本減耗といいます。
付加価値を評価するに当たって固定資本減耗を含むものを「総(グロス)」概念といい,固定資
本減耗を含まないものを「純(ネット)
」概念といいます。
これらの2つの評価方法には,次のような関係があります。
市内総生産 = 市内純生産 + 固定資本減耗
(3)市場価格表示と要素費用表示
市場価格表示とは,付加価値を市場取引における売買価格で評価する方法です。
一方,要素費用表示とは,生産者(企業,政府サービス生産者等)が生産要素(土地,労働,資
本)に対して支払った費用(地代,賃金,利潤)で評価する方法です。
これらの2つの方法によって表示された値には,次のような関係があります。
市場価格表示 = 要素費用表示 + 生産・輸入品に課される税 - 補助金
この報告書では,市民所得(分配)のみ要素費用で,その他は市場価格で表示しています。
(4)名目値と実質値
名目値は,物価変動が含まれている年々の時価で金額表示して付加価値を表したものです。
これに対して,実質値は,ある特定の年次(現在は平成17暦年)の名目値を基準として,その
他の年次の価格を表示したもので,物価変動の影響を除いた数量的な動きをとらえるために用いら
れます。
実質値は,直接推計することが困難なため,各種の物価指数を利用して作成したデフレーター(物
価調整指数)で名目値を除して求めています。(実質値=名目値÷デフレーター)
(5)連鎖方式と固定基準年方式
連鎖方式は,常に前年を基準として各項目ごとに当年の伸び率を計算し,それを毎年掛け合わせ
ることにより実質値を計算する方式です。このため,内訳項目をすべて加算しても合計値と一致し
ません(
「加法整合性」が成立しない。ただし,例外的に参照年は加法整合性が成立します)。
固定基準年方式は,ある特定の年次を基準とし,その年の価格体系で他の年の実質値を計算する
方式ですが,基準年が遠ざかると実質経済成長率が過大評価されるといわれています。
[ 市民経済計算の相互関連図 ]
産出額
市内総生産
(生産側)
(市場価格表示)
市内純生産(市場価格表示)
市内純生産
(市場価格表示)
市民純生産
(要素費用表示)
市民所得(分配)
(要素費用表示)
市外からの
所得(純)
市内雇用者報酬
市民雇用者報酬
財産所得
民間最終消費支出
市外からの
所得(純)
固定資本減耗
生
産
面
生産・輸入品に
課される税
- 補助金
市内純生産(要素費用表示)
=市内要素所得
市内総生産
(支出側)
(市場価格表示)
市民総所得
(市場価格表示)
中間生産物
(中間投入)
最終生産物 (付加価値=市内総生産)
営業余剰
・混合所得
分
配
面
企業所得
政府最終
消費支出
総資本形成
財貨・サービス
の移出入(純)
統計上の不突合
市内総生産(支出側)
(注)各項目の枠の大きさは例示的に示したもので,金額には比例していない。
支
出
面
3
取引主体の分類
市民経済計算の計算体系においては,個々の経済主体を2種類の方法で分類します。
1つは経済活動別分類といい,生産についての意思決定を行う主体による分類です。
もう1つは制度部門別分類といい,所得の受取や処分,資金の調達や資産の運用についての意思決
定を行う主体による分類です。
経済活動別分類は,産業構造分析など生産分析の目的から必要とされ,制度部門別分類は,所得及
び金融面の分析など金融分析の目的から必要とされるものです。
(1)経済活動別分類
経済活動別分類は,生産技術の同質性に着目した分類であり,取引主体を財貨・サービスの生産
及び使用に関与する性格の違いによって,事業所(実際の作業を行う工場や事務所等)を基本単位
として,産業,政府サービス生産者,対家計民間非営利サービス生産者の3つに分類されます。
(2)制度部門別分類
制度部門別分類の単位は,
「それ自体の権利により資産を所有し,また負債を負い,他の主体と
経済取引に携わることができる経済主体」であり,例えば企業の場合,事業所ではなく法人が単位
となります。
取引主体は機能,行動,目的等により,非金融法人企業,金融機関,一般政府,家計(個人企業
を含む)
,対家計民間非営利団体の5つに分類されます。
[ 経済活動別分類と制度部門別分類との関係 ]
<経済活動別分類>
(ア) 産業
<制度部門別分類>
(ア) 非金融法人企業
民間企業
公的企業(市水道事業等)
(イ) 金融機関
民間金融機関
公的金融機関(日本銀行,金融公庫等)
(エ) 家計(個人企業を含む)
(イ) 政府サービス生産者
(ウ) 一般政府
(ウ) 対家計民間非営利
サービス生産者
(オ) 対家計民間非営利団体
4
中央政府(国の出先機関)
地方政府(都道府県,市町村)
社会保障基金(共済組合,健康保険組合等)
統計表の概念と用語解説
(1)基本勘定
ア
市内総生産勘定(生産側及び支出側)
市内における経済活動を総括する市内生産勘定に当たり,産業,政府サービス生産者,対家計
民間非営利サービス生産者の生産勘定を統合することによって作成されます。
市内総生産(生産側)と市内総生産(支出側)とは理論上必ず同額となるべきものですが,実
際の推計では,基礎資料や推計方法が異なるため,若干の不一致が生じます。そのため統計上の
誤差等に基づくと思われる差額を,
「統計上の不突合」として市内総生産(支出側)に計上し,
両面のバランスを成立させています。
イ
市民可処分所得と使用勘定
生産要素を提供した者に対して分配された所得(雇用者報酬,営業余剰・混合所得)の受取や
生産物の最終消費への支払のほか,財産所得などの移転所得の受払から構成され,市民可処分所
得とその使用のバランスとして統合されているものです。
市民可処分所得は,各制度部門の可処分所得の合計として求められます。使用項目の民間最終
消費支出,政府最終消費支出,市民貯蓄は,それらに対応する部門項目の合計として求められま
す。
(2)制度部門別所得支出勘定
この勘定は,非金融法人企業,金融機関,一般政府,家計(個人企業を含む),対家計民間非営
利団体の5つの制度部門別に作成され,生産活動により生み出された付加価値がどの制度部門に分
配され,更にこれがどのように再配分及び最終消費され,その結果どれだけの貯蓄が残ったかを表
しています。
ア
非金融法人企業
市場財及び市場非金融サービスの生産を主活動とする法人企業をいいます。主に民間の事業法
人がそのほとんどを占めますが,公的機関であっても民間の産業と類似の活動を行っている機関
も含みます。
イ
金融機関
主に金融仲介活動,金融仲介業務に密接に関連した補助的金融活動(金融仲介活動を円滑,促
進する活動)に従事する法人企業をいいます。公的機関であっても民間の金融機関と類似の活動
を行っている機関も含みます。
ウ
一般政府
中央政府(国出先機関)
,地方政府(都道府県,市町村)とそれらによって設定,管理されて
いる社会保障基金から構成されています。これらには,政府及び社会保障基金により支配,資金
供給され,非市場生産に従事している非営利団体も含まれます。
エ
家計(個人企業を含む)
同じ住居を持ち,所得や富の一部又は全部をプールし,住宅や食料を中心に,共同で特定の財
貨やサービスを消費する人々の小集団をいいます。自営の個人企業を含むのは,家計の構成員が
独自の企業を所有し,それが法人企業又は対家計民間非営利団体でない場合,所属する家計部門
の利益となるために活動しているとみなされ,その企業はその家計自身と不可分のものとみなさ
れることによります。
オ
対家計民間非営利団体
個人の自発的な意思に基づく団体として組織され,他の方法では効率的に提供し得ない社会的,
公共的サービスを,利益追求を目的とせず家計へ提供する団体をいいます。
カ
所得,富等に課される経常税
労働の提供や財産の貸与,資本利得など様々な源泉からの所得に対して,公的機関によって定
期的に課せられる租税及び消費主体としての家計が保有する資産に課せられる租税をいいます。
所得税,法人税,府民税,市民税などのほか,家計の負担する自動車関係諸税や日銀納付金がこ
れに該当します。
なお,生産・輸入品に課される税とは,それが所得から支払われるか,生産コストの一部とみ
なされるかによって区別されます。例えば自動車税のような租税は,生産者が支払う場合には生
産コストの一部とみなされ,生産・輸入品に課される税に分類されますが,家計が支払う場合に
は生産活動との結びつきがないため,所得,富等に課される経常税に分類されます。
キ
現物社会移転以外の社会給付及び社会負担
(ア)社会給付
病気,失業,退職,家族の経済的境遇のような一定の出来事,状況から生じるニーズに対す
る備えのため,家計に対して支払われるもので,社会保険制度に基づく社会給付とそうした制
度に基づかない社会扶助給付とに分類されます。
社会給付には,年金などの現金によるものと,健康保険による治療のように直接現金で支払
われない現物社会給付があり,ここでは現物社会給付以外の給付が計上されます。現物社会給
付(医療保険給付分及び介護保険給付分)は,欄外に参考として掲載しています。
a 現金による社会保障給付
国民年金,厚生年金,共済組合からの年金給付,失業給付等。
b 年金基金による社会給付
厚生年金基金,適格退職年金による退職年金給付等。
c 無基金雇用者社会給付
社会保障基金,年金基金などの外部機関を利用せず,また自己で基金を設けることもせず,
雇主がその源泉から雇用者に支払う福祉的な給付で,公務災害補償や労働災害に対する見舞
金の支払いが含まれるほか,退職一時金分も含まれます。
d 社会扶助給付
政府又は対家計民間非営利団体が家計に支払う,生活保護,公費負担医療給付分等。
(イ)社会負担
社会保険制度に対する負担であり,現実社会負担(雇主の現実社会負担及び雇用者の社会負
担)と帰属社会負担に分類されます。
a 雇主の現実社会負担
雇主が社会保険制度を管理する基金に対して支払う社会負担で,社会保障基金に対する
「雇主の強制的現実社会負担」と,年金基金に対する「雇主の自発的現実社会負担」に分け
られます。これらは雇主が雇用者の利益のために支払う性格のものであるため,まず雇用者
報酬の構成要素として計上し,同額を家計が一般政府及び金融機関に支払ったかのように計
上しています。
b 雇用者の社会負担
雇用者本人による社会保険制度を管理する基金に対する負担を指し,社会保障基金に対す
る「雇用者の強制的社会負担」と,年金基金に対する「雇用者の自発的社会負担」に分けら
れます。
c 帰属社会負担
無基金雇用者社会給付は,所得支出勘定において,企業等の支払,家計の受取に計上され
ますが,雇用者報酬にも雇主の帰属社会負担として含まれていますので,二重計算を避ける
ため,同額を家計が雇主に支払ったものとして計上しています。
ク
その他の経常移転
その他の経常移転は,「非生命保険取引」,「一般政府内の経常移転」,「他に分類されない経常
移転」の3種類からなり,内訳として「非生命保険取引」を別掲しています。
非生命保険取引は,生命保険以外のすべてのリスク(事故,疾病,火災等)を網羅する概念で,
純保険料を受け取り,保険金を支払っています。純保険料とは,受取保険料から非生命保険会社
の経営コストを差し引いたもので,保険金と等しい額になります。
一般政府内の経常移転は,異なる一般政府の内訳部門(中央政府,地方政府,社会保障基金)
間の経常移転のことで,一般政府のみに計上されます。中央政府から地方政府へ移転されるもの
として地方交付税交付金,義務教育費国庫負担金等,中央政府から社会保障基金へ移転されるも
のとして厚生保険特別会計,国民年金特別会計への繰入等があります。
他に分類されない経常移転には,各制度部門が支払う罰金,寄付金,負担金,家計間の仕送り・
贈与金等が含まれています。
ケ
年金基金年金準備金の変動
金融機関である年金基金から家計が受け取る社会給付と,家計が年金基金へ払い込む自発的社
会負担が経常取引として記録されますが,年金基金が管理する年金準備金は,生命保険が管理す
る準備金と同じように,家計が所有している金融資産,すなわち貯蓄として扱われます。
このため年金負担額と年金受取額の差額分を調整項目として設け,家計の受取側,金融機関(年
金基金)の支払側に記録しています。
コ
貯蓄
各部門の所得(雇用者報酬,営業余剰等)の受取や各種の経常移転の受取からなる経常的収入
から,消費支出や各種の経常移転の支払からなる経常的支出を差し引いたものです。
(3)主要系列表:経済活動別市内総生産(生産側)
経済活動別市内総生産とは,1年間に市内経済部門の生産活動によって新たに生み出された価値
(付加価値)の評価額を,産業,政府サービス生産者,対家計民間非営利サービス生産者の経済活
動部門別に区分して示したものです。これは,市内の生産活動に対する各経済活動部門の寄与を表
すもので,産出額から原材料や燃料費等の中間投入額を控除したものです。
なお,金融業の産出額の推計については,平成22年度推計から「間接的に計測される金融仲介
サービス(FISIM)
」という考え方を導入しています。銀行を中心とした金融仲介機関の中には,借
り手と貸し手に対して異なる利子率を課したり支払ったりする(例えば預金者には他の場合よりも
低い利子率を支払い,資金を借りる人々にはより高い利子率を課す)ことにより,預金及び貸出の
利鞘という形で間接的にサービス料金を徴収している場合があります。こうした利子に含まれる金
融仲介サービス料とみなされる部分の価額を,間接的な測定方法を用いて推計したものを「FISIM
(Financial Intermediation Services Indirectly Measured)
」といいます。FISIM の導入により,
生産系列から「帰属利子」の項目を削除し,金融仲介サービスを他のサービス業と同様に通常の価
値を生み出すサービスの1つとして位置づけました。
ア
産業
利潤獲得を目的として財貨・サービスを生産する事業所から構成されます。
このような産業には,民間企業の事業所が中核としての地位を占めますが,政府関係機関であ
っても民間企業と類似の生産技術により類似の財貨・サービスを生産するもの(公的企業)は,
たとえその価格が生産コストをカバーしなくても,これを産業に含みます。また,家計が行う住
宅所有についても産業に含みます。
なお,平成 17 年基準改定において産業分類が変更され(平成 17 年度以降。平成 16 年度以前
は従前の分類を適用)
,従前の分類における「運輸・通信業」を分割して,
「運輸業」,
「情報通信
業」が新設されました。「情報通信業」には,従前の「通信業」に加え,製造業に分類されてい
た「出版業」
,
「対事業所サービス」に含まれていた「情報サービス業」,
「対個人サービス」に分
類されていた「放送業」等が含まれている(詳細は 60 ページ参照)ため,平成 16 年度以前と平
成 17 年度以降の数値の単純比較はできません。
イ
政府サービス生産者
政府サービスとは,国家の安全や秩序の維持,経済・社会福祉の増進のためのサービスで,政
府以外によっては効率的に供給されない性格のものであり,産業に分類される公的企業の活動と
は区別されます。
政府サービス生産者には,中央政府(国出先機関),地方政府(都道府県,市町村)などの行
政機関のほか,社会保障基金や事業団の一部など特定の非営利団体が含まれます。
ウ
対家計民間非営利サービス生産者
個人の自発的な意思に基づく団体として組織され,他の方法では効率的に提供し得ない社会的,
公共的サービスを,利益追求を目的とせず家計へ提供する団体で,労働組合,政党,宗教団体,
私立学校が含まれます。その活動資金は会員からの会費や,個人・企業・政府からの寄付,補助
金,財産収入によって賄われます。
エ
輸入品に課される税・関税
関税,輸入品商品税から成り,輸入した事業所の所在地で計上されます。関税とは関税定率表
に基づいて輸入品に課す税であり,輸入品商品税とは輸入品が税関通過の際に課税される国内消
費税をいいます。
オ
(控除)総資本形成に係る消費税
消費税は,一つの商品が消費者に届けられるまで,流通の段階で取引のたびに課税されますが,
税の累積を避けるため,その前段階で課税された消費税を排除する「前段階税額控除方式」を採
用しています。つまり,税法上,課税業者の投資に係る消費税は,他の仕入れに係る消費税とと
もに,事業者が消費税を納入する時点で納税額から控除できるのです。このため,支出系列で推
計する総資本形成(固定資本形成と在庫品増加)については,仕入税額控除できる消費税額は含
まれていません。
一方,生産系列の推計においては,付加価値額には消費税を上乗せして評価しているため,こ
こで総資本形成に掛かる消費税を全額一括計上して控除することにより,生産系列と支出系列の
整合を保っています。
カ
開差
連鎖方式では,前年を基準とした指数を用いて各項目ごとに数値を算出するため,内訳項目を
すべて加算しても合計値と一致しません(ただし,例外的に参照年は加法整合性が成立します)
。
この差分を開差として表示しています。
(4)主要系列表:市民所得(分配)
生産活動によって生み出された付加価値が,その生産に参加した経済活動の主体である市民に,
生産要素を提供した対価として,賃金(市民雇用者報酬)
,利潤(企業所得),利子・配当(財産所
得)などの形で,どのように分配されたかを示したもので,その総額が市民所得となります。
ア
市民雇用者報酬
雇用者報酬は,仕事に対する報酬として,雇主から雇用者に対して支払われた現金又は現物に
よる報酬の総額を指し,雇用者福祉のための雇主の拠出金(雇主の社会負担)を含みます。雇用
者とは,産業,政府サービス生産,対家計民間非営利サービス生産を含むあらゆる生産活動に従
事する就業者のうち,個人業主と無給の家族従業者を除くすべての者をいいます。市民雇用者報
酬の内訳項目は,次のとおりです。
(ア)賃金・俸給
現金・現物給与,役員給与手当,議員歳費等,給与住宅差額家賃
(イ)雇主の社会負担
a 雇主の現実社会負担
社会保障基金,年金基金への雇主の負担額
b 雇主の帰属社会負担
退職一時金,公務災害補償費,その他
イ
財産所得
財産所得は,ある経済主体が所有する金融資産,土地及び無形資産(著作権・特許権など)を
他の経済主体に使用させたときに生じる所得をいいます。利子及び配当,地代(土地の純賃貸料)
,
著作権・特許権の使用料などが該当します。ただし,構築物(住宅を含む),設備,機械等の再
生産可能な有形固定資産に係る賃貸料は,サービスの販売とみなして企業所得に含むため,財産
所得には含まれません。
ウ
企業所得
企業所得は,営業余剰・混合所得に財産所得の差額(受取-支払)を加えたもので,民間法人
企業所得,公的企業所得,個人企業所得に分類されます。
営業余剰・混合所得とは,企業会計でいう営業利益にほぼ相当し,したがって,企業所得は,
その企業の営業利益から負債利子などの営業外費用を支払い,逆に他社からの配当株式などの営
業外収益を加えたいわゆる経常利益に近い概念といえます。
個人企業については,家計部分と経理が明瞭に区別しがたいものがあるため,受取の財産所得
は,営業用資産に関して生じたものであっても,家計の財産所得とみなして,企業所得には含め
ません。また,支払の財産所得のうち賃貸料は,全額を個人企業の支払として取り扱い,利子部
分については消費用のものとそれ以外の利子に区分し,消費用のものは家計の,それ以外のもの
は個人企業の支払として取り扱います。
エ
生産・輸入品に課される税,
(控除)補助金
生産・輸入品に課される税とは,財貨・サービスの生産,販売等に関して生産者に課され,コ
ストとして商品に加算される関税,消費税などです。補助金とは,産業振興や製品の市場価格を
抑えるなどの政策目的によって,政府から一方的に給付されるもので,受給者側で収入として処
理される経常的交付金です。費用で評価(要素費用表示)された市民所得を,市場取引における
売買価格で評価(市場価格表示)するため,ここで調整します。
オ
市民可処分所得
市場価格表示の市民所得(要素費用表示の市民所得+生産・輸入品に課される税-補助金)に,
市外からのその他の経常移転(財産所得以外の移転)の純受取を加えたもので,市民全体の処分
可能な所得を表しています。これを支払の面から見ると,民間及び政府の最終消費支出と貯蓄と
して処分されることになります。
(5)主要系列表:市内総生産(支出側)
市民所得は,それぞれの経済部門が1年間に財貨・サービスを購入する面,すなわち最終生産物
に対する支出(消費及び投資)の面からも把握できます。これを市内総生産(支出側)といいます。
ア
民間最終消費支出
(ア)家計最終消費支出
家計(個人企業を除く)が,1年間に行う新たな財貨・サービスの取得に対する支出であっ
て,現金支出を伴うもののほか,農家における農作物の自家消費,自己所有住宅の家賃評価額
(帰属家賃),給与住宅差額家賃(社宅や官舎等の給与住宅に実際に支払われた家賃と,市場
評価額との差額)等雇用者が受け取った現物給与も含まれます。
家具その他の耐久財購入はすべて消費支出としてここに含まれますが,土地造成及び住宅建
設は投資活動とみなして総固定資本形成に含められます。また,仕送り金,贈与金,労働組合
費などは,家計間あるいは対家計民間非営利団体への移転になるため,消費支出とはみなされ
ません。
(イ)対家計民間非営利団体最終消費支出
対家計民間非営利サービス生産者(対家計民間非営利団体)の産出額から,家計に対する商
品・非商品販売額を控除したものです。営利を目的としていないため,販売による収入額のみ
で生産コストを賄えるわけではなく,不足分(サービスの産出額-商品・非商品販売額)につ
いては団体自らが負担していることになります。この分を,団体自らが消費している(自己消
費)とみなし,対家計民間非営利団体最終消費支出として計上します。
イ
政府最終消費支出
政府の自己消費と家計への移転的支出からなります。
政府の自己消費とは,政府サービス生産者の産出額から他部門に販売した額を差し引いたもの
です。例えば国公立学校の生産する教育サービスでは,授業料という形で生産コストの一部を受
益者が負担するので,これを商品・非商品の販売とみなして差し引くこととしています。他部門
に購入されなかった部分(サービスの産出額-商品・非商品販売額)は,政府自らが消費するも
のとして,政府最終消費支出に計上されます。
家計への移転的支出とは,社会給付のうち現物社会移転(医療保険給付及び介護保険給付)と,
教科書購入費等の合計です。
ウ
総資本形成
(ア)総固定資本形成
民間法人,公的企業,一般政府,対家計民間非営利団体及び家計(個人企業)が新規に購入
した有形又は無形の資産の額(中古品やスクラップ,土地等の純販売額(販売額-購入額)は
除き,マージンや移転経費は含む)です。
a 有形固定資産
住宅,住宅以外の建物及び構築物,輸送機械,機械設備,育成資産(種畜,乳牛,果樹等)
b 無形固定資産
鉱物探査,コンピュータ・ソフトウェア(生産者が 1 年を超えて使用するソフトウェアの
うち受託開発分)
,プラント・エンジニアリング
c 有形非生産資産の改良
土地の造成,改良,鉱山・農地等の開発,拡張等
(イ)在庫品増加
在庫品増加は,企業及び一般政府が所有する製品,仕掛品,原材料等の棚卸資産の物量的増
減を市場価格で評価したものをいいます。
なお,在庫品増加は在庫品評価調整(注)後で評価しています。
(注)在庫品評価調整
期首と期末の帳簿価格の差で得られる在庫品の増減額には,生産活動に伴わない価格
変動による評価損益が含まれており,この変動を除去し,在庫品の物量的な増減を取得
時の価格で評価するための調整をいいます。
エ
財貨・サービスの移出入(純)
財貨・サービスの移出入(純)は,移出から移入を差し引いて求めます。移出とは,市外に流
出した財貨・サービスと市外居住者の市内における消費支出をいい,移入とは市外から流入した
財貨・サービスと市内居住者の市外における消費支出をいいます。
オ 統計上の不突合
市内総生産(生産側)と市内総生産(支出側)は,概念上一致すべきものでありますが,推計
に使う基礎資料や推計方法が異なっているため,推計値に差が生じることがあります。この差を
統計上の不突合といい,両者の勘定体系のバランスを図るための調整項目として表章しています。
カ
市外からの所得(純)
市民が市外から受け取った市民雇用者報酬,利子,配当などと,市外へ支払った同項目の差額
です。
*遡及改定について
市民経済計算は,多くの統計調査から得られるデータを用いて推計していますが,統計調査の
中には,毎年実施されないものも多く,実施されない中間年次については,統計的処理により求
めた数値を用いています。したがって,新しい調査結果が公表された時は,そのデータを使って
過去に遡って修正することになります。また,5年ごとに基準改定される国民経済計算に合わせ
た改定も必要となります。更に,精度向上を図るため,推計方法の見直しも行っています。
このように,市民経済計算は,新しい年次の推計結果の公表と併せて,過去の各年次の数値に
ついても遡って改定を行っていますので,最新の公表値を利用する必要があります。
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