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中間まとめ - 富山県総合教育センター

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中間まとめ - 富山県総合教育センター
「健康な心と体・道徳的実践の心を育てる教育研究Ⅲ」
研 修 会 記 録 ( 要 旨 )
Ⅰ
第1回研修会
平成16年 6月24日(木)
14:00
喜 田
裕 子
~
17:00
講
話
富山大学人文学部助教授
先 生
演
題
児童生徒における自己形成と対人関係の問題及びその心理教育的支援
-自他の分化self-other differentiationの観点から-
[講話の記録]
1
カウンセリングの現場から
(1)友人関係で勝手に幻滅して不登校に陥った女子中学生
A子(中学生)はB子と仲良しで、A子はB子にC子の悪口を聞いてもらっていた。
ある時、A子はB子とC子が話しているのを目撃した。A子は裏切られたと思い、そ
れがきっかけで学校に行けなくなった。
私たちは、現実(リアリティ)を2層でいつも体験している。一つは外的なリアリ
ティであり、もう一つは心的なリアリティである。
外的現実とは、より客観的であろうと思って態度や姿勢で見えてくる現実である。
心的現実とは、自分の要求、願望、感情などのフィルターを通して自分の気持ちを相
対化せずに見ている世界と言える。極端な話、妄想というのは、心的現実だけになっ
てしまって外的現実を受けいれなくなったものである。例えば、ある男の子(大学生)
が「世の中の人はみんな自分を嫌いなんです」と言ったとする。それは、彼の心的現
実である。そんな人に「それは、何割ぐらい現実で、何割ぐらいあなたの心の中の世
界ですか」と客観視させるような関わりをし、現実検討を促す。100パーセント妄
想的な人は100パーセント現実だという。外的現実とも接触できる人は、6割ぐら
い自分の心で、4割は現実だと言う。
A子にとっては、妄想でないがB子は私と一心同体であるはずであると言葉にすら
できないで、融合している段階である。自他の未分化といっても良い。裏切られたと
いう気持ちは実は、自分が勝手に相手と一心同体と思っていたということをいかにク
ライアントさんに理解してもらうかということが介入の一つのポイントになる。単に
頭で理解するだけでなく、一心同体ではない悲しみ、寂しさも含めて理解することで
ある。
(2)他者の評価にとても傷つきやすい大学生
自己評価(自分という者をそこそこ評価できる)を維持したいという基本的な傾向
がある。きちんと維持できない時に病理的方略を使ってでも自己評価を維持していこ
-1-
うという傾向が臨床的に見られる。その傾向のことを自己愛傾向と呼んでいる。自己
愛傾向は大きく分けて二つのタイプに分かれる。無関心型と過敏型である。無関心型
というのは、尊大で偉そうで人の気持ちに配慮しない、共感しない。過敏型というの
は、人の評価にものすごく敏感で少しでも批判されるとすぐ傷つく。二つは別々のタ
イプではなく、反転する。自己愛
の問題である。どういうふうに共
通して自己愛の問題なのかという
と、自分の心的リアリティに立て籠
るというところで病理的な方略を使
っていると言える。無関心型は人の
評価に関係なくおれ様と言うところ
で立て籠る。敏感型は人に評価さ
れる前にあらかじめ最悪の自分を
想定し、自分は最低ですというと
ころに立て籠もる。発達的には、
自己対象関係の発達不全があると想定されている。
自己対象関係の発達にはミラリングが大切である。ミラリングというのは、子供が
何かをして、パッと目を輝かせた時に、自分にとって大切な他者である大人が鏡のよ
うにパッと見つめ返してくれることである。これがすごく大切なことであると言われ
ている。
もう一つはミラリングを受け止めてもらうこと。それは、子供の方が「ママがいる
から大丈夫」というように、親や先生を一種の理想化した状態で見ていることを言う。
子供は、そうやって安心できる体験が大切とコフートが言っている。対象関係とい
うのは、自分と分化した他者との関係。自己対象関係というのは、対象が他者であり
ながら、自己の延長線上にあるように感じられるような他者との関係である。これは 、
発達する。どう発達しなければいけないかというと、絶対的に依存する関係から相対
的に依存する関係への発達ラインが正常な発達として想定されなければいけない。今
は高校生や大学生になっても先生が誉めてくれないと言って泣く。なぜか。欲求の満
足に過不足があったからである。従来は、不足ばかり言われていたが、過剰に満たさ
れすぎて欲求が常に満たされていないと気がすまないということもある。
無関心型も過敏型も自他の未分化。自分は自分、人は人というふうに思えないから
こそ人の評価で即自分が解体してしまう。自他の未分化が問題である。
(3)誰かといないと「友達がいないと思われる」のが怖いと訴える女子高生
最近終結して、公表の許可ももらっているのだけど、女子高生が不登校になった事
例。人とかかわっていると、自分が見えなくなる。カウンセリングを通して、自分を
確立したがこの部分だけが残っている。誰かといないと人から「あの子は友達がいな
い子だ」と思われるのが一番怖い。友達がいないのは怖くないと言う。養護教諭が言
-2-
うには、学校はこの子は問題がないと認識していると言う。一見健康そうに見える子
供たちでもこういう息苦しさを感じながら生活している。
(4)聞こえよがしに他者を攻撃する高校生
高校生が通りすがりに、誰彼かまわず「ばか」とか言う。言われても傷つかないと
思っていても落ち込んでしまう。今の高校生は、授業中でもその子に聞こえるように
攻撃する。これは、アサーションの未熟につながる。
・
通りすがりに「ばか 」「だっせえ顔」などと言う。
立ち直れない衝
・
学習中、音読すると「気持ちわりい」とか「スカー
撃で学校へ行けな
トの丈、それ何?」など聞こえるように言う。
いこともある。
アサーションの未熟とつながる。
(5)アルバイトに関して母の意見と自分の意見が分化していなかった男子高校生
高校生:「 アルバイトをしようと思う。いつしようか問題なんだけど・・・。お母
さんは、頻繁にすると疲れるから水曜日と金曜日にどうかと言うんです」
*
主語を本人にして問いかけてやることが大事。
先
生:「さっきお母さんがと言ったね。あなたはどうしたいの」
高校生:「えっ!(頭をかかえて)『ぼくが』と考えたことがなかった」
*
「あなたは」と聞くことが、児童生徒の自他の分化を促進する。
私たちは、自分は自分、他者は他者との前提のもとで聞くが、この高校生にと
っては、お母さんと自分が一体となっていて、それが自分の生きる道。そこで「 あ
なたは」と介入するのが大事。
(6)リストカット手段でしか「かまってほしい」ことを訴えられない女子中・高校生
高校生:「 担任の先生の注意に対して、裏切られたと思った。生きている希望もな
いから死んだっていいんだ。どうせ死ぬなら、先生に一番迷惑のかかる方
法で死ぬんだ」
養
教:「 そう言うけど、悪気があったわけじゃないよ。あなたのことが心配で、
いい大人になってほしいと成長を願う気持ちで、あえていやなことも言っ
てくれたんじゃないの」
高校生:(嬉しそうに)「そうだといいんだけど・・」
担
任:「 僕のこと嫌いだと思い込んでいたけど、話しかけてきて、かまってほし
そうにいちゃもんをつけてくるんだ」
*
リストカットは、「構ってほしい、愛してほしい」の表れ。養護教諭がちゃん
と見抜き 、「そんなことないよ」と介入したことが効いた 。「かまってほしい、
愛してほしい」と言えるのは、自他が分化した大人の世界である。
-3-
2
自他の分化とは
マーラーの分離個体化理論
心理的な「自己」は初めから他者と分離した「私」と「あなた」という世界があるの
ではなく、最初はいっしょ。3年かけて「私」と「あなた」という関係が確立していく。
(例)
赤ちゃんは、泣けばおっぱいがもらえると思っている。お願いしたからお母さ
んがそれを聞いてくれたというようには認識していない。泣くとおっぱいが現れ
るという認識。しかし、実は、お母さんには都合や欲求があって、ぼくとは別の
世界だと分かる中で、徐々に自分と他者というものが分離個体化していくという理論。
再接近期(2歳頃まで)
見える所にお母さんさえいれば、夢中になって
遊んでいる。しかし、お母さんが「楽になったね、放っておいても大丈夫」と
思ったころに、またしがみついてくる時期がある。母子共に不安定な時期。子供
にとって、今まで一心同体だった母親が、自分とは違った願望をもった人間だと
いう認知につながり、いろんなものが見えてくる。それゆえ不安になる。再接近
危機期ともいう。
この時期ありがちなのは、しがみつきと無鉄砲な飛び出し。分離不安とかまっ
てほしいという気持ちをそういう行動によって、母親を試そうとする。母親は不
安になりながらも、子供の安全基地であり続けることが大事である。母親に分離
不安が強いと、心配性、過干渉になる。思春期は、第2の再接近危機期である。
(前に述べたリストカットも無鉄砲な飛び出しになる。)
病的な自他の未分化
自分が誰かに操られているというような自我の
境界がうやむやになっている。
健康だが、ちょっとしたことでカーッとなって自他の見境がなくなって、コン
トロールがきかなくなるという自他の未分化もある。
*
幼稚園や保育所の段階で、どういう自他の在り方が健康的で望ましいのか、現
場ではどういうものが問題とされているのか、また小学校では・・・・。個々の
事例としての問題もあるし、全体として底上げしていかなければならない問題も
あるだろう。下からの積み上げが全部教育現場にかかってきているのではないか。
3
自他の分化を促進する心理教育的支援の在り方
自他の分化という観点から問題を洗い直してみる。アセスメントし直してみる。そ
こからどういう介入がありうるのか。
-4-
認知的アプローチの実際
エリス(論理療法の創始者)
私たちは何かあったときに、その出来事を意味付けせずにはいられない存在。エ
リスは、ビリーフのBといって「信念」という認知を重視した。A「出来事」から
C「結果」へ直に考えるのではなく、そこにどういうB「信念」という認知が働い
ているかということを考える。AからCの動きをその人自身に別の認知をもっても
らったり、認知し直してもらったりとかも含めて、介入していくのが認知療法の骨子
になっている。
事例を見ていく場合に 、「心」を知・情・意・行動というふうに分離して、一人
一人をアセスメントしていくとよい。最終的には、その子に洗練された認知的構え
を育成していく。認知的かかわりは、最終的には自他の分化を促していくだろう。
また、認知だけではなく、感情・意欲などにも目を向けたアセスメントが必要であ
る。
4
まとめ
この研究会で考えていくこと
個々の事例を一つ一つ見ていく
自他の分化という観点を取り入れることで、自他の分化の発達段階に即した教育的
介入の在り方というところまでもっていけたらよい。一貫性をもった1年間の理解を。
(例)
アセスメントをした上で介入案を立て、どういう介入をしたらよいか考えて
いく。困っていること、悩んでいることをフランクに言い合えて、それぞれが
支え合っていけるようなものにする。
-5-
Ⅱ
第2回研修会
平成16年 7月28日(水)
9:00
研修内容
~
16:30
幼児・児童・生徒とのかかわり方に関しての事例研究1
児童生徒における自己形成と対人関係の問題及びその心理教育的支援
-自 他 の 分 化 の 観 点 か ら-
指導助言者
1
臨床心理士
伊 東
真 理 子
先 生
事例研究
事例1
予想以上に登園を渋っていたT男や母の内面に気づけなかった事例(5歳児 )
[協議の記録]
(1)外 的 理 解
母親
・
主な養育者である。時々仕事に出かけているらしい。
・
おおらかで世話好きである。M男(T男の友人)のさびしそうな表情を見て、
自分から自宅で預かろうかと声をかけ、週2回面倒を見ている。どちらかという
と、みんな家においでという感じで、いろいろな面で一生懸命に世話をしている。
・
家には、高いウッドデッキがある。家庭訪問の際 、「大丈夫ですか」と聞いた
ところ 、「2回も落ちたんですよ」と、けろっとして言う。おおらかに子育てを
していると感じた。
父親
・
子供とのかかわりを大切にし、子供を積極的に自然の中に連れ出そうとする。
虫好きで、園に協力的である。
予想以上の登園渋り
・
園が行った園経営外部評価のアンケートで分かった。幼稚園の中では見られな
い状況であり、たまに母が言う内容からは、そこまで深刻には見えなかった。
他の子供との違った感じ
・
本園は専業主婦の母親が多く、おっとりと育てられている子供が多い。T男とM
男は、漂う雰囲気が違う。園に慣れにくく、なじもうとしない。しかし、生活力
がある。
・
「てぇめー」「~なんだよお」というような言葉を遣ったりする。
前年度通っていた保育園
・
「裸足・裸教育」を打ち出し、0才からたくましい子供を育てようという趣旨
で1日中遊ぶことが多かった。どろどろの泥水に首まで浸かるというようなひた
すら自然の中で活動することを大切にし、文字を教えたり時間で生活を区切った
-6-
りしない。
・
○○自然の家でお泊まり保育をしているのと一緒になったことがあり、違和感
をもった。食事は子供たちだけで好きなものを食べ、片付けもしっかりできない。
風呂では泳いだり、したい放題で、廊下も走り回る、集いでは、話を静かに聞け
ない、ゲームにもルールを守って参加できないといった面が見られた。
伊東:昨年度まで自由に自然の中で思う存分遊ぶという保育園の方針の中にいたT
男にとって、本園での方針に沿って教育を受けることは、大きな環境の違いが
あり、とまどいが大きかったといえるのではないか。
両親
・
母親が他の子供を預かっているのは、無理があるという雰囲気がある。
・
父親はアウトドア派で、自分の楽しみに子供を巻き込んで楽しんでいるという
感じである。
・
父親は、○○市の出身。母親は 、(よく分からないが)兄がいる○○県へ行く
と言っていた。富山は、よく分からないと言う。
・
父親の実家に行くと言うことはあまり聞かない。下の子供を預かって欲しい場
合は、前の保育園の保護者と連絡を取り合っているようだ。
伊東:家族環境の中に、母親が頼れる人はいない。
園での様子
・
困ったことがあったり、何かを聞いたりしたときにT男は頭をかいて黙ることが多い。
・
遊び方はダイナミック。ただし、友達との遊びの中では、衝突が嫌なのか物足
りなさを感じているのか、気がついたら違う遊びをしている。
・
クラス全体で絵を描く制作活動では、几帳面さやがんばりやの面がでる。はさ
みの使い方が上手で、教師が声をかける必要がない。人物画もしっかり描き、知
的にも発達している。本もじっくり読んでいる。
・
1学期間、T男は生き生きと活動している。何の問題もないと思っていた。
伊東:一人でできる場に逃げ込んでいたのかもしれない。
保護者との関係
・
母親は、当園の環境は広くてすばらしいから、それを生かしてもっともっと遊
ばせてほしいと願っている。T男は、幼稚園が替わってカルチャーショックを受
けている。我慢する傾向があるから、もっと見てほしいと考えている。
・
担任としては、いろいろな遊びや活動を通して、みんなで何かすることの楽し
さやすばらしさを感じてほしいと願っている。
・
最近、不審者対策から、子供だけでは外へ出ないということを強く言いすぎた
かもしれない。言い方に問題があったかもしれない。担任としては、保護者とは
良好な関係を築いていたと感じていたが、そうでないことに気づきショックを受
けている。
伊東:保護者の方が担任に少しずつ心を開いている言葉がある。そこに敏感に反応
し保護者の思いを受け止めることで、保護者と担任の溝を埋めることができる。
-7-
(2)内 的 理 解
・
懇談会や面談の時の母親の話や態度から、園や担任が思っている以上に母親は
子育てに悩みを抱えており、園の経営方針にも不満をもっていることがわかった 。
伊東:1学期末に、母親からの申し込みにより行った教育相談では、長子に対する
子育ての悩みや母親自身の生育歴などを聞き、母親が多くの悩みを抱えている
ことを感じた。この日の面談は30分程度だったため、必要があれば、この後
の相談も可能であることを伝えた。
(3)考 察
長子も不登校であるということだが、T男の登園を嫌がる様子と共通点があるのか。
・
母親からは長子の不登校の話は全く聞いたことがなかった。母親から聞くまで
は、T男についてもそれほど登園を嫌がっていることには気づかなかった。
母親が担任と話す時は、不満や批判的態度か、それとも相談するような態度か。
・
批判めいた言葉は全く見られない。しかし、アンケートには 、「先生と話しに
くい」と答えている。その一方で、
「何かあったときには相談したい」とも答えて
いる。
「小学校に上がったようなカルチャーショックを受けている」とはどのような点か 。
・
1日中自由遊びではなく、みんなで集団活動をしたり、話を聞いたりするとい
うことが「小学校に上がったような」ということにあたるのではないか。
T男は本当に困っているのだろうか。母親が感じているにすぎないのではないか。
・
T男が園での遊びに物足りなさを感じているのは事実だと思う。これからは、
母親の気持ちに寄り添う対応を考えていかなければならないと感じている。
T男自身がもっている資質に何か問題があるという風には考えられないか。
・
人とのコミュニケーション能力は、不十分な気がする。絵本や塗り絵に集中す
るのも、園の他の先生からは、“逃避”ではないかとの指摘もある。
伊東:本人の行動を見ると、むしろ資質は他の子供と比べても高いものがあるよう
に感じられる。資質については特に問題はないのではないか。
・
T男自身の能力の高さを考えてみても、T男よりむしろ母親がT男の登園を渋
る原因を、園を含めた大人の価値観や都合に求めているような部分があるのではな
いか。
・
小学校の1年生を担任しているが、やはり幼稚園や保育所と比べて、時間的に
拘束されることが多かったり、集団行動を求められる小学校に、登校を渋ったり
泣いたりする子供は多い。それでも、
「お母さん、子供ってそういうものですよ」
とおおらかに対応したり、母親の不安や悩みを聞くことで解消したりしていくと、
そのうちに親子ともに落ち着いていくことが多い。だから、先生が母親の不安を
取り除いていくよう、時には姉のように時には担任として話を聞いてあげたらい
いのではないか。母親が園に批判的と言われたが、そのような内容のアンケート
を書いたりする保護者は、得てして教育熱心で、本心ではそれほど大きな不満を
もっていないことがある。この母親の場合もそうなのではないか。
-8-
伊東:長子が不登校の場合、T男が朝家を出る時に、長子も弟も家にいるのに、自
分だけが幼稚園に行かなければならないという状況が生まれる。その一方で、
自分は母親に心配をかけてはいけないと感じているとも考えられる。
これからの対応としては、T男本人に対しては、本人への言葉がけをするこ
とで、先生は自分の方を
ちゃんと見ているという
ことを伝える。そうする
ことで、T男の心理的安
定を得られる。無理矢理
集団の中にとけ込ませよ
うとするよりも、T男な
りのよさを認めていって
あげたらいいのではない
か。また、母親に対して
は、十分話を聞いてあげ
て、子育てに対する不安や悩みを少しでも軽減してあげるようにしていったら
いい。
事例2
虚言癖・反社会的行動を繰り返す・学級集団から逃避したがるM子の事例
(中学生)
[協議の記録]
(1)外的理解
母親の問題による影響
・
中2不登校時における母親の担任への不満は 、「プリント類がきちんと届けら
れない、本人が勉強したくてもテキストの進度状況がわからない、担任がもっと
M子本人とかかわってほしい、そうしなければ状況が改善されない」というもの。
母親の指摘の通り、担任とM子とのかかわりはとても薄かったと思う。
・
母親が実父とのことで困っている時に、今の養父に拾ってもらったという感じ
らしく、そのため養父には迷惑をかけたくないと母親は言っている。しかし、本
当のところは、母親が自分中心に物事を考える性格のため、母親自身がM子の問
題行動により迷惑をかけられるのを嫌がっているふしがある。自分が迷惑なのを
養父にすり替えている所がある。
・
母親はM子に対する自分の言動について反省はしている。母親は、きちんと考
える力もあるのだが、直情型のため、かっとなると自分の感情をコントロールで
きずにそれをM子にぶつけてしまう。母親へのソーシャルスキルトレーニングも
-9-
行い、感情が激した時の表現の仕方について指導した。また、母親が自分の気持
ちをありのまま聞いてもらったり、ぶつけたりする相手が必要と考え、その役目
を養父にお願いした。母親も養父も学校とは連絡を密にして対応している。
M子についての小学校からの申し送り事項
・
万引きと喫煙についてはあった。M子は問題行動は多いのだが、性格は明るく、
話もできる生徒である。なんとか、高校進学させたいと考えているのだが、この
ままでは、すぐに専業主婦になりそうである。
M子に対する母親の虐待
・
本来は、虐待は通告の義務がある。しかし、現実問題としては、児童相談所に
相談することはあったが、通告という形では行ってはいない。難しいところである。
食事の準備等
・
母親が作ったり、本人が自分で作ったりしている。M子が問題行動を起こさな
い時には、母親の対応は普通である。M子は家出をした時にも、自分では家に戻
ることができないため、自分で交番に行って「お母さんに叱らないように言って
ほしい」と頼んだり、学校に自分から連絡してきたりしている。自宅の周りをう
ろうろするのも本当は見つけてほしい、家に戻りたい気持ちの表れと思われる。
2人の兄
・
1番上の兄には少し問題行動が見られたらしい。母親は2人の兄をかわいがっ
ており、特に1番上の兄をとてもかわいがっている。M子についても別にかわい
がっていないわけではなく、一緒に寝たりもしているのだが、M子には厳しく接し
ている。
(2)内的理解・考察
・
“嘘をつく”というのは、M子なりの小さいころからの処世術ではないか。
・
友だちや先生に見え見えの嘘をつく。母親には、言い訳はするが、そのような
嘘はつかない。友だちに対し、すぐばれるような嘘をつき、友だちも一瞬は驚く
が、その嘘にあきれている。カウンセリング指導員に対しては嘘は言わない。
・
社会に学ぶ『14歳の挑戦』の時に、養父の仕事場に行っているが、それを受
け入れた父親も良かった。この年齢は、とかく父親の存在を煙たがるところがあ
るが、よく養父の仕事場に行ったものだ 。『14歳の挑戦』中は、自分が養父を
独占することもできたし、良かったのではないか。
・
初めは、M子本人も嫌がっていたのだが、結果的には良かった。結果オーライ
といったところだろうか。養父も母親もM子に対し、気を遣いながら接してきた
ところがある。
・
成人男性との付き合いは犯罪だが、それが発覚した時に教師が対応するという
形になっているが、それでいいのだろうか。未然に防ぐことは難しいのだろうか。
とても深刻な状況だと思うのだが。
伊東:状況は大変だが、そういう状況は中学に来て突然おこったものではなく、そ
れに至るまでの経過、生育がある。M子の場合もおそらく0歳での両親の離婚、
- 10 -
実父のことを考えれば、家庭内は相当に不安定な状況であったと思われる。
・
子供たちとも会話がだんだん難しくなってきている。会話をできる状態にする
までの人間関係づくりが大変。話をしたくても、約束の時間に来なかったり、逃
げたりという状況がある。
伊東:おそらく母親自身もM子と同じように、自分の母親からの虐待があったので
はないか。自我の発達という点からいうと、M子は混乱したままで身体だけが
大きくなった状態である。母親との信頼関係が安定していない
ので、学校の方にそれを求めてきているように見える。その結
果、M子の母親も養父も変わってきているのだろう。
自我の育ちの質の段階で未熟さを抱えている子供には、学校
以前の段階でかかわっていくことになる。こういうM子のよう
な例は他にも多くあり、そういう子供たちは早い年齢で自分自
身が親になっていくことが多い。そして、自分の生育歴を振り
返り、自分は自分の親にされたような子供への接し方はしない、
と思っていても結局自分の親と同じ事を繰り返す場合がある。
事例3
朝、母親となかなか離れることができずに泣くことがあるT児(4歳児)の
事例
[協議の記録]
(1)外的理解
保育所での生活
・
午前7時から午後7時まで保育している。ほとんどの時間は縦割りで生活して
いるが、1時間だけ年齢別に生活している 。(縦割り保育は、行政的な理由と教
育的な理由から行っている。教育的には、クラスが家庭的になり、思いやりが育
つというよい面がある。)
・
母は、実家の○○屋に勤めている。○○屋が忙しいときには、○○屋で過ごす
ことがあるというので、援助の手はあまり厚いとは言えないのではないか。
・
保育所では、ブロックなどおとなしく遊んでいることが多い。3歳児の時には、
よくだっこをされている姿を見かけた。3歳児では、母親となかなか離れられな
かった。また、昼寝の時は、横になることができないなど、ずっと年長の女児が
お世話していた。
・
食事の後、茶碗の後始末ができない、雑巾を絞ることができない、着脱が上手
にできないなど、生活の技能は3歳児程度である。
・
年長児が「~しよう」と声をかけると、一緒の場で遊べるが、一緒に遊んでい
るという感じではない。
- 11 -
・
自分から挨拶することが不得手である 。「またね」と声をかけると、小さな声
で「バイバイ」ぐらいはできる。
・
食事の量はとても少ない。セルフサービスにして食べることができる分量にす
ると、自分で食事することができるようになった。
家庭での姿
・
兄弟でけんかをすることはあまりない。弟におもちゃを取られて泣くことがあ
るという。
・
父親に反抗することがある。父親はその姿を見て、
「そんなことをしていると、
悪い子になってしまう」と考えている。父親は、おもちゃを取られて泣いていた
ことに対しても、許せないという態度だった。
・
父親は、自分の趣味を大切にする方で、自分の時間をたくさんもちたいタイプ
らしいので、子供とのかかわりは少ないのではないか。
・
T児の「鬼に食べられてしまえ」という発言は、4歳児らしくない印象を受ける
が、父が投げかけているという可能性もある。子供に自分の思いを伝え切れてい
ない父親の姿が浮かんでくる。
(2)内的理解、考察
伊東:小さい子には、言語化できていることで、行動化させなくてすむという面が
ある。(学童期では、歯止めがきく年齢になるが・・・)そういう意味づけを
すると親が安心するという面もある。周囲の大人は大丈夫かと心配しがちであ
るが、あまりいじらなくていい点であるし、むきになることはない。攻撃性を
安全に出せていることは良いことである。昔、キャンプで食用ガエルに対して
の残酷ないたずらをしていた子供を怒った経験があるが、現在医者になってい
る。小動物をいっぱいいじめた経験があってこそ、今は助ける側になっている
と言えないだろうか。ある中学校では、40人中3人しかアリを触ったことが
ないという。小動物をいたずらして後味の悪さを感じることは大切なことでは
ないだろうか。そういう意味でも、小動物のたくさんいる環境は子供たちに
とって大切であると思う。
・
絵の感じは「ぐちゃぐちゃの、てんてんてん」という感じで、少し幼い気がす
る。絵で自分のことを表現するには難しいと感じる。
・
「お兄ちゃん、もっと大きい虫もっとるよ。お兄ちゃん、お姉ちゃんは包丁で
切っても死なんが」という発言は気になる。
伊東:心の中では、もっといっぱい対話しているかもしれない 。「お兄ちゃんどう
したの・・」と、会話していけばいい。自分の中に王国を作っているかもしれ
ない。基本的には、先生が心配している点であまり問題はないように感じる。
自分をあまりうまく表現できないだけで、気質的には問題ないのではないか。
T児が明るくなるためには、父親ともっとかかわらせてあげたい。
母親と離れられない子や、登園を渋りがちな子供は、愛着関係が不安定な場
合が多い。あまりにも登園渋りがひどいときには、不登園させてあげたほうが
- 12 -
よい。集団への入り始めは、「絶対に連れて行く」ことで対処できるが、小学
校3・4年生になった頃には、力ずくでは動かなくなってしまう。
1対1の関係ができていない子供は、1対多の関係が怖い。1対1の関係を
つくるときには、1か月か2か月母親にぴったりして関係を築き直した方が、
その後うまくいくと考えられる。
T児は集団への入り始めの時期だから無理に登園させることができる。3・
4年生になると難しくなる。中学生なら引きこもる。学年が上がるにつれて重
症化する。幼児期の登園渋りは、自分をつくる基本が足りない。一対一の安心
感がないから、1対多の親がいない場面に行けない。この時期に休ませて、母
親とくっつき直すのがいい。そうしておくことで成長しても問題を起こしにく
くなる。
弟の動きが気になる。子供同士の喧嘩は母親の奪い合いではないか。兄弟関
係は子供の自我形成に大きな影響をもつ。子供たちの求めているものを満たし
てやることが大切ではないか。
高1の女の子でも母に甘えてくる。男の子なら耳掻きなど。不安定になるこ
とがあった時にスキンシップを求めてくる。満たしてやることは大切である。
拒食症の子供の親に学校の先生が多い。家でも先生をしている場合は、子供は
息が抜けない。勉強しかしていないから自分がしたいことを探せない子供が多い。
この事例では、父親が連絡帳に書いてくる。目立ちたい父親ではないか。よ
く書いてくれたと父親を元気づけることもいい 。「遊んであげましょう」と書
くのではなく、園であった子供が喜ぶことを書いてあげることもいい。遊べな
い子供は勉強ができない。遊びの中で集中力、体力を養う。
事例4
身の回りの整理整頓ができないM児の事例
(小学生)
[協議の記録]
(1)外的理解
M児について
・
身の回りの片付けができない。片付けるように言うと、落ちているものを無理
やり机の中にねじ込む。保育所時代から何もしない友達に手が出る。
・
過干渉な母親である。懇談会では、あれもできない、これもできないと言うこ
とが多い。最近は子供のよいところにも目が行くようになってきている。
・
たたいたり嫌なことをしたりしている相手は特定の子供ではない。嫌われてい
るわけではないが、成長につれて孤立して、体の大きさが逆転してやられる立場
になる。
伊東:今は母親の言うことを聞いているが、いつかは母親を越える時が来る 。「マ
- 13 -
マが・・と言ったから」と頻繁に言う。「ママは・・だけど、あなたは・・」
と、本人に返してやることが大切ではないか。
・
週末の日記の宿題は、母が見ているから書いているのではないか。きっとM児
は辛い家庭生活を送っているのではないか。
伊東:身の回りの整頓ができない子供は、5・6年になるとよくなる場合が多い。
とやかく言わなくても自然に育っていく。母親以外の価値があることに気づか
せたい。
・
家でも整頓できない。母親は成績については、成績がよいので特に言わない。
・
M児はやりたいと思うことは徹底的にやる。
・
忘れ物をした時に母親が届けていたが、母親の判断で止めた。机の中に学習用
具を置いていくようになった。母親は問題と感じていない。今は字の汚さに注目して
いる。
(2)内的理解
母親の過干渉
・
M児は母親が大好きで母親のしていることに満足しているのだと思う 。「いい
お母さんね 」「お母さんはよく知っているのね」とM児の母親を認めていきなが
らその中で、
「あなたはどう思うの」とM児の自他の分化をさせる機会をつくる。
また、母親が知らないこともあることを知らせていき、母親への絶対量を減らし
ていってもいいのではないか。
・
支配的過干渉な母親のもとから、すり抜ける術をM児自身が知っているようだ。
M児のたくましさを感じる。
・
M児はきれいな字を書いていると思うが 、母親はそれ以上にきれいな字を望む 。
「のびのびとした字ですよ」と褒めながら、母親の価値観を広げたらよいのでは
ないか。
・
母親からの指摘を受け止めなが
らも、今の様子の良いところ+α
を知らせていく 。指摘に対して「努
力します」と担任が答えると、母
親は次の結果(字への評価)を期
待する。母親の要望に対して、あ
まり意味がないと思うことには、M児なりの姿を、ありのまま肯定的に伝えるこ
とも大切と思われる。
・
母親の意識を無理に換えさせてしまうと、せっかく開放されていたM児への支配
が強まってしまう。
過干渉な子育て
・
過干渉な親の子育てには不自然さが感じられる。親一人で、一人の子供をずっ
と見つめ育てることは、とても不自然なことである。しかし現状ではそうした家
庭が多くなっている。
- 14 -
・
不自然さを感じる子供の姿としては次のようなことがあげられる。
動作がスロー
運動能力が低い
一人でずっとしゃべり続ける
偏食がある
皆と一緒に食べられない
周りの動きが見えない
(3)考察(気になる子供について、親にどのように伝えるか)
伊東:『 子供は社会の宝』であることを念頭に、周囲の大人全体で育てていく気持
ちを大切にする。子供が喜んで通っている姿があると、親は担任の話を聞こうと
する気持ちが沸く。先ずは「大変なのに頑張っていますね」と親の姿をねぎら
う。気持ちが向いたところで、子供のいい表情やいい姿を具体的に知らせ、子
供との具体的なかかわり方を提示していく。「~していたら、いい顔で笑った
よ 」「手をつないで散歩していたら、~ってお話されました」などと伝えるこ
とをきっかけとして親の気持ちを聞いていけるようにする。
2
事例検討後の所感
・
学校生活では学習面に目が向きがちだったが、養護や支援が不可欠な現状だ。
・
子供の心の負担に目を向けていきたい。中学生になると集団として見つめがちにな
るが、一人一人の顔が見えるように見ていきたい。
・
事例検討により、発達段階がよく分かり学ぶことが多い。特に子供の内面を考える
機会となり自分なりの思いを表す場となった。
・
中学生の事例も0歳からの生育と繋がる。心の成長や変化を大切に見つめたい。
・
親、教師、子供の三者で話し合うことにより、成長・発達を見つめ直す機会になる。
・
違った視点で子供を見ていく手だてを考えていきたい。
・
子供の現状の原因はどこだったのかを深く探り考える機会となった。
・
出会った子供の心を見つめる大切さを感じた。心の叫びを感じとっていきたい。
・
子供が成長していく上で根っこの部分(幼い頃の体験)が大きな影響をもっている 。
・
人間には残酷なことをしたい要素があることや、気持ちをはき出せる場をもつこと
が成長には必要であることを改めて感じた。
・
子供にとっての遊びについて、内容や支援の在り方について今後考えていきたい。
・
親と子の1対1の温かいかかわりが人間形成の原点であることを痛感した。
・
幼・保の事例は小学校に当てはまる。保護者との対応はどの事例にも共通する。
・
自然物に触れることの大切さを感じ、幼児期の遊び(場の提供)の大切さを知った。
・
自分の家庭や子育てについて振り返る機会がもてた。
伊東:目の前にいる子供の問題を大事に見つめていく。人間のやることにベストはない。
よりベターになればと願うことだと思う。裏と表は一対である。長所は短所、短所
は長所である。子供や親が築いてきたものを否定せず、これからのことが、子供に
とって良い刺激となるようにと、保護者にかかわっていけたら良い。
- 15 -
Ⅲ
第3回研修会
平成16年 9月28日(火)
14:00
研修内容
~
17:00
幼児・児童・生徒とのかかわり方に関しての事例研究2
児童生徒における自己形成と対人関係の問題及びその心理教育的支援
-自 他 の 分 化 の 観 点 か ら-
指導助言者
1
富山大学人文学部助教授
喜 田
裕 子
先 生
事例研究
やや神経質でプレッシャーを必要以上に強く感じていると思われる N 子の
事例5
事例(5歳児)
[協議の記録]
(1)外的理解
N子のプロフィール
・
父方の祖父母と同居し6人家族。自営業で母親は店の手伝いもしている。N子
が3歳のとき弟が生まれ、そのため早期から入園した。父親はN子が4歳のころ
病気のため1か月弱入院をした。
・
母親は元幼稚園教諭だったことから、専門的な知識もあり教育熱心である。ま
た、交友関係も広く、預かり保育を利用してテニスに行くこともある。
N子の様子
・
いろいろな遊びに元気に取り組む。理解力もあるが8月に実施されたお泊り保
育の夕食時に突然大声で泣き出し不安定な状態となる。
・
何でも食べられる子供であったが、年長組になって食べる量が少なくなってき
た。弁当の時と給食の時とあるが、全部食べられない日がある 。「残していいで
すか」と担任に聞いてから残している。食べられないことを保護者はあまり気に
していないのかもしれない。
・
担任にすごく接近してくる子供であり、膝に乗ったりしてくる。担任の心が許
せば抱っこしてほしいという思いがある。普段は何でもしゃべる子供である。
喜田:年中組のころの様子と現在の家庭での食事の仕方を聞いてみたらよい。
食と睡眠にはその子供の安心感が反映される。
母親の N 子への期待やビジョン
・
お泊まり保育で大泣きしたことについて 、「ああ、楽しめなかったんですね」
「あまり、本人にお泊り保育のことは聞かないようにしています」と言っていた。
(N子は、お泊まり保育の後、熱を出している)母親はお泊り保育をきっかけ
に“寝るときに必要なもの(赤ちゃんのときの布団を小さく切ったもの )”をや
- 16 -
めさせたかったが、N子はそれがないと眠れない。このことが原因と思われる。
喜田:母親はあわよくばやめさせたかったと思う。
・
母親が元幼稚園教諭で、我が子に対して「もっとこうなって」との思いが強い。
他の母親よりは、もっとたくましくなってほしいなどという思いが強い。
(2)内的理解
喜田:あるべき姿でないところに触れないでおこうというニュアンスがある。なん
で、こんなに期待するのか。例えばお母さんとN子がよく似ていて、新しいこ
とに苦手意識があるのかもしれない。
・
運動会の練習に参加しなかったが本番ではスムーズにでき 、「楽しかった」と
言っていた。1回経 験すると安心だったのか。初めての競技のときに N 子への
伝え方が不足していたとも考えられる。
喜田:N子自身固有の抱えていることがある。N子は先ず困って、固まって、様子
を見て、それから乗り出していくタイプ。それに対して、母親が早く乗り出し
なさいと期待をかけているのではないか。母親なりに子育てを頑張っているが
母親はN子にセーブしながら伝えているが、N子はまともに受けてきつく感じ
ている。「
( 期待していませんよ」と言っている親に限って、期待している)
・
母親の「我が子に心も体もたくましくなってほしい」というのは、具体的にど
ういうことなのか。例えば、食事をしっかり食べられるとか 、「おはよう」と言
えるようになるとか、こういったことが大切である。
喜田:母親のN子への期待の仕方にも葛藤があり、迷いながら子育てをしている。
親なのに先生みたいに我が子を見ている感じがする。
(3)考察(N子の自他の分化と母親へのアプローチ)
喜田:母親は、自分に対する自信のなさや自分に安心できないところがあって、自
分と我が子とオーバーラップしているのではないか。もっとこの子供が生きや
すく、スムーズになるためのアセスメントとしてどう考えるか。
・
N 子は賢い分、先を見過ぎている 。“楽 しさ”を十分感じることができるよう
にしていきたい。こうでなくてはならない自分ではなく、今の自分のありのまま
でいいんだという基底的な安心感が少なく、いろいろなものに脅えている。
喜田:「 これができてあなたはなんてすばらしい」というほめ方なのか、それとも
具体的にできなかったことができるようになったねとほめられているのか。自
分で自分のよいところが分かっていない。加えて安定感がないから、人からの
評価を気にしている。R子のものをすばやく取り上げる場面があったが、友達
の身になってという年相応の自他の分化がされていない。より基底的な安心感
を含めて園でどのようにサポートしていくか、母親にどう対応していくかが課
題である。
・
母親も大変な思いをしている。店の手伝いもあるし、下に子供もいる。大変さ
の部分を理解しながら、N 子の幼稚園での様子を伝え、家での様子を探りながら、
N 子の理解をより深めたい。
- 17 -
喜田:母親が安心して先生とかかわっていく小さな積み重ねが大切である。先生と
のかかわりから安心できる関係性を母 親 自 身が体で経 験して、子供に接して
いった方がいいと思われる。
お泊り保育で泣き出したことのみでなく、普段と違う状態がみられる場合に
は 、「えっ、この子にこんな面があったのだ」という意外性を“スプリッティ
ング”としてとらえ、普段の面と統合していけるようにかかわるとよい。誰に
もよい面と悪い面があるが、自分の悪い面が出たときに対処できずに凝り固ま
ってしまうときに普段の様子とかなりかけ離れた状況が起きる。具体的な場面
を捉えてかかわっていくことが大切である。
・
中学生でもこういう子供はいる。すごくしっかりしていて優等生だったのに、
ちょっとしたきっかけで中学生になって突然パーンと出てくる。中学生だと影響
が大きく出てしまう。過ごした時間がそれだけ長いので修復が大変である。幼児
期に気づきがあって、N 子も母親もよいかかわりになればと思う。
・
一つ一つがきちんとできて、何でもできるけど、何かにつまずいたときに柔軟
に対応できない子供が増えてきているように思う。いい子で、頑張りすぎる子供
がいるが、中学生になるとどうなるのかが心配である。
・
第2子が生まれて、下の子供が無条件にかわいいと言っている。ありのままの
自分を母親に見てもらっていないのではないか 。「もっと私を見てよ」と訴えて
いる感じがする。
喜田:見立てがしっかりしていれば、要所要所でやってみて結果を見立てなおしてい
けばよい。ベストではなくベターで、母親の個性と先生の個性とすり合わせていく
ことが大切である。大事なのは見立てである。支援に大きく幅をもたせるという
アプローチはとてもよい。
事例6
生活リズムの乱れに因る諸問題から立ち直る兆しを見せているH児の事例
(小学生)
[協議の記録]
(1)外的理解
家庭状況・生育歴
・
転入してきたH児の生活リズムの乱れとは、昼夜逆転である。父親がいない家庭
環境の中、母親が昼夜とも働いており、夜、母親が帰ってくるまで起きて待って
いるので、午前中寝ている。なかなか学校へ来れず、10時、11時になって元
気になる状態である。
・
母親のいない時には家に帰りたがらず、駅前やコンビニをふらふらしているが、
悪い事をしているわけではない。
- 18 -
・
山村留学については、6月、具体的に場所も調べ、学校にも相談されたが、高
額のためやめている。
・
本人の希望で、2週間、児童相談所に入っていた。
・
ほとんど毎日ある夜尿症については、精神的なものか、病的なものか。母親は
「もう少ししたら、病院へ行くつもり」と言っている。宿泊学習には紙オムツを
持ってきていたが、使用せず。失敗したが、友達には気づかれなかった。
観察される行動
・
前の校区へは自転車で行くことができ、転校した後でも友達の所へ行っている。
・
宿泊学習は、前日も家庭訪問し、当日も迎えに行って参加できた。以前より友
達の中へ入り込むことができるようになった。
・
市リレー大会の朝練習には参加できなかったが、出場して良い記録を出した。
・
掃除のとき、壁を登ろうとするなど、危ないことをする。
・ 保健室では、花に水をやったり、先生の手伝いをしたりして過ごしている。
・
下学年の子には、宿題を教えたり 、「こんな風に姿勢よく書かれ」と声をかけ
たりなど、優しく接している。
・
駅前の地下道で、歌を歌っている人と楽しそうに会話をしていた。無理やりタ
クシーに乗せ、家へ帰したが、その後またすぐに家を出た。ただ、夏休み、家に
いとこが来ていた時は、深夜徘徊もなかった。
・
面会に行ったとき、児童相談所の先生との関係がとてもいいなと感じられた。
・
9月に登校したときは、久し振りで遠慮がちであり、友達の中に入らなかった。
とても静かで、授業中も45分黙ったままで座り、いるかいないかわからないほ
どで1日を過ごした。
・
3日目、担任が朝電話をした時、遅れると言った。本人から電話がかかるよう
になり、
「連絡をしないで休むのは、良くないのかな」と思い始めているようだ。
遅刻や欠席の連絡は、親からは入らない。
・
兄について、今は落ち着いているようだが、引っ越す前の中1の時は、ちょっ
と荒れていたのではないか 。(深夜徘徊など)今の中学校でバスケットボールを
頑張って、いい感じでいる。兄は、弟に対して、父親がいない分、手を上げてい
るのではないか。
・
転校してきたのは、引越しのためで、生活の乱れは、その前からだと予想される。母
親は、1回目の離婚の後から働いているのかどうかは分からない。前の学校でも
帰宅が遅かったが、こちらへ引っ越してすごく遅くなったのは、母親の勤め先ま
で歩いていけること、家に入りたくないことなどから、母親が帰るまで時間をつ
ぶしていることが多くなったからではないか。
・
食事は、準備されていない場合もあるのか、食べていないと言っていることも
ある。
喜田:そういう話は本人から聞くのか。
・
本人と話す。でも1学期は、落ち着いて話のできる子供ではなかった。話を聞
- 19 -
きだそうとしても、何か持って遊んだりして、面と向かってしゃべることがなかな
かできない。絶えず動いて何かしている。今は、割りとちゃんとして、少ししゃべっ
てくれる。大体の話は、祖母や母親からの話。家に帰りたくないということを一
番感じたのは、8月、私たちが見つけた時の事 。「何で見つけるがけ 」「見つけ
んにゃよかったがに」という感じのことを言った。
喜田:ふてくされた訳でもなく、ほっとした感じでもなく‥。
・
「家へ行ってきたよ」と言うと、「兄ちゃんおったけ」「兄ちゃん寝とったけ」
と聞く。「兄ちゃんが寝た頃に帰ろうと思った」「兄ちゃんに会いたくない」と、
怖いという気持ちがあるようだ。本人はなかなか言わないが、母親がそのように
言う。
喜田:都合の悪いときに逃げるのか、いつも逃げるのか。
・
多分しゃべりたくないのであろう。そういう子供が児童相談所へ行くと、しゃ
べる。児童相談所の方は、内に入って、聞き出すというより、日常の話から何気
なくやっておられる。私たちがやると、取調べのようになりがちである。児童相
談所へ行くと、落ち着いて、生き生きと話をしている。それが半分以上嘘だとい
うこともよくあるが、分かっていて、しっかりだまされている。先ずは聞くこと
から。質問して聞くのではなく、世間話から、それをすべて受け入れるところか
ら始める。そこからの小さな変化から拾っていく姿勢で接している。
・
転入時のクラスの雰囲気は、あたらず触らずで、何か事情があるんだろうなと
感じている様子が伺える。変に 、「何しとんがけ 」「どうしたがけ」などと聞か
ない。サッカーを一緒にしたりしているが、もう一歩踏み込んで 、「遊ぼうぜ」
とはならない。担任も 、
「入れてあげてね」など特に言わないでいた。毎日遅刻 、
無断欠席、夏休みもずっと来ない、それなのに、駅前の噴水のところで遊んでい
るのを見かけたりする。その後、H児が学校に来ても、誰も何も言わず、聞かず 、
こちらから事情を話すこともなくいる状態。
喜田:支援体制として、全職員との共通理解を図っているが、その中身はどうか。
カウンセリング指導員との情報交換の結果として、先生が見ている本人と違う
姿が見えてきているか。
・
カウンセリング指導員は、月に2・3回来校するが、本人がいない時がほとん
どで、担任が情報を伝えている状態。全職員との共通理解としては、見かけたら
声をかけてもらうこと、遅れてきても、認めてもらうこと。
喜田:愛着の薄い子供だというアセスメントがあってのお願いなのか。
・
本人は、周りから声をかけてもらうことが嬉しい様子。嬉しいが、わざと気を
引くような行動をとる。手渡したものをすぐに落としてみたり、危ないことをし
たりして、その時のやり取りを楽しんだりしている様子が伺える。
・
どこまで本当に心配してくれるのか試している。
・
他の先生に対しても試すような行動が多い。
喜田:大体、愛着に障害のある人は、人懐っこく、見知らぬ人とも親しくできる。
- 20 -
問題がありすぎるので、家族が悪い、何が悪いと言っても始まらない。少なく
とも教育の現場の範ちゅうでしていける事は何か。行動的、外的な面で、この
子供を教育していく点で、長期的目標、短期的目標をどのあたりに照準をおい
て定めているか。
・
とりあえず、本人との連絡を欠かさないこと。放課後、学校に呼んだり、家庭
訪問をしたりしてかかわりをもつ。本人もかかわりを求めている。長期的には、
難しいと思われるが、本人を温かく受け入れる環境づくりをしていきたい。
喜田:最初、生活リズムの乱れとか生活指導上の問題と言われたが、その実、先生
は内面的に入り込んで足りない愛情や、心理的栄養の補給といったことを想定
していると推察できる。
(2)内的理解・考察
・
スポーツ面で優れている点を生かしたきっかけづくりができそうである。
・
一時父親の所へ行っていた事がある。朝早く学校へ来ているので、本人に聞い
て分かった。6月頃、山村留学を考え、父親に金銭面での相談をしたところ、し
ばらく一緒に生活することになったようだ。また遅刻するようになったことで、
父親の長期出張により家に戻ったことが分かった。
・
母親は呼ぶと学校に来られる。都合が悪いときは、時間や日をずらせば来ら
れる。児童相談所へは、行こうとしている。周りからも勧められている状態で
ある。
喜田:母親は、この子供の何を一番心配しているのか。どんな風に、それに対し努
力をして、対処しようとしているのか。
・
「昼夜が逆転している」とよく言うが、あまり努力はしていない。
喜田:寝ている子供を起こせない生活なのか。一緒に寝ていれば起こせそうなもの。
・
祖母が起こすしかないと。祖母は、母親は仕事で疲れている、心配かけたくな
いと思っている 。子供にはちゃんとしてほしいが、仕事は家計のためで母親自身、
生活(仕事)は変えられない。
喜田:そういう生活がいつ頃から続いているのか大変気になるところ。小さいとき
からそうなのか、幼少のときは割と安定していて、ある時から、がらっとそう
なったのか。児童相談所で聞けても、意外と担任は聞きにくい。
・
父親とは、夜一緒にいて、夜遊びすることもなく、規則正しく早く寝るから、
朝も早く起きられる。
・
母親は、自分に悪影響がなければ良い。昼夜逆転で困ると言うのも、H児のた
めというよりは、自分のためという気がする。仕事優先で本当にH児のことを思
っているのか伝わってこない。H児にもそれが分かるのかもしれない。
・
今は、学校へ来たとき教室にいる。6月頃は、保健室に行ったりしていた。教
室には入って来るが、グループ活動(応援練習など)のときは抜けようとした。
・
遅刻、無断欠席をする子供がいて、5年生になり担任が替わり、遅刻をやめさ
せることを短期の目標にした。努力の甲斐あって、遅刻がなくなったが、学校に
- 21 -
来ても教室から飛び出すようになり、どうしたものかと悩んでいる。短期、長期
の目標のもち方が難しい。あと半年、この子供は小学校にいるわけだが、今、何
を短期の目標にもてばこの子供や家族のためになるのか悩んでいる。
喜田:遅刻をしないという短期目標がOKになった途端、飛び出すという行動に出
てしまった。よく行動療法でいわれる。行動療法は、外的にその行動を変えて
いこうという考え方であるが、行動療法で、夜尿を治そうとする。そこを叩く
と、別の問題が飛び出し、一つ改善すると別の問題が出て、もぐらたたきのよ
うになる。それは基底に、行動だけではない問題を抱えているからで、表の行
動だけを改善しようとしても、心が変わっていないと駄目ではないかという批
判がある。行動療法が駄目だということではなく、批判もあるということ。
短期目標と長期目標の立て方だが、見立ても目標も、常に微調整する必要が
あり、子供の様子を見ながら、見立て直し、目標の修正は必ず必要である。修
正するたびに子供理解が深まっていくので悪いことではない。良くなっている
きっかけは何か、何が良くて良くなったのかを的確に見て取ることができれば、
その努力を続けていこうという事になる。
・
児童相談所と祖母との間で、方向付けがあったようだ。祖母の話では、言いた
いことをぐっと我慢しているとの事。小さい子供の世話もしている祖母がH児に
「何で6年生にもなって!」など、ワーッと言っていたそうだが、がまんするこ
とでH児の居場所ができたようだ。以前の校区まで行き遅くに帰るようなことが
なくなり、家の周りで遊ぶようになったとの事。ただ、母親を待っていると、夜寝
るのが遅くなって朝起きられなくなるようだ。祖母の変化と、児童相談所でゆっく
り話を聞いて受け止めてもらった事がきっかけになっていると思われる。
喜田:キーワードは、居場所だと思われるが、祖母が意外と話が通じている。言っ
てすぐ変わっているので、大事なキーパーソン。祖母の良さをどう生かしてい
くかも一つの作戦。母親も自分が学校へ呼び出されないようにということもあ
るかもしれないが、その範囲では動いてくれる。今後、どんな風にしていった
らうまくいきそうな感じがするか。
・
小さい子供の面倒を良く見てくれるところ(縦割り活動など )、運動面が優れ
ているところを認め褒めていく。
喜田:本人の良いところを生かして居場所をつくっていくというところ。それと、
先生自身が、気づいているかどうかわからないが、この子供の居場所になって
いる。こんなに大変そうな子供なのに、先生はこの子供をわりと好きなのでは。
・
そう、何ていうか、かわいい。
喜田:それがすごく効いている。児童相談所のほうから祖母のほうに働きかけても
らったが、もっとうまくすると、児童相談所と学校が連携できないか。あまり
負担になってもいけないが、児童相談所と連携すれば、もっとうまく働いても
らえる部分が出てくると予想される。祖母が活用できるが、祖母の努力がどこ
まで続くかが問題。続かない可能性もある。どこでどう見極めて、続かなくな
- 22 -
ったと判断して働きかけていくかが1つのポイント。もう一つは、続いた場合
に、子供がさらに甘えるようになり、家で、試す。居場所を試すようになり、
そういう意味で、家で荒れてくることも予想される。祖母が安心できそうだ、
受け入れてくれそうだと思うと、甘え直しが出てくる可能性がある。荒れるこ
とを見越してそのタイミングをどう見ていくかということ、そしてどう支援し
ていくかもポイントになってくる。これは自他の分化という点で言えば、2、
3歳の再接近危機期の段階の子供をイメージして流れていくことが予想され
る。その後、初めて本当の安定感といったものを獲得していくと思われる。1
歳半~2歳、2歳半くらいまでの心理的発達のプロセスをイメージしながら、
後手に回るのではなく、少し先を予測したかかわり方をしていけるような気が
する。あくまで想像で、外れるかもしれない。一番大事なのは、このようなす
ごく難しい子供は、どこから手をつけていいかわからず、あれも悪いこれも悪
いと無力感に襲われがちで、おそらく、中学校の先生は、この子供が中学に来
たらもっと大変になるだろうと思っていることが推察される。
・
中学校へ来れば、原因は別だが出ている行動が似たような子供は3年生までに
おり、3年生だと問題行動も大きい。深夜徘徊から、有職少年や高校生、上級生
と結びつき集団化することも目に見える状況。H児は、学校に温かい居場所があ
り、学校に来ているので、救われている。居場所がなくなれば、学校に来なくな
る、家にも帰らない状態が心配である。
喜田:中学校では、遅刻のたびに迎えに行ってくれる先生はいるのか。
・
カウンセリング指導員が行ってくれる場合もあるし、担任が授業じゃなければ
行く場合もあり、ケースバイケース。
喜田:ラッキーであれば、最初続けてもらえるかもしれないが、そうではない可能
性もあるので本人に、少しずつ口頭で、「今のうちだけだよ。自分で自分の事
をしていかないといけないよ」と伝えるかかわり方、先を見越したかかわり方
が必要になってくると思われる。
・
○○へは、父親と行っている。母親の話によると 、「お母さんとお父さん、も
う一回一緒になれんが」と言っていたとの事。
喜田:こういう難しい子供は、無力感になりがちだが、最終的に、先生の元から巣
立って行った時に、何かあった時に、帰ってこられるような関係づくりが先生
のかかわりの中で一番大事な所と思われる。
2
・
事例検討後の所感
事例5から、担任として N 子の心をしっかり受け止め、自分らしく育っていって
ほしいという願いをもって接していることを感じた。幼児の内面を理解していくこと
は言葉では分かっても難しい。N 子に日々温かい心を通わせていくような意識をもっ
てかかわっていくと、保護者にも N 子のために頑張っていることが伝わっていく。
・
毎日の保育の中で 、「あれっ、どうして」と思う場面はどの子にも多々あるが、
- 23 -
「楽しいね、うれしいね 」「 N ちゃんってすごいね」といった明るいエピソードも今
まであっただろうし、これからもあると思われるので前向きの気持ちをもっていくこ
とが大切なのではないか。
・
幼児期に家族からも担任からも愛情を感じて育っていくことが、つまりかわいがら
れていると感じて育つことが大切なのではないだろうか。どの子供も大事な子供であ
り、母と子の心の歯車がギクシャクしている場合、その子供の心の変化に気づき、見
守ったり、気持ちを代弁したりすることも大切である。担任が一人で問題を抱えこま
ず、常に幼稚園や保育所全体で共通理解を図りながら、協力し合うことが必要である。
・
保育所・幼稚園から中学校まで、よく似たケースはどれもなく、どの事例もどこか
に深く重い問題があり、子供の心が傷つき蝕まれているのではと感じる。心と体が普
通に育っていくことの大切さを感じる。
・
どの事例も教師としての対応に常に課題が残っていくので、学校間の連携の必要性
を感じる。特に、前回の中学校の事例に強い衝撃を感じながら、今回、幼稚園の事例
を自分なりに受け止め考えた。家庭環境も様々なケースがあるが、小学校の事例も深
刻で対応が難しい事例であった。小・中学校で深刻な状況にならない前に、何か踏み
とどまることができる心の支えとなるような、内面的な経験は幼児期にないのか。
Ⅳ
第4回研修会
平成16年12月
14:00
研修内容
~
1日(水 )
17:00
幼児・児童・生徒とのかかわり方に関しての事例研究3
児童生徒における自己形成と対人関係の問題及びその心理教育的支援
-自 他 の 分 化 の 観 点 か ら-
指導助言者
事例7
富山大学人文学部助教授
喜 田
裕 子
先 生
初めての経験や苦手なことになかなか立ち向かうことができないM子の
事例
(中学生)
[協議の記録]
(1)外的理解
家族状況
・
父親は会社員。朝出勤時刻が早く、帰宅は遅い。M子をかわいがっているが、
家庭での親子の会話は少ない。
・
母親はパート勤め。帰りは早い。優しそうなおとなしい感じである。言葉が少
なく面談中も「はあ」「そうですか」といった相づちが多い。
・
兄は市内の高校に通う3年生である。中学校時代には、気が弱いためにいじめ
- 24 -
られることがあった。
観察される行動
・
小学校高学年の時には、学級崩壊に近い状態であった。M子は、男子と女子の
数名から言葉によるいじめを受けていた。小学校からの抄本には 、「場面緘黙」
とあった。成績は、図画工作だけが2で、他は全部1であった。家庭においては 、
普通に会話をしていた。
・
苦手な場面や嫌なこと、困ったことがあると、激しいジェスチャーだが声を出
さないで泣く。持久走や笛の実技テストなどの時よく泣いた 。「やらなくていい
よ」と言われたとたんに泣きやんだり、給食時には大変元気があっておかわりを
したりするなどの行動から学級内では不満の声も出ていた。
・
「ありがとう」や「ごめん」という言葉を口にすることができない。手伝って
もらうことが当たり前という感じになっているため、今まで面倒を見てくれてい
た女子生徒もだんだん離れていった。
・
○○部に所属している。部内の関係は良好で、優しい言葉で後輩を指導する場
面が見られる。
(2)内的理解
・
小学校時代から1年生の2学期の終盤まで、母親は父親に対して本人の学校に
おける様子を伝えていなかった。2学期の12月に、担任が両親と面談して学校
での様子を初めて父親に伝えることができた。母親は、父親が怖いようで 、「父
親に秘密にしてほしい」と言い続けていた。
・
母親は、M子に対して「相談室には行かないように」と言うなど、M子の学校
生活での困難さや苦しさをきちんと受け止めていないようだった。そのため、M
子は、年度当初に相談室を利用した時も 、「相談室には行っていない。教室でみ
んなと一緒に授業を受けたよ」と母親に嘘をついた。
・
家では、M子は非常に元気で、電話などの応対にもはきはき答えている。M子
が他の生徒と行動を共にできないことは、小学校の担任から母親に対してしっか
り伝わっていなかったようだ。
・
父親は、M子の学校での行動を知り、不機嫌な態度を示した。家における元気
なM子の様子を見ているので、学校での様子が想像できないらしく、事実を受け
入れられないようであった。
・
母親は特殊学級への入級について、本人が希望するなら考えたいと言っていた
が、父親はなんとか普通学級でこのまま生活させたいという意向が強かった。自
分の子供が特殊学級にいることを近所の人に知られたくないようだ。
・
M子は、泣くと嫌なことや苦手なことをしなくてもいいことを体験的に学習し
てしまったようだった。
(3)考察(自他の分化の観点から)
・
母親は非常に言葉の少ない人で、会話が成り立たない。M子は話すことだけで
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なく、書くことも苦手で、生活ノートに毎日の感想を書くことがほとんどできな
かった。M子は学校の話は家でほとんどせず、聞かれたら短く答える程度である。
父親との家庭での会話も少なく、語彙が少ない理由はこのあたりにもあるのかも
しれない。
・
小学校時代の6年間をほとんど母親、兄、M子の3人だけの世界で行動して
いたため、人間関係を新たにつくったり、トラブルを解決する方法を体験的に学
んだりする機会がなかったようである。また、いつも気心の知れた3人でいたた
め、自分の気持ちや考えを言葉にして相手に伝えるという力も十分に育たなかっ
たものと思われる。
・
発達障害や知的障害については、医療機関との連携がないので不明である。
・
自転車通学をしており自転車には乗れる。朝早く登校する。午後9時に寝てし
まうので、朝は早起きである。援助内容について、保護者との連携やM子の心を
理解することに苦労している。
・
社会に学ぶ『14歳の挑戦』には参加し、仲良しの生徒と一緒に活動すること
ができた。与えられた作業について一生懸命取り組んでいた。
・
学校であった嫌なことを親に話していない。親からも「相談室に行かないよう」
に言われている。顔見知りでないカウンセリング指導員とのかかわりをあまり快
く思っていないようである。
喜田:M子も情緒的未熟さがあるかもしれない。しかし、担任のかかわりがあった
ことで泣く頻度が減ったように思える。幼い子供が泣いた時のように丁寧にか
かわったことがよかったようだ。乳児期の養育環境が安心感のないものだった
ために今の行動に影響しているかもしれない。気質的な面による行動の可能性
もある。入学式で「腹を立てた」ことについて、中学生なら「悲しくて泣く」
段階だが、M子は未発達の状態であり、自分が被害者のように物事を感じとっ
ているようだ。自他の分化が進んでいない行動である。他の生徒の気持ちを汲
み取れない未熟さがある。受動攻撃性(嫌とは言わなくて受け入れているよう
に装うが行動しない傾向)がある。人の要求に対する自分の思いがない。人が
言えばやらなくてはならないと思ってしまう。
「高校2年男子の事例」 · 週2回アルバイトすることになり、母親は「水曜
日と金曜日が良い」と言った。セラピストに「あなたはどうしたいの」と質問
されて、彼は答えることができなかった。彼は、自分の感情や考えがない空間
で行動していたことに気づ い た。
M子は、学習要素(泣けばやらなくてすむと思ってしまう学習)は強いよう
だ。失敗を恐れたり、失敗してしまったりした時に泣いている。
担任のかかわり方として良かったことは、泣くと社会的に良くないとM子は
分かっているので大声を出さない。だから将来について担任が語りかけたりし
て、あなたはどうしたいのかを問いかけてM子の認知面にはたらきかけた。ま
た、M子が泣かなくてすむように、あるいはM子がうまくいった経験を学習で
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きるように学校生活を進めさせている。
「バンデューラの社会的学習理論」
行動を制御する3つの過程 ①刺激制御、②強化制御、③認知的制御がかかわ
りながらはたらいている。人はいろんな行動パターンをもっているが、3種類の
制御によって行動が決定される。認知的に解釈して制御することがもっとも大切。
泣くことに対して「あなたはどうしたいの」と問いかけてやるのもよいかも
しれない。「泣かないでどんなやり方があったと思う」と投げかけても効果が
あるかもしれない。認知的に成長させ、M子に目標を設定させて行動療法的に
進歩させると良い。
・
知的に遅れがみられる子供について、保護者の見方と幼稚園での様子のギャッ
プが大きい場合に、どのように対応すればよいか。
喜田:電話や面談でありのまま伝えることがどのようなデメリットがあるかを考え
てから伝える。母親が子供を叩いたりして指導するような家庭だと、全てを伝
えるのはマイナスである。
※
来年度の研究について(案)
○
ね
・
ら
い
事例研究等を通して、自他の分化の発達段階に即した教育的(個別)介入の
在り方を学校現場に発信していくことを研究のねらいとする。
○
内
・
容
自他の未分化に起因する諸問題の検討
幼・保・小・中のそれぞれの段階での諸問題を、自他の分化という観点から
検討する。
・
事 例 研 究
事例資料の定式化
よりよい介入計画を立てるための内容・項目を検討する。
適切なアセスメントの方法
自他の分化という観点を取り入れ、アセスメントを行う。
・
教 育 的 介 入 の 方 法
介入案の作成
行動面、認知面、感情面、欲求面からアプローチを行い、個々の児童生徒を深
く理解し、どのようにはたらきかけていくかという介入案を作成する。
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