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Page 1 of 11 タイヤのセッティングで走りを変える! 2009/11/16 http

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タイヤのセッティングで走りを変える!
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前後の合計でおよそ12㎡(編集部 実測値)。一般的なロードバイク用 タイヤの接地面積である。たったの12㎡。 そんな指2本分ほどの接地面を介してボク
らは、限りある人間のパワーのすべてをアスファルトに伝え、力強く加速し、コーナー手前で激しく減速し、車体を深くバンクさせてコーナーをえぐり、ときに
はダウンヒルを100㎞/h近い速度で駆け下りたりもするのだ。「12㎡」 にわれわれは、文字どおり「命を預けている」のである。
当たり前のことだが、ロードバイ クの運動はつねにタイヤを介して行なわれている。タイヤがダメなら、デュラエースもカーボンホイールも50万円のフレー
ムもなんの意味もなさない。そのフレームやコンポーネ ントの高性能化も、タイヤの進化と 無関係ではないだろう。動力伝達率 を向上させた近年のフレー
ムは、タ イヤにより大きなトラクションを要求する。フレームのヘッド剛性が上 がったことでコーナリングスピード は上昇し、結果としてタイヤにはさらなるグ
リップ力が求められる。飛躍的な性能アップを果たしたブレーキキャリパーが発生させるストッピ ングパワーは、最終的にはタイヤにしわ寄せがいくのであ
る。
要するにタイヤは、「自転車の運動性能を司る最重要ファクター」であり、その「重要度」はますます高まっているのだ。
しかし、「自転車のタイヤが担っている役割とは?」という質問に何人が正確に答えることができるだろうか。タイヤに課せられたおもな義務は、ライダーと
自転車の荷重を支えながら、「走る・曲がる・止まる」 =「駆動力を路面に伝える・方向を 転換/維持する・制動力を路面に伝 える」ことである。さらにロー
ドバイクのような乗り物のタイヤにとっては、軽さや真円度、快適性(振動吸収性)、耐久性(耐磨耗性)、耐パンク性、グリップが大きいこと、転がり抵抗が
小さいこと、ロードバイ クに特有の高圧に耐えること、それ に限界時のコントロール性(いきな り滑りださない)なども重要な要素 となってくる。そこに扱い
やすさ(携行性や着脱のしやすさ)や安全性(いきなり外れたりしない)も含まれ、 これらをひっくるめて総合的な「タイヤ性能」が形成されているのである。
このように、非常に多くの、ときには相反する要求を絶妙にバランスさせている繊細なパーツが、現在 のロードバイク用タイヤなのだ。
イギリスの獣医師、ジョン・ボイ ド・ダンロップが自転車用空気入り ゴムタイヤを発明・実用化してから 120年余り。車体と路面との唯一の接点となる、自
転車を構成するもののなかで最も重要なパーツの1つであるタイヤは、それゆえに大幅な進化を遂げてきた。
しかし、前述の質問に対して正確に即答できないように、ボクらはタイヤが担う働きの大きさに見合うほどの知識を持てていないのではないか?知識だけ
ではなく、高性能化するタイヤ性能の100%を引き出す術を正しく理解できていないのではないか?そんなことで「自転車が好きです」と胸を張って言う資
格はあるのだろうか?
そんな思いから生まれた今特集は、”ワンランク上のタイヤ活用術”を 習得するべく、「タイヤ開発のプロ」 と「走りのプロ」の双方に、「実験データ」と「フィ
ーリング」という 両面から取材し、実践的なアプロー チを試みた大特集だ。
現在ロードバイクにおいて主流のクリンチャータイヤの魅力は優れた トータルバランスだ。以前はチューブラーに振動吸収性で及ばないとも言われ
たが、その評価も変わりつつある。とくに最新モデルは低い空気圧でも転がり抵抗を増やさないので、その結果セッティング領域も広がり、当然なが
ら乗り心地が向上している。
また耐パンク性も、重量増を抑えつつ強化したモデルが増えている。こうしてもともとの優れた整備性と高いグリップ力により、トータルバランスに優
れた存在になっている。
一方、ロードタイヤの伝統的な存 在であるチューブラーは、そのものの軽さはもちろん、ホイールを含め、 総合的に軽量化できるのが大きな魅力。と
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くにここ数年、レースではカーボンリムの使用が増えているだけに、レーシング機材としての側面がより色濃くなった。また、弱点と言われてきた整備
性の低さはテープ式の接着剤の登場が解決し、それを使用すればタイヤ交換は最も簡単だ。
ロードタイヤで最も新しい存在が チューブレス。リム
にタイヤビードを引っかける構造はクリンチャーと 同じ
で、タイヤの気密性を保持する インナーシールをケー
シングと一体化させてチューブを省いた構造は、いわ
ばクリンチャーの発展型。走行 時のエネルギーロスが
少ないことから走行抵抗が小さく振動吸収性に優 れ、
そのうえパンクにおける空気の漏れが緩やかなのが
大きな特徴だ。
現状は製造メーカーが2社しかなく選択肢が少ない
こと、そして交換作業にコツを要すことなどマイナス面
もあるが、対応ホイールメーカー も徐々に増えている
ので、クリンチ ャーとともにロードタイヤの2大定番とな
る可能性はあるだろう。
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まず、下の2枚の写真を見てほしい。右が従来のタイヤ、左は最新
の構造を持つタイヤだ。
その差は一目りょう然。右のタイヤは、ケーシング(肌色の部分)に
トレッド(黒いゴムの部分)を乗せ ただけという単純な作り。サイドウ
ォールがケーシングだけで構成されているので、リムにタイヤをはめ
た状態で上から触ってみるとフニャフニャである。タイヤ自体の剛性
が低く、サイドカット(タイヤの側面が裂けてしまうこと)にも弱い。ビー
ドもスチール製で重い。
対して、左の最新モデルの構造は複雑だ。ブレーカー(耐パンク性
能を向上させる目的でケーシングの中に織り込まれている茶色い繊
維)がサイドまで回り込み、ケーシングの構成要素のひとつとなって
いる。これによって、貫通パンクだけでなく サイドカットに対する耐パ
ンク性能が向上するとともに、タイヤ全体の剛性もアップしている。
これが最近のクリンチャータイヤの最適空気圧が低くなってきた要
因だ。圧が低くてもタイヤ自体の剛性が高いので走行性能を維持で
きる。さらにトレッドも、素材(コンパウンド)技術だけでなく断面形状
技術によってもグリップ力を発揮させる設計へと進化している。中心
部分が尖った形状は、直進時からコーナ リングまですべてのシーン
で高いグ リップ力を発揮させるような意図に よるものである。
このように、タイヤの各部位をクローズアップしてみれば、現在の
ロードタイヤは構造面においても素材面においても、さまざまな要素
がお互いに絡み合って総合的な”タイヤ性能”を成しているということ
がわかるだろう。タイヤは非常に複雑なパーツへと進化しているの
だ。
トレッドに使用されるゴムの配合設計のこと。グリップや耐久性、ウェット
性能などの向上をねらって、シリカやカーボンブラック等を配合させてい
ることが多く、各社のノウハウが現われる部分。シリカを配合すれば低
温時やウェットコンディションでのグリップ向上に効果的だと言われてい
るが、コンパウンドにうまく結合させないと意味がない。一概に"シリカコ
ンパウンド"といってもカーボンフレームと同じくその性能はさまざまで、
パナレーサーではシリカをうまく使って低温から高温まで広い温度範囲
で安定したグリップを発揮するように設計しているという。カーボンブラッ
クとは一般的なゴムの補強材。だいたいどのタイヤにも入っており、摩
耗や切れに対して強くする効果がある。なお、タイヤが黒いのはカーボ
ンブラックの色である。
ケーシングとはタイヤの骨組みとなる繊維層。耐パ
ンク性能や乗り心地を大きく左右する重要な部分
だ。空気を入れている器と言えばわかりやすいだろ
う。ケーシングの素材にはナイロン、コットン(綿)、
セタ(絹)などがあるが、現在の主流はナイロン。ケ
ーシングの糸密度を表わす数値としてTPI(スレッド
パーインチ=1インチあたりの糸数)が挙げられ、こ
の数字が大きいとしなやかさに優れた高性能のタ
イヤだと言われてきた。確かに、ケーシングにトレッ
ドを乗せただけの単純なつくりではTPIがしなやかさ
を表わすのだが、現在はタイヤ構造が複雑になっ
ており、TPI値だけでは性能を判断できない。パナレ
ーサーでは目的に応じて数種類を使い分ける。
タイヤの両端にあるビードは、リムと
タイヤを固定する役割を持つ。素材に
はアラミド繊維やスチールなどがある
が、ロードバイクのタイヤでは重量を
軽減するためにアラミド繊維を使用し
ているものが主流。スチールはコスト
パフォーマンスに優れるが、重く、折り
畳めないというデメリットがある。
トレッドとはタイヤと路面が接する部分のことを言い、グリッ
プ力を担うなどタイヤのキモとなる部分である。クルマの場
合はトレッドとサイドウォールの役割が完全に分かれるが、
自転車タイヤの場合は傾きがあるので役割を完全に分け
ることはできず、ケーシングと相まって性能を発揮する。ト
レッドの厚みもモデルによって差がある。それはタイヤの設
計思想による違いであり、ぶ厚ければ耐パンク性や耐摩耗
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ガラス片などの鋭利なものからインナーチュー
ブを守り、パンクを防ぐ目的で配されるタイヤ
の補強材。耐パンクベルトともいう。空気入りタ
イヤはその構造上、パンクというリスクから完
全に逃れることはできず、各メーカーは耐パン
ク性の向上にしのぎを削っている。しかし、現
在のテクノロジーではブレーカーにも剛性・グリ
ップなどの複合的な要素が絡んでおり、ブレー
カーがタイヤ全体の剛性・ライディングフィール
にも影響している。よって耐パンクだけが目的
とはなっていないこともあり、耐パンクベルトと
いう言い方は古いものとなりつつあるという。こ
こも各メーカーの特徴が表われる部分だ。
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性がよくなるが、当然重くなる。
トレッドの表面に施される模様のことで、グリップ力に影響
する。トレッドパターンの代表的な形状にはスリック(パター
ンなし)、シボ加工、ライン、杉目、ヤスリ目などがあり、使
用される状況に応じたデザインが施される。各メーカーの
個性が表われる部分。なお、写真のバリアントEVO3PTの
トレッドパターンはスリックではなく、あえて細かな凹凸を設
けることで新品の段階からナラシの終わった状態の表面を
再現しているのだという。
トレッドの断面形状もタイヤ性能を左右するファクターであ
る。各タイヤメーカーは、素材(コンパウンド)技術だけでな
く断面形状技術によってもグリップ力を発揮させようと努力
しており、ここにもメーカーの個性が出ている。たとえば、写
真①のパナレーサー・バリアントEVO3PTは中心がとがっ
た三角形断面をしている。これは直進時には抵抗を少なく
し、コーナリング時には最大のグリップを発揮することを意
図したもの。これ以上とがらせるとバランスが悪くなるのだ
という。対して、写真②のような丸型断面にもメリットがあ
り、直進安定性に優れて安定感がある。よって気軽な走行
に適しており、パナレーサーもツアラーなどツーリング向け
タイヤで採用している。
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ロードバイクタイヤのサイズといえば、ほとんどの人が無条件に選ん でいるであろう"23 C"が主
流。
しかし、その選択は絶対なのか? パナレーサーの宮路さんはこう語る。 「ロングライドやグランフ
ォンドの ような楽しみ方をするライダーが世 界的に増えたこともあり、ここ1~2年でトップクラスの
タイヤにも 25Cが設定されることが多くなりました。要するに、25 Cというサイ ズにレーシングスペ
ックが導入されるようになったわけです」
23 Cと25 Cで違うのはもちろん太さ、要するに空気量である。空気量 の差は走りにどんな影響
を与えるのだろうか。意外に思われるかもしれないが、空気圧や重量などの諸条件 が同じであれ
ば、理論的には、「タ イヤは太くなればなるほど転がり抵 抗は減る」と言われている。これは 同じ
荷重がかかった場合に、太いタイヤよりも細いタイヤのほうが大きく変形するためである。しかし、
こ れはあくまで巡航時を前提とした理 論上の話。ロードバイクの運動は巡 航だけではなく、タイ
ヤの性能を決 定づけるのも転がり抵抗だけではな い。運動には加減速が含まれるし、 太いタイ
ヤは重量増を招き、高速域 では空気抵抗が増大してしまう。
では、空気量の変化は実際の走り にどのような変化をもたらすのだろ うか。ここでは宇都宮ブリ
ッツェン の廣瀬選手に23 Cと25 Cを使っても らい、感覚として性能を判断しても らった。走りが軽
いのは23 Cと25 C、 どちらなのか。そして、23 Cという タイヤは、あなたの使い方に本当に 適して
いるだろうか? ちょっと太 めの25 Cが劇的な性能向上を見せ ている今、愛車のタイヤサイズを
見 直すいい機会かもしれない
※)赤字の部分がロングライドでとくに必要な【ストレ
スフリー=安心感】につながる部分空気圧は800kPa
(8bar)にそれぞれ設定しテストした
※)5段階評価
23Cのほうが走りは軽いですね。こぎ出しも軽快
で、2、3踏みですぐわかるほど。巡航性や下り
で伸びる感覚も軽い。対して、グリップ力と快適
性は25Cに分があります。走りは若干重くなるも
のの、思っていたほどではないのが意外。ハン
ドリングや剛性感もいいレベルですが、ダンシン
グではハンドルを左右に振ったときの印象がま
ったく違います。25Cでは振り幅の大きなところ
でタイヤがつぶれて、戻るタイミングが遅れる感
じがします。でも今日初めてバリアントの25Cを
使ったんですが、あまりにいいのでビックリしま
した。練習では25Cを使いたくなったくらい。でも
慣れてしまったら、レースで23Cに戻したときに
危険かもしれません。
パナレーサーが誇るオールラウンドレーシングタイヤ。圧倒的なグリップ力と低
い転がり抵抗を両立させたZSGコンパウンドに加え、ケーシング全体をカバーす
るPT(ProtectionTech-nology)シールド構造で耐パンク性と走行性能を高次元
でバランスさせた、プロも絶対の信頼を寄せるプロスペックモデルだ。
参考価格:5660円
タイヤが太くなると接地面積は大きくなると思っている
人が多いかもしれないが、じつはタイヤの太さが変化し
ても同じ空気圧ならば巡航時の接地面積はあまり変わ
らない。ただし、空気圧を大きく変化させたときや大きな
トルクがかかったときなどの変化は大きい。
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廣瀬選手の評価(※表1)を見ると、振動吸収性とグリップ
の2点において25Cが23Cを上回っています。これはエアボ
リュームが増えたことによる性能変化でしょう。25Cの"巡
航時の転がり抵抗の少なさ"の低下が23Cに比べて0.5ポ
イントに収まっているのは注目です。重量増が大きく影響
する"加速時の反応のよさ"は1ポイント低下しています
ね。これからもわかるように、アタックなどの瞬間の反応が
求められるレースやタイムをねらうヒルクライムでは23C
を、安心感(グリップ)と体への負担の少なさ(振動吸収
性)、巡航性が重視されるロングライドには25Cが適してい
るといえます。ロングライドでは峠でスプリントのようなもが
●23Cと25Cの性格の違いを、廣瀬選手の実 きはしないですからね。また、ツーリング的な視点で見る
走テストをもとに、わかりやすく表にしてもらっ と、25Cには耐パンク性の向上という大きなメリットが加わ
た。グリップ、快適性などの安心感を重視する ります。レースとロングライドではスピード域や楽しみ方が
なら25C、走りの軽さなど勝つためのバランス 違うので、それぞれの楽しみ方に応じてどのような性能を
を重視するなら23Cという選択が適しているこ 求めるかを考えて選択すべきです。
とがわかる
走りの軽さと瞬間の反応が必要とされるレースでは、やはり
23Cが有利だ。タイヤ幅が狭い23Cは剛性感も向上するため加
速時のタイヤ変形量が少ない。よってダンシング時にダイレク
ト感が失われず、ヒルクライムでも有利。路面のいい日本のロ
ードレースならば、23Cがスタンダートチョイスだろう。
25Cは23Cに比べ、圧倒的な安心感をもたらしてくれる。ロング
ライドに必要とされる安心感(=グリップ、快適性、耐パンク性)
は25Cの圧勝だ。さらに、総合的な走行性能の向上により、今
や25Cのデメリットは考えられているほど多くない。シリアスに
攻める走り方をしない限り、25Cで決まり!かも。
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タイヤ幅の差による走りの変化を検証した次は、空気圧について考えてみ
たい。ロードバイクにとってタイヤの空気圧とは、F1マシンにおけるサスペン
ションセッティングにあたる重要なファクターだ。ライダーのなかには、空気
圧は高ければ高いほど走りが軽くなってイイと思っている人もいるだろうが、
実際の路面は鉄板のような平面ばかりではない。凹凸、ひび割れ、うねりも
あれば荒れている箇所もあり、雨のときは当然ウエットになり、砂利が浮い
ていることもある。
キレイな路面では最高だけどタイトコーナーでは滑ってしまう。ヒルクライ
ムでの走りは軽いけどダウンヒルでは恐怖を感じる。そんな空気圧はとても
じゃないが正しいセッティングとはいえない。さまざまなフィールドを走るロー
ドバイクにとって、大切なのはバランスなのだ。
ならば、走りの軽さ、グリップ力、快適性などの要素がうまくバランスする
スイートスポットはどこにあるのか? そもそも、エアをカンカンに入れれば
入れるほど走りは軽くなる、は本当なのか?
それらの疑問を解消させるため、ここではパナレーサーの試験機にて、6
00・800・1000kPaの空気圧においてタイヤの推進力、転がり抵抗、グリ
ップ力、硬さがどのように変化するのかを検証した。
また、だれよりも空気圧にシビアなプロライダー、宇都宮ブリッツェンの廣
瀬選手と長沼選手にも空気圧を段階的に変えて試乗してもらい、空気圧が
変わることで走行感がどのように変化するかを試してもらった。
空気圧を変えることで、走りにどのような影響があるのか。プロのフィーリ
ングテストと実験結果の双方から検証してみたい。
下の4つの表は、600、800、1000のそれぞれの空気圧
においてのタイヤの各性能の変化を検証した実験デー
タです。いずれも800kPaの性能を100とし、それぞれの
空気圧でどのように変化するかをパーセンテージで示し
たものです。空気圧と走りの変化の関係性がよくわかる
のではないでしょうか。ただ実走行では、長沼選手のよ
うに空気圧が高すぎるとタイヤが跳ねてしまって逆に進
まないということもあります。ですから、このデータが絶
対ではありません。あくまで参考値と考えてください。
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2009/11/16
タイヤのセッティングで走りを変える!
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10気圧まで入れるとタイヤってカチンコ
チンになるんですね。これは……走りだ
す前から怖いな(笑)。走りそのものは
軽いですよ。でもキレイな路面の直線
だけ。凹凸ではいとも簡単に跳ねてし
まうし、コーナーではグリップ力にかな
り不安を感じます。慎重にリーンインで
曲がっても怖いくらい。確かに走りは軽
いですが、下りやコーナーを考えると8
気圧でも厳しいものがありますね。さま
ざまなコンディションが混在するロード
レースではまったく使えません。6気圧
で走ってみると細かな凹凸をまったく感
じず、快適は快適です。しかしいいのは
振動吸収性だけ。ハンドルを振るとタイ
ヤがクニャリとつぶれる感じがするの
で、ダンシングでは欠点がより強調され
る感じがします。
非常におもしろい実験データだと思います。ロード
タイヤのセッティングはバランスが大事。1つの項
目が高くても、安心感が損なわれるのでは正しい
セッティングとはいえません。とくに興味深いのは、
長沼選手の評価の中で、平坦路での"巡航時の
転がり抵抗の少なさ"と上りでの"シッティングで
の軽快感"が空気圧を上げるほどよくなっている
のに対し、平坦路での"加速時の反応のよさ"と
上りでの"ダンシングでの軽快感"が1000kPaで
悪くなっていることです。これは出力が少なく、荷重
が安定してタイヤに伝わるシッティングのときはよ
いが、出力が高く、タイヤへの荷重が安定しないダ
ンシングやスプリントのときには、路面をうまく捉え
られずに力が逃げているということでしょう。廣瀬選
手よりも長沼選手のほうがハッキリとこの傾向が表
われたのは、長沼選手の体重のほうが軽いことが
大きな要因だと推測されます。空気圧は高すぎて
も低すぎてもダメで、さらに体重や好みによって細
かく調整するべき、ということがこのデータから見え
てきますね。
http://www.cyclesports.jp/magazine/2009/0910/index.html
10気圧は思ったほど悪くないのが意
外でした。やはり走行抵抗自体は軽く
なります。しかしその恩恵にあずかれ
るシーンはかなり限定されるでしょう。
路面がキレイな下りの直線では速い
ですが、コーナーでは怖いし、グリッ
プは明らかに落ちます。タイヤ剛性が
上がるので一瞬の反応はよくなりま
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すが、ボクの体重なら入りすぎ。ダン
シングでは、自分のライディングスタ
イルでは後輪が跳ねてしまいました。
キレイな路面のTTなどではいいのか
もしれませんが。6気圧に利点は感じ
ません。極端に抵抗が増える感じは
ないものの走りが重くなります。もっと
体重の軽い女子やキッズならいいの
かも。6、8、10のなかでは8気圧がい
ちばんバランスが取れています。
長沼「ボクは7気圧をベースにしています。グリップとバランスを重視した
長沼
結果この数字になりました。コースや天候によって変えますが、調整幅は
6・8~7・2の間。自分の基準値より大きくずらすことはありません。ただ、
ヒルクライムオンリーだと8気圧まで上げます。速度域が低いのでグリップ
もそれほど必要なく、パンクの心配も少ないので」
廣瀬「基準値は7・5気圧です。練習では0・3から0・5気圧程度の範囲
で、ウェットコンディションでは7気圧くらいまで下げますね。熊野の滑るス
テージでは6・7まで下げたこともありました。ヒルクライムのみの場合には
上げます。つがいけでは9気圧まで上げましたが、これは特殊なケース。
コースを何回も試走し、路面のコンディションや滑らないことを確認しまし
た」
これらのコメントからもわかるように、プロ選手たちはわれわれアマチュ
アとは比べものにならないほど空気圧にシビアだ。宇都宮ブリッツェンで
は、レース前夜に選手が自分の好みの空気圧をメカニックに伝えるのだと
いう。コースの状況を考慮し、下りが苦手な選手は落とし気味にし、上りで
勝負をかける選手は上げ気味に設定する。また、機材によっても空気圧
は影響を受けたりする。硬いフレームに乗っているチームの選手は下げ気
味にすることが多いとも。
このように、プロ選手は路面状況やレースの種類、練習と本番という状
況の違いや天候などによって空気圧を細かく変更している。
要するに、タイヤの性能を最大限に発揮させるためには乗る人や状況
に応じた空気圧のセッティングが重要なのだ。プロ選手のやり方と宮路さ
んの知識を参考に、”自分だけの最適空気圧”を探ってもらいたい。
パナレーサー・
パナレーサー・
デュアルヘッドデジタルゲージ
●仏式と米式の両方に対応するデジタルゲージ。表示単
位を「PSI」、「bar」、「kgf/c㎡」、「kPa」の4タイプに切り替え
路面状況によっても空気圧は変える。凹
凸や荒れが激しければ下げることが多く、
雨天時やウェットな路面でもグリップ力を
確保するため下げる。コースプロフィール
によっても変わり、ヒルクライムオンリーで
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同じ7気圧のタイヤに、50㎏のライダーが
乗るのと90㎏のライダーが乗るのでは、意
味が変わってくる。体重(=タイヤにかか
る荷重)によって最適空気圧は大きく変化
するのだ。当然だが、体重の軽い選手は
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タイヤのセッティングで走りを変える!
ることができる。夜間の作業時にありがたい手元を照らす
LEDライト付き。参考価格:3240円。問パナソニック ポリテ
クノロジー TEL:06・6354・7810
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は上げ、タイトコーナーが連続する場合は 最適空気圧が低くなり、重い選手は高くな
下げ気味にする。
る傾向にある。
パナレーサー・
パナレーサー・タイヤゲージ
●使い勝手に優れる圧力ゲージの定番モデル。仏式専用
と米式専用の2タイプが用意されている。バルブに差し込
んだまま圧力の微調整が可能な空気圧調整機能付き。参
考価格:2990円。問パナソニック ポリテクノロジー
ジーヨ・
ジーヨ・GGGG-06
デュアルフェイスエアーゲージ
●両面にダイヤルがあり、高圧域と低圧域のそれぞれの
状況に応じた正確な計測が可能なエアゲージ。しかも計測
後に針がロックされるので読み取りやすい。これ1つで仏
式・米式に対応する。価格:1680円。問マルイ TEL:078・
451・2742
昔からの基本的なつくりのクリ
ンチャータイヤは、低圧使用で
のヨレやパンクが心配で
800kPa程度が基準値でした。
しかし、現在のトップカテゴリー
のタイヤは構造が進化したお
かげで、750kPaくらいが基準
値になっています。この表でも
それがよく表われていますね。
また、雨天時や路面コンディションの悪いときはほぼ全
選手が空気圧を落としています。とくに雨天時の下げ幅
が大きいのが注目ですね。対してヒルクライムオンリーで
はやはりほぼ全選手が空気圧を高めに設定していま
す。その設定ですが、みんな20 ~ 50kPa刻みで調整し
ていることが、空気圧の重要
性とデリケートさを物語っていますね。廣瀬と長沼両選手
が採用している680kPaはバリアントの推奨空気圧からは
わずかに外れていますが、このくらいなら問題ないレベ
ルです。
上りで勝負をかける選手は上げ気味にするなど、自分のライディングスキルや脚質に
合わせて調整する。また、自分の欠点を補うようなセッティングもありだ。たとえば下り
やコーナリングが苦手なら空気圧を少し下げ、安心感を高めたセッティングにしてみよ
う。
「レースではフロントが滑るのを嫌う選手が多いので、前を少し落とし気味にしてグリップを上げ
て走ることはあります。リヤの空気圧も落としてしまうとダンシングのときに引きずるような感覚
になることもあり、そういう意味でもフロント低/リヤ高のセッティングは有効です。具体的な数値
は人によりますが、前後の差が0.3 ~ 0.5くらいでしょうか」(廣瀬)
「ロングライドでも前輪の空気圧だけを落とすというのは有効だと思います。グリップも向上しま
すし、手に伝わってくる衝撃も緩和されるので楽に走れるのではないでしょうか。ただ、極端に下
げるとバランスが悪くなるので差は50kPa以内にしたほうがいいでしょう」(宮路)
表からもわかるように、ヒルクライムでは空気圧を上げる選手が多いようだ。「ヒルクライムレー
スだと8気圧くらいまで上げます。グリップもそれほど必要なく、パンクの心配も少ないので。た
だ、それ以上だとダンシングで後輪が跳ねてしまうので、自分のライディングスタイルと体重に合
った圧を見つけることが重要ですね」(長沼)
「少し高めの空気圧にするとやはり走りが軽くなります。ヒルクライムは速度域がそれほど高くな
いので、高圧による跳ねもそれほど気にしなくていいですから。ただ、レース後の下りでは7気圧
くらいまで下げることを忘れずに!」(廣瀬)
メーカーの推奨空気圧とはどのようにして決められているのだろうか? 「安全性を考慮して決
定しています。この範囲を極端に外した設定にすると外れるなどの危険が出てきます。また、タ
イヤの推奨空気圧はサイズによって変わりますし、設計思想によっても違います」(宮路)
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タイヤのセッティングで走りを変える!
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まず、850kPa程度の高圧から乗り始め、そこから20 ~ 50kPaずつ落としていく方法
が空気を入れる手間がなくて楽ですしわかりやすいでしょう。コーナーで不安を感じ
たり、手に伝わってくる振動が不快だと感じたら落とす。落としすぎると走りが重くなっ
たり、コーナーでタイヤがよれたりします。そうしながら、すべてのシーンで安心して
走れる空気圧を見つけていくとよいでしょう。路面の状態によって感じ方が違ってくる
ので、ホームコースを決め、同じ条件で体感することが大切です。適正空気圧はタイ
ヤによって変わってくるので難しいのですが、一度自分のなかで物差しを作ってしま
えばあとは楽ですよ。
タイヤは比較的購入しやすい価格ながら交換の
効果が非常に大きなパーツです。そして、空気
圧調整はまったくお金をかけずにてきめんの効
果が表われるチューニングといえます。しかも気
軽に今日からでもできますからね。チタンパーツ
や軽量カーボンフレームなどに目がいきがちで
すが、その前に空気圧を見直してみてはどうで
しょうか? 空気圧次第で、ライダーの可能性も
バイクの可能性も上がるんです。タイヤは本当
に奥深い。だからこそオモシロイんですけどね。
空気圧の変化を楽しみながら探ってみてくださ
い!
クリート位置と同じで経験を積むことが大切。ただ、限
界のときに余裕が持てる空気圧にしましょう。予測でき
ないシーンに対応できなくなるのでは、正しい空気圧と
はいえません。「速い」と「無謀」は違いますから。8気圧
以上には上げないほうがいいかな。
ボクの場合は、転がり抵抗よりもグリップを重視した結
果、7に落ち着きました。自分のニーズを反映させること
が重要です。下りが苦手な人は少し圧を落とし気味にす
るなど。上りで食らいつくなど肉体的な無理はききます
が、グリップの無理は禁物です!
http://www.cyclesports.jp/magazine/2009/0910/index.html
2009/11/16
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