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7 2. 保険契約法総論 保険に関するルールは、大きく分けると、(講学上

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7 2. 保険契約法総論 保険に関するルールは、大きく分けると、(講学上
2.
保険契約法総論
保険に関するルールは、大きく分けると、
(講学上)保険契約法と保険業法に区分される。
個々の契約を扱うのが保険契約法であり、保険会社の監督や募集の規制を行うのが保険業
法である。保険契約法の中心となるのが保険法という法律である。
保険契約法を学習する際には、一般の契約法とは異なる多数の規律を見ることになる。そ
の規律がなぜ設けられているのかを理解するうえでは、「保険」の特徴を押さえなければな
らない。網羅的ではないが、重要な特徴を見てみよう。
2.1.
保険契約の構造
2.1.1.
保険事故と免責事由
各種保険契約を通じて、保険契約は、一定の事実が発生したときに、保険者が保険金(保
険給付11)を支払い、保険契約者は、一定の事実の有無にかかわらず保険料を支払う。
ここにいう「一定の事実」を保険事故といい、損害保険契約では契約上定められた事実(5
条)、生命保険契約では被保険者の死亡又は一定の時点における生存(37 条)、傷害疾病保
険契約では傷害又は疾病による治療、死亡その他契約で定める事由(66 条。法文の定義規
定の名称は給付事由)である。
この保険事故は、具体的に契約で定め、この保険事故が発生した場合、原則として保険金
が支払われる。ところが、保険事故が発生した場合であっても、一定の場合には、保険会社
が保険金を支払わない場合がある。これが、免責事由や免責条項と言われるものである。こ
こでは、広い意味での免責事由(解除権の発生という規律や契約の一部の効力を否定するも
のも含む)について、分類してみよう。免責事由にはいくつかの類型がある。
第一の類型は、収支均等の原則から、カバーするリスクを絞り込むものである。例えば、
住宅総合保険は、火災保険というカテゴリに入る商品であるが、火災、爆発、漏水なども担
保する。ところが、地震リスクに対しては免責事由が設けられ、担保されない結果、地震が
発生し、それによって火災となったとしても、保険金は支払われない。地震リスクを担保し
ようとすれば、この住宅総合保険契約に加えて、別途、地震保険契約を締結しなければなら
ない12。
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日常生活では保険金であるが、保険法の用語としては、損害保険では損害のてん補(4
条)、生命保険と傷害疾病定額保険では保険給付(38 条等、66 条等)と表現されている。
ほとんどの場合、金銭で支払うが、保険法は、現物の給付の可能性があることを念頭に置
いている(たとえば、老人ホームの入居権など)。契約で一定額を支払う、という形にな
った場合、契約時に物価の変動に対応できない可能性があることが理由である。
12 たとえば、1 億円の家に保険をかける場合で、火災により全部滅失する確率が 1%、地
震により全部滅失する確率が 0.01%であるとする。このとき、地震リスクもカバーした場
合、保険料が単純に 1.01 倍になるかというとそうではない。
保険会社の側から見てみよう。仮に保険者が、神戸市に 1000 件の契約を抱えていると
する。火災はそれぞれ独立であるならば、大数の法則が妥当し、損害の期待値は 1 億円×
1000 件×1%であるから、支払う保険金の期待値は 10 億円である。また、1000 軒家が同
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第二に、 給付反対給付均等の原則を担保するための免責条項である。たとえば、生命保
険契約を考えてみると、健康な人・若い人から収受するべき保険料と、不健康な人・老いた
人から収受する保険料は当然後者が高いし、危険が極めて高い人については、そもそも契約
締結を拒絶することが考えられる。この結論を導くためには、加入を希望する者の健康状態
を調べることが必要になるが、保険会社が個々人の健康状態に関する情報を入手すること
は極めて困難である(プライバシーの問題もある)ため、ここの加入者からの情報に依拠せ
ざるをえない。損害保険契約でも、今まで説明してきたように全ての加入者の損害の発生可
能性や大きさが均一であるわけはなく、個々人毎に違う。自動車保険を考えてみると、交通
事故に遭う確率は全員に共通の偶然だけではなく、個々人の技量13やメンタルなどにも影響
されるし、火災保険であれば、鉄筋の住宅と木造の住宅とでは火災が発生する確率・損害の
大きさとも変わってくる。そこで、一定の危険については、そもそも担保しないという選択
をすることもあるが、そうでなく保険会社が引き受けることにする場合には、その危険を測
定するための情報が必要となり、これを入手することが必要となる。
ここで、各種の保険契約においては、保険者が必要な情報を質問し、これに保険契約者・
被保険者が解答する形で情報を提供することになる(告知義務、4 条・37 条・66 条)が、
この情報が正確でなかった場合にサンクションがなければ、誰もが自分は健康であるとい
時に火災にあう可能性は低く、多少火災の発生件数が多かったとしても、例えば 1.2%で
12 億円程度である。
地震の場合、期待値は、0.1 億円である。しかし、いざ地震が起きたときは、1000 軒同
時に被害を受ける可能性がある(と仮定する)
。その場合、支払保険金額は、1000 億円で
ある。仮に期待値に近い保険料を集め、積み立てが終わっていたとして、資本や再保険と
あわせて 1000 億円に到達する資金を抱えていなければ、いざ地震が発生し、全ての家屋
が地震による火災で延焼したとき、保険金の支払いができない。
これを避けるためには、保険料を積み立てておく必要があるが、早い段階で保険事故が
発生した場合であっても支払えるようにするには、期待値に比べて相当割高な保険料を徴
収しなければならない(仮に事業開始 1 年目の末日に保険事故が発生した場合、通常の火
災リスクに対しては支払可能であるが地震リスクに対しての支払は困難である)
。このこ
とは、保険契約者から見れば、想定されるより高い保険料を支払うことになり、そうであ
れば買わない、という行動になることが考えられるだろう。
いわゆる巨大リスクは、このような性質を有しているため、たとえば戦争のように法定
免責とされるものもあるし(ただし、生命保険では約款で担保し、支払っている)、契約
で免責とされているものもある(損害保険にはこのようなものが多い。原子力・生物兵器
などのいわゆる NBCR:Nuclear, Biological, Chemical and Radiological や、故意の事故
招致であるテロなど)。
13 自動車保険の保険料を決定する情報はいくつもあるが、リザルトレーティング(今まで
の事故率に応じて保険料が変化する)は有名である。ゴールド免許の被保険者の保険料は
安いが、事故を繰り返している被保険者の保険料は当然ながら高い。また、運転歴の浅い
者は事故を起こす確率が高いとの統計学的な理由から、21 歳未満不担保特約や 26 歳未満
不担保特約を用意し、これらの年齢の者が運転しない場合は保険料を割り引くような契約
が一般である(なので、親の車に乗って交通事故を起こしたところ免責になってしまう、
というような事例は、学生にはよくみられる)
。
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うことになる。従って、虚偽の事実を伝えて加入したことが発覚した場合、保険者は契約を
解除して将来に向かって契約の拘束力から解除されるし、解除前に保険事故が発生してい
ても保険金の支払いを免れる(告知義務違反による解除14、28 条 1 項・31 条 1 項 2 項 1 号、
55 条 1 項・59 条 1 項 2 項 1 号、84 条 1 項、88 条 1 項 2 項 1 号)。このように、給付と反
対給付を均等させるための義務(危険増加もその例。解除権の発生と免責効を伴う)や免責
条項が、複数用意されている。
第三に、モラル・ハザード対応のルールである。保険は、保険料に比べて保険金の額が高
いため、保険契約者の行動次第では、少額の保険料で多額の保険金を得ることができる。そ
の究極的な形が、いわゆる保険金殺人であるし、不正入院である。これらに対応するルール
がいくつか用意されている。最も典型的なのは、保険契約者等が故意に保険事故を招致した
場合には、保険金が支払われないというルールである(故意免責/故殺免責、17 条、51 条、
80 条15)。損害保険における利得禁止の原則(次に説明、18 条 1 項)、定額保険における被
保険者同意(38 条、67 条)なども、この類型に入れていいであろう16。
第四に、保険はあくまで経済状態を回復するためのもの17であり、利益を得るためのもの
ではない。そのため、利得禁止の原則というものがあると考えられている。被保険者は、自
分が持っている経済的利益以上に保険契約をかけることができないというルールであり、
単純化すれば、①自分が経済的利益(所有者利益18が典型)を持たない物については保険を
かけることができない、②物保険であれば、その物の価格以上の損害保険をかけることがで
きない(厳密には保険金を受け取ることができない)19、というルールである。同様のこと
14
規律の構造は、告知義務違反があった場合、契約の解除が認められること、解除が将来
効であること、しかし、解除時に、保険金の支払義務を免れること、という構造になって
いる。解除が将来効なのか遡及効なのか、といったあたりは、旧法と新法で違っていると
ころであり、また、将来効なのに保険金を支払う必要が無いというわかりにくい構造にな
っている。
15 傷害疾病定額保険契約においては、故意による事故招致(たとえば自傷)が、給付事由
に該当するけれども故意免責ということになるのか、それとも、そもそも給付事由に該当
しないのか、ということが争われることがある。これは、偶然性の立証責任と呼ばれる問
題に関するものである。非常に多くの判例があり、判例を扱えるか微妙な残り時間である
ので、今は気にしなくてもよい。
16 業界では一般に「モラル」というと、このような問題を指す。和製英語であるが、モラ
ル・リスクという表現が普及している。
故意の事故招致/故殺が窺われる裁判例は非常に多い。特に、故意の事故招致が立証で
きれば免責は確実であるが、故意の立証は極めて困難であり、ある意味で故意免責に代替
的な免責法理が判例で複数発展している。
17 損害保険では、
「損害のてん補」と規定されているのは、被った損害に対応する保険金
を支払うことを意味する。
18 担保権者の利益もカバー可能であり、合算すれば物の価格を超えることはある。
19 とはいえ、新価保険のように、例外はある。これは、例えば住宅保険でいえば、住宅の
価値は年々低下するが、時価相当額の保険金を受け取ったとしても立て直すことはできな
いため、新しく家を建てるための保険金相当額が支払われるものである。この意味では、
利得禁止原則は強行的ではない。利得禁止原則については、旧法時代より非常に議論の蓄
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は人保険に関しても考えられようが、生命保険においては、金銭評価が難しいこと等から、
利得禁止原則が適用されないと考えられている2021。従って、被保険利益のない損害保険契
約は超過部分について無効となると考えられている(9 条)し、被保険者同意のない人保険
契約は無効である(38 条、67 条22)。
2.1.2.
損害賠償や相続との関係
保険事故の典型的なものを考えると、交通事故であり、人の死亡である。そうすると、損
害賠償や相続と交錯する領域ということになる。従って、これらの領域との調整問題がある。
甲が乙保険会社との間で自動車保険契約を締結していたところ、甲と丙(過失 100%)が
交通事故を起こし、甲の自動車が全損した、としよう。このとき、甲は、乙保険会社に対し
て保険金請求権を有し、丙に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。仮に甲がこ
の両方を行使できるとすれば、甲は自動車の損害によって、自動車の価額の倍額の金銭を得
ることになり、利得禁止原則に抵触する。他方、甲が乙保険会社から保険金を取得すること
で丙に対する損害賠償請求権を行使できなくなるとすれば、有責の加害者が責任を負わな
いことになってしまい、事故の抑止という観点からは適切ではない。仮に甲が丙に対する損
害賠償請求権を先に行使した場合、甲の損害は丙の損害賠償によって填補されることにな
るから、乙保険会社が填補すべき損害がないことになり、保険金請求はできないことになる。
このような場合、甲は、丙に損害賠償請求をすればそれで終わりであるが、乙保険会社か
ら保険金を受け取ることを選択した場合、甲が有していた損害賠償請求権が乙保険会社に
移転し、乙保険会社が丙に対して不法行為責任を追及することができる。これを請求権代位
という(25 条)23。
代位の存在理由については、利得禁止原則との関係もあり大いに議論されているが、基本
的には以下のように考えればよい。すなわち、この事例で達成すべきは、有責加害者(丙)
の免責の阻止と、甲の利得の禁止である。利得禁止原則は強行性を有するルールであるし、
不法行為の観点からも加害者の免責の阻止は、絶対とは言えないが、合理的とも考えられな
積があり、広義の利得禁止原則、狭義の利得禁止原則、再狭義の利得禁止原則、などに分
けて議論されている状況である。
20 被保険者同意が、モラル・ハザードとの関係では代替的な機能を有する。なお、海外の
立法では、生命保険にも被保険利益を要求する例がある。
例えば、エリザベス女王が亡くなったときに保険金を受け取る、という生命保険契約
(実際には賭博)を防止するためには、被保険者の同意(女王の同意=まず得られない)
を要求する法制度も、被保険利益(女王の死亡から生じる経済的損失=まず考えられな
い)を要求する法制度もある。日本では、損害保険は被保険利益を要求し、定額保険では
被保険者の同意を要求する、という立法を採用していることになる。
21 賭博か否かのメルクマールとも考えられる。
22 傷害疾病定額保険契約で、被保険者=保険金受取人の場合は例外となる。
23 この中に判例を分析する民法のゼミを履修している人がいるならば、当事者を確認して
みるといい。不法行為の事案を中心に、損害保険会社が原告になっている事例はそれなり
にあるはずである。
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い。乙保険会社が甲に対して保険金を支払うことで甲の丙に対する損害賠償請求権を取得
するとすれば、乙保険会社が全額あるいは丙の有する資産額を回収できることになり、乙保
険会社のみが得をするように見えるかもしれない。このとき、乙保険会社は、収支均等の原
則から、回収が見込まれる部分については、事前に甲から保険料を受け取る必要は無い。そ
うすると、請求権代位制度の存在によって、保険料を低下させることができることになる。
このように、保険代位は、強行法的に要求される利得の排除を達成しつつ、最も妥当な利
害調整を図る制度ということができる24。
・・・これで納得した人に対しては、人保険契約についてどうか、ということを考える必
要がある。たとえば、甲が乙保険会社と傷害疾病定額保険契約を締結しており、甲は、丙と
の交通事故により、入院費を受け取った。この場合、入院費相当額について、乙保険会社が
代位するかというと、代位は損害保険に限られた規定であるため、定額保険では妥当しない。
仮に甲と乙保険会社が傷害疾病損害保険契約を締結していたならば、代位は強行法的に発
生する。伝統的に、判例は、保険の種類が損害保険か定額保険かで代位の有無を判断する立
場25をとっているが、傷害疾病定額保険契約の場合、実質的には甲が二重に給付を受けられ
るという結論は、極めて奇異に映ると思われる。ある意味仕方のない結論かもしれないが、
このように考えると、伝統的な最高裁の立場を疑うこともできるだろう26。
次に、相続との関係を見てみよう。A(親)は、自らを保険契約者兼被保険者、B(子)
を保険金受取人とする生命保険契約を、C 生命保険会社との間で締結した。D(A の債権者)
は、A が弁済をしないため、A の有する生命保険契約から回収できるかを考えている。D は
どうやってこれをターゲットにできるのだろうか。
いくつかの原則を確認しよう。①保険契約は、財産上の価値を有し、一身専属性は有しな
い27。②平準保険料方式を前提にすると、A
は、C 保険会社に対して積み立て部分を有して
いる。仮に A が保険契約を解約すると、積み立て部分は(一定部分を控除した後)A に払
い戻される。これを解約返戻金という。そして、D は、A が解約返戻金を受領したならば、
強制執行の対象とすることができる。③D が強制執行できるのは、A の責任財産のみであ
り、B の責任財産に対してではない。
これらの事実を前提に、次のような問題が考えられる。
第一に、A が亡くなり、B が相続放棄をした場合、B は保険金を受け取ることができるの
か、という問題である。B が保険金を受け取るのは、A を相続したからではなく、B 固有の
24
周辺的な論点として、保険給付と損益相殺に関する問題があるが、後に回す。
一種のドグマというのは言い過ぎかもしれないが、損害保険と定額保険のそれぞれの内
在論理内では問題ないとしても、それを貫いた結果、全体としては不合理な切り分け方に
なっているように思われる。多くの研究者は、そのような状態が適切であるとは考えてい
ないし個々の論文や判例評釈では割り切った考え方に対して批判がなされることが一般的
である。しかし、批判は個別問題に対するものにとどまっており、代替的な適切な体系を
築くことまではできていない(従って判例も動かない)、というのが正直なところか。
26 批判は多いが、損害保険と定額保険でルールを変える最高裁の立場は固い。
27 差押禁止財産ではない。
25
11
権利として受け取ることになるため、B は受け取ることができる。
第二に、A が保険料を払っているのだから、その対価である保険金請求権(保険金)が D
の引き当てになるかというと、これはならない。判例によると、B は、保険金請求権を A か
ら相続しているのではなく、B に固有の権利として保険金を受け取っているので、A が負っ
ていた債務は相続放棄により B が相続しない一方で、B は保険金請求権を取得することが
できるからである28。
第三に、D は、A が有する解約返戻金請求権を差し押さえることはできるが、一歩進ん
で、D が亡くなってしまえば差し押さえたことが無意味になるのだから、保険契約自体を解
約してこれを取り立てることができるかが問題となる。解約を認めると、それまで積み立て
てきた生命保険契約が無意味になるだけではなく、再度 A が加入することは、年齢等の状
態から困難かもしれない。しかし、最高裁【Ⅳ―16】は、民事執行法上の取立権の内容とし
て、保険契約の解約をすることまで認め、権利濫用となる場合でなければ、保険契約を解約
できることを判示した。保険法は、この判例を受け、介入権の制度を設け、保険金受取人が
解約返戻金相当額を支払うことで、解除の効力を否定できる立法を行った(60 条~62 条)。
以上のように、その保険事故の特質上、保険給付の問題と、損害賠償・相続29の問題とは
密接にリンクしており、保険法を学習する際に、あるいはこれらの分野を学習する際に、目
を配る必要がある。
2.1.3.
保険契約の主要な要素
保険契約において定める主要な概念は、以下の通りである(6 条、40 条、69 条)。
まず、契約当事者は、保険契約者と保険者(=保険会社)であり、これに加えて、被保険
者・保険金受取人が登場する(=説明済み)。また、損害保険のうち物を対象とする保険の
場合、保険の目的物を定める必要がある。
保険給付を行う事由である保険事故30を特定する必要がある。定め方は様々であり、いく
つもの事由を列挙する場合もあれば、包括的に定める場合もある。
B が A の債務を相続した場合、A が B に対して負っていた債務を相続するので請求を
認められるが、認められる理由は、相続人である B のところで A に対する債務と保険金が
同一人である B に帰属するからであり、相続されなければ無理である。
29 他にも、例えば、A の相続人が B・C・D・E の 4 人で、保険金受取人が B のみである
場合、特別受益の持戻しの対象になるか、といった点も、最高裁で争われた問題である。
30 責任保険の保険事故の定め方には重要な論点がある。たとえば、企業が締結する責任保
険でアスベストのリスクを担保するとして、保険期間中に会社が行った事業により被害が
発生することが保険事故であるのか、保険期間中に損害賠償請求を受けることが保険事故
であるのか、により、数十年後に被害が顕在化した場合に、責任保険で担保されるかどう
かが変わってくる。伝統的には前者の定め方であるが、アスベストの被害は長期間経って
から発覚し、保険会社の経営上問題がでたことから、後者にシフトしている(同様の例は
複数あり)。前者であれば、一度保険契約を買っていれば安心であるが、後者であれば、
保険契約を買い続けない限り担保されないことになる。
28
12
保険契約の有効期間(=保険期間)や保険金額(損害保険契約の場合は上限額、生命保険
契約・傷害疾病定額保険契約の場合は支払われる額。保険事故毎に違う場合もある。)もま
た、定める必要がある。
保険給付の対価である保険料の額もまた、契約内容である。
契約で定めるわけではない重要概念として、損害保険では、保険価額という概念がある。
これは、保険の目的物の価額である(9 条)。この算定方法は、火災保険であれば時価による
ことが普通であるが、海上保険等で損害発生時の評価の困難を避けたり、保険価額を時価と
は異なるものにするため(たとえば、貨物の売買価格を保険価額とするため)、当事者間で
契約締結時に約定する場合がある(評価済保険。9 条、10 条、18 条 2 項、19 条、24 条)。
また、住宅の火災保険のように、再調達価格を保険価額とする新価保険も見られる。これら
の保険価額に関する約定は、場合によっては被保険利益を超える保険金額を支払うことに
なるが、有効な合意である。
13
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