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留学生レポート

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留学生レポート
留学生レポート
近くて遠い隣人とのお付き合いを通して
中国/北京大学
石原彩子(社会学部4年)
1.中国での学生生活
「中国とは日本にとって引越しできない隣人である」とはまさにその通りでしょう。い
くら憎かろうと愛想が尽きようと、中国が日本にとって地理的にも経済的にも離れられな
い存在であることに変わりはありません。私が中国留学を決意したのは、そんなちょっぴ
り面倒で得体の知れないこの国を少しでも深く理解したいと思ったことがきっかけでした。
そして半年間の語学留学を含めた計一年間を、私は北京大学で過ごすことになりました。
北京大学は言わずと知れた中国最高峰の総合大学です。13 億人中の選りすぐりのエリー
ト達が北京市北東部に位置するこのキャンパスで日々勉学に励んでいます。
中国の大学生活の特徴といえば、学生のほぼ全員がキャンパス内の寮で4年間を過ごす
点でしょう。そのため学内には日常生活に必要な設備がほぼ整っています。銀行や郵便局、
床屋、メガネ屋、花屋まであることにはさすがに驚きました。中国人の学生は狭い一部屋
に数人が詰め込まれて生活しており、その経験がより彼らの仲間意識や絆を強めているよ
うに感じました。一方留学生は留学生専用の寮に住んでいます。こちらは清潔で個人部屋
もあり随分快適な環境です。ただ台湾の“留学生”については自動的に中国人向けの寮へ
入れられてしまう点が、台中関係を象徴しているようで何とも面白く感じました。
普段の生活での楽しみといえば三度の食事です。北京大は学内に 10 近くの食堂があり、
安くて中々おいしい食事をいただくことができます。韓国料理やハンバーガー、水餃子な
どの専門食堂もあります。中国各地の料理も揃っており一年間いてもほとんど飽きること
がありませんでした。自分で具材を選んでその場で調理してもらう「香鍋」は学生人気 NO.1
で、私も度々友人と食べに行きました。
2.勉強、勉強、合間に課外活動
北京大の学生は学ぶことに貪欲です。休まず授業に通い、業後は図書館で大量の文献を
読み、宿題をこなす毎日。授業形態は日本と同じ講義形式が多いですが、大教室でも臆さ
ず意見を述べ、積極的に質問をし、教師と生徒の共同作業で授業が展開されていきます。
聞く授業ばかりで発信力がないのかといえばそんなことはなく、プレゼンの機会があれば
作りこまれた分かりやすい資料を持参し、皆の前で実に堂々と発表します。そんな北京大
生のポテンシャルの高さには感心させられるばかりでした。
受講した社会学部の授業は全てが中国語で行われました。最初は彼らの能力と語学面の
ハンデに押され、グループワークや討論でも中々積極的な貢献ができませんでした。そん
な中、彼らの理論や知識に対抗する数少ない武器となったのが、一橋のゼミでの経験です。
北京大社会学部にはゼミ形式の授業が行われないため、フィールドワークや実社会の現状
を踏まえた学習があまり発達していないように思います。そのため、一橋で一年かけて取
り組んできた研究経験は私の大きな自信と強みになりました。そして回数を重ねるうちに、
私も次第に中国語で自分の意見を述べ議論に参加できるようになりました。
特に面白かったのは人口社会学という授業です。一見ただの数字の羅列にしか見えない
人口数値データから、社会の歪みや問題が浮き彫りになって現れるのがとても新鮮で興味
深く感じました。
北京大は普段の勉強が忙しく、サークル活動は日本ほど活発ではありません。規定の活
動日以外の交流は少なく割とあっさりしています。ですがこちらから積極的に関わってい
くことで、様々な学生と知り合い多くの友人を作ることができました。
愛心社という慈善活動を行うサークルでは、北京郊外の小学校で課外授業を行う機会を
もらい、中国の子供達と直に触れ合い日本を紹介する経験をしました。無邪気に「日本鬼
子」と言われた時にはさすがに複雑な気持ちになりましたが、折り紙に熱中していたり「お
姉ちゃん」と慕ってくれる姿を見て、改めて草の根の交流の大切さを痛感しました。
興味本意で参加したハーモニカサークルには思いのほかはまってしまいました。初級班
の仲間と地下の練習場で一緒に練習したのはとてもいい思い出です。そして他大学と合同
で行われた発表会では初級班の代表に抜擢していただき、ソロで皆の前で吹くという貴重
な経験をすることができました。国境を越えた友人と一生続けられる新たな趣味を与えて
くれたサークルには本当に感謝しています。
そのほか如水会北京支部や県人会での社会人の方との交流や、一人旅で出会った友人達
との絆、半年間取り組んだ日本語講師の経験、日中ドキュメンタリー映画祭実行委員会で
の活動など、中国での多くの出会いと経験は私の留学生活の何よりの財産です。
3.良い近所関係のために
この留学を通して「隣人」への興味は益々深まりました。奇しくも日中関係の大きな転
換期を中国で過ごしたことで、中国について知りたい、もっと理解したいという思いが益々
強まっています。
9月のあの時期、私の周辺は不思議なほど穏やかでした。台風の目の中にいるようなも
のだったのでしょうか。学内やその周辺で過ごしている限りあからさまな反日感情に触れ
ることはほとんどなく、むしろ方々の中国の友人から励ましや謝罪、心配の声をかけられ
るほどでした。しかしその一方で、ネットや日本のメディアで取り上げられる中国の姿も
また現実です。ほんの数ヶ月前に旅行で訪れた場所が見るも無残な荒地に成り果てている
のを見ると、本当に同じ国での出来事かと目を疑わずにはいられませんでした。
それもまた中国は多面性を反映したものだったのでしょう。私が過ごした北京大学の生
活もまた、中国のほんの一面でしかありません。しかしこの大きさと多様性こそが、中国
という国の魅力なのだと感じています。尽きることのない隣人の新たな一面を一つずつ地
道に知っていくことが、いいご近所付き合いの第一歩なのではないでしょうか。
その大きな一歩を踏み出すきっかけを与えてくれた一橋大学の留学派遣制度には、心か
ら感謝しています。こんな充実した資金と制度面のサポートのある大学はおそらく世界各
国を探してもそうありません。これも全て如水会の皆様、明治産業株式会社様、明産株式
会社様、国際課の皆様の支援のおかげです。本当にありがとうございました。またゼミの
指導教官の町村先生、家族、友人をはじめ、私の留学を応援してくださったすべての方々
に感謝を申し上げます。
(2013/01/25)
大学食堂の香鍋。“辛旨”な、ごった煮鍋です。
ハーモニカサークルの発表会。
学内の「未名湖」で友人と。冬はスケートができます。
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