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分割3-4 (PDF:1730KB)
(別添7)インデューサ破面の解析 液体水素ターボポンプのインデューサ羽根のa破面に疲労破壊が起こった証拠であ るストライエーション(別添図7-1、別添図7-2)が観察された。a破面の最終 疲労き裂形状を図-37に示す。溝状模様やディンプルの破面割合が100%になる (疲労破壊から延性破壊または不安定破壊に移行する)領域の境界を求めると、起点 から左に11.1mm、右に21.4mm、内部に4.6mmの大きい半楕円となっ た。破面の起点には加工痕と考えられる三角状傷(別添図7-3)があった。三角状 傷の幅は350μm、深さは15μm、三角状傷と破面の成す角度は50°であった。 これらの破面情報を基にして、疲労破壊の原因となった応力と繰り返し数の解析を行 った。 別添図7-4に示すように、インデューサには一方向の膜応力(σt)と曲げ応力 (σb)、並びに変動応力(Δσb)が作用する。さらに、ストライエーション(別添 図7-2)の解析から、インデューサ羽根には平均するとおよそ10回の小応力(Δ σ1)毎に1回の大応力(Δσ2)が作用していたことが明らかになった(別添図7- 5)。ここでは、大応力(Δσ2)が作用しているときに疲労破壊から急速破壊へ移行 したと仮定した。 図-37の大きい半楕円き裂の最深部あるいは表面における応力拡大係数(K)が 破壊じん性値K IC に達したときに疲労破壊から急速破壊に移行するとして、下記の大 応力(Δσ2)を推定した。 推定の前提条件として、詳細な数値解析と水流し試験から得られた下記の膜応力と 曲げ応力、並びにNASAの材料特性データ集から引用した下記の破壊じん性値を使 用した。 膜応力: σt = 183MPa(18.7kgf/mm2) 曲げ応力: σb = 398MPa(40.6kgf/mm2) 破壊じん性値: K IC = 88.0MPa・m1/2(284kgf/mm3/2) これらから得られる、静応力、急速破壊に移行する応力及び大きな変動応力は下記 のとおりとなる。 静応力: σs = σt + σb = 581MPa(59.3kgf/mm2) 急速破壊に移行する応力:σr = 904MPa(92.3kgf/mm2) 大応力範囲:Δσ2 = 2×(σr-σs) = 647MPa(66.0kgf/mm2) 加工傷の応力集中係数Kt = 1.5とすると、起点に作用する応力範囲は970 MPa(99.0kgf/mm 2)となり、別添図7-6(NASAの材料特性データ 集から引用)に示すように液体水素中の疲労限を越え、その時の寿命範囲として以下 が求められる。 疲労き裂発生寿命: Ni = 5.5×104~1.1×105 ここで、応力集中係数を用いているので、別添図7-6から求められる寿命とその 半分を採用し、き裂発生寿命範囲を定めた。 また、深さ方向の疲労き裂進展寿命(Np)を疲労き裂進展特性(別添図7-7) から求めると、 疲労き裂進展寿命: Np = 2.2×104 が得られる。 Npを求める際に必要となる、別添図7-5の小応力(Δσ1)は、小さいストラ イエーション幅と大きいストライエーション幅の比(別添図7-1、別添図7-2) などを参考にし、R = Δσ2/Δσ1 = 1.25と定め、 小応力範囲: Δσ1 = 517MPa(52.8kgf/mm2) を用いた。 最後に、疲労破壊に至る時間を求める。エンジン燃焼試験、インデューサ水流試験か ら、別添図7-5の小応力(Δσ1)の繰り返し速度は3,200Hzと予測されてい る。大応力(Δσ2)は10回の小応力(Δσ1)の繰り返し毎に1回繰り返されると すれば、下記のき裂発生時間が求まる。 き裂発生時間: ti = 171~342秒 また、き裂進展寿命は主に小応力の繰り返しで占められるが、その寿命を小応力の繰 り返し速度3,200Hzで割ると、下記のき裂進展時間が求まる。 き裂進展時間: tp = 6.9秒 よって、き裂の発生、進展から破断に至る、疲労破壊に要する時間の範囲は、178 ~349秒となる。 テレメトリデータからは、打ち上げ後238.5秒に事故が発生している。この時間 は疲労破壊に要する時間の範囲に入っている。したがって、打ち上げ直後から異常振動 が生じて変動荷重(別添図7-5)がインデューサに作用したとすれば、疲労破壊に要 する時間の推定としては妥当である考えられる。 別添図7-1 ストライエーション測定位置 測定点 D D000019 10μm 測定点 H H0297,8 10μm 別添図7-2 ストライエーション間隔 350μm 021619 (a) 低倍率SEM写真 ( θ= 5° 100μm 破面 三角状傷 0° θ (b) 三角状傷の角度を変えた観察方法 別添図7-3 三角状傷の低倍率SEM写真 (別添8)LE-7Aエンジンについて H-ⅡAロケットの第1段エンジンであるLE-7Aエンジンは、LE-7エンジン 開発の経験を最大限に活用し、信頼性の向上、システムの簡素化、柔軟な打上げに対応 した機能付加を目的として、現在開発が行われている。 一方、エンジン性能、起動・停止特性に大きく影響を与えるエンジンサイクル(二段 燃焼サイクル)、エンジンシーケンスについては、基本的に小範囲の変更にとどめるこ とにより、LE-7エンジンの開発成果の多くが引き継がれている。 LE-7AエンジンとLE-7エンジンの外観図、仕様及び作動諸元は、それぞれ別 添図8-1、別添表8-1及び別添表8-2に示すとおりである。 (1)信頼性の向上 LE-7エンジンは、開発時において様々な技術的課題に直面し、その都度、安 全側の対策を講じてきたため、構造・システムが複雑になっていた。また、製造工 程では多岐に渡り溶接やろう付を用いており、開発試験時に起動・停止時の熱衝撃 に起因する応力による不具合が数多く発生した。 これに対し、LE-7Aエンジンは、コンポーネントの削減、一体加工を盛り込 んだ設計変更による構造・システムの簡素化、溶接箇所の削減(溶接本数を98本 から8本に削減)により信頼性の向上が図られている。また、十分な耐久性を有す るようにタービンエンジン入口ガス温度(プリバーナ燃焼ガス温度)を下降させる 等のシステム的な改良も行われ、エンジン寿命マージンが拡大している。 さらに、大幅な艤装変更に伴うエンジン外径縮小による振動応力の緩和、部品種 類の集約及び部品点数の最少化が実施されている。 (2)システムの簡素化 LE-7エンジンは、複雑な構造・システムであるため、高度な製造技術、綿密 な検査が要求されている。 これに対し、LE-7Aエンジンは、構造部品の共通化、複雑な形状部品の製造 工程の改善、鋳造品の採用等により、システムの簡素化を目的とした加工性及び作 業性の向上が図られている。 (3)機能付加 LE-7Aエンジンは、多用なミッションに柔軟に対応するため、推力をフルパ ワーの70%程度まで絞る推力可変機能を有している。 また、艤装変更によるエンジン外径の縮小により、ペイロード輸送能力増強を目 的としたH-ⅡAロケット増強型の液体ロケットブースタ用エンジンクラスター化 に対応可能となっている。 (4)キャビテーション対策 LE-7エンジンのターボポンプの入口が下方向を向いていたのに対し、LE- 7Aエンジンのターボポンプの入口は上方向を向いている。よって、タンクとター ボポンプの間に接続される配管を大きく曲げる必要がなく、整流ベーンも不要とな っている。このことにより、今回の事故で問題となった、整流ベーンとターボポン プの間での流体振動が起こる可能性は排除される。 また、液体水素ターボポンプのキャビテーション防止対策として、液体酸素ター ボポンプと同様の設計変更がなされている。具体的には、入口配管の直径を大きく するとともに、インデューサ羽根形状の変更がなされている。