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「共産党独裁国家の株式市場」の矛盾が露呈

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「共産党独裁国家の株式市場」の矛盾が露呈
藤戸レポート
「共産党独裁国家の株式市場」の矛盾が露呈
2015 年 7 月 13 日
「リアル・リスク」中国株が
炸裂
(グラフ 1)
中国の主要株価指数が急落
「リアル・リスク」として指摘を続けた中国株が炸裂してしまった。巨視的に
見た場合には、「一党独裁国家の資本主義」の矛盾が一気に暴露されたよ
うに思える。7/8の上海総合指数は▲5.9%の下落となったが、注目すべきは
下落率ではなく、上場銘柄の約半数が売買停止になったことである。創業
板(日本の東証マザーズに相当)に至っては、一時上場銘柄の7割超が売
買停止だ。7/8の創業板指数は+0.5%となったが、7割がクローズしている
上での騰落に意味はない(グラフ1)。こうした事情を知らない向きからすれ
ば、「創業板指数は底堅い」と誤解してしまうかもしれない。中国の証券取
引所は、上場企業から売買停止の申請があれば認める措置を採っている。
建て前上は、「経営に重大な影響を与える事案を抱えている時」となってい
るが、上場企業の約半数に、突然「重要事案」が発生するはずがない。通
常の取引を始めれば、「株価が急落するから」というのが売買停止の本音で
あろう。これでは、最早「開かれた公正・公平なマーケット」ではない。政府・
当局や企業の意向で、マーケットを恣意的に開いたり閉鎖できることにな
る。運用の世界で最も重要な原則は、「買いたい時に買える・売りたい時に
売れる」という流動性の確保だ。この原則の放棄は、中国本土株市場の長
期的な発展にとって、巨大なマイナスである。資本規制を緩めて本土株市
場も自由化との方向があったが、頓挫する可能性が濃厚だ。MSCI等の株
価指数への本土株採用も相当遅延することになろう。
上海総合指数と創業板指数株価推移
(P)
(P)
7,000
5,500
5178(6/12)
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
5,000
6,000
4,500
上海総合指数(右)
5,000
4,000
4037
(6/5)
4,000
3,500
3373
(7/9)
3,000
3,000
2,500
創業板指数(左)
2,000
1,000
2304
(7/8)
1/5
2/2
3/9
4/7
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
5/6
6/3
7/2
2,000
1,500
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
マーケットの騰落は共産党の
意向で決まらない
圧倒的な個人投資家の売買シ
ェアがスタンピードを招く
資本市場に対する経験不足が
暴露された中国当局
中国共産党は、法体系の上に君臨している。例えば、汚職党幹部の裁
判が報道されることもあるが、中国に三権分立はない。共産党が描いたスト
ーリーどおりに裁判は短時間で進行し、習近平体制は「虎(悪徳党幹部)を
も許さない」とのプロパガンダに利用される。典型的な「裁判ショー」だ。この
強引さは、外交・安全保障にも表れる。ベトナム、フィリピン、マレーシア等と
領有権を巡って争っている南沙諸島に、中国は埋め立てを行って軍事拠
点を築きつつある。ウォールストリート・ジャーナルによれば、ヘリポートや対
空戦闘サイトを構築していると報じている。米国等の批判に対しては、中国
領内の問題に関して言及するのは「内政干渉」として開き直っている。政
治・安全保障面では、こうしたゴリ押しが通っても、ことマーケットに関しては
そうはいかない。なぜならば、株式マーケットは既述のように、「公正・公平
な自由マーケット」が大前提であるからだ。株価の長期的なトレンドを決める
のは、景気や企業業績といったファンダメンタルズであり、共産党の意向で
はない。どうも、政府・当局には、中国株の騰落までコントロールできるとい
った誤認識があったように思える。人民日報が、「上海総合指数は 4,000 ポ
イントを超えてから、牛市(ブル・マーケット)の本格化」といった兜町の地場
新聞並みの記事を載せたのは象徴的だ。
こうした中国株の乱高下は、今に始まったことではない。近くは、2007 年
の株式バブルとその崩壊があった。上海総合指数は、2005 年 6 月安値
998 から 2007 年 10 月には 6,124 まで約 6 倍化した。「股民」(クーミン。株
の民)と呼ばれる人々が証券会社に押しかけ、路上にまで溢れた映像を御
記憶の方もいることだろう。中国の株式売買シェアは、個人投資家が圧倒
的に大きい。2007 年から 2013 年の平均では 83.6%を占めているが、昨年
来の大相場ではさらにシェアを高めている可能性が高い。個人の中には、
自分が投資した企業が、どういうビジネスなのかも知らないままに、「上がる
と聞いたから買った」という向きも少なくない。つまり、上がる時も下がる時も
スタンピード(家畜の集団暴走)のような猛烈な勢いとなり、一方通行的な相
場になることが多い。機関投資家にはかつての国営企業が多く、まだ未成
熟な状況なのだ。2007 年の株式バブルはやがて破裂し、今度は 2008 年
10 月安値 1,664 まで 4 分の 1 近くの暴落だ(グラフ 2)。注目すべきは、世
界の株価は 2008 年 9 月のリーマン・ショックで急落に転じたが、中国株は
2007 年の冬から暴落が始まっていたことである。中国固有の株式バブルの
崩壊が、リーマン・ショックに 10 ヵ月先回っていたのだ。
「股民」は、2007年当時には証券会社の店頭で株式売買を注文してい
た。しかし、今やスマートフォン、タブレットPCが普及しており、個人投資家
の多くは気軽に株式売買を注文できるインフラが整備されている。それだけ
に、株式投資の裾野は広がっているが、今回のような急落に直面するとキャ
リアの浅い投資家は狼狽することになる。端的に言えば、「投げ」に向かうわ
けだが、そこで問題になるのが売買停止である。自分の持ち株を処分しよう
にもできない。信用取引を利用していれば、金利だけが着実に徴収される
ことになる。投資家の懐の痛みは一段と大きくなり、売買可能な類似業種の
銘柄を売るといった新たな売りニーズも形成してしまう。どうも、当局が売買
停止を平易に容認したことが、相場の底入れを遅らせているように思える。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
2
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 2)
2005 年~2008 年にあった
上海バブルとその崩壊
上海総合指数(2005年~2013年)
(P)
7,000
6124
(2007/10)
6,000
上海総合指数
5,000
3478
(2009/8)
4,000
6.13倍
3,000
2,000
▲46.8%
1664
(2008/10)
1,000
998
(2005/6)
0
2005/1
1849
(2013/6)
▲72.8%
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
2006/7
2008/1
2009/7
2010/12
2012/6
2013/12
相場のセオリーでは、楽観に耽溺していた投資家がリスクに気づいて大慌
てになり、売りのオーバーシュートを演じることでボトムを形成する。一時的
には、投げが投げを読んで株価の急落を招いても、需給の整理が進めば、
今度は悲観の極から相場はリバウンドに転換する。この相場底入れのメカ
ニズムを、売買停止が阻害しているようだ。証券各社の 1,200 億元の ETF
(上場投信)買い、SWF(政府系ファンド)の買い、公的年金の運用規定緩
和(株式組入れ比率で最大 30%容認)等、中国当局は買い手の創造に狂
奔している。しかし、売りニーズを止める手法は、相場の本格的な底入れを
遅延させることに繋がりかねない。中国当局の資本市場に対する経験不足
が暴露されているように思える。
ハイ・ボラティリティこそが
上海総合指数の神髄
中国政府は、2008 年の株価暴落の後、世界がリーマン・ショックで動揺した
ことも加わって、総額 4 兆元に達する莫大な景気対策を実施した。世界各
国も、中央銀行の超緩和策と財政出動による景気刺激策に邁進し、なんと
か危機の克服に成功した。中国の巨額の財政出動が、世界の回復に大きく
貢献したことは間違いない。上海総合指数は、2008 年 10 月安値 1,664 を
ボトムとして、2009 年 8 月高値 3,478 まで約 2 倍化した。つまり、今度は約
4 分の 1 になって 2 倍化したわけだ。ところが、闇雲に「GDP 成長第一主
義」に疾走したツケはすぐに顕在化した。需要の有無にかかわらず、増産
に突き進んだ結果、鉄鋼、セメント、ガラス等々の在庫は膨れ上がった。港
湾には、倉庫には入れきれない鉄鉱石や原料炭の巨大な山が聳え、風雨
にさらされたままとなった。いかにも、共産主義国家の計画経済的な発想が
ベースにあり、リーマン・ショックの危機は回避できたものの、中国は過剰設
備・過剰在庫に直面することになった。政府・当局は、鉄鋼を始めとした素
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
3
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
材企業の統廃合を進めているが、需給のバランスは現在も崩れたままであ
る。鉱工業生産指数を見ると、リーマン・ショック直後の 2008 年 11 月に前
年比+5.4%で底打ちし、2009 年 11 月の+19.2%まで駆け上がった。しか
し、この 2009 年をピークとして、延々と鈍化トレンドを描くことになった。今
年 3 月には、リーマン・ショック直後に匹敵する+5.6%にまで沈んでいる(グ
ラフ 3)。上海総合指数も、2009 年 8 月高値 3,478 から 2013 年 6 月安値
1,849 まで半値近い下落を演じた。つまり、時系列でみると、「6 倍化→4 分
の 1→2 倍化→半値」という軌跡を描いている。ハイ・ボラティリティこそが、
上海総合指数の神髄である。
(グラフ 3)
リーマン・ショック時並みに
低下した鉱工業生産
(前年同月比)
政策の行き詰まりが官制バブ
ル相場を招く
「4 兆元刺激策」の反動に懲りた習近平体制は、「GDP 成長第一主義」を
放擲し、「質の伴った成長」を標榜した。上海株が調整モードにあったた
め、余剰ホット・マネーが向かったのは不動産であった。不動産に対する当
局の姿勢には一貫性がなく、価格高騰に対しては規制強化で対していた
が、不動産投資自体が鈍化傾向にある中国では数少ない成長牽引役でも
あり、しばしば規制を緩める策も採っている。結果として、猫の目政策が
2013 年の不動産バブルの創生に大きく貢献することになった。当局はバブ
ルに対しては、今度は一気に規制のハードルを高め、不動産バブルが崩
壊した(グラフ 4)。これが、家計や企業のバランス・シートに甚大な影響を与
え、今も含み損を抱える向きが多い。エコノミストからも、中国の不良債権問
題の深刻さを指摘する声がしばしば出ている。政策の行き詰まりが招いた
閉塞感の打破を担ったのが、人民銀行による大胆な連続金融緩和策であ
った。これこそが、今回のバブル的な上海株上昇の原動力である。こうした
経緯は、政府・当局の試行錯誤と挫折の繰り返しと言えよう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
4
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 4)
2013 年には不動産バブルと
その崩壊を経験した中国
(%)
中国の新規住宅販売価格指数
130
125
北京
天津
上海
南京
重慶
広州
厦門
シンセン
120
115
110
105
100
95
(出所)中国国家統計局をもとにMUMSS作成
90
2011/1
2011/7
2012/1
2012/7
2013/1
2013/7
2014/1
2014/7
2015/1
中国株急落が政治問題化
おそらく、中国政府・当局が目指したものは、バーナンキ流の超緩和策
で、傷んだ家計・企業のバランス・シートを改善させ、個人消費、設備投資
の浮揚を狙ったものだろう。バーナンキ前 FRB(連邦準備制度理事会)議
長は、経済・金融分析のエキスパートで、投資家の信任も厚かった。しか
も、「市場との対話」も巧妙で、実際の緩和策発動についても、細心の注意
を払って実施していた。いわば洗練された金融政策だった。ところが、人民
銀行の緩和策は、直接的かつ粗暴な連続利下げだった。しかも党の機関
紙である人民日報までが、投資家を煽るような記事を掲げていた。これで
は、未成熟な個人投資家が買いに暴走するのも、ある意味では自然であろ
う。つまり、政府・人民銀行主導の株価急騰であり、急落と言える。この中国
株の急落に対して、ウォールストリート・ジャーナルは、「習近平独裁体制に
対する批判が高まっている」と報じた。いかにも、中国的だが、「株価急落→
習指導部の経済失政→独裁批判」とのロジックが台頭しているとのことだ。
中には、痛めつけられた江沢民派の反乱という床屋談義を持ち出す向きま
でいる。株価の騰落まで、派閥争いのネタにするのは、いかにも中国的と言
わざるを得ない。今や上海株の急落は経済・金融的問題ではなく、政治的
マターと化してしまった。
力業サポートの効果は短期間
「習近平の面子」がかかったせいか、当局の株価対策は本格化し始め
た。7/9、上海総合指数は安値3,373をマークする局面もあったが、一気に
切り返して3,709まで反騰した。前日比+5.7%の上昇である。翌10日も続伸
し、V字型反騰を形成しつつある。ひとまずは、暴落の恐怖から逃れること
ができたようだ。最も端的に表すのは、信用需給の好転である。信用買い
残高は、6/18のピーク2兆2,666億元(約44兆円)から、7/8には1兆4,560億
元にまで▲35.7%の急減を見せた(グラフ5)。株価急落の対価として、信用需
給は一気に改善している。これに、SWF(政府系ファンド)、証券会社等々
の「習近平・株価サポート」が強烈に機能し始めている。上海株が戻りに転
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
5
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 5)
急減した中国の信用買残
上海株市場の需給と信用買い残推移
0
1
2
3
4
5
6
7
8
(兆元)
5500
(pt)
5,178pt(6/12)
5000
4,400pt
4500
価格帯別累積売買代金
(上海市場、100pt刻み)
4000
▲34.8%
3500
3,373pt
(7/9)
3000
3,200pt
上海総合指数
2500
2,300pt
2000
1500
25000 6/3
(億元)
7/30
9/26
12/1
1/29
4/3
6/3
8/3
10/2
2兆2,666億元(6/18)
対時価総額比率
20000
深セン取引所
上海取引所
15000
時価総額(上海+深セン)
51.5兆元(6/12)
↓
34.9兆元(7/8)
(右メモリ)
5.1%(7/3)
12/3
▲35.7%
6%
5%
4%
1兆4,560億元(7/8)
10000
3%
信用取引買い残
(左メモリ)
5000
2%
1元=19.54円(7/9時点)
0
6/3
7/30
9/26
12/1
1/29
4/3
1%
6/3
8/3
10/2
12/3
出所:BloombergのデータをもとにMUMSS作成
じたことは良いが、その反発した要因を見ると、「売り方」vs「政府」の力比べ
の様相を呈し始めている。当局は、「悪質な空売り」(どういう定義なのだろ
う?)で儲けたものは検挙するとして、調査を開始している。これは、最早ノ
ーマルな株式市場ではない。今回の混乱は、中国株式市場、そして共産
党独裁国家の特異性を浮かび上がらせた。歴史的に見ると、こうした政府
の腕力による株価サポートは、短期間では効果を発揮する。1992年宮沢政
権で始まったPKO(プライス・キーピング・オペレーション)でも、日経平均を
92年8月安値14,194円から93年9月高値21,281円まで反発させることに成功
した。しかし、その後95年7月には14,295円まで全値押しする展開となった
(グラフ6)。景気実体の改善なき上昇に持続性はない。
ギリシャに見えた曙光
日経平均は、ギリシャ問題と、上海株の急落という二つのファクターに翻
弄される展開が続いている。チプラス首相の気ままな行動・発言で、日経平
均は週明け月曜日 6/29 に 596 円安、7/6 に 427 円安と強烈なワン・ツー・
パンチを喰らっている(グラフ 7)。しかし、春以来のギリシャ騒動にも、ようやく
落とし所が見え始めている。7/9、ギリシャは財政改革案を提示したが、①
飲食店、ホテル等の VAT(付加価値税。日本の消費税に相当)引き上げ、
②離島向け優遇税制の廃止、③低年金受給者への上乗せ支給削減、④
海運会社の増税、⑤国防費の削減、⑥国有資産の民営化に向けた具体的
な工程等々、6/26 の EU(欧州連合)提案の要素を、ほとんど盛り込んでい
る。国民投票まで行ったチプラス首相の豹変は、今に始まったことではない
が、土壇場に来て軟化したようだ。何度も煮え湯を飲まされた投資家にとっ
ては、まだ交渉妥結を信じ難い気分も残っているが、事態は破局の回避へ
と急速に動いている。欧州の霧が晴れる可能性が高まっていることが、日本
株にとってプラスなのは言うまでもない。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
6
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 6)
「往って来い」となった
PKO 相場の日経平均
日経平均(1992年~1995年)
(円)
25,000
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
23,000
21573
(1994/6)
21281
(1993/9)
21,000
19,000
日経平均
17,000
15671
(1993/12)
15,000
13,000
1992/1
(グラフ 7)
2 週間連続で
月曜日にギリシャ・ショック
14295
(1995/7)
14194
(1992/8)
1992/6
1992/12
1993/6
1993/12
1994/5
1994/11
1995/5
1995/11
ギリシャ・ショックと日経平均
(円)
21,500
ギリシャ国民投票
緊縮案否決(7/5)
20952円
(6/24)
21,000
日経平均
638円安
(7/8)
日経平均
20,500
20,000
日経平均
596円安
(6/29)
日経平均
427円安
(7/6)
19,500
チプラス首相(ギリシャ)
国民投票発表(6/27)
19,000
19115円
(7/9)
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
18,500
6/22
ヘッジファンドの大量売り
6/24
6/26
6/30
7/2
7/6
7/8
7/10
中国株急落とギリシャ問題で、日本株に対して最も激しい動きを見せた
のが外国人である。現物株式に株式先物を加えたオールネット・ベースで
見ると、チプラス独自提案で 6 月第 4 週には 6,426 億円の買い越しとなっ
たが、7 月第 1 週は国民投票発表で▲8,416 億円の売り越しだ。7 月第 1
週は、現物▲2,444 億円に対して、先物は▲5,973 億円と依然先物比率は
7 割を超えている(表 1)。そして、国民投票「NO」と中国株の急落があった
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
7
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(表 1)
外国人投資家が
大幅売り越しとなった
7 月第 1 週
●外国人投資家(現物・先物計)
月/週
5月2週
5月3週
5月4週
6月1週
6月2週
6月3週
6月4週
7月1週
日経
平均
-1,229
3,528
1,163
-1,294
-4,220
-898
1,489
-4,222
先物
JPX
TOPIX
日経
-682
-71
1,519
-87
1,450
10
-945 -250
-983 -177
-1,088
-48
1,175
108
-848
-70
(億円)
ミニ先物
小計
小計
日経
TOPIX
【a】
【b】
平均
-1,982
525
524
2
4,959 1,088
-1 1,087
2,623
475
482
-7
-2,489 -427
-430
-2
-5,380 -1,062
8 -1,053
-2,034 -1,499
-3 -1,502
2,772 2,223 -26 2,197
-5,140
-833
-836
3
先物
現物
合計
【c】
【a+b】
-1,457 1,025
6,046 4,376
3,098 3,971
-2,919
403
-6,433 -1,727
-3,536 -1,847
4,969 1,457
-5,973 -2,444
現物・先物合計
【a+c】
-958
9,335
6,594
-2,086
-7,107
-3,881
4,229
-7,583
【a+b+c】
-432
10,422
7,069
-2,516
-8,160
-5,383
6,426
-8,416
(出所)東証、大証のデータをもとに、MUMSS作成
第 2 週は、おそらく 1 兆円規模の売りになっているものと推測される。神出
鬼没が信条のヘッジファンドも、さすがにこの荒れ相場には手を焼いている
ようだ。この 7 月第 2 週の株式先物の手口で注目されるのは、欧州系証券
の手口が目立つのは当然だが、米系の売りが際立っていたことだ。米系 A
証券は、6 日日経先物▲2,235 枚・TOPIX 先物▲787 枚、7 日同▲1,179
枚・▲201 枚、8 日▲1,712 枚・▲861 枚、9 日+1,054 枚・▲1,983 枚、と売
りが目立っている。A 証券は、4/17 時点では TOPIX 先物+117,309 枚の
大ロングを抱えていた。ところが、連日のような売りだ。A 証券はグローバ
ル・マクロ系ヘッジファンドの受注が多いとされているが、2013 年 5/23 の日
経平均 1,143 円安の際にも、同社の手口が目立っていた。また、米系 B 証
券も 2013 年 5/23 の売りが多かったが、7/9 には日経先物▲6,491 枚・
TOPIX 先物▲1,361 枚の売り越しだ。つまり、2013 年 5 月の急落と同じ証
券の売りで、日経平均は 7/9 安値 19,115 円まで突っ込んだことになる。さら
に、米系 C 証券は短期売買が目に付くが、7/6~9 の合計では、日経先物
▲7,476 枚・TOPIX 先物▲7,100 枚で、計▲1 万 4,576 枚の売り越しだ。こ
うした大手の売りは、ポートフォリオのコアにまで手を付けたことを意味する。
日本株は「合わせ切り」の対
象
下値で日本勢の強固な買い
大手ヘッジファンドと思われる売りが続いた背景には、ギリシャ問題、中
国株急落があったのはもちろんだが、相対パフォーマンスが良好な日本株
の利益確定売りを出し易いこともある。中国本土株は資本規制が厳しいが、
香港ハンセン市場ならば自由に売買できる。機敏なヘッジファンドが、昨年
来の中国株高騰に対して指を咥えて見ていたとは思えない。当然、H株(香
港市場上場の中国本土企業)等は活発に売買していたことだろう。ところ
が、これが急落に転じた。また、年初来上昇が続いた欧州株も、ギリシャの
混乱で調整局面入りとなった。米国株は、利上げ懸念からダウ工業株30種
平均の年初来パフォーマンスが±圏をうろついている状況で冴えない。とな
れば、中国株あるいは新興国株、欧州株の損失を補填するのは、日本株が
最適となる(グラフ8)。つまり、日本株の本質的な評価以外に、「合わせ切り」
の対象となった可能性が高い。好パフォーマンスが、逆に売りを招いたとも
言えよう。
ただし、日経平均の7/9ボトム19,115円までの急落で、日本株の足腰の強
さを確認できた面もある。個人投資家は、明らかに逆張りで買い出動した兆
候がある。また、重要なのは、2月下旬以来売りに回っていた信託銀行(年
金勘定)が、7月第1週には2,121億円の大幅買い越しを見せたことだ。(表2)
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
8
2015 年 7 月 13 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 8)
好パフォーマンスが
売り要因となった日本市場
世界株式時価総額と日経平均(ドルベース)
120.0
*2014年末=100で指数化
115.0
日経平均(ドルベース)
110.0
105.0
世界時価総額(ドルベース)
100.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
95.0
12/30
(表 2)
大幅買い越しを記録した
信託銀行(年金勘定)
信託銀行の週間先物
売買差額(億円)
月/週
5月2週
5月3週
5月4週
6月1週
6月2週
6月3週
6月4週
7月1週
現物
-274
-636
585
128
776
-692
465
2,121
先物
69
755
-243
-1,038
-805
164
0
-428
合計
-205
120
342
-909
-29
-528
465
1,694
(出所)JPX(日本取引所グループ)のデータをもとに
MUMSS 作成
1/29
2/25
3/23
4/16
5/18
6/11
7/7
当然、7/9の急落に対しても買い向かったことだろう。GPIFを始めとする年
金資金の買いの可能性が高い。なぜならば、日経平均の19,000円接近は、
予想PERで15倍ギリギリを意味する。これは、慎重な運用スタンスの年金基
金であっても、黙って買いの手を振る割安ゾーンだ。つまり、バリュエーショ
ン的にも、長期資金の買いが促された可能性が高い。逆張り姿勢の個人、
年金の買いに、日銀のETF(上場投信)買いも加わって切り返したものと思
われる。日本株は、割安感が台頭する下落局面では、強固な買い主体が
存在することが確認されたわけだ。日経平均は、5/7安値19,257円、7/9安
値19,115円で、ヘッジファンドの売りを防衛したことになる。年金と同様に、
19,000円台接近は格好の拾い場と解釈できよう。
ただし、ギリシャ問題にはランディングが見えてきたが、中国株はまだ不
安定な動きが継続するものと思われる。なぜならば、7/10時点でも売買停
止銘柄が約47%も存在している。つまり、「売りたいけど売れない」オーダー
は残されたままだ。フルにオープンして、堅調さが持続するか否かを確認す
る必要が残っている。過去の上海総合指数の歴史を見ても、ファンダメンタ
ルズを無視した高騰の後に訪れたのは崩壊だった。政府・当局の力業が機
能する間は良いが、マーケットはそれほど甘くないように思える。まだ楽観
は早い。こうした荒れ相場では、徹底した逆張りが要求されよう。悪材料が
出て押した局面で丹念に拾えば、良好な成果が得られよう。
藤戸 則弘
投資情報部長
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015071332M)
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