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第4章補足

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第4章補足
財政学
小塩隆士『コア・テキスト 財政学』
2004.11.10
第4章の補足
4.1 公共財とは何か
(1) 公共財の定義
消費の排除不可能性 ( 非排除性 ) と非競合性を有する財 (R.A.Musgrave の標準的な定義 )
①排除不可能性 (noexcludability)
対価を支払わない個人を財・サービスの消費から排除しようとしても、技術的に困難かもしくは
排除費用が高すぎて事実上排除できないという性質。
この性質は外部性 (externality) を特徴付けるのに用いられる。
・排除費用が高すぎる例
一般道路の場合、すべてをフェンスで囲むことは費用が高すぎる。(有料高速道路と比較せよ。)
・排除が技術的に困難な例
一般放送電波、灯台からの光、国防などは排除が技術的に困難。
衛星放送の場合は信号の暗号化により排除が可能。
②非競合性 (norivalness)
多くの人が同時に財・サービスを消費し便益を享受できるという性質。
この場合、追加的個人への供給の限界費用はゼロである。
混雑が生じるまではサービスの質が同一 ・・・・道路、公園、映画、講義
全く混雑が生じないと考えられる財・サービス ・・・・国防、衛星放送
非競合性の性質は、
・消費の共同性
・均等消費 (equal consumption)
・不可分性 (nondivisibility)
という用語でも用いられる。
(2) 純粋公共財と準公共財
純粋公共財・・・排除不可能性と非競合性の性質を併せもつ財
準公共財・・・・排除不可能性と非競合性の性質の一方の性質をもつ財
純粋公共財は、国防、司法、一般行政、土木(治山治水)などごくわずか。
政府が供給しているほとんどの財は、公共財と私的財の性質を併せもつ混合財 ( 準公共財 ) である。
a) 部分的に競合性を有し、混雑現象が生じる。
道路、橋梁、教育等
b) 排除可能が可能である。
教育、水道等
c) 財を利用する密度が人によって異なる。
図書館、公園、レクリエーション施設等
d) 便益が距離によって異なる。便益が距離とともに減衰する。
消防、図書館、公園等
e) 価値財の要素をもつ。所得分配上の配慮、倫理的判断が重要。
教育、医療、福祉、交通、公営住宅、上下水道
Page 1
公共財の性質と
タイプ
非排除性
0%
0%
100%
●純粋
私的財
非競合性
準公共財
(混合財)
純粋
公共財●
100%
クラブ財
クラブ財は、利用からの排除が可能で、クラブ内(行政区域内)のメンバーに対しては一定の非
競合性を有する財。
例: 会員制のプール、会員制スポーツ・ジム、テニス・コートなど
4.2 公共財の最適供給
(1) 公共財の便益と費用
(重要事項) 公共財は非競合性の性質から、消費者が均等消費するとみなせる。
しかし、選好が異なれば、公共財の便益(評価)は各人で異なる。
下図では、個人1、個人 B ともに、h0 の量の公共財を消費している。
需要曲線は、個人1(D1)と個人2(D2)で異なる。
価格
S(MC)
MB1+MB2
MB1 + MB2 = MC
E
D1+D2
MB2
MB1
D1
h0
D2
h
(公共財)
(2) 公共財の最適供給条件
① 図解による説明(公共財のみの部分均衡分析)
2人合わせた需要曲線:D1+D2 ・・・・ 2人合わせた限界便益を表す。
公共財の供給曲線:S ・・・・ 公共財供給の限界費用を表す。
公共財供給から得られる社会的純便益=(社会的便益)−(社会的費用)
=(2人の便益の和)−(公共財供給費用)
これから、社会的純便益を最大化する1階条件は、
公共財の社会的限界便益=公共財の限界費用
Page 2
まとめ
公共財の最適(効率的)供給の条件
公共財の限界便益の和=公共財の限界費用
(ΣMBi = MC i は個人)
② 図解による説明(公共財と私的財を含むケース)
私的財:X
公共財:h
X(私的財)
PP: 生産可能性曲線(生産フロンティア)
U1 : 個人1の無差別曲線
U2 : 個人2の無差別曲線
TT: 個人2の消費可能曲線
P
E
X1+X2
E1
X1
U10
E2
X2
T
h*
P
T
U2Max
h
(公共財)
パレート最適の求め方
個人1の効用を所与として、個人2の効用を最大にする。
手続き
a) 個人1の効用を U10 に固定する。
無差別曲線 U10 は、個人1の効用を不変のままに維持できる、私的財と公共財の
消費の組合せを示す。
b) 個人2が消費可能な私的財と公共財の消費の組合せを求める。
生産フロンティア PP と無差別曲線 U10 との縦軸方向の差をとる。
この差の軌跡が、個人2の消費可能曲線 TT である。
c) 個人2の消費は消費可能曲線 TT で制約される。
この下で、個人2の効用を最大化する。(個人2の無差別曲線群を書き入れよ。)
d) 点 E2 で個人2の効用が最大になる。
このとき、個人2は、公共財 h* と私的財 X2 を消費する。
点 E2 での無差別曲線の接線の傾きは個人2の限界代替率(MRS2)である。
e) 個人1の状態は、点 E1 で表される。個人1は、公共財 h* と私的財 X1 を消費する。
点 E1 での無差別曲線の接線の傾きは個人1の限界代替率(MRS1)である。
f) 点 E では、公共財 h* と私的財 X1+X2 の組合せになっている。
点 E での生産フロンティアの接線は限界変形率(限界転換率:MRT)である。
作図の過程から明らかなように、
(点 E2 での無差別曲線の接線の傾き)+(点 E1 での無差別曲線の接線の傾き)
=(点 E での生産フロンティアの接線)
つまり、パレート最適では、
MRS1 + MRS2 = MRT
が成立する。
Page 3
③数式を用いた説明
個人 :1、2
私的財:X、Y
公共財:h
1
2
W = W ( U , U ) ① 社会的厚生関数
U = U ( X1, Y 1, h 1 ) ② 個人1の効用関数
U = U ( X2, Y 2, h 2 ) ③ 個人2の効用関数
1
1
2
2
X1 + X2 = X ④ 私的財 X の需給均衡条件
Y1 + Y2 = Y ⑤ 私的財 Y の需給均衡条件
h1 = h2 = h ⑥ 公共財は均等消費
F(X,Y,h) = 0 ⑦ 生産制約
社会的厚生最大化の1階条件
(②∼⑦の制約の下で①を最大化する1階条件)
i
UY
FY
------ = ------ (i=1,2) ⑧ 私的財の効率的供給の条件(MRS1 = MRT = MRS2) i
FX
1
2
UX
Uh Uh
F
1
2
------ + ------ = ------h ⑨ 公共財の効率的供給の条件(MRS1 + MRS2 = MRT)
1
2
UX UX FX
W 1 U X =
W2 U X ⑩ 分配の公平の条件
パレート最適の条件
社会的最適の条件
⑧と⑨
⑧と⑨および⑩
公共財の効率的供給に関するサムエルソンの公式 ⑨
i
記号の説明 U X
i
=
i
i
∂U
∂F
∂F
i
∂U
∂U
∂W
i
, UY =
,U =
,F X =
, FY =
,W =
(i=1,2)
∂h
∂X
∂Y i
∂ Xi
∂ Yi h
∂ Ui
(3) 公共財はなぜ政府が供給するのか
①公共財の供給を民間に任せておくと、効率的な供給が達成されない。
たしかに、政府が公共財を供給しなくても、個人が自発的に供給する場合もありうる。
(例)道路掃除、自宅前道路に街灯設置、側溝への薬剤散布等
しかし、過小供給になる。
②過小供給になることの説明
ナッシュ均衡の概念を用いる。(J.F.Nash,1951)
個人1の選択が所与のときに個人2の選択が最適であり、かつ個人2の選択が所与の
ときに個人1の選択が最適である場合、この一対の戦略をナッシュ均衡という。
(説明)
・公共財を h とする。
・個人1と個人2は公共財に対して同一の選好をもつと仮定する。
これより、公共財の限界便益 MB(h)は2人にとって同一である。
・個人1は、個人2の供給量 h2 を所与として、効用が最大になる供給量 h1 を決定する。
Page 4
・個人2は、個人1の供給量 h1 を所与として、効用が最大になる供給量 h2 を決定する。
h1+h2 = h
Ph は公共財の価格
個人1
個人1の公共財供給量は、個人2の選択する公共財供給量に依存。
これから、個人1の個人2の選択に対する反応関数を得る。
h1=h(h2)
個人2
個人2の公共財供給量は、個人1の選択する公共財供給量に依存。
これから、個人2の個人1の選択に対する反応関数を得る。
h2=h(h1)
反応関数 (reaction function) の型は、個々人の選好が同一との仮定から同一となる。
U11
h2
U10
U20
C
U21
E
C
N
反応曲線(2人で同一)
450
h1
反応曲線上では、個人1の無差別曲線の接線の勾配は水平
個人2の無差別曲線の接線の勾配は垂直
CC:パレート最適の集合(契約曲線)
ナッシュ均衡は N
結論
ナッシュ均衡(個人的貢献の均衡)N よりも、E が双方の個人にとって望ましい。
つまり、私的な交渉で決まる N 点では、公共財の供給は過小供給となる。
(4) 私的財の最適供給条件との違い
価格
D1: 個人1の需要曲線
D2: 個人2の需要曲線
S
(MC)
D1
D2
D1+D2
Y
(私的財の量)
私的財の場合: 支払う価格は同じで、需要量は各個人で異なる。
したがって、需要の集計は数量軸方向に加算。
私的財の効率的供給の条件は、サムエルソンの公式の⑧で与えられる。
貨幣経済の下では、価値尺度財は貨幣である。------> P = MC
Page 5
(5) 公共財と私的財が両方存在する場合
上記 (2) の②および③を参照せよ。
4.3 リンダール均衡
①リンダール均衡とは何か
リンダール (Erik Lindahl) の理論 (1919 年 )
リンダールは、適正な所得分配が達成されているとの仮定の下で、政府が公共財の価格(租税負担率)
を提示、変更することにより公共財の需要が調整されていくという擬似的な市場を考案し、このリン
ダール価格により公共財の効率的供給が達成される可能性を示唆した。
この政策的含蓄は、政府が租税価格を市民に提示し、市民の反応を見てそれを変更するという手続き
を繰り返せば、効率的な公共財の供給が可能になるということ。
②リンダール均衡の効率性
個人1の負担シェア (α)
1
α
αMax
α0
E
α*
α1
D2(MB2)
D1(MB1)
(1-α)Max
h0 h*
h
(公共財の量)
a) まず、政府が個人1に負担率 α0 を提示すると、個人1は公共財を h0 需要すると表明する。
個人2は、公共財供給が h0 であるとすると、負担率(1 − α1)を受けいれると表明する。
明らかに、2人の負担率の合計は1を超える。
b) そこで、政府は個人1の負担率を引き下げる。個人1は、より大きい公共財供給を望む。
個人2はより小さい負担率を望む。
c) このような調整を繰り返せば、点 E において、
個人1について、MB1 = α* * MC
個人2について、MB2 = (1-α*) * MC
これより、 α* + (1-α*) =1 かつ MB1 + MB2 = MC
したがって、均衡 E では、公共財の効率的供給の条件を満たす。
この均衡 E をリンダール均衡という。
③リンダール均衡の問題点
a) リンダール均衡が社会的厚生を最大にする保証はない。
b) 社会の構成員が多くなるほど、自分の選好を顕示する誘引は弱くなり、ただ乗り誘因が働く。
フリーライダー行動が生じると、パレート最適は達成されなくなる。
c) 公共財が下級財のケースでは、初期所得が増加した場合、高所得者の負担率が下がる。
4.4 公共財の過小供給と過大供給
①ただ乗りによる公共財の過大供給
負担逃れの行動をフリーライダー(ただ乗り)行動という。
・人々は、公共財の排除性の性質によって、負担をしなくてもサービス受けられるならば、サービ
スを過大に需要する。この結果、公共財が過大に供給される。
Page 6
・負担が所与の場合、サービスが多ければ多いほど得であるから、過大に需要し、供給が過大になる。
・フリーライダー行動への誘因は、集団に含まれる個人(住民、国民)が多いど強くなる。
②受益者負担とその課題
負担逃れへの対応として、受益者負担の導入が考えられる。
受益者負担: 受益者が受益の大きさに応じて負担する方式
問題点
・受益者負担を適用するためには、誰がどれだけの便益を受けているかを特定する必要がある。
国防や司法といった純粋公共財では便益の帰属の推定が困難
・便益に応じて負担を求めると、便益を過小申告しフリーライダーとなる誘因が生じる。
問題解決の方策
・消費者への情報の提供(サービ提供の目的、意義)
・便益と費用に関する情報提供・・・費用−便益分析
・公平な所得分配が達成された下での効率達成・・・所得再分配政策の実施
4.5 多数決と公共財の供給
①多数決原理
単純多数決を仮定すると、中位投票者がキャスティング・ボートを握る。
②中位投票者定理
単純多数決の下では、中位投票者がキャスティング・ボートを握る。
中位投票者がキャスティング・ボートを握るとすると、公共財の効率的供給の条件と多数決の結果が
整合するためには、平均的投票者と中位投票者が一致する必要がある。しかし、これを満足するのは、
投票者の分布が左右対称の場合に限られる。
もし、選好の分布が非対称であるならば、多数決で決まる資源配分は非効率的とならざるを得ない。
構成員の間の需要の異質性が大きく、また需要の偏りが大きいならば、それらの同質性が高い場合よ
りも上の条件を満たす保証は小さくなる。
③多数決の結果に不満を抱く人たちの行動
公共財の効率的供給の条件は、
ΣMRS = MRT
社会が N 人の構成員からなるとすると、両辺を N で割って、
ΣMRS/N = MRT/N
この式は、構成員1人当りの平均的限界代替率が1人当たりの平均的限界変形率に等しいことを示す。
政治的プロセスで決まる公共財の供給に満足できるのは、中位の投票者である。
自らの需要が中位の需要より乖離する構成員は不満をもつ。
政府サービスで充足されない欲求を満たすための方法
・他の政府・自治体への移動。ティブー (C.M.Tiebout,1956) が名付けた「足による投票」
・自らがサービスを提供する。NPO によるサービス供給がこれである。
4.6 費用−便益分析
① 費用−便益分析とは何か
資源配分の変化から生ずる経済的便益や費用を測定、評価する技術
② 費用−便益はどこまで含めるべきか
・実物的便益(費用)は計算に含める。
便益・費用は貨幣価値換算する。
貨幣価値換算できないものはできるだけ数量化する。
・金銭的便益(費用)は、計算に含めない。
影響を受ける全体の集団内で、便益と費用が相殺されるからである。
ただし、所得分配に影響するので、分配上の観点からは重要である。
Page 7
例:道路建設
便 益 費 用 実物的
直接的 有形 燃費減少 土地の機会費用、道路建設費用
輸送量増加 無形 時間節約 自然破壊
間接的 有形 事故の減少 振動・騒音被害
無形 快適ドライブ 金銭的 周辺の地価上昇 旧道周辺の地価下落
③ 将来発生する便益をどうどう扱うか
便益と費用は、将来にわたって発生するが、たとえば道路建設をするかしないかは現在時
点で判断しなければならないので、すべて現在価値に換算する必要がある。
bt:t 時点で発生する便益 (t=1,2,..,T)
ct:t 時点で発生する費用 (t=1,2,..,T)
δ:割引率
T:計画期間
便益の割引現在価値は、
b1
b2
bT
B = ----------------- + ------------------2- + … + ------------------T(1 + δ) (1 + δ)
(1 + δ)
費用の割引現在価値は、
cT
c1
c2
C = ----------------- + ------------------2- + … + ------------------T(1 + δ) (1 + δ)
(1 + δ)
プロジェクトの優劣は、便益・費用比率(B/C)で判断する。
B/C が、1を超えて、大きいほどプロジェクトの価値は高いと判断される。
④ 社会的割引率
・時間選好率
時間選好率=(現在消費の限界効用−将来消費の限界効用)/将来消費の限界効用
消費者の将来消費に対する現在消費の評価の程度を表す。
現在消費の評価が高ければ高いほど時間選好率は高い。
今年と来年の 1000 円分の消費を等しく評価する人の時間選好率はゼロ。
・機会費用率
民間投資の限界生産性を表す。公共プロジェクトの実施は民間投資を放棄するこ
とであるから、民間投資の収益率がプロジェクトの機会費用となる。
⑤ 内部収益率
( b1
– c1 ) ( b2 – c2 )
( bT – cT )
--------------------0 = --------------------- + --------------------+
…
+
2
T
(1 + ρ)
(1 + ρ)
(1 + ρ)
B = C とするような(つまり上の式を満たすような)収益率 ρ を内部収益率という。
内部収益率はプロジェクト自体の収益率を表す。
内部収益率が社会的割引率を上回ればプロジェクトの実行が正当化される。
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