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日本記者クラブ会報2013年8月号

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日本記者クラブ会報2013年8月号
2
参院選「 党党首討論会」
会場の目・記者の声
9
「成長戦略」新しい研究会始まる
記者ゼミ 中国編
川島 真 東京大学大学院准教授
阿古智子 東京大学大学院准教授
ワーキングプレス
ネット選挙解禁
エジプト軍事クーデター
毎日新聞 平田崇浩
朝日新聞 川上泰徳
南日本新聞 種子島時大
鹿児島発 県職員の上海研修
問われる公費支出の在り方
長沼節夫
福島中央テレビ 山中利之
被災地通信 福島県いわき市
複雑な様相見せる「浜通り」
マイ BOOK マイ PR
記者研修会
震災、原発、沖縄報道を考え直す
斎藤明元企画委員長を偲んで
中井良則専務理事
静岡新聞 植松恒裕
書いた話 書かなかった話(拡大版)
「拉致事件から 年」の夏
金大中氏と私 反独裁の闘士が大統領となるまでを共に
リレーエッセー
私が会った大谷直人さん
富士山と重なる凛とした姿
40
脇祐三企画委員
青木麗子 DLC・GB コンサルティング社長
川勝平太 静岡県知事
谷川浩司 日本将棋連盟会長
キャンベル 前米国務次官補
グリーン 元米国家安全保障会議アジア部長
中尾武彦 アジア開発銀行総裁
鈴木恵美 早稲田大学イスラーム地域研究機構主任研究員
横田貴之 日本大学国際関係学部准教授
松本正生 埼玉大学教授
渡辺豊博 都留文科大学教授
パルマ 米ボーイング社バイス・プレジデント
ブルートン アイルランド雇用・産業・技術相
田中 均 日本総合研究所国際戦略研究所理事長
近藤誠一 前文化庁長官
クラブゲスト
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Ⓒ日本記者クラブ2013
2013年8月10日第522号
日本記者クラブ会報
公益社団法人 日本記者クラブ 〒100 - 0011 東京都千代田区内幸町2 - 2 - 1 日本プレスセンタービル TEL. 03 - 3503 - 2722 http://www.jnpc.or.jp/
ネット選挙 手探りスタート
フェイスブック用に候補者スタッフが出陣式をタブレット端末で撮影 7月4日/名古屋市
撮影:畦地 巧輝(中日新聞写真部)
第 23 回参議院選 挙
論戦を前に (左から)社民党の福島瑞穂党首、生活の党の小沢一郎代表、公明党の山口那津男代表、民主党の海江田万里代表、
自民党の安倍晋三総裁、日本維新の会の橋下徹共同代表、みんなの党の渡辺喜美代表、共産党の志位和夫委員長、みどりの
風の谷岡郁子代表(撮影:栗田格会員)
若者にもアピールしたい
日本記者クラブでの党首討論
会も 回目となった。今回は第
部にNHK・島田敏男解説主
幹が司会として初登板。第 部
では、2001年以来のベテラ
ン読売・橋本五郎特別編集委員
をキャップとする 記者が代表
質問。 、 部とも司会、代表
質問者の持ち味が出たと思う。
今回の参院選からのネット選
挙解禁を前にライバルが現れた。
ニコニコ動画である。ニコ動は
昨 年 月 の 衆 院 解 散 後 に 続 き、
月 日に党首討論を主催した。
視聴者は 万人で、NHK中継
の当方にはるかに及ばない。だ
が、こちらの討 論 会に対しネッ
トユーザーらはツイッターで「夜
にやってくれ」などとつぶやいて
いたそうだ。
2
会田 弘継
企画委員長 共同通信論説委員長
若者を引きつける党首討論を
考えてみたい。
4
〝発言 分以内〟
でコンパクト化
50
2
1
1
(前列手前から)第1部司会の島田、代表質問の星、橋本、
倉重、実の各企画委員
第
緊張感とユーモアと
島田 敏男
部司会 NHK解説主幹
問・応答の形での討論 巡で終
わっていたが、 回の発言を
分以内に抑えるように要請して
巡に挑戦した。結果は、多く
の党首が協力してくれたおかげ
で何とか 巡達成! 激しい乱
打戦を期待したが、野党党首の
質問は安倍総裁に集中し、自民
強の政治状況を象徴していた。
選挙が終わってみると、あの日、
発言時間を超えがちだった某野
党 党 首 は 結 果 に 恵 ま れ ず、「 発
信 力の強さは時 間 厳 守 から」と
実感した。
2
今回の参院選は、争点もポイ
ントもはっきりしている。アベノ
ミクスをどう評価するか、
「ねじ
れ」が解消されるかどうかであ
り、そうなると、かえって質問
がやりづらくなる。ここはユー
モアも交えながら質したいこと
を質し、党首の人柄も浮かび上
がらせる、という正攻法でいく
しかないと思って臨んだ。
第 部では、意外な「副産物」
が出てきた。安倍氏はあらため
て田中均氏を批判、朝日新聞へ
の日頃の不満が口に出た。江田
憲司幹事長との不仲を聞かれた
渡辺氏は、
「そういう報道は読売
新聞だけだ」と言ってのけた。
「連
立離脱カード」の多用を指摘さ
れた小沢氏が憤然とする場面で
はちょっとした緊張感も走った。
政策論争とは別に、案外「本音」
が出たのかもしれない。
2
橋本 五郎
代表質問 読売新聞特別編集委員
テレビとスチルカメラ計45台が並んだ
2
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1
28 11
1
党首そろい踏みの討論。こ
れを第 部の持ち時間 分間で、
どこまで活発なぶつかり合いに
できるか。答えは「発言がコンパ
クトであることに尽きる」と考え
た。 人の党首による基本的な
主張の後、従来は党首同士の質
1
1
6
9
1
公示日前日、 2 時間にわたって行われた討論会。舌戦後の
企画委員や記者の感想は──。
9党党首討論会 7.3
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 2
政 策論争
実施要領メモ:10ページに掲載
会 場 の 目
■盛り上がり欠いた論戦 参院選の勝利がようやく
手に届くところにきた。余計な失点さえしなければ
いい──。安倍晋三首相の無難な答弁からはそんな
思いが見て取れた。論戦は盛り上がりを欠いたが、そ
れが首相の狙いだったともいえる。一方、野党には
結束して首相を攻める気概が感じられなかった。秋の
臨時国会が「消化試合」にならないよう願うばかりだ。
毎日新聞政治部 官邸キャップ 中田卓二
■いら立ち、割り切り…個性伝わる 党首のやりと
りは質問も回答も 1 分間。政策を語るには短いけれ
ど、いら立ちや割り切り、各党首の個性が伝わって
きた。また、われわれ現場の記者にとっては、大先
輩と党首の丁々発止を間近で見る貴重なチャンス。
容赦ない質問と、表情や声の調子ににじむ信頼関係
など、選挙公約だけでは分からない、人柄を知るこ
とができる 2 時間だった。
テレビ朝日政治部 平河キャップ 藤川みな代
■原子力政策 期待はずれ エネルギー政策のうち、
原子力政策に注目したが、期待はずれだった。「継
続派」には、人道的見地から福島原発事故の被災者
にどう“申し開き”するのか、
「反対派」には、原発な
き後の国民の暮らし、経済をどう維持するのか、責
任ある答えを示してもらいたかった。もとより、制
約ある時間の中で聞くには難しい問題だったか。
東奥日報東京支社編集部 福士和久
■被災地の声 国政に届くのか 原発の論議は深ま
らず、被災地復興はテーマにもならなかった。憲法
改正や経済対策など政権与党の主張が議論の軸にな
るのはやむを得ない面もある。ただ、それが大震災
と原発事故の「風化」を助長する要因にもなり得る
ことを自覚する必要がある。安倍晋三首相は地域版
公約を「県連の希望」とした。被災地の声は国政に
届くのだろうか。
福島民報編集局次長兼社会部長 早川正也
3 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
月 日投開票の結
果、 自 民 党 が 圧 勝。
衆参の「ねじれ」が解
消した。
1990年以来13回目、参議院
選挙では 5 回目の党首討論
会です。各党の主張や選挙
の争点のみならず、党首の人
柄や政治姿勢も浮き彫りにで
きる企画として定着し、有権
者の皆さん、報道各社の注目
を集めていると信じております。今回の参院選は
安倍政権発足後に打ち出されたアベノミクスのみ
ならず、TPP、原発、被災地、普天間をはじめ、
対中韓外交、憲法改正など、盛りだくさんの課題
がテーブルにのっており、久々の政策選挙と位置
付けられています。この後 3 年間、国政選挙がな
いといった憶測も流れています。そうであるなら
ば、なおのこと 2 年、 3 年先をにらんだ本音での
議論をお願いいたします。
自民一強
野党の攻めは
吉田慎一理事長のあいさつ
7
21
討論会前の控室で揮ごうを手に。迷わず一気
に書き上げた
・ 記 者 の 声
ウェブサイトに討論会全文と動画
■テレビからも代表質問者を 各党首がどう答える
かに加えて代表質問者の質問にも注目した。質問内
容はもちろん、どのように問いかけるかという「聞
き方」が勝負を分けるのだ。先輩方の質問の仕方が
たいへん勉強になった。尊敬するジャーナリスト池
上彰氏の「いい質問が政治家を育てる」という言葉の
重みを実感した。代表質問者がテレビからも出るこ
読売テレビ解説副委員長 春川正明
とを願う。
■安倍首相の本音見えた? 選挙前に与野党の党首
が討論して議論が深まらないのはある意味仕方がな
い。時間的な制約に加え、選挙を意識して互いの主
張をぶつけ合うか、批判することが多いからだ。党
首討論も具体的な政策論争は乏しかったが、 1 つだ
け、安倍晋三首相の発言が気になった。次期国会で
憲法改正について「直ち」に発議しないという。微妙
な言い回しだが、環境が整えば会期中に発議すると
もとれる。安倍氏の本音が透けて見えた。
沖縄タイムス編集局次長 平良 武
■党首同士の議論にもっと時間を 記者団がテンポ
良く質問を繰り出す様子には好感がもてた。しかし
民主党をはじめ野党の勢いがいまひとつな中、安倍
首相に質問が集中してしまった印象だ。各党首の主
張に時間を割くよりも、党首同士の議論にもう少し
時間を費やしてほしい。テレビ番組主催の党首討論
などが短い時間枠で行われる中、日本記者クラブの
討論会はじっくり時間が取れて良い。
ダウ・ジョーンズ経済通信東京支局記者
アレキサンダー・マーティン
■野党はアピール不足 今回の選挙は与党の暴走を
止める選挙だと、民主党の海江田さんが言った。で
も、こうした肝心な言葉はこの 1 回だけ。野党側は
もっと攻め、もっと今回の選挙の重要性をアピール
してほしかった。ちょっと残念。
中国中央電視台東京支局長 李衛兵
クラブゲス ト
日本記者クラブチャンネルに会見動画
き
れい
こ
・ ︵月︶シリーズ企画「中国と
どうつきあうか」⑤/司会:泉宏
前企画委員/出席: 人/動画
かわ かつ
へい
た
太
平
川勝
静岡県知事
・ ︵ 火 ︶記 者 会 見/
司 会: 川 戸 惠 子 委 員/
出席: 人/動画
9
53
あお
DLC・GBコンサルティング社長
青木 麗子
70
3
7
川内 十郎
静岡新聞東京支社編集部長
貴き 駿河なる 富士の高嶺
を …」を よ ど み な く、 そ ら ん
世界遺産登録を
じてみせた。
弾みに
ふじのくにづくり
各国の代表から後押しの声
が 相 次 い だ ユ ネ ス コ( 国 連 教
育 科 学 文 化 機 関 )の 世 界 遺 産
委員会を振り返り、
「日本と富士山が
愛されていると感じ、本当に感動し
た」と声を詰まらせる一幕もあった。
知事は就任時から、ふじのくにづ
くりを掲げ、「富士山の日」( 月 日)
を制定した。施策を富士山と関連づ
け て 啓 蒙、 推 進 し よ う と し て い る。
富士が「不二」「不死」とも表記される
ことからオンリーワンや健康長寿を
目指したり、自然への畏敬の念で危
機管理意識を高める─などだ。来年
には「国民の会」を組織し、全国区で
ふじのくにづくりを進めるという。
だが、現状の富士山は登山者のし
尿処理など問題が山積し、登録でよ
り深刻化する可能性がある。知事が
会見で指摘したように、静岡、山梨両
県の県民レベルでの富士山への向き合
い方には隔たりが大きい。スタートラ
インとの認識が強く求められる。
大差で再選を果たした直後に富士
山の世界文化遺産登録が決定、しか
もイコモス(国際記念物遺跡会議)
が
構成資産から外すように勧告した三
保松原も一転、登録された。会見で
川勝知事は言葉の端々に高揚感をの
ぞかせながら、富士山が発するメッ
セージを基本に据えた「ふじのくに」
づくりの持論を展開した。
〝学者知事〟
の得意分野だけに、持ち前のパフォー
マーぶりがひときわ、さえた。
自然の産物である富士山が、なぜ
文化遺産か。知事は人工物を文化と
とらえる西洋的な考えとは違い、自
然の中に最高のモデルを見いだす日
本独自の価値観が根底にあるとした。
登録の意義を「日本の持つ自然観や
文化観が、世界に公認された」と強
調した。富士山が古来から信仰や芸
術の対象になっている例を挙げ、万
葉歌人の山部赤人が詠んだ長歌「天地
の 分かれし時ゆ 神さびて 高く
23
8
前企画委員 時事通信出身 泉 宏
2
7
「中国人よりうまい中国語」を駆使
ほとんど関心がない」とし、
「
(外交上)
し、福岡を本拠に約 年にわたり中
これ以上こじれさせるのは日中双方
国語通訳業をベースに、日系企業に
にとって得策ではない」という共通
よる対中国ビジネスのサポートなどを
認識を持って、当面は冷却期間を置
手がけてきた青木麗子氏。中国人と本
くことが肝要と強調。日中首脳会談
音で話せる数少ない中国専門家とし
については「とりあえず第 国での会
て、日中のあるべき姿を率直に語った。
談を」と欧米での国際会議などで接
触の道を探るのが早道と指摘した。
父親の仕事の関係から中国の地方
都市で生まれ育ち、文化大革命も体
その上で今後の日中外交のカギは
験した。帰国後は自然に身に付いた
「人」だとし、政界、財界、地方都市
中国語をさらに磨き、福岡県職員を
などによる重層的交流が関係改善に
経て中国語通訳として独立、習近平
結び付くとの考えを示し、安倍晋三
国家主席ら多くの中国要人訪日の際
首相ら政界要人には「成熟した民主
のメーン通訳を担当する一方、日中
主義国家として『情』ではなく『理』を
基本とする日中関係を目指し
てほしい」と語った。
「日中の懸け橋になる」こと
中国要人に
を人生の目標とし、福岡県上
「反日家」はいない
海事務所上級顧問など多くの
役職を担っての訪中はすでに
600回 を 超 す。「 中 国 の 心
が分かる日本人」として中国人の本
音を聞き、交流の最前線で日中友好
を切望する青木氏。控室では鑑真和
上に渡日を決意させたという奈良朝・
長屋王の招請文にちなみ「風月同天」
と揮ごうした。
30
ビジネスのコンサルタントなど幅広
い活動を続けている。
通訳として接した中国要人たちの
素顔については「誰もが日本との関
係改善を望んでいる。
『反日家』は実
は 人もいない」と力説した。尖閣
問題についても「中国の一般国民は
1
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 4
たに がわ
こう じ
司
浩
日本将棋連盟会長
・ ︵火︶昼食会/司会:面出輝
幸監事 山村英樹毎日新聞学芸部
編集委員/出席: 人/動画
カート・キャンベル 前米国務次官補
マイケル・グリーン 元米国家安全保障会議アジア部長
・ ︵ 火 ︶記 者 会 見/
司 会: 軽 部 謙 介 委 員/
通 訳: 澄 田 美 都 子/出
席:161 人/動画
16
とや、今年 月の米
中首脳会談の際にオ
バ マ 大 統 領 が「 日 本
は同盟国であり友人
だということを、あ
なた方は理解する必
要 が あ る 」と 中 国 側
に言い渡していたこ
となどを明らかにし
てくれた。抽象的な
議論よりも、こういう「内幕の暴露」
に興奮してしまうのはジャーナリス
トの性か。
両氏はシンクタンク「日本再建イ
ニシアティブ」の特別招聘スカラー
として、新しい戦略ビジョンづくり
に参加する。同じく政権中枢にいた
ジェフリー・ベーダ―氏は近著『オ
バ マ と 中 国 』( 東 京 大 学 出 版 会 )の 中
で、日本人が米政府高官を「親日」「親
中 」と 色 分 け す る こ と に つ い て「 短
絡的」と批判しているが、
「良心的知
日派による提言」というレッテル貼
りが堂々とできるような、中身のあ
る処方箋を両氏に期待したい。
7
軽部 謙介
企画委員 時事通信解説委員長
6
16
年少で就き、数々のタイトルを奪取
した。最短距離で詰ませる「光速流」
に多くの将棋ファンが熱狂した。
ところが、最近タイトルに縁遠い。
自分のことだけを考えていればいい
勝負師時代と違って、組織の運営に
も心を砕く股裂き状態が影響してい
るのか。谷川さんがこのまま終わっ
て い い は ず は な い。「 歳 を 過 ぎ る
と記憶力が衰えてきた。研究したこ
とを整理するのが難しくなった。で
も年齢に応じた戦い方があるはずで
す。 知 識 や 情 報 に 頼 る の で は な く、
前例のない展開に持ち込み、経験が
生きるような指し方です。ねじり合
い、力勝負の将棋で活路を見いだし
た い 」。 中・ 終 盤 の ね じ り 合 い で は
若い者には負けないぞ、の気迫は一
向に衰えていない。谷川将棋人生の
大局観はまだまだ健在なのである。
コンピューター将棋ソフトが現役
プロ棋士を負かしたことが話題になっ
た。「 コ ン ピ ュ ー タ ー は 感 情 が な い
ので気持ちが折れない。疲れも知ら
ない。生身の人間とそこが違う」と、
棋士とソフトの力が拮抗しているこ
とを認めた。
ニクソン政権が沖
縄返還の方針を決め
た「 国 家 安 全 保 障 決
定 メ モ 号 」の よ う
に、米政府は統合的
な対日政策をまとめ
ることが多い。ホワ
イトハウスや国務省
の中枢にいたキャン
、グリーン
ベル(左)
両氏だけに、ワシントンの雰囲気だ
けでなく内部討議の断片も垣間見え
ればと期待した。
お二人とも安倍晋三首相の経済政
策「アベノミクス」には期待をかけて
いる様子で、経済の復活が日本にとっ
て最優先課題であることを強調。ま
た「韓国との関係がここまで悪化し
てしまったことに危機感を抱いてい
る」(グリーン氏)
というあたりは、様々
な含意を込めた安倍政権へのシグナ
ルなのだろう。
時に慎重な物言いだった両氏だが、
小泉純一郎首相(当時)
の靖国神社参
拝をめぐって米政府内で集中的な議
論が交わされ、最終的にはブッシュ
大統領(同)
が不介入政策を決めたこ
「良心的知日派」の
処方箋に期待
7
元毎日新聞論説委員 近藤 憲明
13
41
40
谷川
年前、谷川さんを神戸市のご実
家で取材したことがある。高校 年
生で 段だった谷川少年は周囲から
将来の名人と騒がれていた。駆け出
し記者の私は、将棋好きのデスクか
ら「将棋の強さって何か、の質問だ
けは外すな」と忠告された。この質
問に少年は動じる風もなく「大局観
ですね」と即答した。へぼ将棋の私
で も「 こ り ゃ 確 か に 天 才 少 年 だ わ 」
と感じ入った。立ち居振る舞いも流
れるような優雅さがあり、能の舞い
を見ている感じだった。年齢を詐称
1
谷川将棋人生の
大局観
いまだ健在
していると疑いたくなる落ち着きが
あった。
年 ぶ り に 同 じ 質 問 を し て み た。
歳になられた日本将棋連盟会長は
「やはり大局観ですね」と答えづらそ
うだった。この間、名人位に史上最
5 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
35
6
35
51
フェイスブック、ツイッターでホームページの更新情報をお知らせしています
ク ラブゲスト
なか
お
たけ ひこ
総裁
アジア開発銀行(ADB)
・ ︵ 水 ︶記 者 会 見/
司 会: 安 井 孝 之 委 員/
出席: 人/動画
すず き
え
み
・ ︵木︶ ・ ︵金︶/研究
会「エジプト情勢 これからど
うなる」① ②/司会:脇祐三
委員/出席: 人 人/動画
7
18
脇 祐三
企画委員 日本経済新聞コラムニスト
暫定政権は、法律専門家を中心に
憲法をつくり、その後に議 会と大統
領の選挙を実施する行程表を示した。
だが、鈴木氏は「行方を楽観できる要
素はない」と言い切る。
「同胞団の一部
が過激化し、暴走するリスクもある」
と横田氏は言 う。そして、経済状況
が好 転しないと、国民の不 満がまた
爆発して政治を揺さぶることになる。
同胞団排除を歓迎するアラブ首長
国連邦(UAE)
、サウジアラビアなど
が、資金繰りの危機が続くエジプトへ
の援助を約束した。一方で、国際通貨
基 金(IMF)
の 融 資の 前 提 と な る 補
助金削減などの実行は難しい。
「誰が
政権に就いても、国民の顔 色をうか
がい、痛みを伴 う 構造改革に踏み切
(横田氏)
ジレンマだ。
れない」
米国や欧州連合(EU)
は軍の介入
と流血拡大に懸念を示しつつも、エ
ジ プ ト 向 け 援 助 は 続 け る。「 エ ジ プ
トの破綻回避が、とりあえず重要だ
から」と横田氏は指摘した。経済的
な側面も含めて政治危機の理解を深
めることができる研究会だった。
鈴木 恵美 早稲田大学イスラーム地域研究機構主任研究員
よこ た
たか ゆき
横田 貴之 日本大学国際関係学部准教授
エジプトで軍がモルシ政 権 を倒し
た。ムスリム同胞団はこれに抵抗し、
流 血の衝 突が 広がった。政 変につな
がった社会の分裂は、
「イスラム主義
か世俗主義かではなく、同胞団支持
か反同胞団かの対立だ」と鈴木氏は強
調した。横田氏は「焦点は経済運営。
生活苦への国民の抗議、政権への支持
率低下に乗じて軍が動いた」と説いた。
一昨年のムバラク政権崩壊、そして
今回と、街頭のデモ拡大を受けて軍
が大統領に引導を渡した。選挙に基
づく民主化ではない「路上民主主義」
(鈴 木氏)
だ。
「 制 度 化 され た民 主 主 義
よりも、ストリート・ポリティクスの
(横田氏)
。
方が強いと人々は考える」
26
48
7
62
彦
武
8
7
17
陰徳を積んできたことへの評価があ
る 」。 日 本 の ア ジ ア で の 存 在 感 を 強
調した。
減速する中国経済への見方につい
ても質問が出た。
「影の銀行(シャドー
バンキング)
」に象徴される金融不安
の影響を織り込んでも「大失速はな
い 」。 前 職 の 財 務 官 時 代、 中 国 政 府
高官と積極的に意見を交わしてきた
経験を披露し、不動産開発や投資に
頼った成長を変えようとしている政
策を評価。その上で「分かっていて
も、スムーズに移行していけるかど
うかが課題」と指摘した。
就任 カ月余りで カ国を歩いた。
月中旬には中国を訪ね、財政相と
会う。総裁訪中の恒例だった首相や
副首相との会談は実現しそうにない
が、「ADBと 中 国 の 関 係 に 問 題 は
感じない」
。
「中立な国際機関」のトッ
プとして日中の対立の影響を否定し
たものの、地域の「 大国」の関係の
微妙さものぞいた。
会見は予定より 分近く延長され
た。多様なアジアで、異なる背景を
持つ相手との対話を楽しむ人柄は強
みになりそうだ。
2
朝日新聞編集委員 吉岡 桂子
エジプトの行方
経済がカギに
中尾
訪問先のモンゴルからADBの本
部があるマニラに戻る途中、半日ほ
ど滞在した東京で会見した。日本の
アジアでの立ち位置を探り、確認す
るような発言が続いた。
ADBのトップは1966年の設
立以来、 代目となる中尾氏を含め
てずっと日本人。日本は米国と並ぶ
最大の出資国でもあり、対抗馬が出
たこともない。一方で、援助を受け
てきた中国が地域最大の経済規模を
すでに10カ国訪問
対話楽しむ
人柄強みに
持つようになり、パワーバランスは
確実に変わっている。
「ADBを 日 本 の 経 済 協 力 の 別 動
隊と言う人もいたが、やはり日本へ
の期待は大きい」「日本はアジアの成
長を地域の安定と日本企業のビジネ
スチャンスと考えて支援してきた」
「戦略、政治、軍事の意図はなかった。
9
74
10
2
30
クラブゲス ト
日本記者クラブチャンネルに会見動画
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 6
フェイスブック、ツイッターでホームページの更新情報をお知らせしています
ク ラブゲスト
まさ
お
生
正
まつ もと
松本
埼玉大学教授
・ ︵ 火 ︶研 究 会「 参 院 選 後 の 日
本 民意をどう読むか」①/司会:
川戸惠子委員/出席: 人/動画
3
23
91
原田 哲哉
読売新聞東京本社世論調査部長 教授の言葉に、あらためて身が引
き締まる思いだ。
2
7
だ。今回の参院選から解禁
さ れ た ネ ッ ト 選 挙。 政 党、
世論調査
候補者、有権者ともに戸惑
中高年者に増える
〝その都度支持層〟 いながらツイッターなどを
利用したのが実情だったよ
う だ が、 政 党 向 け に「 好 ま
れる(嫌われる)キーワード」を提示
するサービスも始まっているという。
しかし、教授は「政治が企業と同
じようなリスク管理をやってどうす
るのか」と疑問を呈す。「炎上」する
リスクを避け、気に入られる言葉ば
かり口にする選挙に意味があるのか。
私もネット選挙を見ていて、街頭演
説の日程や他愛もない感想が目立つ
状況に違和感を覚えた。
最近、世論調査などは「スモール
データ」と呼ばれているという。
「 報 道 機 関 が 責 任 を 持 っ て 品 質 管
理 し て い る 世 論 調 査 は 社 会 的 財 産。
いろいろな批判はあるが、きちんと
したデータがあるのは大事なこと。今
後 ~ 年国政選挙がないとすれば、
世論調査は一層重要になってくる」
「アベノミクスには不安もあるも
のの、それも含めて安倍さんに託す
しかない。参院選で示された民意は
そんな感じだったと思います」
「選挙のたびに投票先を変える『そ
の都度支持層』は中高年齢者が多く
なっている。その背景には、社会の
無縁化がある」
的確な指摘だった。
実際、当社の出口調査では、民主
党、日本維新の会、みんなの党の支
持層も、 ~ 割が選挙区で自民党
候補に投票していたし、無党派層の
年齢構成は ~ 歳代が特に多いと
いうわけではなかった。
地域コミュニティーの弱体化で、か
つてはリタイアした後、特定の支持
層に組み込まれていた高齢者も、今
では選挙のたびに支持を変えている
という分析に共感する。
そんな読みにくくなった民意を測
る上で、興味深いのが「ビッグデータ」
わた なべ
都留文科大学教授
とよ ひろ
博
豊
渡辺
「富士山が壊れる」
世界基準で
守りたい
裾野に点在するゴルフ場、草むら
に捨てられた空き缶の固まり、山小
屋から流れ出たし尿の跡…。映し出
された画像を前に、渡辺教授は「こ
れも富士山の実態」と訴えた。富士
山の環境保全や世界遺産の登録運動
で活躍した経験を買われ、大学で「富
士山学」を教える渡辺氏。
「世界遺産
の登録で富士山が壊れてしまうので
はないか」と危機感を募らせている。
富士山が「壊れる」理由はさまざま。
▽登山者の激増と事故の多発化▽弾
丸登山や無謀登山の増加▽その場し
のぎで後手の行政の対策▽静岡県と
山 梨 県 の 思 惑・ 利 害 の 相 違 な ど と、
厳しい指摘が相次ぐ。
「課題が何ひとつ解決していない」
という現状を踏まえ、富士山を再生
させるための「処方箋」を提案する。
▽「富士山庁」の設置による一元管理
▽環境保全法としての「富士山法」の
制定▽富士山基金の創設など。一番
・ ︵ 水 ︶囲 む 会/
司会:瀬口晴義委員/
出席: 人/動画
24
62
の問題は、富士山を管理する体制が
一 本 化 し て い な い 点 だ と 力 説 す る。
文化遺産としては文化庁、国立公園
では環境省、その他国土交通省、林
野庁、地元の静岡県、山梨県…。「縦
割り行政」の縮図のような保全管理
の体制は、
「欧米の世界遺産(国立公
園)では考えられない」とした上で、
責任の所在を明確にし、一元管理を
する機関を国が設置すべきと主張す
る。そこには「役人」だけでなく、専
門家やNPO法人のメンバーも加え
るべきと考えている。
なぜそこまで富士山にこだわるの
か。「 富 士 山 を 変 え れ ば、 日 本 を 変
えられるから」だと説明する。富士
山の官僚主義的・中央集権的な管理
の在り方を改め、新しい仕組みをつ
くるのは、日本の国家システムを変
えることと同じという。
世界遺産登録の祝賀ムードが漂う
中、 あ え て 厳 し い 発 言 を す る の は、
富士山を愛してやまないか
らか。
「世界基準」で富士山
を守りたいという渡辺氏の
今後の活動に注目したい。
7
柳沢 伊佐男
NHK解説委員
7 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
2
30
1
20
19
洋一
日本経済新聞編集委員 滝田
1 3
リチャード・ブルートン
・ ︵ 木 ︶記 者 会 見/司 会:
軽部謙介委員/通訳:宇尾真理
子/出席: 人/動画
30
4
アイルランド雇用・産業・技術相
7
い。債務危機前に %だった失業率
は %となったが、産業競争力を高
め輸出を増やすことで、経済再建を
軌道に乗せたという。
欧州連合(EU)
とユーロ圏の「ゲー
トウエー(玄関)」として、世界中の
企業を呼び寄せ、研究開発や先端技
術の拠点として生き残る。そんな経
済戦略を国民が共有しているからこ
そ、財政危機下でも法人税の税率は
欧州で最低の ・ %に据え置いた。
緊縮策には国民の反発も強かった。
年の総選挙では、それまで合わせ
て 議席あった連立与党 党のうち、
党の議席は に。残り 党も 議
席に激減した。それでも、経済改革
を進める以外に道はない、との合意
は崩れなかったという。
艱難辛苦の末に政府が市場で債券
を発行することが可能になり、国際
通貨基金(IMF)
による管理体制に
も 終 止 符 が 打 た れ よ う と し て い る。
雇用の創出など課題は多いが、針路
は誤っていないという自信がブルート
ン氏の表情からうかがわれた。
しからば、日本の財政立て直しは?
ふと胸に手を当ててしまった。
25
12
5
0
・ ︵水︶研究会「サイバーセキュ
リ ティ」⑥/司 会: 杉 田 弘 毅 委 員/
通訳:高松珠子/出席: 人/動画
かの国の首都、ダブリンを取材で訪
ねたことがある。2011年の晩秋、欧
州債務危機に見舞われた後である。南
欧の重債務国がデモで揺れていたの
に、この街はとても落ち着いていた。
銀行が危機に陥り、膨大な財政資
金を使って穴埋めしたので、しまい
には政府が傾いた。イソップ物語に
出てくるアリたちのように、この国
の人たちは黙々と働き、経済と財政
の立て直しに取り組んできた。
来日したブルートン氏が語ったの
も、至って真面目な経済の話だった。
公務員の人件費を ~ %切り詰め、
人員も %削減した。銀行の再建の
ためには640億ユーロの税金を投
入した、等々。
640億ユーロといえば、円に換算
して ・ 兆円。人口500万人に満
たない国の納税者の肩にズシリと重
20
24
手段」という言葉は迫力がある。
しかし、この %の阻止は簡単で
はない。対策を新たに打ち出しても、
敵はさらに新しい攻撃方法でそれを
打ち破るというイタチごっこの世界だ。
実際に攻撃があったことが分かる
のは、攻撃初日から平均して156
日後。この間被害者は攻撃されたこ
とも分からずに、ネットワークは機
能を失いデータを盗まれる。
悪化するサイバーセキュリティ環
境を改善する決め手は教育だ。サイ
バー教育、サイバー倫理などを子ど
もの頃から教えることで、サイバー
攻撃の犯罪性を意識させる。ボーイ
ン グ 社 も 福 島 県・ 会 津 大 学 の サ イ
バ ー セ キ ュ リ テ ィ 人 材 育 成 講 座 に、
人災トレーニング演習装置「クライ
アブ」を提供し、技術協力を行う。
「サイバー戦争」といった感のある
デジタル空間では、
「防御という名の
下でほとんど攻撃と呼ぶべき行為も
行われている」と語った。
「攻撃と防
御の線引きが難しい」この世界の出
現に向き合う新たな安全保障政策づ
くりが迫られている。
15
ブライアン・パルマ
20
77
杉田 弘毅
13
11
86
2
サイバー戦争
防御と攻撃は
表裏一体
80
7
企画委員 共同通信編集委員室次長
経済再建
軌道に乗せた
自信と信念
20
米ボーイング社バイス・プレジデント サイバーセキュリティ担当
20
米ボーイング社と言えば、軍用、民
間問わず航空機メーカー、あるいは
世界のトップ防衛産業として知られ
る。今は防衛の喫緊の課題であるサ
イバーセキュリティにも力点を置く。
パワーポイントを使った話は分か
りやすかった。政府組織や企業に対
するサイバー攻撃の %は一般的な
ソフトウエアで阻止できるが、残り
%をどれだけ食い止めるかで、
「勝
者と敗者が決まる」
。
ボーイング社の企業向けサイバー
セキュリティ・サービスはこの %
の対策のために、①攻撃の評価②攻
撃を予測した訓練③実際の攻撃の予
防─を提供する。特に重要なのは②
の攻撃を予測した訓練だ。徹底した
シミュレーション訓練で予防するス
キルを身に付ける。
米大統領らを守るシークレット・
サービスの特別捜査官をしていた経
歴を持つだけに、
「訓練こそが上達の
3
10
8
クラブゲス ト
日本記者クラブチャンネルに会見動画
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 8
7
こん どう
せい いち
一 前文化庁長官
誠 ・ ︵月︶記者会見/司会:
会田弘継企画委員長/出席:
人/動画
7
29
に関わったが、当時から世界遺産の
「政治化」を懸念していたという。三
保松原を含めた富士山の登録も「自
分の案件は政治化してひっくり返し
た」と見られないよう、気を遣った。
プノンペンではまず、 人の「世
界遺産委員会の権威」と接触。イコ
モスが、富士山から キロ離れてい
ることを問題視した三保松原につい
て「目に見えないつながりがある。価
値を主張しても政治的プレッシャー
にはならない」との評価を得る。こ
の評価を後ろ盾に、物的証拠重視の
イコモス勧告を、厳格に尊重しよう
とする委員国を説得していった。
「どんな交渉も人間関係が大事」と
振り返る近藤氏。委員国の大使らと
は気心の知れた仲で、趣味や経歴も
調べて長く関係を維持してきたから
こそ「最後に分かってくれた」。
今後の世界遺産戦略は「目に見え
ない価値の主張は、次もうまくいく
保証はない。物的証拠のあるものに
絞ることが必要」と指摘。外交交渉
も世界遺産戦略も、基本を見直す時
だ、とのメッセージに聞こえた。
37
藤井 裕介
朝日新聞文化くらし報道部 4
近藤
文化庁長官を退任した近藤氏は、無
理とみられた「逆転」の立役者として
注目されている。
近年、イコモスが「登録延期」など
を勧告したものが、世界遺産委員会
で 覆 る 例 が 見 ら れ る よ う に な っ た。
登録数の少ない一部途上国が中心に
なり、委員国に政治的なプレッシャー
をかけて「逆転」させるのだという。
近藤氏は外交官出身で、ユネスコ
日本政府代表部大使時代の2007
年には石見銀山の世界文化遺産登録
外交も
世界遺産も カギは
人間関係
7
ひとし
10
・ ︵金︶研究会「参院選後の日本 民
意 を ど う 読 む か 」②/司 会: 山 岡 邦 彦 委
員/出席:117 人/動画/会見詳録
月にカンボジアのプノンペンで
開かれたユネスコ(国連教育科学文
化 機 関 )の 世 界 遺 産 委 員 会 で、 富 士
山 の 世 界 文 化 遺 産 登 録 が 決 ま っ た。
ユネスコの諮問機関・国際記念物遺
跡会議(イコモス)が、景勝地として
知られる三保松原を、構成資産から
除外するよう事前に勧告したが、三
保松原も含めて登録された。 月に
6
た なか
中国を変える
戦略的外交を
5
7
企画委員 読売新聞論説委員
山岡 邦彦
45
日本総合研究所国際戦略研究所理事長
1
26
急 速 に 大 国 化 す る 中 国 に は、
さまざまな懸念がある。
中国を「建設的な国」に変えて
いくために、
「今から戦略を立て
ていかなければいけない」と、田
中氏は熱を込めて語った。
「 外 交 と は、 目 的 達 成 と い う 結 果
を作り出すこと」というのが持論だ。
東アジア情勢の変化を分析し、中
国が抱える つのリスクを列挙して、
日本がとるべき戦略と目指すべき現
実的な外交の形を描き出した。興味
尽きない 分であった。
質疑応答では、安倍首相がフェイ
スブックで田中氏を「外交を語る資
格はない」と批判したことに関連し
て、
「何か影響はあったのか」との質
問も出た。
「コメントしない」の一言に続けて、
「自由闊達な議論をしたいという気
持ちが損なわれているわけではない」
と、今後も論じ続ける意志を隠そう
としなかった。
外交戦略家としての矜持だろう。
揮ごうの「正念場」も含蓄に富む。
5
90
田中 均
3
外務省きっての論客といわれた頃
からのクラブゲストの常連だ。 度
目の今回は、民間人の立場で、参院
選後の日本に求められる外交戦略を
大いに語ってもらった。
自 民 党 の 圧 勝 に よ っ て、 こ の 先、
最大 年間は国政選挙がないと見込
まれている。 年ごとの首相交代で
「回転ドア」と揶揄されてきた日本の
内 閣 も、 よ う や く 落 ち 着 き そ う だ。
アベノミクス経済の評価もおおむね
高い。この「大きなチャンス」を安倍
政権はどう生かすのか。
田中氏によれば、日本外交の最重
要 課 題 と は、
「中国を脅威でないよ
うにすること」に尽きる。
沖縄県・尖閣諸島周辺では日中の
緊張が高まり、日本は静かな実効支
配ができなくなった。中国の軍事的
膨張の趨勢を見れば、 ~ 年後に
圧倒的な軍事力を持つ大国が日本の
すぐ横に存在するようになる。
9 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
フェイスブック、ツイッターでホームページの更新情報をお知らせしています
ク ラブゲスト
シリーズ企 画
─
参院選 党
─実─施─要─領─メ─モ─
党首討論会
▼日時
月 日 : ~ : (公
示 月 日)
▼参加党首 安倍晋三自
民党総裁、海江田万里民主党代表、橋
下徹日本維新の会共同代表、山口那
津男公明党代表、渡辺喜美みんなの党
代表、小沢一郎生活の党代表、志位和
夫共産党委員長、福島瑞穂社民党党
首、谷岡郁子みどりの風代表▼会場
も、秋以降の宿題になった。
成長戦略や規制改革案のとりまとめにあたっている
人、新たなビジネス分野の拡大をめざす企業経営者な
える場はメディアにとって欠かせない──。
企画委員会での議論を踏まえて、成長戦略研究会が
スタートしました。多くの会員、加盟各社の現役記者
(企画委員 日本経済新聞コラムニスト 脇 祐三)
質問した。回答時間は各 分とした
▼総 合 司 会:小 栗 泉、第 部 司 会:
島 田 敏 男、代 表 質 問 者:橋 本 五 郎、
星浩、倉重篤郎、実哲也の各企画委
員▼過去 回の党首討論会同様、現
役優先でプレス会員社に人数を振り
分けた。ペン取材174人。スチルカ
メラは 東 京 写 真 記 者 協 会 社 取 材、
外国通信 社と、在日外国報道協会
(FPIJ)代 表EPA通 信。 参 加 総
数は299人▼放送はNHKが総合テ
■会見動画「日本記者クラブチャン
ネ ル 」で ど う ぞ ほぼすべての記 者
会見とゲストの了解を得た研究会の
動 画 をYouTube日 本 記 者 クラ ブ
チャンネルで見ることができます。翌
日か翌々日にはアップしています。ク
ラブ・ホームページのトップ画面から
もアクセスできますので、クリックし
てみてください。ゲストの生の声 と
会見場の雰囲気を〝取材〟できます。
■会見の文字アーカイブ 会見詳録
注目の会見や資料価値の高い研究会
の全文をPDF版でホームページに
掲載しています。テープ起こしから
整理・編集に時間がかかりますので
ホームページにアップされるのは翌
月以降になりますが、印刷してじっ
くり読むこともできます。ご活用く
ださい。
レビで生中継(ラジオも同 様)
。視聴
率 は 関 東 ・ %、 関 西 ・ %。
民 放 はTBSテレビが 代 表で中 継 取
材。情報番組や夕方、夜のニュースで
取り上げた。ENGはニュース映画協
会 代 表 テレビ朝 日、FPIJ代 表 新
華社通信のほか国内 社、外通 社
が取材。民放ラジオは国会放送記者
会から 社が取 材。カメラは、中 継
や党も含め、テレビ 台、スチル 台
の計 台が会場に並んだ。
3
景気を下支えしていくための経済環境整備策であり、
民間の投資を引き出して成長につなげる成長戦略が、
アベノミクスの成否のカギを握る。
権の成長戦略と似た内容が多く、黒田日銀の金融政策
階ホール。昨年 月 日開催の衆
院選党首討論会と同様、左壁側にメー
ンステージを置き縦長に設 営▼進行
第 部= 党党首が有権者に一番訴え
たいことを、フリップ(控室で記入)
を
用いながら主張(持ち時間 分)
。その
後、党首同士の討論。党首が相手を指
名して質問し、それに答 える形式で
( 持 ち時 間 各 分 )
、 党順番に 巡
行った。第 部=会 場から寄せられ
た質問を参考に企画委員会の代表が
3
の参加を期待しています。
1 1
8
1
6
20
5
25
3
7
45
どの声を直接聴き、日本の経済成長に何が必要かを考
12
6
のような異次元性が乏しかった。既得権のからむ農業、
2
大胆な金融緩和、機動的な財政出動、新たな成長戦略
05
政府が 6 月にまとめた戦略のメニューは、過去の政
1
安倍政権が経済政策の 3 本の矢に位置付けたのは、
15
なポイントだ。
30
9
首相は「実行なくして成長なし」と意欲を見せている。
05
を、どう緩和し、撤廃していくかが、成長戦略の重要
11
の臨時国会を「成長戦略実現国会」とする考えを示した。
13
たな投資や雇用の妨げになっているさまざまな規制
1
参院選での自民党圧勝を受けて、安倍晋三首相は秋
3
成長戦略とは経済構造を改革する戦略でもある。新
9
2
新しい研究会始まる
9
7
4
10
1
「成長戦略には何が必要か 現場からの視点」
7
だ。金融緩和と財政出動は、まずデフレから抜け出し、
医療、雇用などでの「岩盤」の規制をどう改革するか
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 10
記 者ゼミ 中国編
未整備の社会保障制
度、深刻な就職難など、
「中国夢」掲げ
国内問題は多岐にわた
領有権主張は
り、共産党の支配を揺
危険なゲーム
るがし始めているとい
う。将来が見通せない
不安感から習氏が「夢」を見させざる
を得ないという背景だ。
「偉大なる復興を遂げる」こ
ただ、
とと定義されるこの「中国夢」
。外国
から領土を奪われ続けたとされる「屈
辱の歴史」からの復興だとしても、
「中
国がどれだけ領土を広げれば復興と
言えるのかが見えない」と指摘する。
し、台湾で最後かと思われたが、根
拠の薄い東シナ海と南シナ海での領
有権も主張し始めた過去がある。国
境問題を解決したロシアでさえ、さ
らなる領有権を求めてくるのではな
いかと危惧しているとみる。
国内問題が深刻化する中、領有権
を主張することで復興の「夢」を訴え
続け、国民の支持をつなぎとめてい
る の だ と い う。 だ が、「 こ れ は 危 険
なゲーム。自分たちであおっている
半面、関連した運動は抑えづらくな
る。もろ刃の剣だ」と語気を強める。
おいて中国を封じ込めるつもりはな
く、可能な範囲で協力をする姿勢で
あると説明。米国に歩調を合わせる
韓国と、そうでない日本とに対して
米国の態度に差が出てくるのではな
いかと懸念を示した。
ゼミ後の懇親会では、今後の日中
関係の展望に対する見解を求める出
席者に囲まれた。
共同通信外信部 稲葉 俊之
・ ︵月︶記者ゼミ②「中国夢」
「中華民
族の偉大な復興」とは何か、なぜ必要か/
司会:吉田克二特別企画委員/出席:
人/会見詳録
27
出席者から 月の米中首脳会談に
水を向けられると、米国はすべてに
テレビ東京国際デスク 庄子
11
これまでも香港、マカオを取り戻
44
淳
い愛情とこだわりがうかがえた。
記者ゼミの主目的は「ジャーナリ
ズム力の増強支援を目指すプログラ
ムにより取材・報道力のパワーアッ
プを図ること」に置かれているとい
う。阿古氏の独自の研究対象へのア
プローチが、これまでわれわれが気
づかなかった中国社会理解への術を
提示したように、記者ゼミは取材対
象への理解を深め取材の幅を広げる
有益な場となろう。
24
・ ︵ 木 ︶記 者 ゼ ミ ③ 複 雑 さ を 増 す 都
市・農村の格差/司会:吉田克二特別企
画委員/出席: 人/会見詳録
11 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
6
7
6
質疑においては、体制批判の広がり
や中国共産党が農村とどう向き合お
うとしているのかなど多岐にわたる質
問が出た。複雑さを極める中国を政治・
経済・社会など様々な側面でどのよう
に理解・把握するかは、多くの記者
にとって悩ましい課題であろう。
小生は大学時代に小島朋之慶応大
学教授の研究室の門を叩き、地域研
究では対象への深い愛情と好奇心が
必要だと諭された。阿古氏は 年以
上にわたる湖北省農村の定点観測か
ら「 地 元 政 府 に よ る 地 元 民 の 意思に
そぐわない行動へのいら立ち」を漏ら
すなど、そこからは研究対象への強
10
ゼミ
記者
しん
かわ しま
とも
こ
あ
中国の習近平国家主席
が提唱する「中国夢」とは
何か─。国家の復興、共
産党統治の安定、人民の
幸福などと耳当たりの良
い言葉が並ぶ。だが、川
島准教授は逆に「中国が夢
を見られない状況にある
ということだ」と分析する。
との感覚を生じさせること
もあるという。不必要な施
不自然な
設やポツンと取り残された
中国農村の
民家など、この不自然さこ
実風景
そ中国農村の問題点を如実
に示していると主張した。
阿古氏の撮影した写真はあたかも
「農村は機能不全に陥った」と語って
いるようでもある。その上で阿古氏
は、様々な場面で不利な処遇を受け
る農民に対し中央政府がきめ細かい
対応をしなければ社会の大きな不安
定要因になると強調しつつも、その
改革実現には数多くの足かせがある
ことを併せて指摘した。
第 回記者ゼミで阿古
智子東大准教授は、農民
や農村を立ち位置にした
中国社会の実風景につい
て、最近の山東省訪問の
事例なども交えて話を展
開した。その実風景は、何
か不自然で違和感があり、
農村であって農村でない
3
川島 真 東京大学大学院准教授
こ
阿古 智子 東京大学大学院准教授
平田 崇浩(毎日新聞社)
インターネットを利用した選挙運
動が 月の参院選で解禁され、毎日
新聞は立命館大学(西田亮介特別招
聘 准 教 授 )と ネ ッ ト 選 挙 の 共 同 研 究
に取り組んだ。
ツイッターやフェイスブックなど
の膨大な書き込み情報(ビッグデー
タ)
を収集・分析する必要があり、情
勢取材と世論調査を中心とした選挙
報道の従来手法だけでは対応できな
いと考えたからだ。
共同研究を始めるに当たり、立命
館大学側と目的意識の共有を図った。
「ネット選挙解禁で日本の政治は変
わるのか」という課題を設定。第
に「ネット世論はリアルな世論なの
か」、第 に「ネット選挙によって政
治と有権者の距離は近づくか」とい
う つの視点を軸に据えた。
ネット世論と一般世論のズレ
原発」「反原発」の声が選挙結果に反
映されなかったことを念頭に、
「ネッ
ト世論は偏りやすい」との仮説を立
てた。
今回の参院選でも、ツイッター利
用者の投稿(ツイート)
から争点にな
りそうな政策テーマの関連語を集め
たところ、「原発」が突出して多く、
ほかにも「憲法」など賛否の分かれる
テーマに関心が集まる傾向が鮮明に
表れた。
一方、通常の電話による世論調査で
も参院選で重視する政策を質問し、社
会保障や景気対策など生活に関係す
る政策が上位に来ることを確認した。
さらに、ツイッター上では特定の
テーマが転送(リツイート)
機能によっ
て急速に拡散することもデータで示
し、ネット世論と一般世論のズレを
記事にまとめた。
候補者とユーザー かみ合わなかった〝つぶやき〟
容を収集し、ツイッター利用者全体
の発信内容と比較した。
各党候補者のツイートに含まれる
単語を抽出したところ、「演説」「駅」
など街頭演説の告知に使われるもの
が上位を占めた。一方、ツイッター
上には「原発」関連のツイートが多い
にもかかわらず、一緒に政党名がつ
ぶやかれることが少なく、参院選の
争点としてはあまり認識されていな
いことがうかがわれた。
ネットの海で政策対話できるか
そもそも選挙前から「自民党 強」
の情勢が鮮明だったのが今回の参院
選だ。選挙戦自体に対する有権者の
関心が低い中、ネット上でいきなり
政治と有権者の政策対話が盛り上が
るはずもない。
今後はソーシャルメディアが中高
年層にも浸透していくことが予想さ
れる。政党・政治家も、われわれマ
スメディアも、手探りでネットの海
にこぎ出した段階。選挙期間に限ら
ず、日常的に有権者(読者・視聴者)
との重要なコミュニケーションツー
ルとして、ネットを使いこなす努力
と工夫が求められている。
ひらた・たかひろ▼ 1989 年入社 千
葉支局 政治部 北海道報道部などを経
て 2009 年 月から政治部副部長
1
ネット選挙解禁 jp
双方向の対話
政治もメディアも不断の努力を
ネット選挙共同研究の記事には、分析結果
を視覚的に伝えるインフォグラフィックス
を活用。毎日新聞の総合情報サイト「毎日
」にも 特 集ページを開 設し、ネット利 用
者にも積極的に発信した(毎日新聞社提供)
では、ネット選挙は無意味なのか
と言えば、そうではない。だれもが
情報の発信元と受け手のどちらにも
なれる双方向性がネットの最大の特
性だ。政治と有権者をつなぐ重要な
コミュニケーションツールになり得
ると考えたのが第 の視点。ツイッ
ター上での政党・候補者側の発信内
4
2
第 の視点については、昨年 月
の衆院選の際にネット上にあふれた「脱
2
1
12
7
2
1
ワーキングプレ ス
一線記者の取材リポート
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 12
4
30
3
川上 泰徳(朝日新聞社)
シーシ演説の直後に、ムルシ支持派
デモの映像が真っ黒になった。報道
の自由はなくなり、「時代が変わった」
ことを生々しく実感した。
国民の総意に基づく民主的な政治
基盤がない中東では、秩序や権力が
崩れる局面はあっけない。2003
年春のイラク戦争の時のバグダッド
陥落と、サダム・フセイン政権の崩
壊は、その例だ。2011年春にム
バラク前大統領が民衆のデモで辞任
に追い込まれたのも同じだろう。
革命で強権が崩れ、民主化が始まっ
たエジプトで、軍のクーデターが起
きたことは、民主主義が根付いてい
なかったためと考えるしかない。
つの民意は共存できるのか
しかし、クーデターによって革命
が終わったわけではない。ムルシ支
持 派 の 大 規 模 な デ モ は 延 々 と 続 く。
私も応援に来た記者たちもナスルシ
ティーに通った。そこにいるのは、貧
困救済などを続けてきた同胞団を支
持して、軍のクーデターに平和的な
抗議を続ける民衆である。タハリー
ル広場に集まる群衆に比べれば、明
らかに貧しい人々が多く、階層間の
対立も見えてくる。
一方で、タハリール広場のデモ隊
は同胞団を「国を乗っ取ろうとする
(筆者撮影)
75
2
かわかみ・やすのり▼ 1981 年入社 学芸部 エルサレム支局長 編集委員な
ど を 経 て 2013 年 月 か ら 度 目
の中東アフリカ総局長
過激派」と非難する。人々の間にムバ
ラク政権時代に刷り込まれた同胞団
への偏見だが、軍のクーデターと同
様、現実感を欠いている。
この原稿を書いている間に、ムル
シ支持派のデモ隊に治安部隊が発砲
し、 人以上の死者が出た。シーシ
総司令官が国民に軍と警察の「反テ
ロ」の戦いへの支持を訴え、タハリー
ル広場が大群衆で埋まった直後の出
来事だ。原稿が掲載されるとき、エ
ジプトがどうなっているか想像もつ
かない。分裂する つの民意が民主
的に共存の道を見いだすまで、予測
できない混乱は続きそうだ。
エジプト軍事クーデター の危機にはならないと思っていた。
しかし、軍の介入で状況が変わっ
た。軍は政府に「民意の実現」を求め、
時間の期限を付けた。それが切れ
るとシーシ総司令官(国防相)
はテレ
ビ演説し、憲法の停止や暫定大統領
の就任を発表した。軍は反ムルシ派
の要求だけを「民意」として、民選大
統領を排除した。
報道の自由もなくなった
48
シーシ演説は、どう考えても現実
のバランスを無視したものだった。し
かし、演説の後、ムルシ氏が大統領
警護隊に拘束されたという情報や、軍
の戦車が街頭に出動したという情報
が流れ、時代錯誤の「クーデター」が
現実味を持ってきた。
その時、はっとする一瞬があった。
カタールの衛星放送アルジャジーラ
はタハリール広場の反ムルシ・デモ
と、ナスルシティーのムルシ支持デ
モ を 画 面 を 二 分 し て 放 送 し て い た。
13 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
7
7
6
7 月 3 日の軍クーデターの後、アルジャジー
ラの画面は、ムルシ大統領支持派のデモの
現場中継が警察に切断され、左側の軍支持
のタハリール広場のデモの映像だけになった
2
2
予想超えた展開
「時代変わった」を生々しく実感
「エジプト軍クーデター」の見出し
が、 月 日の朝日新聞の夕刊一面
トップになった。日本とカイロの時差
は 時間。私と応援に来た 人の記
者は総局で徹夜の作業となった。早
朝、夕刊早版の刷りを見ても、
「クー
デター」の文字が、よその国のこと
のように思えた。
中東は一度事態が動き始めると、予
想を超えて動く。今回のエジプトの
クーデターもそうだった。
月 日にイスラム系のムルシ大
統領の辞任を求める反ムルシ・デモ
がタハリール広場を埋めた。その一
方で、ムスリム同胞団が動員したム
ルシ支持派はカイロ郊外のナスルシ
ティーに集まった。
ムルシ政権の経済政策の失敗や強
引 な 手 法 に 国 民 の 批 判 は 強 か っ た。
しかし、新聞やテレビの政府批判は
規制されず、反政府デモが阻止され
ることもなかった。政治的自由があ
れば、政治の危機は続いても、体制
6
一線記者の取材リポート
ワ ーキングプレス
11
■反対署名 万人でも実現
2
上海派遣計画は、県民の批判を浴
びながら実現した事業だった。
月半ば。知
事が会議の席上で明らかにした。日
中関係が冷え込み、同路線の搭乗率
が危機的状況に陥っていたからだ。事
業費約 億1800万円を計上した
当初案は、来年 月までに県職員と
教職員計1000人を派遣し、パス
ポート取得代も負担するというもの。
すぐに本社には「税金の無駄遣い」
「新聞の力で止めて」といった批判の
声が電話やメールでひっきりなしに
寄せられた。鹿児島市の医師が始め
た反対署名は、県議会が終わる 月
末までに 万人近く集めた。
知事は県議会でパスポート代負担
を撤回、民間人も対象にすると修正
したが批判は続出した。事態が動い
たのは最終本会議目前で、知事は県
議会議長に、 月末までに300人
を送る縮小案を打診。最大会派の自
民 党 県 議 団 の 大 多 数 が 賛 成 に 回 り、
何とか可決する混迷ぶりだった。
その後、県の計画に呼応して、経
済団体も派遣計画を打ち出している。
全体の搭乗率は %程度向上し、当
面は国際線の採算ラインとされる %
に近づくことになった。
1
■さらなる税金投入も
5
「 上 海 線 は 鹿 児 島 が 発 展 す る に は
不可欠」と県は主張する。鹿児島─
東京間とほぼ等距離で栄える上海の
経済力を取り込みたい姿勢は理解で
きる。だが、公費による研修の必要
性、 成 果 は 厳 し く 問 わ れ る べ き だ。
こうしている間にも、職員らは次々
と飛び立っており、県民への合理的
な説明は今も求められている。
知事は研修に合わせて路線維持を
要請しようと、中国東方航空本社を
訪問した。しかし路線維持の確約は
得られず、逆に発着料の引き下げを
求 め ら れ る な ど 宿 題 を 抱 え 込 ん だ。
本格的な搭乗率向上には上海からの
誘客策こそ不可欠だが、航空会社救
済のための新たな税金投入が現実味
を帯びている状況だ。
月以降の上海派遣について、県
は「その時に最も適切な手段を講ず
る」としており、注視していかねば
ならない。
たねがしま・ときひろ▼2003 年入社
社会部などを経て 月から報道部
4
7
2
市場を視察する県職員ら。わずか10分で退場さ
せられた( 7 月11日/中国・上海/南日本新聞社提供)
意気込んだ研修も、調整・準備不足
から不十分な結果に終わった。
研修は実質的には 日からの 日
間のみで、県職員は農政と土木行政
の コースに分かれた。 日に同行
取材した農政コースでは、上海最大
の市場に入ると同時に「団体客は受
け入れていない」と警備員から注意
され、職員らはわずか 分で退場さ
せられた。当初は 時間を予定して
いたが、市場についての説明はない
まま終わった。職員が市場担当者を
呼んで仕切り直すこともなかった。
2
計画が浮上したのは
一口メモ
6
60
種子島 時大
10
(南日本新聞報道部)
4
22
3
9
20
県職員の上海研修
1
中国・上海で 月 日夕、記者会
見に臨んだ伊藤祐一郎・鹿児島県知
事 は よ ど み な く 語 っ た。
「成果は期
待しない」「雑踏に 時間でも立って
上海の息吹を感じることが、やがて
行政マンとしての糧になる」
。この
日、県職員 人が 泊 日の研修で
上海入りしており、どんな成果を求
めるか問われての答え。しらけた空
気が報道陣の間に広がった。
搭乗率が低迷する中国東方航空の
上海─鹿児島線を維持するため、県
は公費3400万円を投じて職員な
どの上海研修を計画。 人は第 陣
だった。知事の発言でいきなり、研
修の意義が搭乗率底上げの一点に絞
られる形に。もっとも、職員らが出
発前に「発展する上海に学びたい」と
1
県民から猛反発
問われる
公費支出の在り方
3
10
鹿児島県の上海研修計画で
は、県職員、教職員、民間人各
100人を派遣する。2 コースに分
かれた第 1 陣の県職員が視察し
たのは市場のほか、富裕層向け
のスーパーや大型コンテナ港な
ど。県民からの反発は強く、
「研
修に中身はない」
「不当な公金支
出」として、事業中止を伊藤祐
一郎知事に勧告するよう求める
住民監査請求も起きている。
11
10
5
5
鹿児島 発
地元メディアの視点から
22
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 14
12
原発避難者が暮らす。その上、事故
の収束作業や除染作業の拠点にもなっ
ているため、長期滞在の作業員など
で、実質人口は 万人ほどに膨れ上
がっているとみられる。交通量は増
え、店はにぎわい、賃貸住宅に空き
はまず見つからない。
その一方で、 千人がいわき市を
離れて全国に自主避難を続けている。
沿岸の漁業は操業を自粛したままで、
また津波被災地の復興も進んでいな
い。人の数は増えても、震災と原発
事故が市民の生活に大きな影を落と
しているのは変わらない。
36
民と避難者との間に不協和音も
市
1
(提供:福島中央テレビ)
の使用やゴミ収集に関しては国から
交付金が出るとはいえ、住民票を移
さず、市民税も納めていない避難者
に対する市民の視線は、次第に厳し
くなっている。定住を決めた避難者
が宅地や住宅を購入するために価格
が高騰、物件が不足する事態も起き
て、地域の大きな問題となっている。
3
原発再稼働と福島の廃炉
者の中に、賛否を「どちらともいえ
ない」とする人たちがいた。原発に
代わる雇用の場が確保されなければ、
住 民 は 戻 れ ず、 町 も 再 生 で き な い。
悲しい本音なのだろう。
さ ら に、 県 外 の 原 発 に 対 し て は、
再稼働を容認する層が予想以上に多
かった。
「代替エネルギーが確保でき
ていない状態で電力供給が危うい」
「安全が確認されれば再稼働はやむ
を得ない」などが理由だ。容認する
住民は、県内での廃炉と県外での再
稼働はまったく別物と考えているよ
うだ。原発事故に遭った福島県民だ
からといって、必ずしも一様に「脱
原発」ではないのだ。
その福島で、海に風車を浮かべて
電気を起こす、世界最大の浮体式洋
上風力発電の実証研究事業が国主導
で始まり、 月、原発沖 キロに巨
大風車が設置された。事業化できれ
ば、小名浜港に風力関連産業を集積
し、 新 た な 雇 用 が 生 ま れ る と い う。
同じ海を漁場とする漁業者と共存で
き る か と い う 大 き な 課 題 は あ る が、
風車には「ふくしま未来」と名付けら
れた。再生可能エネルギーは、真の
福島再生の盟主になるだろうか。
18
や ま な か・ と し ゆ き ▼ 2008 年 入 社
震 災 直 前 の 2011 年 月 日 か らい
わき支社駐在記者
15 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
7
東京湾から福島沖に曳航される浮体式洋上風力発電の風車
原発の再稼働も争点のひとつになっ
た 月の参院選。県と県議会が決め
た福島第一と第二合わせて 基の原
発の廃炉を多くの県民が支持する一
方、原発を抱える双葉郡からの避難
10
山中 利之
4
2 2
7
自 ら が 被 災 自 治 体 で あ り な が ら、
原発避難者を受け入れているという
状況は、複雑な問題を生む。
双葉郡の つの町は、復興計画で、
町外コミュニティーいわゆる「仮の
町」をいわき市やその周辺に設ける
方針である。町ごとにニュータウンを
造る集中型の構想が一時話題になっ
たが、今はいわき市の都市計画に合
わせて、市街化区域に分散して災害
復興住宅を整備する方向だ。
市民と避難者との不協和音も聞こ
える。東京電力からの補償・賠償が
ある原発避難者に対し、津波被災者
に補償はない。原発避難者の下水道
7
被災地通信⓯ 福島県いわき市
33
9
3
南北に150キロ続く福島県の太
平洋沿岸の周辺 市町村は「浜通り」
と呼ばれる。その南端のいわき市は
人口 万人、東北では仙台市に次ぐ
人口規模の中核都市だ。震災では、
月の大津波に続いて、 月にはマグ
ニチュード の断層直下型地震に見
舞われ、関連死を含め446人の犠
牲者が出ている。
被災家屋は 万棟、
罹災証明の発行数は、再調査を含め
ると 万件にもなり、被災規模でも
仙台市に次ぐ。
震 災 と 原 発 事 故 か ら 年 あ ま り、
いわき市では今なお約 万 千人の
4
被災自治体と原発避難者
13
複雑な様相見せる
「浜通り」
7
(福島中央テレビ報道部 いわき支社駐在)
4
東日本大震災から 2 年が過ぎて
被 災地はいま
「拉致事件から 40年」の夏 (拡大版)書いた話 書かなかった 話
8
4
8
40
ながぬま・せつお
間に不信感を植え付け、学者らを恐
怖に追い込む。与党系の政治家だっ
て安心できない。大統領の陰口をき
いたら、たちまち密告され、情報部
本部地下に連行されて殴る蹴るの拷
問を受ける。彼らにできないことは
男を女に、女を男に変えることだけ
だ。我々が政権を取ったら直ちにこ
れを廃止する」
校庭では聴衆の多くが涙を流しな
がら金候補に拍手を送っていた。し
かし予想通り、翌日のどの新聞にも
KCIA絡みは 行も載らず、わず
かに「当選したら徐々に南北交流を
始める」という演説部分を引用して、
「これは反共法違反の疑いがある」と
いうコメントを伝えた程度だった。
1942年長野県飯田市生まれ 72
年時事通信入社 経済部 ナイ
ジェリア・ラゴス支局 社会部
整理部など 2008年から個人D
会員 現在 日本地域紙図書館
および南信州新聞記者
選 挙 結 果 は 金 候 補 の 惜 敗 だ っ た。
これでは真実が伝わらないとの思い
1
金大中氏と私
3
長沼 節夫
1
が集まると弾圧できない。当局は野
党候補の演説会場には、こんなに小
さな場所しか許可しなかった。おま
けに、日曜日というのに、政府は公
務員に緊急出勤を命じて野党演説を
聞かせないという嫌がらせまでした
という。
46
言った。
「インタビューもしたい」と申し入
れ る と、「 で は 明 朝 早 く 自 宅 に 来 な
さ い。 遊 説 に 出 か け る 前 に 話 そ う。
私が出発後は妻にインタビューしな
さい」と言ってくれた。 歳。若々し
く精悍な闘志の塊という印象だった。
金候補の演説は原稿なしで約 分。
強烈な独裁批判と国民への民主主義
回復の約束だった。
「この国は完全無欠な独裁国家だ。
普通の国では新聞は新聞記者が作る。
しかしわが国ではKCIAが新聞を
作る。ウソだと思うなら、ここ 年
間の新聞をひっくり返してみなさい。
朴大統領やKCIA批判の記事が
行でもあるか。政府批判のないもの
が果たして新聞と言えようか。KC
IAは学園に浸透して教授と学生の
40
4
◆強烈な闘争心と気さくな素顔
党 幹 部 が 次 々 前 座 話 を 語 る 途 中、
金 候 補 に 会 っ て、「 日 本 か ら 来 ま し
た。演説を録音していいですか」と
聞くと、
「もちろん。ほほう、これが
最近登場したカセット式レコーダー
というのか。私はまだ持ってないが
便利な機械だ。よし、私がこれを預
かって登壇し、演説が終わってから
お返ししよう。この つのボタンを
同時に押せば録音できるんだね」と
2
48
反独裁の闘士が大統領となるまでを共に 71
1973( 昭 和 )年 月 日 の
白昼、東京都心のホテルから韓国野
党 の 大 統 領 候 補 が 突 然 姿 を 消 し た。
その後長く日本中を震撼させた「金
大中拉致事件」だ。あれから満 年
の月日が流れた。
金大中氏との初対面は、事件から
年以上前の 年 月、韓国大統領
選のさなかだった。当時私は大学院
生・大学新聞記者・夕刊フジ(大阪)
嘱託記者・予備校教師の 足ワラジ
の生活だった。韓国での友人兼通訳
の徐洪錫氏が「朴正凞軍事独裁と闘
う民主主義者がきょう演説する。一緒
に見物しよう」と言ってソウル市内
の小さな国民学校に案内してくれた。
一見してそれと分かる黒ジャンパー
のKCIA(韓国中央情報部)
が目を
光らせていたが、校庭に超満員の人
2
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 16
書 いた話 書かなかった話(拡大版) 「拉致事件から 40年」の夏
同じクルマを追跡すれば済むので」
と答えた。金氏も賛同した。
やがて金氏は「おかしい。いくら
ホテルを変えても当局に情報が漏れ
る。隣の部屋に行って話そう」と言
い、私の耳元に、
「護衛の青年にスパ
イがいるのか」とささやいた。金氏
も大使館内にシンパを持ち、情報を
得 て い る ら し か っ た。 私 も 小 声 で、
「韓青同(韓国青年同盟)の諸君は信
頼できます」と答えた。韓青同は反
政府系の青年組織で金氏を中心人物
と仰ぎ、支援していた。私は金氏が
心配し過ぎと考えていた。拉 致 事 件
発生はその 日後だった。当時の密
告者が誰だったかを私は最近、ソウ
ルで告げられて驚いた。
金氏がもっと護衛青年を信頼して
いたら拉致事件は阻止できたかもし
れない。あの日、宿舎のホテルから
事件発生のホテルに行くとき、金氏
は い つ も の 護 衛 人 に、「 き ょ う は
人でいい」と言い、同行の 人に
も、「 大 事 な 人 と 会 う の で 君 は こ こ
( 階)で待ってなさい」とだけ言っ
た。目的地の部屋もこれから会う人
物名も告げなかったという。青年が
我慢強く 階で長時間待つ間に事件
は起きたのだった。心配は高まった
が 日 後、「 金 氏 ソ ウ ル の 自 宅 に 戻
る」というニュースでほっとした。
3
1
月 日付読売新聞が「事件に韓
国中央情報部(KCIA)が関与」と
いうスクープを書き、さらに金東雲
の 指 紋 検 出 を 報 じ た。 し か し 月、
日韓両政府は事件の政治決着を図る
一方、朴政権は政敵・金氏の逮捕や
自宅軟禁を繰り返した。
私は事件の翌年から 年近くアフ
リカに勤務し、 年暮れ、帰国して
社会部の警視庁、次いで国会担当と
なった。国会では依然、事件に関し
質 疑 が 続 い て い た。 事 件 発 生 直 後、
警視庁より先に事件現場に駆けつけ
たという共同通信の村岡博人記者も
一緒で、彼からいろいろ学んだ。
23
75
2
11
年 月、米国下院で金炯旭元K
CIA部長が事件はKCIAの犯行
とする衝撃的証言を行い、米国に事
件 解 明 を 期 待 す る 動 き が 高 ま っ た。
年 月、カーター大統領の日韓両
国訪問にも局面打開の期待がかかっ
た。訪韓前日、日本の国会は衆院議
長公邸でカーター氏歓迎パーティー
を開いた。談笑が進むうち大統領が
「ハイ・ジャパニーズ・プレス」と言っ
て近づいてきた。私は「ウェルカム・ミ
スター・プレジデント。明日は朴大
統領のほか金大中氏にもお会いにな
りませんか」と聞いた。大統領は「残
◆軍事裁判の起訴状に私の名前?
8
7
6
77
79
から帰国後、
「エコノミスト」誌にペ
ンネームで金候補の演説を詳しく書
いた。この文章は金大中拉致事件発
生後、いろんなメディアに「事件の
背景」として引用さ れ た。 金 大 中 拉
致・殺害未遂は朴政権とKCIAが
金候補の演説への恨みを込めて実行
した報復ともいえる。
金候補宅を訪ねると、
演説の翌朝、
「時間がもったいないから一緒に朝
食をとりながら話そう」と言う。早
速箸を上げようとすると、金氏夫妻
は黙祷して食前の祈りをささげてい
た。一家は敬虔なキリスト教徒だっ
た。居間の本棚には、
『三国志』とか
『徳川家康』など歴史小説が全集でびっ
しりと並んでいた。
型トラックが正面から突っ込んでく
る事故に遭い、死者 人、重傷 人
を出したが、当局が私の殺害を狙っ
た事故だったので、犯人探しも新聞
報道もなかった。自分は九死に一生
を 得 た が、 こ の 通 り の 体 に な っ た。
韓国で治療しても、いつ殺されるか
分からないので、東京へ来た」
韓国では朴大統領が金氏の出国を
待っていたかのように「維新宣言」を
行い、反対派弾圧を強めた。金氏は
外国人記者クラブで維新反対を表明
するとともに、帰国を当面、断念し
た。治療の合間を縫って日米の政治
家に次々と会って韓国民主化への支
援を求めた。
年 に 入 る と 金 氏 は、「 韓 国 大 使
館が尾行を強めている」と言った。よ
く電話で呼び出され面会したが、そ
のたびにホテルが変わっていた。私
は「逃げ回るだけでは危険だ。この
際、マスコミに登場しましょう」と
言い、夕刊フジの千野境子記者に写
真コラムを、朝日新聞の本多勝一記
者に雑誌インタビューを頼んだ。
ある日、金氏から「移動のたびに
タクシーでは面倒なので、クルマを
買ってやろうと言う人がいる。どう
思うか」と聞かれた。私は「反対です。
確かに移動には便利だが、それ以上
に 尾 行 す る 側 に と っ て 便 利 に な る。
17 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
1
1
5
◆かつての面影なくした金氏と再会
私は翌 年夏上京し、時事通信社
に就職したが間もなく、金大中氏が
ひょっこりと訪ねてきた。あの精悍
な姿はすっかり影を潜め、つえにす
がるようにして歩くたびに大きく体
が揺れた。本人が名乗らなければ金
氏と分からないほどだった。
「先生、どうしました」と聞いたが、
私が知らないはずだった。金氏によ
れば、こういうことだった。
「大統領選の翌月にあった国会議
員選挙で地方遊説中、自分の車に大
72
73
3
3
2
1
「拉致事件から 40年」の夏 (拡大版)書いた話 書かなかった 話
ほめてくれた。
結局、カーター氏は朴氏との首脳
会談後、野党代表の金泳三氏とだけ
会って帰国した。朴氏との摩擦をわ
ざと避けたのだろう。朴氏はその
カ 月 後、 腹 心 の 部 下 に 射 殺 さ れ た。
しかし 年、全斗煥将軍による「 ・
クーデター」が起こった。光州事
件とは別に「金大中内乱陰謀事件」と
して民主化指導者が次々逮捕された。
軍事裁判が始まり、起訴状に私の
名前が出ていることをソウル電で
知って驚いた。 月に私が
金氏に韓民統情報を伝えた
ことが、金氏が反国家団体
韓民統の活動をしたのと同
じだという滅茶苦茶な主張
だが、私は「一切関知せず」
で通した。 月、金氏に死刑
の判決が言い渡され、 年
月に最高裁で確定。直後
に閣議決定で「無期」に減刑
され、 年暮れ、金氏は家
族と共に米国へ亡命した。
年 に 帰 国 す る 日 前、
ワシントンで支持者らが盛
大な歓送会を開いた。翌日、
金氏は米上院ビルにエドワー
ド・ケネディ議員を訪ねて
あいさつをし、訪米中だっ
た私も同行した。部屋には
17
米国亡命を終えて帰国直前、
米上院で
1985年 2 月=筆者撮影
私しかいなかったので、議員室でツー
ショットを撮った。この写真は 氏
が2009年 月、相次いで死去し
た際、日韓のメディアに提供した。
韓国の大統領選取材はマスコミ各
社が 台の大型バスを仕立て、相乗
りして候補者を追うので抜け駆けが
できない。そこで 年選挙を取材し
た際には金氏が私のために一計を案
じ、仁川遊説からソウルに戻る車中
で 時間単独インタビューができた。
後続の報道陣には気付かれなかった。
年代以降、私が本名で書くよう
になると、それまでもぞんざいだっ
た大使館員の私への扱いはさらに手
荒となり、
「金大中と会うな」と迫っ
たり、旅券を投げつけたりした。
それほど敵対的だった韓国大使館
員が 年初め、一転して神妙に時事
通信に私を訪ねてきた。そして「金
大中大統領閣下からの就任式招請状
です」と告げた。
ク大学で安炳旭教授に会った。国家
が過去の事件を検証する真実委の委
員長を務め 年、詳細な金大中事件
調査報告書をまとめた人物だ。それ
によれば、韓国で健在の金東雲を含
む 元KCIA要 員 や 拉 致 船 乗 組 員、
情報部保存文書を調べた結果、初め
の殺害計画が途中で拉致に変更され
たこと、朴大統領が直接指示した可
能性が高いことなどが判明した。
報告書については事件発生時の毎
日新聞ソウル特派員で、以来 年間
事件追究を続けている古野喜政氏の
『金大中事件最後のスクープ』( 年、
東 方 出 版 )に 詳 し い。 同 書 に は 安 氏
が、報告書には入れなかったが当時、
KCIAや日本の公安に協力したの
は日本の言論人だったと語ったこと
が記されている。安氏は事件直前に
金氏の動静をKCIAに伝え、それ
がソウルに送られていたという文書
の コ ピ ー を 私 に 示 し、「 情 報 提 供 者
は氏名は隠しています。日本の全国
紙の記者だった」と語った。
政治決着の背景に何があったのか。
日本政府はなぜ文書を公開しないの
かなど、事件はまだ多くの謎をはら
む。一方、日本人が 人の外国人の
身をあれほど心配し、人権意識を燃
え上がらせたという歴史は誇らし
い。その中心に金氏がいる。
40
10
1
8
92
◆政治決着に潜む謎
2
08
03
03
3
2
1
80
98
には
金大中大統領時代( 〜 年)
過去の独裁(韓国では権威主義と呼
ぶ )政 権 下 で の 人 権 侵 害 を 清 算 す る
作業が始まり、盧武鉉政権( ~
年)
がさらに真実委員会を立ち上げ
た。私は昨年暮れ、金氏の盟友だっ
た韓勝憲弁護士の紹介で、カトリッ
98
80
1
85
念だが、まだ決まってない」と言った。
パーティー後、ホワイトハウスの
同行記者団から会話の内容を聞かれ
た。また彼らは「大統領と話すとき
はまず筆頭記者のヘレン・トーマス
(UPI)
に断るルールだ。君のよう
なルール破りは初めてだ」と苦言を
洩らした。私は「ここはホワイトハウ
スではない。日本の国会だ」と言って
納得してもらった。やはり米国から
同行して来た文明子記者は、
「ビュー
ティフル。勇気ある質問だった」と
E・ケネディ議員と金大中氏
82
9
4
5
81
07
1
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 18
リ レーエッセー
いただき、この地域の「今」「こ
れから」について、仕事を離れ
た貴重なご意見をいただけた。
*
その大谷さんが静岡を離れ
て 年余り。
「静岡は楽しかっ
た」「富士山がない生活がつま
らなくて、毎日パソコンでラ
イブビューを使って見ている」
とおっしゃっていただき、自
静岡地方裁判所長を務めた頃の大谷さん(筆者提供)
分のことのように喜んでいる。
その富士山は 月、世界文
化遺産に登録された。遺産の名称
は「 富 士 山 ─ 信 仰 の 対 象 と 芸 術 の
源泉」。日本の宝は世界の宝になっ
た。 凜 と し た 大 谷 さ ん の 姿 に は、
この山と重なるところがある。人
間 性 豊 か な 紳 士、 包 容 力 が あ る 大
谷さんが力を入れる裁判員制度の
定着と進化を期待したい。
もう一つ。「憲法の番人」と呼ば
れる最高裁の要人は、昨今かまび
すしい憲法改正論議をどう受け止
めているのだろうか。富士を仰ぎ、
杯を傾けながら聞いてみたい。
んな意見や圧力にも左右されない」
という意味がある。ただ、地裁所長
の職にある間は法廷に立つ機会はな
い。そんな気楽さもあり、そこから
交流が始まった。
*
裁判員制度導入に合わせて建て直
した地裁庁舎に招待され、裁判員関
連施設も案内してもらった。そこに
足を踏み入れ、係の職員から説明を
受けて初めて、裁判員を包む張り詰
めた空気を感じた。制度を分かった
つもりになっていた自分の浅はかさ
にも気付かされた。
弊社の見学にも、職場のお仲間と
足を運んでくれた。昼食会や夜の酒
席を通して、さまざまな話をさせて
うえまつ・つねひろ▼静岡新聞編集局
次長兼ニュースセンター長
1
富士山と重なる凛とした姿
2
大谷直人 さん 植松 恒裕
したころ、静岡市内で大谷さんと酒
席をご一緒させていただく機会を得
た。柔和な表情と語り口。和やかな
雰囲気の中で時間がゆったりと流れ
る。酒席の名目は「裁判員裁判につ
いての意見交換」だったと記憶して
いる。
地元の名物を肴に酒が進むと、裁
判員裁判の話もそこそこに、政治や
地域経済、趣味と、話は止めどなく
盛り上がった。遠慮を忘れて思いの
丈をぶつけても、広い度量で受け止
めてくれた。率直な意見も聞くこと
ができた。
「 居 酒 屋 や カ ラ オ ケ に な ん か 行 か
ない」とまでは思っていなかったが、
そ れ に 近 い イ メ ー ジ を 抱 い て い た。
それだけに、ざっくばらんな大谷さ
んの人柄は新鮮な驚きだった。いっ
ぺんでファンになった。法服の「黒」
には「どんな色にも染まらない」「ど
19 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
6
最高裁判所事務総長・
終戦直後、食糧統制に抗議して
闇米を拒否し、栄養失調で早逝し
た判事。そんな古い話を持ち出す
までもなく、多くの国民にとって
黒 い 法 服 を 身 に 着 け た 裁 判 官 は、
法の番人としてストイックに生き
る、そんなイメージの近寄り難い
存在だ。
年近く、新聞記者生活を送っ
てきた私にとっても、駆け出し記
者当時の法廷取材以外にはほとん
ど接点がなかった。意識すること
もなく、遠い世界の住人のように
感じていた。 年前、静岡地方裁
判所長だった大谷直人最高裁判所
事務総長に出会うまでは。
*
司法の場に市民感覚を取り入れ、
国民との距離を縮めることが大き
な目的の司法制度改革で、裁判員
制度が導入されて 年余りが経過
30
1
会員の著 書
マイ BOOK
マイ PR
年。政界、官界、経済界、
を、論文でなくジャーナリストの目で
くった経緯や日本列島改造論の改定版
白くて飽きない国はない」という本を書
⃝第432回企画委員会
会議報告
( ・ 階Bホール)
月 日開催の 党党首討論会に
つ い て 意 見 交 換 し た ほ か、 今 後 の ゲ
きました。帯封には象徴的に「昼は反日、
夜は親日」とあるように反韓・嫌韓本と
はひと味違います。
■「日
本経済」はどこへ行くのか
危機の二〇年
再生へのシナリオ
小島 明(日本経済新聞出身)
年、デフレ
日 本 の 立 ち 位 置 と 潜 在 力 を 読 む 経 済
年の日本をいかに
停滞
再生させるか。その場限りの対応ばか
り を 繰 り 返 し て き た 結 果、 経 済 構 造、
経営構造も変わらないまま政府の借金
が 膨 ら む 一 方 で す。 日 本 の 立 ち 位 置 を
検証するとともに、潜在力も点検。キ
ワモノ出版が横行していることへの反
分冊
発もあり、客観的データをたっぷり活
用、600ページを超え、上下
( ・ 小会議室)
、 月号の編集方針と座談会「S
NS時代における広報と報道(仮題)
」
⃝第345回会報委員会
露木、村田の各委員。
杉 尾、 小 栗、 和 田、 川 村、 大 信 田、
別府、川上、軽部、村山、宮内、川戸、
出席 会田委員長、星、安井、服部、
坂東、倉重、山岡、脇、水野、樫山、
スト候補などを協議した。
7
( 月開催予定)
について協議した。
黒田勝弘
の 出 版 と な り ま し た。「 失 わ れ た ○ ○
心なのは「残された時間」を認識し、や
年 」の 発 想 は 不 要。 ポ ス ト 参 院 選 で 肝
昼は反日、夜は親日 韓国駐 在は 年
以上になり、これまで歴史認識などをめ
るべきことを断固としてやること。政
本が一番輝いていた時代の賛歌と挽歌
壊してから満
■アメ
リカ福音派の変容と政治─
1960年代からの政党再編成
飯山雅史(読売新聞調査研究本部)
描きました。首相官邸から頼まれて田
労働界などを取材した体験から戦後日
米政治を変えた福音派の変容 198
年代に同性愛結婚など宗教の問題が
和党と民主党は変わってしまった。外
が田中退陣とともに幻に終わった経緯
つの大切、 の反省」をつ
交、財政問題で保守化したうえ、ほと
な ども 本 書で
中首相の「
んど宗教政党となった共和党と、世俗
初 めて 明 ら か
アメリカ政治に持ち込まれてから、共
化 し て リ ベ ラ ル 色 を 強 め た 民 主 党 の、
にしています。
■韓国 反日感情の正体
抜き差しならぬ対立の時代が始まった
のだ。本書は、この変化の背景を詳細
に統計分析し、民主党に忠誠を尽くし
てきたプロテスタント福音派の変容が、
アメリカ政治を変えてきたことを長期
(産経新聞ソウル駐在特別記者兼論説委員)
ぐって相当、韓国人と論争し韓国批判を
府だけでなく
10
11
出席 石川委員長、吉野、高橋、五
十嵐、風間、大寺、荒田、北村、長
澤の各委員。
・
大会議室)
⃝第431回会員資格委員会
(
・
小会議室)
出 席 粕 谷 委 員 長、 佐 々 木、 歌 川、
清水、吉澤、西野、五十畑の各委員。
、 月のアラスカ売り上げと貸室
利用状況について事務局が報告した。
(
⃝第206回施設運営委員会
の各委員。
出席 小田委員長、千葉、中島、玉井、
船木、辻、正籬、玉置、國府、青木
月 日付の会員入退会を審議し
理事会に答申した。
17
23
的にフォローした。そこからは、議会
デオロギー対立が、近い将来に収束す
展開し、おかげさまで今や韓国メディア
企業も個人に
かになる。
9 10
7
7
7
を機能不全に追い込んでいる両党のイ
る見通しがな
からは「日本を代表する極右言論人」な
も覚悟が必要。
3
9
1
6
いことも明ら
どと非難されていますが、このところ日
本書が真剣で
実りある議論
ことを期 待し
の触媒になる
7
8
2 1
ます。
平凡社
各1680円
9
10
本の出版界ではやりの韓国バッシング本
とは趣を異に
「それでも日本
の 記 者 に とっ
■実写 1955年体制
宇治敏彦(中日新聞社相談役)
角川学芸出版
840円
8
15
20
5
てこれほど面
名古屋大学出版会
6930円
田中角栄首相の「 つの大切」 今年は
自民党一党支配の1955年体制が崩
5
5
2
第一法規
2625円
30
20
0
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 20
ク ラブ月報
(専務理事・事務局長 中井良則)
中 俊 一・ 原 子 力 規 制 委 員 会 委 員 長。
原発の規制基準や再稼働の動きなど
最新の話が聞けそうだ。
午後は、大宅壮一ノンフィクショ
ン賞を受賞した『カウントダウン・メ
ルトダウン』で原発事故への日米の
対応を掘り下げたジャーナリスト・
船橋洋一さん。調査報道や取材のあ
りかたを聞く。最後は、上毛新聞記
者として警察取材を体験し、いまは
作家としてベストセラーを書き続け
る 横 山 秀 夫 さ ん。「 フ ィ ク シ ョ ン と
ノンフィクションのはざま」を語っ
てもらう。
1
16
2
記者研修会 月 、 日
11
29
28
30
68
震災、原発、
沖縄報道を考え直す
3
毎年、内幸町に全国から若手・中
堅記者が集まる。日本記者クラブ恒
例の記者研修会。第 回となる今年
も 月 、 日の 日間、実施する。
昨年に続いて、震災・原発事故報道
がメーンテーマだが、沖縄報道をめ
ぐるパネルディスカッションや韓国
大使館訪問といった新企画も関心を
呼びそうだ。記者研修の申し込みは
え工事が終わったばかりの駐日韓国
大使館を訪ね、李丙琪・韓国大使の
話を聞き、質問する。 月に着任し
た李大使は日本メディアと初めて話
す機会になりそうだ。
クラブに戻り、記者によるパネル
ディスカッション。
「沖縄報道と地元
メディア─沖縄の声を伝える」をテー
マに、記者 人とジャーナリスト・
外岡秀俊さんが話し合う。夜はパネ
リストや講師も加わり、交流会で議
論を深める。
日目の 日は、まず、丹波史紀・
福島大学准教授が福島の復興の現状
と課題を語る。昼食会のゲストは田
ジェレラ在日米軍司令官、香田洋
二・元自衛艦隊司令官は東アジア
の安全保障をそれぞれの視点で説
明する。
さらに、三谷太一郎・東大名誉
教 授 に よるクラ ブ 総 会 記 念 講 演
「冷戦後の日本の政治」
、白川方明・
日銀総裁(当時)
の「中央銀行の役
割、使命、挑戦」
、アウンサンスー
チー・ミャンマー国民民主連盟党
首の「法の支配から国民の安心感、
そして和解へ」も収めた。
いわばクラブの名作集 年版。
会 員 に 月、 無 料 で 届 く。 お 楽
しみに。
21 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
6
日本記者クラブがこの 年間に
開いた記者会見の中から 本を選
び、文字記録版を 冊にまとめ近
く刊行する。昨年夏、 本の会見
記録を「 ・ 大震災 日本記者
クラブの会 見から」と題して初め
て刊行した。会員や図書館に無料
で届け「あの会見を本で読める」と
好評だった。
冊目となる今 年は「ゲストは
語る 記者が問う─日本記者クラ
ブの会 見から ─ 」
。詩 人・長田 弘
さんやノンフィクション作 家・保
阪正康さんが大震災後のこの国と
人々を語る。サルバトーレ・アン
13
3
29
2
28
8月28日(水)▽研究会 俳人・照井翠氏▽昼食会 松浦
祥次郎・日本原子力研究開発機構理事長▽韓国大使館訪
問 李丙琪・駐日韓国大使▽パネルディスカッション 謝花直美・沖縄タイムス特別報道チーム部長、島洋子・
琉球新報東京支社報道部長、三上智恵・琉球朝日放送
ディレクター、外岡秀俊・元朝日新聞編集局長▽交流会
8月29日(木)▽研究会 丹波史紀・福島大学准教授▽昼
食会 田中俊一・原子力規制委員会委員長▽研究会 ジャーナリスト・船橋洋一氏▽研究会 作家・横山秀夫氏
8
29
日まで受け付けている。多くの記
者に参加してほしい。
また、今年は、研修会参加者の中
から希望者を募り、 日に福島現地
取材団を派遣する。
この記者研修会は地方のプレス法
人会員社の多くから開催の要望がク
ラブに寄せられ、1998年から始
まった。全国の記者にジャーナリズ
ムについて考える場を提供すること
はクラブの重要な役割と位置付けて
いる。同じ年代の記者が取材経験を
話し合う機会でもある。毎年、参加
者 か ら「 忘 れ ら れ な い 貴 重 な 体験と
なった」と感想が寄せられる。震災直
後 の2011年 は 社111人、 昨
年は 社 人が参加した。
今年の記者研修会は瀬口晴義・企
画委員(東京新聞)が幹事役となり、
幅広いプログラムを組んだ。 日は、
俳人・照井翠さんから始まる。被災
体験から生まれた句集『龍宮』は俳句
四 季 大 賞 を 受 賞 し た。「 春 の 星 こ ん
なに人が死んだのか」
クラブ会員も取材する昼食会には
松浦祥次郎・日本原子力研究開発機
構理事長を招いた。午後は、建て替
9
19 1
21
2
「ゲストは語る 記者が問う」
記録冊子 今年も刊行
8
記者研修会プログラム
21
68
99
28
会員掲示 板
新しいOB会員
こ まき
■■■ とし ひさ
小牧 利寿
1972年日本経済新聞入社。ジャカ
ルタ支局長、アジア部編集委員、
編集局編集委員など。4月末退社。
物差しの選び方で世の中、議論の方向
は正反対になることも。少しでも幅広く
世界を知りたく、入会しました。どうぞ
よろしく。
情報発信
クラブ施設では会員による各種の会合が行われています。
企業や大使館などの賛助会員も記者発表の場としてクラブ
を利用しています。
■ 日本自治学会第13回シンポジウム
テーマは「民主主義を問い直す~地方分権改革の20
年 その総括と未来~」
。細川護熙元首相の基調報告
に続き、浅野史郎神奈川大学教授、片山虎之助参議
院議員、片山善博慶応大学教授、西尾勝東京都市研
究所理事長が議論を交わした。司会は城本勝NHK解
説副委員長。出席者は約100人。
(7.6 10階ホール)
■ 五十嵐一氏の会
サルマン・ラシュディの『悪魔の詩』日本語版の翻
訳者、五十嵐一筑波大学助教授(当時)
が殺害されて
から22年。事件を風化させないために、毎年 7 月に
開催されている。
(7.10 10階ホール)
■ 後藤新平の会シンポジウム
「後藤新平と五人の実業家たち─公共・公益の精神」
と題し、渋沢栄一ら実業家との関係に焦点を当てた。
会員のほか、一般来場者など約130人が出席した。ま
た「第 7 回 後藤新平賞」授賞式も行われ、元衆議院
議員でNPO世界平和大使人形の館をつくる会代表の
園田天光光氏に贈られた。
(7.13 10階ホール)
■ 第36回女性だけの写真展オープニングパーティー
全日本写真連盟東京・女性支部合同の写真展開催を
記念して行われた。誕生から50年余りの歴史を誇る女
性支部の会員のほか、雑誌・出版関係者、メーカー各
社が集まった。出席者は約200人。
(7.26 10階ホール)
■ 読売テクノ・フォーラム 2013年度夏休みのシンポジウム
「豊かな海の生物たち∼神秘の世界の探索と保護」
塚本勝巳日本大学教授、ドゥーグル・リンズィー
海洋研究開発機構技術研究副主幹、加藤秀弘東京海
洋大学教授が講演し、最新の研究成果を紹介した。
高校生や親子連れなど約250人が参加した。
(7.27 10階ホール)
Gallery 9 th floor 栗田格会員写真展
フランス・ガンマ
通信の栗田格会員
の 写 真 展「 や じ 馬
人生50年」をラウン
ジで開催しました
(7/29 ~ 8/9)
。
1964年から海外
メディア向けに取材してきた日本の今昔と人物
を、パネルとスライドで展示しました。ミッテラ
ン、シュミット、鄧小平、ワレサ、サッチャー、
マンデラ(会見順)
をはじめ日本の歴代首相など
日本記者クラブで会見したビッグゲストの顔も。
企画委員会活性化に尽力
斎藤明元委員長を偲んで
毎日新聞元社長の斎藤明さんが 6 月13日に亡くな
り、 7 月31日お別れの会が帝国ホテルで行われた。
斎藤さんは92年から96年までクラブの理事・企画委員
長を務めた。女性委員の 1 人として抜擢され現在も
企画委員を務める川戸惠子さんと元委員の藤原作弥
さんに思い出を寄せていただいた。
■若手と女性記者の活躍を
「現場の記者や女性にもっと活躍してほしいんだ
よ」と斎藤委員長が企画委員を増員されたのは20年
前。私も会報委員会から横滑り。最初の仕事は細川
政権誕生直前の「 9 党党首討論会」の司会だった。自
民党一党支配崩壊?とあって活発な質疑応答になり、
してやったりという感じだったのをよく覚えている。
斎藤さんはとにかくエネルギッシュ。若手を集め
て政治の裏表を話してくださったり、ゲストの選定
でも実に幅広い分野の名を挙げられた。
「丸谷才一さんの『女ざかり』はボクがずいぶん材
料を提供したんだよ」とうれしそうだったことも忘れ
られない。
先輩に託された勉強会、まだやってますよ!
企画委員 TBSテレビシニアコメンテーター 川戸惠子
■バブル崩壊「金融システム研究会」立ちあげて
斎藤明さんが企画委員長時代の全期間プラス 1 年
の97年までの 6 年間、企画委員としてどっぷり“お仕
え”したことになる。
私は経済畑だったが、大蔵省詰め時代は共に福田
(赳夫蔵相)
番だったし、沖縄返還・ニクソン・ショッ
ク時代はお互いワシントン特派員で苦楽を共にした
ので、気心も通じ、企画委員会では「フーさん、金融
経済はよろしく」とまかせてくれた。
折からバブル崩壊に伴う平成大不況の“失われた10
年”の始まり。不良債権問題など「金融システム研究
会」に明け暮れたが、まさか、そのときの“猛勉”が、
98年に日銀入りする“予習”勉強になるとは!? 合掌。
元時事通信解説委員長 元日本銀行副総裁 藤原作弥
大分合同新聞が引っ越し プレスセンター 4 階に
大分合同新聞東京支社がプレ
スセンター 4 階に移転しました。
下川宏樹支社長は「立派なビルに
負けないよう、取材や営業に力を
入れて、大分県人に喜ばれる紙
面づくりをしていきたい」と意気
込みを語っています。写真は下川
支社長(右)考案の「新聞尻差し運
動」
。題字を見せて都内を歩きま
わり、大分合同新聞の知名度を上
げる作戦とか。左は首藤康東京支社編集部長。
プレスセンタービルに入居している地方紙は 8 社
となりました。
日本新聞博物館企画展
安保闘争など日本の戦後史の現場や、瀬戸内海の
離島の民俗・風習を撮影してきた、現役最長老のフォ
トジャーナリスト・福島菊次郎さんの「92歳の報道写
真家 福島菊次郎展 ヒロシマからフクシマへ─。戦
後、激動の現場」が、8/24から10/20まで開催されます。
☎045-661-2040 http://newspark.jp/newspark/
No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 22
事 務局から
バー/レストラン/宴会
予約電話 和食
3503 2723 洋食 3503 2766
和食 葉月懐石(8/30まで)
前菜:うなぎ八幡巻など お椀:甘鯛焼目付な
ど お造り:三点盛り 焼物:いさき南部焼き 煮物:南瓜まんじゅう、蕪、茄子など 揚物:海老、
こち天ぷら 食事:稲庭うどん 水菓子:季節の
果物 グラス冷酒付き(5,250円)
(板長:大井由光)
洋食 8月 夜の一般メニューが半額です
毎夏、好評をいただいている 8 月限定のサービ
スです。レストラン・アラスカが日頃のご利用に
感 謝し て 会 員向けにディナータイムの 一 般 メ
ニューを半額で提供します。例えば特選黒毛和牛
ステーキコースを6,300円で召し上がっていただけ
ます。日比谷公園界隈の夜景も楽しんでいただき
ながら、ご家族や友人との会食にご利用ください。
ご予約をお願いします。
(シェフ:黒須修一)
8 /12∼17 クラブを閉室します
すでにご案内のとおり、空調工事のため 8 月12日
(月)
から17日(土)
までの 1 週間、事務局、ラウンジ、
和食レストランなど 9 階のクラブ施設すべてと10階
レストラン・アラスカを臨時休業します。19日(月)
から平常通りオープンいたします。
会員社ホール │イ│ベ│ン│ト│情│報│
日本記者クラブのグッズに、
シルバー製のピンブローチが新
登場しました。日本のジャーナ
リズムの拠点として、報道の自
由を守り、人々の知る権利に資
する活動を続けるクラブの象徴
として、羽根ペンをモチーフに
制作しました。贈り物や取材先
へのお土産にいかがでしょうか。
箱付きで5,000円
(税込)
です。受
付でお買い求めください。
<法人代表変更>
東京スポーツ新聞社 酒井修代表取締役社長(旧・
江幡幸伸)▽共同通信社 福山正喜社長・編集主幹
(旧・石川聰)
▽デーリー東北新聞社 荒瀬潔代表取
締役社長(旧・泉山宇一)
▽沖縄タイムス社 武富和
彦取締役編集局長(旧・長元朝浩)
▽フジテレビジョ
ン 亀山千広代表取締役社長(旧・豊田皓)
▽テレ
ビ東京 髙橋雄一代表取締役社長(旧・島田昌幸)
▽
毎日放送 加登英成東京支社長(旧・榎本恒幸)
▽中
京テレビ放送 山本孝義代表取締役社長(旧・徳光
彰二)▽テレビ西日本 高木敏弘代表取締役社長
(旧・寺﨑一雄)
▽NHKエンタープライズ 今井環代
表取締役社長(旧・佐藤寿美)
<訃報> 王子瑞徴会員(時事通信出身、93歳)
が5
月24日に、嶋田安雄会員(日本経済新聞出身、83歳)
が 7 月16日に死去されました。謹んでご冥福をお祈
りいたします。
▲
日経ホール 大手町座 第14回 ザ・ニュースペーパー
~演じる新聞、観る新聞~ 日々刻々と変わる政治・
経済・社会のニュースを素材にコントを仕上げ舞台
化する、社会風刺コント集団のステージにご期待く
ださい。
9/20 19時、9/21 13時・17時開演(5,500円)●
問い合わせ:☎03︲5281︲8067●http://www.nikkeihall.com/
サントリーホール イタマール・ゾルマン ヴァイオ
リン・リサイタル ポピュラーな曲とあまり知られ
ていない曲を組み合わせた、コントラストの面白い
プログラムをお楽しみください。
10/28●19時 開 演(S席 4,000円・A席3,000円 )●
問い合わせ:☎0570︲55︲0017●http://suntory.jp/
HALL/
王子ホール 林 美智子 Player Vol. 5 フランス・
オペラより~「愛に生きる女性たち」
フランス・オ
ペラに描かれたヒロインたちにスポットライトをあ
て、数々の歌と音楽と語りを通してフランスの女性
像を描きます。
10/11●19時開演(5,000円)●問い合わせ:☎ 03︲
3567︲9990● http://www.ojihall.jp/
クラブグッズ 羽根ペンのピンブローチが仲間入り
HP ➡ http://www.jnpc.or.jp/
▲
8月の行事予定(8/2現在)
▲
20㊋
13:30 ~ 15:00 宴会場 研究会「参院選後の日本」伊藤元重 東京大学大学院教授
23㊎
13:00 ~ 14:30 10階ホール 研究会「参院選後の日本」武藤敏郎 大和総研理事長
28㊌
12:00 ~ 13:30 10階ホール 昼食会 松浦祥次郎 日本原子力研究開発機構理事長
29㊍
12:00 ~ 13:30 10階ホール 昼食会 田中俊一 原子力規制委員会委員長
ホームページの「会見カレンダー」で、日時の変更なども含め、最新のク
ラブ行事をお知らせしています。参加申し込みもカレンダーからできます。
クラブの電話 ダイヤルイン
和食レストラン(9階)
洋食レストラン(10階)
貸室予約、宴会打ち合わせ
受 付
会員現況
☎3503
☎3503
☎3503
☎3503
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法人会員:126社 基本会員:731人 個人会員:1,402 人 法人・個人賛助会員:63社・147人 特別賛助会員:93人 名誉・功労会員:12人 学生会員:40人
計:189社・2,425人
23 ⃝日本記者クラブ会報 2013.8.10 No.522
NEW!
■会見詳録 7 月のアップロード
第23回参院選 9 党党首討論会(2013.7.3)
第 1 回記者ゼミ 杉山晋輔 外務省アジア大洋州局
長「アジアは、ひとつひとつ?」
(2013.6.11)
■会員ジャーナル
私の取材余話「ベトナムと私──女性ジャーナリスト、
ウェブ・ケイトさんの場合」田中信義 元NHK記者
会報委員会
委員長=石川 一郎
委 員=荒田 茂夫 五十嵐 裕 大寺 廣幸
風間 晋 神田 由紀 北村 節子
佐塚 正樹 高橋 茂 長澤 孝昭
吉野 理佳
(事務局:長谷川和子 村田 茜)
☎03 3503 2752 FAX 03 3503 7271
写 真 回 廊
撮影:田口 元也(時事通信仙台支社編集部)
水の神に願い込め
9
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夏本番。あなたは山派? それとも海派?
山開きが
今年は世界文化遺産効果で富士山よの
つ くら
例年に勝るにぎわいをみせたが、四倉海水浴場
の海開きも格別だった。
東日本大震災のがれきの撤去がようやく終わ
り、お待ちかね、子どもたちの歓声が 年ぶり
に戻ってきたのだ。いわき市の ある海水浴場
で 番目の再開だった。海辺で普通に海水浴が
できる。これも復興への大きな一歩である。
それに海開きは単なる海水浴場のオープンで
は な い の で す よ。 山 開 き が 山 に す む 神 様 の 許 し
を 得 て、 修 業 に 登 る 信 仰 の 行 事 に 由 来 す る よ う
に、海開きも水の神様、川の神様に水の恵みを
願い、災いを流す古の行事に淵源があるとされ
る。東京電力福島第一原発から キロの四倉海
水浴場が、海開きに安心・安全を願う気持ちは
ことのほか強かったに違いない。大丈夫、備え
は万全だ。時刻ごとの放射線量もきちんと分か
るようになっている。
海開きが「海の日」に行われたこともうれしい。
本来の 日が第 月曜日に変わって以来、海の
日の存在感がどうも薄れたのではと、 月生ま
れのワタクシは残念に思ってきた。
祝日法には「海の恩恵に感謝するとともに、海
洋国日本の繁栄を願う」とある。排他的経済水域
(EEZ)約405万 平 方 キ ロ は 堂 々、 世 界 位
だ。海の恵み、安全、そして守りの大切さを、海
派としては大いに力説したい。
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(千野 境子)
7
や
もと
た ぐち
3 年ぶりのオープン 打ち寄せる波に子どもたちの歓声が起こった 7 月15日 福島県いわき市 四倉海水浴場
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No.522 2013.8.10 日本記者クラブ会報 ⃝ 24
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