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Page 1 [書評] 総合女性史研究会編 『史料にみる日本女性のあゆみ』 ー

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Page 1 [書評] 総合女性史研究会編 『史料にみる日本女性のあゆみ』 ー
[書 評]
総合女性史研究会編
『史料にみる日本女性 のあゆみ』
一越境する研究のすすめ一
陳
蘇黔(ち ん
そけん)
集 大 成 と い う印 象 を 受 け た と同 時 に 、 日本
こ の 本 を知 る に は 執 筆 ・
編 纂 者 らが 自 ら
書 い た 冒頭 「刊 行 に あ た って 」 を読 む の が
一 番 手 っ取 り早 い 。2べ 一 ジ足 らず の 紙 面
の女 性 学 研 究 の 蓄 積 を 感 じた 。
こ こ で 内 容 と体 裁 を要 約 して お こ う。 ま
ず 目次 か ら抜 粋 す る 。
で 、 こ の 史 料 集 の ね らい 、 対 象 とす る読 み
手 、 女 性 史 をめ ぐる社 会 の 関 心 と研 究 の 現
1古
代
一
状 と い っ た 自明 な が ら きわ め て 重 要 な 要 点
の変化 と売 買春
が 簡 潔 な 筆 致 と親 しみ 易 い 「で す ・ま す」
政 治権 力の場 で
四
三
表現 と束縛 のは ざま
る よ うに わ か りや す く書 か れ て い るの で あ
II中
る 。 しか も、 利 用 法 ま で 丁 寧 に解 説 、 指 南
女性 をめ ぐる中世法
一
で あ ろ う。 赤 い 帯 に 大 き くあ る 「女 性 史 を
と宗教
III近 世
ズ は な か な か 説 得 力 が あ る。
学 習 目的 の 手 引 き と して だ け で な く、 女
婚姻 ・妻 ・財産
五
学 ぶ 人 に 贈 る 最 新 の 入 門 書 」 と い う フv一
多様 な史料 に見 る女性
武家 女性 の地位 と思索
的 な 女 性 史 の 史 料 集 で あ る 。 つ ま り、 あ ま
春
た に あ る 個 別 テ ー マ の 専門 書 とい う現 状 か
代
町 家女性 の労働 と生活
一
文 明開化 と女性
易 い総 合 的 な 一 冊 で あ る。 「刊 行 に あ た っ
主義の成 立 と女性 の役割
三
周 年 の 際 、通 史 三部 作 の 力作(『 日本 女 性 の
放
歴史
V現
出 し、 本 書 は 創 立20周
二
資本
大正 デモ クラ シー と女性解
昭和期 ・戦争 と女性
代
一
戦後 の民 主的改革
二
平
和 ・暮 ら しを守 る運 動
三
年記念 の一環 と し
て 、 先 の 三 部 作 の 姉 妹 編 と して ま とめ た と
四
愛情 と買売
さ まざまな場 での女性 たち
N近
て 」 に よ れ ば 、 総 合 女 性 史 研 究 会 は創 立10
五
四
六
らは じめ て 誕 生 した信 頼 で きる しか も教 え
世 に送 り
二
農村 女性 の労働 と生活
女性 をめ ぐる相 続 と財 産
文化 と思 想 』 角 川書 店)を
女性
一
現 場 教 育 か らの 要 請 に応 え た 意 味 で も画 期
『同
四
二
六
三
女 のは た らき』
自己
庶民 の女性
性 学 の 学 問 的 地 位 の 確 立 に伴 い 、 大 学 な ど
性 ・愛 ・家 族 』 『同
五
政 治史 で活躍 した女性
三
して い る。 これ ほ ど明 快 な 前 書 き も少 な い
結婚
生活 とはた らき
神 仏の 前で
の 文 体 で 、 予備 知 識 の な い 人 に も理 解 で き
世
二
高 度成 長の時代
四
世界
の女性 と連帯 して
い う こ と で あ る 。 門 外 漢(門 外 婦 とい うべ
き か)の 私 で も、 内 容 を概 観 して20年
の
一64一
古 代 か ら現代 まで4つ の大 きな時代 区
一
分 に沿 って 相 応 の テ ー マ が た て られ 、 上 記
思 うの で あ る。女性 史 の 史 料 集 で あ る 以 上 、
に挙 げ な か っ た が 、 各 テ ー マ の 下 には さ ら
既 存 の 材 料 を利 用 しつ つ 女 性 学 の 観 点 に そ
に 幾 つ か の 項 目 に 整 理 さ れ て い る。 本 文 を
って 従 来 の 解 釈 を 書 き なお さ な け れ ば な ら
ひ も とい て 読 む と、 項 目 ご とに 関連 の 史 料
な い 。 本 書 は 古 代 か ら現 代 まで 時 系 列 が ワ
が 掲 げ られ 、 そ の 下 に史 料 の 出 典、 読 み の
イrス パ ンな だ け に 、 そ の 上 コ ン パ ク トに
注 と参 考 文 献 が 示 さ れ て い る。 こ れ は1ベ
ー ジ前 後 の ス ペ ー ス に収 ま る よ う工 夫 さ れ
凝 縮 す る制 限 の も とだ か ら、 テ ー マ や 項 目
て お り、 そ して 、 読 解 の 手助 け と史 料 の意
で の集 積 が あ っ て こそ な しえ た わ ざ の よ う
味付 けの 目的で 別のペ ー ジで同様の分量 の
に思 わ れ る。
の選 定 ・把 握 が 決 して 容 易 で な く、 そ れ ま
執 筆 者 に よ る解 説 が つ い て い る。 コ ラ ム も
テ ー マ の と ら え 方 に つ い て は 、 や は り前
要 所 要 所 に 配 さ れ て い る。 使 い 易 い と い う
述 した 通史 三 部 作 に通 じた 総:合研 究 会 の 一
点 で 特 筆 な の は す べ て の 項 目 に通 し番 号
貫 した 姿勢 が 感 じ られ た 。 キ ー ワー ドで い
(時 代 別)が
あ り、 収 載 史 料 一 覧 も あ るの
えば 政 治 と権 力 の 場 、 家 、 宗 教 、 表 現 な ど
で 、 キ ー一ワー ドか らの 取 り組 み を可 能 に し
とな り、 一.Lれ
らの 共 通 点 が 固有 名 詞 を も つ
て い る とい う こ とで あ ろ う。
た女性 だとすれば、 家族、婚姻 、 生活 、 働
ス ク リプ トだ け で な く、 絵 画 や 写 真 な ど
き、 相 続 、 財 産 な ど は す べ て の 女 性 に か か
資 料 も駆 使 さ れ 、 例 え ば 中 世 の 「多 様 な 史
わ る 言葉 で あ る 。 歴 史 は 固 有 名 詞 に よ っ て
料 に 見 る 女 性 」 の コ ラ ム に 「絵 画 史料 に 見
構 成 され て い る とい っ て も 過 言 で は な い が 、
る 女 性 」 の 項 目 が あ り、16世 紀 後 期 の 『月
数 少 な い史 料 か ら洗 い 出 し、 過 去 の 普 通 の
次 風俗 図屏 風 』 か ら 「田 植 え 」 の 場 面 が 引
庶 民 女 性 に も 目 を 向 け る とい う 意 志 が 読 み
用 さ れ て い る。 ち な み に こ の絵 は 表 紙 の装
取 れた。
丁 に も生 か さ れ て い て 、 題 名 に マ ッチ した
感 じに な って い る。
あ え て い う と、 古 代 中 世 と近 世 が 比 較 的
に 密 度 が高 い 印 象 を 与 え た の に 対 して 、 近
女 性 史 と い う用 語 は い ま広 く定 着 しつ つ
現 代 は 少 な くと も ア ウ トラ イ ン 的 な 印 象 で 、
あ ろ う。 一 般 的 に い う歴 史 とい う概 念 は 一
や や味気ない構成 にな ってい ないか とい う
見 すべ て を対 象 と して い る が実 際 は 男 性 中
こ とで あ る 。 単 に 古 典 か ぶ れ か も しれ な い
心 の カ テ ゴ リー にほ か な らな いa考
えて み
が、 同 じ近代 に と り くむ 者 と して 、 史 料 が
る と、 男 性 史 、 あ る い は 、 日本 男性 の あ ゆ
豊 富 に あ るだ け に取 捨 選 択 が か え っ て 困 難
み と い う言 い 方 は ま ず は しな い で あ ろ う。
に な る とい う宿 命 的 な こ とは 分 か っ て い る
男性 の 特 定 の 何 か を語 る歴 史 本 な らあ るが 、
つ も りな の だ が 。 と も か く近 代 以 前 の 部 分
男性 と 限 定 して 歴 史 を 語 る 発 想 は い ま だ に
で 個 人 的 には 大 変 興 味 深 か っ た 項 目が い く
な い 。 な ぜ な ら 男 性 史 そ の もの が歴 史 にな
つ か あ る。例 えば 女 性 と宗 教 の 関 わ り方 、
っ て き た か らで あ る 。 本 書 も含 め女 性 史 の
こ れ は 前 近代 の 部 分 に お い て 時 代 ご と に 言
普 及 に よ って 、 こ う した 問 題 意 識 が広 くも
及 され た テー マ の よ うで あ る。 『日本 書 紀 』
た れ 、 い つ か 男 性 史 とい う視 点 の 考 察 も さ
れ る よ う に な れ ば よ い と書 評 者 は 個 人 的 に
一65一
『続 日 本 書紀 』 な ど(古 代 時 期)の
記述 か
ら、 仏 教 伝来 の 当初 か らか な り主 体 的 に 関
わ っ た 女性 の姿 が 覗 え 、 中世 の 部 分 で 『梁
塵 秘 抄 』 の 法 文 歌 や 寺 院 所蔵 の 文 書 の 引用
か ら、 諸 宗 教 と政 治 の 力 学 の 歴 史 に 女性 排
斥 の プ ロセ ス が い か に で きあ が っ て い った
が 提 示 され て い る 。 大 変 勉 強 に な っ た部 分
の 一 つ で あ る 。 日本 に き た最 初 の 頃 か ら時
代劇 な どになぜ出 家の女性が たびたび登場
す るの か、 不 思 議 に 思 っ た も の で あ る。 中
国 で も 宗教 と女 性 を め ぐる も の は 古 典 の 中
に い く らで も掘 り出 せ そ うに 思 うが 、 受 け
入 れ か た にお い て 恐 ら く違 い が あ る よ う に
思 え る 。 比 較 研 究 と して は 興 味 深 いテ ー マ
と な りえ よ う。
こ こ で 自分 自 身 もふ くめ 、 学 生 へ の利 用
法 に ふ れ て み た い が 、 本 書 は 使 い 易 い仕 上
が りにな っ て い る が 、 個 別 の 内 容 レベ ル で
は 充 分 に理 解 す る に は 間違 い な く時 間 と努
力 が 必 要 で あ る 。 た だ 、女 性 学 は 比 較 的 新
しい 学 問 で あ り、 携 わ って き た 研 究 者 の 出
身 は 勿 論 最 初 か ら女 性 学で は な く、 文 学 、
政 治 学 、社 会 学 、歴 史 学 、経 済 学 だ った とさ
ま ざ まな は ず だ 。 本 書 の史 料 も ジ ャ ンル 別
で い う と多 彩 で あ り、 ジャ ン ル を超 え た研
究 の 手 本 と して 参 考 に す る の も い い で あ ろ
う。 最 近 の 動 向 をみ る と、 日本 文 学(国
文
学 と冠 す る 学 科 が す っか り減 って い る)の
分野 で さ えカル チ ャー ・
ス タデ ィーの流 れ
が 勢 い をつ け つ つ あ る(個 人 的 に す こ し複
雑 な 心 境 で は あ る が)。越境 す る研 究 をお す
す め す る 。 女 性 学 の ア ブp一 一
チ か ら他 分 野
を 、 他 分 野 か ら女 性 学 に歩 み 寄 る き っか け
とな る の も い い の で あ る。 最 後 に 、 本 書 よ
りや や 先 に 同 じ出 版 社 か ら 厂文学 に 見 る 日
本 女 性 の 歴 史 」 もあ り、 中 国 女性 史 の 分 野
で も 同 じ試 み が され て い る こ と を付 記 して
お こう。
一ss一
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