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発言要旨(和文)

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発言要旨(和文)
【要旨】
基調講演
ウィリアム・R・イースタリー ニューヨーク大学教授
「市場自由化と経済発展」
“Free Markets and Economic Development”
まず、貧困と ODAの関係について話をしたいと思います。多くの人が先進国からお金を注入
しさえすれば貧困は終焉するのではないかと思っていますが、結果としてはあまりうまくいっ
ていません。歴史を振り返ってみても、 ODAを出したからといって貧困がなくなったわけでは
ありません。援助ではなく、自由市場というものをもっと活性化させることが、貧困を終焉さ
せる上で重要なのです。
自由市場に対しては、反対する人々もいます。例えば、自由市場の一つとして貿易がありま
すが、世界銀行アドバイザーであるコリアー(Paul Collier)教授などは、貿易が活発になると、
天然資源への依存度が増して、底辺の人々がもっと貧困になると言っています。また、サック
ス(Jeffrey Sachs)教授は、人々は貧困すぎて開発どころではなく、自由市場などとんでもないと
言っています。S ach s教授は、ドナー国の援助と Collective actionが重要だと言い、Collier教授は、
G8諸国がアクションを取り、貧困国を救い出し、貧困の罠を打破することが重要だと言ってい
ます。つまり、全く力のない人々がひたすら援助を待つ、という構図なわけです。また、IMFや
世界銀行は、世界銀行の貧困削減ソースブックに書かれてあるように、行政的組織によって貧
困をなくそうとしています。しかし、1,260ページあるそのソースブックの中に、自由市場とい
う言葉は一回も出てきません。他にも多くの貧困削減戦略レポートがありますが、どこを見て
も自由市場や市場の自由化という言葉は一回も出てきません。MDG s(ミレニアム開発目標)で
は様々な目標が示されていますが、市場という言葉が出てきません。お金を与えて救うという
構図になっています。MDG sは 48項目ありますが、なかなかそれが達成できていません。人々
がやろうやろうと言ってはいますが、その目標の達成に対して責任を持つ人が誰もいないので
す。アフリカでは目標が達成できそうもないと言われていますが、それが誰の責任か、と言っ
た時に、みんな横を向いてしまうのです。しかし自由市場では、いい商品を出さなければ客が
来ないという結果が自分にはね返ってきます。その結果、自由市場では目標が達成されるよう
になります。しかし、ラテンアメリカやヨーロッパなど、自由市場はよく叩かれます。特に低
所得国だと、自由市場といった言葉さえ出てきません。
それでは、援助と市場に関しては、どのようなエビデンスがあるでしょうか。援助は 50年間
にわたって行われてきましたが、成功したという証拠はありません。また、過去 42年間に援助
受入額が多かった上位 4分の 1の国々の GDP成長率は、42年間でわずか 16%です。アフリカに
は多くの援助がつぎ込まれてきましたが、アフリカの人々の生活水準は向上していません。援
助はうまく機能してこなかったのです。しかし今、貧困削減のために援助が必要だと言われて
いるわけです。
歴史的に見ると、経済の成長は、貧しい国でも豊かな国でもそれほど変わりはありません。
自由市場を採用している国は、貧しい国でも豊かな国でも、高い成長率を記録しています。例
えばインドや中国は貧しい国ですが、自由化を進め、貧困の罠から速やかに抜け出て、豊かな
国に追いつきつつあります。つまり、貧しい国にとっても、市場によって経済を牽引する方が、
援助によるよりももっと希望が持てるのです。これまでにも MDGsと似たような目標が設定さ
れてきましたが、結局うまくいかなかったという歴史があります。例えば、すべての人に教育
を、という目標が 1970年代にも設定されましたが、結局達成されませんでした。
ここに逆説があります。援助は貧困を撲滅できませんでしたが、自由市場は貧困を撲滅して
きました。それでは、なぜ自由市場は人気がないのでしょうか。自由市場は、敵にも味方にも
足をすくわれてきました。自由市場支持者たちは、短期間に成長が起こると約束しすぎました。
そして反対者たちは、それが達成できていないと反対してきました。自由市場によって速やか
に成長が起こるというのは間違いです。自由市場の成果は長期的なものであり、短期的な動き
は変動するものです。しかし、長期的には自由市場を導入することによって、安定的に所得を
向上できるのです。それは低所得国でも高所得国でも同じです。世界銀行の構造調整プログラ
ムでは、自由市場によって経済が短期に成長すると主張しましたが成長しませんでした。旧共
産諸国に対しては、自由市場を導入することで成長できると約束しましたが、移行期に非常な
困難に直面してしまいました。つまり、自由市場を提唱する人は、短期間に成長ができること
を強調しすぎたのです。自由市場の考えが人気がないのは、自由市場の効果は本来、予測不可
能で、不均等で、漸進的なものであるのに、自由市場の提唱者たちが、自由市場によって、予
測可能で、均等で、すぐに効果が出ると約束しすぎたためなのです。
世界各国の経済学者が、どうしたら経済成長をもたらせるかということで論議していますが、
どのような政策を行えば経済成長が促進されるのか、実はよく分かっていません。時間を通じ
て政策にあまり変化はありませんが、成長率は大きく変化しています。1986~95年の成長率と、
1996~2005年の成長率を見ても、1986~95年の間に高成長した国がその後もずっと高成長するわ
けではないことがわかります。結局、成功したかどうかについて、成長率を用いるのは不適切
なのです。ディキシット(Dixit)教授が、「どの時代でも、ある国が成長すると、その国の政策
や行政のあり方がすばらしいといって褒め称えて、他の国もそれに倣えと言う。しかしある国
でうまくいった方程式が、必ずしも他の国でもうまくいくとは限らない。十年後か二十年後に
はその国の高成長も止まり、また別の国が他の政策を採用して高成長すると、今度はその政策
を他の国も行えと言われる。」と指摘したように、私たちは成長率に過剰に反応しすぎてきま
した。しかし、成長率はずっと維持しうるものではない不安定なものであり、成功を測る指標
にはなり得ないのです。
また自由市場の成功は非常に不均等です。輸出を見ても、わずかな数の大ヒット商品が成功
をもたらしていると言えます。全部で 3,000の輸出製品があったとすると、トップ 3が全輸出額
の 35%を占めるのです。しかも、そのトップ 3が何になるのかも予測がつきません。大ヒット
商品というものは、予測できないのです。フィリピンでは半導体がヒットしており、世界で
71%のシェアを占め、フィリピンの製造部門全体の輸出額の 33%を占めています。またエジプ
トは、タイル製品が製造部門の輸出の 30%を占めており、その 93%がイタリアに輸出されてい
ます。こうした大ヒット商品が何であるかというのは誰も予測できなかったことです。ハリウ
ッドでも、何がヒット映画になるのかは分かりません。スターウォーズも、多くのスタジオが
その脚本を却下しました。これと同様、何が成功するのか予測することはできないのです。こ
の大ヒットによって、所得の分配が不均等になります。市場において大ヒットを見つける人も
いますし、見つけられない人もいます。そして、地域的格差、民族格差、企業間格差も出てき
ます。成功というのは不均等なものです。しかし、貧しい人でも大ヒットを見つけることはで
きます。コンゴで携帯電話ビジネスを始めた Alieuも、最初は内戦の中から始めましたが、今で
は成功を収めています。
自由市場システムは、確かに平等ではないし、成功の分布も不均等です。しかしそれが自由
市場の最も良いところでもあります。どこでも誰にも成功の可能性があるからこそ、継続的に
大ヒットを生み出し続けることができるのです。
最後に、徐々に貧困から抜け出させるのが自由市場だということを述べたいと思います。ア
メリカやフランス、ドイツ、イギリス、カナダといった豊かな国を見てみると、200年間にわた
って年率 2%の成長をしてきました。貧しい国でも長期にわたってだんだんと成長していくなら、
大きな成功が見込めるということを示すものです。急速に貧困を終わらせようとしても成功し
ないのです。徐々に成功していくものです。中国は近年、急速に成長してきましたが、1世紀半
の間、成長がなかった時期がありました。一方でラテンアメリカは 2世紀以上に渡って徐々に成
長してきました。ラテンアメリカは長期にわたって成長してきたので、中国よりもラテンアメ
リカの方がずっと大きな成功を収めています。常に中国よりもラテンアメリカの方が豊かです。
貧困削減については、ラテンアメリカの方が自由市場を取ってきたために成功してきました。
成長は短期的には不安定で、進歩も漸進的なものです。東アジアのような、急速な成長が持続
するケースは非常に稀です。50年間で年率平均 5%成長した国は 1.9%しかありません。成長と
いうのは徐々に実現されるものです。急成長は実現できるという人もいますが、そういうこと
を示す歴史的な証拠はありません。
結局、市場経済を行ったところは成功し、援助を受けてきた国は成功しませんでした。一人
当たり所得は、自由市場の度合いが低い国ほど低いです。製品輸出額も、政府の規制からの自
由度が高いほど増える傾向があります。自由市場は、貧困削減の長期的な答えです。自由市場
の成果は、短期間で見られるわけではなく、非常に不確実で、予測することもできません。し
かし、「誰も何もわかっていない」という状況では、自由市場が最適な答えなのです。何も分
かっていない状態で進歩を計画的に実現しようとすると、却って失敗してしまいます。予測で
きない社会的な進歩のために援助をしようとしても、成功しないのです。しかし、予測できな
い自由市場を促進することで、長期的には成長することができます。
私は、援助は全く役に立たないと言っているのではありません。自由市場だけが良いと言っ
ているのでもありません。援助もある役割を果たすと思っています。しかし、自由主義の方が
長期的に見ると成長をもたらすという証拠が出ています。援助にもプラスの役割はあります。
病気の人を治したり、教育を受けていない人に教育を与えたり、飢えている人に食べ物を与え
たり。もし援助においても、民間企業が果たすべき説明責任を同じように果たせるなら、援助
も効果があると思います。しかし援助の世界では、病気の人に治療を施せなくても、教育をう
まく提供できなくても、誰も制裁を受けることはありません。援助に一定の役割があることは
確かですが、貧困をなくすことはできないというのが私の結論です。
市場は予測が不可能であり、不均等で、漸進的、不確実なものですが、援助は効果がゼロで
す。それに比べれば、市場は長期的には効果があります。それを考えると、援助よりも自由市
場の方が良い、というわけです。自由市場、資本主義は、貧困削減のための最悪の方法ではあ
りますが、これまで試みられたどの方法よりも優れたものなのです。
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