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BluetoothTM 対応データプロジェクタ

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BluetoothTM 対応データプロジェクタ
TM
Bluetooth 対応データプロジェクタ
特
集
BluetoothTM Data Projector
多鹿 陽介
山本 典宏
TAJIKA Yosuke
YAMAMOTO Norihiro
データプロジェクタは,Microsoft쏐PowerPoint쏐(注 1)のような,パソコン(PC)アプリケーションソフトウ
ェア(以下,アプリケーションと略記)により作成された資料のプレゼンテーションツールとして,会議室などで
最近よく利用されるようになってきた。そこでは,発表者用の PC とデータプロジェクタ間はケーブルで接続さ
れており,発表者の位置が限定されるため,ワイヤレス接続ができる機器が望まれていた。
この要求にこたえるため,Bluetooth 技術及び SPANworksTM 技術を利用して,PC と容易に無線接続し,
TM
プレゼンテーションで利用できる Bluetooth 対応データプロジェクタを開発した。これは,PC から直接プロ
TM
ジェクタへスライドを無線転送するという,映像機器の新たな応用システムであり,ユーザーの利便性に大きく
貢献するものである。
Data projectors have recently become highly popular presentation tools in the conference room due to the creation of
presentation materials with PC applications such as Microsoft쏐 PowerPoint쏐. There is also strong demand for wireless connection
of the data projector to the PC, since the use of a cable limits the position of the presenter.
To meet this demand, we have developed a BluetoothTM data projector that allows wireless network connection to be easily
achieved using BluetoothTM and SPANworksTM technologies. This provides a new application system with an imaging device in
which stored OHP data are delivered by radio, thereby greatly enhancing convenience to the user.
1
一方,容易にワイヤレス接続を実現する技術については,
まえがき
これまで,携帯機器を持ち寄るだけで,その場で簡単にネ
PowerPoint쑓などで作成された資料を,PC でプレゼンテ
ットワークを作ることのできる Wireless DAN(Desk Area
ーションすることが多くなるにしたがって,データプロジェク
Network)通信プラットフォーム技術の研究を進めてきてお
タを使用する場合が多くなってきた。最近では,大きなプレ
り ,Wireless DAN の持つアドホック
(
“一時的に”の意)
ネッ
ゼンテーション会場だけでなく,スクリーンのない会議室な
トワーキングの特長を生かしたアプリケーションとして,携帯
どで使用されることも多い。これに伴って,データプロジェ
機器を用いて自由に電子データの交換を行うことのできる対
クタに対しての要望も多岐にわたってきており,特に部屋を
面会議支援アプリケーションを開発してきた(2)。そして,これ
暗くしなくても表示内容が見やすい,高輝度で,冷却ファン
らの成果は,SPANworks TM という商品名で,Windows쑓(注 2)
ノイズの静かなモデルが欲しいという要求が強まっている。
アプリケーションとして動作するソフトウェアとして製品化,
また,複数の発表者が発表を行うときには,データプロジェ
実装されている(p.13 −16 を参照)。現在,Bluetooth ,
クタへの接続ケーブルを差し替えたり,データプロジェクタ
IEEE(米国電気電子技術者協会)802.11 などの PC カード向
に接続されている PC に PowerPoint쑓 の資料を移してプレ
け,及びそれら通信デバイスを搭載したノート PC での新応
ゼンテーションを行う必要があり,PC とデータプロジェクタ
用提供を目指し,Bluetooth 仕様, プロファイル(Profile)に対
をワイヤレスで接続してプレゼンテーションを行いたいとい
応し,マルチポイント間をアドホックに接続する通信プロト
う要望も強まっていた。
コルと,上記対面会議支援アプリケーションを搭載したソフ
今回開発した液晶データプロジェクタ TLP−X10 シリーズ
(1)
TM
トウェア SPANworksTM2000 を開発している。
の明るさは,2,000 lm(ANSI:米国規格協会)
と高輝度を実
SPANworksTM2000 では,対面会議支援を行ういくつかの
現しつつ,ノイズレベルは 31 dB(ローパワーモード時)
と静
アプリケーションを搭載しているが,その一つにプレゼンテ
音化を実現させたモデルである。また,PC カードスロットを
ーション機能がある。これは,文字どおりプレゼンテーショ
TM
備え,このスロットに Bluetooth 対応キットの専用 PC カー
ドを挿入することにより,ワイヤレス接続に対応できるように
なっている。
東芝レビュー Vol.5
6No.4(2001)
ンを支援するアプリケーションで,発表者が準備した発表資
(注 1),
(注 2) Microsoft,PowerPoint,及び Windows は,米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国における登録商標。
17
料用のファイルや画像ファイルを指定するだけで,プレゼン
デジタルRGB
テーションで用いるスライドを周囲の聴衆に配信し,聴衆の
アナログRGB 1/2
PC の画面上にスライドを表示することのできるアプリケーシ
Y PB PR
ョンである。
今回,データプロジェクタ自体に Bluetooth
TM
ビデオ/S
や SPAN-
works TM のネットワーク及びアプリケーションを搭載して,
TM
Bluetooth 機能を介して直接プロジェクタへスライドを配送
PCカード
ビデオ
デコーダ
A/D
スケーラ
プログレッシブ
走査
PLD
回路
JPEG回路
マイコン
回路
(애ITRON)
RS232C
リモコン,
USB
述する。
2
データプロジェクタ本体の回路部概要
ドライブ
回路
書画カメラ
する,という新たな応用システム
(SPANworksTM Show)を
実現した。ここでは,その 提供機能,内部の概略仕様を記
アナログ
スイッチ
ファン回路
温度センサ
回路
図2.TLP−X10 シリーズの回路構成 メインマイコンと信号処理マ
イコンを使用し,操作性と制御性を大幅に向上させている。
Configuration of TLP−X10 series electric circuit
データプロジェクタ(TLP−X11)の外観を図1に,TLP −
X10 シリーズの回路構成を図2に示す。
TLP−X10 シリーズは,入力信号としてアナログ及びデジ
てスケーラ回路に送られる。ビデオ信号は,ビデオデコード
タル(DVI:Digital Visual Interface)の RGB(赤,緑,青)
回路で処理され,IP(Interlace/Progressive)変換回路でプ
信号,コンポジットビデオ・S ビデオ信号(S 端子(Separate
ログレッシブ信号に変換された後,PLD(Programable Log-
Terminal)に入力するビデオ信号)及び YP BP R(Y:輝度,
ic Device)内のスイッチ回路を経てスケーラ回路に入る。
P:色差)のビデオ入力信号に対応し,ほかに書画カメラ
PC カードスロットからは PC カードに蓄えられた画像ファ
(TLP−X11 だけ)の表示や PC カードからの JPEG(Joint
イルを取り出し,JPEG デコード回路で伸張した後で,PLD
Photographic Experts Group)
ファイルの表示ができる。制
に送りビデオ信号と切り換えられる。ワイヤレス接続する場
御信号として RS232 端子,マウスリモコンの出力用として
合には,このスロットに Bluetooth 用専用 PC カードを挿入
USB(Universal Serial Bus)端子を備えている。
TM
し,マイコン部でプロトコル制御を行い,PC から送られてく
アナログ RGB 信号は,アナログ/デジタル(A/D)変換回
る JPEG ファイルを RAM に蓄え,PC からのコマンドに従っ
路を通った後,デジタル RGB 入力信号(DVI)
と切り換えられ
て RAM に蓄えられた JPEG ファイルを表示する。スケーラ
回路では,入力信号のサンプリング周波数及びサンプリング
位相などを検出し,自動的に表示位置などを最適状態に合
わせる。また,リモコン操作によりデジタルズーム機能や台
形ひずみ補正機能を提供する。ドライブ回路は,R,G,B そ
れぞれの液晶パネル駆動回路であり,色むら補正回路やガ
(4)
ンマ補正回路も含まれる 。
このモデルは,メインマイコンの基本ソフトウェア(OS)に
애ITRON(애 Industrial The Real-time Operating system
Nucleus)を使用し,キー入力/リモコン処理や温度管理処
理及び PC カードについての処理を行い,信号処理用 MPU
で各種の信号に対する表示の自動設定処理やズーム処理を
実施している。
3
TM
Bluetooth 対応ソフトウェアの概要
3.1
全体構成
前述のデータプロジェクタ本体に対し,PC カードスロット
TM
に Bluetooth 対応キットの専用 PC カードを挿入し,このキ
TM
図1.Bluetooth 対応データプロジェクタ TLP−X11
高輝度,静
音化とともに,PC とのワイヤレス接続を実現した。写真は,高精細(145
万画素)の書画カメラを搭載したモデルを示す。
TLP −X11 BluetoothTM data projector
18
ットにより本体のソフトウェアを変更することで BluetoothTM
対応を図った。図3に,プロジェクタ本体側(図の左側),及
び,クライアント側(主に PC を用いる。図の右側)のスタック
東芝レビュー Vol.56No.4(2001)
・PJ
・PC
SPANworksTMShow
SPAN worksTM 2000.
特
集
上位IF部
アプリケーション部
プレゼンテーション チャット ファイルユーティリティ
プレゼンテーション
エンジン部
SDP
SPANエンジン
OBEX
OBEX
RFCOMM
SDP
HCI
LMP
イベント
管理部
OBEX
リモート機器
管理部
RFCOMM-IF部
RFCOMM
L2CAP
L2CAP
HCI
FTエンジン
LMP
ベースバンド
ベースバンド
RF
RF
IF:InterFace
FT:File Transfer
図3.プロジェクタ(PJ)及び PC 側のプロトコルスタック クライ
アントに,PC + SPANworksTM2000 を用いた場合の構成を示す。
Protocol stack of projector and PC
図4.通信エンジン部の概略構成 ファイルの送受信に OBEX を採
用し,BluetoothTM 仕様準拠の機器とデータの相互接続が可能になって
いる。
Configuration of SPANworksTM communication engine
知される。逆に,クライアントからファイル獲得の要求があっ
た場合には,ファイル転送 Profile に従って,ファイルリストや
TM
構成を示す。SPANworksTM Show は,Bluetooth スタック
の SDP(Service Discovery Protocol),RFCOMM(Radio
Frequency COMMunication)の上に位置し,主にオブジェ
ファイル自体を返送する。
3.2.3
アプリケーション部 アプリケーション部の提
供機能は,以下のとおりである。
クトの送受信を行うプロトコルである OBEX(OBject EX-
通信可能なクライアントとの接続操作
change protocol)を含む通信エンジンモジュール(エンジン
クライアントから送られてきた JPEG ファイルの表示
部),エンジン部からの通知を受け,スライドの表示や切替え
クライアントから送られてきた操作に対する処理
をプロジェクタ本体に通知するアプリケーション部から成
共有ポインタの表示
る。図には,クライアントに PC + SPANworksTM2000 を用い
3.2
ロジェクタで投影するために JPEG 表示制御へ入力する。ま
各ブロックの内部構成
Bluetooth
TM
アプリケーション部の内部構造を図5に示す。基本的に
は,受信し保存された画像ファイルを読み出し,それらをプ
た場合の構成を示している。
対応プロジェクタ本体のスタックは,大きく,
TM
た,改ページ情報などの制御情報を受けて,必要な画像を
Bluetooth スタック部,SPANworksTM エンジン部,及びア
再表示させたり,クライアントとの接続状況などの制御情報
プリケーション部に分かれる。
を投影させるための処理を行う。
3.2.1
Bluetooth
TM
スタック部 スタックを構成す
る,RF(Radio Frequency), ベースバンド, LMP(Link
Manager Protocol), HCI( Host Controller Interface),
アプリケーション部
L2CAP(Logical Link Control and Adaptation Protocol),
(3)
表示IF部
TM
SDP, RFCOMM は,Bluetooth 仕様準拠 の Bluetooth ス
スライド管理部
タックを用いている。ベースバンド以下は,PC カード内部
OBEX-IF部
表示制御IF
モジュール
で実行され,それ以上が,애ITRON のソフトウェアとしてプ
ロトコル処理される。
3.2.2
SPANworks TM 通信エンジン部 通信エンジ
エンジン部
ン部で提供する機能は,以下のとおりである。
SDP へのサービス登録
アプリケーションとの OBEX コネクション設定
アプリケーションとのメッセージ送受信
図5.アプリケーション部の概略構成 一般の JPEG 画像の表示だ
けでなく,PC ソフトウェア(SPANworksTM2000)から送られてくるプレ
ゼンテーション画像のデータ管理を行うアプリケーションを搭載する。
Configuration of application software
通信エンジン部の内部構成を図4に示す。今回は,ファイ
ル転送 Profile 準拠の実装であるため,SDP でその Profile
情報を公開するとともに,相手機器からはその Profile に準
4
応用アプリケーションの概要
拠した画像オブジェクトが転送される。そして,画像ファイ
ルとして内部メモリへ蓄積された後,アプリケーションへ通
BluetoothTM 対応データプロジェクタ
今回搭載したシステムは,PowerPoint쑓 の資料を用いた
19
プレゼンテーションの応用において,発表者の PC とプロジ
TM
Root Folder(ファイル受信用に基準場所として定められた場
ェクタの間を Bluetooth 接続し,発表者から送られたスラ
所(フォルダ))に対して画像を PUT(ファイル送信)
された場
イドを随時表示する利用方法と,ファイル転送 Profile 準拠と
合,投影可能な画像ファイルに限り投影し,それ以外は単に
してクライアントから送られた JPEG ファイルを 1 枚づつ表示
ファイルとして格納する。これらのファイルが保存されてい
する利用方法の,大きく二つに分類される。
る間は,クライアントはプロジェクタに対してファイルの GET
4.1
PowerPoint쏐 でのプレゼンテーション この利用法では,クライアント側で,SPANworksTM2000 の
PC ソフトウェアを利用する。利用者(発表者)は,PC ソフト
(相手が保存のファイルを獲得)要求を行うことも可能であ
り,発表者から PUT された資料を他の機器が持ち帰るとい
ったような応用も可能となっている。
ウェア上で,作成した PowerPoint쑓ファイルを指定するだけ
で,自動的にスライドデータがプロジェクタへ転送される。
スライドデータは PC にて自動的に JPEG に変換され,それら
すべてが順次プロジェクタへ転送され,保存,表示される。
5
あとがき
この製品は,従来,データプロジェクタと PC を使ったプレ
利用者は,プレゼンテーションの進行に従い,矢印キーによ
ゼンテーションに必要だった RGB ケーブルを不要にし,ユ
るスライドの改ページ指示などの操作を行う。スライドデー
ーザーの利便性に大きく貢献するものとなった。今回の製
タ自体は,先行してバックグラウンド処理で転送されている
品では,同時には,発表者の PC 1 台とプロジェクタ 1 台との
ため,ページの変更は小さなメッセージを受けるだけであ
接続だけのサポートとなるが,発表者が複数いる場合でも,
る。そのため,改ページ動作は非常に迅速であり,あたか
各自の PC 上の SPANworksTM2000 ソフトウェアを起動して
も PC がケーブルによってプロジェクタに接続された環境で,
おいて,自分の発表のときに,順次プロジェクタと接続して
スライドを投影しているのと同じ感覚でプレゼンテーション
プレゼンテーションを行うことは可能である。プレゼンテー
を行うことができる
(図6)。
ションが終了すると,自動的にプロジェクタとの接続が切れ
るので,次の発表者はプロジェクタと接続する,という具合
に次々とプレゼンテーションを始めることができるため,現
在のオフィス環境に有効なシステムであると考えている。
今後は,応用アプリケーションの機能の拡張とともに,より
TM
SPANworks Show
A great imaging / Presentation
application on TOSHIBA projectors
・Digital images are wirelessly transferred directly to
the projector.
・Slide transmission is based on SPANworks2000.
・SPANworks Show will be based upon future Imaging
Profile.
・Future applications beyond the PC include use with
mobile phones, digital still cameras, PDAs and other
devices.
広い範囲の Bluetooth 機器との相互接続を目指し,デジタ
ルカメラ,携帯電話などとの間で静止画像を交換する Profile
である,Imaging Profile のサポートを代表として,様々な機
能展開を図っていく予定である。
文 献
多鹿陽介,ほか.
“対面通信プラットフォーム WirelessDAN システムの開
発”
.電子情報通信学会 97 年ソサエティ大会 B-822.1997.
森岡靖太,ほか.
“使用場所の制約のない対面会議支援システム”.電子
情報通信学会オフィスシステム研究会 OFS97-43.1997 .
Bluetooth.1.0 Specification http://www.bluetooth.com/
渡辺浩平.小型液晶プロジェクタ TLP650 シリーズ.東芝レビュー.55,2,
2000,p.22 − 26.
図6.PC 側の操作画面 発表者は,使用する PowerPoint쑓ファイル
を選択後(スライドは画面に展開される),PC により自動認識された接
続可能なプロジェクタを選択するだけで,プレゼンテーションを開始で
きる。
PC side operation display
多鹿 陽介 TAJIKA Yosuke
研究開発センター 通信プラットホームラボラトリー研究
TM
4.2
ファイル転送 Profile 準拠動作
プロジェクタ本体がこの Profile をサポートしているため,
主務。無線通信システムの開発,Bluetooth 規格化業務に
従事。電子情報通信学会,情報処理学会会員。
Communication Platform Lab.
指定ソフトウェア以外でも,PC,PDA(Personal Digital As-
山本 典宏 YAMAMOTO Norihiro
sistants)など,この Profile をサポートしたクライアントから
デジタルメディアネットワーク社 深谷映像工場 映像システム
画像ファイルを受けて投影することができる。具体的には,
設計部参事。液晶データプロジェクタの設計・開発に従事。
Fukaya Operations −Visual Products
クライアントからこの Profile 準拠で接続指示を受けた後,
20
東芝レビュー Vol.56No.4(2001)
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