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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
持効性注射剤療法とオリジナル心理教育の包括治療によ
る統合失調症の再発予防
Author(s)
趙, 岳人
Citation
Issue date
2013-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/30908
Right
学位論文
Doctoral Thesis
持効性注射剤療法とオリジナル心理教育の包括治療による統合失調症の再発予防
(Prevention for relapse in people with schizophrenia using combination treatment
with long acting injection (LAI) and original psycho-educational approaches)
趙 岳人
Yueren Zhao
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻神経精神科学
指導教員
池田 学 教授
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻神経精神科学
2013年3月
学 位 論 文
Doctoral Thesis
論文題名:持効性注射剤療法とオリジナル心理教育の包括治療による統合失調症の再発予防
(Prevention for relapse in people with schizophrenia using combination treatment with long
acting injection(LAI)and original psycho-educational approaches)
著者名: 趙 岳人
Yueren Zhao
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻神経精神科学
指 導 教 員 名: 池田 学 教授
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻神経精神科学
審査委員長名: 神経内科学担当教授 安東 由喜雄
審 査 委 員 名: 生命倫理学担当教授 浅井 篤
公衆衛生・医療科学担当教授 加藤 貴彦
医学部保健学科環境社会医学部門担当教授 宇佐美 しおり
2013年3月
目 次
ページ
1.要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.発表論文リスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3.謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
4.略語一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
5.研究の背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
5-1.統合失調症に関する一般的事項
5-2.統合失調症の臨床診断
5-3.統合失調症の治療
5-4.治療上の課題(服薬アドヒアランス維持の難しさ)
5-5.LAI療法における説明と同意の意義
5-6.本研究の目的
図1.早発性痴呆(統合失調症)の自然経過図
表1.ICD-10 表2.統合失調症 診断ガイドライン 国際疾病分類 第10版
図2.服薬率は退院直後に悪化する
6.方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
6-1.倫理的配慮
6-2.参加施設および対象患者
6-3.リスペリドンLAIの投与方法(切換え方法)
6-4.評価項目
6-5.オリジナル心理教育COMPASSの概要
6-6.統計解析
表3.リスペリドンLAI治療同意書 (ひな形)
表4.簡易精神症状評価尺度(BPRS) 日本語版
表5.機能の全体的評定(GAF)尺度
表6.薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)
資料1.オリジナル心理教育COMPASS
7.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
7-1.患者背景
7-2.再発率
7-3.精神症状および精神機能・忍容性の変化
表7.患者背景
表8.精神症状および精神機能・忍容性の変化
図3.BPRS総得点
図4.BPRS陽性症状サブスコア
図5.BPRS陰性症状サブスコア
図6.BPRS総合精神病理サブスコア
図7.GAF得点
図8.DIEPSS 得点
8.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
8-1.リスペリドンLAI療法とオリジナル心理教育COMPASSによる世界初の包括治療の有用性
8-2.本研究の限界
8-3.今後の展望
9.結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
10.参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
1.要 旨
【目的】統合失調症は,思春期から成年期に好発し,陽性症状および陰性症状をともなう疾患である.
また,再発・再燃を繰り返し,進学・就職・結婚等のライフイベントに重大な影響をおよぼす.統合
失調症の予後を左右するアドヒアランスの低下と再発の課題は,当事者や家族だけでなく我々治療者に
とっても共通の障壁である.現在,一般に行われている抗精神病薬による治療の主要な効果は陽性症状
の改善であり,統合失調症の基本症状である陰性症状を抱えたまま慢性期に移行する患者も少なくな
い.また,病識を得にくい疾患特性や意思・意欲の低下をきたす陰性症状のために,治療継続の動機が
阻害され再発につながると考え,今回,統合失調症患者に対して,研究開始当初唯一の新規抗精神病薬
持効性注射剤であったリスペリドン持効性注射剤(Long Acting Injection;LAI)療法と,我々の開発
したLAIのための心理教育COMPASS(COMprehensive Psycho-educational Approach and Scheme
Set)とを包括治療として世界で初めて実施し,リカバリー(自己実現)につながる再発予防効果と陰
性症状の改善とを検討した.
【方法】国際疾病分類(International Classification of Diseases; ICD)・第10版(ICD-10)に基づ
き統合失調症と診断された20歳から70歳までの患者のうち,初発または急性増悪により入院または外
来にてLAI療法単剤治療が導入され,参加同意の得られた96例を対象とした.実施施設は,1大学病院
(藤田保健衛生大学病院)および12精神科病院である.対象患者には,LAI療法とオリジナル心理教
育COMPASSによる包括治療介入を行った.COMPASSでは,当事者自身の言葉による「夢や希望」の
表明と多職種チームによる目標共有を行い,患者自身に治療の「動機づけ」を強く促した.LAI単剤
化およびCOMPASS介入が完了した時点をベースラインとし,6ヵ月間における再発(本研究では,入
院もしくは効果が不十分であったことによる脱落と定義)率および精神症状(日本語版簡易精神症状
評価尺度:Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)・精神機能(機能の全体評定:Global Assessment
of Functioning; GAF)・忍容性(薬原性錐体外路症状評価尺度:Drug-Induced Extrapyramidal
Symptoms Scale; DIEPSS)を評価した.
【結果】期間中に再発した症例は96例中10例(10.4%)であり,これは,リスペリドンLAI国内第Ⅲ相
試験におけるリスペリドンLAI群の再発率12.2%をわずかに下回る結果であった.また,研究から脱落
した患者は理由に関わらず96例中19例(19.8%)であった.BPRSの陽性症状は6ヵ月後に,BPRSの陰
性症状とGAFは3ヵ月後と6ヵ月後に,それぞれ有意な改善を認めた.DIEPSSはベースラインからの有
意な変化はなかった.
【考察】我々の行った服薬アドヒアランスに関する先行研究(趙岳人ほか,2011a)の結果では,内服
薬を服用中の参加者50例中7例(14.0%,調査期間6ヵ月間)が再発により脱落しており,また,リス
ペリドン持効性注射剤第Ⅲ相試験(上島ほか,2009)における,リスペリドン錠を対照薬とした比較で
はLAI群の再発率は12.2%(調査期間6ヵ月間)であった.一方,本研究の結果は再発率10.4%(調査期
間6ヵ月間)であった.このことから,LAI療法とCOMPASSとの包括治療を行うことは,統合失調症の
再発予防に効果のあることが示された.また,陰性症状については,治療開始3ヵ月後から有意に改善
することが確認され,LAI療法とCOMPASSとの包括治療は,特に陰性症状に効果が認められると考え
られるため,統合失調症の再発防止およびアドヒアランスの向上に効果があると考えられる.なお,本
研究の限界は,実臨床における制約の中,心理教育を実施しないコントロール群を設けることができな
かった点である.
1
【結論】統合失調症の予後を左右するアドヒアランスについてはLAI療法が,また,治療継続を困難に
する陰性症状についてはCOMPASSが,それぞれ有効であり,それらを包括治療として組み合わせるこ
とは有用である.今後の展望としては,LAI療法の種類や治療効果に関する基礎研究をもとに,あらゆ
る抗精神病薬に対応できるようオリジナル心理教育COMPASSを改良し,コントロール群を設けて,包
括治療の有用性について再検討を行いたい.
2
2.発表論文リスト
関連論文
①.Yueren Zhao, Taro Kishi, Nakao Iwata, and Manabu Ikeda.
Combination treatment with risperidone long acting injection and psycho-educational
approaches for preventing relapse in schizophrenia.
Neuropsychiatric Disease and Treatment. 9:1655-1659, 2013.
その他の論文
1. 趙岳人,川島邦浩,木下秀一郎,森脇正詞,大賀肇,田伏英晶,池田学,岩田仲生.
統合失調症治療における服薬状況のMEMS(Medication Event Monitoring System)多施設研究
-アドヒアランスを維持することの重要性-.臨床精神薬理.第14巻9号:1551-1560:2011.
2. 趙
岳人.The Power of Personal Goal Sharing 処方の前に患者と共有しておきたい目標達成
地図(Personal Goal Map).精神神経学雑誌.第113巻10号:1028-1033:2011.
3. 酒巻咲子,趙岳人,安原由子,元木一志,高瀬憲作,阿部裕子,宮崎賢三,谷岡哲也.
「超音波診断装置を用いた持効性抗精神病薬注射剤を中殿筋に確実に投与するための工夫:
注射部位反応の2症例,血液の逆流1症例を通して」(症例報告).臨床精神薬理.第17巻2
号:253-260:2014.
3
3.謝 辞
はじめに,本研究の構想から本論文作成にいたるまで,一貫して温かくお導きいただきました熊本大
学大学院神経精神科教授・池田学先生に感謝申し上げます.また,本学大学院進学のきっかけを与えて
くださり,研究の企画・実施・論文作成に至るまで多岐にわたり御教示を賜りました藤田保健衛生大学
医学部精神神経科学講座教授・岩田仲生先生をはじめ,親身になって関連論文作成をご指導くださった
同講師・岸太郎先生,同医局の皆さまには,新しい環境の下で地に足をつけて職務に専念できるよう御
高配を賜り,厚く御礼申し上げます.この恵まれた環境に甘えることなく,身の丈にあった対話と提案
の臨床を実践して参ります.また,終始温かく励ましてくださった京都大学・小川雄右先生,明生病
院・上野継信さんに,心より御礼申し上げます.
社会人大学院生として研究と臨床実践とを両立することができたのは,私生活をしっかり支えてくれ
たパートナーと家族の応援はもとより,ひとえに各職場の皆さまの御理解と御協力があったおかげで
す.4年間の大学院生活を過ごした明生病院では小田浩一院長ほか職員の皆さまに,そして平成25年4
月からお世話になっている桶狭間病院藤田こころケアセンターでは藤田潔理事長ほか職員の皆さまに,
業務と勉学の両立のため,不在時の応援・臨床研究支援などさまざまな形で御支援・御協力をいただ
きました.終盤間際には,同センター・臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;
CRC)坪井宗二さんをはじめとするCRC室の皆さまに,新臨床研究の立ち上げ時期と本論文作成時期
とが重なる中,多大なるご協力を賜りました.あらためて,両病院の職員各位に心から御礼申し上げま
す.
4年前に私は明生病院の諸改革に取り組んでいました.そんな中,大学院進学をめざすべきかどうか
と悩んでいたところ,良き相談相手であった恩師のひとり古賀靖人先生(明生病院前院長)が病に倒れ
られました.熊本大学医学部附属病院のベッドに横たわりながら,「学び続けることはとても大切なこ
と.応援しています」と言って大学院に進学するよう古賀先生は私の背中を押してくださいました.恩
師の後押しがなければ,大学院進学も本研究も,存在しませんでした.もう一人の恩師・原田正純先生
(水俣学創設者・2012年6月11日ご逝去)にも,医学部生時代から「趙君自身にとってのミナマタ(水
俣病の社会病理と同じ構図)を現場に見出しなさい.現場で学べ.患者に学べ」と励ましていただいて
いましたので,遅まきながら研究の道を歩み始めたことを生前に御報告申し上げたところ,笑顔で応え
てくださいました.医学の師と仰いでいたお二人に先立たれ,身の引き締まる思いです.ここに,古賀
靖人先生・原田正純先生のお二人に,謹んで感謝と哀悼の意を捧げます.
最後になりましたが,参加13施設(藤田保健衛生大学病院・桶狭間病院藤田こころケアセンター・
仁大病院・三河病院・北林病院・共和病院・聖十字病院・多度あやめ病院・松阪厚生病院・国分病院・
八代更生病院・弓削病院・明生病院)におきましては,本研究の趣旨にご理解をいただき快く協力し
てくださった患者・家族の皆さま,担当医をはじめ各施設のスタッフの皆さまに,厚く御礼申し上げ
ます.研究を通じて皆さまから頂戴したのは,貴重なデータだけではありません.「研究を受ける側」
「協力する側」の視点ならではの,多くの気づきとご指導をいただきました.誠にありがとうございま
した.
4
4.略語一覧
ACT: Assertive Community Treatment
AES: Apathy Evaluation Scale
APA: American Psychiatric Association
ASD: Autism Spectrum Disorder
BPRS: Brief Psychiatric Rating Scale
CP: chlorpromazine
COMPASS: COMprehensive Psycho-educational Approach and Scheme Set
DIEPSS: Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale
DSM: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders
GAF: Global Assessment of Functioning
ICD: International Classification of Diseases
LAI: Long Acting Injection
MEMS: Medication Event Monitoring System
NMDA: N-methyl-d-aspartic acid
PANSS: Positive and Negative Syndrome Scale
PDF: Portable Document Format
PET: Positron Emission Tomography
PSP: Personal and Social Performance scale
PSW: Psychiatric Social Worker
SDM: Shared Decision Making
URL: Uniform Resource Locator
WHO: World Health Organization
5
5.研究の背景と目的
5-1.統合失調症に関する一般的事項
本項では,統合失調症に関する一般的事項,すなわち疾患の歴史的背景・基本症状と副次症状・呼称
変更におけるパラダイムシフト・病態仮説・疫学について概説し,本研究の背景と目的につながる基礎
知識を述べる.
5-1.1 歴史的背景
1893年にエミール=クレペリン(1856-1926)は,『精神医学大要:Compendium der Psychiatrie.
1893』を著し,精神症状を詳細に探求する学問を医学の領域として認知すべきであると主張した.
1899年には,人生を左右する社会的活動・創造的活動が盛んになる20代前後の比較的若い年代に精
神病症状を発症し,慢性的に障害が進行して,最終的にはいわゆる情動鈍麻や人格変化にいたる精神疾
患を「早発性痴呆」として初めて,後の統合失調症概念の基礎となる病態を詳細に観察・記載し(図
1),医科大学で当時の医学生を相手に講義を行ったといわれている.クレペリンは,精神障害を「早
発性痴呆」と「躁うつ病」の2大疾患に大別することができると主張し,当時の精神医学会を牽引し
た.また,18世紀末から19世紀初頭にかけては,猛威を振るっていた梅毒の中には末期に重篤な精神
症状を呈する進行麻痺に移行する例があることが大きな社会問題となり,原因と治療法の究明に多くの
医師・医学者たちが患者と共に苦労を重ねていたことが,統合失調症概念のさきがけとなる「早発性痴
呆」概念の成立の背景にもあったと推察され,我々精神科領域で活動する者は,当時の社会背景にも精
通しておく必要があろうと考える.
1906年のワッセルマン反応の発見,そして1913年の野口英世による進行麻痺の病原体・Treponema
pallidumの発見(Yoshida H,2009)により梅毒の病態が解明され,治療法開発に一歩ずつ近づこうと
していた精神医学会にとって,進行麻痺と同じような長期経過をたどり,最終的には「痴呆」と区別が
つかない情意鈍麻や人格変化にいたる「早発性痴呆」の存在は,原因究明と治療法の開発が進んでいっ
た梅毒とは対照的に,謎が深まるばかりの難題となっていった.
1908年には,オイゲン=ブロイラー(1857-1939)が,クレペリンの「早発性痴呆」の概念を更に詳
細な病態観察によって批判的吟味の上,基本症状と副次症状とからなる統合失調症を医学生への講義に
おいて初めて提唱し,1911年には著書『早発性痴呆または統合失調症の一群』(Bleuler E, 1911)に
おいて詳述している.「自己にむけられた複数の他者による嘲笑や悪口に象徴される幻聴(幻声・思考
化声など),あるいは目の前の事象に自己の思考・経験・体験を関連づけることによって生ずる非影響
体験・作為体験など,自分自身が自分自身であるという感覚(自己の所属性・自立性)が脅かされ,自
主性・主体性が他者によって奪われる」とブロイラーは,入念な臨床観察をもとに,統合失調症の多く
に常に認められる基本症状を,診断上重視すべきとした.
5-1.2 統合失調症の基本症状と副次症状
ブロイラーは,統合失調症の特徴を,全ての患者に存在し,病態の中核(根本)症状をなす基本症状
と,全ての患者に存在しないこともある副次症状とに分類した.現在,我々は,前者を陰性症状・認知
機能障害,後者を陽性症状と呼んで区別しているが,実臨床の現場では,しばしば陽性症状の主な症状
である幻覚妄想をともなう興奮や衝動行為の存在感があまりにも大きいために,統合失調症の中核症状
6
はむしろ陽性症状にあるものと誤解している当事者や支援者・医療スタッフが少なからず存在すること
も事実である.彼らの誤解を解くためにも,医師には統合失調症の基本概念を彼らに分かりやすく説明
し,治療や回復への展望について希望をもって語る役割が期待される.
ちなみに,陰性症状・陽性症状という概念は19世紀に英国の医師・ジャクソンによって提唱された.
ジャクソンは,脳実質への侵襲による機能喪失を想定し,一次的機能喪失による症状を陰性症状,破壊
を免れた下位中枢の解放症状を陽性症状と定義した(Jackson JH, 2012; 岡崎祐士,1982).神経系
の進化と解体の理論をさらに発展させた新ジャクソン学説の主唱者であるEy Hは,精神機能も層構造
をなしており,まず器質的な原因に直結する脱落症状(これを陰性症状と呼ぶ)が生じ,一定のタイム
ラグ(器質臨床懸隔)をへて,この穴埋め(再建・再統合)をしようと,残存する健全な部分が反応し
ようとする力動的な症状(これを陽性症状と呼ぶ)が出現すると考えた.これがEyによる器質力動説
(organo-dynamisme)である(Ey H, 1979).
また,統合失調症の基本症状をなす陰性症状について,詳しく述べたのは1974年のStraussが初めて
であるとされ,今なお臨床現場では入院治療の長期化や患者の社会参加を妨げる,いわゆる予後不良
の最大原因となっている(Buchanan RW, 1996).陰性症状は,原因によって器質的なものをベース
とする1次性陰性症状と,陽性症状やうつ状態による影響・向精神薬による過鎮静・環境要因など種々
の要因による2次性陰性症状とに分類され,それらを見極めることが治療の原則であるといわれている
が,実臨床の現場では,これらを峻別・鑑別することは容易ではない.それでも,どうにかして陰性
症状を把握しようという試みは,AndreasenやKayらによって陰性症状の評価尺度を作らしめた.たと
えば,陽性症状・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)では,①感情
の平板化 ②情緒的引きこもり ③疎通性の障害 ④受動性・意欲低下による社会的引きこもり ⑤抽象的
思考の困難 ⑥会話の自発性と流暢さの欠如 ⑦常同的思考,の7項目が取り上げられている(Kay SR,
1990).本研究では,参加施設ごとの事情もあり,PANSSを用いた評価をおこなうことはできなかっ
たが,簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale;BPRS)を代用することにした.
さて,ブロイラーのいう基本症状とは,一次性障害・原発性障害と言い換えることのできる,いわば
統合失調症の中核症状をいう.現在,我々が陰性症状および認知機能障害と呼んでいるものがこれにあ
たり,「ブロイラーの4A」として精神科領域では,今なお広く認知され,臨床現場で医療従事者同士の
やりとりに用いられるだけでなく,当事者を対象とした上級者向け心理教育などで話題にのぼることも
ある.それにも関わらず,前述したように,一見して派手な現れ方をする幻覚妄想状態などの副次症状
のほうが,統合失調症らしい「基本症状」であるかのごとく誤解されやすく,幻覚妄想とそれにともな
う精神運動興奮を鎮めることが治療の中心をなすと思う人が,当事者や支援者・医療スタッフの中にい
たとしても,無理のないことかもしれない.
そこで,統合失調症本来の基本症状を構成する「ブロイラーの4A」について以下に簡単に説明する.
Affective Disorder (感情の障害のA)
感情鈍麻や無関心があり,生き生きとした感じが,ほとんど,あるいは全く伝わってこない症状をい
う.筆者が本学医学部で初めて統合失調症について学んだ当時は,元・精神神経科学教室教授・故立津
政順先生が提唱された「情意減弱状態」という用語が診療・教育の現場で普通に用いられていた.統合
失調症の基本症状・基本病態をズバリ一言で言い表す用語として,日常臨床における診療録・診断書の
記載に現在も用いることがある.余談ではあるが,情動面・意欲面のダメージを上手く言い表した用語
7
として全国的に用いられているものと思っていたが,必ずしもそうではなく,「情動鈍麻」「感情の平
板化」として表現されることのほうが一般的であり,「情意減弱状態」という用語を用いるのは,ほぼ
熊本地方の精神科臨床現場に限られていることを知ったのは随分と後のことである.
Autism (自閉性のA)
文字通り,自分の内的世界に閉じこもり,現実世界との接触が困難な症状,あるいは,自ら接触を拒む
症状,現実世界から逃避している症状をいう.いわゆる小児期を中心にみられる自閉症性障害(Autism
Spectrum Disorder; ASD)と副次症状(幻覚・妄想等の陽性症状)の乏しいタイプの統合失調症との鑑
別は,極めて難しいといわれてきた.最新の機能MRIや眼球運動の両面から両者の鑑別に迫る試みもな
されている(福島順子, 2012).
Ambivalence (両価性のA)
1つのもの事に全く相反する感情や思考を向ける症状をいう.たとえば,治療者のことを信頼したい半
面,同時に不信感を抱いてしまう.薬を飲めば楽になるかもしれないと思う半面,薬は体に悪いものか
もしれないと考えてしまう.決断力がないと他者から誤解される.著しい両価性に悩まされた結果,抗
精神病薬の有効性が明らかとなる前に服薬を中断してしまうケースや,治療継続の同意を急に撤回して
家族を巻き込むケースなど,臨床現場では服薬アドヒアランスや治療同意能力において我々治療者がジ
レンマに陥る要素にもなりうるため,患者の自己決定権を尊重しつつ,根気よく対話を重ね,向きあっ
ていくべき症状の一つである(Dudzinski DM, 2004).
Association loosening (連合弛緩・観念統合障害のA)
思考内容のまとまりの悪さ,作業をするにあたっての段取りの悪さなどが目立つ状態をいう.現在,治
療的関心が高まっている「認知機能障害」という統合失調症の中核症状のまさに「核」の部分にあたる
のが,この連合弛緩である.およそ100年前に,入念な観察と詳細な記述により,精神症状や社会機能
低下との関連における認知面の異変を連合弛緩としてまとめたブロイラーら先人の努力には,敬服する
ばかりである.社会的交流の根底にある精神機能のうち,最近の話題でもある「他者の意図などを汲み
とる人間としての能力」,すなわち「社会的認知の能力」の考え方の底流にも,ブロイラーらの連合弛
緩の概念が流れているものと考える(Pinkham AE et al, 2003).
5-1.3 統合失調症の呼称変更におけるパラダイムシフト
1937年に初めてSchizophreniaという用語が日本にもたらされた時から,実に65年ぶりに呼称変更
の決定がされたことは,単なる「病名の変更」という意味合いだけでは説明できない.日本精神神経学
会が2002年にSchizophreniaの訳語を「精神分裂病」から「統合失調症」に変更することを決定するに
いたった経緯には,長きにわたる当事者および家族の要望に加え,精神分裂病という呼称自体がもた
らす負の側面(分裂という言葉の響きや差別の歴史など)への理解すなわちアンチスティグマ活動に関
する我々精神医療従事者自身の物の見方・考え方の大きな方針転換があったから実現したものと考え
る.統合失調症への呼称変更は,Schizophreniaの「疾患概念」自体にもパラダイムシフトをもたらし
た(Sato M, 2006).予後不良な回復困難な重度の精神障害であるという古典的な「精神分裂病の疾
患概念」から脱却し,一人ひとりの自己実現すなわち回復(リカバリー)をめざすことのできる「統合
8
失調症の疾患概念」へのパラダイムシフトが臨床現場にも急速に浸透することとなった.この動きは,
漢字文化圏を中心にSchizophreniaの呼称見直し・呼称変更の動きに今も影響を与えている(Lee YS,
2013).疾患概念や専門用語は,時代とともに変遷するものであるから,今後,新たな疾患概念が創設
される際には,医療従事者のみならず当事者や介護者にも,わかりやすく,平易な用語を採択すべきで
あろう.
5-1.4 統合失調症の病態仮説
統合失調症の病態仮説には諸説あるが,現時点で決定的なものはない.しかしながら,近年の脳科学
の進歩から,遠くない将来,原因に迫る日が来るであろうと期待されている.
1)ドパミン仮説(ドパミン過剰仮説)
中脳のドパミン含有細胞は,おもに中脳網様体・黒質・腹側被蓋野の3群に分布している.統合失調
症の副次症状(陽性症状)は,中脳・辺縁系ドパミン経路(中脳腹側被蓋野から辺縁系側坐核・嗅結
節・扁桃体などに投射される経路)におけるドパミンの過剰と深い関連があるといわれている.ドパミ
ン仮説に基づく抗精神病薬の創薬は,1950年代から盛んに行われており,1980年代以降は第2世代抗
精神病薬あるいは非定型抗精神病薬(第1世代薬と同等の有効性をもちながらも悪性症候群などの重篤
な副作用が少ないという意味での非定型性)と呼ばれる新規抗精神病薬が臨床利用されている.また,
Positron Emission Tomography; PETなど核医学検査の進歩により,ドパミン受容体の機能を定量化す
ることができるようになった.その結果,ドパミン神経伝達の過剰を支持する研究,支持しない研究の
いずれもの報告があり,一致はみられていない.具体例としては,未服薬の統合失調症患者では健常者
と比較して大脳の線条体におけるD2受容体密度に差は認めなかったものの,前頭前野皮質におけるD1
受容体密度の有意な減少が認められるとの報告(Okubo Y, 1997)や,帯状回を中心とする大脳皮質に
おけるD2受容体密度の低下が陽性症状の重症度との相関を示唆する報告(Suhara T, et al. 2002)など
がある.さらに,新規抗精神病薬は,薬理学的に各種ドパミン受容体・各種セロトニン5-HT受容体・α
1受容体・ヒスタミン受容体・ムスカリンM1受容体など多くの受容体との相互作用を有することが知ら
れている.
2)グルタミン酸低下仮説(N-methyl-d-aspartic acid; NMDA受容体機能低下仮説)
上記の非定型抗精神病薬の中にドパミン親和性がかならずしも高くないにも関わらず抗精神病作用を
もたらす薬剤が存在すること,あるいは覚せい剤の主成分であるメタンフェタミン誘発性精神病におい
て(統合失調症の基本症状である)陰性症状が認められないことなどから,ドパミン仮説では説明しき
れない病態のあることが推察されてきた.その有力な候補の一つがグルタミン酸低下仮説である.
3)ストレス脆弱性仮説
ストレスに対するもともとの脆さ(ストレス脆弱性の素因)をもつ人がストレスにさらされたときに
統合失調症を発症するという仮説をいう.一方,ストレスから心身を保護・防御することを意味する
レジリエンス(回復力)について,西園昌久は「疲れた人が休息をとって,気持ちを切りかえて再び歩
み出すちからのこと.障害を抱えた人に限らず,誰にでも備わっているちからのこと」と平易な言葉で
表している(筆者がシンポジストとして参加した第25回九州沖縄社会精神医学セミナーシンポジウム
『レジリエンスとリカバリーについて考える』後の質疑応答メモから引用[2013.2.2久留米市にて開
9
催]).
5-1.5 統合失調症の疫学
1)統合失調症の発症率
最近のメタ解析(1965年から2001年までに発表された33カ国・55論文の全研究解析)によれば,発
症率(中央値)は15.2/100,000/年(80%信頼区間;8~43/100,000/年)であった(McGrath J, et al.
2004).統合失調症の発症率は世界中であまねくほぼ等しいという従来の仮説とは異なり,都市部生活
者・移民集団・男性において発症率が高くなる傾向のあることがわかった.
2)統合失調症の有病者数と有病率
WHOが行った2004年の報告によると,統合失調症の有病者数は,世界で2,630万人と推計されてい
る(WHO, 2004).一方,現時点で統合失調症に罹患しているかどうかに関係なく,それまでの生涯
で統合失調症に罹患したことのある人の割合,すなわち統合失調症の生涯有病率(中央値)は,1,000
人あたり4.0例(80%信頼区間;1.6~12.1/1,000)と24件の研究をメタ解析した結果として推定され
ている(Saha et al, 2005).本研究で用いたオリジナル心理教育COMPASSにおいては,従来の教科書
レベルの知識として臨床現場で一般に用いられている生涯有病率を「100人~120人に1人」と表記した
が,Sahaらによる系統的レビューによれば,有病率が世界的にほぼ一定である一方,国ごとによるばら
つき,移民集団における発症率の高さが明らかとなった.先進国と途上国との間では,前述の発症率で
は明らかな違いは認められなかったが,統合失調症の有病率に関しては,途上国よりも先進国のほうが
有意に高い結果となった.ことに,コミュニティ内の高所得層にくらべて低所得層に統合失調症の有病
率が高いことも明らかとなっている.
3)統合失調症と遺伝因子および環境因子について
統合失調症に遺伝的な家族集積性があること(Kendler KS, et al. 1993),一卵性双生児における統
合失調症の一致率が二卵性双生児に比べて約3倍高いこと(Sullivan PF, 2003)など,いわゆる教科書
的な事実を裏づけることが,ヒトゲノム全容解明の第一歩(マッピング作業の完了)に象徴される分子
生物学領域の科学的進歩によって大きく前進するものと期待されている.しかし,統合失調症に関して
解明されているものは現実には少なく,遺伝的機序に関しては未だ解明されていない.同じく,周産期
の環境・小児期/成年期の環境など生育歴にまつわる環境因子が統合失調症の発症に関与しているので
はないかと指摘されてきたが,明確な答えは出ていない.生育歴以外にも,社会生活様式に関する都市
部居住歴・移民集団か否か・民族背景などといった環境因子も考慮されるようになってきた.しかし,
単独の環境因子だけでは,統合失調症における「曝露-発症の因果関係」を判定するための疫学的判定
基準(Hill AB, 1965)を満たすものはない.
5-2.統合失調症の臨床診断
統合失調症の診断は,前述した歴史的・伝統的診断(入念な観察と詳細な記述による全人的理解に基
づく診断)を基本とし,かつては臨床研究領域で活用されていた操作的診断基準が,近年では実臨床現
場においても,医学教育の現場においても,広く用いられるようになってきた.現在,本邦で用いられ
ている操作的診断基準の主要なものは,以下の2つである.どちらが優れているかという点で議論とな
10
ることは少なく,両者の特徴を踏まえて,先の伝統的診断も参考にしながら,実際の臨床・研究・教育
の現場では,どちらか片方,あるいは両者を併用する場合が多い.
世界保健機関(World Health Organization; WHO)のICD-10
臨床現場では,厚生労働省や各自治体が管轄する各種届け出書類・障害年金診断書などの公的文書にお
いてICD-10による診断名の記載が求められる場合が多い.ICD-10の特徴は,個々の症状を詳しく規定
している厳密性にあるといってもよい.
米国精神医学会(American Psychiatric Association; APA)の精神疾患の分類と診断の手引
(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders; DSM)第4版または第5版
臨床研究や海外文献においては,こちらのDSMシステムの利用頻度が多い傾向にある.DSM-IVの特徴
は,前駆期症状や残遺状態もふくめて6ヵ月以上症状が持続するかどうかをみて診断を下すシステムと
なっている点である.
5-2.1 本研究に採用したICD-10の統合失調症診断基準 (表2)
本研究では,実臨床に則して,各主治医が普段から慣れ親しんでいるICD-10を採用した.
ICD-10は,WHOホームページからPDF(Portable Document Format)ファイル(英語版)を手軽にダ
ウンロードできるため,世界各国,とりわけ地政学的・財政的にメンタルヘルス関連資源が不足してい
る地域のメンタルヘルス専門職にとっては,DSMよりもアクセス性に富む点も長所の一つである.
WHO ICD-10 URL( http://www.who.int/classifications/icd/en/ )
5-2.2 統合失調症の亜型分類
ICD-10では,精神と行動の障害を意味するF分類の中で,統合失調症は統合失調症・統合失調症型障
害および妄想性障害を包括するF2カテゴリーに属している.
表1に,本研究に関連した統合失調症の亜系分類F20グループについて概説し,研究に該当しない領域
F21からF29までの分類については,疾患名の記載程度にとどめた.
5-3.統合失調症の治療
本研究内容に関係の深い治療の構成要素を下記の3要素に再編した.今日の精神科臨床現場において
は,当事者と医療者とによる双方向性の意思決定(Shared Decision Making; SDM)の必要性が注目さ
れ,さまざまな工夫と実践が行われている(渡邊衡一郎,2012).そこでは,患者の真の治療目的,
すなわち自己実現をともなうリカバリー(心身の回復)を達成するために,患者と医療者とが対話を重
ね,目標達成のために互いにより良い提案を積み上げていく共同作業が求められる.
その際,患者―医療者間の共通言語としての「わかりやすい言葉(日常生活における平易な言葉)」
で双方向性の意思疎通を図ることが大切であることはいうまでもないが,臨床現場では,ついつい医療
者同士の効率・理解の早さのために,患者からみれば一種独特な「専門用語」を彼ら/彼女らに対して
も用いることが少なくない.本項では,「わかりやすい言葉」での説明の実践を兼ね,できるだけ平易
な言葉を用いて統合失調症の治療を解説したい.
11
【統合失調症治療の3要素】
1)【薬物療法】薬を用いる治療
2)【心理社会療法】言葉や態度・行動に変化をもたらす治療
3)【精神科多職種チームケア】多職種が共通の目標下で協働して行う治療
5-3.1【薬物療法】薬を用いる治療
広く薬物療法と言われ,統合失調症発症後,出来るかぎり早いうちに始めて根気よく続けることに
よって再発を防ぐことを目的とする統合失調症治療の中心的存在である.進学や恋愛・就職・結婚・昇
進など人生の重要な出来事(ライフイベント)が集中する思春期から成年期にかけて発病する疾患であ
るため,再発予防効果の高い薬物療法を根気よく継続することは,統合失調症治療のいわば「基礎部
分」である.筆者の臨床実践においては,たとえ話としてしばしば,薬物療法は「日常生活を支える水
道・ガス・電気などのインフラ(基盤)設備のようなもの」として,統合失調症治療には欠かすことの
できないものであると訴えてきた.薬物療法は,うまく進んでいる場合は,話題の中心にのぼることが
少なくなり,インフラ以外の暮らしの中の心理社会的課題(後述)が話題の中心になることが多くな
る.したがって,治療を下支えするインフラとして,有効で・安全で・費用負担が軽く・病状に応じた
合理的な薬物療法を,急性期から回復期・社会参加期まで一貫して行うことができるかどうかが重要で
あろうと考える.薬物療法を用いて再発を防ぐことによる利点は以下のとおりであり,当事者のみなら
ず,当事者を支える人びと(家族・仲間・治療スタッフなど)と共有していくべき点でもある(Gitlin
M, et al. 2001).
【薬物療法による再発防止の利点】
1)再発を防ぐと,自己実現(リカバリー)に向けた準備ができる.
2)再発を防ぐと,脳の働きや薬の効果が維持される.
3)再発を防ぐと,仕事や学業を中断せずに続けることができる.
4)再発を防ぐと,家族や友人に負担をかけることが少なくなり喜んでもらえる.
【薬物療法を継続するための基本姿勢(医薬品の適正使用のための工夫)】
パーソナルドラッグ(自家薬籠中の薬)理論に基づく処方リスト作成
上述したように「治療を下支えするインフラとして,有効で・安全で・費用負担が軽く・病状に応じ
た合理的な薬物療法」を継続して再発を防止することは,従来からWHOがパーソナルドラッグ理論と
して提唱してきたことでもある.言い換えれば,統合失調症のこの病態にはこの薬を第一選択薬として
患者に提案するというリスト(自家薬籠中の薬)をあらかじめ各自が決めておくべきである,というも
のである.このリストは,エビデンスに基づき収集した情報と臨床現場における入念な確認作業に裏打
ちされた臨床実践とにより,有効性・安全性・費用・適合性(適応外処方の戒め)を全てクリアした薬
剤を「私の処方リスト(パーソナルドラック)」に収載し,定期的に更新するべきものである.した
がって,本来は,先輩医師や勤務先の約束事などに縛られることなく,自主独立してリストを作成する
ことが求められる一方,一人よがりなリストづくりに陥らぬよう,同僚や先輩医師にとどまらず,他職
種や患者・家族にもリストの概要を説明できるように,一つ一つの薬剤に十分習熟しておくことが望ま
しい.その上で,現場で学んだことを元に,リストを修正することも必要である(津谷喜一郎ほか訳,
12
1998).
新規抗精神病薬の副作用にも十分習熟しておくこと
現在,従来多く認められた重篤な副作用が少なく,飲み続ける・投与(筋肉内注射)し続ける上で,
安全性に優れた非定型抗精神病薬あるいは第2世代抗精神病薬とよばれる新規抗精神病薬が広く普及し
ている.新規抗精神病薬には,さまざまな剤形(錠剤・口腔内崩壊錠・細粒剤・内用液・持効性注射剤
など)が用意されており,さらに新しい投与経路による薬剤(たとえば貼り薬タイプ)も開発段階にあ
るといわれている.剤形や投与経路といった治療選択肢が増える一方,なぜ・何のために再発を防ぐ必
要があるのかという処方理念・治療理念を治療開始時から当事者との間で話題にし,具体的に合意を取
りつけておく必要がある.なぜならば,新薬にも,頻度は少ないとはいえ従来薬同様の副作用も認めら
れるばかりでなく,肝機能障害・耐糖能異常・体重増加・無月経など代謝経路に関与する「新しいタイ
プの副作用」も認められている.新薬は,従来薬のような「重篤な副作用」が出現しにくいかわりに,
一見してわかりにくい「代謝異常などの新しい表現形の副作用」が出現する可能性があるという視点を
忘れてはならない.
WHO必須医薬品リスト2013年版(http://bit.ly/1fx8kOI)収載薬に慣れ親しんでおくこと
WHO専門委員会において有効性・安全性・費用・適合性に関する総合的な検討が行われた医薬品が
リストとして収載されているため,臨床精神科医として十分な知識の修得,ならびに適正使用に習熟し
ておくことが求められる.ちなみに,現時点で同リストに収載されている新規抗精神病薬(非定型抗精
神病薬)は,リスペリドンとクロザピンの2剤のみである.本項冒頭に述べたパーソナルドラッグ理論
に基づき,医薬品が潤沢に入手可能な(現在の)日本とは異なる医療環境で医療活動を行うと考えた場
合,この必須医薬品リスト収載薬の中からパーソナルドラッグ・リストを作成し,治療を行ってみると
いう実践も有用であろうと考える.なぜならば,医療費の公的負担・公的扶助の増加にともない,生活
保護受給者などへの高額な薬剤の提供が制限される可能性があるためである.すでにジェネリック医薬
品の適正使用が強く推奨されている自治体もあるという.また,大規模かつ広域な災害時における医薬
品の流通を想定した場合に,WHOの必須医薬品リストにもとづく治療経験があれば,国際緊急援助物
資中には必ずこれらの医薬品が用意されていることから,不測の事態における治療継続の心構えとなろ
う.あるいは,発展途上国での医療活動支援などにおいても,現地政府や国際機関との連携において,
必須医薬品リストにもとづく治療経験は有用である.いずれにしても,日本をはじめ限られた先進諸国
だけで用いられている高価な「新規抗精神病薬しか使用経験がないということには問題がある」という
危機意識を我々医師が共有することが重要であり,必須医薬品リスト収載薬については十分な知識と使
用経験とを有しておく必要性があると認識している.
5-3.2【心理社会療法】言葉や態度・行動に変化をもたらす治療
「薬さえ飲んでいれば病気は治る」というイメージで上述の薬物療法をとらえることは大きな誤解で
ある.薬物療法を最も効果的に実施し継続(最適化)するためには,以下に述べる心理社会療法や精神
科リハビリテーションとの総合的な治療を行うことが大切であり,治療を受ける側の病状・病期などの
諸条件に応じて,当事者本人との十分な対話を通じて,本人の十分な納得と同意を得て,総合治療・統
合治療への参加を提案していくことは,精神科多職種チーム医療を成功させる鍵となろう.
13
薬の代わりに主に言葉のちからや本人の行動力を用いて総合的に行われる治療の一つが心理社会療法
である.特別な訓練を受けた精神科の医師・薬剤師・看護師・心理職・作業療法士・精神保健福祉士
などさまざまな職種が協働して,それぞれの特技をいかし,患者の声に耳を傾け,対話と提案を行う治
療の総称を心理社会療法という.たとえば,下記具体例の最後に挙げた包括地域生活支援プログラム
(Assertive Community Treatment; ACT)は欧米を中心に,入院回数の減少・入院期間の短縮などを
目的にケースマネージメントとして多職種が協働して推進する心理社会療法として広く導入されている
(Scott JE, 1995).
【心理社会療法の具体例】
■ 精神療法
■ 心理カウンセリング
■ 認知行動療法
■ 生活技能訓練(Social Skills Training; SST)
■ 服薬カウンセリング
■ 精神保健福祉相談
■ 精神科作業療法
■ 精神科デイケア・ナイトケア
■ リワーク(復職)プログラム
■ ACT
5-3.3【精神科多職種チームケア】多職種が共通の目標下で協働して行う治療
上述した心理社会療法そのものにもまして,臨床現場では,心理社会療法の担い手としての精神科多
職種チームのあり方や運営手法にも注目が集まっている.本論文では,多職種によるチームケアについ
て統合失調症治療を構成する重要な要素として取り上げる.
1)精神科多職種チームケアにおけるさまざまなマネジメントのあり方
「新たな長期入院患者」を生じさせないために急性期直後から患者一人ひとりにオーダーメイドの支
援計画を作成し,多職種チームを柔軟に招き入れて,退院まで包括的な治療を提供する精神科病院にお
ける取り組みや,退院後の地域生活を地元関係機関と協働して支えるACTをはじめとするアウトリーチ
活動など,さまざまなマネジメントのあり方が実践され,日本各地に手本となるモデル事業が展開され
るようになってきた(渡邉博幸,2011).
2)各専門職に求められる独立性・自律性そして多文化に対応する多様性
従来は,精神科医と看護師そして当事者という治療共同体の最小単位ともいえる「三者関係」が精神
科治療の基本であった(Iwasaki T, 1979).そこに,家族が加わり,時代と共に,薬剤師やケースワー
カー(現在の精神保健福祉士)・心理職・作業療法士などの専門職(順不同)が「三者関係」につぎつ
ぎに加わることとなり,徐々に多彩なサービスを提供できるようになった.現在では,当事者スタッフ
(ピアスタッフ)といわれる「病気や障害の経験者」が治療に加わる動きも加速し,精神科多職種チー
ムは一般身体科に負けず劣らずの大所帯をなすようになった.しかし,多職種の協働が進めば進むほ
14
ど,各専門職の独自性・自律性への「ゆらぎ」や「専門領域どうしの競合」などんの課題も認められる
ようになってきた.これらの課題を解決するためには,当事者や地域の多様なニーズに応じて,時には
(法律上の各種制約・制限を遵守した上で)専門領域を相互に越えて活動する多様性を身につけること
が肝要であろうと考える.将来的には,精神科領域への海外からの多彩な文化的背景を有する外国籍医
療スタッフの招聘・参入,あるいは医療ツーリズム等における海外からの患者受け入れなど,異文化・
多文化に柔軟に対応できる精神科多職種チーム編成についても考慮すべきであり,言語や文化を超えた
相互理解のあり方に備えておくことが重要となろう(Owiti JA, 2013).
5-4.治療上の課題(服薬アドヒアランス維持の難しさ)
5-4.1 服薬アドヒアランスの重要性とSDM
現在,統合失調症治療として最も有効なものは,抗精神病薬による薬物療法であるという点に異論は
ないと考える.薬物療法による再発防止効果は,確実な服薬によって得られると従来から指摘されてき
た.しかし,抗精神病薬の内服治療においては,副次症状(陽性症状)による被害念慮や時には被毒妄
想の対象物質に治療薬自体がなり得ること,あるいは基本症状(陰性症状)にともなう治療意欲自体の
低下,病識の乏しさなど複雑な統合失調症の特性が絡み合う上に,身体疾患のために服薬中の人にもし
ばしば見受けられる「単なる飲み忘れ」の問題など,疾患特性と一般的な服薬習慣の得にくさとの両面
からアドヒアランス不良,あるいは部分アドヒアランスを示す患者が少なくないことが,わかってきた
(Cramer JA, 1998; Lacro JP, et al. 2002; Keith SJ, 2003).
Valensteinらは,総処方量に対する実服薬量の割合(Medication Possession Ratio; MPR)を48,148
枚の処方箋をもとに調査したところ,医師が処方した薬を処方の通りに服薬した場合をMPR100%と
して患者の入院率を検討した結果,「指示通りに服薬した患者(すなわちMPR100%)」の入院率が
8.3%と最も低いことがわかった.「おおむね指示通りに服薬した患者グループ(MPR80~100%)」
と「指示された処方を少なく服用したり服用し忘れたりした患者グループ(MPR<80%)」との比較
では,後者の入院率は前者の2.4倍も高いことが分かった.さらには,「指示された処方を飲み過ぎ
る患者グループ(MPR>110%)」もまた,入院率が9.6%~28.4%と高い値を示すことが分かった
(Valenstein, 2002).
処方された薬を飲み忘れても,飲み過ぎても治療効果を妨げる可能性があるということからも,統合
失調症治療における服薬アドヒアランスの向上をめざす上では,疾患特性を十分に理解した上で,い
かに当事者の納得と協力を得ることのできる処方選択・治療選択を医療者側が提案できるかが鍵となろ
う.近年,臨床現場でSDMの必要性が求められている背景の一つに,この服薬アドヒアランスがあるも
のと考える.
5-4.2 服薬アドヒアランスの実態(本邦初の服薬追跡装置を用いた調査)と研究動機
服薬アドヒアランスを客観的に評価するゴールドスタンダードの一つに,Medication Event
Monitoring System(MEMS)を挙げることができる.RemingtonらによるMEMSを用いた研究
(n=52)では,総服薬率が80%以上を服薬良好群と定義された.その結果,服薬良好群に該当した患
者の割合は,MEMSによる評価で48%,患者評価で97%,医師評価で76%,ピルカウントで75%と
なった.患者評価が最も良好な成績であったことが示されている.
本研究に先立って,我々の研究グループ(藤田保健衛生大学病院を中心とする民間精神科病院7施
15
設)は,精神科領域において本邦発のMEMSを用いた研究(n=50)を多施設共同研究として行った
(趙岳人ほか,2011a).先行研究を参考にして,総服薬率が75%以上を服薬良好群,75%未満を服
薬不良群,追跡期間中に症状の悪化や再発が認められた患者は脱落群と定義した(Acosta FJ, et al.
2009;Remington G, et al. 2007).服薬良好群に該当した患者の割合は,MEMSによる評価で64%,
患者評価では70%,医師評価では50%であったのに対し,ピルカウントでは100%の患者が服薬良好群
に該当した.ピルカウントによる評価で,実に全患者の服薬アドヒアランスが良好であった点について
は,患者および家族に対して聴き取り調査を行った結果,患者が受診時に残薬を破棄していたことが影
響しているものと考える.また,MEMSによる服薬良好患者の割合については,退院時を100%とする
と1ヵ月の時点で約80%までに低下し,以降も徐々に低下する傾向がみられた(図2).
以上のことから,服薬アドヒアランスは常に変化していることがわかり,最も客観的な手法の一つと
されるMEMSであっても,厳密には「MEMSを内蔵したキャップを開けていない日」に限っては,服薬
がなされていないことが保証できるにすぎないわけであり,キャップを開けたからと言って,全ての患
者が確実に服用したかどうかまではわからないため,限界はある(Byerly M, et al. 2005).
実臨床現場における服薬アドヒアランスの把握の難しさを痛感したことが,本論文の主題である,持
効性注射剤療法とオリジナル心理教育の包括治療による統合失調症の再発予防をめざす研究動機にも
なった(Lam YF, et al. 2003; Chabannes JP, et al. 2008; Zhao Y, 2010; Zhao Y, 2012).
5-5.LAI療法における説明と同意の意義
5-5.1 持効性注射剤療法(LAI療法)の歴史
1970年代に始まる脱施設化の動きがヨーロッパを中心にみられるようになったころ,統合失調症を
中心とする慢性精神疾患をもつ人びとの外来通院を支える上で,注目を集めた治療法の一つに持効性
注射剤療法がある(Glazer W, 1992; Kane J, 1983).日本では,1970年代にエナント酸フルフェナ
ジン(fluphenazine enantate)が市販されて以降,1987年にデカン酸ハロペリドール(haloperidol
decanoate)が,1993年にデカン酸フルフェナジン(fluphenazine decanoate)がそれぞれ市販され
た.したがって,1970年代から1987年までの十数年以上にわたって,エナント酸フルフェナジンしか
用いることができない期間が続き,半減期が短いために血中濃度が不安定で,硬結などの注射部位反応
や錐体外路症状の発生頻度が高かったため,服薬を拒否する重症入院例以外には用いにくいという誤解
が精神科医に広まった.その後発売されたデカン酸ハロペリドール・デカン酸フルフェナジンを正しく
評価する間もなく,1990年代に続々と登場した非定型抗精神病薬の経口剤の登場によって,前述の従
来型持効性抗精神病薬注射剤(定型デポ剤)は「旧式の薬」とみなされ,若手精神科医が使用をためら
う剤形および治療法の一つとなったものと考えられる(藤井康男ほか,2012).その後,2009年に日
本で発売された初めての非定型持効性抗精神病薬注射剤(非定型デポ剤)が,本研究にも採用したリス
ペリドンLAIである.当初,リスペリドンLAIに関しては,定型デポ剤と比較して高価であったため,
おもに公費負担制度の利用できる外来患者や包括医療方式でない病棟に入院している統合失調症患者の
中で,拒薬や怠薬による再発・再燃を繰り返す患者層に対して使用が試みられた.また,持効性注射剤
は,有効血中濃度を毎日の服薬行動に左右されることなく常に安定して保つことができるため1~2年に
およぶ観察研究の結果,経口抗精神病薬と比較して再発防止効果および費用対効果も高いという報告も
ある(Olivares JM, et al. 2008).
16
5-5.2 LAI療法導入時の丁寧な説明と同意は,それ自体が心理教育である.
LAI療法は,かつてデポ剤治療ともいわれていた.デポ剤に関する精神科医側の誤解もあり,治療ス
タッフや患者・家族にもデポ剤への否定的な評価が継承されていたこともあり,デポ剤導入時に何ら
かの強制性を感じている患者がかなりの数に上るという報告がある(Patel MX, et al. 2009).このた
め,デポ剤導入時には,内服治療導入時と同等,あるいは,それ以上に丁寧な説明と対応を行うことが
大切になる.したがって,デポ剤を選ぶという単なる「剤形選択」の問題とは一線を画すためにも,本
研究ではデポ剤による治療全体を指す言葉として「持効性注射剤療法(LAI療法)」という用語を採用
した.LAI療法の同意に際しては,統合失調症に関する正しい知識を提供するにとどまらず,注射剤治
療を強制されたという意識を患者に抱かせないように配慮すべきである.具体的には,有効性・安全性
(副作用と対処法)・費用(公費負担等社会資源の案内)などについて平易な言葉で説明し,十分に納
得した上で同意を得ることである.これらに加えて,相互信頼のために特に重要な点は,患者の意思に
よって,いつでも内服治療に切り替えることができること(LAI療法を拒む権利があること)を保証す
ることである.とりわけ,リスペリドンLAI療法においては,薬剤の効果発現までに3~4週間のタイム
ラグが生じるため,その間の内服治療についても十分な説明と同意を要する.患者の理解度に応じて,
無理のないペースで,平易な言葉による丁寧な説明と同意を行うことは,それ自体が心理教育に値する
ものであることを臨床現場では実感している.
5-6.本研究の目的
本研究は,統合失調症患者に対して,LAI療法と,我々の開発したLAIのための心理教育COMPASSと
を包括治療として世界で初めて実施し,再発予防効果を検討することが目的である.
言い換えれば,統合失調症に対するLAI療法によってアドヒアランスの低下と再発を防ぎつつ,我々
がリスペリドンLAIのために開発したオリジナル心理教育COMPASSを併用することによって治療動機
づけとの関連が指摘されている陰性症状の改善が見込めるかどうか,その有用性について検討を行うこ
とが目的である.
17
図1.早発性痴呆(統合失調症)の自然経過図
18
表1.ICD-10
F2 統合失調症・統合失調症型障害および妄想性障害
F20 統合失調症
F20.0
妄想型統合失調症
F20.1
破瓜型統合失調症
F20.2
緊張型統合失調症
F20.3
鑑別不能型統合失調症
F20.4
統合失調症後抑うつ
F20.5
残遺[型]統合失調症
F20.6
単純型統合失調症
F20.8
他の統合失調症
F20.9
統合失調症,特定不能のもの
第5桁の数字は,経過分類に用いる:
F20.x0
持続性
F20.x1
エピソード性,欠損は進行性のもの
F20.x2
エピソード性,欠損は安定しているもの
F20.x3
エピソード性,寛解するもの
F20.x4
不完全寛解
F20.x5
完全寛解
F20.x8
その他
F20.x9
過程は未確定,観察期間があまりに短い
F21 統合失調症型障害
F22 持続性妄想性障害
F23 急性一過性精神病性障害
F24 感応性妄想性障害
F25 統合失調感情障害
F28 その他の非器質性精神病性障害
F29 特定不能の非器質精神病
表2.統合失調症 診断ガイドライン
F20 統合失調症 Schizophrenia
この全体的なカテゴリーは,統合失調症によくみられる病型だけでなく,非典型的な病型や密接なつ
ながりを持つと思われる障害も含む.
F20.0 - F20.3 統合失調症の妄想型,破瓜型,緊張型および識別不能型のための全般基準.
G1. 次の項目(1)に挙げた症候群・症状・徴候のうち少なくとも1項,または項目(2)に挙げた症
状・徴候のうち少なくとも2項が,1ヵ月以上続く精神病的エピソードの期間ほとんどいつも存在するこ
19
と(または1日のうちにいつか存在するといったことがほとんど毎日ある).
(1)次のうち,少なくとも1項があること:
(a)考想反響,考想吹入または考想奪取,考想伝播
(b)他者から支配され,影響され,服従させられているという妄想.それは,身体,手足の動き,
思考,行為,感覚に明らかに関連していること.妄想知覚
(c)患者の行動を注釈し続ける幻声,または患者のことを相互に噂し合う複数の幻声.あるいは身
体の一部から派生する幻声
(d)文化的要因を考慮しても,不適切でまったくありえないような持続的妄想(たとえば,天候を
コントロールできるとか,別世界の異邦人と交信できるなど)
(2)または次のうち少なくとも2項あること:
(a)どのような形態であっても持続的な幻覚が,少なくとも1ヵ月間にわたり毎日起こる場合,明
らかな情動的要素を欠く(浮動性の妄想や形式化されていない)妄想にともなっている場合,また
は持続性の優格観念にともなって認められる場合.
(b)言語新作や思考経路に途絶または挿入があるために,結果として支離滅裂,的はずれな会話と
なる.
(c)緊張病性の行動.つまり,興奮・姿勢保持・蝋屈症・拒絶症・緘黙症および昏迷など.
(d)「陰性」症状.すなわち,著明な意欲低下,会話の貧困,情動の平板化あるいは不適切な情動
反応(抑うつや神経遮断薬投与によるものでないことが明らかでなければならない).
G2.主要な除外基準:
(1)躁病エピソード(F30.-)や,うつ病エピソード(F32.-)の診断基準を同時に満たす場合には,そ
の感情障害が発症する以前に上記のG1(1)とG1(2)に挙げた基準が満たされていること.
(2)この障害は,器質性の脳疾患(F00 - F09),アルコールまたは薬物関連の中毒(F1x. 0)や依存
(F1x. 2),あるいは離脱(F1x. 3, F1x. 4)によるものではないこと.
〈コメント〉これらの異常な主観的体験や行動の有無を評価するに際しては,偽陽性の判定をすること
のないように,とくに注意すること.文化的または下位文化的に影響された表現方法や,知的水準が正
常以下の場合は,とりわけ注意すべきである.
経過類型
統合失調症性障害の経過には明らかにさまざまなものがあるという観点から,第5桁の数字を使って,
経過類型を特定しておくことは(とくに研究においては)望ましい.少なくとも1年未満の観察期間で
あるような場合,経過はコードされない.
F20.x0 持続性
観察期間を通して精神病症状の寛解がない
F20.x1 進行性の欠陥をともなうエピソード性
精神病的エピソードの間歇期に「陰性」症状の進行性展開をともなうもの
F20.x2 固定した欠陥をともなうエピソード性
精神病的エピソードの間歇期に「陰性」症状が持続するが進行性でないもの
20
F20.x3 エピソード性(弛緩性)
精神病的エピソードの間歇期に完全寛解,または実質的な完全寛解をともなうもの
F20.x4 不完全寛解
F20.x5 完全寛解
F20.x8 他の経過
F20.x9 経過不明,観察期間があまりに短い
F20.0 妄想型統合失調症 Paranoid schizophrenia
A.統合失調症の全般基準(F20.0 - F20.3 )を満たすこと.
B.妄想または幻覚が顕著であること(たとえば,被害妄想,関係妄想,高貴な生まれという妄想,特
別の使命があるという妄想,体が変わってしまうという妄想,嫉妬妄想;患者を脅したり命令したりす
る幻声,幻嗅,幻味,性的または他の身体感覚的な幻覚).
C.感情表出の平板化や不調和,緊張病性の症状,滅裂な会話などが存在してもそれらは軽度であり,
臨床像の前景に立つことはない.
F20.1 破瓜型統合失調症 Hebephrenic schizophrenia
A.統合失調症の全般基準(F20.0 - F20.3)を満たすこと.
B.次の(1)または(2)のいずれかが存在すること.
(1)明確で持続的な,平板化したまたは浅薄な感情表出
(2)明確で持続的な,不調和で不適切な感情表出
C.次の(1)または(2)のいずれかが存在しなければならない.
(1)目標思考というより,無目的でまとまりのない行為
(2)明確な思考障害,それは,まとまりがなく,とりとめがなく,または滅裂な会話として現れる.
D.幻覚や妄想が存在してもそれらは軽度であり,臨床像の前景に立つことはない.
F20.2 緊張型統合失調症 Catatonic schizophrenia
A.疎通のとれない患者の場合,当初は困難であるかもしれないが,最終的には統合失調症の全般基準
(F20.0 - F20.3) を満たすこと.
B.少なくとも2週間,次の緊張病性の行動が1項以上,顕著であること.
(1)昏迷(環境への反応性の著名な低下と,自発的動作や活動性の減退),または緘黙
(2)興奮(外的刺激とは無関係に生じる,明らかに無目的な活動性)
(3)姿勢保持(不適切または奇異な姿勢を自動的にとり,保持すること)
(4)拒絶症(患者を動かそうとするあらゆる試みや指示に対して,明白な動機のないままに抵抗した
り,反対方向の動きを示したりすること)
(5)硬直(患者を動かそうとする努力に対して,硬い姿勢をとり続けること)
(6)蝋屈症(なされるがままの姿勢を保持し続けること)
(7)命令自動症(命令に対して自動的に盲従すること)
21
F20.3 鑑別不能型[型分類困難な]統合失調症 Undifferentiated schizophrenia
A.統合失調症の全般基準(F20.0 - F20.3)を満たすこと.
B.次の(1)と(2)のいずれかがあること.
(1)F20.0,F20.1,F20.2,F20.4,F20.5の,どの亜型の診断基準をも満たさない.
(2)症状が多彩で,上のB(1)に挙げた亜型のうち2型以上の診断基準を満たす.
F20.4 統合失調症後抑うつ Post-schizophrenic depression
A.過去12ヵ月以内に,統合失調症の全般基準(F20.0 - F20.3)を満たしていたこと.現在は,統合失
調症の診断基準は満たさない.
B.F20.0―F20.3の基準,G1(2)の(a),(b),(c),(d)のうち,少なくとも1項は現在も存
在すること.
C.抑うつ症状は,少なくとも軽症うつ病エピソード(F32.0)の診断基準を満たす程度に,明らかに遷
延し,重度で広範であること.
F20.5 残遺型[残遺]統合失調症 Residual schizophrenia
A.統合失調症の全般基準(F20.0 - F20.3 )を過去にしばらくの間は満たしていなければならないが,
現時点では満たさない.
B.過去12ヵ月間を通じて,次の「陰性」症状のうち少なくとも4項が存在していたこと.
(1)精神運動の緩慢さ,または活動性減退
(2)明らかな感情鈍麻
(3)受動性,および自発性の欠如
(4)発語量または会話内容の貧困
(5)表情,視線の交流,声の抑揚や身振りによる非言語的コミュニケーションの乏しさ
(6)社会的機能,または身辺処理能力の乏しさ
F20.6 単純型統合失調症 Simple schizophrenia
A.次の3項目のすべてが,少なくとも1年以上にわたって徐々に進行していくこと.
(1)いくつかの行動面での全般的な性質が,たとえば意欲や興味の喪失,怠惰で無目的な振舞い,自
己没頭的態度,対人的ひきこもりなどといった面において,明らかに変化していること.
(2)無気力,会話の貧困,活動性の低下,感情鈍麻,受動性,自発性欠如,非言語的コミュニケー
ション(表情,視線の交流,声の抑揚や身振りによる)の乏しさなどの「陰性」症状の潜行と緩
徐な発現.
社会的能力,学習能力,職業能力の著名な低下.
B.F20.0 - F20.3のG1に挙げたどの症状も,またどのような種類であれ幻覚や完全妄想がいかなる時期
においても存在しないこと.つまり,統合失調症のこれ以外の病型すべて,および他の精神病的障害の
診断基準を決して満たさないこと.
C.F00 - F09 に示したような,痴呆あるいは他の器質性精神障害の証拠を欠くこと.
F20.8 他の統合失調症 Other schizophrenia
F20.9 統合失調症,特定不能のもの Schizophrenia, unspecified
22
図2.服薬率は退院直後に悪化する
23
6.方 法
6-1.倫理的配慮
本研究は,多施設研究の主管施設である藤田保健衛生大学倫理審査委員会ならびに参加各施設におけ
る倫理委員会の承認を得て実施された.また,本研究の対象は,下記参加施設から一般応募にて参加者
を募った.すべての患者に対して,「新しい注射剤治療(LAI療法)についての説明と同意書」および
「リスペリドン持効性注射剤の臨床研究に関する同意書」を用いて研究概要を説明し,患者本人の署名
をもって書面で同意を得た.
なお,LAI療法および臨床研究については,患者本人の意思によっていつでも中止できることに加え
て,同意を撤回して治療法を変更しても何ら不利益を受けないことを説明した.
6-2.参加施設および対象患者
本研究は,2009年9月から2010年9月までを調査期間として行った.また,藤田保健衛生大学病院を
主管施設とし,桶狭間病院藤田こころケアセンター(愛知県)・仁大病院(愛知県)・三河病院(愛
知県)・北林病院(愛知県)・共和病院(愛知県)・聖十字病院(岐阜県)・多度あやめ病院(三重
県)・松阪厚生病院(三重県)・国分病院(大阪府)・八代更生病院(熊本県)・弓削病院(熊本
県)・明生病院(熊本県)の計13施設(1府・4県)による多施設共同研究として実施された.
対象患者は,診断基準ICD-10のF2分類(統合失調症圏)と診断された20歳から70歳までの患者で,
リスペリドンLAIによる単剤治療を退院時点で維持できている人あるいは外来通院にて維持できている
人のうち,オリジナル心理教育COMPASSのすべての内容を網羅した学習に参加できる人を対象とし
た.
なお,血液疾患・神経疾患を含む全身状態に異常のある患者,6ヵ月以内に電気けいれん療法を受け
たことのある患者,妊娠中の患者,ニコチンを除く物質に最近5年間依存している患者については対象
から除外した.また,エントリー時点までにリスペリドンLAIを単剤化できなかった患者は本研究より
除外した.
6-3.リスペリドンLAIの投与方法(切り換え方法)
初回用量としてリスペリドンLAIを1回25mgから臀部筋肉内に投与し,初回投与から3~4週間後よ
り前治療薬の減量を行い,抗精神病薬をリスペリドンLAI単剤で維持できるようにした.患者の精神状
態に応じて,医師の判断によりリスペリドンLAIの用量を37.5mgまたは50mgまで増量できるようにし
た.また,研究中の通院間隔(リスペリドンLAI投与間隔)は2週間に限定した.不穏時や不眠時に併用
できる抗精神病薬としては,クロルプロマジン(chlorpromazine; CP)換算で100mg/日まで,または
抗不安剤および睡眠剤の併用は許容した(Inagaki A, Inada T. 2010).しかし,抗精神病薬の継続使
用,または長期使用を前提とした気分安定剤および抗うつ薬の使用については不可とした.なお,リス
ペリドンLAI導入に際しては,すべての参加者に対して,以下の5項目からなるリスペリドンLAI療法同
意書(表3)を用いて医師が説明をし,参加者全員から同意を得た.
具体的には,1)2週間に1回のリスペリドンLAI療法で日常への回帰をめざすこと 2)リスペリドン
LAI開始から4週間程度は内服治療を併用すること 3)リスペリドンLAIにもリスペリドン内服薬と同
等の副作用の生じる可能性があること 4)1回あたりの費用 5)いつでも中止できること,中止して
24
も不利益が生じないことを,文書を用いて説明し,本人の署名・同意年月日・同意意思の有無(該当文
言に○印をつける)を本人の直筆により記入いただくことをもって同意を取得した.
6-4.評価項目
主要評価項目は,再発率である.本研究では,再入院率および治療効果が無かったことによる治療中
断率をもって再発率と定義した.
副次評価項目は,精神症状評価として簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale;
BPRS)を(Overall JE, 1962),精神機能評価として全体的機能評定(Global Assessment of
Functioning; GAF)を(Hall RC, 1995),さらには忍容性評価として薬原性錐体外路症状評価尺度
(Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale; DIEPSS)を(Inada T, 2002),それぞれ0ヵ月,
3ヵ月および6ヵ月時点で医師が評価した.特に,BPRSについては,BPRS総得点のほかに,陽性症状・
陰性症状・総合精神病理に関する下位尺度の評点(サブスコア)についても解析した.
6-5.オリジナル心理教育COMPASSの概要
6-5.1 COMPASSの正式名称および入手方法
すべての患者に対してリスペリドンLAI投与開始時よりオリジナル心理教育COMPASSを用いて,心
理教育を行った.COMPASSとは,日本語正式名称である「包括的な心理教育的介入および枠組みセッ
ト」を,英語に翻訳した英語正式名称COMprehensive Psycho-educational Approach and Scheme
Setの太文字部分を集めた略称である.略称には,研究に参加する当事者と治療者にとって,良き羅針
盤(COMPASS)となるようにとの意味も込められている.なお,日本語正式版は,全28ページからな
るA4版の冊子(紙媒体)である.
研究対象者一人につき一冊を提供し,LAI単剤化がすでに完了している患者および完了見込みにある
患者に対して,全ページの内容をすべて網羅した学習をスタッフ主導により実施することを義務づけ
た.しかし,COMPASSを用いた心理教育の具体的な運用に際しては,1回あたりの学習時間や担当ス
タッフ・職種の指定など,施設ごとに異なる治療環境に配慮して,詳細には指定せず,主治医の裁量の
範囲内で柔軟に運用できるよう配慮した.
また,テキストの破損やスタッフ教育用の増刷に対処するため,研究当初よりインターネット上に
PDFを保存して,ダウンロード用URL(下記)を各施設に周知し,いつでもどこでもCOMPASSを入手
できるようにして,増刷および自己学習等に役立てていだくよう工夫した.なお,国際学会発表(Zhao
Y, 2012)ならびに関連論文投稿に際しては,COMPASS日本語正式版を忠実に翻訳したCOMPASS英語
版を作成した.
COMPASS日本語正式版 ダウンロード用URL:bit.ly/COMPASS_JP
COMPASS英語版 ダウンロード用URL:bit.ly/COMPASS_EN
6-5.2 オリジナル心理教育COMPASSの特徴
COMPASSの特徴は,全編を通じて,イラストを用いた視覚効果の重視に加え,治療を受ける患者自
身を主人公に見立てた物語(ストーリー)を展開した点にある.表紙には,架空の港町における日常
生活を連想させるイラストを全面に配し,我々がめざすべきゴール「真の治療」すなわち「日常への回
帰」を暗示した.また,各章の冒頭では,急性期から回復期を経て退院準備期(社会参加期)へと変化
25
する様子を「海と船のイラスト」で表現した.言葉でのやりとりが難しい急性期にある患者にも直感
的に内容を理解できるようにテキスト全体を通したストーリーは,次の通りである.患者と我々医療ス
タッフとが乗り込んだ船は,第1章で統合失調症という嵐の中で正しい知識と出合い,第2章で船の調
子や海の調子に早めに気づいて乗組員と相談しながら航海術(対処法)を身につけ,第3章で水先案内
人(社会資源)の先導によって母港に戻る(回復する)というストーリーである.また,患者や家族が
自らの言葉をテキストに記入しながら,回復後の夢や希望についてイメージをふくらませていくこと
もCOMPASSの大きな特徴である.以下,各章冒頭の学習内容を簡単に説明する.なお,リスペリドン
LAIを単剤化するまでに少なくとも第1章(急性期)は終わらせ,患者本人の病状や理解度に応じて第2
章・第3章の学習スピードについては各主治医の判断によって調整の上,すべての章を完全に学習する
こととした.
■ 第1章 急性期(キーワードは「出会い」)
ここでは,統合失調症の病名告知,統合失調症の症状(陽性症状・陰性症状・認知機能障害),今ま
での治療法(内服治療),新しい治療法(リスペリドンLAI療法)の特徴を学ぶ.特にリスペリドンLAI
を用いた新しい治療法が「再発を防ぐ力」に優れている点について詳しく説明している.
■ 第2章 回復期(キーワードは「気づき」)
体の調子に気づく(副作用),心の調子に気づく(うつ状態の評価),ストレス対処法を学ぶ.患者
自身の体の調子(統合失調症の症状や副作用を含む)や心の調子(うつ状態のスクリーニング)につい
て評価し,統合失調症の発症や病状に影響を与えるストレスについても一緒に考える.
■ 第3章 退院準備期(キーワードは「いつもの暮らし」)
リスペリドンLAIによる新しい治療法の長所と短所,いつもの暮らしを支える社会資源を知ること,
社会参加について具体的に考えることを学ぶ.本章ではリスペリドンLAIについてあらためて説明し,
いつもの暮らしを支えるいろいろな社会資源を知り,患者本人にできる社会参加について具体的に考え
ること,特に夢や希望について自分の言葉で述べることを重視している.治療スタッフのサポートを受
けながら,あるいは患者同士で励ましあいながら対話を行うことで,「何のために,誰のために,治療
を選び,治療に参加するのか」という治療動機づけが無理なく行われるように工夫してある点は,剤形
選択・治療選択などに主眼を置く一般的なSDMのあり方とは一線を画すCOMPASSのオリジナリティを
示す部分である.
6-6.統計解析
参加症例96例に対する最終評価は,下記の統計学的手法を用いて解析を行った.
すべての評価項目において,ベースラインからエンドポイントまでの有意差の検定には,ペアt検定を
用いた.また,統計処理には統計ソフトJMP(バージョン5.0.1・日本語版・SAS Japan Inc. 東京)を
用い,P値<0.05以下のものを統計学的に有意差ありと定義した.
26
表3.リスペリドンLAI治療同意書 (ひな形)
新しい注射剤(リスパダールコンスタ)治療についての説明と同意
多施設研究参加施設名 ○○○○病院
新しい注射剤治療(リスペリドンLAI)を受ける皆さまへ
(1)2週間に1回の注射(筋肉注射)だけで回復(いつもの暮らしへ戻ること)をめざします。
再発を予防する効果に優れる点もこの治療の特徴です。
(2)はじめての注射から4週間程度は、内服薬を併用します。
薬の成分が体全体にいきわたるまでに3~4週間かかるからです。
(3)リスパダールコンスタにも、飲み薬とおなじように副作用が出ることがあります。
例えば「立ちくらみ・眠気・手の震え・筋肉のこわばり・のどの渇き・だるさ」などです。
ごくまれに「発熱・発汗・飲み込みが悪くなる・体がこわばる」などの症状がでる場合には、
治療を中止します、いずれにしても、当院で対処可能な副作用です。
(4)1回あたりの費用:リスパダールコンスタ25mgを用いる場合の薬代は、
自立支援法1割負担で2,350円、健康保険3割負担で7,060円です。
実際の窓口負担額は、上記薬代に加えて診察料が加算されます。
(5)この治療は、いつでも中止できます。治療を中止しても、不利益をうけることはありません。
わからないことや疑問がある場合は、気軽に主治医に相談してください。
(6)その他:
年 月 日
説明医師名: <同意書>【内容を良く読み、下記の項目のいずれかに○印を記入し、ご署名願います。】
私は、新しい注射剤(リスパダールコンスタ)治療について説明を受け、その意義や目的・危険性・費
用等について十分理解しましたので、治療に( 同意します ・ 同意しません )。
年 月 日
本人署名: 立会人署名: 27
表4.簡易精神症状評価尺度(BPRS)日本語版
28
表5.機能の全体的評定(GAF)尺度
29
表6.薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)
30
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(表紙)
【運用上のポイント】まずは,表紙の絵を一緒にながめて対話を始めましょう.
■イラストをみた第一印象など,率直な感想などを尋ねてみるのもよいでしょう.
■どんな物語が始まるのか,まずは表紙をながめて想像をふくらませましょう.
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資料1.オリジナル心理教育COMPASS(裏表紙)
【運用上のポイント】COMPASSの正式名称について説明しておきましょう.
■日本語名称:包括的な心理教育的介入および枠組みのセット
■英語名称:COMprehensive Psycho-educational Approach and Scheme Set
32
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(1ページ)
【運用上のポイント】治療ゴールをここでしっかり共有しましょう!
■いつもの暮らしに戻ること(日常への回帰)が治療ゴールの一つです.
■ゴールをめざす羅針盤(COMPASS)を手にして船旅を始めるイメージ.
33
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(2ページ)
【運用上のポイント】まず,CONTENTS(もくじ)で全体像をながめましょう.
■第1章 急性期のキーワードは,出会い.知識・治療・仲間と出会う.
■第2章 回復期のキーワードは,気づき.体・心・ストレスに気づく.
■第3章 社会参加準備期ともいう.キーワードは,いつもの暮らしへ.
34
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(3ページ)
【運用上のポイント】イラストを見て,感じるままに語りあいましょう.
■ここでは,統合失調症の症状や治療法についての正しい知識を学びます.
■当事者に尋ねるだけでなく,スタッフ自身の感想も大事です.
■「あなたはどのキャラクターかな?」「私は猫かな・・・」と少しずつ対話もはずみます.
35
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(4ページ)
【運用上のポイント】重い事実の側面だけでなく,回復できるというメッセージも伝えましょう.
■病名告知は,相手の病状や受けとめ方を慎重に推し量ってすすめます.無理は禁物です.
■もともとの素因にストレスが加わり発症した・・・だからこそ回復をめざそうという姿勢が
大事です.
36
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(5ページ)
【運用上のポイント】ここでは,副次症状(陽性症状)について学びます.
■チェックボックスの使い方としては,まず現在あるものに✔を.
■現在はないが過去にあった症状には,ボックスの左側に✔するなど工夫を.
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資料1.オリジナル心理教育COMPASS(6ページ)
【運用上のポイント】ここでは,基本症状(陰性症状)について学びます.
■チェックボックスの使い方としては,まず現在あるものに✔を.
■基本症状は,副次症状(陽性症状)をかたくなに否定している人でも,病歴や生活歴から,
ある程度客観的に「ある」「なし」をチェックできる項目です.
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資料1.オリジナル心理教育COMPASS(7ページ)
【運用上のポイント】 基本症状(認知機能障害)について学びます.
■ここには当事者自身気づきにくい項目,認めたくない項目が含まれます.
■「心も体も疲れやすい」という項目には,多くの当事者が共感してくれます.
39
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(8ページ)
【運用上のポイント】当事者や家族が自分の言葉で書くことが大事です.
■単に「気になる症状は何ですか?」と尋ねるだけでは,なかなか言葉は出てこないもの
です.普段の関わりを通じて,「あの場面で,こんな風に困っているように見えていたけ
ど・・・簡単に書いてくれますか?」という問いかけを!
40
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(9ページ)
【運用上のポイント】再発を防ぐことで,脳機能の低下を防止することが大切です.
■再発防止は統合失調症治療の目標の一つです.
■神経伝達物質(ドパミンやセロトニン)の働きを薬で整えることを学びます.
41
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(10ページ)
【運用上のポイント】服薬を続けることの重要性について学びます.
■服薬を毎日続けることが再発防止には欠かせません.
■しかし,誰にでも薬を飲み忘れることはあります.
■飲み忘れたときにどう対処すべきか,予め考えておきましょう.
42
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(11ページ)
【運用上のポイント】リスパダールコンスタの特徴を理解しておきましょう.
■毎日,薬を飲み続けるかわりに2週間に1回の筋肉注射の治療を提案します.
■持効性注射剤が再発防止に優れるという報告について話題にします.
43
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(12ページ)
【運用上のポイント】注射を実施する際には,十分な声掛けによる安心向上が重要です.
■注射の痛みの感じ方には個人差があります.
■従来の持効性注射剤が脂溶性であったのに対し,新しい持効性注射剤は水溶性です.
44
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(13ページ)
【運用上のポイント】急性期から回復期への移行期間は重要です.
■第2章は,回復期.キーワードは,体や心の調子に「気づく」です.
■ここでは,困ったときに「相談する」という対処法を身につけることを学びます.
45
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(14ページ)
【運用上のポイント】自分以外の誰かと一緒に,心や体の調子をモニタリングしましょう.
■統合失調症自体によって変化する体の調子について気づくことは大切です.
■心当たりのある症状について話題にしましょう.
■本人が気づいていなくても,周りの人やスタッフが先に気づく場合もあります.
46
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(15ページ)
【運用上のポイント】身体機能への興味・関心を持ってもらいましょう.
■統合失調症自体や治療によって体は影響を受けることがあります.
■肝機能や腎機能・生活習慣病に関係する検査結果を自分で記入しましょう.
■わからないことがあれば,主治医や薬剤師・受け持ち看護師に相談しましょう.
47
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(16ページ)
【運用上のポイント】治療薬の副作用について,十分理解しておくことは重要です.
■持効性注射剤にも,内服薬とおなじような副作用があります.
■主治医・薬剤師・看護師と一緒に副作用と思われる症状をチェックしましょう.
■特に注意が必要な副作用(悪性症候群)については,特記してあります.
48
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(17ページ)
【運用上のポイント】統合失調症発症後のうつ状態や希死念慮については十分な警戒が必要です.
■統合失調症を持つ人は,うつ状態(楽しくない・気が晴れないなど)になることがあります.
■とくに,死について何度も考えたりする場合は最寄りのスタッフにすぐに相談しましょう.
■うつ状態に対しては,薬物療法やカウンセリングなどの手あてがあります.
49
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(18ページ)
【運用上のポイント】ストレスについて正しい理解を深めることは重要です.
■心のストレスと統合失調症の発症や再発には一定の関係があるといわれています.
■暮らしの中には,さまざまなストレスの原因があります.一緒に学びましょう.
■おまけは,マインドフルネス瞑想法という認知行動療法の一種・「気づきの実践」です.
50
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(19ページ)
【運用上のポイント】ストレスを書き出し,相談することの大切さを学びます.
■あなたが日ごろ感じているストレスを自分の言葉で書き出してみましょう.
■スタッフは,ストレスをうまく解消する方法について,提案してみましょう.
■あなたと同じように,ご家族(サポーター)もストレスを感じている場合があります.
51
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(20ページ)
【運用上のポイント】リカバリー,すなわち自己実現の準備を始めます.
■第3章は,いよいよ「いつもの暮らしに戻る」ための退院準備(回復準備)の時期です.
■あなたの暮らしを支える社会資源について学びます.
■また,薬を飲まずに暮らす持効性注射剤治療についてもおさらいします.
52
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(21ページ)
【運用上のポイント】リカバリー(自己実現)のためにも再発防止は重要です.
■持効性注射剤治療のおさらいです.
■2週間に1回の治療で再発を防ぐことが長所です.
■効果が出るまでに3~4週間かかります.内服薬と同じような副作用がある点は短所です.
53
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(22ページ)
【運用上のポイント】精神保健福祉士(Psychiatric Social Worker; PSW)と協働して説明します.
■ここでは,あなたのいつもの暮らしを支えるさまざまな社会資源について学びます.
■内服薬と比べて割高となる注射剤治療を続ける場合,自立支援医療をおすすめします.
■その他,通院治療で受けることのできるデイケアや訪問看護についても学びます.
54
資料1.オリジナル心理教育COMPASS(23ページ)
【運用上のポイント】病院以外の関係機関との連携について学びます.
■統合失調症を持つ人の社会参加や社会復帰を支えるサービスや機関を学びます.
■その他にも,精神障害者保健福祉手帳(いわゆる障害者手帳)についても学びます.
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資料1.オリジナル心理教育COMPASS(24ページ)
【運用上のポイント】学習の足あととして,一緒に学んだ仲間を記録しておきます.
■ここには,支援してくれる場所(サービスや機関)や人びとについてメモをします.
■具体的に支援機関や支援者の名前を書いてみましょう.
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資料1.オリジナル心理教育COMPASS(25ページ)
【運用上のポイント】当事者自身の言葉を引き出し,適切な言葉に置き換えてあげましょう.
■統合失調症をもつ人が,自分の言葉で将来の夢や希望を書き記すことが大切です.
■治療や社会参加への動機づけの一つになる可能性があります.
■自分の言葉で,できるだけ具体的に書きましょう.上手に書く必要はありません.
57
7.結 果
7-1.患者背景(表7)
最終的なエントリー患者数は96例であった.その内訳は,男性52例および女性44例であった.平均
年齢は45.4±13.2歳(平均値±標準偏差,以下同)と青年層から中高年層が対象であった.
罹病期間は,7515±6826日,直近のエピソードからの経過期間は1.74±0.44年であった.
併用薬剤に関しては,エントリー時点で抗精神病薬を併用していた患者は59人(61.5%),平均用量
はCP換算で507㎎(標準偏差631㎎),抗不安薬および睡眠薬を併用していた患者は43人(59.7%),
平均用量はジアゼパム換算で9.89㎎(標準偏差20.3㎎)であった.
7-2.再発率
参加96例中19例(19.8%)が理由の如何に関わらず研究を中断し,うち精神症状の悪化による再発
例は10例(10.4%)であった.これは,本邦におけるリスペリドンLAIに関する第III相試験(Kamijima
K, 2009)の再発率12.2%と比較して,わずかに下回る結果となった.
また,研究終了6ヵ月時点でのリスペリドンLAI平均投与量は,37.7±11.2㎎であった.
7-3.精神症状および精神機能・忍容性の変化
BPRS・GAFおよびDIEPSSに関するベースラインから3ヵ月後・6ヵ月後の変化を表8に示す.
BPRS総得点がベースライン39.0±1.35(得点±標準誤差,以下同)から6ヵ月後には-3.82±1.25
(p=0.0031)となり,有意な改善が認められた.BPRSの下位尺度の評点(サブスコア)については,
陽性症状・陰性症状・総合精神病理のすべてにおいて6ヵ月後にはベースラインと比較して有意な改善
が認められた.特に,BPRS陰性症状サブスコアおよびGAF・DIEPSSについては,すでに3ヵ月後には
有意な改善が認められ,6ヵ月後も有意な改善が維持されていた.
58
表7.患者背景
参加症例数
96
性別(男性/女性),人数
52/44
参加者の平均年齢,歳(標準偏差)
45.4(13.2)
直近の再発エピソード期間,平均年数(標準偏差)
1.74(0.440)
平均罹病期間,平均日数(標準偏差)
7515(6826)
ベースライン時のBPRS得点,平均点(標準偏差)
39.0(13.2)
併用薬剤
抗精神病薬 併用人数(%)【平均用量(標準偏差)】a
59(61.5)【507(631)】
b
抗不安薬/睡眠薬 併用人数(%) 【平均用量(標準偏差)】
43(59.7)【9.89 (20.3)】
気分安定薬 併用人数(%)
7(9.72)
脚注 a クロルプロマジン換算値 b ジアゼパム換算値
59
表8.精神症状および精神機能・忍容性の変化
ベースライン
3ヵ月後
6ヵ月後
(n= 96)
(n= 92)
(n= 92)
平均得点
平均得点の差
(標準誤差)
(標準誤差)
総得点
39.0(1.35)
-1.15(1.09)
0.294
-3.82(1.25)
0.0031
陽性症状サブスコア
11.8(0.558) -0.286(0.449) 0.526
-1.18(0.584)
0.0451
陰性症状サブスコア
5.90(0.228) -0.396(0.164) 0.0178
-0.804(0.175) 〈0.0001
総合精神病理サブスコア
21.4(0.765) -0.560(0.620) 0.368
-2.07(0.678)
0.0031
6.73(1.20)
〈0.0001
P値a
平均得点の差
(標準誤差)
P値a
簡易精神症状評価尺度
(BPRS)
精神機能の総合評定
(GAF)
薬原性錐体外路症状
評価尺度(DIEPSS)
47.4(1.42)
4.95(1.07) 〈0.0001
2.52(0.368) -0.528(0.238) 0.0293
-0.571(0.256) 0.0280
脚注 a P値のうち,ベースラインと比較して0.05以下の有意差を認めたものを太字で表記した.
60
61
62
63
8.考 察
8-1.リスペリドンLAI療法とオリジナル心理教育COMPASSによる世界初の包括治療の有用性
8-1.1 リスペリドンLAI療法における「アドヒアランスの維持・向上」
統合失調症は,再発を繰り返すたびに患者の社会的機能や職業的機能が障害され,長期的予後が不
良となり(Conley RR, 2001),精神症状の改善に長期間を要することがわかってきた(Kane JM.
1996;Kane JM, 1998).統合失調症治療における再発防止には,抗精神病薬の長期間にわたる確実
な服薬の継続が重要であり,服薬が継続できなければ再発の危険性が高まることが,これまでにも多数
報告されてきた(Kissling W, 1992; Davis JM, et al. 1994; Weiden PJ, et al. 2004).しかし,実臨
床の現場では,治療スタッフのサポートのもとに服薬管理が行われていた入院患者のうち,退院直後と
言ってもよい1週間以内に服薬が不規則となる人が2割ほどにもいたることが,我々のMEMSを用いた研
究(趙岳人,2011a)でも明らかとなっている.
本研究において,リスペリドンLAI療法を包括治療に取り入れた理由は,第1に,疾患特性により服薬
の必要性を十分には理解できない患者を中心とする部分アドヒアランスを示す患者層から社会参加に積
極的なアドヒアランスの良好な患者層にいたるまで,あらゆる層において,アドヒアランスの維持・向
上をはかることが期待できる剤形の一つとして,1回の筋肉内投与で2週間作用が持続する点を挙げるこ
とができる(Heres S, et al. 2007; Heres S, et al. 2011;藤井康男ほか,2010).第2に,本研究開始
当時,脂溶性の従来型LAIと比較して水溶性のリスペリドンLAIは,忍容性の面で錐体外路症状や悪性症
候群の出現頻度が少ないこと,注射部位反応(皮下出血・硬結など)が少ないことなどの長所をもち,
これらがアドヒアランス低下の要因を少なくする特徴ともなり,参加者の同意を得やすかったのではな
いかと考える.また,リスペリドンLAIを初発患者に使用した報告によれば,リスペリドンLAI療法群と
リスペリドン内服治療群との2年間の比較検討において,リスペリドンLAI療法群のほうが非再発率は有
意に低く,特に,リスペリドンLAI療法群は2年目の脱落は1例のみであったという(Kim B, 2008).
LAI療法は再発患者にも初発治療患者にも有効である可能性が示唆される.
また,最新のフィンランド全国規模のコホート研究においても,持効性注射剤の使用によって同
じ薬剤の経口剤の使用と比較して再入院率が有意に低いことが明らかとなった(Tiihonen J, et al.
2011).また,LAI療法による再発防止効果をもって,発症後数年から5年以内の臨界期(Birchwood
M, et al. 1998)に進行すると言われている脳実質の機能障害を可能な限り阻止することは,LAI療法へ
の期待であるといってもよい.
8-1.2 オリジナル心理教育COMPASSにおける「対話と提案による治療動機づけ」
心理教育を行った患者では行わなかった患者と比べて,再発抑制効果・再入院率低下・入院期間
短縮に優れること(Hogarty GE, et al. 1991; Vicker GM, et al. 2009; Schmidt-Kraepelin C, et al.
2009; Pitschel-Waltz G, et al. 2006; Bäuml J, et al. 2006; Lincoln TM, et al. 2007; Aguglia E, et al.
2007),あるいは服薬アドヒアランスの向上が見込めること(Merinder LB, 2000; Linden M, et al.
2008; Chan SW, et al. 2009),症状改善や満足度の向上が期待できること(Linden M, et al. 2008;
Chan SW, et al. 2009; Hauser M, et al. 2009; Pitschel-Waltz G, et al. 2006; Aguglia E, et al. 2007)
など,心理教育のアドバンテージに関する報告がある.また,Hogartyらの報告において,従来型LAI
を投与されている患者に心理教育を組み合わせることで,1年経過後の再発率がほとんどみられなくな
64
り,LAI療法のみの群と比較してさらに再発を抑制できたことが指摘されている.したがって,再発防
止効果が期待される剤形の一つである持効性注射剤(LAI)療法と,同様に再発防止効果が期待される
心理教育とを包括することによって,有用性の面での相乗効果が期待される.
また,心理教育を繰り返し継続することが重要であることも示されている.リスペリドンLAI投与患
者において,1年目は心理教育を実施し2年目は実施しなかった群と,1年目から心理教育を実施しな
かった群を比較したところ,1年目の再発率は心理教育の有無により差がみられたが,1年間心理教育を
実施しても次の年に心理教育を実施しないと,最初から実施しない群と再発率に差がみられなくなると
いう興味深い報告がある(Lee YS, 2013).「継続は力なり」というメッセージが心理教育にも当ては
まることを裏づけるものである.
オリジナル心理教育COMPASSの作成にあたっては,文字情報を必要最小限にとどめ,イラストによ
る視覚効果に加えてストーリー展開による印象づけを強化することによって,個人およびグループにお
ける繰り返し学習に際してマンネリ化を防ぐよう配慮した.まさに継続しやすい学習テキストとしての
COMPASSの特性が,本研究における再発防止効果をもたらした一因となったものと考える.
本研究においては,初発患者および再発患者の間に,効果および再発率における有意な差を見出すこ
とはできなかったが(Kamali M, et al. 2006),多くの参加者から「心理教育を受けて楽しかった」
「同じ病気を抱えている仲間や治療スタッフと話す機会に恵まれて良かった」というプラス評価をいた
だくことができたことを感謝している.統合失調症によって自らの内なる世界に閉じこもりがちな人び
とが,同じ病気を持つ仲間や治療スタッフとの対話を通じて自らの言葉で「夢や希望」を具体的に語る
ことは極めて重要であろうと考える.「やればできる」という患者の体験を多職種チームのサポートに
よって引き出すことにより,患者自身が自らに抱きがちである否定的な固定観念すなわちセルフスティ
グマ(Self-Stigma)を打ち破るきっかけにもなりうるであろう(趙岳人,2011b).
8-1.3 包括治療の有用性
我々は,統合失調症の長期予後を左右する課題のうち,「アドヒアランスの低下」と「治療継続の意
欲が持続しない(動機づけが困難な)基本症状,すなわち陰性症状の遷延」の2つを想定し,アドヒア
ランス改善に一定の効果を有するLAI療法と,患者自身の言葉を引き出すことによって夢や希望を語る
動機づけの要素を有するオリジナル心理教育COMPASSとを,世界で初めて「包括治療」として組み合
わせることによって,統合失調症治療の2つの臨床課題に挑戦した.
1つ目の課題である「アドヒアランスの低下」を防止する点については,再発率に関する結果(7-2)
が,参加96例のうち精神症状の悪化による再発例10例(10.4%)であったことから,本邦におけるリス
ペリドンLAIに関する第III相試験(Kamijima K, 2009)の再発率12.2%と比較して,わずかではあるが
下回る結果となり,本研究における包括治療による再発防止効果が立証されたものと考える.
2つ目の課題である「(動機づけ困難な)基本症状,すなわち陰性症状の遷延」に対する改善効果に
ついては,BPRSの下位尺度の評点(サブスコア)において,特に陰性症状サブスコアおよびGAF(精
神機能の総合評定)が,3ヵ月後から有意な改善が認められ,6ヵ月後も有意な改善を維持していたこと
からも,包括治療の有用性を立証できたものと考える(Hall RC. 1995).その背景には,対話と提案
によるスタッフのサポートと,患者自身の言葉により夢や希望を語る「動機づけ」の要素が,陰性症状
の改善に寄与した可能性があろうと考える.なぜならば,統合失調症の基本症状の項目でも挙げた陰性
症状の原因と考えられる機能障害の一部は,動機づけの欠如・意欲の欠如(Amotivation / Avolition)
65
に関与することが明らかとなりつつあり(Foussias G, et al. 2011),社会的に有益な活動,個人的関
わり・社会的関わり,および自己管理などと高い相関を示す「動機づけの障害」に対して多職種が心理
教育という共有ツールを用いたアプローチを展開する意義をオリジナル心理教育COMPASSには見出せ
るのではないかと考える(Konstantakopoulos G, et al. 2011).
8-2.本研究の限界
本研究の限界は,第1に「心理教育を実施しないコントロール群」を設けることができなかった点に
ある.第2に,参加施設ごとに精神機能を評価することが可能なマンパワーにバラツキがあったため,
経験豊かな評価者(評価者としての経験を積んでいる医師・臨床心理士など)を確保し,一定の時間を
かけて精神症状を評価することになる評価尺度(たとえばPANSS)を採用することは困難であった.代
案として,簡便な評価尺度であるBPRSを採用した.第3に参加施設ごとにLAIの臀部筋肉注射手技に関
する実態にもバラツキがあり,注射部位の統一や注射深度を統一して試験を行うことができなかった点
は,LAI療法の効果を担保する上でも,今後の課題である.さらには,筋肉注射の安全面に関しても,
注射器内への血液の逆流や硬結の出現・臀部筋肉や神経の損傷などあらゆる副反応ついての情報集積を
行わなかった点にも,改善の余地がある(酒巻咲子ほか,2014).
また,最近のメタ解析(Kishimoto T, et al. 2013)によると,非定型LAIと内服薬とでは再発防止効
果に差がないことが示されている.かろうじて,定型LAIであるデカン酸フルフェナジンが内服薬より
も再発防止効果に優れている可能性があることが示唆されているが,リスペリドンLAI療法の優位性を
圧倒的に支持する研究報告がない点は,この治療法の限界であるとも言える.しかしながら,十分な説
明と納得にもとづいて心理教育を丁寧に行った上でLAIを継続している人たちの再発率は低く,内服治
療だけで外来を維持している人たちに比べて,回転ドア現象と言われる頻繁な入退院のエピソードが明
らかに減っているという臨床実感を抱いている医療スタッフも少なくない.いいかえれば,十分な説明
と同意,さらには注射剤療法の利点・欠点を含めた心理教育・疾患教育,中止希望時の説得などの丁寧
で細やかな対話が行われている臨床現場では,LAIを単なる「剤形」としてではなく,LAI療法という名
の「治療法」として提案できているかどうかが,「再発しにくく感じる」という臨床実感を支えている
のではないかと考えられ,今後の検証課題である.
8-3.今後の展望
今後の展望としては,LAI療法の種類や治療効果に関する基礎研究をもとに,あらゆる抗精神病薬に
対応できるようオリジナル心理教育COMPASSを改良し,コントロール群を設けて,包括治療の有用性
について再検討を行いたい.現在,臀部筋肉注射手技の差異(刺入深度の差異)によるリスペリドン
LAI血中動態に関する臨床試験にすでに着手している.今後,視覚効果を多用して汎用性・普遍性を高
めた改良版COMPASS+(プラス)の制作においては当事者の意見を反映させるなどして,新たな包括
治療の可能性を検討したい.
66
9.結 語
統合失調症の実臨床における服薬アドヒアランスは,常に変化している.服薬継続の困難さが再発・
再燃の一因となっている統合失調症治療の現場において,リスペリドンLAI療法と我々が開発したLAI
療法のための心理教育COMPASSとの包括治療を世界初の試みとして実施した.この包括治療を行うこ
とは,統合失調症の再発予防および基本症状の一つである陰性症状の改善に有用であることが明らかと
なった.
67
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