...

複数の領域に焦点を当てた認知機能改善療法の検討

by user

on
Category: Documents
26

views

Report

Comments

Transcript

複数の領域に焦点を当てた認知機能改善療法の検討
複数の領域に焦点を当てた認知機能改善療法の検討 統合失調症を対象に ○中坪太久郎 1 (1 淑徳大学 総合福祉学部実践心理学科) キーワード:統合失調症,認知機能障害,心理療法 Study of cognitive remediation therapy with a focus on multiple domain Takuro NAKATSUBO1
(1Shukutoku Univ.)
Key Words: schizophrenia, cognitive deficit, psychotherapy
目 的 統合失調症においては,認知機能障害が中核的な症状
(Green,1996)と考えられるようになってきている。認知機
能障害は,陽性症状が改善した後も残存するとされており, 社会機能的な予後を予測する因子としても大きな影響をもつ
要因と考えられていることから,患者の退院後の社会生活を
支援するためにも,介入の対象とするべき重要な領域である。 このような背景から,近年は統合失調症の認知機能障害を
対象として,その改善のためのアプローチが開発されてきて
おり,効果についての検討が進められている。本研究では,
統合失調症の認知機能障害のなかでも障害の程度が大きいと
されている(Bilder ら,2000)記憶機能,注意機能,実行機
能という複数の領域に焦点を当て,マンツーマンの心理療法
的な認知機能改善のためのアプローチを実施し,その効果に
ついての検討を行うことを目的とした。 方 法 対象は ICD-10 の診断基準を満たす入院中の統合失調症患
者 5 名(うち男性 1 名)である。比較的年齢が若く,中等度
の社会生活レベルを有する患者を対象とした。基礎属性とし
ては,介入時の平均年齢が 37.4 歳,平均教育年数が 14.8 年,
平均推定 IQ(JART)が 104.2 であった。参加者については,研
究の趣旨について説明を行い,文書による同意を得た。なお,
本研究は昭和大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施さ
れた。 参加者に対して,週1回 45 分,計 12 回(実施期間約 3 ヶ
月),認知機能改善療法をマンツーマン形式で実施した。介入
に際しては,中坪ら(2009)を参考に,参加者の理解度に合
わせて,明示的な教示や足場作り治療といった技法を組み合
わせながら,記憶,注意,実行機能の各領域に適したトレー
ニング用の課題を用いて実施をした。1 回のセッションのう
ち,領域毎の時間配分は,それぞれ約 15 分程度であった。実
施の前後において,主治医によって精神症状(BPRS)と全般
的な社会機能(GAF)が評価された。また,神経心理学的検査
を用いて,介入のターゲットとなった言語性記憶,注意,実
行機能に加えて,効果の般化についても検討を行うために,
論理的記憶,ワーキングメモリ,処理速度,語流暢性,社会
的認知についても評価を行い,全般的な認知機能障害につい
ての自己評価も実施した。 結 果 認知機能改善療法施行前後における精神症状の平均得点は,
介入前の 52 から介入後は 33.4 に減少した。また,社会機能
の平均得点については,48.4 から介入後は 69.2 に改善した。
なお,今回介入の対象となった記憶,注意,実行機能および
全般的な認知機能障害の自己評価の各指標得点の変化につい
ては Figure1〜4 のとおりであった。 Figure2.実行機能の指標得点(個)
Figure1. 記 憶 の 体 制 化 得 点
Figure3.注意の指標得点(ミリ秒)
Figure4.認知機能障害の自己評価
考 察 本研究で介入の対象となった,記憶,注意,実行機能のそ
れぞれにおいて,概ね指標得点の改善がみられた。また,全
般的な認知機能障害の自己評価についても,参加者全員が障
害の改善を認識していることが示された。今回の認知機能改
善療法においては,記憶と実行機能については,課題遂行の
ためのストラテジーを習得するという方法を用いた。参加者
の理解度や達成度に合わせて難易度を調節し,課題遂行の特
徴に合わせて教示を工夫するなどしたことが,改善に寄与し
たと考えられる。また,注意機能については,トレーニング
に用いた課題をくり返し行うという反復練習を行った。反応
時間が大幅に改善している参加者もいる一方で,顕著な改善
がみられない参加者もいた。このことから,反復練習を用い
る課題についても,個人の達成度に応じた練習期間を設定す
るなどの工夫が必要になることが考えられる。今後は,さら
に対象者を増やし,認知機能の領域ごとの詳細な検討を行う
予定である。 引用文献 Green,
M.
F.
(1996).
What
are
the
functional
consequences
of
neurocognitive deficits in schizophrenia? The American journal of
psychiatry, 153(3), 321-30.
Bilder, R. M., Goldman, R. S., Robinson, D., Reiter, G., Bell, L., Bates, J. a,
Pappadopulos,
E.,
schizophrenia:
initial
et
al.
(2000).
Neuropsychology
characterization
and
clinical
of
first-episode
correlates.
The
American journal of psychiatry, 157(4), 549-59.
中坪太久郎・松井三枝・荒井宏文・古市厚志・倉知正佳・鈴木道雄(2009):
認知リハビリテーションによる記憶の体制化障害の改善可能性 精神医学 51(11) 1111-1114 
Fly UP