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新規イオン液体を用いるメンブレン・コンタクター法および液膜法による

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新規イオン液体を用いるメンブレン・コンタクター法および液膜法による
新規イオン液体を用いるメンブレン・コンタクター法および液膜法による
プロピレン/プロパンの分離に関する研究
神戸大学
松山
秀人
1.研究開発の目的
1.1
研究の背景
石油精製プロセス、石油化学工業プロセスにおいて、エチレン/エタン、プロピレン/プ
ロパンなど、同じ炭素数を有するオレフィン/パラフィンの分離は、この約 70 年間、低温
蒸留法を用いて行われている。しかしながら、オレフィン、パラフィンの蒸気圧差が非常
に小さいので、両者は非常に多くの段数(約 300 段、塔高約 100m)を有する蒸留塔を用
いて高い還流比(10 以上)で分離されており、オレフィン/パラフィンの分離、特にプロ
ピレン/プロパンの分離は、石油化学工業プロセスにおいて最も多くのエネルギーを要する
分離の一つである。FCC 装置で生成するプロピレンを蒸留法によってポリマーグレードプ
ロピレン(純度 99~99.6%以上)にするには、精留のために大量のリボイラーデューティ
が必要となり、1 トンのポリマーグレードのプロピレンを得るのに要する熱量は 5×103MJ
と報告されている 1。また、装置も大きく設備コストも非常に大きい。
このような背景から、膜分離法、吸収法、吸着法など、蒸留法に替わる省エネルギー的、
コンパクトで固定経費の少ないオレフィン/パラフィンの分離法が研究されてきた。その中
でも、オレフィンを銀イオンと錯体を形成させることにより分離精製する方法が注目され
ている
2,3
。銀塩水溶液によるプロピレン、プロパンの吸収機構を図 1.1 に示す。プロパン
は液に物理的に吸収されるのに対して、プロピレンは液に物理的に溶解すると同時に液中
の Ag イオンと可逆的に反応してπ錯体(Ag-C3H6)+を形成することで吸収される。放散過程
では吸収過程と逆の方向に上述の素過程が進行する。
C3H8(g)
(a)
C3H6(g)
Gas phase
吸収
Surface
C3H8(l)
AgNO3
C3H6(l)
+
Ag +
C3H6(l) + Ag+
NO3-
イオン解離
Complex
錯形成反応
Liquid phase
(b)
図 1.1 硝酸銀溶液へのプロパン、プロピレンの吸収機構(a)および Ag+とオレフィン系炭
化水素が形成する電荷移動型錯体の結合様式(b)
-215-
今日までガス吸収操作には充填塔、棚段塔、気泡塔などが用いられてきた。これらの装
置では、一方の相を他方の相中に分散させることにより二相間の接触面積を増加させ、相
間の物質移動を促進させる。しかし、これらを用いたガス吸収には、ローディングおよび
フラッディング発生の制約から気液両相の流量を任意に変化させることが出来ない、吸収
液によっては発泡により操作条件が制約される、飛沫同伴による吸収液の損失が生じる、
二相間の接触面積を非常に大きくすることができないなどといった短所が指摘されている。
これらの短所を克服する二相接触分離法として、本研究では膜分離法を提案した。分離
対象物質との化学的な反応を利用する膜分離法として、メンブレン・コンタクター法と含
浸液膜法によるプロピレン/プロパンの分離に関する基礎的な検討を行った。
2.研究開発の内容
本研究ではオレフィンと銀イオンの高い親和性を利用したプロピレン/プロパンの膜分
離法として、メンブレン・コンタクター法および含浸液膜法に関する検討を行った。
2.1
メンブレン・コンタクター法
メンブレン・コンタクターによるガス吸収操作では、図 2.1 に示すように吸収用中空糸
膜モジュールの中空糸多孔膜の一方にフィードガスを、他方に吸収液を供給する。フィー
ドガス中の可溶成分は、膜の細孔内を吸収液側へ拡散し吸収液に吸収される。ガスを溶解
したリッチ吸収液は再生されて溶解ガスを放出し、リーン吸収液となって吸収モジュール
に循環される。気液接触メンブレン・コンタクターには、非常に大きな気液接触面積が得
られることや、ローディングやフラッディングが起こらないこと、スケールアップが容易
であることなど、多くの長所がある。一方、その短所には、膜が吸収液で濡れる(細孔内
に吸収液が浸入する)と吸収速度が著しく低下することが挙げられる。従って、メンブレ
ン・コンタクターの実用化のための最大の課題は膜の濡れを如何に防止するかであり、吸
収液に濡れない膜の作製が重要である。そこで、本研究では、膜素材として疎水性が極め
て高く、且つ機械的強度に優れるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、構造の異なる
種々の多孔性中空糸膜を作製し、プロピレンの吸収について検討を行った。また、本研究
では、吸収と放散の一体化モジュールを用いたプロピレン/プロパン混合ガスからのプロ
ピレンの分離についても検討を行った。なお、吸収用メンブレン・コンタクターと放散用
メンブレン・コンタクターを併用してオレフィン/パラフィン混合ガスからオレフィンを
選択的に吸収・分離を行った研究はほとんど報告されていない。
2.2
含浸液膜法
界面積の増大と装置のコンパクト化を同時に解決する膜分離法として、多孔質膜の細孔
中に溶剤を含浸した含浸液膜を用いる方法が提案されている。含浸膜の中でも、回収目的
物質と親和性の高い化合物(キャリア)を溶解した液体を含浸させた膜は特に促進輸送膜
と呼ばれる。促進輸送膜の気体透過概念図を図 2.2 に示す。促進輸送膜を用いたガスの分
離では、一般的な高分子膜に比べて非常に迅速な透過速度と極めて高い選択透過性が得ら
れるが、膜からのキャリア液の漏出や溶剤の揮発に伴う劣化が大きな問題である。本研究
では膜からのキャリア液の損失を抑制するために、蒸気圧が無視できるほど小さいイオン
液体に着目し、プロピレンキャリアである銀イオンを溶解したイオン液体を含浸するイオ
ン液体含浸促進輸送膜を用い、プロピレン/プロパンの分離を検討した。
-216-
疎水性中空糸多孔膜
排出ガス
吸収液の循環
膜
原料側
透過側
吸収モジュール
放散
モジュール
細孔
固定キャリア
C3H6
気液
界面
膜外側
吸収液
フィードガス 回収濃縮C H
3 6
C3H6/C3H8
C3H6
移動キャリア
キャリア:膜内で分離対象物質と可逆的・
選択的に反応する
メンブンコンタクター
吸収液
ガス
膜内側
ガス
図 2.1 メンブレン・コンタクターによるガ
ス吸収操作の模式図
図 2.2 促進輸送膜の気体透過概念図
3.研究開発の結果
3.1
メンブレン・コンタクター法
3.1.1
膜の作製
5 種類の PVDF 膜(膜 A、B、C、D、E)を熱誘起相分離法(TIPS 法、図 3.1)により作
製した。中空糸膜作製に用いた高分子溶液(ドープ液)組成を表 3.1 に示す。膜作製法お
よび膜の特性評価法の詳細は文献 4 のとおりである。作製した 5 種類の PVDF 中空糸膜 A
~E と市販の PTFE 膜の外表面、内表面、断面の SEM 写真を図 3.2 に示す。製膜条件等に
よって内表面、外表面の多孔度、構造が著しく異なることが観察された。本研究では、内
表面の多孔度は内部流体として溶媒または窒素を用いることにより制御し、外表面の多孔
度は、空気ギャップを一定に保って凝固浴(水浴)温度を変化させることにより制御した。
Mixer
TIPS
N2
Spinneret
0.6mm
Polymer: PVDF (Mw=322,000)
Solvent: Glycerol Triacetate
Nonsolvent: Glycerol
Heater
0.6mm
0.83mm
te
Gear
pump
Air gap (mm)
5
Bath temperature (℃)
0-50
Glycerol concentrations (wt%) 10
1.58mm
PVDF concentrations (wt%)
Bore liquid
Bore fluid
Air gap
Water quench bath
30-33
Solvent
N2
Take up winder
図 3.1 熱誘起相分離法(TIPS 法)による中空糸膜作製法の概念図および製膜条件
-217-
表 3.1
TIPS 法による中空糸膜製膜条件および作製した膜の透水性能
Membrane
Bore
fluid
PVDF
(wt%)
Triacetin
(wt%)
Glycerol
(wt%)
Bath T
(0C)
Air gap
(mm)
Water
permeability
A
Solvent
30
70
10
50
5
316
B
solvent
33
57
10
50
5
190
C
N2
30
60
10
0
5
40
D
N2
30
60
10
50
5
145
E
N2
33
57
10
50
5
112
A1
A2
D1
D2
B1
B2
E1
E2
C1
C2
F1
F2
図 3.2 TIPS 法により作製した PVDF 中空糸膜(A~E)および市販 PTFE 膜(F)の内表面(1)
および外表面(2)の SEM 写真
3.1.2
メンブレン・コンタクターによるプロピレンの吸収
実験装置の模式図を図 3.3 に示す。フィードガスは純度 99%のプロピレン、吸収液には
1M、2M、4M の硝酸銀水溶液を用いた。吸収液は中空糸膜のルーメン側に、ガスはシェル
側に供給した。ガス流量はマスフローコントローラーを用いて制御した。温度は 25℃、ガ
スの圧力は大気圧である。プロピレンの吸収
Liquid level controller
速度は、モジュール入口、出口でのプロピレ
Membrane module
ンの流量を石鹸膜流量計を用いて測定し、そ
Hollow fiber
membrane
の差より求めた。
一方、メンブレン・コンタクターを用いて
プロピレンを硝酸銀水溶液中に吸収する場合
MFC
の吸収速度を推算するモデルを開発した。吸
Gas flow meter
収液がルーメン側、プロピレンがシェル側を
流れ、膜が吸収液で濡れず、細孔はガスで満
たされており、シェル内および膜細孔内のプ
ロピレンの物質移動抵抗は無視でき、さらに、
膜内側の全面積が気液接触に有効であるとい
う仮定の下で、Shell-and-tube 型のメンブレ
-218-
2
Absorbent
Spent
absorbent (Silver nitrate
solution)
Propylene
図 3.3 メンブレン・コンタクターによ
るプロピレン吸収実験装置の概念図
ン・コンタクターの微小部分での 2 次元物質収支式を解くことにより中空糸膜内の濃度分
布を求め、中空糸膜一本当たりのプロピレン吸収速度 QA (mol/s per fiber)および平均吸収流
束 JA を計算した。なお、計算ではプロピレンの物理溶解、銀イオンとの錯形成平衡反応、
および硝酸銀の解離平衡を考慮した。
図 3.4 にモジュール入口からの種々の距離における液相内のプロピレンおよび銀イオン
の半径方向濃度分布の計算結果を示す。なお、中空糸膜は PTFE 膜である。吸収液が中空
糸膜内を上昇するに従ってプロピレンが液の中心部に浸透していくことがわかる。気液界
面における銀イオン濃度は、銀イオンが反応により消費されるために次第に低下するが、
その低下の程度は小さく、中心部の濃度から約 18%しか低下していない。これは錯形成反
応が可逆反応であることに起因する。また、銀イオンとプロピレンの濃度分布がほぼ正反
対となっていることがわかる。本系の反応は非常に迅速であるので、プロピレンの吸収は
0
0.2
0.4
0.6
0.8
0
1
0.2
0.4
0.6
0.8
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
Propylene concentration (mol/m3)
1
0.2
0.4
0.6
0.8
(b)
0
Dimensional axial distance (z/Z)
Ag+ concentration (mol/m3)
900 950 1000 1050 1100 1150
1
0.2
0.4
0.6
0.8
(a)
0
Dimensional axial distance (z/Z)
銀イオンによる瞬間可逆反応を伴う吸収と見なされ、液相全域で化学平衡が成立している。
1
Dimensional radial distance (r/R)
Dimensional radial distance (r/R)
図 3.4 中空糸膜モジュール内の吸収液中における(a)硝酸銀および(b)プロピレン濃度分
Propylene flux [mol/(m2s)]
布.硝酸銀濃度:2000 mol/m3, 吸収液流量:12.4 mL/min.
1.8E-02
1.5E-02
Observation
Calculation
1.2E-02
9.0E-03
6.0E-03
3.0E-03
0.0E+00
A(0.72)
B(0.81)
C(0.65) D(0.75) E(0.93) PTFE(1)
Membrane module
図 3.5 膜 A~F を備えるモジュールによるプロピレン吸収速度
一方、図 3.2 に示した各々の膜を用いたプロピレン吸収実験結果およびモデルに基づく
計算結果を図 3.5 に示す。図に示されているように、膜内表面の多孔度が大きい膜 A、B、
D、PTFE 膜では、高い吸収流束が得られ、多孔度の小さい膜 E や外表面が緻密なスキン
層に覆われている膜 C では吸収流束がやや小さい。また、膜 C を除き、実験結果と計算結
-219-
果は良く一致している。モデル計算では膜の全ての内表面積がガス吸収に有効であるとし
たが、本実験結果よりこの仮定は妥当であることが確認できた。すなわち、図 3.4 に示す
ように、中空糸膜内部を流れる吸収液内に形成される濃度拡散層または濃度境界層の厚み
は約 100m であり、膜内面の隣り合う細孔間の平均距離よりもはるかに大きい。従って、
膜内面の細孔の開孔部で液に溶解したプロピレンと生成した錯体は膜に沿って速やかに拡
散し、プロピレンと錯体は膜の全内面から一様に液の内部へと拡散する。よって、全膜面
積が気液接触に有効に機能することになる。
3.1.3
吸収と放散の一体化モジュールによるプロピレンの分離
実験装置の模式図を図 3.6 に示す。原料ガスはプロピレン/プロパン混合ガスであり、
それぞれの流量をマスフローコントローラーで調節し、吸収モジュールのシェル側に供給
した。硝酸銀水溶液は定量ポンプにより吸収モジュールの底部から膜内側に供給した。モ
ジュール上部から排出するリッチ溶液は放散モジュールの底部から膜内側に供給し、上部
から排出するリーン溶液は液貯槽に循環した。放散モジュールのシェル側には所定流量で
N2 をスイープガスとして供給し、ルーメンを流れるリッチ溶液から溶存ガスを放散させた。
吸収モジュールおよび放散モジュールから排出するガス組成はガスクロマトグラフを用い
て測定した。図 3.7 に純プロピレン吸収速度の経時変化の一例を示す。実験初期では硝酸
銀水溶液はプロピレンをほとんど吸収していないので吸収速度は非常に大きいが、吸収液
中のプロピレン-銀錯体の濃度は時間とともに増加するので、吸収速度は次第に低下する。
他方、プロピレンの放散速度については、実験初期では液中のプロピレン濃度が低いため
に小さいが、溶存プロピレン濃度の増加とともに増大し、最終的には吸収モジュールでの
吸収速度と等しくなって定常状態に達する。本実験条件では約 4 時間で定常状態に達した。
また、液流量を増すほど、定常状態に達するまでに要する時間は短くなった。本研究では、
吸収と放散の一体化モジュールを用いたプロピレン/プロパンの分離に関して、原料ガス
中のプロピレン分率、吸収液の流量、銀イオン濃度、および操作温度など、種々条件にお
けるプロピレン選択分離性を検討した。図 3.8 に一例として、原料ガス組成がプロピレン
Vent
Absorption
GC
module
Gas flow
meter
Liquid level
controller
Rich
solution
Gas flow
meter
Vent
GC
Desorption
module
MFC
MFC MFC
Sampling
port
C3H6
C3H8
Lean
solution Absorbent
reservoir
N2
Propylene absorption flux [mol/(m2 s)]
分離性に及ぼす影響を示す。
0.008
0.006
0.004
0.002
0
0
吸収速度
放散速度
1
2
3
Time [h]
4
5
図 3.6 吸収・放散一体化モジュールの概
図 3.7 吸収・放散一体化モジュールのプ
略図
ロピレン吸収速度、放散速度の経時変化
-220-
2
Absorption flux [mol/(m s)]
100
0.003
500
0.001
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
プロピレンの比率 [-]
99.8
純度 [%]
0.002
Selectivity [-]
1000
99.6
99.4
0
0
1
0.2
0.4
0.6
0.8
プロピレンの比率 [-]
1
図 3.8 混合ガス中プロピレン分率がプロピレン分離性に及ぼす影響
3.2
含浸液膜法
3.2.1
含浸液膜の作製
本研究ではイオン液体含浸促進輸送膜と、その比較検討のために硝酸銀水溶液を含浸し
た硝酸銀水溶液含浸膜を使用した。各々所定の硝酸銀濃度に調整した硝酸銀水溶液あるい
は所定の Ag 塩濃度となるように調整したイオン液体溶液を調製した。なおイオン液体含
浸促進輸送膜の作製では Silver bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(AgTf2N)、Silver trifluoromethanesulfonate(AgTfO)、および Silver tetrafluoroborate(AgBF4)をキャリアとして使用
した。これら 3 種類のキャリアは各々のアニオン部が使用するイオン液体と同じになる組
み合わせでイオン液体に溶解した。使用したイオン液体のカチオン部およびアニオン部の
構造は図 3.9 に示すとおりである。
調製したキャリア液に親水性 PTFE 多孔膜を浸漬し、親水性 PTFE 膜の細孔内にキャリ
ア液を含浸させた。その後、キャリア液が含浸された親水性 PTFE 膜をキャリア液から取
りだし、その表面に付着した余分なキャリア液をふき取ることで促進輸送膜を作製した。
3.2.2
イオン液体含浸促進輸送膜によるプロピレン選択透過性
ガス分離試験装置の概略図を図 3.10 に示す。まず、膜を組み込んだガス透過セルを恒温
槽中にセットした。透過セルのフィード側にプロピレン/プロパン混合ガスを供給し、透
過側にはスイープガス(He)を供給した。膜を透過したガスを含むスイープガスをガスク
ロマトグラフで分析し、その組成から透過性能(プロピレン透過速度、プロパン透過速度、
プロピレン/プロパン選択性)を算出した。本研究では、プロピレン選択透過性に及ぼす温
度、キャリア濃度、膜厚、および原料ガス組成について検討を行った。
(a) カチオン部
Emim+
Bmim+
BF4-
Tf2N-
Hmim+
(b) アニオン部
TfO-
図 3.9 イオン液体含浸促進輸送膜作製に用いたイオン液体の構造式
-221-
[10-6] 8
MFC
MFC
GC
ガス分析
MFC
冷却水槽
ガス透過セル
C3H6
C3H8
He
C=C-C(AgNO3)
C-C-C(AgNO3)
Selectivity(AgNO 3)
C=C-C(EmimTf 2N)
C-C-C(EmimTf 2N)
Selectivity(EmimTf 2N)
6
4
101
2
0
0
図 3.10 ガス透過性能評価装置の概略図
102
Selectivity[-]
恒温水槽
膜
Permeance
[mol/(m2・s・kPa)]
排気
冷却水槽
10
20
30
40
Time [min]
50
100
60
図 3.11 イオン液体含浸促進輸送膜と硝酸
銀水溶液含浸膜の比較
まず、イオン液体含浸促進輸送膜の性能が長時間保持されるかどうかを確かめるために、
安定性試験を行った。試験では溶媒として Emim[Tf2N]、キャリアとして AgTf2N を溶解し
たイオン液体含浸促進輸送膜を用いた。また、比較対象として硝酸銀水溶液を含浸した促
進輸送膜を用いた。実験結果は図 3.11 に示すとおりである。図にみられるように、硝酸銀
水溶液含浸膜はプロピレン透過速度およびプロパン透過速度ともに、試験開始後約 20 分で
急激に増大している。また、プロピレン/プロパン選択性についても、約 20 分後から急激
に減少した。これは硝酸銀水溶液の溶媒である水が揮発し、膜に欠陥が生じたためである。
一方、イオン液体含浸促進輸送膜は試験開始から 1 時間程度経過した後もプロピレン透過
速度、プロパン透過速度およびプロピレン/プロパン選択性はほぼ一定値を保っている。
これはイオン液体がほとんど揮発しないためである。以上より、イオン液体を用いること
で含浸膜の最大の問題点である溶媒揮発に伴う膜の劣化を改善できた。
次に、イオン液体含浸促進輸送膜のプロピレン選択透過性に及ぼす操作条件(温度、原
料ガス組成)および膜の物性(キャリア濃度、膜厚)の影響について述べる。図 3.12 およ
び図 3.13 には一例として、プロピレン選択透過性に及ぼす温度およびキャリア濃度の影響
を示した。検討結果より、温度およびキャリア濃度が高く、また、原料ガス中プロピレン
図 3.12
20
2.0E‐6
C3H6/C3H8 selectivity
C3H6 permeance (mol/(m2skPa))
分率および膜厚が小さいほどプロピレンの選択的透過には有利である傾向が得られた。
1.5E‐6
1.0E‐6
30
40
50
60
5.0E‐7
℃
℃
℃
℃
(a)
(b)
15
10
30
40
50
60
5
℃
℃
℃
℃
0
0.0E+0
0
20
40
60
0
20
40
60
Time (min)
Time (min)
(Emim,Ag)[Tf2N]含浸膜に対する(a)プロピレン透過速度および(b)プロピレン/
プロパン選択性の温度依存性
-222-
20
AgTf2N 0M
AgTf2N 0.25M
AgTf2N 0.5M
AgTf2N 1.0M
(a)
1.5E‐6
C3H6/C3H8 selectivity
C3H6 permeance (mol/(m2skPa))
2.0E‐6
1.0E‐6
5.0E‐7
AgTf2N 0M
AgTf2N 0.25M
AgTf2N 0.5M
AgTf2N 1.0M
(b)
15
10
0.0E+0
5
0
0
20
40
60
0
20
40
60
Time (min)
図 3.13
Time (min)
(Emim,Ag)[Tf2N]含浸膜に対する(a)プロピレン透過速度および(b)プロピレン/
プロパン選択性のキャリア濃度依存性
一方、イオン液体含浸促進輸送膜のプロピレン透過速度に及ぼすイオン液体およびキャ
リアのアニオン種の影響についても検討を行った。検討したアニオン種ではプロピレン溶
解性が大きい BF4-が最も優れたプロピレン選択透過性を有する(プロピレン透過速度:4
×10-6 mol/(m2skPa)、プロピレン/プロパン選択性:約 100)ことが分かった。
3.3
プロピレン/プロパン分離所要エネルギー試算
吸収と放散を一体化したメンブレン・コンタクターによるプロピレン/プロパン分離エ
ネルギーの予備的試算を行った。プロピレン 70 mol%、プロパン 30 mol%の組成を有する
原料ガスに対してプロピレン回収率 98.5%以上、回収プロピレン純度 98.5%以上となる目
標条件を達成するために必要な分離エネルギーを概算した。その結果、回収プロピレンを
100 kPa から 1,400 kPa に圧縮するために必要な電気エネルギーとして 230 MJ/ton-C3H6、放
散モジュールでのプロピレン・銀錯体の分解反応のエンタルピーから概算される放散モジ
ュールへの熱供給にかかるエネルギーとして 605 MJ/ton-C3H6、トータルで 835 MJ/ton-C3H6
のエネルギーが必要であるとの結果を得た。すなわち、蒸留法と比較すると約 74%のエネ
ルギー削減効果が期待できることが示された。
一方、イオン液体含浸促進輸送膜を用いた膜・蒸留ハイブリッド方式によるプロピレン
の分離、精製について所要エネルギーの試算を行った。検討では、まず膜モジュールによ
りプロピレンを分離、回収し、膜分離モジュールで回収できなかったプロピレンを含むプ
ロピレン/プロパン混合ガスを蒸留により分離するプロセスに対して所要エネルギー試算
を行った。なお、試算ではイオン液体含浸促進輸送膜のプロピレン透過速度は 4×10-6
mol/(m2skPa)、プロピレン/プロパン選択性は 100、蒸留法によるプロピレン回収率および
プロピレン純度は各々100%として試算を行った。また、蒸留法の所要エネルギーは 3,180
MJ/ton-C3H6 を用いた 1。プロピレン 70 mol%、プロパン 30 mol%の原料ガスに対して純度
98.5%以上でプロピレンを回収するためには、膜分離により回収されるプロピレンの純度
が目的純度以上である必要がある。検討の結果、膜面積が 7,500 m2 の膜モジュールによる
プロピレン回収率は 87.6%、回収ガス中プロピレン純度は 98.7%となることがわかった。
また、プロピレン/プロパン分離にかかる全動力は約 500 kW、エネルギーに換算すると約
600 MJ/ton-C3H6 となった。以上より、ハイブリッドプロセスで処理する場合、蒸留法に対
して約 81%のエネルギー削減効果が期待できることが示された。
-223-
以上、メンブレン・コンタクター法およびイオン液体含浸促進輸送膜モジュールと蒸留
法のハイブリッドプロセスによるプロピレン/プロパン分離所要エネルギーを表 3.2 にま
とめた。
表 3.2 イオン液体含浸促進輸送膜モジュールと蒸留法のハイブリッドプロセス、メンブレ
ン・コンタクター法および蒸留法によるプロピレン/プロパン分離所要エネルギー
所要エネルギー
所要エネルギー内訳
イオン液体含浸膜法
(蒸留法とのハイブリッド)
616 MJ/ton-C H
3
その他
3
6
回収ガス圧縮エネルギー
230 MJ/ton-C H
蒸留法所要エネルギー
395 MJ/ton-C H
放散モジュールへの熱供給
605 MJ/ton-C H
19.4%
26.3%
膜性能改善により
大幅な削減可能
膜の安定性 高
吸収剤の改良により多少の
削減が見込まれる
吸収液溶媒の揮発
3
所要エネルギー削減の可能性
835 MJ/ton-C H
6
膜分離回収ガス圧縮エネルギー
221 MJ/ton-C H
3
蒸留法所要エネルギー(3,180MJ/ton-C3H6)
とのエネルギー比
メンブレン・コンタクター法
6
6
3
3
6
6
4.まとめ
本研究では、銀イオンとプロピレンの選択的な反応を利用した膜分離法によるプロピレ
ン/プロパンの分離について、メンブレン・コンタクター法およびイオン液体含浸促進輸
送膜に関する検討を行った。
メンブレン・コンタクター法については、TIPS 法により様々な細孔構造を有する PVDF
中空糸膜を作製し、それらを用いることで吸収液に濡れにくい中空糸膜を得るとともに、
プロピレン吸収に及ぼす至適細孔構造に関する指針を得た。また、プロピレン吸収速度モ
デルを提案するとともに、モデル計算からメンブレン・コンタクター法に対するプロピレ
ン吸収機構を明らかにした。さらに、吸収と放散を一体化したモジュールを作製し、プロ
ピレンを連続的に分離、回収できることを明らかにした。
一方、イオン液体含浸促進輸送膜を用いた検討では、蒸気圧が無視できるほど小さいイ
オン液体を用いることで、含浸膜の最大の欠点である吸収液の溶媒揮発による膜の劣化を
抑制できることを示した。また、プロピレン透過速度に及ぼす種々因子の影響について検
討し、プロピレン選択分離に好適な膜物性およびプロセス操作条件に関する指針を得た。
また、各々の膜分離法に対してプロピレン分離プロセスに係るエネルギー試算を行い、
両手法とも蒸留法に比べて非常に高いエネルギー効率を有していることを確認した。
以上の結果より、膜分離法はプロピレンの分離精製法として非常に有効であることが示
された。
参考文献
1. 新日石総研,本プロジェクト平成 19 年度報告書 (2008)
2. R. B. Eldrige, Ind. Eng. Chem. Res., 32, 2208-2212 (1993)
3. D. J. Safaric and R. B. Eldridge, Ind. Eng. Chem. Res., 37, 2571- 2258 (1998)
4. S. Rajabzadeh et al., Separ. Purif. Technol. 63, 415-423 (2008)
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