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肺病変を合併した Acute febrile neutrophilic

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肺病変を合併した Acute febrile neutrophilic
206
日呼吸会誌
●症
38(3)
,2000.
例
肺病変を合併した Acute febrile neutrophilic
dermatosis(Sweet 症候群)の 1 例
今永 知俊
林
俊成
吉井 千春
鈴木 信一
矢寺 和博
城戸 優光
要旨:肺病変を合併した Sweet 症候群の 1 例を経験した.症例は 55 歳男性で,2 年前に Sweet 症候群と
診断され以後ステロイドの経口投与を受けていた.1998 年 9 月中頃より発熱,咳嗽を自覚.同時期の胸部
X 線写真では,右上下肺に浸潤影を認め,両肺には線状網状影がみられた.胸部 CT 写真では両肺にびまん
性に浸潤影とスリガラス状陰影が認められた.種々の抗生剤や抗真菌剤の投与によっても,症状は改善せず,
画像所見は悪化した.喀痰検査,気管支洗浄液検査では,細菌,抗酸菌,真菌は全て陰性であった.経気管
支肺生検にて,軽度の慢性間質性炎症所見と肺胞腔内にも炎症細胞浸潤が認められた.肺病変の悪化に平行
して皮膚病変も悪化し,皮膚病変に対して用いられたステロイドの局所注射の追加により肺病変も改善した.
Sweet 症候群の肺病変合併例は非常に稀であり報告した.
キーワード:Sweet 症候群,胸部 CT 写真,経気管支肺生検
Acute febrile neutrophilic dermatosis(Sweet's syndrome),Chest computed tomography,
Transbronchial lung biopsy
はじめに
Acute febrile neutrophilic dermatosis(Sweet 症候群)
は比較的稀な原因不明の皮膚疾患であるが,一部は悪性
腫瘍や血液疾患に合併すると言われている.一方,皮膚
以外の臓器の病変の合併については,肺,肝,腎,神経
などが報告されているが1)2),これらはいずれも極めて稀
である.また肺病変を合併する例では血液疾患を基礎疾
患に持つものが多い.今回我々は基礎疾患のない Sweet
症候群症例で肺病変の合併を経験したので報告する.
症
例
症例:55 歳,男性.
Fig. 1 Photomicrograph of skin biopsy specimen showing neutrophilic infiltrate with leukocytoclasis in the upper dermis.
主訴:発熱,咳嗽.
既往歴:52 歳,左下肢深部静脈血栓症.
あるため,1998 年 1 月当院皮膚科紹介入院,皮膚生検
職業歴:自動車整備士.
が行われた.
生活歴:喫煙歴:タバコ 20 本 日 20∼52 歳,飲酒歴:
機会飲酒.
家族歴:特記事項なし
皮膚科入院時皮膚生検(Fig. 1):真皮上層に核破砕
像を伴う好中球を主体とする細胞浸潤を認める.
皮膚生検所見, 検査所見等より Sweet 症候群と診断,
現病歴:52 歳頃より,発熱および全身にそう痒を伴
経口ステロイド(プレドニゾロン換算 10∼40 mg)に加
う紅斑が現れ, 近医にて Sweet 症候群の診断をうけた.
えコルヒチン,サルファ剤等の投与を行うも皮疹はコン
同医にてステロイドの内服投与を受けるが減量が困難で
トロール困難であった.また,悪性腫瘍の検索や血液疾
〒807―0804 北九州市八幡西区医生ケ丘 1―1
産業医科大学呼吸器病学
(受付日平成 11 年 7 月 14 日)
患の除外のため全身検索,骨髄検査,染色体検査など行
われたが,異常は認められなかった.1998 年 9 月中頃
より発熱,咳嗽,炎症所見の悪化が認められ,胸部 X
Sweet 症候群の肺病変
207
Table 1 Laboratory Findihgs
Urinalysis
CBC
WBC
Seg
Stab
Eos
Lym
Mono
Myelo
Metamyelo
RBC
Hb
Plt
Coagulation
PT
APTT
Fibrinogen
AT-3
W. N. L
5,700 /μl
69 %
13 %
1%
12 %
2%
2%
1%
210×104 /μl
10.6 g/dl
16.8 ×104 /μl
12.3 sec
36.4 sec
603 mg/dl
98 %
Biochemistry
TP
Alb
T-bil
AST
ALT
LD
ALP
γ-GTP
T-CHO
TG
BUN
Cre
Na
K
Cl
Ca
P
UA
ChE
Serology
CRP
RA
ANA
HTLV-1
HIV
HBsAg
HCV-Ab
Aspergillus Ag
Candida Ag
β-D-glucan
CMV Ag
ESR
Blood gas
PH
PaO2
PaCO2
BE
HCO3
5.4 g/dl
2.8 g/dl
0.6 mg/dl
100 IU/l
210 IU/l
408 IU/l
464 IU/l
319 IU/l
135 mg/l
55 mg/dl
10 mg/dl
0.7 mg/dl
136 mEq/l
3.3 mEq/l
96 mEq/l
8.0 mg/dl
2.8 mg/dl
3.6 mg/dl
54 IU/l
19.6 mg/dl
(−)
≦×20
(−)
(−)
(−)
(−)
(−)
<×2
8.2 pg/ml
(−)
100 mm/hr
7.45
68 torr
37.9 torr
3.2
26.6 mmol
Fig. 3 Chest CT scan showing ground-glass opacity
with non-segmental patchy infiltrates in both lungs.
Hb 10.6 g dl と軽度の貧血が認められ,赤血球沈降速度
Fig. 2 Chest radiograph(September 21, 1998)showing
reticular and nodular infiltrates in both lungs.
は 97 mm と亢進していた.CRP 16.9 mg dl と炎症反応
が高値を示していた.生化学検査では,肝機能障害が認
められ,総蛋白,アルブミンの軽度低下が認められた.
血液ガス所見では PaO2 68 torr,PaCO2 37.9 torr と低酸
線にて両側上肺野を中心に多発する浸潤影,またびまん
性に線状網状影が現れたため当科紹介となった.
素血症を認めた.
当科初診時胸部単純 X 線写真(Fig. 2)
:両中下肺野
身体所見:身長 171 cm,体重 70 kg,体温 38.9℃,血
を中心に網状,線状陰影を認めた.また,両上中肺野に
圧 125 64 mmHg,心拍数 88 回 分整,呼吸数 18 回 分.
は斑状の浸潤影も認められた.右下肺野には 1998 年 2
球結膜:黄疸,貧血なし.表在リンパ節:触知せず.
月に発症した緑膿菌肺炎の後遺症としての巨大
呼吸音:両肺で fine crackle を聴取.心音:整.腹部:
胞陰影
を認めた.
特記所見なし.四肢;チアノーゼ,浮腫なし.皮膚:頸
当科初診時胸部 CT 写真(Fig. 3)
:両肺野中枢側にス
部,前胸部,上背部を中心に母指頭大の淡紅色結節を認
リガラス状陰影を認め,またびまん性に境界不鮮明な斑
める.
状影が認められた.胸水,縦隔リンパ節腫大は認められ
当科初診時検査所見(Table 1)
:末梢血検査所見では,
なかった.
208
日呼吸会誌
38(3),2000.
Clinical course
Fig. 4
経過(Fig. 4)
:当科初診まで,約 2 年間にわたってプ
レドニゾロン 10∼40 mg 日の投与を受けていたため感
染症を疑い,セフタジジム,イセパマイシン,ミノマイ
シンの投与を開始した.喀痰細菌学的検査は,細菌,抗
酸菌,真菌いずれも検出されなかった.血清学検査では
β―D―グルカン,カンジタ抗原,アスペルギルス抗原,
サイトメガロウイルス抗原などの測定を行ったが全て異
常を認めなかった.前記の抗生剤の投与にも関わらず,
胸部 X 線にて陰影はむしろ悪化するため,エリスロマ
イシン,イミペミム シラスタチン,フルコナゾールへ
変更したが,改善しないため 1998 年 10 月 7 日経気管支
肺生検,気管支洗浄を行った.
経気管支肺生検(Fig. 5)
:肺胞隔壁にはリンパ球を主
体に好中球,わずかの好酸球の軽度の浸潤を認め間質性
Fig. 5 Photomicrograph of transbronchial lung biopsy
specimen showing chronic interstitial inflammation
and inflammatory exudate in bronchiolo-alveolar tissue.
肺炎の所見であった.肺胞腔内には泡沫化した組織球な
どによる滲出物が認められた.気管支洗浄液の一般細菌
培養,抗酸菌染色・培養,
真菌培養はいずれも陰性であっ
た.
考
察
Acute febrile neutrophilic dermatosis(Sweet 症候群)
抗生剤,抗真菌剤の投与にも関わらず,肺病変は改善
は,Sweet によって 1964 年に提唱された比較的新しい
しなかった.また,皮疹も悪化したため,経口のプレド
疾患概念3)で急性の発熱,白血球増多を伴い,病理組織
ニゾロンに加えトリアムシノロン 16 mg の皮膚病変へ
学的には真皮中層に著明な好中球浸潤を来す皮疹を特徴
局所注射が追加され,皮膚病変とともに肺病変も改善し
とする.中年女性に好発し,主に顔面,頸部,四肢に有
た.
痛性隆起性紅斑または結節をつくる.原因は不明である
が,約 10∼20% は膠原病類縁疾患や白血病,癌などの
悪性腫瘍に合併するとされている.Sweet 症候群に肺,
Sweet 症候群の肺病変
209
腎,神経などに病変を合併したとの報告はあるが,いず
いてはまだ検討の余地があるが,今後症例が集積され,
れも極めて稀である.呼吸器病変についての最初の報告
病像がさらに明らかになってくると思われる.
は,Gibson ら4)が原因不明の骨髄過形成がある Sweet
謝辞:本症例に関して貴重なご教示を頂いた当院皮膚科国
症候群の患者に肺病変の合併した症例でステロイドの局
場尚志先生,田尻美保先生,第 1 病理笠井孝彦先生に深謝い
所注射で皮膚病変と肺病変の改善がみられたと報告して
たします.
いる.また,Lazarus ら5)は急性骨髄性白血病を基礎疾
患に発症した症例に合併した肺病変の開胸肺生検の組織
本論文の要旨は第 42 回日本呼吸器学会九州地方会(1999
年 6 月,佐世保)にて発表した.
像を報告しているが,軽度の線維化を伴う慢性の間質性
文
肺炎と著明な肺胞腔内の好中球浸潤を認めたとしてい
る.その後,呼吸器病変についていくつかの報告があり,
気管支にも同様の病変が報告されている6).経気管支肺
7)
8)
生検で診断さ れ た 例 も 含 め,こ れ ら の 報 告 の 中 で
献
1)Fett DL, Lawrence E, Gibson, et al : Sweet’
s syndrome : Systemic signs and Symptoms and associated disorders. Mayo Clin Proc 1995 ; 70 : 234―240.
Sweet 症候群の肺病変の組織像の特徴は間質や肺胞腔内
2)von den Driesch P : Sweet’
s syndrome(Acute fe-
への好中球浸潤であり,皮膚所見に類似しているとされ
drile neutrophilic dermatosis).J Am Acad Dermatol
1994 ; 31 : 535―556.
ている.
一方,Fett ら1)は 48 例の Sweet 症候群の患者のうち
5 例に肺病変を認めたと報告しているが,開胸肺生検が
行われた 2 例のうち皮膚筋炎に合併した肺病変の組織像
は Mixed cellular interstitial pneumonitis と報告してい
3)Sweet RD : An acute febrile neutrophilic dermatosis. Br J Dermatol 1964 ; 76 : 349―356.
4)Gibson LE, Dicken CH, Flach DB : Neutrophilic dermatoses and myeloproliferative disease : report of
two cases. Mayo Clin Proc 1985 ; 60 : 735―740.
る.さらに基礎疾患のない Sweet 症候群の患者に bron-
5)Lazarus AA, McMillan M, Miramadi A : Pulmonary
chiolitis obliterans organizing pneumonia の合併例も報
involvement in Sweet’
s syndrome(Acute fedrile
告されている9).本症例は好中球の浸潤はさほど目立た
neutrophilic dermatosis).Chest 1986 ; 90 : 922―924.
ず,リンパ球を主体に好中球,好酸球などの細胞浸潤が
6)Thurnheer R, Stammberger U, Hailemariam, et al :
認められたため,Sweet 症候群の肺病変であるとの判断
Bronchial manifestation of Acute fedrile neutro-
が困難であった.しかしながら,多核球の浸潤が目立た
10)
なかったとする報告もあり ,Sweet 症候群の肺病変に
は多様な病像があり得るのではないかと思われる.皮膚
病変が陳旧化するとリンパ球,組織球の浸潤が増すと言
われているが,肺病変においても時相により組織上の変
化があるのかもしれない.肺病変の合併は基礎に血液疾
患を有するものが多いが3)5)8)10)11),本症例では骨髄検査,
染色体検査などで異常は認められなかった.本症例は肺
philic dermatosis(Sweet’
s syndrome)
. Eur Respir
J 1998 ; 11 : 978―980.
7)Bourke SJ, Quinn AG, Farr PM, et al : Neutrophilic
alveolitis in Sweet’
s syndrome. Thorax 1992 ; 47 :
572―573.
8)Komiya I, Tanoue K, Kakinuma K, et al : Superoxide
anion hyperproduction by neutrophils in a case of
myelodysplastic syndrome. Cancer 1991 ; 67 : 2337―
2341.
病変とともに皮膚病変も悪化し,治療により改善した.
9)Chien SM, Jambrosic J, Mintz S, et al : Pulmonary
これは 2 つの病変の関係を推察する根拠の 1 つである
manifestations in Sweet’
s syndrome : first report of
が,過去の報告をみると必ずしもその経過は一致しない
a case with bronchiolitis obliterans organizing pneu-
ようである.以上のことから,Sweet 症候群に肺病変を
monia. Am J Med 1991 ; 91 : 553―554.
見た場合,広域の抗生剤や抗真菌剤に不応性で,細菌,
10)Hatch ME, Farber SS, Superfon NP, et al : Sweet’
s
真菌,抗酸菌など感染症の検索を行っても陰性で,なお
syndrome associated with chronic myelogenous leu-
かつステロイド投与により改善するものは原疾患との関
kemia. J Am Osteopath Assoc 1989 ; 89 : 363―370.
係を考慮する必要がある.本症例は人工呼吸管理を必要
とするほどの呼吸不全には陥らなかったが,重篤な呼吸
不全を来した報告もあり6)11)12),その治療には速やかな対
応が必要である.組織学的にも,また臨床経過からも感
染症との鑑別が困難である症例が多いが,前記の事を念
頭に置いて加療に当たることが重要である.組織像につ
11)Takimoto CH, Warnock M, Golden JA : Sweet’
s syndrome with lung involvement. Am Rev Respir Dis
1991 ; 143 : 177―179.
12)Silverman MA, Datner EM, Jolly BT : A case presentation of Sweet’
s syndrome and discussion of lifethreatening dermatoses. Am J Emerg Med 1996 ;
14 : 165―169.
210
日呼吸会誌
38(3)
,2000.
Abstract
Pulmonary Involvement in Acute Febrile Neutrophilic Dermatosis(Sweet’
s Syndrome)
Tomotoshi Imanaga, Toshinari Hayashi, Chiharu Yoshii, Shinnichi Suzuki,
Kazuhiro Yatera and Masamitsu Kido
Department of Respiratory Disease, University of Occupational, Environmental and
Health, 1―1, Iseigaoka, Yahatanishi-ku, Kitakyushu, Japan
We encountered a 55-year-old man with pulmonary involvement in acute febrile neutrophilic dermatosis
(Sweet’
s syndrome)
. He had been treated with steroids for Sweet’
s syndrome for 2 years, and on September
17,1998 presented with a cough and a fever of 38.9℃.Physical examination revealed fine crackles at the bases of
both lungs. Chest radiography and computed tomography demonstrated reticular and nodular infiltrates in both
lungs. Treatment with a variety of antibiotic agents and an antifungal agent was not effective. Sputum culture
was sterile and bronchial washings were negative for infectious pathogens. Transbronchial biopsy revealed a mild
chronic interstitial infiltrate and an inflammatory exudate in bronchiolo-alveolar tissue. The pulmonary lesions
and cutaneous lesions were resolved by intradermal injections of triamcinolone acetonide in addition to oral prednisolone. Although the apparent neutrophilic infiltrates cited by earlier reports were not observed in transbronchial biopsy specimens, the clinical course in this case suggested that our patient had Sweet’
s syndrome with pulmonary involvement.
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