GL Bursill-Hall, Sten Ebbesen and EF Konrad Koerner (eds.): De
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GL Bursill-Hall, Sten Ebbesen and EF Konrad Koerner (eds.): De
140 中世思想研究36号 エ リウゲナの思想 に 関す るヨーク(York)大学の M・へレン( Herren )とパ リの 国立科学研究所のE・ ジョノー(Jeauneau )の論文 は , そ れ ぞ れ エ リウゲナの詩 的作 品の源泉と形態及びヨハネ福音書の序 文 に関す る エ リウダナの説 教の後代の解説集と 引用を考察して い る. G. L. Bursill-Hall, Sten Ebbesen and E. F. Konrad Koerner (eds.): De ortu grammaticae. Studies in medieval grammar and linguistic theory in memory 01 Jan Pinborg. Amsterdam, 1990, pp.x+372. 加 藤 雅 人 本 書 は , その題名 にもあるとおり , 中世の言語論・ 論理学研究の第 一人 者でありな が ら1982年 に 享年 45歳 の若さで 亡くなったJan Pin borg( 1937 -1982 ) への追悼 論文 集で , い わゆ る「アム ス テ ルダム言語学研究叢書」のStudies in the History 01 the Language Sciencesシ リーズの一冊として刊行されて い る. 編集責任 を負うの は , 同シ リーズの監修 者KonradKoerner(Univ. o f‘Ottawa ) , 思弁文法学の研究 で有名 なG. L. Bursil I.H al I(Simon 也Fraser Univ. V ancourver , B. C. ) , 故人の同 僚 で 共同 研究者として も知 ら れ る StenEbbesen(Univ. of Copen hagen )の3 人で , その他20名 が論文 を 寄稿 して い る. 以下の文章は , ( 1 )Ebbesen に よる P in borg の 人物 につ いての回想記 , (2 ) Bursil I-H al I に よる Pin borg の業績 につ いての解説 文 , (3)寄稿論文の概観 , ( 4 )書評者の コ メントの 順 に 進 め ら れ る. (1 ) E bbesen の回想記(pp. 2 -5 ) に よれ ば , Pin borg は デンマ}クで生まれ , 同 悶 で教育を受け , 同 国出身の中世の ス コラ学者の未刊著作 の編集と研究のため に , そ の短 い 人生の約半分 を Univ . of Copen ha gen で 過ご した. 彼は大学で い わゆるタラ シシ ス ト(a c Iassicist )としての訓練 を受けたが , 同 時 に 優秀なラテニ スト(a Lati nist )でも あり , ラテン語の文法や文体 に 大 い な る興味 をもった. ま た , 現代の一 般 言 語学 , 哲学・哲学史, 大学制度史など にも 関心 を寄せ た. 1962 年 に学士号を取得 しDanish Societ y o f Language an d Literature (DSLL) の 研究助手, Univ. of 書 1 41 日浮 C o pe nh age nの古典学助教授などを経 て , 1 967年博士号を 取得し, 1 9 73 年弱冠36 歳 にして 教授となる. 1 9 7 2年 か ら亡くなる1 98 2年まで, 人 文 学部のI ns ti tu te of Gree k and Lati n M ed iev al Philology(l GLMP)の所長を務め た. 彼は亡 く な るまでの 短い研究期間 に突 に9 0 もの著書 ・ 論 文 を 発表したが, 決 してそれを見せび ら かす タイ プではなかった また, 若い研究者 を非常 に親切 に指導 したので, 国内外 から多くの 学生や研究 者 が 彼の周 りに集ま り, 亡くなる前の1 0年は U niv . of C o pe nhage n の 中 世哲学研究は大い に発展した . 外部環境もまた彼の研究 に味方 した. 彼が所長を務めたI GLMP は, 中世 に強い 関 心をもっ二人の古典学教授 によ っ て 1 9 58年 に創設された. その内の一人 がPi nborgの 師 PJ. . Je nse n であった. また Pi nborg が助手を務 めたDS LL'は, 1 9 40 年代 に Corjうus Philosoþhorum Danicorum Medii Aeviの刊行を決定し, 未刊 テ キ ストの 編集を 進 め ていたが, その指導者で思弁文法学の研究者であったHe nric h R oos, SJ . によ っ て P inborg は中世言語論の研究へと導き入 れ ら れた. そして, さ ら に U niv. of C o pe nh age nの言語学研究の伝統も彼に影響を与えた. つま り, 古典学と言語学・ 論理学とを結合するとL、う方法を, 彼は先輩のJ. C hris te nse n から学 んだ . 彼は国際 的にも積極 的に活動した. 1 9 7 0年代 に Euro pe an Sym posi a o n M ed iev al Logic and Sem antics の創設 に加わり, ま たその頃 から北米の学者との交流も盛 ん にやった. 198 2 年 にニュージー ランドへ 中世論理学につい ての講義と討論の ため にで かけたのが, 国際 的活動の最後となった. (2) BursiI I.H aII の解説 文 ( pp. 5-1 2) によ れ ば, 中世が言語学史上の黄金時代 であったことは今や周 知であるが, そのことを当時の文法学, 論理学, 大学制度, 写 本などの研究を通じ て 明ら か にしたのが, Pi nborg であった. 彼の主 な業績は本 書の pp. 1 3 -1 6 にまとめ られてーい るが, もっと詳しい業績一覧は N.J. Gree n.Pederse n, “ Bi bliogr aphy of the Pu bIic ations ofJ an Pi nbo rg ", CIMAGL 41 (1 9 8 2) , VIII. XII に あ る. 中世の言語理論の研究 に不可欠な仕事は, 未編集の写 本の 批判校訂版の刊行である が, Pi nborg のこの点での貢献の代表 的なものは, ダキアのボエ テ ィウ ス『表示の諸 様態 あるい はプリ スキアヌス大文法学問題集.11 (1 969 年)や ラド ルプ ス ・ ブリト『プ リスキアヌスの文法学問題集.11 (1 980 年)など で あ る. また, 不適切な箇所 に誤 っ て 配置されて いた写 本の修正配置も重要な仕事であるが, この分野でもPi nborg は多 142 中世思想研究36 �J くの貴重な仕事を残してい る. こう した分野で、の Pi nb org 等の業績の苔積の おかげ で , 今日, 中世の言語論 に関する知識は , 1960 年代の そ れとは 比較にならないほど増 大した. Pi nb org の貢献は以上 にとどま らない. 中世の言語論には , 文法学と論理学の親近 性という特徴が あることを彼は 明 ら か にし た . 中世の 文法理論の 発達 は , ドナトゥ スやプリスキアヌスの 文法 書の 写 本 テ キストに 書 き込ま れた 11世紀の 「小文字」 (minu scul e) 注解 に始ま り , コン シュのギョムがプリスキアヌス文 法を批判した12世 紀初頭 から14世紀 中頃まで , 文 献研究や語学教育 から 独立した文法学 , いわゆる思弁 文法学の時代が続く. この 発達についてはPi nb org の「中世 に おけ る言語理論の 発 達� (1967年) に 明ら か にされてい る. この思弁文法学も14j吐紀初め に は そ の限界が 明ら かとなり , やがて論理学が支配するいわゆるノミナリストの時代が 到来する. こ の 間の事情は Pinb org の『中世の論理学と意味論� (19 7 2可) に詳しい. そ して 『ケ ン ブリッジ後期中世哲学史�(1982年) において , 彼は 以上のすべての研究を総合した. 彼は中世の言語理論の 発展の 大筋を示し , 今後詳論され るべき問題を明ら か にした. その 意味で , 現在および将来 , 中世の言語論を研究するものは 誰でもみな , 彼の影響 下 に あると言える. (3)さて , 寄稿論文の主題を順次概観する. Hans A rens (BadHersf eld) :アウグス (Univ. of Waterl oo): テ ィヌス『 教 師論」の真作性 について (独語), E.J. A s hw orth D omingo de Soto( 149 4-1560)の 記号論 について(英語) , B. Car10 s Bazà n(Uni v. of Ottawa) 有限な「あるJと無限の 「ある」をめ ぐって(仏語) , Franci sPDinneen . , S.J.(Ge::> rgetown Univ.) :ベト ルス・ ヒスパ ヌスの Supp osi ti o 論をめ ぐって (英語) , NielsHaastrup(R oski lde U niv. Centre) :土着詩文法への ラテン 文法の影響 につい (Uni v. of M anchester):マギス テ ノレ・ ベト ル スの Sententi e て(英語)D , . P.Henry とされ る一節の真の著者 が ベトルス・ アベラル ドクスであるかど う かをめぐって(英 語) , EvenHovd hau gen(Uni v. of Osl o) :ロジャー・ ベーコン にとって 普遍文法は , 通説とは 違って , 周辺 的問題であったとい う こと に つ い て(英語), C oletteJeudy (C. N. R. S.,Pari s): ドナトクスの ArsMinor に対するl星名の注解 (未編集 ) につ いて(仏語), 1. GKelly . (Uni v. of Ottawa): エ ル フノレトのトマス『表 示の諸様態 あ るいは思弁文 法学』 におけ る動詞の comp osi ti o という表 示 様態 について(英語) , C. H. Kneepk ens (Uni v. of Niji me gen) ・ 12世紀の構文 論におけ る他動詞・臼動詞・ 143 l' 再帰動詞の概念について(英語), V ivien Law(Sidney Sussex College, Cambr idge Univ.) : アウグス ティヌスの文法学において「ことばjに効力を与える ものは rat io- aucto ritas -consuet udo の 順序であると いうことについて(英語), Alain de Lib era (E P HE, Paris): ロ ジャー・ベ ーコンと オセール の ラ ンベル トにお ける det erminatio c (City College of N ew Yo rk): の理論について(仏語), A . Charlene M Dermott ア リスト テレス『分析論前書』 のなかの三段論法 に関 す る一節に対する カ ンプソール の リ カ ル ドゥスの注解 の 英訳 と 彼の 論理 学 に ついて(英語), Jam es J. M urph y (Univ. of Ca Iifo rnia,Davis): Topo s と Figura の歴史的 ・語源的関係について, Claude Panaccio (Univ. d u Q uébec à T ro is - Riviè res):オッカ ムにお ける suppo sit io nat ural is と si gnificatio の概念についてのDe Rijk の見解 への挑戦 (仏語), Keith Percival(Univ. o Kansas) f :イ タリ ア の古典学者 Rem igio Sabbadini が W. 1960年の論文“Elem enti naz iona I i nella t eo ria grammat icale dei Romani", Studi italiani di filologia classica 14, pp. 113-125.のなかで引用した文法学の断片的な テ クストの 写本の活字化について(英語 ), I rène Rosier(CN RS, Paris) &↑Jean St efanini(Univ. de Pro vence, A ix-M arseill e) : ラテン 文法, 特に思弁 文 法学にお ける pronomen と nomen generale について(仏語), Aldo Scaglione(N ew Yo rk Un iv.):ダンテの『饗宴』 と『神曲』にお ける文法学の位置について(英語), M ary Sirridge( Lo uisiana Stat e Univ .) : ラ テン訴にお ける文法 的には容認されないが文 脈的に理解可能な 構文 に ついてのロパート ・キルウォードピー の説 明 に ついて(英 語),Jo hn A. T rentman( Huro n College, Uni v . o f W est ern Ontario): ス アレス にお ける 「言葉 のごま かし」 と 「知性の言葉と 話し言葉 の 関係」 について(英語). (4) 最後に, 書評者のコメン トを述べる. も ちろん, 個々 の言語理論の研究は, 厳 密なテキスト ク リ ティークに基づかな けれ ばならない. しかし 中tu:の 言語論を研究 する 場合, 忘 れてはならない大前提 が ある. そ れは, '1'tHーにお ける言語論の著し い発 達は中iltの思想家 た ち の 神学 的 関心 と関係が ある, と いうことである. 彼らが神につ いて正確に諮るための前提 として, 日常言語レ ヴェル を越えた 厳筏な言語理論, すな わ ち , 名指しの手続き, 構文 論, 文とその権成要素に関する意味論, 哲学 的論理学が 要請された . 彼らが音韻論や表記 法, 諸言語 の多 様性や歴史的発展, と い っ た現代の 青話学に必須 の分野を扱っ て いないの も, 彼らの関心 が, た んなる現象 としての言語 事実 の観察ではなく, 神への通路 としての言語 の深層構造に あ っ たからである.