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食品に関する相談の傾向
新連載 第 1 回 食品に関する相談の傾向 食品の安全性を科学的な視 点で解説し、食品表示の見 方や課題、「食品表示法」な どを紹介します。 板倉 ゆか子 Itakura Yukako 消費生活アナリスト 元国民生活センター商品テスト部調査役。放送大学非常勤講師、 公益社団法人全国消費生活相談員協会関東支部食の研究会顧問。 ち、 「商品」 では 「健康食品」 を含まない 「食品」だ 商品やサービスへの不満 けでも 7.2%と 1 番多く、また、 「サービス」で は 「外食」*4が 7.1%で第 1 位でした。 さまざまな商品やサービスへの不満はどうし て生まれるのでしょう。 人は多様な価値観を持ち、その価値に見合う 食品についての相談の傾向 と思うものを選択し購入します。しかし、購入し た後に期待と実際の隔たりに気づいたり、利用 食品 ( 「健康食品」 を含む。以下、同) に関する した結果、経済的、身体的な被害が生じたりし 相談内容は、主に ①異物の混入、カビ・異臭、 て、その格差が許容範囲を超えたとき、不満が 品質の劣化とそれによる身体的被害 ②誇大な 生まれます。問題がなかったはずの事柄でも、メ 宣伝・広告などによる表示と実態とのかい離 ③ ディアからのニュースをきっかけに、不信感や 強引な販売方法や契約の強制などによる経済的 不安が生まれ、苦情につながることもあります。 な被害の相談、などに分けられます。 *1によると、牛肉などの 「国民生活動向調査」 2014 年8月に国民生活センターが公表した 食品偽装が盛んに報道された 2002 年*2は、調 「2013 年度の PIO―NET *5にみる消費生活相談 査対象者全体の約半数 (46.9%) が 「商品」 や 「サー の概要」*6によると、高齢者宅へ注文した覚え ビス」に何か不満を持ったり、 経済的または身 のない 「健康食品」が送られてくる 「送りつけ商 体的な被害を受けたことがあると回答し、その 法」の相談件数や冷凍食品への農薬混入事案に 内訳としては「食料品 ( 「健康食品」 を含む) 」 が最 よる 「調理食品」の相談件数が増加しています。 も多く、15% を越えていました。一方、2013 また、 「2013 年度の PIO―NET にみる危害・危 年の調査*3では同 35.6% のうち、9.2%となっ 険情報の概要」*7によると 「調理食品」に対する ています。とはいえ、2013 年においても、不満 *8件数の増加も指摘さ 「危害情報」 と 「危険情報」 を持ったり被害を受けた 「商品・サービス」のう れています。 *1 国民生活センター調べ。 「商品」は食品、衣料品、家電製品等、 「サー ビス」 は外食、通信、金融・保険等を指す。 *5 パイオネット:全国消費生活情報ネットワーク・システム。国 民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネッ トワークで結び、消費生活に関する情報を蓄積しているデータ ベースのこと。 *2 第 33回 「国民生活動向調査」 2002年10 ~ 11 月に調査を実施。 *3 第 41回 「国民生活動向調査」 2013年9 ~ 10 月に調査を実施。 *6 http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140807_2.html *4 食堂、レストランなど。 *7 http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140807_3.html *8 危害情報とは、商品・役務・設備に関連して、身体にけが・病 気等の疾病(危害)を受けたという情報。危険情報とは、危害を 受けたわけではないが、そのおそれがある情報。 2014.10 国民生活 16 食品の安全・品質と表示を考える 食品の場合、他の商品より購入頻度が多くな やすく、摂食時とは様相が変わっていたり、現物 ること、また、健康とのつながりが最も大きいと がなくなっていたりするので、化学物質や微生物 認識されていることから、他の商品よりずっと などが原因であるかをテストして追求するのは 敏感に、安全面で不安材料となる情報の影響を 困難です。対策として、国際的には、製造者が 受けるので相談件数が増加すると考えられます。 HACCP *10 を導入し、適切に運用することで製 一方、元気で長生きしたい、美しくなりたい 品の安全性を確保する手法が推進されています。 という願いをかなえるかのようなうたい文句で 消費者は、化学物質と比べると物理的な事故 販売される「健康食品」 は、価格が高いほうが効 に対しては、 あまり関心を持ちません。しかし、 果への期待は高まる傾向があります。しかし、 お餅やこんにゃく入りゼリーのように窒息を起 宣伝文句ほどの効果を得られないと不満が生ま こし、死に至る場合もあるので飲み込む能力を れます。販売方法等に問題がある場合も多いの 考えた食品の選択や調理が必要になります。寄 で、 「消費生活相談データベース」 (表) によると、 せられた相談の中には食品中に鋭利な異物や固 「販売方法」や「契約・解約」などの相談件数は、 い異物が混入して生じる口腔内の切傷や歯の損 「品質・機能」や 「安全・衛生」以上に多くなり、 傷などの事故に関するものもあります。異物は、 さらに「健康食品」 に関する相談が 「食料品」 全体 収穫時に混入した石、原料に残った釣り針や針 の半数を超える年 (近年では 2012 年度と 2013 金などさまざまです。 年度)もあります*9。 加熱によって食材や容器内の圧力が急上昇し て破裂を起こすと、食材や容器が飛び散り、け がにつながることもあります。加熱による事故 食品の安全性に関する相談内容 で代表的なものは、電子レンジ調理による事故 で、卵の破裂、豆乳の突沸*11 など、国民生活セ 相談事例をみてみると、実際に危険性がある と と認識されるのは、その食品を摂ったことが体調 ンター等がさまざまな注意情報を出しています。 揚げ物調理時に、高温の油がはねてやけどを 不良の原因になったと消費者が考えたときです。 症状が出た際、思い返すと、いつもと臭いが異 負うことがあります。チューロス (スペイン風 なっていた、食味に違和感があったなどの理由 揚げ菓子)作りで、油が広範囲に飛び散った事 で、食品が「犯人」 だと疑われるのです。 「危害情 故* 12 が報道された後、小麦粉の包装には、揚 報」の件数*9 の多いものには「健康食品」や 「調 げ菓子作りでの事故防止のための注意事項が表 理食品」 「飲料」があります。食品は鮮度が落ち 示されるようになりました。 商品と サービス (中分類) 健康食品(件) このほか、ペットボトル入りの清涼飲料を飲 主な相談内容 安全・ 品質・ 価格・ 衛生 機能 料金 4,784 10,303 15,795 販売 方法 契約・ 解約 94,160 88,004 み残してふたをしたままにすると、混入した微 生物や酵素によって二酸化炭素が発生し、内部 の圧が高くなって破裂することがあります*13。 (n = 120,514) 消費者も表示をよく読み、購入後は、食品を 表 「消費生活相談データベース (PIO―NET より) 」 による 2009 ~ 2014 年度の健康食品の主な相談内容 適切に取り扱うことが求められます。 (2014 年9月 30 日現在) *9 国 民生活センターホームページ 「消費生活相談データべース (PIO―NET より) 」の 「商品・サービス (中分類) 」より (2009 〜 (2014 年9月 30 日現在)。 2014 年度) *11 「電子レンジで加熱した豆乳の突沸」 (2005 年12 月20 日掲載) http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200511.html *10 1960 年代に米国で宇宙食の安全性を確保するために開発され た。原材料の受け入れから最終製品までの各工程ごとに、汚染 などの危害要因を分析したうえで、危害の防止につながる重要 な工程を継続的に監視・記録する衛生管理の方式。 *13 「飲み残し清涼飲料容器の破裂による事故!-ペットボトルに よる事故が増加―」 (2004 年5月 10 日公表) http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20040510_1.html *12 『たしかな目』(国民生活センター)1993 No.87 2014.10 国民生活 17