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Round Table Discussion
chairman
Kenji Takamori
司会:
髙森 建二 先生
順天堂大学医学部附属
浦安病院 院長
座談会
世界初の選択的κ受容体
作動性経口そう痒症改善剤
レミッチ ® の
誕生秘話と今後の展望
2011年11月5日(日)
ストリングスホテル東京インターコンチネンタル
熊谷 裕生 先生
防衛医科大学校
腎臓内科 准教授
participant
Hiroo Kumagai
participant
Sangjae Bae
裵 祥宰 先生
千鳥橋病院 皮膚科 科長
participant
Hiroshi Nagase
長瀬 博 先生
北里大学薬学部 教授
Round Table Discussion
2012年3月作成
IF30-1203P
RMT TC005A
記載されている薬剤の使用にあたっては添付文書をご参照ください。
Introduction
Session 1
かゆみのメカニズム
髙森 建二 先生 (順天堂大学医学部附属浦安病院
皮膚科医が 実践する血液 透析患者のかゆみ治療
裵 祥宰 先生 (千鳥橋病院皮膚科
院長)
の既存の治療薬が奏効しないことから、
「難治性の
血液透析患者さんのかゆみに対する私の標準治療
かゆみ」とも呼ばれている。そう痒症を有する血液
かゆみのある血液 透析患者さんには、多様な皮
透析患者さんは、夜も眠れないほどの激しいかゆみ
膚病変がみられる。主な病変は、乾皮症(図3左上)、
があるにもかかわらず、有効な手立てもなく、長い間
紅色丘疹(図1左)
、掻破痕(図15)
、かゆい部分を掻き
かゆみは、その伝達 経 路から末 梢性のかゆみと
QOLの低下に苦しんできた。
続けた結果生じた掻破性皮疹(図3左下)
、結節性痒
中枢性のかゆみとに分けられる。末 梢 性のかゆみ
2009年3月に、内因性オピオイドが関与するかゆみ
疹、色素沈着などである。血液 透析患者さんのかゆ
は、表皮と真皮の境界部に分布しているC線 維がケ
を抑制する止痒薬ナルフラフィン塩酸塩(商品名:レ
みには様々な要因が関与しているが、皮膚科医の立
ミカルメディエーターによって活性化され、その興奮
ミッチ カプセル2.5μg / 以下、レミッチ )が実用化
場からみると、まず乾燥肌のためにかゆみが起こり
が大脳皮質に伝達されることによって起こる。かゆ
され、血液透析患者さんのそう痒症治療に福音をも
やすくなっていると考える。高齢の患者さんでは、
「気
みを誘発するケミカルメディエーターは主にヒスタミ
たらした。その発売から、臨床経験も蓄積されたこと
持ちいいから」と入 浴 時にかゆい部 分をごしごし
導も併せて行う。次にケミカルメディエーター遊離抑
ンであり、末梢性のかゆみの多くは抗ヒスタミン薬
から、この機会に、臨床皮膚科医を代表して裵祥宰
擦 って い るが、皮 膚 の バ リア 機 能 が 破 壊 され、
制作用を有する抗アレルギー薬も一定の効果を示す
によって制御される。
先生に実際の血液透析患者さんのかゆみ治療につい
Itch-Scratch Cycle(以 下、イッチ・スクラッチサイ
ため、選択 肢のひとつと考えている。こうした既存
これに対して中枢性のかゆみの発現 機序には内
てご紹介いただき、その後、レミッチ の生みの親で
クル)が起こるので、私はかゆみ治療としてスキンケ
治療で効果が不十分な場 合は、速やかにレミッチ®
因性オピオイドが関与しており、抗ヒスタミン薬には
ある長瀬博先生、レミッチ®を世に送り出すためにご
アに主眼をおいた生活指導に力を入れている。
の投与を開始する。特に、透析導入後すぐにそう痒
抵抗性を示す。モルヒネを投与すると鎮痛作用と同
尽力くださった熊谷裕生先生にレミッチ の開発経緯
血液 透析患者さんのかゆみに対する、私の標準
感を訴える患者さんには、早い段階でレミッチ®投与
時にかゆみが誘発されることが知られているが、こ
を振り返っていただきながら、これからの血液透析
治療のフローを表1に示す。まず乾燥肌、皮膚病変
を開始したほうが効果的だと感じている。
の中枢性のかゆみの機序が作動している疾 患の代
患者さんのかゆみ治療の在り方、レミッチ がもたら
に対する外用療法を行う。その際、スキンケアの指
当院において既存治療抵抗性の血液透析患者さ
表として血液透析患者におけるそう痒症が挙げられ
す臨床的ベネフィットについてお話をうかがった。
®
®
®
®
®
る。中枢性のかゆみに対しては抗ヒスタミン薬など
Contents
p2
p3
Introduction
Session1
か ゆ み のメカニズム
髙森 建二 先生 (順天堂大学医学部附属浦安病院 院長)
皮 膚 科 医 が 実 践 する
血 液 透 析 患 者のかゆみ 治 療
裵 祥宰 先生 (千鳥橋病院皮膚科 科長)
p5
Session2
世 界 初 の 依 存 性 のない
オピオイドκ 受 容 体 作 動 薬 の 創 出
表1
対象:そう痒を伴う乾皮症、痒疹、角化症など皮膚疾患を有する透析患者。
1.皮膚科的な側面で、外用ステロイド剤、保湿剤を開始。
スキンケアの指導も併せて行う。
2.必要な患者には抗アレルギー薬の内服を開始。
3.外用療 法 や 抗アレルギー薬内服などの既存治療を2週間以 上
行っても改善されないとき、レミッチ®2.5μg/日から内服開始。
4.7日後再診し、不眠など副作用のチェック。
不眠時はゾルピデム酒 石 酸 塩を追 加、レミッチ®の内服時間を
朝に変更 *1。
5.投与1 ヵ月後、そう痒感が改善しないときはレミッチ®を5μg/日
まで増量。
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕
食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、
1日1回5μgを限度とする。
図1
p7
Session3
か ゆ み 治 療 薬 ナルフラフィン 塩 酸 塩 の
誕生秘話
熊谷 裕生 先生 (防衛医科大学校腎臓内科 准教授)
p9
Discussion
血 液 透 析 患 者 の か ゆ み 治 療 戦 略と
レミッチ ® へ の 期 待
※紹介した症例は臨床症例の
一部を紹介したもので、全て
の症例が同様な結果を示す
わけではありません。尚、レ
ミッチ®の 効 能 又は 効 果、用
法及び用量、用法及び用量に
関連する使用上の注意、禁忌
を含む使 用上の注 意等につ
いては、DI面をご参照下さい。
んのそう痒症に対して、私の標準治療を行った症例
裵先生の難治性そう痒症の標準治療フロー
症例1:皮膚症状(背部)
を紹介する。
症例1 73歳女性 糖尿病性腎症 血液透析歴9年
1 ヵ月前より背部を中心にそう痒を伴う丘疹が出
現し、外用療法を施したが軽快しないと、2010年11
月、疥癬疑いで当科を紹介された。初診時、背部、
四肢にそう痒を伴う痂皮の付着した紅色丘疹が多発
していたが、真菌検査にて陰性。夜眠れないほど強
いそう痒感を訴えたため、レミッチ®2.5μg/日投与と
外用ステロイド剤と保湿剤の併用療法を開始した。
2010年12月には、背 部 や下 肢に多 少 の皮 疹 は
残存しているものの、そう痒感は改善し、夜眠れる
紅色丘疹、乾皮症
ようになった(図1)。
症例2 73歳女性 慢性腎不全 血液透析歴14年
長瀬 博 先生 (北里大学薬学部 教授)
2
科長)
顔 面を含む全身のそう痒 感、乾燥が出現。2010
年10月、皮疹、そう痒感が軽快しないために当科を
紹介された。初診時、全身のそう痒を伴う乾皮症、
2010年11月
2010年8月
BUN: 34.3mg/dL
Cr: 5.9mg/dL
VAS*2: 90mm→ 30mm
そう痒の程度の
判定基準(白取)*3:4 → 2
*2,3:VAS、そう痒の程度の判定基準(白取)については、p11参照
2010年12月
下肢に魚鱗癬のような厚い痂皮、角化を認めたが、
真 菌検 査にて陰 性。2週間ほど外用ステロイド剤、
保湿剤を使用してもそう痒感が改善しないため、レ
ミッチ®2.5μg/日を併用した。
3
Introduction
Session 1
かゆみのメカニズム
髙森 建二 先生 (順天堂大学医学部附属浦安病院
皮膚科医が 実践する血液 透析患者のかゆみ治療
裵 祥宰 先生 (千鳥橋病院皮膚科
院長)
の既存の治療薬が奏効しないことから、
「難治性の
血液透析患者さんのかゆみに対する私の標準治療
かゆみ」とも呼ばれている。そう痒症を有する血液
かゆみのある血液 透析患者さんには、多様な皮
透析患者さんは、夜も眠れないほどの激しいかゆみ
膚病変がみられる。主な病変は、乾皮症(図3左上)、
があるにもかかわらず、有効な手立てもなく、長い間
紅色丘疹(図1左)
、掻破痕(図15)
、かゆい部分を掻き
かゆみは、その伝達 経 路から末 梢性のかゆみと
QOLの低下に苦しんできた。
続けた結果生じた掻破性皮疹(図3左下)
、結節性痒
中枢性のかゆみとに分けられる。末 梢 性のかゆみ
2009年3月に、内因性オピオイドが関与するかゆみ
疹、色素沈着などである。血液 透析患者さんのかゆ
は、表皮と真皮の境界部に分布しているC線 維がケ
を抑制する止痒薬ナルフラフィン塩酸塩(商品名:レ
みには様々な要因が関与しているが、皮膚科医の立
ミカルメディエーターによって活性化され、その興奮
ミッチ カプセル2.5μg / 以下、レミッチ )が実用化
場からみると、まず乾燥肌のためにかゆみが起こり
が大脳皮質に伝達されることによって起こる。かゆ
され、血液透析患者さんのそう痒症治療に福音をも
やすくなっていると考える。高齢の患者さんでは、
「気
みを誘発するケミカルメディエーターは主にヒスタミ
たらした。その発売から、臨床経験も蓄積されたこと
持ちいいから」と入 浴 時にかゆい部 分をごしごし
導も併せて行う。次にケミカルメディエーター遊離抑
ンであり、末梢性のかゆみの多くは抗ヒスタミン薬
から、この機会に、臨床皮膚科医を代表して裵祥宰
擦 って い るが、皮 膚 の バ リア 機 能 が 破 壊 され、
制作用を有する抗アレルギー薬も一定の効果を示す
によって制御される。
先生に実際の血液透析患者さんのかゆみ治療につい
Itch-Scratch Cycle(以 下、イッチ・スクラッチサイ
ため、選択 肢のひとつと考えている。こうした既存
これに対して中枢性のかゆみの発現 機序には内
てご紹介いただき、その後、レミッチ の生みの親で
クル)が起こるので、私はかゆみ治療としてスキンケ
治療で効果が不十分な場 合は、速やかにレミッチ®
因性オピオイドが関与しており、抗ヒスタミン薬には
ある長瀬博先生、レミッチ®を世に送り出すためにご
アに主眼をおいた生活指導に力を入れている。
の投与を開始する。特に、透析導入後すぐにそう痒
抵抗性を示す。モルヒネを投与すると鎮痛作用と同
尽力くださった熊谷裕生先生にレミッチ の開発経緯
血液 透析患者さんのかゆみに対する、私の標準
感を訴える患者さんには、早い段階でレミッチ®投与
時にかゆみが誘発されることが知られているが、こ
を振り返っていただきながら、これからの血液透析
治療のフローを表1に示す。まず乾燥肌、皮膚病変
を開始したほうが効果的だと感じている。
の中枢性のかゆみの機序が作動している疾 患の代
患者さんのかゆみ治療の在り方、レミッチ がもたら
に対する外用療法を行う。その際、スキンケアの指
当院において既存治療抵抗性の血液透析患者さ
表として血液透析患者におけるそう痒症が挙げられ
す臨床的ベネフィットについてお話をうかがった。
®
®
®
®
®
る。中枢性のかゆみに対しては抗ヒスタミン薬など
Contents
p2
p3
Introduction
Session1
か ゆ み のメカニズム
髙森 建二 先生 (順天堂大学医学部附属浦安病院 院長)
皮 膚 科 医 が 実 践 する
血 液 透 析 患 者のかゆみ 治 療
裵 祥宰 先生 (千鳥橋病院皮膚科 科長)
p5
Session2
世 界 初 の 依 存 性 のない
オピオイドκ 受 容 体 作 動 薬 の 創 出
表1
対象:そう痒を伴う乾皮症、痒疹、角化症など皮膚疾患を有する透析患者。
1.皮膚科的な側面で、外用ステロイド剤、保湿剤を開始。
スキンケアの指導も併せて行う。
2.必要な患者には抗アレルギー薬の内服を開始。
3.外用療 法 や 抗アレルギー薬内服などの既存治療を2週間以 上
行っても改善されないとき、レミッチ®2.5μg/日から内服開始。
4.7日後再診し、不眠など副作用のチェック。
不眠時はゾルピデム酒 石 酸 塩を追 加、レミッチ®の内服時間を
朝に変更 *1。
5.投与1 ヵ月後、そう痒感が改善しないときはレミッチ®を5μg/日
まで増量。
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕
食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、
1日1回5μgを限度とする。
図1
p7
Session3
か ゆ み 治 療 薬 ナルフラフィン 塩 酸 塩 の
誕生秘話
熊谷 裕生 先生 (防衛医科大学校腎臓内科 准教授)
p9
Discussion
血 液 透 析 患 者 の か ゆ み 治 療 戦 略と
レミッチ ® へ の 期 待
※紹介した症例は臨床症例の
一部を紹介したもので、全て
の症例が同様な結果を示す
わけではありません。尚、レ
ミッチ®の 効 能 又は 効 果、用
法及び用量、用法及び用量に
関連する使用上の注意、禁忌
を含む使 用上の注 意等につ
いては、DI面をご参照下さい。
んのそう痒症に対して、私の標準治療を行った症例
裵先生の難治性そう痒症の標準治療フロー
症例1:皮膚症状(背部)
を紹介する。
症例1 73歳女性 糖尿病性腎症 血液透析歴9年
1 ヵ月前より背部を中心にそう痒を伴う丘疹が出
現し、外用療法を施したが軽快しないと、2010年11
月、疥癬疑いで当科を紹介された。初診時、背部、
四肢にそう痒を伴う痂皮の付着した紅色丘疹が多発
していたが、真菌検査にて陰性。夜眠れないほど強
いそう痒感を訴えたため、レミッチ®2.5μg/日投与と
外用ステロイド剤と保湿剤の併用療法を開始した。
2010年12月には、背 部 や下 肢に多 少 の皮 疹 は
残存しているものの、そう痒感は改善し、夜眠れる
紅色丘疹、乾皮症
ようになった(図1)。
症例2 73歳女性 慢性腎不全 血液透析歴14年
長瀬 博 先生 (北里大学薬学部 教授)
2
科長)
顔 面を含む全身のそう痒 感、乾燥が出現。2010
年10月、皮疹、そう痒感が軽快しないために当科を
紹介された。初診時、全身のそう痒を伴う乾皮症、
2010年11月
2010年8月
BUN: 34.3mg/dL
Cr: 5.9mg/dL
VAS*2: 90mm→ 30mm
そう痒の程度の
判定基準(白取)*3:4 → 2
*2,3:VAS、そう痒の程度の判定基準(白取)については、p11参照
2010年12月
下肢に魚鱗癬のような厚い痂皮、角化を認めたが、
真 菌検 査にて陰 性。2週間ほど外用ステロイド剤、
保湿剤を使用してもそう痒感が改善しないため、レ
ミッチ®2.5μg/日を併用した。
3
2011年2月には、乾皮症、角化症はそう痒感ととも
に改善した(図2)。
症例4 69歳男性 慢性腎不全 血液透析歴12年
症例2:皮膚症状(下肢)
図2
皮疹とそう痒感の再発はみられていない(図3)。
2011年 3月、強度の乾皮症、そう痒感のため当科
魚鱗癬、角化症
を紹介された。外用療法にて改善みられず、レミッ
チ®2.5μg /日を併用した。2011年 4月には、そう痒感
はほぼ消失し、乾皮症も改善した(図4)。
図4
症例4:皮膚症状(上肢)
2011年1月
VAS: 90mm→20mm 2011年2月
そう痒の程度の
BUN: 10.3mg/dL
判定基準(白取)
:4→1
Cr: 2.24mg/dL
症例3 73歳女性 糖尿病性腎症 血液透析歴1年
透析導入時から全身のそう痒感、乾皮症が出現。
頸 部、胸 部に掻 破 性 皮 疹 が多 発し、2010年11月、
薬疹の可能性について当科を紹介された。初診時、
全身のそう痒を伴う乾皮症、特に頸部、胸部に掻破
痕が多数みられ、左前腕には蜂 窩織 炎が認められ
た。最近の薬剤変更がないことと、臨床所見から掻
2011年3月
2011年4月
VAS: 85mm→0mm
そう痒の程度の
判定基準(白取)
:4→1
長瀬 博 先生 (北里大学薬学部
教授)
依存性のない 夢の鎮痛薬 を求めて
を介して発現しており、κ
今でこそ血液 透析患者におけるそう痒症の 止痒
およびδ受容体では鎮痛
薬 として臨 床で活躍しているレミッチ だが、実は
作用のみが発現すること
鎮痛薬 としての開発過程でその止痒作用が見出さ
が 明らかになった。この
れた。オピオイドκ(カッパ)受容体作 動 薬ナルフラ
発見によって、
κあるいは
フィン塩酸塩の開発経緯を振り返る。
δ受容体に選択性の高い作動薬が得られれば、依
オピオイドの歴史をみれば、太古の時代からモルヒ
存性のない鎮痛薬が得られるという期待が膨らみ、
ネは鎮痛薬として使われてきた。しかし、アヘン戦争
世界中で激烈な創薬競争が始まったのである。
に象徴されるように、モルヒネには副作用として強い
Portoghese教授の研究室に留学した私は、1985 ∼
依存性があり、人類にとっては 両刃の剣 であった。
87年にかけてκ受容体拮抗薬nor-BNIおよびδ受容
19世紀にモルヒネの構造が決定されると、薬理作
体拮抗薬NTIの合成に相次いで成功した。内因性オ
2011年4月
BUN: 13.5mg/dL
Cr: 3.4mg/dL
用から依存性を分離するべく無数のモルヒネ誘導体
ピオイドの構造解析から、δおよびκ受容体選択性の
が合成されたが、いずれの試みも成功しなかった。
鍵となるのは 分子の大きさ であることを見出したの
1975年には20種類以上の内因性オピオイドが発
である。我々は、これを メッセージ-アドレス の概念
見された。これらをもとに数百種類の合成ペプチド
と呼んでいる(図5)。すなわち、リガンドには作用発
が作られたが、ペプチドであるため全身投与では血
現にかかわるメッセージ部位と、選択性発現にかか
破性皮疹と判断して抗アレルギー薬と外用ステロイ
かゆみ治療で患者さんのQOL向上を目指す
ド剤による治療を行ったが、そう痒感が改善せず、
以 上、当院 での 症例を紹 介したが、どの 症例も
液 脳関門を通 過できず活性は得られなかった。ま
わるアドレス部位とが存在する。メッセージ部位はど
レミッチ 2.5μg /日を併用した。
Visual Analogue Scale(以下、VAS)やそう痒の程
た、脳に直接投与すると強力な鎮痛作用とともに依
のタイプにも共通であるのに対して、アドレス部位の
レミッチ 投与開始2週後、皮疹とそう痒感は軽快
度の判定基準(白取)が低下するとともに皮膚所見も
存性が発現したため、臨床応用には至らなかった。
大きさが異なることによってμ、δ、κの各タイプへの
したが、呼吸不全と間質性肺炎でICUに入院。プロト
改善している。これはイッチ・スクラッチサイクルが
モルヒネとこれらの合成ペプチドの薬理作用を比
選択性が発現する。この概念に従ってデザインした結
ンポンプ阻害薬 (PPI)やレミッチ による薬剤性間質
止められたことによると考えている。
較したところ、薬理作用にはいくつかの異なるタイプ
果、δ、κ受容体拮抗薬の合成に成功したのである。
性肺炎の可能性もあるため、念のためレミッチ の投
大学病院勤務時代にかゆみについて研究し、そ
が認められた。その研究から、μ(ミュー)
、
δ(デル
与を中止したが、その後の薬 剤リンパ 球 刺 激 試 験
の後、皮膚科医として血液透析患者さんのかゆみ治
タ)
、
κの3タイプのオピオイド受容体の存在が明らか
®
(DLST)においてレミッチ は陰性と判明した。現在
療にあたってきた私は、
「かゆくて夜眠れない」
「か
になったのである。これまで知られていたモルヒネ
はレミッチ 投与中止のまま、外用療法のみ継続し、
ゆみのせいで日中仕事に集中できない」という悲痛
の鎮痛作用と依存性は、主にμ受容体を介した薬理
な訴えを聞きながら、かゆみは 患 者さんにとって
作用であった。そこで、強力な鎮 痛作用をもちなが
QOLを低下させる重大な疾患であることを痛感して
ら依存性のない 夢の鎮痛薬 の開発に向けて、残る
きた。レミッチ®の登場によって、従来の抗アレルギー
2つの受容体への期待が高まった。
δ型受容体
激烈な創薬競争のなか
κ型受容体
®
®
®
®
®
図3
症例3:皮膚症状(頸部、胸部)
掻破性皮疹、乾皮症
頸部
薬の外用および内服治療では十分な効果が得られ
なかった患者さんがかゆみから解放され、
「夜眠れる
胸部
2010年11月
2010年12月
VAS: 90mm→0mm 2011年2月
BUN: 23.1mg/dL
そう痒の程度の
Cr: 3.05mg/dL
判定基準(白取)
:4→0
4
世界 初の 依存性のない
オピオイドκ受容体作動薬の創出
®
乾皮症
2010年10月
Session 2
図5
メッセージ-アドレス 概念図
リガンド
(作動薬、拮抗薬)
リガンド-受容体結合
μ型受容体
鎮痛作用
耽溺性
呼吸抑制
鎮痛作用
メッセージ
アドレス
(作用発現)
(選択性発現)
鎮痛作用
ようになった。朝を迎えるのが楽しみだ」
「日中、仕
オピオイド受容体拮抗薬の合成に成功
事ができるようになり、生まれ変わったようだ」と喜
1982年にミネソタ大 学 のPortoghese教 授はμ受
んでいる様子をみると、嬉しく思う。かゆみが患者さ
容体拮抗薬β-FNAの合成に成功した。β-FNAを投
んのQOLを低下させる重大な疾患であることを、医
与すると、μ受容体を選択的にブロックすることがで
療従事者はもっと理解するべきであり、そして、患者
きる。モルヒネには鎮痛作用に加えて依存性、呼吸
私はさらに、nor-BNIからκ受容体作動薬の分子設
さんのQOL向上を目指して積極的にかゆみ治療に
抑制、便 秘という三大 副 作用が現れるが、β-FNA
計を試みた
(図6)
。nor-BNIからアクセサリー部位を取
取り組んでほしいと考えている。
投与後にモルヒネを投与すると、鎮痛作用のみが現
り除き、アドレスとしての機能を損なわない範囲でスリ
れ、これらの副作用は認められなかった。つまり、
モ
ム化させた。その化合物の鎮痛活性をマウスを用い
ルヒネで問題となる依存性などの副作用はμ受容体
た酢酸ライジング法と呼ばれる評価方法で測定した。
分子設計により
受容体作動薬ナルフラフィン塩酸塩が誕生
κ
5
2011年2月には、乾皮症、角化症はそう痒感ととも
に改善した(図2)。
症例4 69歳男性 慢性腎不全 血液透析歴12年
症例2:皮膚症状(下肢)
図2
皮疹とそう痒感の再発はみられていない(図3)。
2011年 3月、強度の乾皮症、そう痒感のため当科
魚鱗癬、角化症
を紹介された。外用療法にて改善みられず、レミッ
チ®2.5μg /日を併用した。2011年 4月には、そう痒感
はほぼ消失し、乾皮症も改善した(図4)。
図4
症例4:皮膚症状(上肢)
2011年1月
VAS: 90mm→20mm 2011年2月
そう痒の程度の
BUN: 10.3mg/dL
判定基準(白取)
:4→1
Cr: 2.24mg/dL
症例3 73歳女性 糖尿病性腎症 血液透析歴1年
透析導入時から全身のそう痒感、乾皮症が出現。
頸 部、胸 部に掻 破 性 皮 疹 が多 発し、2010年11月、
薬疹の可能性について当科を紹介された。初診時、
全身のそう痒を伴う乾皮症、特に頸部、胸部に掻破
痕が多数みられ、左前腕には蜂 窩織 炎が認められ
た。最近の薬剤変更がないことと、臨床所見から掻
2011年3月
2011年4月
VAS: 85mm→0mm
そう痒の程度の
判定基準(白取)
:4→1
長瀬 博 先生 (北里大学薬学部
教授)
依存性のない 夢の鎮痛薬 を求めて
を介して発現しており、κ
今でこそ血液 透析患者におけるそう痒症の 止痒
およびδ受容体では鎮痛
薬 として臨 床で活躍しているレミッチ だが、実は
作用のみが発現すること
鎮痛薬 としての開発過程でその止痒作用が見出さ
が 明らかになった。この
れた。オピオイドκ(カッパ)受容体作 動 薬ナルフラ
発見によって、
κあるいは
フィン塩酸塩の開発経緯を振り返る。
δ受容体に選択性の高い作動薬が得られれば、依
オピオイドの歴史をみれば、太古の時代からモルヒ
存性のない鎮痛薬が得られるという期待が膨らみ、
ネは鎮痛薬として使われてきた。しかし、アヘン戦争
世界中で激烈な創薬競争が始まったのである。
に象徴されるように、モルヒネには副作用として強い
Portoghese教授の研究室に留学した私は、1985 ∼
依存性があり、人類にとっては 両刃の剣 であった。
87年にかけてκ受容体拮抗薬nor-BNIおよびδ受容
19世紀にモルヒネの構造が決定されると、薬理作
体拮抗薬NTIの合成に相次いで成功した。内因性オ
2011年4月
BUN: 13.5mg/dL
Cr: 3.4mg/dL
用から依存性を分離するべく無数のモルヒネ誘導体
ピオイドの構造解析から、δおよびκ受容体選択性の
が合成されたが、いずれの試みも成功しなかった。
鍵となるのは 分子の大きさ であることを見出したの
1975年には20種類以上の内因性オピオイドが発
である。我々は、これを メッセージ-アドレス の概念
見された。これらをもとに数百種類の合成ペプチド
と呼んでいる(図5)。すなわち、リガンドには作用発
が作られたが、ペプチドであるため全身投与では血
現にかかわるメッセージ部位と、選択性発現にかか
破性皮疹と判断して抗アレルギー薬と外用ステロイ
かゆみ治療で患者さんのQOL向上を目指す
ド剤による治療を行ったが、そう痒感が改善せず、
以 上、当院 での 症例を紹 介したが、どの 症例も
液 脳関門を通 過できず活性は得られなかった。ま
わるアドレス部位とが存在する。メッセージ部位はど
レミッチ 2.5μg /日を併用した。
Visual Analogue Scale(以下、VAS)やそう痒の程
た、脳に直接投与すると強力な鎮痛作用とともに依
のタイプにも共通であるのに対して、アドレス部位の
レミッチ 投与開始2週後、皮疹とそう痒感は軽快
度の判定基準(白取)が低下するとともに皮膚所見も
存性が発現したため、臨床応用には至らなかった。
大きさが異なることによってμ、δ、κの各タイプへの
したが、呼吸不全と間質性肺炎でICUに入院。プロト
改善している。これはイッチ・スクラッチサイクルが
モルヒネとこれらの合成ペプチドの薬理作用を比
選択性が発現する。この概念に従ってデザインした結
ンポンプ阻害薬 (PPI)やレミッチ による薬剤性間質
止められたことによると考えている。
較したところ、薬理作用にはいくつかの異なるタイプ
果、δ、κ受容体拮抗薬の合成に成功したのである。
性肺炎の可能性もあるため、念のためレミッチ の投
大学病院勤務時代にかゆみについて研究し、そ
が認められた。その研究から、μ(ミュー)
、
δ(デル
与を中止したが、その後の薬 剤リンパ 球 刺 激 試 験
の後、皮膚科医として血液透析患者さんのかゆみ治
タ)
、
κの3タイプのオピオイド受容体の存在が明らか
®
(DLST)においてレミッチ は陰性と判明した。現在
療にあたってきた私は、
「かゆくて夜眠れない」
「か
になったのである。これまで知られていたモルヒネ
はレミッチ 投与中止のまま、外用療法のみ継続し、
ゆみのせいで日中仕事に集中できない」という悲痛
の鎮痛作用と依存性は、主にμ受容体を介した薬理
な訴えを聞きながら、かゆみは 患 者さんにとって
作用であった。そこで、強力な鎮 痛作用をもちなが
QOLを低下させる重大な疾患であることを痛感して
ら依存性のない 夢の鎮痛薬 の開発に向けて、残る
きた。レミッチ®の登場によって、従来の抗アレルギー
2つの受容体への期待が高まった。
δ型受容体
激烈な創薬競争のなか
κ型受容体
®
®
®
®
®
図3
症例3:皮膚症状(頸部、胸部)
掻破性皮疹、乾皮症
頸部
薬の外用および内服治療では十分な効果が得られ
なかった患者さんがかゆみから解放され、
「夜眠れる
胸部
2010年11月
2010年12月
VAS: 90mm→0mm 2011年2月
BUN: 23.1mg/dL
そう痒の程度の
Cr: 3.05mg/dL
判定基準(白取)
:4→0
4
世界 初の 依存性のない
オピオイドκ受容体作動薬の創出
®
乾皮症
2010年10月
Session 2
図5
メッセージ-アドレス 概念図
リガンド
(作動薬、拮抗薬)
リガンド-受容体結合
μ型受容体
鎮痛作用
耽溺性
呼吸抑制
鎮痛作用
メッセージ
アドレス
(作用発現)
(選択性発現)
鎮痛作用
ようになった。朝を迎えるのが楽しみだ」
「日中、仕
オピオイド受容体拮抗薬の合成に成功
事ができるようになり、生まれ変わったようだ」と喜
1982年にミネソタ大 学 のPortoghese教 授はμ受
んでいる様子をみると、嬉しく思う。かゆみが患者さ
容体拮抗薬β-FNAの合成に成功した。β-FNAを投
んのQOLを低下させる重大な疾患であることを、医
与すると、μ受容体を選択的にブロックすることがで
療従事者はもっと理解するべきであり、そして、患者
きる。モルヒネには鎮痛作用に加えて依存性、呼吸
私はさらに、nor-BNIからκ受容体作動薬の分子設
さんのQOL向上を目指して積極的にかゆみ治療に
抑制、便 秘という三大 副 作用が現れるが、β-FNA
計を試みた
(図6)
。nor-BNIからアクセサリー部位を取
取り組んでほしいと考えている。
投与後にモルヒネを投与すると、鎮痛作用のみが現
り除き、アドレスとしての機能を損なわない範囲でスリ
れ、これらの副作用は認められなかった。つまり、
モ
ム化させた。その化合物の鎮痛活性をマウスを用い
ルヒネで問題となる依存性などの副作用はμ受容体
た酢酸ライジング法と呼ばれる評価方法で測定した。
分子設計により
受容体作動薬ナルフラフィン塩酸塩が誕生
κ
5
図6
κ受容体作動薬の基本設計
拮抗薬
コリン
受容体
作動薬
アクセサリー部位
Me
O
Me
N
+
メッセージ部分
N
O
(副作用)が発現し、医薬品としての安全性に問題が
O
Me
O
ナルフラフィン塩酸塩の止痒作用に注目
κ
OH
N
N
生じ、
実用には耐えられないという結論に至り、
一時、
開発を断念したのである。
Me
アドレス部分
OH
オピオイド
κ受容体
N+
Me
OH
Me
な鎮痛作用とともに眠気やふらつきなどの鎮静作用
OH
?
N
OH O
O
OHHO
OH
― レミッチ®の誕生
熊谷 裕生 先生 (防衛医科大学校腎臓内科
准教授)
レミッチ®の誕生前夜
世界に先 駆けて合成した
― かゆみに苦しむ血液透析患者さん
選 択的κ受容体作動薬ナ
鎮痛薬の研究から生まれたナルフラフィン塩酸塩
ルフラフィン塩酸塩を使っ
訴えるという情報を臨床現場から聞き、μ受容体とκ
が、血液透析患者におけるそう痒症改善剤レミッチ
て臨床試験を行った。
受容体由来の作用を比較すると、鎮痛作用は共通で
として発売されるまでの経緯を振り返る。
マウスの腹部に酢酸を注射し、酢酸の刺激(痛み)に
あるものの、それ以外では反対の作用を発現する場
血液透析患者さんは長きにわたり強いかゆみに苦
より腹部をよじる回数を抑制する強さを鎮痛活性と
合が多いことから、μ受容体由来のかゆみをκ受容体
しんできた。しかし、内科医や透析医は、かゆみに
アクセサリー部位を除去し
スリムな化合物へ
®
血液透析患者と健常者における血中オピオイドペプチド濃度
図9
(pg/mL)80
血清オピオイド
ペプチド濃度
60
β-エンドルフィン(μ受容体)
ダイノルフィン A
( κ受容体)
平均値 ± 標準偏差
するものである。その結果、モルヒネを超える鎮 痛
が抑制することが期待された。そこで、かゆみの動物
真剣に向き合うことをあきらめ、かゆみケアを看護師
活性を示すκ受容体作動薬が合成された。その化合
モデルを用いて止痒作用を検討した。マウスに起痒物
や家族の方に任せてきてしまったのが実状である。
物は、側鎖にフラン環をもつことから ナルフラフィン
質であるサブスタンスPを皮内投与したときに誘発さ
漫然と抗ヒスタミン薬などを処方していたが、患者さ
塩酸塩 と命名されたのである。
れる引っ掻き行動の回数を観察し、ナルフラフィン塩
んが副作用を懸念して服用せずに捨ててしまったり、
ナルフラフィン塩酸塩の依存性の有無を確認するた
酸塩と既存の止痒薬を比較した。その結果、ナルフラ
押入れにしまい込んでいる実態を研修医時代に目の
め、
ラットを用いた薬物選好性試験を行った。その試
フィン塩酸塩は鎮痛作用を示す用量より低用量で、
当たりにした私は、
「何とかしなければならない」と
験は、片側が白色、もう一方が黒色に壁が塗られ、境
止痒効果を示した(図8)
。また、ナルフラフィン塩酸塩
強く感じていた。しかし実際には、血液透析患者さ
で真ん中が仕切ってある箱を用いる。1日目に被験薬
の止痒効果は、nor-BNIの投与によって用量依存的
んのかゆみは既存治療に抵抗性であり、私ども透析
を投与したラットを1時間白色側に入れ、2日目には生
に抑制されたことから、この作用がκ受容体を介して
医も手立てがなく治療に苦慮していた。
理食塩水を投与して1時間黒色側に入れる。1日目、
発現していることが証明された1)。この結果を受けて、
血液透析患者におけるそう痒症の実態調査では、
2日目と同じことを3日目、4日目に繰り返し、5日目に
ナルフラフィン塩酸塩は止痒薬としての道を歩み始め
血液透析患者の約73%にかゆみの経験があり、その
白色側と黒色側の境を外してどちらにも行けるように
たのである。その後、血液透析患者さんのかゆみ治
うち43%は中等度∼重度の強いかゆみに悩まされて
して15分間観察し、
それぞれの箱の滞在時間を調べ
療への応用が検討され、熊谷先生らのご尽力により
おり、かゆみで目を覚ます症例が48%にみられること
るというものである。白色側に長く滞在すれば被験薬
数多くの臨床試験を積み重ねた結果、血液透析患者
から 、かゆみはただの 訴え ではなく、 治療すべき
には依存性があると判断され、黒色側に長く滞在すれ
におけるそう痒症改善剤レミッチ が誕生した。
疾患 としてとらえるべきである。このような状況の中
試験1(臨床薬理試験)
でナルフラフィン塩酸塩と出会い、難治性であった血
当時在籍していた慶應義塾大学病院腎臓内科に
液 透析患者におけるそう痒症に治療の希望が生ま
おいて臨床薬理オープン試験として行い、既存治療
れたのである。
抵 抗性のかゆみを有する血液 透析患者6例に対し
在時間がほぼ同じであれば、依存性も嫌悪性もないと
®
サブスタンスP誘発マウス引っ掻き行動に対する抑制効果
図8
判断される。結果として、モルヒネでは用量依存的に
白色側の滞在時間が長くなり依存性が認められたの
100
ことから依存性も嫌悪性もないと考えられた(図7)。
薬物選好性試験(ラット)
900
**
600
薬物選好性︵秒︶
*
300
ナルフラフィン
塩酸塩
モルヒネ
**
0
-300
*p<0.05
**p<0.01 vs.各対照薬
Student's t-test
平均値±標準誤差
-600
-900
0.001
0.01
0.1
1
用量(mg/kg,皮下投与)
10
長瀬 博ほか:オピオイドの基礎と臨床(鎮痛薬・オピオイドペプチド研究会編),エルゼビア・ジャパン: 144-154, 2000 改変
分 間 に 引 っか く 回 数
の鎮痛薬としての臨床試験を始めた。しかし、強力
50
30
**
0
200
0
0
3
10 30 100
ケトチフェンフマル酸塩
200
150
150
100
100
50
50
0
0
0
0 0.1
1
10 100
(mg/kg, p.o.)
(n=8)
PBS
(対照)
サブスタンス P
(250nmol/body, i.d.)
クロルフェニラミン
マレイン酸塩
0
1
3
10 30
(mg/kg, p.o.)
(n=8)
p<0.01(Dunnett s test)
平均値±標準誤差
**
Togashi Y, Nagase H et al.: Eur J Pharmacol 435: 259, 2002
健常者
(n=28)
かゆみなし
(n=19)
中等度かゆみ 強度かゆみ
(n=8)
(n=10)
透析患者
6.0
5.0
[μ/κ]比
平均値 ± 標準偏差
4.0
3.0
A
/
2.17
2.48
2.83
3.59
1.0
0
健常者
(n=28)
かゆみなし 中等度かゆみ 強度かゆみ
(n=19)
(n=8)
(n=10)
透析患者
熊谷裕生ほか:臨床透析 22: 763, 2006
て、ナルフラフィン塩酸塩10μgを朝食前に単回経口
投与した4)。かゆみはVASとそう痒の程度の判定基
系によるかゆみ抑制」仮説の検証試験*1
準(白取)を用いて定量的に評価した。その結果、全
私どもは、健常者と血液透析患者の血中オピオイ
例でナルフラフィン塩酸塩の投与によりVAS値の著
ドペプチド濃度を測定した。その結果、かゆみの強
明な低下が認められた。
ン濃度が高く、β-エンドルフィンとκ受容体アゴニス
試験2(前期第Ⅱ相臨床試験)
トであるダイノルフィンの比を算出したところ、かゆみ
予想以上の効果に手ごたえを感じた私どもは、次
の強い患者ほど、比が大きかった(図9)
。この結果か
にプラセボを対照とした前向き二重盲検比較試験を
ら、かゆみのある血液透析患者では、κ受容体に比
行った4)。全国の既存治療抵抗性のかゆみを有する
べてμ受容体が相対的に優位であることが示唆され、
血液透析患者88例を、プラセボまたはナルフラフィン
「μオピオイド系はかゆみを誘発し、
κオピオイド系は
0
0
2)
い患者ほどμ受容体アゴニストであるβ-エンドルフィ
(μg/kg, p.o.)
(n=8)
20
2.0
ナルフラフィン塩酸塩を使った「κオピオイド
150
に対して、ナルフラフィン塩酸塩は中性的性質を示した
その後、大きな期待とともにナルフラフィン塩酸塩
ナルフラフィン塩酸塩
200
40
β エ
- ンドルフィン
ダイノルフィン 比
ば嫌悪性があると判断される。白色側と黒色側の滞
6
かゆみ治療薬ナルフラフィン塩酸塩の誕生秘話
モルヒネを投与された患者さんが重篤なかゆみを
nor-BNI
図7
Session 3
塩酸塩5μg、10μgの3群に無作為に割り当て、投与
3)
かゆみを抑制する」
という仮説を2004年に提唱した 。
前と投与期間中のVAS変化量を比較した。ナルフラ
この仮説を検証するために、長瀬先生のグループが
フィン塩酸塩5μg投与群ではプラセボ投与群に比べ
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、
1日1回5μgを限度とする。
7
図6
κ受容体作動薬の基本設計
拮抗薬
コリン
受容体
作動薬
アクセサリー部位
Me
O
Me
N
+
メッセージ部分
N
O
(副作用)が発現し、医薬品としての安全性に問題が
O
Me
O
ナルフラフィン塩酸塩の止痒作用に注目
κ
OH
N
N
生じ、
実用には耐えられないという結論に至り、
一時、
開発を断念したのである。
Me
アドレス部分
OH
オピオイド
κ受容体
N+
Me
OH
Me
な鎮痛作用とともに眠気やふらつきなどの鎮静作用
OH
?
N
OH O
O
OHHO
OH
― レミッチ®の誕生
熊谷 裕生 先生 (防衛医科大学校腎臓内科
准教授)
レミッチ®の誕生前夜
世界に先 駆けて合成した
― かゆみに苦しむ血液透析患者さん
選 択的κ受容体作動薬ナ
鎮痛薬の研究から生まれたナルフラフィン塩酸塩
ルフラフィン塩酸塩を使っ
訴えるという情報を臨床現場から聞き、μ受容体とκ
が、血液透析患者におけるそう痒症改善剤レミッチ
て臨床試験を行った。
受容体由来の作用を比較すると、鎮痛作用は共通で
として発売されるまでの経緯を振り返る。
マウスの腹部に酢酸を注射し、酢酸の刺激(痛み)に
あるものの、それ以外では反対の作用を発現する場
血液透析患者さんは長きにわたり強いかゆみに苦
より腹部をよじる回数を抑制する強さを鎮痛活性と
合が多いことから、μ受容体由来のかゆみをκ受容体
しんできた。しかし、内科医や透析医は、かゆみに
アクセサリー部位を除去し
スリムな化合物へ
®
血液透析患者と健常者における血中オピオイドペプチド濃度
図9
(pg/mL)80
血清オピオイド
ペプチド濃度
60
β-エンドルフィン(μ受容体)
ダイノルフィン A
( κ受容体)
平均値 ± 標準偏差
するものである。その結果、モルヒネを超える鎮 痛
が抑制することが期待された。そこで、かゆみの動物
真剣に向き合うことをあきらめ、かゆみケアを看護師
活性を示すκ受容体作動薬が合成された。その化合
モデルを用いて止痒作用を検討した。マウスに起痒物
や家族の方に任せてきてしまったのが実状である。
物は、側鎖にフラン環をもつことから ナルフラフィン
質であるサブスタンスPを皮内投与したときに誘発さ
漫然と抗ヒスタミン薬などを処方していたが、患者さ
塩酸塩 と命名されたのである。
れる引っ掻き行動の回数を観察し、ナルフラフィン塩
んが副作用を懸念して服用せずに捨ててしまったり、
ナルフラフィン塩酸塩の依存性の有無を確認するた
酸塩と既存の止痒薬を比較した。その結果、ナルフラ
押入れにしまい込んでいる実態を研修医時代に目の
め、
ラットを用いた薬物選好性試験を行った。その試
フィン塩酸塩は鎮痛作用を示す用量より低用量で、
当たりにした私は、
「何とかしなければならない」と
験は、片側が白色、もう一方が黒色に壁が塗られ、境
止痒効果を示した(図8)
。また、ナルフラフィン塩酸塩
強く感じていた。しかし実際には、血液透析患者さ
で真ん中が仕切ってある箱を用いる。1日目に被験薬
の止痒効果は、nor-BNIの投与によって用量依存的
んのかゆみは既存治療に抵抗性であり、私ども透析
を投与したラットを1時間白色側に入れ、2日目には生
に抑制されたことから、この作用がκ受容体を介して
医も手立てがなく治療に苦慮していた。
理食塩水を投与して1時間黒色側に入れる。1日目、
発現していることが証明された1)。この結果を受けて、
血液透析患者におけるそう痒症の実態調査では、
2日目と同じことを3日目、4日目に繰り返し、5日目に
ナルフラフィン塩酸塩は止痒薬としての道を歩み始め
血液透析患者の約73%にかゆみの経験があり、その
白色側と黒色側の境を外してどちらにも行けるように
たのである。その後、血液透析患者さんのかゆみ治
うち43%は中等度∼重度の強いかゆみに悩まされて
して15分間観察し、
それぞれの箱の滞在時間を調べ
療への応用が検討され、熊谷先生らのご尽力により
おり、かゆみで目を覚ます症例が48%にみられること
るというものである。白色側に長く滞在すれば被験薬
数多くの臨床試験を積み重ねた結果、血液透析患者
から 、かゆみはただの 訴え ではなく、 治療すべき
には依存性があると判断され、黒色側に長く滞在すれ
におけるそう痒症改善剤レミッチ が誕生した。
疾患 としてとらえるべきである。このような状況の中
試験1(臨床薬理試験)
でナルフラフィン塩酸塩と出会い、難治性であった血
当時在籍していた慶應義塾大学病院腎臓内科に
液 透析患者におけるそう痒症に治療の希望が生ま
おいて臨床薬理オープン試験として行い、既存治療
れたのである。
抵 抗性のかゆみを有する血液 透析患者6例に対し
在時間がほぼ同じであれば、依存性も嫌悪性もないと
®
サブスタンスP誘発マウス引っ掻き行動に対する抑制効果
図8
判断される。結果として、モルヒネでは用量依存的に
白色側の滞在時間が長くなり依存性が認められたの
100
ことから依存性も嫌悪性もないと考えられた(図7)。
薬物選好性試験(ラット)
900
**
600
薬物選好性︵秒︶
*
300
ナルフラフィン
塩酸塩
モルヒネ
**
0
-300
*p<0.05
**p<0.01 vs.各対照薬
Student's t-test
平均値±標準誤差
-600
-900
0.001
0.01
0.1
1
用量(mg/kg,皮下投与)
10
長瀬 博ほか:オピオイドの基礎と臨床(鎮痛薬・オピオイドペプチド研究会編),エルゼビア・ジャパン: 144-154, 2000 改変
分 間 に 引 っか く 回 数
の鎮痛薬としての臨床試験を始めた。しかし、強力
50
30
**
0
200
0
0
3
10 30 100
ケトチフェンフマル酸塩
200
150
150
100
100
50
50
0
0
0
0 0.1
1
10 100
(mg/kg, p.o.)
(n=8)
PBS
(対照)
サブスタンス P
(250nmol/body, i.d.)
クロルフェニラミン
マレイン酸塩
0
1
3
10 30
(mg/kg, p.o.)
(n=8)
p<0.01(Dunnett s test)
平均値±標準誤差
**
Togashi Y, Nagase H et al.: Eur J Pharmacol 435: 259, 2002
健常者
(n=28)
かゆみなし
(n=19)
中等度かゆみ 強度かゆみ
(n=8)
(n=10)
透析患者
6.0
5.0
[μ/κ]比
平均値 ± 標準偏差
4.0
3.0
A
/
2.17
2.48
2.83
3.59
1.0
0
健常者
(n=28)
かゆみなし 中等度かゆみ 強度かゆみ
(n=19)
(n=8)
(n=10)
透析患者
熊谷裕生ほか:臨床透析 22: 763, 2006
て、ナルフラフィン塩酸塩10μgを朝食前に単回経口
投与した4)。かゆみはVASとそう痒の程度の判定基
系によるかゆみ抑制」仮説の検証試験*1
準(白取)を用いて定量的に評価した。その結果、全
私どもは、健常者と血液透析患者の血中オピオイ
例でナルフラフィン塩酸塩の投与によりVAS値の著
ドペプチド濃度を測定した。その結果、かゆみの強
明な低下が認められた。
ン濃度が高く、β-エンドルフィンとκ受容体アゴニス
試験2(前期第Ⅱ相臨床試験)
トであるダイノルフィンの比を算出したところ、かゆみ
予想以上の効果に手ごたえを感じた私どもは、次
の強い患者ほど、比が大きかった(図9)
。この結果か
にプラセボを対照とした前向き二重盲検比較試験を
ら、かゆみのある血液透析患者では、κ受容体に比
行った4)。全国の既存治療抵抗性のかゆみを有する
べてμ受容体が相対的に優位であることが示唆され、
血液透析患者88例を、プラセボまたはナルフラフィン
「μオピオイド系はかゆみを誘発し、
κオピオイド系は
0
0
2)
い患者ほどμ受容体アゴニストであるβ-エンドルフィ
(μg/kg, p.o.)
(n=8)
20
2.0
ナルフラフィン塩酸塩を使った「κオピオイド
150
に対して、ナルフラフィン塩酸塩は中性的性質を示した
その後、大きな期待とともにナルフラフィン塩酸塩
ナルフラフィン塩酸塩
200
40
β エ
- ンドルフィン
ダイノルフィン 比
ば嫌悪性があると判断される。白色側と黒色側の滞
6
かゆみ治療薬ナルフラフィン塩酸塩の誕生秘話
モルヒネを投与された患者さんが重篤なかゆみを
nor-BNI
図7
Session 3
塩酸塩5μg、10μgの3群に無作為に割り当て、投与
3)
かゆみを抑制する」
という仮説を2004年に提唱した 。
前と投与期間中のVAS変化量を比較した。ナルフラ
この仮説を検証するために、長瀬先生のグループが
フィン塩酸塩5μg投与群ではプラセボ投与群に比べ
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、
1日1回5μgを限度とする。
7
て有意にかゆみを抑制したことから、ナルフラフィン
塩酸塩の止痒作用は、その鎮痛作用に比べてごく少
図11 血液透析患者に対するナルフラフィンの有効性(長期試験、VAS値の推移)
(mm)
100
量で発現することが示唆されたが、10μg投与時で
は有意な差が認められなかった。
平均値±標準偏差
90
80
70
血液 透析患者のかゆみ治療戦略と
レミッチ®への期 待
値
V 60
A 50
S
40
Discussion
30
試験3(検証的試験)
20
そこで、各群110例以上を集めて14日間のランダム
化前向き二重盲検試験を行った 。プラセボまたは
5)
ナルフラフィン塩 酸 塩2.5μg、5μgの3群において、
前 観 察 期間14日間の後、1日1回14日間原則夕食後
に経口投与し、投与終了後8日間観察を行った。その
4週目
12週目 24週目 36週目 52週目 投与終了後4週目
(211) (208) (198) (184) (163) (155) (145) (185)
平均VAS値 75.2
51.0
47.2
39.4
33.6
31.9
30.9
レミッチ®の発売により「かゆみは
レミッチ®発 売 から2年が 経 過した2011年、全 国
た(図10)。副作用発現率はナルフラフィン塩酸塩2.5
114施設のレミッチ®投与患者約700例についてかゆ
μg群 で112例 中28例(25.0%)、5μg群 で114例 中
み治療の実 態調査を行った。レミッチ®の投与によ
40例(35.1%)、プラセボ群で111例中18例(16.2%)
り、半数の施設で7割以上の患者のかゆみが改善し
前観察期間からの
(mm)
0
(図12左上)
、8割の施設で投与後2週間以内にかゆ
レミッチ®2.5μg投与群(n=112)
レミッチ®5μg投与群(n=114)
*:p<0.025
共分散分析(ANCOVA)
による片側検定
vs.プラセボ群
みの改善効果がみられた(図12右上)
。また、かゆみ
による不眠を訴える患者数が減少した施設も6割み
られ(図12左下)
、
7割の施設で既存の止痒薬の中止・
減量・変更が可能となった(図12右下)
。かゆみが改
かゆみ伝達経路の上位を抑える
善したことで掻くことが減り、皮膚病変および痒疹
レミッチ®の作用
みにどう対処されていたのでしょうか。
が軽快した症例もみられた。
髙森 長瀬先生にお伺いします。レミッチ®の開発に
熊谷 血液透析患者さんにおけるそう痒症は内科で
副作用で最も多いのは「寝つきづらい感じ」である
はどのくらい時間がかかったのですか。
も皮膚科でも有効な治療をしてもらえないとあきら
が、その場合には、服用時間を就寝前ではなく、朝
長瀬 鎮痛薬として検討した時期も含めて17年かか
め、患者さんは自分たちなりに、冷やしたり保湿した
または透析日は透析後の日中にずらすことによって、
りました。
りと、いろいろされていました。しかし、どうしても我
多くの患者さんで投薬を中止することなく治療を続け
髙森 レミッチ は、長きにわたる開発研究で 鎮 痛
慢できなくて、とにかく掻きむしっていました。一昔
ることができている 。
薬から止痒薬へと変遷をたどったわけですね。その
前は孫の手は必需品でしたね。しかし、掻けば掻く
試験4(長期投与試験)
レミッチ の発売から2年が経過し、レミッチ を服
止痒作用が、モルヒネによるかゆみだけでなく、サブ
ほどかゆみとひっかきの悪循環が働いてかゆみが増
用している患者さんは全国で約18,000例と推定され
スタンスPやヒスタミンによるかゆみなど、我々が経
すため、皮 膚トラブルも悪化していました。さらに、
次に、そう痒症を有する血液透析患者211例を対
る。多くの血液透析患者さんのかゆみを改善したこ
験するあらゆるかゆみに対して有効であるのはなぜ
第一世代の抗ヒスタミン薬などの副作用で眠気やふ
象としたオープンラベル試験において、ナルフラフィ
とに加えて、透析医の間に「かゆみは治療すべき疾
なのでしょうか。
らつきを起こす方もみられました。研修医時代のこ
ン塩酸塩5μgを1年間1日1回原則夕食後に経口投与
患である」という認 識を広げたことも、レミッチ が
長瀬 皮膚においては様々な物質がかゆみを引き起
の体験が、私をレミッチ®の臨床試 験に向かわせた
し、安全性、有効性、依存性の有無について評価し
もたらした大きな功績であろう。
こしますが、すべての刺激は中枢神経系に送られて、
のだと思います。
-10
*
-20
*
*
変化量
*
-30
レミッチ 2.5μgまたはプラセボ
®
かゆみに対するベース治療薬(種類、用法・用量:一定)
前観察期間
14 日間
投与期間
前半 7 日間
投与期間
後半 7 日間
後観察期間
8 日間
#投与期間後半7日間の朝夕いずれか大きい方のVAS値を用いた変化量
Kumagai H et al.: Nephrol Dial Transplant 25: 1251, 2010
*1
®
た 。投与開始後2週目からVAS値は減少し、投与終
6)
了52週目まで持続した(図11)
。副作用発現率は211
例中103例(48.8%)
で、主な副作用は不眠であった
が、治療開始後、比較的早期に発現し、70.7%は軽
度であった。依存性の有無については、東京慈恵会
医科大学名誉教授柳田知司先生らによる依存性評
価委員会作成の問診票にて調査したところ、精神依
存、身体依存ともに認められなかった。こうしてナル
フラフィン塩酸塩は2009年1月にようやく製造販売
承認を受け、血液透析患者におけるそう痒症改善剤
レミッチ が実用化されたのである。
®
8
47.9
東レ株式会社 社内資料
では、プラセボ群と比較して有意にかゆみを抑制し
プラセボ群(n=111)
-40
前観察期間 2週目
(例数)
治療されるべき疾患」の認識が広がる
図10 血液透析患者に対するナルフラフィンの有効性(検証試験、VAS変化量の推移)
#
0
結果、ナルフラフィン塩酸塩2.5μgおよび5μg投与群
であり、主な副作用は不眠であった。
V
A
S
10
®
®
最終的には脳がかゆみを感じていると思われます。
図12 レミッチ® 投与後の変化(アンケート結果)
かゆみが改善した患者の割合
(%)
4.3
10.6
7.4
38.3
39.4
かゆみ改善時期
(%)
3.3
9.8
ほぼ全例
7割∼9割
3割∼6割
0∼2割
不明
かゆみによる不眠を訴える患者数
(%)
12.9
3.3
33.7
50
投与後∼1週間
投与後∼2週間
投与後∼1ヵ月
投与後∼3ヵ月
個々によって違う
既存治療薬の中止・減量・変更
(%)
30.1
22.6
64.5
69.9
減少
変わらない
もともとない
®
あり
なし
レミッチ®は中枢でのかゆみの認識を抑制するため
保湿の重要性
に、様々な機序によるかゆみを抑えることができるの
髙森 血液透析患者さんには乾燥肌の人が多いで
だと考えています。
すが、皮膚の乾燥もかゆみの大きな原因となります
レミッチ 登場前の
®
ので、その対策も重要ですね。
熊谷 その通りだと思います。私もレミッチ®の開発
透析そう痒症患者さんの状況
に携わったことで、皮膚科の先生方から皮膚の乾燥
髙 森 血液 透 析患 者さんのかゆみは、熊 谷先 生、
が血液透析患者さんのかゆみの原因として非常に重
裵先生のお話をお伺いして、患者さんにとって大変
要であることを教わりました。ですから、レミッチ®の
つらいものであることがよくわかりました。レミッチ®
講演をさせていただく際には、かゆみ対策のひとつ
が使用可能となるまでは、血液透析患者さんはかゆ
として保湿が重要だということを強調しています。
9
て有意にかゆみを抑制したことから、ナルフラフィン
塩酸塩の止痒作用は、その鎮痛作用に比べてごく少
図11 血液透析患者に対するナルフラフィンの有効性(長期試験、VAS値の推移)
(mm)
100
量で発現することが示唆されたが、10μg投与時で
は有意な差が認められなかった。
平均値±標準偏差
90
80
70
血液 透析患者のかゆみ治療戦略と
レミッチ®への期 待
値
V 60
A 50
S
40
Discussion
30
試験3(検証的試験)
20
そこで、各群110例以上を集めて14日間のランダム
化前向き二重盲検試験を行った 。プラセボまたは
5)
ナルフラフィン塩 酸 塩2.5μg、5μgの3群において、
前 観 察 期間14日間の後、1日1回14日間原則夕食後
に経口投与し、投与終了後8日間観察を行った。その
4週目
12週目 24週目 36週目 52週目 投与終了後4週目
(211) (208) (198) (184) (163) (155) (145) (185)
平均VAS値 75.2
51.0
47.2
39.4
33.6
31.9
30.9
レミッチ®の発売により「かゆみは
レミッチ®発 売 から2年が 経 過した2011年、全 国
た(図10)。副作用発現率はナルフラフィン塩酸塩2.5
114施設のレミッチ®投与患者約700例についてかゆ
μg群 で112例 中28例(25.0%)、5μg群 で114例 中
み治療の実 態調査を行った。レミッチ®の投与によ
40例(35.1%)、プラセボ群で111例中18例(16.2%)
り、半数の施設で7割以上の患者のかゆみが改善し
前観察期間からの
(mm)
0
(図12左上)
、8割の施設で投与後2週間以内にかゆ
レミッチ®2.5μg投与群(n=112)
レミッチ®5μg投与群(n=114)
*:p<0.025
共分散分析(ANCOVA)
による片側検定
vs.プラセボ群
みの改善効果がみられた(図12右上)
。また、かゆみ
による不眠を訴える患者数が減少した施設も6割み
られ(図12左下)
、
7割の施設で既存の止痒薬の中止・
減量・変更が可能となった(図12右下)
。かゆみが改
かゆみ伝達経路の上位を抑える
善したことで掻くことが減り、皮膚病変および痒疹
レミッチ®の作用
みにどう対処されていたのでしょうか。
が軽快した症例もみられた。
髙森 長瀬先生にお伺いします。レミッチ®の開発に
熊谷 血液透析患者さんにおけるそう痒症は内科で
副作用で最も多いのは「寝つきづらい感じ」である
はどのくらい時間がかかったのですか。
も皮膚科でも有効な治療をしてもらえないとあきら
が、その場合には、服用時間を就寝前ではなく、朝
長瀬 鎮痛薬として検討した時期も含めて17年かか
め、患者さんは自分たちなりに、冷やしたり保湿した
または透析日は透析後の日中にずらすことによって、
りました。
りと、いろいろされていました。しかし、どうしても我
多くの患者さんで投薬を中止することなく治療を続け
髙森 レミッチ は、長きにわたる開発研究で 鎮 痛
慢できなくて、とにかく掻きむしっていました。一昔
ることができている 。
薬から止痒薬へと変遷をたどったわけですね。その
前は孫の手は必需品でしたね。しかし、掻けば掻く
試験4(長期投与試験)
レミッチ の発売から2年が経過し、レミッチ を服
止痒作用が、モルヒネによるかゆみだけでなく、サブ
ほどかゆみとひっかきの悪循環が働いてかゆみが増
用している患者さんは全国で約18,000例と推定され
スタンスPやヒスタミンによるかゆみなど、我々が経
すため、皮 膚トラブルも悪化していました。さらに、
次に、そう痒症を有する血液透析患者211例を対
る。多くの血液透析患者さんのかゆみを改善したこ
験するあらゆるかゆみに対して有効であるのはなぜ
第一世代の抗ヒスタミン薬などの副作用で眠気やふ
象としたオープンラベル試験において、ナルフラフィ
とに加えて、透析医の間に「かゆみは治療すべき疾
なのでしょうか。
らつきを起こす方もみられました。研修医時代のこ
ン塩酸塩5μgを1年間1日1回原則夕食後に経口投与
患である」という認 識を広げたことも、レミッチ が
長瀬 皮膚においては様々な物質がかゆみを引き起
の体験が、私をレミッチ®の臨床試 験に向かわせた
し、安全性、有効性、依存性の有無について評価し
もたらした大きな功績であろう。
こしますが、すべての刺激は中枢神経系に送られて、
のだと思います。
-10
*
-20
*
*
変化量
*
-30
レミッチ 2.5μgまたはプラセボ
®
かゆみに対するベース治療薬(種類、用法・用量:一定)
前観察期間
14 日間
投与期間
前半 7 日間
投与期間
後半 7 日間
後観察期間
8 日間
#投与期間後半7日間の朝夕いずれか大きい方のVAS値を用いた変化量
Kumagai H et al.: Nephrol Dial Transplant 25: 1251, 2010
*1
®
た 。投与開始後2週目からVAS値は減少し、投与終
6)
了52週目まで持続した(図11)
。副作用発現率は211
例中103例(48.8%)
で、主な副作用は不眠であった
が、治療開始後、比較的早期に発現し、70.7%は軽
度であった。依存性の有無については、東京慈恵会
医科大学名誉教授柳田知司先生らによる依存性評
価委員会作成の問診票にて調査したところ、精神依
存、身体依存ともに認められなかった。こうしてナル
フラフィン塩酸塩は2009年1月にようやく製造販売
承認を受け、血液透析患者におけるそう痒症改善剤
レミッチ が実用化されたのである。
®
8
47.9
東レ株式会社 社内資料
では、プラセボ群と比較して有意にかゆみを抑制し
プラセボ群(n=111)
-40
前観察期間 2週目
(例数)
治療されるべき疾患」の認識が広がる
図10 血液透析患者に対するナルフラフィンの有効性(検証試験、VAS変化量の推移)
#
0
結果、ナルフラフィン塩酸塩2.5μgおよび5μg投与群
であり、主な副作用は不眠であった。
V
A
S
10
®
®
最終的には脳がかゆみを感じていると思われます。
図12 レミッチ® 投与後の変化(アンケート結果)
かゆみが改善した患者の割合
(%)
4.3
10.6
7.4
38.3
39.4
かゆみ改善時期
(%)
3.3
9.8
ほぼ全例
7割∼9割
3割∼6割
0∼2割
不明
かゆみによる不眠を訴える患者数
(%)
12.9
3.3
33.7
50
投与後∼1週間
投与後∼2週間
投与後∼1ヵ月
投与後∼3ヵ月
個々によって違う
既存治療薬の中止・減量・変更
(%)
30.1
22.6
64.5
69.9
減少
変わらない
もともとない
®
あり
なし
レミッチ®は中枢でのかゆみの認識を抑制するため
保湿の重要性
に、様々な機序によるかゆみを抑えることができるの
髙森 血液透析患者さんには乾燥肌の人が多いで
だと考えています。
すが、皮膚の乾燥もかゆみの大きな原因となります
レミッチ 登場前の
®
ので、その対策も重要ですね。
熊谷 その通りだと思います。私もレミッチ®の開発
透析そう痒症患者さんの状況
に携わったことで、皮膚科の先生方から皮膚の乾燥
髙 森 血液 透 析患 者さんのかゆみは、熊 谷先 生、
が血液透析患者さんのかゆみの原因として非常に重
裵先生のお話をお伺いして、患者さんにとって大変
要であることを教わりました。ですから、レミッチ®の
つらいものであることがよくわかりました。レミッチ®
講演をさせていただく際には、かゆみ対策のひとつ
が使用可能となるまでは、血液透析患者さんはかゆ
として保湿が重要だということを強調しています。
9
髙 森 かゆみを伝 達する神 経 線 維であるC線 維は、
フィンやダイノルフィンなどの内因性オピオイドも皮膚に
ブスタンスPが遊離するのですが、これがケラチノサイト
正常な皮膚では表皮と真皮の境界部に終焉しています
存在することがわかりました。この発見によって、これ
のニューロキニン
(NK)1受容体に結合すると、ケラチノ
が、乾燥肌になると表皮の角層直下にまで伸びてきて
まで中枢神経系のみで働くと考えられていたオピオイ
サイトから様々な炎症性サイトカインが遊離して、かゆみ
います(図13)
。乾燥肌では角層のバリア機能が低下し
ドが、末梢でのかゆみ誘発にも関与していることが示
と共に皮疹を増悪させるのです
(図16)
。サブスタンスP
ているために、C線維は外界からの刺激を直接受けや
唆されたのです。難治性のかゆみの機序には、末梢の
は肥満細胞のNK1 受容体にも結合し、肥満細胞から
すく、かゆみが起こりやすくなっていると考えられます。
オピオイド系がかかわっているものと思われます。
ヒスタミンやトリプターゼを遊離させてC線維を刺激す
特に冬場には皮膚が乾燥しやすく、かゆみが非常に起
熊谷 つまり、レミッチ は中枢神経系だけでなく、皮
るため、かゆみがさらに増すのです。このような経路に
透析によって半分が除かれます。薬剤の蓄積を211例
きやすい状況になります。C線維が伸びるのは、角層の
膚局所においてもκ受容体を活性化させることによっ
対しては、抗ヒスタミン薬が奏効すると考えられます。
の血液透析患者さんで1年間調べましたが、蓄積は起
バリア機能が破壊されていることを知らせるシグナルな
てかゆみを抑えるかもしれないのですね(図14)。
裵 私も以前から、ケラチノサイトはいろいろな側面で
こらないことが確認されました6)。
のではないかと思っています。保湿剤の外用は、伸び
髙森 今後、かゆみ治療 薬としてκ受容体の発現亢
重要な役割をしていると考えており、ケラチノサイトが
長瀬 レミッチ®の発売から1年間は、安全性を心配さ
ていたC線維を元に戻し、皮膚の過敏性を弱める作用
進、あるいはダイノルフィンの合成促進などの機序をも
サブスタンスPを産生することを報告しています 9)。マウ
れたためか、あまり使っていただけなかったようですね。
があります 。
つ治療薬の可能性が考えられますね。
スを使ったサブスタンスPの遊離実験では、抗ヒスタミ
熊谷 本当に安全かどうか様子を見ていたと思います
ン薬に遊離抑制効果が認められていることから、一定
が、現在は18,000例の方が使っておられます。
の効果は期待できると思います 10)。
髙森 これまでのお話で、ナルフラフィン塩酸塩が血
長瀬 かゆみが抑制されたことで皮膚の状態が改善
髙森 保湿剤と抗ヒスタミン薬を併用しながら、最終
液透析患者さんのそう痒症改善剤レミッチ®へと成長
されたということですが、かゆみがなくなって、掻かな
的にはレミッチ® でかゆみを軽減することで、皮膚症状
した過程、止痒薬としての将来性などが明らかになり
くなることで皮膚症状が改善したのでしょうか。
も改善するのですね。
ました。今後、レミッチ®に対する理 解が一 般化して、
裵 そうだと思います。かゆみの軽減とともに掻破行動
熊谷 皮膚がきれいになると患者さんは大変喜びます。
透析医と皮膚科医がもっと積極的に血液透析患者さ
7)
熊谷 保湿は非常に重要なかゆみ治療といえますね。
図13
C線維の表皮内伸長
刺激(機械的、化学的、物理的)
皮脂膜
角層
角質細胞
表皮
角質細胞間
脂質
表皮真皮
境界部
真皮
汗腺
C 線維
汗腺
皮脂腺
健康な皮膚
C 線維
®
かゆみの悪循環を断つことで皮膚状態が改善
がなくなり、掻破痕が消失した症例を経験しました(図
15)
。掻破による皮疹などの皮膚病変の改善も、イッチ・
発売後2年での安全性について
スクラッチサイクルが止められたことによると考えます。
長瀬 臨床での使用経 験から、レミッチ の安全性に
髙森 掻くことが刺激となって、C線維神経終末からサ
ついて懸念される点はありますか。
図15
乾燥肌
皮膚症状(右腰部)
す。それも、服用時間を朝に変更することで対処でき
乾皮症、掻破痕
ており、ドロップアウトにつながるものではありません
でした*1。全身状態が必ずしも良好とはいえないケース
中枢だけではない。
に1年以上投与しても、今のところ重篤な副作用は認
オピオイド受容体は皮膚にも発現
められないので、私は安心して使用しています。
髙森 アトピー性皮膚炎を研究する中で発見したので
髙森 薬剤
(レミッチ)
の排泄はどのようになっていますか。
すが、皮 膚のケラチノサイトにもμやκなどのオピオイ
熊谷 半分は胆汁排 泄で、半分は腎排 泄です。血液
ド受容体が発現しているのです8)。さらに、β-エンドル
2011年1月
®
PAG, 中脳水道周囲の灰白質
PAG(κ?)
視床 (μ)
レミッチ
表皮のκ-受容体
表皮
κ-受容体
β-エンドルフィン
真皮 μ-受容体
求心性C-線維
表皮細胞
NK1受容体
ケラチノ
サイト
神経成長因子
皮膚
μ-受容体
肥満細胞
患者さんがチェック!
®
κ-受容体
μ-オピオイド系
β-エンドルフィン
【引用文献】
1) Togashi Y, Nagase H et al.: Eur J Pharmacol 435: 259, 2002
2) 大森健太郎ほか:日本透析会誌 34: 1469, 2001
3) 熊谷裕生ほか:総合臨床 53: 1678, 2004
4) 熊谷裕生ほか:臨床透析 22: 763, 2006
5) Kumagai H et al.: Nephrol Dial Transplant 25: 1251, 2010
6) 東レ株式会社 社内資料
7) Kamo A, Takamori K et al.: J Dermatol Sci 62: 64, 2011
8) Tominaga M, Ogawa H, Takamori K et al.: J Invest Dermatol
127: 2228, 2007
9) Bae S et al.: Biochem Biophys Res Commun 263: 327, 1999
10) 裵祥宰ほか:臨牀と研究 85:568,2008
*3: そう痒の程度の判定基準(白取)
程度
日中の症状
夜間の症状
4:激烈な
かゆみ
いてもたってもいられないかゆみ。
掻いてもおさまらず、ますますかゆ
くなり仕事も勉強も手につかない。
かゆくてほとんど眠れず、しょ
っちゅう掻いているが、掻くと
ますますかゆみが強くなる。
3:中等度の
かゆみ
かなりかゆく、人前でも掻く。
かゆみのためイライラし、た
えず掻いている。
かゆくて目がさめる。ひと掻
きすると一応眠るが、無意識
のうちに眠りながら掻く。
2:軽度な
かゆみ
ときに手がゆき、軽く掻く程度
で一応おさまり、あまり気にな
らない。
多少のかゆみはあるが、掻け
ばおさまる。かゆみのために
目がさめることはない。
1:軽微な
かゆみ
ときにむずむずするが、とくに
掻かなくても我慢できる。
就寝時わずかにかゆいが、特
に意 識して掻くほどでない。
よく眠れる。
0:症状なし
ほとんどあるいはまったくか
ゆみを感じない。
ほとんどあるいはまったくか
ゆみを感じない。
抑制
DHN, 脊髄後角のニューロン DHN(μ?)or DRG
DRG, 後根神経節
100mm
力学的
熱的
化学的
外部からの刺激
かゆみ
*2: VAS(Visual Analogue Scale)
図16 乾燥肌におけるかゆみ感受性亢進のメカニズム
かゆい!
みません。本日はありがとうございました。
2011年2月
VAS: 90mm→20mm 2011年2月
そう痒の程度の
BUN: 11.4mg/dL
判定基準(白取)
:4→2
Cr: 2.46mg/dL
図14 かゆみの伝達経路とレミッチ の作用機序
レミッチ
かゆみ
®
TNF-α
IL-1
神経成
長因子
μ-オピオイド系
κ-受容体
TNF受容体
ケラチノ
サイト
サブスタンスP
NK1
受容体
H1受容体
PAR-2
トリプターゼ
ヒスタミン
β-エンドルフィン
μ-受容体
肥満
細胞
かゆみなし(0)
考えられる
最大のかゆみ
(100)
VAS値(mm)
ケラチノ
サイト
抑制
NK1
受容体
かゆみ
熊谷裕生、髙森建二、鈴木洋通ほか:透析医会誌 24: 387, 2009
10
しむすべての患者さんのQOLが高まることを願ってや
®
裵 私の経 験した副作用は、軽度の睡眠障 害だけで
皮脂腺
髙森建二:日本醫事新報 4262: 1, 2005
んのそう痒症治療に取り組むことにより、かゆみに苦
髙森建二:日本醫事新報 4262: 1, 2005
100mmの 線分の両端を、「かゆみなし(0)」と「考えられる最大
のかゆみ(100)」とし、かゆみの程 度に応じて線 分上の1箇 所に
印をつけ、左端からの距離をVAS値として扱う。
白取 昭ほか:西日皮膚 45: 1042, 1983
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、1日1回5μg
を限度とする。
11
髙 森 かゆみを伝 達する神 経 線 維であるC線 維は、
フィンやダイノルフィンなどの内因性オピオイドも皮膚に
ブスタンスPが遊離するのですが、これがケラチノサイト
正常な皮膚では表皮と真皮の境界部に終焉しています
存在することがわかりました。この発見によって、これ
のニューロキニン
(NK)1受容体に結合すると、ケラチノ
が、乾燥肌になると表皮の角層直下にまで伸びてきて
まで中枢神経系のみで働くと考えられていたオピオイ
サイトから様々な炎症性サイトカインが遊離して、かゆみ
います(図13)
。乾燥肌では角層のバリア機能が低下し
ドが、末梢でのかゆみ誘発にも関与していることが示
と共に皮疹を増悪させるのです
(図16)
。サブスタンスP
ているために、C線維は外界からの刺激を直接受けや
唆されたのです。難治性のかゆみの機序には、末梢の
は肥満細胞のNK1 受容体にも結合し、肥満細胞から
すく、かゆみが起こりやすくなっていると考えられます。
オピオイド系がかかわっているものと思われます。
ヒスタミンやトリプターゼを遊離させてC線維を刺激す
特に冬場には皮膚が乾燥しやすく、かゆみが非常に起
熊谷 つまり、レミッチ は中枢神経系だけでなく、皮
るため、かゆみがさらに増すのです。このような経路に
透析によって半分が除かれます。薬剤の蓄積を211例
きやすい状況になります。C線維が伸びるのは、角層の
膚局所においてもκ受容体を活性化させることによっ
対しては、抗ヒスタミン薬が奏効すると考えられます。
の血液透析患者さんで1年間調べましたが、蓄積は起
バリア機能が破壊されていることを知らせるシグナルな
てかゆみを抑えるかもしれないのですね(図14)。
裵 私も以前から、ケラチノサイトはいろいろな側面で
こらないことが確認されました6)。
のではないかと思っています。保湿剤の外用は、伸び
髙森 今後、かゆみ治療 薬としてκ受容体の発現亢
重要な役割をしていると考えており、ケラチノサイトが
長瀬 レミッチ®の発売から1年間は、安全性を心配さ
ていたC線維を元に戻し、皮膚の過敏性を弱める作用
進、あるいはダイノルフィンの合成促進などの機序をも
サブスタンスPを産生することを報告しています 9)。マウ
れたためか、あまり使っていただけなかったようですね。
があります 。
つ治療薬の可能性が考えられますね。
スを使ったサブスタンスPの遊離実験では、抗ヒスタミ
熊谷 本当に安全かどうか様子を見ていたと思います
ン薬に遊離抑制効果が認められていることから、一定
が、現在は18,000例の方が使っておられます。
の効果は期待できると思います 10)。
髙森 これまでのお話で、ナルフラフィン塩酸塩が血
長瀬 かゆみが抑制されたことで皮膚の状態が改善
髙森 保湿剤と抗ヒスタミン薬を併用しながら、最終
液透析患者さんのそう痒症改善剤レミッチ®へと成長
されたということですが、かゆみがなくなって、掻かな
的にはレミッチ® でかゆみを軽減することで、皮膚症状
した過程、止痒薬としての将来性などが明らかになり
くなることで皮膚症状が改善したのでしょうか。
も改善するのですね。
ました。今後、レミッチ®に対する理 解が一 般化して、
裵 そうだと思います。かゆみの軽減とともに掻破行動
熊谷 皮膚がきれいになると患者さんは大変喜びます。
透析医と皮膚科医がもっと積極的に血液透析患者さ
7)
熊谷 保湿は非常に重要なかゆみ治療といえますね。
図13
C線維の表皮内伸長
刺激(機械的、化学的、物理的)
皮脂膜
角層
角質細胞
表皮
角質細胞間
脂質
表皮真皮
境界部
真皮
汗腺
C 線維
汗腺
皮脂腺
健康な皮膚
C 線維
®
かゆみの悪循環を断つことで皮膚状態が改善
がなくなり、掻破痕が消失した症例を経験しました(図
15)
。掻破による皮疹などの皮膚病変の改善も、イッチ・
発売後2年での安全性について
スクラッチサイクルが止められたことによると考えます。
長瀬 臨床での使用経 験から、レミッチ の安全性に
髙森 掻くことが刺激となって、C線維神経終末からサ
ついて懸念される点はありますか。
図15
乾燥肌
皮膚症状(右腰部)
す。それも、服用時間を朝に変更することで対処でき
乾皮症、掻破痕
ており、ドロップアウトにつながるものではありません
でした*1。全身状態が必ずしも良好とはいえないケース
中枢だけではない。
に1年以上投与しても、今のところ重篤な副作用は認
オピオイド受容体は皮膚にも発現
められないので、私は安心して使用しています。
髙森 アトピー性皮膚炎を研究する中で発見したので
髙森 薬剤
(レミッチ)
の排泄はどのようになっていますか。
すが、皮 膚のケラチノサイトにもμやκなどのオピオイ
熊谷 半分は胆汁排 泄で、半分は腎排 泄です。血液
ド受容体が発現しているのです8)。さらに、β-エンドル
2011年1月
®
PAG, 中脳水道周囲の灰白質
PAG(κ?)
視床 (μ)
レミッチ
表皮のκ-受容体
表皮
κ-受容体
β-エンドルフィン
真皮 μ-受容体
求心性C-線維
表皮細胞
NK1受容体
ケラチノ
サイト
神経成長因子
皮膚
μ-受容体
肥満細胞
患者さんがチェック!
®
κ-受容体
μ-オピオイド系
β-エンドルフィン
【引用文献】
1) Togashi Y, Nagase H et al.: Eur J Pharmacol 435: 259, 2002
2) 大森健太郎ほか:日本透析会誌 34: 1469, 2001
3) 熊谷裕生ほか:総合臨床 53: 1678, 2004
4) 熊谷裕生ほか:臨床透析 22: 763, 2006
5) Kumagai H et al.: Nephrol Dial Transplant 25: 1251, 2010
6) 東レ株式会社 社内資料
7) Kamo A, Takamori K et al.: J Dermatol Sci 62: 64, 2011
8) Tominaga M, Ogawa H, Takamori K et al.: J Invest Dermatol
127: 2228, 2007
9) Bae S et al.: Biochem Biophys Res Commun 263: 327, 1999
10) 裵祥宰ほか:臨牀と研究 85:568,2008
*3: そう痒の程度の判定基準(白取)
程度
日中の症状
夜間の症状
4:激烈な
かゆみ
いてもたってもいられないかゆみ。
掻いてもおさまらず、ますますかゆ
くなり仕事も勉強も手につかない。
かゆくてほとんど眠れず、しょ
っちゅう掻いているが、掻くと
ますますかゆみが強くなる。
3:中等度の
かゆみ
かなりかゆく、人前でも掻く。
かゆみのためイライラし、た
えず掻いている。
かゆくて目がさめる。ひと掻
きすると一応眠るが、無意識
のうちに眠りながら掻く。
2:軽度な
かゆみ
ときに手がゆき、軽く掻く程度
で一応おさまり、あまり気にな
らない。
多少のかゆみはあるが、掻け
ばおさまる。かゆみのために
目がさめることはない。
1:軽微な
かゆみ
ときにむずむずするが、とくに
掻かなくても我慢できる。
就寝時わずかにかゆいが、特
に意 識して掻くほどでない。
よく眠れる。
0:症状なし
ほとんどあるいはまったくか
ゆみを感じない。
ほとんどあるいはまったくか
ゆみを感じない。
抑制
DHN, 脊髄後角のニューロン DHN(μ?)or DRG
DRG, 後根神経節
100mm
力学的
熱的
化学的
外部からの刺激
かゆみ
*2: VAS(Visual Analogue Scale)
図16 乾燥肌におけるかゆみ感受性亢進のメカニズム
かゆい!
みません。本日はありがとうございました。
2011年2月
VAS: 90mm→20mm 2011年2月
そう痒の程度の
BUN: 11.4mg/dL
判定基準(白取)
:4→2
Cr: 2.46mg/dL
図14 かゆみの伝達経路とレミッチ の作用機序
レミッチ
かゆみ
®
TNF-α
IL-1
神経成
長因子
μ-オピオイド系
κ-受容体
TNF受容体
ケラチノ
サイト
サブスタンスP
NK1
受容体
H1受容体
PAR-2
トリプターゼ
ヒスタミン
β-エンドルフィン
μ-受容体
肥満
細胞
かゆみなし(0)
考えられる
最大のかゆみ
(100)
VAS値(mm)
ケラチノ
サイト
抑制
NK1
受容体
かゆみ
熊谷裕生、髙森建二、鈴木洋通ほか:透析医会誌 24: 387, 2009
10
しむすべての患者さんのQOLが高まることを願ってや
®
裵 私の経 験した副作用は、軽度の睡眠障 害だけで
皮脂腺
髙森建二:日本醫事新報 4262: 1, 2005
んのそう痒症治療に取り組むことにより、かゆみに苦
髙森建二:日本醫事新報 4262: 1, 2005
100mmの 線分の両端を、「かゆみなし(0)」と「考えられる最大
のかゆみ(100)」とし、かゆみの程 度に応じて線 分上の1箇 所に
印をつけ、左端からの距離をVAS値として扱う。
白取 昭ほか:西日皮膚 45: 1042, 1983
*1【用法及び用量】通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、1日1回5μg
を限度とする。
11
chairman
Kenji Takamori
司会:
髙森 建二 先生
順天堂大学医学部附属
浦安病院 院長
座談会
世界初の選択的κ受容体
作動性経口そう痒症改善剤
レミッチ ® の
誕生秘話と今後の展望
2011年11月5日(日)
ストリングスホテル東京インターコンチネンタル
熊谷 裕生 先生
防衛医科大学校
腎臓内科 准教授
participant
Hiroo Kumagai
participant
Sangjae Bae
裵 祥宰 先生
千鳥橋病院 皮膚科 科長
participant
Hiroshi Nagase
長瀬 博 先生
北里大学薬学部 教授
Round Table Discussion
2012年3月作成
IF30-1203P
RMT TC005A
記載されている薬剤の使用にあたっては添付文書をご参照ください。
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