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東レ半導体用接着剤シート
東レ半導体用接着剤シート 1. はじめに 電子機器の軽薄・短小化、高機能化の勢いはとどまるところを知らない。この流れから、 半導体パッケージにも小型化、高速化が要求されており、従来の TSOP(Thin Small Out Line Package)や QFP(Quad Flat Package)に替わって CSP(Chip Size Package)や BGA(Ball Grid Array)などの外部端子がエリアアレイに配置された小型・多ピン半導体 パッケージが急成長している。 中でも、高速化対応半導体パッケージの多ピン化が進むにつれ、大きな問題となってき たのが半導体駆動時の発熱問題であり、それに対応する目的で放熱板が搭載されるように なっている。東レでは、1997 年に BGA の放熱板貼り付け用に半導体用接着剤シート(TSA: Toray Semiconductor Adhesive)を開発・上市し、現在では多くのお客様にご使用頂いて いる。 一方、環境問題の観点から基板接続用に用いるはんだは、従来の Sn-Pb 共晶はんだから 鉛フリーはんだへの切り替えが進められている。特に、各半導体メーカーは欧州の WEEE /RoHS 指令の施行を 2006 年7月に控え、その導入を加速している。 材料面から見た鉛フリーはんだが導入される場合の最大の課題は、その融点の高さ (Sn-Pb 共晶はんだ:183℃、鉛フリーはんだ:220℃)であり、これにより基板搭載時の リフロー温度が従来の 230℃から 260℃に上がることとなる。 本章では、我々の進めている鉛フリーはんだ対応高耐熱接着剤シートの開発状況につい て報告する。 2. 鉛フリー対応接着剤シート開発における課題 半導体パッケージ用接着剤シートに対する課題は種々あるが、特有なものとして下記の 点が上げられる。また、放熱板を有する BGA の代表例として、図1に TBGA を示す。 放熱板 接着剤シート テープ基板 はんだボール ICチップ 図1.TBGA 半導体パッケージ用接着剤シートの課題 (1) 実装時における耐リフロー性 ⇒ 基板との接続不良、半導体パッケージ不良 (2) 実装後のサーマルサイクル性 ⇒ ハンダボール割れ、IC チップ割れ (3) 実装後の耐湿信頼性 ⇒ IC チップ配線腐食による電気的不良 上記課題の試験条件について、Sn-Pb ハンダと鉛フリーハンダを比較して表1にまとめ た。 表1.試験条件比較(Sn-Pbはんだ、鉛フリーはんだ) Sn-Pbはんだ 鉛フリーはんだ 融点(℃) 183℃ 220℃(Sn-3.0Ag-0.5Cu) 30℃/70%RH/192h加湿 30℃/70%RH/192h加湿 リフロー試験 ⇒Max.240℃IRリフロー×3回 ⇒Max.260℃IRリフロー×3回 サーマルサイクル試験 ー40×30min⇔25℃×30min⇔125℃×30min,≧500サイクル 耐湿信頼性試験 121℃/100%RH/2.1atm,≧300h 表1に示したとおり、試験条件で大きく異なるのはリフロー試験での最高到達温度であ る。他の試験は基板に半導体パッケージを実装した後、すなわちリフロー後に実施するも のであるから、この時点でなんらかの不良が発生していれば全て NG と判定されることに なるため、耐リフロー性は最も重要視される課題である。図2にリフロー炉と温度プロフ ァイルのイメージ図を示す。 図2-1.リフロー炉 熱風・赤外線加熱(230~260℃) 図2-2.リフロー炉 温度プロファイル ピーク温度:260℃ 260 240 温度 ( ℃) 220 200 180 160 230℃ 鉛フリーはんだ Sn-Pbはんだ 140 120 プレヒート 60-120sec 本加熱 30-50sec 時間(秒) 表1、図2に示したとおり、耐リフロー試験は吸湿させた半導体パッケージをはんだ接 続に必要な温度に曝して行われるため、吸湿した水分が気化し、その圧力によって放熱板 或いは半導体接続用基板と接着剤の界面が剥離するなどの不良が発生する。 3. 東レ熱硬化性接着剤シートの特性 表2に開発した熱硬化系接着剤シートの特性を示す。いずれも変性エポキシ系であり、 変性に用いる成分の種類、硬化系および添加剤により物性が異なるが、耐リフロー性を向 上するために開発品は TGA での熱分解温度、吸水率、接着力に注目して設計した。 表2.接着剤シートの特性 TSA-61 開発品1 開発品2 Sn-Pbはんだ対応 鉛フリーはんだ対応 鉛フリー+速硬化 接着剤特性 接着力(N/cm) 20 吸水率(%):85℃/85%RH/48h 1.2 熱分解開始温度(℃) 320 常温弾性率(MPa) 730 体積固有抵抗値(Ω・cm) 8.5×E14 信頼性試験 リフロー試験(℃) 240 サーマルサイクル試験 OK(240℃IR後) 耐湿信頼性試験(h) OK(240℃IR後) 硬化条件 150℃×1h 20 1.0 370 170 20 1.0 370 170 1.6×E15 260 OK(260℃IR後) OK(260℃IR後) 150℃×1h 180℃×1min 表2から、開発品1,2は現行品に比べて耐リフロー特性に優れていることがわかる。 現行品が 250℃で不良が発生するのに対して、開発品は共に目標の 260℃をクリアしている。 これは、熱分解温度と吸水率に起因しているものと考えている。 また、これら開発品はリフロー後に実施される信頼性試験もクリアしており、実用上十 分な特性を有すると考える。開発品2はユーザーでの工程短縮を目的としたものであり、 基本的に開発品1とほぼ同等の組成である。開発品1が 150℃で 1h 以上の硬化が必要であ るのに対して、開発品2は 180℃、数分の硬化でほぼ同等の耐リフロー特性を示す。 また、最近では更に高い IC の駆動温度を想定し長期高温放置試験が実施されるようにな ってきた。具体的には、150℃、500h と 175℃、500h の高温放置試験において接着剤特性 が大きく変化しないものが求められている。これらの要求に向け開発した高耐熱接着剤シ ートの特性を表3に示す。 表3.高耐熱接着剤シート 接着剤特性 接着力(N/cm) 吸水率(%):85℃/85%RH/48h 熱分解開始温度(℃) 常温弾性率(MPa) 体積固有抵抗値(Ω・cm) 信頼性試験 リフロー試験(℃) 150℃×500h 高温放置試験 175℃×500h サーマルサイクル試験 耐湿信頼性試験 硬化条件 開発品3 開発品4 10 1.1 390 260 1×E15 10 1.1 390 300 1×E15 260 260 OK OK OK NG OK(260℃IR後) OK(260℃IR後) 170℃×2h 表3の高温(150℃、175℃)放置試験は、放置後の弾性率と Tg の変化量で判断し、500 時間放置後の変化率が 10%以下であるものを合格とした。これにより、開発品3は 150℃ 以下の環境下で、開発品4は 175℃以下の環境下での使用に対応可能であると考えている。 4. おわりに 以上のように、当社は鉛フリーはんだ、すなわち高温リフローに耐えうる半導体接着剤 シートを開発・上市し、多くのお客様から認定をいただいている。今後は、一部試作状況 を紹介したが、低コスト化に向け短時間硬化接着剤シートの開発を行うとともに、耐環境 性などにも配慮した材料開発を進めて行きたいと考えている。