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2.加速器第七研究系の活動
2.加速器第七研究系の活動 放射光科学研究施設 2015 年度年報 加速器研究施設 加速器第七研究系研究主幹 小林 幸則 31 2.加速器第七研究系の活動 2-1. 概要 加速器研究施設・加速器第七研究系は,放射光源加速器 加速器第七研究系 小林 幸則 教授・研究主幹 光源第1グループ 中村 典雄 教授・グループリーダー 原田 健太郎 准教授 高木 宏之 准教授 尾崎 俊幸 准教授 島田 美帆 研究機関講師 田中 オリガ 博士研究員 上田 明 専門技師 長橋 進也 技師 光源第2グループ 坂中 章悟 教授・グループリーダー 山本 尚人 助教 高橋 毅 専門技師 光源第3グループ 本田 融 教授・グループリーダー 谷本 育律 准教授 佐々木 洋征 助教 野上 隆史 技師 浅岡 聖二 シニアフェロー 光源第4グループ 帯名 崇 准教授・グループリーダー 高井 良太 助教 多田野 幹人 専任技師・技術副主幹 下ヶ橋 秀典 技師 光源第5グループ 宮内 洋司 准教授・グループリーダー 芳賀 開一 准教授 濁川 和幸 専門技師 佐藤 佳裕 技師 田原 俊央 技師 光源第6グループ 宮島 司 准教授・グループリーダー 本田 洋介 助教 山本 将博 助教 金 秀光 特別助教 内山 隆司 技師 光源第7グループ 加藤 龍好 教授・グループリーダー 土屋 公央 講師 阿達 正浩 助教 塩屋 達郎 専門技師 (PF リング,PF-AR,コンパクト ERL)の運転・維持・管 理および放射光将来計画へ向けた光源加速器開発やビーム ダイナミックスの研究を行っている。本研究系は,7つの グループで構成され,2015 年度は以下の表で示されるメ ンバーで活動を行ってきた。 光源第 1 グループは,主に PF リング,PF-AR および エネルギー回収リニアック実証器(コンパクト ERL)に おける軌道解析・ビーム力学の研究,電磁石および電磁 石電源システムの維持・管理および開発を担当している。 PF-AR のビーム輸送路については,KEKB-BT グループの 協力を得て業務を行っている。また,KEK 放射光計画で はラティス設計やビーム力学及び電磁石設計などを精力的 に進めており,EUV-FEL 光源計画でも全体のラティス設 計とバンチ圧縮を含むビーム輸送のシミュレーション研究 を行っている。 光源第 2 グループは,主に高周波加速(RF)システム を担当するとともに,光源加速器におけるビーム力学の研 究を行っている。また,KEK 放射光計画の RF システムの 検討も行っている。PF リングの RF システムの業務は光 源第 2 グループが単独で担当し,PF-AR の RF システムの 業務は光源第 2 グループと KEKB RF グループが共同で行 っている。 光源第 3 グループは,PF リング,PF-AR およびコンパ クト ERL の真空系を担当している。KEK 放射光計画の真 空系の検討も進めている。PF-AR 直接入射路建設に備え たビームダクトの製造・設置も担当するとともに,PF リ ングの超伝導ウィグラーの維持・管理業務も担っている。 光源第 4 グループは,PF リング,PF-AR,コンパクト ERL のビーム診断およびビーム制御を担当している。各 種ビーム診断装置の開発,ビーム軌道安定化システム開発, ビーム不安定現象の測定と抑制のためのフィードバックシ ステム開発などをおこなうとともに現システムの維持管理 と高度化・高性能化を行っている。また,加速器制御と各 種シミュレーションの基盤となる計算機システムの維持管 理も行っている。 光源第 5 グループは,放射光による大パワーの熱負荷から 全ての機器を保護し,安全に制御された放射光をビームラ インに供給するため,基幹チャンネルシステムに関する研 もに,コンパクト ERL を用いて大電流ビーム生成・輸送 究開発と,安定運用を実現するための維持・改良を行なっ に関わるビーム力学の研究を行っている。 ている。さらに,光源加速器の放射線安全系に関する維持・ 光源第 7 グループは,PF リングおよび PF-AR に設置さ 改良および次期放射光源のための安全系システムの開発を れた挿入光源の維持管理,新たな挿入光源の設計・開発, 行っている。 リングへの設置から運転モードの確立までを担っている。 光源第 6 グループは,次世代の線形加速器型光源におい KEK 放射光計画の蓄積リングパラメータに基づいて,長 て鍵を握る高輝度大電流電子銃の実現に必要な,極高真空 直線部,短直線部に設置するアンジュレータの性能評価を 装置,500 kV 高圧電源,高出力ドライブレーザ,高量子 行っている。また,ERL ベースの EUV-FEL 光源計画の長 効率を持つカソードなどの各種装置の研究開発を行うとと 尺アンジュレータの設計と FEL 性能の評価を行っている。 放射光科学研究施設 2015 年度年報 32 2.加速器第七研究系の活動 2-2. 活動内容 1.PF リングの運転・維持・管理および開発 と U#28 を更新する作業が行われた。それに伴って,旧 2 2015 年度の PF リング運転期間中には,2015 年 4 月に 台,新 2 台合わせて計 4 台のアンジュレータを PF リング・ 補正電磁石電源制御系の故障と 16 番直線部の四極電磁石 トンネルと外を結ぶシールドから出し入れする必要が発生 冷却水のストレーナの詰まり,5 月に四極電磁石電源 Q8A し,これらのアンジュレータを出し入れする通路を確保す 故障(コネクタ接触不良)と四極電磁石電源 QDA のアク るために BL-27 基幹チャンネル上流部の 3.6 m超高真空配 ティブフィルター異常,12 月に四極電磁石電源 QDB の冷 管切り離し作業を行った。使用されてきたアンジュレータ 却ファン故障,2016 年 2 月に小型電源制御系の故障再発, 旧 U#13 と旧 #28 については PF − AR へ搬出を行ったが, QDB 電源ファン異常及び四極電磁石電源 QFD の不安定な PF リングからの搬出を行うために放射線サーベイが必要 どの電磁石電源関係の不具合が起きた。原因が分かったも となった。サーベイについての放射線科学センターとの事 のについては修理を行ったが,原因が必ずしも特定されな 前折衝については光源第五グループで行い道筋がついた段 い故障も老朽化に伴って多くなってきている。補正電磁石 階で,アンジュレータを担当する光源第七グループへ引 電源制御系については既に製造停止のために修理や製造が き継いだ。またこの PF 運転停止期間中に,BL-27 以外に 不可能で,清掃やボード差し直し等で対処している。入射 BL-12,BL-2,BL-1 基幹チャンネルで以下の保守作業を 用パルス電磁石については,2015 年 12 月 19 日にキッカ 行った。BL-12 基幹チャンネルのオールメタル・ゲートバ ー電磁石 2 の電源の充電用サイラトロン(CX1159)の故 ルブに真空リークが見つかったため交換作業を行い,故障 障があり,予備品と交換した。また,2016 年 2 月にはキ していた高速バルブ(FCV)の撤去作業と排気速度の低下 ッカー電磁石 4 の電源 ON 時に電圧が上がらず蓄積ビーム したビームシャッターのイオンポンプ,真空封止能力が著 を削る現象が時々起きたので,3 月 4 日から入射毎の電源 しく低下したゲートバルブ(LV),超高真空ゲージ,チタン・ の ON/OFF をやめて ON 状態を保つことで運転終了時ま ゲッターポンプの交換作業を行った。BL-2 基幹チャンネ で対処した。運転停止後に原因を調査した結果,放電アー ルにおいては,ゲートバルブ(LV)の閉状態の信号が出 ム用リミットスイッチの接点不良と判明したので修理する なくなる問題が停止期間中見つかり,調査を行ったところ, ことになった。この他に,キッカー電磁石電源のゴムホー 信号系配線のハンダ不良箇所が見つかり,ハンダ付けをや スからの少量のオイル漏れが夏期メンテナンス時に判明し り直したところ問題は解消した。BL-1 基幹チャンネルに た。2016 年夏のメンテナンス時に全ゴムホースを交換する。 おいては,超高真空ゲージ,チタン・ゲッターポンプの交 PF リ ン グ の RF シ ス テ ム は, 単 セ ル 加 速 空 洞 4 台, 換作業を行った。2015 年夏の PF 運転停止期間中には,フ 180 kW ク ラ イ ス ト ロ ン 4 本 等 で 構 成 さ れ, 加 速 電 圧 ィラメントの超高真空ゲージ,チタン・ゲッターポンプの 1.7 MV を発生できる。建設から 34 年が経過し RF システ 交換作業を BL-18,BL-19,BL-20 基幹チャンネルで行った。 ムにも老朽化した部分が多くあるが,運転経費で手当でき また,PF のパトライト及び運転表示灯内蛍光灯交換作業 る範囲内で老朽化対策を進めている。2015 年度は,主に を行った。 次の改善を行った:(a) 40 kV,8A の高電圧を PF 電源棟か PF リングでは長直線部改造により延長された直線部を ら PF 光源棟へ送電するための高電圧ケーブルの半数 2 本 最大限に生かすために,電子物性用アンジュレータの更 を更新し,高難燃ケーブルに置き換えた。(b) 制御系で用 新が徐々に行われてきた。これまでに 5 台の可変偏光ア いられている古い CAMAC 規格のアナログ・デジタル変 ンジュレータ(EPU)が建設されて,運用が始まってい 換器を最新のプログラム・ロジック・コントローラを用 る。 こ れ ら の EPU の 内,2015 年 度 は U#13 と U#28 の 2 いた機器に更新し,EPICS から直接制御する方式とした。 台が PF リングに設置された。U#13 は周期長 76 mm を持 (c) 立体回路系で使用中の古い水冷 80 kW ダミーロード 2 つ APPLE-II 型 EPU であり,目標光子エネルギー範囲は 本を新品に更新した。(d) 古い電動モータを使用したクラ 50 eV から 1.5 keV まであり,高エネルギー領域はアンジ イストロン用ヒーター電源ユニットを,交流安定化電源と ュレータの高次光を使ってカバーする。U#28 は,光子エ 制御ユニットの組み合わせに置き換えるための試作品を 1 ネルギー 30 eV までの低エネルギー VUV 光を利用するた 台製作した。(e) 低電力高周波制御系(ローレベル系)で めに周期長 160 mm を持った 6 列型 EPU である。U#13 と 古い自動利得制御 (AGC) 用 RF アンプ 3 台を新品に交換し U#28 は,設計と建設は 2013 年度に並行して行われ,2014 た。その他,例年行っている保守作業として,クライスト 年内に実施した磁場調整・磁場測定の後,2015 年 2 月に ロン用高圧電源 4 台の保守点検とローレベル系の保守点検 同時に PF リングへ設置された。U#13 と U#28 のユーザー を行った。その結果,PF の運転期間中(4/13 ∼ 4/24,5/7 運転に向けた調整スタディも並行して実施され,優先順位 ∼ 6/30,10/13 ∼ 12/21,2/15 ∼ 3/14),RF シ ス テ ム は 特 が高い偏光モードから順次利用可能となった。その結果 に大きな故障なく運転できた。 2015 年の秋季運転からは,2 台の EPU ともに全ての偏光 2015 年 2 月に PF リングで 2 台のアンジュレータ U#13 モードでの利用実験が順調に開始された。 放射光科学研究施設 2015 年度年報 33 2.加速器第七研究系の活動 2.PF-AR の運転・維持・管理および開発 参考文献 PF-AR の電磁石・電源の 2015 年度の運転は極めて順調 [2-1] 尾崎俊幸,長橋進也,第 11 回日本加速器学会年会 であった。ただ,ビーム入射後の 6.5GeV 加速時に偏向電 プロシーディングス,青森,pp.685-687,2014 年。 磁石電源が変電所の無効コンデンサのタップ切り替えのサ ージノイズでインターロックによってダウンして,入射の 3.コンパクト ERL の運転・維持・管理および開発 やり直しなどの時間的ロスが生じた。これは,変電所との (1)バンチ圧縮用六極電磁石 取り合いの問題で,所内の電力の使用状況に関係すると思 コンパクト ERL(cERL)のバンチ圧縮・伸長用の六極 われる。PF-AR 直接入射路が完成すれば,トップアップ 電磁石は,2014 年と 2015 年に 2 台ずつ,計 4 台が製作され, 運転が PF-AR でも実現するので,近い将来はこの問題は 2015 年 11 月に 2 つのアーク部の共通架台上に 2 台ずつ設 無くなる。AR リングの電磁石電源についてはかなりの部 置された。いずれもコア長 10 cm,主コイル 100 ターンの 分は更新されてきたが[2-1],AR 西棟四極電磁石電源 8 空冷式で,最大電流 10 A 時の実効磁場勾配(積分磁場勾 台やインターロックシステムなど更新されていないものも 2 配をコア長で割ったもの)は 226 T/m である[3-1]。バン まだ残されている。そのために電源の保守を行う一方で, チ圧縮は,主加速空洞の off-crest 加速と第1アーク部の縦 電磁石のインターロック回路の更新などの老朽化対策の一 方向の分散によって実現するが,アーク部の四極電磁石で 部を与えられた予算の範囲内で少しずつ進めている。 1次分散を調整し,六極電磁石で 2 次分散を補正する。こ PF-AR の RF シ ス テ ム は,APS 型 加 速 空 洞 6 台, れらによって 100 fs 以下の超短バンチを生成でき,5 THz 1.2 MW ク ラ イ ス ト ロ ン 2 本 等 で 構 成 さ れ, 加 速 電 圧 までのコヒーレント光が発生可能になる[3-2]。第 2 アー 16 MV を発生できる。RF システムは旧トリスタン(電子 クではロスなく効率の良いエネルギー回収を行うように1 陽電子衝突器)の技術で作られており,特に高周波源は 次,2 次分散の調整によって逆にバンチを伸長させる。六 KEKB RF システムと共通性がある。このため,KEKB RF 極電磁石の各磁極には補正コイルが取り付けられており, グループと共同で維持・運転・改善の業務を行っている。 それによって最大電流 10A 時に実効磁場勾配 0.4 T/m の歪 担当者約 9 名での AR-RF 打合せを定期的に開き,短期・ 四極磁場を発生できるようになっている。この歪四極磁場 長期に行うべき作業についての議論,予算要望すべき事項 で誤差磁場や環境磁場による垂直方向の分散関数やビーム の整理,運転状況に関する情報共有を行っている。これに プロファイルの傾きなどを補正する。図 3-1 は設置された 基づき,今後必要となる老朽化対策を検討し,運転経費で 六極電磁石である。2016 年 2 ∼ 3 月期の運転でバンチ圧 手当できる範囲で老朽化対策は着実に進めている。2015 縮スタディを本格的に開始して,バンチ圧縮やそれに伴 年度に行った主な改良点は:(a) 立体回路系に用いている うコヒーレント THz 光の発生を確認できた[3-3]。また, 古い水冷ダミーロードを更新するため,改良型の 50 kW 六極電磁石の補正コイルによる歪四極磁場を使って水平・ 間接水冷ダミーロードを製作した。(b) APS 型加速空洞を 垂直の分散を補正することにも成功した。 放射光照射から守るための可動放射光マスク 1 台が不調に なったため,モータおよびドライバーを交換した。(c) 加 速空洞の入力カップラー風冷用ブロワーを更新するため全 数 6 台の新品を製作した。その他例年行っている保守作 業として,(A) クライストロン用冷却系等の保守作業,(B) クライストロン用高圧電源 2 台の清掃と保守点検,(C) サ ーキュレータ水循環用ポンプやクライストロンの蒸発冷却 用に屋上に設置したエアフィンクーラーの保守,(D) APS 型加速空洞用チューナー駆動系の点検,(E) ローレベル系 と制御系の保守点検,等を行った。これらの結果,PF-AR の運転期間中(5/11 ∼ 6/30,10/19 ∼ 12/21,2/17 ∼ 3/14) RF システムは大きな故障なく順調に運転できた。 PF-AR においては,2015 年度は主に施設関係の改修作 業を行った。具体的には,PF-AR 南実験棟たてどい改修 工事,PF-AR 東・西実験棟便所壁改修工事,PF-AR トン ネル内の不用品処分および物品整理と清掃作業を行った。 図 3-1 PF と PF-AR 両方に関係する事項としては,電子加速 第 1 アーク部に設置されたバンチ圧縮用の六極電磁石(黄 色) 器放射線打ち合わせへの参加およびそれに付随する PF と PF-AR の放射線に関係する事項への放射線科学センター との日常的な協力に努めている。 放射光科学研究施設 2015 年度年報 34 2.加速器第七研究系の活動 (2)ラスタリング用電磁石システム (3)ビーム調整・ビームダイナミックス 2016 年 2 ∼ 3 月の 1 mA 大電流運転に伴って主ダンプの 2015 年 5-6 月の運転では,cERL 周回部のビーム調整で 熱負荷を低減するためのラスタリング運転を行った。ラス は電磁石の標準化を可能な限り実施し,電磁石のヒステリ タリング用にダンプラインに設置された高速制御可能な水 シスや残留磁場の影響を極力除いた。その結果,励磁電流 平・垂直ステアリング電磁石を使用した。この水平・垂直 から正確にビームの収束力を計算できるようになり,ビー ステアリング電磁石は窓枠型の電磁石に 4 つのコイルを巻 ム軌道やオプティクスの再現性が改善した。偏向電磁石, いたもので,ヨークは積層鋼板で作られている。2 チャン 四極電磁石,ステアリング電磁石の磁場測定結果とビーム ネルの任意波形発生装置を使って 2 つの高速電磁石電源に 応答を高い精度で比較するとともに,Q scan 法によってエ 制御信号を送って水平・垂直ステアリング電磁石を制御す ミッタンスやベータトロン関数などのオプティクスを評価 る。主ダンプの熱負荷を低減するために,ビームが主ダン した[3-5]。レーザー逆コンプトン散乱の実験のためのビ プでビームサイズよりも格段に大きな円の内側をほぼ一様 ーム調整も実施した。2016 年 2-3 月の運転では,バンチ に埋めるような制御信号パターンを任意波形発生装置で発 圧縮のスタディを本格的に開始した。これは,主加速空洞 生させる。図 3-2 上に水平・垂直ステアリング電磁石を, の off-crest で加速し,アイソクロナス(等時性)の条件を 図 3-2 下にはラスタリング中の主ダンプ直前のスクリーン 外したアークでバンチ長を変える手法で,設計通りに短い モニタで記録したビーム位置のプロットを示す。このラス バンチが得られていることを確認した[3-3]。また,ビー タリングによって CW 運転でダンプ付近の真空度が改善 ムロスの原因になっているビームハローのスタディも行 し,熱負荷が低減されることを確認できた[3-4]。10 mA い,ハローの系統的な測定やコリメータの効果などを調査 を目指す今後の cERL 運転には必要不可欠なシステムで, するとともに,シミュレーションとの比較も進めた[3-6]。 ラスタリング無しでは CW 大電流運転ができないように インターロックに組み込むことになる。 (4)加速器運転・コミッショニング・マシンスタディ 2015 年度は 2 つの期間(5/27 ∼ 6/26,2/15 ∼ 3/31)に 運転を行った。第 1 期(5/27 ∼ 6/26)の運転では,電子 ビームの低エミッタンス化,電磁石の標準化等による運転 条件の再現性向上,テラヘルツ光を用いたバンチ長モニタ ーの試験,ビームの大電流化に向けたビーム損失の低減, などのマシンスタディを行った。夏から翌年冬にかけての 停止期間中(6/27 ∼ 2/14)には,平均ビーム電流を 1 mA に増強するための放射線変更申請を行い,そのための追加 遮蔽の設置工事を行った。また,光陰極 DC 電子銃の印加 電圧を 400 kV から 500 kV に上げて性能向上を図るための 改造作業を行った。ビーム電流を増加するにあたっては機 器保護のための高速での異常検出とビーム停止機構が不可 欠となるため,ビームロスモニタの増設と高速インターロ ック系を開発して設置した。変更申請の承認を得た後,第 2期(2/15 ∼ 3/31)の運転でビーム電流約 1 mA のエネル ギー回収運転を成功させ[3-7,8],施設検査にも合格した。 また,バンチ圧縮,エミッタンス低減,大電流でのレーザ ーコンプトン散乱(LCS)等のマシンスタディも行った。 (5)LCS ビームラインと LCS フォトン実験室の建設 cERL の南直線部において電子ビームとコンプトン散乱 したレーザー光子は電子ビームの進行方向にX線として進 む。このX線を加速器室外に導くためのビームラインが建 設され,ビームシャッターと放射線遮蔽体が設けられた。 また,加速器室南東隅にはこれを検出するための LCS 実 験室が厚さ 50 cm のコンクリートブロックで作られた。 (6)新たな運転モードに対応する放射線遮蔽の増強 図 3-2 LCS 実験の実施に伴いいくつかの放射線遮蔽の増強を ダンプラインに設置されたラスタリング用の高速ステア リング電磁石(上)とラスタリング中に主ダンプ前スク リーンモニタで計測されたビーム位置のプロット(下) 放射光科学研究施設 2015 年度年報 行った。まず,フォトン実験室へX線を導くための貫通孔 が開けられ,LCS 実験時におけるその遮蔽としてビーム 35 2.加速器第七研究系の活動 シャッターの上下流に鉛遮蔽体が設置された。また,ビー 使用している電子銃(1 号機,日本原子力研究開発機構 ム衝突点へレーザー光を導くための貫通孔と,衝突点ハッ (JAEA)が中心になって開発)と,AR 南棟の試験エリア チの空調用貫通孔への遮蔽も設けられた。さらに,cERL で開発している電子銃(2 号機)の 2 台を用いて開発を の第 2 アークコリメータから LCS 実験室を遮蔽するため 進めている。1 号機は cERL のビーム試験開始時から使用 の鉛壁も設けられた。 されており,390 kV の電圧で極めて安定に電子ビームを 生成・加速できることを実証している。設計目標である (7)インターロックシステムの構築 500 kV に加速電圧を上昇させるために,2015 年夏に電子 cERL の 安 全 な 運 転 を 行 う た め に,PPS(Personnel 銃の絶縁管の増設作業を実施した。2016 年 3 月の cERL Protect System)・MMS(Machine Mode System) 等 の イ ン のビーム試験において,390 kV から 450 kV に電圧を上げ, ターロックシステムを構築しており,PPS の構築・管理運 安定なビーム生成・加速を実証することができた。今後電 用と,加速器室入室のためのパーソナルキーシステムの構 子銃の電圧印加試験を継続し,500 kV でのビーム生成試 築・管理運用を行っている[3-9]。 験を目指している。2 号機の開発では,高電圧印加試験を 2014 年夏より始まった LCS 用ビームラインの建設に伴 実施したあとに極低電流のビーム引き出し試験を開始して い,インターロックシステムを設けて安全に実験出来るよ いる。2015 年からは電流増強に向けた放射線遮蔽の増強 うに整備する必要が出てきた。ビームラインが一つだけと 作業を行っている。 いう事もあり,当初は cERL 加速器の PPS 等のインターロ 電子を生成するためのカソードの開発については,名古 ックシステムの一部としてビームラインのインターロック 屋大学,広島大学,JAEA 等と協力しながら開発研究を進 システムを構築するという案もあったが,将来的な事も考 めている。コンパクト ERL の運転においては,GaAs 半導 えて,PF-AR と同様の機能を有するビームライン単独で 体の表面に負の電気親和性をもたせたカソードを使用して のインターロックシステムとして構築を行った。この際, おり,平均 0.9 mA のビーム生成を実証し,課題であるカ このビームラインの構築は PF/PF-AR のビームラインイン ソード寿命に関する試験を進めることができた。また,さ ターロックシステム担当者の協力を受けながら加速器で行 らなるカソード寿命の向上を目指して,新たな材質として った。また,PF-AR のビームライン用インターロックシ マルチアルカリカソードの開発を行っている。カソード材 ステムとは下記の点で違いを持っている。 質の開発は広島大学が中心となって進めており,開発され たカソードを cERL にインストールして試験を行うことを ・ PF-AR のビームラインインターロックシステムにある 目指している。KEK では広島大学で作製されたマルチア 集中管理システムはビームラインが一つだけあること ルカリカソードを性能劣化させずに KEK まで移送するた からビームラインのインターロックシステムと一体化 めの真空輸送容器の開発を行い,2016 年に移送試験を行 して運用している。 う予定である。 ・ ビームライン用インターロックシステムのメインコン トローラーは加速器の制御室に設置し,実験室側にあ 参考文献 るコントローラーからビームシャッターを開け閉めす [3-1] A. Ueda, K. Harada, S. Nagahashi, , T. Kume, M. るために必要な許可信号等を加速器の運転当番が出せ Shimada, T. Miyajima, N. Nakamura and K. Endo, Proc. る様になっている。 of IPAC2016, Busan, Korea, pp.1111-1114 (2016). ・ 実験室のドア開閉等に使用されているインターロック [3-2] N. Nakamura, M. Shimada, T. Miyajima, K. Harada, システムについては簡易版のものを使用している。 O. A. Tanaka and S. Sakanaka, Proc. of IPAC2015, Richmond, VA, USA, pp1591-1593 (2015). また,PPS にも小変更を行い LCS 用ビームラインとの [3-3] M. Shimada, N. Nakamura, T. Miyajima, Y. Honda, 信号のやり取りが出来るようにし,それぞれのインターロ T. Obina, R. Takai and A. Ueda, K. Harada, Proc. of ックに関する情報のやり取りが行えるようになっている。 IPAC2016, Busan, Korea, pp.3008-3010 (2016). これらのシステムは 2014 年度末までに完成し,2015 年に [3-4] 原田健太郎,中村 典雄,帯名 崇,島田 美帆,宮島 司, かけて運用を行っている[3-10]。これらの準備のもと, 本田 洋介,野上 隆史,谷本 育律,本田 融,高井 良太, 2015 年 1 月から運転が開始され,調整の後 2 月には原子 cERL のラスタリングシステム ,第 13 回日本加速 力規制庁による完成検査に合格した。その後,次の段階と 器学会年会,千葉,2016 年 8 月 8-10 日,MOP079. なる電流量 1 mA での運転に向けた,ビーム損失の見積も [3-5] 島田美帆,中村典雄,高井良太,上田明,宮島司, りおよびそれに伴う加速器室内の追加遮蔽対策の検討が進 本田洋介,帯名崇,原田健太郎,第 12 回日本加 められている。 速器学会年会プロシーディングス,敦賀,pp.971974,2015 年 . (8)高輝度大電流電子銃の開発 [3-6] O. Tanaka, N. Nakamura, M. Shimada, T. Miyajima, T. 高輝度大電流電子銃は,ERL や CW-FEL の次世代の線 Obina and R. Takai, Proc. of IPAC2016, Busan, Korea, 形加速器型光源の鍵を握る装置の一つであり,cERL で pp.1843-1846 (2016). 放射光科学研究施設 2015 年度年報 36 2.加速器第七研究系の活動 [3-7] S. Sakanaka, K. Haga, Y. Honda, H. Matsumura, T. を入射していた現入射路の使用をやめ,6.5GeV の電子ビ Miyajima, T. Nogami, T. Obina, H. Sagehashi, S. ームを PF-AR に直接入射するための新しいビーム入射路 Shimada and M. Yamamoto, Measurement and Control (PF-AR 直接入射路:図 4-1 の赤線)を建設しようという of Beam Losses under High-Average-Current Operation 計画が現在進行中である[4-1][4-2]。これにより,今後 of the Compact ERL at KEK , in Proceedings of the は 3 GeV で入射した後に 6.5 GeV まで加速する必要がな 7th International Particle Accelerator Conference (IPAC くなり,6.5 GeV でのフルエネルギー入射によって将来的 にはトップアップ運転も可能となる。PF-AR 直接入射路 16), Busan, Korea, May 8-13, 2016, TUPOW038. [3-8]坂中章悟 他, コンパクト ERL におけるビーム電流 建設は順調に進んでおり,トンネル建設は 2013 年に,設 約 1 mA の運転 ,第 13 回日本加速器学会年会,千葉, 備工事は 2014 年に完了した。また,2015 年夏からは新規 2016 年 8 月 8-10 日,WEOM15. 製作分の電磁石架台の設置作業および第 3 スイッチヤード [3-9] 濁川和幸,長橋進也,第 11 回日本加速器学会年会 (SY3)の電力ケーブルの配線が完了した。PF-AR 直接入 プロシーディングス,青森,p.1254 -1258, 2014. 射路に使用する電磁石は,PF-AR の現入射路で使用して [3-10]濁川和幸,小菅隆,et al., 第 12 回日本加速器学会年 いる電磁石(偏向電磁石 24 台,四極電磁石 18 台)を基本 会プロシーディングス,敦賀,p.1290 -1293, 2015. 的には再利用するが,6.5 GeV に入射エネルギーを上げる ために,入射点付近の四極電磁石については新規製作した。 SY3 に設置する偏向電磁石の内の 2 台及び新入射点に設置 4.PF-AR 直接入射路計画 現在の PF-AR のビーム入射路(現入射路)は,図 4-1 する DC セプタムも新たに製作した。今後の予定として, に 示 す よ う に KEKB の ビ ー ム 輸 送 路(KEKB-BT) と 共 現入射路から PF-AR 直接輸送路への電磁石の移設を 2016 有区間を持っており,PF-AR への入射時には KEKB-BT 年の 7 月初めから 12 月末までに行う。また,PF への入射 の一部区間を PF-AR 入射用に最適化した上で 3 GeV の については SY3 内のみの改造となるため,SY3 および入 電子を入射している。従って,PF-AR への入射時には, 射器運転時に立ち入り禁止となるトンネル上流部について KEKB への入射を止めて LINAC を 20 分程度専有して行 は 9 月末までに設置作業を行う。これによって PF は 2016 うことになる。しかしながら,現在アップグレード中の 年秋のユーザー運転が可能となる。 SuperKEKB では,蓄積ビームの寿命が 10 分程度と短くな 現在のキッカー及びセプタム電源システムには,3 GeV るため,今までのように LINAC を専有しての入射が難し 入射用であり PF-AR 直接入射路用に 6.5 GeV の入射には くなり,PF-AR も 50 Hz で高速スイッチングされたビーム 使用できないために新規に 6.5 GeV 用のシステムを製作す を使って入射する必要が出てきた。そこで,3 GeV の電子 る必要がある。そのためのキッカー電源システム及びセプ タム電源システムを製作した。新規のセプタム電磁石は, AR 直接入射路最終段に 2 台設置され,キッカー電磁石は 蓄積リングの新入射点近くに 3 台設置される。キッカー及 びセプタム電磁石は,どちらもパルス動作をし,最大繰返 しは 5Hz である。セプタム電磁石はパルス幅 100 µsec,最 大電流 8000 A であり,これにより 6.5 GeV の電子ビーム 図 4-2 セプタム電磁石の磁場測定。セプタム電磁石(奥)の Gap 内にサーチコイルを 挿入して,磁場を測定している。 図 4-1 PF-AR 新ビーム輸送路(赤線) 放射光科学研究施設 2015 年度年報 37 2.加速器第七研究系の活動 を 3° 偏向する。キッカー電磁石は,パルス幅 2.4 µsec,最 流 500 mA では水平エミッタンスは 314.7 pm·rad(垂直は 大電流 3500 A である。これにより蓄積電子を 1.6 mrad 偏 カップリング 2.6% を仮定し,8.2 pm·rad)まで増大する。 向し,計 3 台を使用してパルスバンプを構成する。これら 主なパラメータを表 5-1 に,光源の輝度を図 5-1 に示す。 の電磁石の磁場測定を行うために,PF 地下機械室内にテ IBS の影響は,高次高調波空洞でバンチ長を伸ばして抑制 ストベンチを設置した。現在,セプタム電磁石 3 台につい することを考えている。また,3 GeV の ERL 計画と比較 てビーム軌道内の励磁曲線や磁場分布及びもれ磁場の測定 を行っている。図 4-2 は,磁場測定中のセプタム電磁石で 表 5-1 リングのパラメータ ある。 エネルギー 参考文献 E [GeV] 3 GeV HMBA (Hybrid MultiBend Achromat) Ns 20 C [m] 570.721 ラティスの型 [4-1]高木宏之 他,第 11 回日本加速器学会年会プロシー 長周期数 デングス,青森,pp.990-994,2014 年 . 周長 [4-2]長橋進也 他, PF-AR 直接入射路の建設 , 第 13 回 日本加速器学会年会 , 千葉,2016 年 8 月 8-10 日 , MOP075. 5.KEK 放射光計画 1.2 m 短直線部数 20 5.6 m 長直線部数 20 セル数 20 RF 周波数 PF リングは 1978 年に建設開始,1983 年にユーザー共 ハーモニック数 同利用が開始された。その後,1996 年にはエミッタンス RF 電圧 を大幅に下げる高輝度化改造が行われ,2005 年には真空 Bucket height 封止短周期挿入光源を導入し,10 keV 領域のアンジュレ Energy loss ータ光を利用可能にした直線部増強改造が行われた。建設 モーメンタム コンパクション ベータトロン チューン されてから既に 30 年以上が経過し,老朽化が著しくなっ てきている上に,性能としても時代遅れになりつつある。 そこで,将来計画として,最先端の極低エミッタンス蓄積 fRF[MHz] 500.0735096 h 952 VRF[MV] 2 % 3.98 MeV/rev 0.2984335 α 2.1893×10−4 νx,νy 48.58, 17.62 [turns] 15364, 20105, 11887 リングを設計することになった。 damping turns x,y,z 2010 年 代 に 登 場 し, 従 来 の 第 3 世 代 光 源 よ り も 1 桁 damping time x,y,z [ms] 29.25, 38.28, 22.63 以上小さいエミッタンス,2 桁近い輝度の向上(現在の beam current [mA] 0 200 500 PF と 比 較 す る と 約 4 桁 の 向 上 ) を 可 能 に し た,HMBA hor. emittance [pmrad] 132.51 230.5 314.74 (Hybrid Multi Bend Achromat) 型 ラ テ ィ ス を 採 用 す る[5- ver. emittance y/x Touschek lifetime (2.8% mom.acc 200sx) [pmrad] [%] 8.1 3.5 8.2 2.6 - 2.9 1.8 6.42 7.24 8.22 2.73 3.08 4.18 1,2]。エネルギー 3 GeV,周長約 570 m,自然エミッタン スは 132.5 pm·rad である。リングには 5.6 m 直線部が 20 本(うち 1 本は入射用に最適化),1.2 m 直線部が 20 本あ Energy spread り,40 台近い挿入光源が設置可能である。IBS (Intra Beam Bunch length Scattering,バンチ内散乱 ) の効果を考慮すると,蓄積電 図 5-1 [h] −4 ×10 mm 最新の 3 GeV リングである NSLS-II および MAX-IV と比較した全光束スペクトル (a) および輝度スペクトル (b)。実線は IBS あり, 破線は IBS なしの場合。 放射光科学研究施設 2015 年度年報 38 2.加速器第七研究系の活動 コーティングなどによる抵抗性インピーダンスによる発熱 や多バンチビーム不安定性の影響についても評価を進めて いる[5-3]。 高周波加速システムについては,まず PF リングで現 在使用中と同型の加速空洞を 4 台使用する場合について, RF システムの規模を見積った。挿入光源を含むと合計 RF 電力は約 500 kW,加速電圧約 2 MV 程度になる。次に, PF 型空洞を用いた場合に,空洞内の高次モードによるバ ンチ結合型ビーム不安定性の評価を行った。ビームの周回 周波数は,PF での 1.6 MHz から新リングでは約 575 kHz に下がるため,現在の PF 方式ではビーム不安定性を避け るのが難しくなる傾向があり,一部の高次モードについて ビーム不安定性が避けられない恐れがある事がわかった。 このため PF 型空洞はバックアッププランとして考え,高 次モードの減衰性能に優れる加速空洞の検討を今後行って ゆく方針とした。また,加速周波数の 2 ∼ 4 倍の周波数の 図 5-2 ノーマルセルのオプティクス 高調波電圧を加えてバンチ長を延ばす方式は,バンチ内散 乱によるビーム寿命低下(Touschek lifetime)やエミッタ すると,高輝度・高光束の観点からは性能はほぼ同等とな ンス増大の改善に有望である。このための高調波 RF シス る。 テムの検討も進めている[5-4]。これらの結果を,次期放 ESRF を 中 心 に 開 発 さ れ た HMBA(Hybrid Multi Bend 射光源の概念設計報告書(CDR)[5-5]の高周波システム Achromat)型ラティスの特徴は,複数の機能結合型偏向電 の章にまとめた。 磁石と分散関数バンプの導入にある。ノーマルセルのオプ KEK 放射光計画における蓄積リングは,1 本の入射セ ティクスを図 5-2 に示す。低エミッタンス実現のために複 ルと 19 本のノーマルセルにより構成され,各ノーマル 数の機能結合型偏向電磁石で絞ったオプティクスを作る一 セルは 5.6 m の長直線部および 1 m の短直線部を有する 方,大きな色収差補正を効率的に行うために,分散関数の 極低エミッタンスリングである。表 5-2 には,蓄積電流 大きな部分を作ってそこに 6 極電磁石を設置する。ESRF 500 mA で想定される Intra Beam Scattering(IBS)による の場合,さらに 6 極同士をペアにして非線形力を打ち消す エミッタンスの増大を考慮した場合(IBS あり)と,高調 という,KEKB と同じ工夫が採用されており,今回のデザ 波加速空洞による IBS の抑制などを想定して IBS を考慮 インでもそれを踏襲している。入射や Touschek 寿命のた しない場合(IBS なし),それぞれの場合の各光源点での めに広いダイナミックアパーチャが必要であるが,現在の ビームサイズを示す。表 5-3 に,広いスペクトル領域をカ PF リングと同程度の電磁石の誤差(据付誤差 50 µm,磁 バーすることを念頭に想定される標準的な光源装置を示 場強さ 0.05%,傾き 0.1 mrad)を考えても,COD 補正によ す。これらのパラメータから計算される各光源装置の全 って入射蓄積に必要なダイナミックアパーチャ(入射点で 光束スペクトルおよび輝度スペクトルを図 5-1 に示す。図 約 1 cm,運動量 2.5%)を確保することができた。現在, 5-1 には,SPring-8[5-6, 7]の標準アンジュレータ(λu=32 ハードウェアの検討,光源性能とダイナミックアパーチャ mm,Nu=140)および BL25SU(λu =120 mm,Nu =12×2), のさらなる向上のためのオプティクスやラティスの最適化 最 新 の 3 GeV リ ン グ で あ る MAX-IV[5-8] の PMU18P5 を引き続き行っている。また,狭いアパーチャを持つ真空 (λu =18.5 mm,Nu =205) および EPUI38(λu =38 mm,Nu ダクトや真空封止アンジュレータの銅シートおよび NEG 表 5-2 光源点における電子ビームサイズおよび角度発散 IBS あり v03_68) 偏向部 短直線部 IBS なし 長直線部 偏向部 短直線部 長直線部 電子エネルギー E [GeV] 3 3 蓄積電流 I [mA] 500 500 エネルギー拡が σE/E 水平サイズ σx [μm] 7.9E-04 12 21 6.4E-04 44 7.8 16 30 水平角度発散 σ'x [μrad] 29 22 8.1 19 14 5.3 垂直サイズ σy [μm] 13 3.3 4.4 13 3.3 4.3 垂直角度発散 σ'y [μrad] 0.8 2.5 1.9 0.8 2.4 1.8 放射光科学研究施設 2015 年度年報 39 2.加速器第七研究系の活動 表 5-3 KEK 放射光計画で想定する標準的な光源装置 BM UL20N30 UL20N250 (短直線部) MPW UL48N104 UL160N31 周期長 λu [mm] 120 20 20 48 160 周期数 Nu 42 30 250 104 31 磁石列長 L [m] 5.0 0.6 5.0 5.0 5.0 最小 Gap[mm] 12 4 4 12 12 1.80 1.13 1.13 0.9 0.5 20.2 2.1 2.1 4.0 7.5 1.3 1.3 0.2 0.02 2.2 18.2 11.5 3.5 (最大)磁場 B(max) [T] 0.68 最大 K 値 Kmax 臨界エネルギー Epc [keV] 4.1 10.8 1 次エネルギー Ep1(Kmax) [keV] 出力 [kW] 0.039 [kW/mrad] 46.5 =103) と NSLS-II[5-9] の IVU20(λu =20 mm,Nu =148) Center, (November, 2014). [5-7] http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/whats_sp8/ および SCW60(λu =60 mm,Nu =17,B=3.5 T)をともに 示す。 facilities/bl/light_source_optics/sources/insertion_ 図 5-1 から,KEK 放射光計画では光エネルギー 20 keV device/intro_insertion_devices/ 程度以下の領域において,SPring-8 の標準アンジュレータ [5-8] Detailed Design Report on the MAX IV Facility, MAX に比べて高い光束および輝度が得られることがわかる。ま IV Facility, First edition (August, 2010) (https://www. た,最新の 3 GeV リングである MAX-IV や NSLS-II に比 maxlab.lu.se/node/1136). べてより低いエミッタンスを実現可能であることから,同 [5-9] N S L S - I I S o u r c e P r o p e r t i e s a n d F l o o r L a y o u t 等の性能を持つ挿入光源を使うことで,より高い輝度が (April 12, 2010)(https://www.bnl.gov/ps/docs/pdf/ 得られることがわかる(例えば,UL20N250,PMU18P5, SourceProperties.pdf). IVU20)。 KEK 放射光計画の偏向部光源 BM は PF リングや PF-AR 6.ERL ベースの EUV-FEL 光源計画 リングに比べて低い臨界エネルギーを有するため,硬 X 次世代の半導体リソグラフィーでは 13.5 nm の平均高出 線領域の光を補償するためのウィグラーの設置を検討して 力 EUV 光源を必要としている。その候補として,KEK, いる。図 5-1 には,現在 PF リングで稼働中の多極ウィグ JAEA,東芝は共同で ERL をベースとした EUV-FEL 光源 ラー MPW05 の磁気回路から推定した白色X線光源 MPW を提案している[6-1]。これはコンパクト ERL の設計を を示した。なお,NSLS-II ではさらに高いエネルギー領域 基本としながらも,入射器エネルギーを 2 倍の 10 MeV, まで広がる SCW60 なども検討されている。 周回エネルギーを 800 MeV まで増強し,周回電流値とし ては実現可能性の高い 10 mA に抑えた設計となっている。 この計画では,直線部に複数のアンジュレータユニットで 参考文献 [5-1]K. Harada, T. Honda, Y. Kobayashi, N. Nakamura, K. 構成される全長 100 m 級の単一通過型 FEL 装置を設置す Oide, H. Sakai, S. Sakanaka and N. Funamori, Proc. of ることで,平均 EUV 出力 10 kW 以上を目指している。こ IPAC2016, Busan, Korea, pp.3251-3253 (2016). の光源の設計では,500 kV 光陰極電子銃で実現される高 [5-2] 原田健太郎,小林幸則,中村典雄,生出勝宣,第 輝度電子ビームを,その低エミッタンスを維持したまま, 12 回日本加速器学会年会プロシーディングス,敦 加速,バンチ圧縮し,さらに FEL 光を発生させた後,デ 賀,pp.1013-1015,2015 年 . バンチング,減速・エネルギー回収までを行うもので,よ [5-3] 中村典雄 , HMBA 型 3GeV 放射光源における抵抗 り現実的なシミュレーションが必要とされる。そこで,バ 性インピーダンスの影響 ,第 13 回日本加速器学会 ンチ圧縮後の電子ビームの位相空間分布を直接取り込ん 年会,千葉,2016 年 8 月 8-10 日,TUP073. だ FEL シミュレーションを行った。その結果,平均電流 [5-4] 山本尚人 他, 高輝度光源に向けたバンチ伸張方法 値 10 mA に対して EUV 光源として必要とされる平均出力 の検討 ,第 13 回日本加速器学会年会,千葉,2016 10 kW を上回る 12 kW が得られることがわかった。また, 年 8 月 8-10 日,TUP013. FEL 発生後の電子の位相空間分布を用いたシミュレーシ ョンにより,エネルギー回収が可能であることが示された [5-5] KEK-LS CDR Accelerator; http://www2.kek.jp/ [6-2, 3]。 imss/notice/assets/2016/06/08/KEKLS_CDR_ Accelerator_160608.pdf [5-6] SPring-8-II Conceptual Design Report, RIKEN SPring-8 放射光科学研究施設 2015 年度年報 40 2.加速器第七研究系の活動 参考文献 [6-1] Norio Nakamura, Proc, of 2015 International Workshop on EUV Lithography, Makena Beach & Golf Resort, Maui, Hawaii, June 15-19, 2015 (http://www.euvlitho. com/2015/Proceedings%202015%20EUVL%20 Workshop.pdf) [6-2] Ryukou Kato, Proc, of 2016 International Workshop on EUV Lithography, CXRO, LBNL, Berkeley, CA, June 13-16, 2016 (http://www.euvlitho.com/2016/2016%20 EUVL%20Workshop%20Proceedings.pdf) [6-3] 中村典雄,加藤龍好,宮島司, ERL を用いた高出 力 EUV-FEL 光源のシミュレーション研究 ,第 13 回日本加速器学会年会,千葉,2016 年 8 月 8-10 日, TUP074. 放射光科学研究施設 2015 年度年報 41 2.加速器第七研究系の活動 2-3. 今後の展望 光源第 1 グループでは,PF リングと PF-AR の電磁石シ 光源第 6 グループでは,ERL ベースの EUV-FEL 光源や ステムにおいて引き続き老朽化対策と性能向上に努めると 高繰り返しX線 FEL 光源(CW-FEL)等の次世代の線形加 ともに,現在進められている PF-AR 直接入射路と関連す 速器型光源で鍵となる高輝度大電流電子銃の開発を継続す る装置の建設を 2016 年度中に完了させてそのビームコミ るとともに,KEK 放射光計画の実現に向けて重要となる ッショニングを行っていく。KEK 放射光計画ではリング 装置開発を他のグループと協力しながら行う予定である。 のラティスとオプティクスの改善を図り,それに基づいた 高輝度電子銃開発では,東芝,JAEA(2016 年 4 月から ビームダイナミックスや電磁石の設計も進めて行く。また, QST)と協力しながら ERL ベースの EUV-FEL 光源で要求 シンクロトロン入射器のラティス設計や変形・振動に関連 される平均 10 mA の電子ビーム生成に向けた試験を目指 する建屋の基礎構造の検討も行う。コンパクト ERL 関係 すとともに,カソード寿命を評価するための試験を継続す では引き続き電磁石の維持管理と(運転時間が与えられれ る予定である。また,PF の長期計画として CW-FEL 光源 ば)ビーム運転を行い,バンチ圧縮やビームハローなどの の調査・研究を行っていく。KEK 放射光計画に対しては, 性能向上に直結するビームビームダイナミックスの研究を 高輝度電子銃開発で培ってきた極高真空技術を活かして, 行う。EUV-FEL 光源計画では,S2E(Start-to-End)シミュ 真空装置を担当する第 3 グループと協力して真空装置開発 レーションとバンチ圧縮方法の改善を進める。 を進めていく。これまでに,真空チェンバー内壁に排気作 光源第 2 グループでは,PF リングと PF-AR の RF シス 用をもたせるコーティング(NEG コーティング)開発で テムについては,引き続き運転経費で可能な範囲で老朽化 協力を進めてきている。また,今後は他の装置開発におい 対策と性能向上に努める。また適当な時期に,PF-AR ク ても協力していく予定である。 ライストロン用高圧電源の制御盤更新や,ローレベル系・ 光源第 7 グループでは,PF リングおよび PF-AR に設置 制御系の更新を計画している。KEK 放射光計画について された挿入光源では,引き続きその維持管理を行っていく は,計算機シミュレーションにより加速空洞と高調波空洞 とともに,各ビームラインの担当者・ユーザーと協力して, の概念設計を進め,次の低電力空洞モデルでの高周波特性 老朽化した挿入光源の更新を進めていく。また,KEK 放 (特に高次モード特性)の測定に進む準備を行う。コンパ 射光計画では,今後,高出力光源である MPW をはじめと クト ERL については,2015 年度末で運転が一旦終了した するすべての光源に関して,本計画で目指すサイエンスか 事から,今までの研究成果を論文で報告する準備中である。 らの要請,蓄積ビームのエミッタンスへの影響,RF への 光源第 3 グループでは,PF リングと PF-AR の真空シス 負荷,ビームライン等への熱負荷などを総合的に検討しな テムの高度化を進めていくと同時に,KEK 放射光計画実 がらパラメータの選定を行っていく。ERL ベースの EUV- 現にむけて低エミッタンスリングの真空系の設計,開発を FEL 光源計画は,KEK,JAEA,東芝の共同研究体制から, 推進する。2016 年度は PF-AR 直接入射路と PF-AR の新入 10 企業,1 コンソーシアム,7 大学,3 研究機関を含んだ 射点の建設を完成させる。さらに,PF リングで老朽化が EUV-FEL 光源産業化研究会に発展した。今後はこの新た みられる超伝導ウィグラーは,新規開発,更新を目指し, な枠組みを基盤として,EUV-FEL 光源計画を国内外の企 ビームラインと協力し検討を進める予定である。 業に周知していくとともに,設計・開発段階からプロトタ 光源第 4 グループでは,PF-AR 直接入射路のビーム診 イプ機の建設段階に移行する努力を開始する。 断システムを構築する。並行して各種の制御ソフトウェア 開発をすすめることで円滑なコミッショニングを実現す る。また,PF リング,PF-AR,コンパクト ERL での既存 ハードウェアの高性能化・老朽化対策を進め,特に PF リ ングでのビーム位置測定と高速軌道安定化システムの更新 に向けての開発をすすめる予定である。これは KEK 放射 光計画における診断装置に直結する共通の技術である。 光源第 5 グループでは,PF リング,PF-AR,コンパクト ERL での定常的な活動に加えて,2016 年夏から冬にかけ て PF-AR 直接入射路関係の整備のために,新たに放射線 遮蔽を行なう必要のある箇所があるため,その遮蔽の設計 および設置にかかる様々な作業が必要となる。また直接入 射路に関連して設置されるシャッターや配管,架台等の設 計,設置作業も行う予定である。関係者との密接な協力の もとで,円滑に整備を行いたいと考えている。 放射光科学研究施設 2015 年度年報 42 2.加速器第七研究系の活動