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印刷教育研究会
会報
No.123
2016.04.05 発行
LETTER OF JAPAN ASSOCIATION OF GRAPHIC ARTS EDUCATION
巻 頭 言
印刷教育研究会
〒113-0033 東京都文京区本郷1-3-9
東京都立工芸高等学校
グラフィックアーツ科内
(連絡先:大澤 正則)
TEL 03-3814-8755
URL http://graphic-edu.sakura.ne.jp/
<<印刷物の品質について>>
印刷教育研究会
副会長 大槻 辰弥
先月、機会に恵まれスペインの美術館やアートギャ
日本の印刷物はオーバークォリティーだと言われる
ラリーを視察することが出来た。スペインへの視察を
場合も多い。たとえば、封筒や DM の平網部分にルー
考えたきっかけは、昨年の二科展100周年記念行事
ペで覗かなければ見えないようなピンホールがあるだ
である。様々な方々から、日本の油彩絵画の歩み、公
けで全数刷り直しになる場合も見受けられる。このよ
募展の歩みと功績、近年の公募展の衰退などについて
うな場合については、
「顧客要求事項とは言えオーバー
多くの講演を聴くことが出来た。
クォリティーではないか?」
「地球資源の無駄使いで
そして、文明開化の流の中で二科会が西洋から最先
ないか?」などと感じる。
端の絵画を日本に普及させたという功績、戦後いち早
デジタル技術の進歩で、色調や諧調についても小手
く美術活動を再開し庶民にまで美術を普及させたとい
先の画像修正は簡単に行える。簡単にマスク操作も可
う功績がよく理解出来た。その感想として、
「今の二
能なので、一枚一枚の画像としてはクリエイティブな
科会で主流になっているキュビズム絵画が、半世紀以
編集が日常的に行われている。
上の時間が経過しているにも関わらず最先端の絵画な
しかし、巷に流通している印刷物を毎日眺めてい
のか?自分が好きなファインアート絵画の最先端とは
ると、画像原稿を再現性という意味では、まともな
何か?」などの素朴な疑問を持ち、インターネットや
CMYK 変換が出来ていないし、まともにハイライトも
図書館で調査した結果、スペイン現代絵画というキー
セットアップされていない画像も多く、
「こんな品質
ワードが浮上した。自分は絵画の専門家でないので、
なのに、何で下版出来て印刷物として流通しているの
その情報が正しいかどうかは解らないが、直観的にス
か?」と不思議に思う印刷物も非常に多い。
ペインへの視察を決断したのだ。
また、本来は広色域でなければ情報として伝わらな
実際に現地の美術館へ行くと、日本の美術の教科書
い画像が満載なのにも関わらず、インキの価格と予算
では紹介されていない画家達の素晴らしい作品が数多
の関係でプロセスインキしか使えない案件も多いよう
く展示されていた。また、美術の教科書を見て「何で、
に思う。仮に予算が許し広色域インキが使用出来たと
こんな作品が良いのか?」と疑問を抱き続けていた作
しても、それに適した CMS が出来ているのか、印刷
品を目の当りにし、初めてその作品の凄さを理解する
した直後は大丈夫であっても長期間耐えられる色の安
ことも出来た。それとともに、美術の教科書の印刷再
定性を持っている色材なのかという心配もある。
現の貧弱さに非常に落胆した。
個人的には、日常的に都内の美術館めぐりをする。
実物を見てみなければ分からないことが非常に多
日本は有数の印刷技術を持つにもかかわらず、印刷再
い。今では、書籍でも TV でもインターネットでも世
現が正確でなく美術館で見た作品とは程遠く、買って
界中の名画を見ることが出来るが、表面的にはその作
帰っても意味がないと感じる図録が多いので非常に残
品の存在を認識できても、その作品そのものを理解す
念に思う。
ることは困難である。
印刷を発注する側も印刷物を作る側も、その印刷物
けれども、人間の眼の物理的性能と現代の画像技術
の役割をよく考え「それに合致した品質とは何か?」
を照らし合わせて考えると、メディアの種類はさてお
をよく理解して印刷物を発行するべきではないだろう
きもう少し鑑賞者に伝わる画像再現が出来るのではな
か。安易な経済的理由で判断し印刷物の制作を行う現
いだろうか。
状の傾向は見直すべきであろう。
1
<< 版画と印刷文化 >>
版画を作る会
講演:飯田 琳也
平成 28 年 2 月 29 日(月)18 時 30 分から、都
立工芸高等学校 1F 会議室にて行われた、版画
(記録:印刷教育研究会 大槻辰弥)
まうという危機感に対し、それでは困るという画家
たちが創作版画を始めました。そして、明治終わり
ごろから自分でデザインをして彫って摺って販売ま
でするようになりました。そして昭和初期には学校
を作る会の飯田 琳也 氏の講演会「版画と印刷文化」
の模様を報告します。
教育のなかでも版画が取り入れられました。現在で
は、年賀状のほかカレンダーなど装飾品としての用
途があります。これから、版画をどのようにしてい
元々は木材関係の仕事をしていました。千葉に「版
画を作る会」を昭和 30 年代後半に作ることとなり、
東京オリンピックが行われた昭和 39 年に版画の世
くかは、専門家が研究していくでしょう。
日本は木の国であり、木は手軽に入手でき加工も
界に入りました。今年の 10 月に「版画を作る会」
の 50 周年記念を祝います。
百済から日本へ仏教伝来とともに、木版画の技術
簡単です。外国のような石の文化でなく、昔は活字
も木で作り印刷をしていました。また、日本の木版
は板目木版で行われていますが、外国は小口木版が
使われています。これは、木の加工の問題と木の材
者も渡来し日本の仏教の普及のために木版印刷が行
われました。
江戸時代には、錦絵が発達しました。版画をデザ
インする絵師と、版を作る彫師、印刷を行う摺師が
いて、それらをまとめていた版元が庶民に頒布しま
した。江戸時代の中期から後期にかけ、盛んに庶民
の手に届けられ当時隆盛を極めたわけです。ところ
が、明治になり生活様式が変わると職人の仕事がな
くなり衰退していきました。
日本人は物を作る場合に手先が器用で、材料、彫
刻刀、バレンなどを独自に改良していきました。日
本は中国と違い座る文化であり、座っていて使いや
すいように道具が工夫されました。座る文化という
のは引く文化でもあり、ノコギリやカンナは外国で
は押して使いますが、日本では引いて使うように改
質の問題によります。日本には版画に適した木が多
くあり中でも桜材が優れ1000枚でも十分摺れま
す。錦絵の場合は、1 日に摺れる限界から200枚
を1単位として摺っていました。
浮世絵も場合、紙を湿らして摺る方法がとられて
いました。約 39 × 53cm の大きさの大奉書を、半
分に切った大きさが浮世絵の大きさです。紙は伸縮
が激しくその大きさで1センチ位伸びるので、乾い
たままだと多色刷りの場合に見当が合わなくなりま
す。1枚摺ったら乾かないようにすぐに袋に入れて
作業します。
摺師は版に素早く絵の具を付けて作業を行いま
す。版の上に 1 分間も紙を置くと紙がくっついて
しまい、紙の表面が剥がれてしまいます。
前述の通り日本は板目版画なので、版材として桜
材が適していますが、桜材は高級なので専門的用途
良されました。
「和漢三才図会」
・
「和漢船用集」という江戸時代
の本の中に「100年前から台カンナが使われるよ
うになった」と記されています。当時の台カンナは
で使い、一般的にはシナ合板を使います。それに対
現在のような 2 枚カンナでなく、江戸時代までは
1枚カンナが使用されていました。現在、替刃式カ
して、外国は小口版画なので、小口にでも綺麗な線
が出せるように刃物を改良されています。日本でい
うメゾチントロッカーのような刃物を使用します。
彫刻刀の種類は、印刀(切出刀)、丸刀、三角刀、
平刀が一般的です。復刻版画を行っている東京の東
ンナが使われるようになっていますが、替刃式では
精度の良い版木が作れなくなるのでサンドペーパー
を使って仕上げています。
どの分野でも機械化が進み高度な製品が作り出さ
京伝統木版画工芸協同組合などでは、線彫りをする
場合に一般的な彫刻刀ではなく版木刀という手の中
れていますが、根底にある人間の資質が伴っていか
ないと進歩はないと思います。紙や版木について
は、昔からの良いものは無くなってきている現状も
に納まる短い印刀を手前に引いて彫る手法を用いて
います。版木刀は専門的で高価であるため、一般的
には彫刻刀を使用しています。丸刀も堅い版木の場
あり、それについて研究会でも考えていくと良いと
思います。
明治になって、このままでは版画は無くなってし
合は作業性が悪いので、専門家はノミを使用して彫
ります。
2
バレンの構造
摺の道具として、バレンは中国から入って来まし
たが、材質に竹を利用し日本独特の形状に改良され
ています。摺師はバレンを数種類使い分けて摺り
ます。バレンは非常に高価で、専門家用のものは 4
~ 5 万円いたします。
バレン芯
主材
バレンの主材は真竹で出来ており、内側の当て皮
は和紙を 40 枚位貼りそれに絽や紗を貼り漆を塗っ
てあります。バレン芯は、竹の皮を細長く裂いて
当て皮
30 ~ 40㎝の長さに揃えより合わせて作ります。 バレンの芯を作るのは大変ですが、バレンの竹皮は
汚れたり摩耗した場合には竹皮を張り替えて使いま
版画の摺りの手順
す。
絵の具は一般的に水性のものを利用します。絵の
具は顔料で作りますが、染料では紙に浸透してしま
い上手く摺れません。
手順1
版面を水で湿らせる
刷毛は馬の毛を使用しており、毛先を平らにはさ
みなどでカットしてあります。細かく毛先を割って
手順2
いく作業を、刷毛おろしと言いますが、サメの皮で
刷毛を擦って毛先を割ります。他にシカ毛やブタ毛
の刷毛もあるますが、毛が堅すぎると絵柄にスジが
出てしまい柔らか過ぎると絵の具の伸びが悪いので
馬毛が最良です。
見当とは、版木の右下に付けられた鍵型のマーク
のことで、鍵型を版上に残すように彫り、摺師が版
木を摺る時に紙を置く目安とするものです。顔の部
分とか見当がずれるとまずい部分に上手く見当を合
わせるために、顔の近くの角に見当を付けることを
頭見当と言います。見当が初めて出来たのは鈴木春
信の時代です。髪の毛のような細い線は、1 mmに
3 本位まで彫ることが出来ます。
出来上がった摺り物から複製版を作ることも可能
で、雁皮紙(がんぴし)という薄い紙に絵をトレー
刷毛で水を均一に広げる
手順 3
版面に絵具を、少しだけ
塗る
手順4
刷毛で絵の具をなじま
せ、絵具の量を確認する
手順5
スして版下にします。
西洋で小口版画を行う理由は、板目を平滑に加工
出来ないからです。西洋のカンナも中国のカンナも
台が鉄で出来ています。日本のカンナは台が木で出
見当の位置に合わせて、
慎重に紙を版面にセット
来ているため、薄くカンナをかけられ板目の平滑に
することが出来ます。カンナの刃を研ぐのにも技術
を要しますが、カンナの台を直すことの方が高い技
手順6
バレンで摺る
術を要します。
テレビなどで、カンナ掛けで薄い 1 枚のカンナ
くずを出す映像が紹介されますが、桜材の場合は少
手順7
し厚めで 0.0 1㎜位です。それでも薄いですから向
こう側が透けて見えます。
摺り上がり
引き続き版画の摺りの実演が行われました。バレ
ンの構造と摺りの実演の手順を図示しました。
3
✿研究会のご案内✿
この度、印刷教育研究会では、講師に スタジオ OTO 平塚 音四郎 氏をお招きして、「写真と著作権
について」ご講演いただくことになりました。
会員ならびに賛助会員の皆様をはじめ、関係各校の在校生・卒業生の皆様のご参加をお待ちして
おりますので、よろしくお願い申し上げます。
テーマ:「写真と著作権について」 写真の著作権や肖像権について、写真を撮る側と写真を扱う側の立場に分けて、それぞれの立場の
権利や義務、罰則、注意することなど解説していただきます。
講 師:平塚 音四郎
日 時:平成 28 年4月18日(月) 18時30 分~20時 00 分
会 場:都立工芸高等学校 1F 会議室
参加費:無料
申込先:HP のお問い合わせフォームより、” 4 月の研究会参加希望 ” とお申込みください。
~講師略歴~
1958 年 岐阜県に生まれる
1980 年 東京工芸大学画像工学科卒
1980 年 パッケージ印刷会社就職、1982 年からレスポンスで画像処理を学び、その後、広告写
真の第一人者の杉木直也氏に師事、撮影を学ぶ。親の介護で岐阜の総合印刷会社で撮影
からマルチメディアの仕事をする。
1997 年 スタジオ oto として独立現在に至る。
撮影から画像処理までを行い普段は、商品、カタログ、美術品、料理など広告関係をしながら。デ
ジタルでは、試作品から完成品を画像処理で仕上げている。
(社)日本写真家協会会員(JPS)(社)日本広告写真家協会会員(APA)(学)日本プリンティング
アカデミー客員教授(アナログ / デジタル撮影)(社)日本印刷学会会員
http://studio-oto.com/
平塚音四郎スタジオ OTO ホームページ | 商品撮影、撮影~フォトレタッチ、画像入力、写真教室
も studio-oto.com
撮影の基本料 / スタジオ料金 / 写真教室入会金などが 0 円、撮影 / 撮影機材 /PC 画像修正もお気
軽写真教室で! web 用商品撮影も高品質でお手軽価格!¥1,500 ~(税抜)、取材撮影 1 日 8 h
¥50,000 ~(税抜)web 用商品撮影も、撮影後の web 用色調補正などもプロレベルでのクオリティー
でおこないます。 撮影から web 用の RGB データの印刷用の CMYK 変換まで行っています。試作
品~完成イメージ写真の制作・特許写真、撮影~フォトレタッチもカメラマンがプロの目で!
印刷教育研究会では、正会員、賛助会員を募集しております。
•
正会員 ( 主に印刷関連の教育機関等で教育に携わる者 ) 会費 年間 2,000 円
•
賛助会員 ( 本会の趣旨に賛同する法人及び団体・個人 ) 会費 1 口年間 10,000 円 (1 口以上 )
会員は、当研究会主催の研究会・見学会に無料で参加いただけるほか、一般財団法人 印刷図書館を無料で
ご利用になれます。多数の入会の賜りたく、お願い申し上げる次第です。 4
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