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イオンモール岡山の建築設備計画
── 実 施 例 ── イオンモール岡山の建築設備計画 イオンモール㈱ 開発本部 建設部 佐 藤 雅 哉 ㈱大本組 建築本部 設計部 木 津 伸 哉 三菱重工業㈱ 大型冷凍機技術部 長谷川 泰 士 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス 石 川 淳 ■キーワード/大規模ショッピングセンター・建築計画・設備計画 1.はじめに 2.建物概要 2-1 建物概要 岡山市北区に西日本最大規模のフラッグシップモール 「イオンモール岡山」 が平成26年12月にオープンした。 (写 建 物 名 称 イオンモール岡山 真-1) 所 在 地 岡山市北区下石井1丁目2番1号 中四国エリアの交通の要衝「JR岡山駅」から徒歩5 建 築 主 イオンモール㈱ 分の場所に立地し,駅からは岡山駅南地下道が直結され 建 物 用 途 ショッピングモール (物販・飲食,サービス, 来店客の利便性は極めて高い。 映画館,放送局) モールコンセプトは“晴れの国”といわれる岡山にちな 敷 地 面 積 45,495.88㎡ んで“haremachi (ハレマチ)わたしのみらいをつくるま 建 築 面 積 34,961.84㎡ ち”となっており, 「haremachi Gate」 「未来スクエア」 延 床 面 積 251,157.78㎡ 「haremachi Garden」と3つの異なる都市空間を自在に 構 造 規 模 鉄骨造 地下2階 地上8階 楽しむことができる。さらにこれまでにない取り組みと 駐 車 台 数 約2,500台 してモール独自のネットTV放送局「haremachi Studio」 工 期 平成25年4月~平成26年11月 や地上波TV放送局「OHKまちなかスタジオ〈ミルン〉 」 が併設され,モール内の最新情報や地域密着の多様な情 報発信がリアルタイムで行われている。 写真-1 建物俯瞰 ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89 ─6─ ── 実 施 例 ── <建築本体工事> 予備電源:非常用発電機 1,250kVA(燃料:A重油) 設計・監理 ㈱大本組東京本社一級建築士事務所 弱 電:TEL,LAN,TV,ITV,放送,機械警備 総 合 施 工 ㈱大本組 防 災:非常照明,自火報,非常放送,誘導灯,避雷針 <熱源設備>イオンモール㈱からの熱源受託事業 給 水:受水槽(SUS製溶接型)有効容量460t 受 託 者 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・ +加圧給水ポンプ方式 サービス 給 湯:個別給湯方式(電気,ガス) 設計・監理 ㈱大本組東京本社一級建築士事務所 排 水:汚水・雑排水合流式,厨房排水単独排水 総 合 施 工 ㈱大本組 消 火:スプリンクラー設備 (閉鎖型,開放型,放水型) , 2-2 計画概要 連結送水管,泡消火設備,移動粉末消火設備, 建設場所はJR岡山駅から南方に約300m, 「市役所筋」 ハロゲン化物消火設備 という大通りに面する好立地である。郊外型ショッピン 熱 源:磁気軸受式インバータターボ冷凍機+吸収式 グモールとは異なり,定められた高建ぺい率・高容積率 冷温水発生機,空冷HPモジュールチラー を有効に活用して,商業階9層からなる高層型商業施設 空 調:ファンコイルユニット+外調機,空冷HPエ となっている。そのため,従来の動線計画は横方向に対 アコン,ルーフトップエアコン,直膨式空調 してお客さまがスムーズに回遊していただくことに重点 機,エアハンドリングユニット を置き計画するが,それに加え縦方向も検討する必要が 排 煙:機械排煙 あり,いかにしてお客さまを飽きさせず,施設全体を回 昇 降 機:乗用・人荷用エレベータ,エスカレーター 遊していただくかが課題であった。 そ の 他:厨房除害設備 縦方向の回遊性向上の工夫の一つとして,施設全体を 3.電気設備計画 地下層 (B2階からB1階) ,低層階 (1階~4階) ,高層 階(5階~7階) と3つのテーマゾーンに分け,それぞれ 3-1 受変電設備 の層を異なる施設テーマとすることで,上層階に上がる 受電方式は三相3線22kVを本線・予備線の2回線に お客さまに対し,驚きと新鮮さを感じていただけるよう て引き込み,特高変圧器容量は7,500kVA×2台として 計画した。 いる。サブ高圧受変電電気室として,2階および最上階 また低層階には,シンボル的な空間である中四国エリ に12カ所の分散配置を行い(図-1),特殊な大型テナン ア最大級の屋内イベントスペース「未来スクエア」を設 け,1階のイベントスペースを2階から4階にかけて S/S-G 徐々に吹き抜けを大きくするすり鉢状の吹き抜け空間で S/S-K 囲み,その周囲にエスカレーターを設置することで,よ S/S-H RF S/S-I り多くの人々がイベントを見物できるようにしたこと RF や,上に上がる動線の流れを見せることによって,上階 P8F への期待感を創出した。 (写真-2) S/S-E S/S-J S/S-F S/S-太陽光 P7F S/S-D 7F P6F 6F 5F 4F 3F S/S-C 2F S/S-B S/S-A 1F 特別高圧 受変電設備 写真-2 未来スクエア B1F 2-3 設備概要 図-1 受変電設備 高圧幹線系統図 受 変 電:特別高圧22kV 受電 (常用・予備2回線) 図3−2−1 ─7─ ヒートポンプとその応用 2015. 11. No.89 ── 実 施 例 ── トには単独の高圧変電設備とし,各高圧受変電の供給エ て,照明本体からの発熱が抑えられ,冬季の室内温度環 リア・用途を考慮した区分とすることで,安全性,メン 境維持には,導入外気の昇温を考慮する必要がある。そ テナンス性に考慮した。 のため温熱源に吸収式冷温水発生機を設置し,温水供給 3-2 照明設備 を可能にしている。また夏季にはターボ冷凍機と吸収式 中四国エリア最大級の屋内イベントスペース「未来ス 冷温水発生機を併用することでエネルギーのベストミッ クエア」では,膜天井へのフルカラー LED投光器や クスをはかり,電力のピークカットに対応した。さらに LED間接照明の照度や色彩の変化を利用した多彩な 熱源台数制御には,現状の冷熱負荷と冷却水温度から シーン演出を可能としている。 もっとも高くなるCOPを演算して台数制御を行う「熱 館内共用部の照明はすべてLED照明を採用し,平均 源システム最適化制御」を導入している。 照度は500lxとした。低い照度設定でありながら,内装 以下に主な熱源機器の構成と熱源スペースの設置状況 材の仕上げやテナント内の明るさ,キャッチアイ部分の を示す。 (写真-5) スポット照明などを用いて明るさ感を確保している。 6・7階の飲食ゾーンおよび4階フードコートの通路 スポット照明は個別調光制御とし,昼間と夜間の照度設 定を変えるなど,シーンごとに演出可能とするシステム を採用した。 (写真-3・4) 写真-5 熱源スペース俯瞰 磁気軸受型インバータターボ冷凍機 800USRT×3(屋外型) 吸収式冷温水発生機 650USRT×2(屋外型) 写真-3 核店舗売り場 開放式冷却塔 3,293kW×3(集合型) 3,798kW×2(集合型) 冷房時に冷水7℃,暖房時に温水45℃の冷温熱源を屋 上の熱源スペースより店舗内のファンコイル (FCU)お よび外気処理空調機(OHU)に供給している。空調シス テム図を図-2に示す。 4-2 空調区分 空調ゾーニングは,中央熱源ゾーンと個別空調ゾーン に分け,各店舗の負荷や営業形態を考慮しながら計画し た。中央熱源ゾーンはFCU系統とOHU系統をヘッダで 分離してFCU系統には冷水のみを供給し,OHU系統に は冷水と冬場の外気を昇温するため切替弁で温水が供給 写真-4 ハレマチガーデン できるシステムとした。風除室や飲食テナント,物販テ ナントの一部について,空冷ヒートポンプエアコンによ る個別空調ゾーンとしている。 4.空調設備計画 4-3 熱源運転実績データ 4-1 空調システム概要 熱源設備の運転実績として,平成27年6月21日㈰の 熱源設備は㈱エネルギア・ソリューション・アンド・ データを図-3に示す。 サービスによる熱源受託事業を採用している。 原稿執筆時点では運用開始後の夏季を迎えていないた 従来,大型商業施設は主に照明の内部発熱により年間 め,フルロード運転の実績データを掲載することができ を通して冷房が必要であったが,LED照明の普及によっ ないが,この日はインバータターボ冷凍機2台の運転で ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89 ─8─ ── 実 施 例 ── リテール系統 FCU F モール・テナント系統 FCU F T 出口温度 外気温度 リテール系統 給気温度 OHU T 出口温度 外気温度 モール・テナント系統 給気温度 OHU F F 流量・熱量 流量・熱量 流量・熱量 流量・熱量 CHS CS 冷温水ポンプ (NO.1∼2) 冷水ポンプ (NO.1∼3) CS CHR CHS 還水温度 T 送水温度 T F 流量・熱量 T T 送水温度 建築本体工事 CR 還水温度 F 流量・熱量 熱源設備工事 (熱源受託事業) AR-1 AR-2 AR-1,2:吸収式冷温水発生機 (650USRT) TR-1i,2i,3i:INVターボ冷凍機 (800USRT) TR-1i TR-2i TR-3i 図-2 空調システム図 図3−2−2 16 14 12 10 8 6 却水ポンプはともにインバータによる変流量制御を行っ 25.0 ており,変流量制御をしない場合と比較して,搬送動力 20.0 を約25%削減する効果があった。またインバータターボ 15.0 冷凍機の性能を評価するため,実際の計測値とメーカー 10.0 4 が公表している性能特性をもとに同じ条件下で算出した 5.0 2 0 める割合は18%程度となっている。そのうち,冷水・冷 (℃) (COP) 30.0 (GJ/h) 18 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 (時) 時 刻 TR-3i(COP) 外気温度(℃) 湿球温度(℃) TR-2i(GJ) システムCOP TR-2i(COP) 冷却水入口温度(℃) TR-3i(GJ) COPを表-1に比較整理した。この表からも,平均値 0.0 でメーカー公表データ以上の運転が行われていることが 分かる。 図-3 熱源設備運転実績データ(平成27年6月21日) 表-1 冷凍機単体COP 算出値と計測値の比較 表−1 冷凍機単体COP 算出値と計測値の比較 図3−2−3 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 19時 20時 21時 平均 推移しており,製造熱量のピークは17時台に計測した TR-2i 15.7GJ/hで,冷熱供給最大 (46.8GJ/h)の約34%程度であ る。 TR-3i このグラフから分かることは,製造熱量の時間変化は 算出値 8.1 8.3 7.8 8.0 7.8 7.7 7.6 7.7 7.7 7.5 8.3 8.0 7.9 計測値 8.3 8.1 7.8 7.9 8.1 8.0 7.8 8.0 7.8 7.7 8.0 8.1 8.0 算出値 7.2 8.4 8.3 7.8 8.0 7.8 7.7 7.6 7.7 7.7 7.5 8.3 8.0 7.8 計測値 7.9 8.0 8.0 7.7 7.9 8.0 7.9 7.8 8.0 7.9 7.7 8.0 8.1 7.9 外気温度とほぼ相関していること,また機器の効率に大 きく影響する冷却水入口温度については,外気湿球温度 表3−2−1 の変化に追従しており,冷却塔が正しく機能しているこ 5.ターボ冷凍機の新機種採用 とが確認できる。 熱源設備のターボ冷凍機は,三菱重工業㈱が平成25年 効率においては,システムCOPは6.0前後,インバー 8月に開発した潤滑油不要の磁気軸受を搭載した新機種 タターボ冷凍機の単体COPは2台とも8.0前後の高効率 「ETI-MBシリーズ」を,国内で初めて「イオンモール で推移している。熱源全体の電力量のうち,補機類が占 岡山」に導入した。 (写真-6) ─9─ ヒートポンプとその応用 2015. 11. No.89 ── 実 施 例 ── 部分の店舗でLEDを採用しており,従来店舗と比べ約 40%の消費電力を削減し,CO2排出を抑制。 6-3 節水型器具の採用 館内の便器に節水型便器を採用し,トイレの洗浄水量 を抑制。 6-4 中水処理水の活用 店舗で発生する厨房排水を処理し,トイレ洗浄水とし て再利用をはかり,年間12万tの上水を削減。 6-5 電気自動車充電器の設置 エコカーの積極的な推進を後押しするため,5階駐車 写真-6 磁気軸受型ターボ冷凍機(屋内設置型) 場に電気自動車充電エリア(急速充電器)を設置。 (写真- 特徴として,ターボ冷凍機の心臓部である圧縮機の回 8) 転軸を通常の転がり軸受から,磁気で浮上させる軸受構 造とすることで,摩擦抵抗を非常に小さくすることが可 能となっている。また新型翼の採用によって,より一層 の高効率化を実現し,これらさまざまな高性能化技術を 採用することで,定格COPは6.3 (IPLV=9.0)を達成して いる。さらにコンパクト・軽量化についても改良を加え, 従来機種と比べ,設置面積は15%,機器重量は20%削減 することができ,機械室レイアウトの柔軟性や搬入の容 易性が向上した。 磁気軸受の搭載により,定期的な潤滑油の交換および 潤滑系統のフィルタ交換が不要となることから,日常的 な潤滑系統管理が省力化され,メンテナンスの手間とコ 写真-8 電気自動車充電エリア ストの大幅な削減が実現し,熱源受託事業のメンテナン ス費用低減にも寄与している。 7.事業継続計画(BCP)の対応 6.環境負荷低減への取り組み 災害時には電源を長時間型非常用発電機にて確保し, 6-1 太陽光発電設備 防災拠点や主要設備のほかに,核店舗(イオン岡山店) の 店舗屋上に約300kWの太陽光パネルを設置し,再生 食品売り場に供給し,営業活動が継続できる。断水時に 可能エネルギーを積極的に採用。 (写真-7) は施設受水槽に設置した仮設給水口より飲料水を確保す 6-2 LED照明 るとともに敷地内に仮設トイレ用排水桝を設置した。ま 館内共用部と外部サインにLEDを100%採用。また大 た施設内外に設置したデジタルサイネージには,災害時 の緊急情報発信が可能となっている。 8.おわりに 「イオンモール岡山」は開業半年間で来店客数が950万 人を超え,現在も大変なにぎわいを見せている。これか ら先,新しい規格である都市型商業施設の特徴が,さま ざまなデータとして蓄積されていく。その過程で新しい 課題を見つけ解決に取り組み,人と環境に配慮した方策 を追求していくことが不可欠であること,すなわち省エ ネルギーにおけるベンチマークを関係者が一体となって 日々進化させていくことが運営者のこれからの取り組み テーマである。 最後に,本プロジェクトの実施にあたり,多くの関係 各位の皆さまにご指導とご協力を賜り,この誌面をお借 写真-7 太陽光パネル設置状況 ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89 りして厚く御礼申しあげます。 ─ 10 ─