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中山間地域における山菜の野菜化技術の開発と将来展望
東Jヒ 農業研究 別号 lTohoku Agric Res Extra lssue)14, 37-50 (2001) 中山間地域 にお ける山菜 の野菜化技術 の開発 と将来展望 阿 部 清 (山 形県農業研究研修 セ ンター中山問地農業研究部 ) History and Prospect of Wild Vegetable Cultivation ir hilly atrd Mountainous Areas of Yamasata Prefechrre Kiyoshi ABE (Department ofhi[y and Mountainous Areas Agricultural Studies, Yamagata Agdcultunl Research and Training Center) 1.山 形県における山菜栽培の現状 間地域の栽培に関しては,暖 地に比較 して有利 な 本県における山菜栽培 は,昭 和 50年 代前半 に 側面が多いことがあげられる。また,有 力 な山菜 注目を集めるようになった。昭和 50年 代後半 に 類 は,中 山間地域に比較的多 く存在す る農地 を活 入 り品目が拡大 し,タ ラノキ,ウ ド,コ ゴミ (ク 用 して株養成 を行 い,集 約的 にパ イプハ ウス等 サソテツ),ワ ラビ,ゼ ンマイ,ミ ズ類 の施設内で促成する栽培方法が主体であるため ミツウ,ヤ マ トキホコリ),ウ ルイ類 ンボ),本 の芽類 (ア (ウ (ウ ワバ ルイ,ギ ケ ピ,ウ コギ),シ オデ,シ , 平坦地に比較 して経済的に不利ではないことが栽 培面での中山間地域の有利性 を際立たせている。 ドケおよびギ ョゥジャニ ンニク等,多 くの種類が さらに,積 雪地帯での栽培 は,無雪地帯 に比較 し 山採 り物に加えて栽培物が生産出荷されるように て生育期間が短 い とい う不利 な条件 を持 つが なった。この背景 には,本 県 は市場性の高い山菜 積雪 により根株等が保護され栽培株 の経済年数 類の 自生地が数多 く存在 したこと,市 場流通の傾 が相対的に長い長所 を併せ持 つ。本県に自生地 向が少量,多 品日であつたことや消費者の安全志 が多いことからも,容 易に想像で きる。 向に加え,野 菜類の中では比較的高価格であった , 中山問地域の農業振興上,山 莱類 の野菜化技 術の開発 は,農 業者のニーズ に即応 した主要な ことも要因 として考 えられる。 平成に入 り,研 究機関の技術開発や普及セン 研究課題であった。 これ まで開発 した山菜類の ターの現地実証,農 業団体 の商品開発等により 野菜化技術が農業者の生産意欲を醸成 した一例 と タラノキおよびウルイの生産が急増 し,主 産地 と して,タ ラノキおよびウルイを取 り上げ,そ の野 なった。中でも,タ ラノキは優良系統,品 種の選 菜化技術の開発 の経過 を紹介する。 , 抜,育 成お よび栽培技術の開発 により,ウ ルイは , 栽培技術の開発および商品開発により生産が急増 山莱類の技術開発 には,本 県の多 くの研究員 並びに農業改良普及員が関係 したことを記する。 した。 lL菜 類 は,早 春に萌芽 した若茅や若茎 を採取 し て食用にする種類が多いことから,他 の野菜類に 比較 して比較的低温で生育する。そのため,中 山 -37- 2.山 菜の野菜化技術の開発 (1)タ ラノキ (た らの芽) 本県 におけるタラノキ栽培 は,昭 和 40年 代 に 山野の 自生株を採取 して促成する方式で拡大 し しているものと考 えられる。同 じく頂芽は H月 昭和 50年 代以降は主産地 となっている。 下旬に最 も休眠が深 く,12月 下旬には休眠は覚 , 栽培方法 は,昭 和 ω 年代 に,側 茅 を活用 した 醒 しているものと推察される 促成栽培 (籍 地で栽培 したタラノキを落葉後 に切 表-1 り出 し,ハ ウス等の促成室で萌芽 させる栽培方 法)が 主体になり,穂 木 (栽 培 されたタラノキの タラノキ3年 生株の落葉期 (1994) 品種,系 統名 当該年度に伸長 した主茎 )を 用いた促成法 と種 根 (タ 落葉数 落葉比率 % 枚 ラノキの増殖用の根。通常は前年 に伸長 し た根 を用 いる。 )に よる増殖法が主な栽培技術で ある。また,収 最性が高 く,品 質の優 れた品種 (`あ (表 -1)。 やの'等 )及 び系統 (`蔵 王 2号 '等 )が 導 落葉期 月 半旬 あやの 138 397 10 5 蔵王 2号 82 281 11 1 新 90 駒 6 注)落 葉比率は節数に対する比率 落葉期は全ての葉が落葉,枯 死 した時期 調査場所は山形県真室川町 入されるようになり,野 菜化 された山菜栽培が著 しく増加す るようになった。 1)生 理 生態的特性 タラノキはウコギ科の落葉低木であ り,日 本全 頂芽 と側芽の休眠の程度を同じく促成 日数から 土の日当た りの良い山地や原野 に自生す る。 棄は 観察すれば,側 芽の休眠は頂芽 に比較 して浅いこ 大型で互生 し,対 葉 は3∼ 5対 であ り,小 葉が着 とが,ま た,落 葉期に品種間差があることか ら 生す る。刺 は系統 によって多様 であるが,一 般的 栽培面では,年 内の出荷では,側 芽の H月 下旬 には幹,葉 柄,小 葉にも着生する。品種開発に関 頂芽の 11月 中下旬から12月 中旬の促成開始時期 係 し,品 種特性等の調査から,山 形県最上地域で は以下のような生理,生 態があった。。 は困難である と考 えられた。なお,落 葉期 までの 花 は,3年 生以降,株 の幹の先端に8月 頃に円 錐花序 を付ける。果実は小球形で,10月 になると , , 促成は,頂 芽,側 芽とも比較的容易である (表 ― 8)。 2)品 種 特性 黒 く熱す。栽帯株は,一般的には毎年枝 を切 り戻 タラノキの野菜化の過程で,最 も話題になるの す ことか ら,成熟が遅れ,5年 目以降に開花する。 は品種,系 統である。タラノキは,全 国各地に自 開花までの年数 は品種や系統によって異なり,現 生 し,様 々な変異があることが知 られている。 地での観察では `あ `新 駒 'は 早 く, `蔵 王 2号 'や 栽培物で側芽を活用する品種 として栽培が多い やの'は 遅い。一度開花が見 られると,株 の `新 駒'に ついては,促 成芽の収量が高い (約 "0 kg/10a)が 品質にやや難があること,立 枯疫病 草勢 は著 しく低下 して くる。 頂芽および側芽は休眠があり低温により覚醒す に弱いこと,側 芽の着生角度 は鈍角であ り,積 雪 る。休眠の導入期 を,一 般的な落葉樹 と同様に 地では安定 した株養成が難 しいこと等 によ り,積 落葉期 から推察する と,最 上地域では, `蔵 王 2 雪地に適 した品種および系統の選抜が課題であっ 号 'の 側芽は 11月 上旬 に休眠に入 り,促 成栽培 た。本県 における品種および系統 の選抜につい における萌芽 日数から推察すれば,11月 中下旬 ては,新 庄農業改良普及センターの支援 により には最 も休眠が深 く,12月 中旬 には休眠は覚醒 現場において選抜が行 われ,以 下の系統,品 種が , -38- 表-2 タラノキ3,4年 生株の品種 (1994,1995) 品種,系 統名 552 8.5 7.8 6 5 3.3 3.0 3 2 促成茅 の形質 萌茅の難易 毛茸の有無 葉鞘の長さ やや易 極少 長 やや易 少 短 1218 302 688 色 やや緑 緑 緑 4.6 太さ cm 早 中 早 132*110 132*104 5.2 114■ 60 4.0 複葉 の長 さ 小葉 の数 帥 枚 55.2 92.8 新茅 (頂 芽 ) 毛茸の有無 萌茅の早晩 長さ cm 砂砂少 大 きさ 複葉 の数 Cm 対 中 強 中 やや多 中 極少 中 強 中 41 29 35 ● 品種 ●口,´ 統名 口 ,系W¨ あ や の 蔵 王 2号 新 駒 刺の多少 頂茅の芽の発達 側芽の発達 Cm の号 駒 あ蔵新 や髭 太さ 注)表 中 の数値以外 は品種特性表 (種 苗法 )に 準ず る 調査場所 は山形県新庄市および真室川町 ターの品種特性調査 の結果か ら,他 品種 との比較 有望系統 として普及 された。本県で栽培が多い 品種の特性 は以下のとお りである。。 では,`新 駒 'と 比較 して,草 丈が高 く,茎 の刺 蔵王2号 :穂 木の生育が良 く,側 芽の品質,収 が多 く,基 の側芽の発達が劣 ること,葉 の紅葉の 量が高い。新山印lnI藤 氏が50年 代中頃に本県 時期が早いこと,促 成芽の葉鞘が長 く,毛 茸が少 朝 日町の山本 から選抜 した系統である。現在,本 ないこと等で,ま た 県の主力品種 である。 が高 く,の 側芽の発達が良いこと,葉 の複葉の数 `蔵 王 2号 'に 比較 して草丈 1号 '等 3∼ が少なく,紅 葉の時期が早いこと,促 成 に関する (系 統)が 混在 して普及された。生産者組 織 により系統 を選別 し,最 も品質が優れ,本 県に 形質で,萌 芽の難易が易であること,促 成茅の葉 鞘の長さが長いこと等で区別 されるい。 (表 -2, 適応性 の高い系統が,過 去の文献 によ り `蔵 王 2 表 -3)。 昭和 60年 代 に当系統の他 4品 種 `蔵 王 号 'と 呼称す ることにし,現 在 に至っている。 本系統 は,`蔵 王 1号 'と の比較では,穂 木の 表-3 タラノキの 3年 生株の収量 (1994) 側芽の状態 は丸みを帯 び (`蔵 工 1号 ',は 三角 状),促 成芽の葉鞘へのアントシアニンの着色が 少ないこ と,葉 や茎 に刺が少ないこと等の特徴 を持つ。 `蔵 王 1号 'は ,現 地では,`山 形系 (1, 2号 )'や 赤日系 と呼ばれていたことがある。 あやの :穂 木の生育がおう盛で,促 成芽の収量 は `新 駒 'と 同等 に高い。山形県真室川町の農業 者,柿 崎氏が,自 生地の在来系統の偶然実生とし て育成 した品種である。新庄農業改良普及セ ン -39- 促成芽 品種,系 統名 個数 137 g l10 kノ 10a 256 820 115 71 139 1,481 131 113 252 g 個 あや の 1,516 蔵王 2号 新 駒 平均重 注)促 成芽 の数値 は穂木5本 当た りの数値 収量 は,穂 木 の本数 を850本 として換算 促成方法 は,一 芽挿 し 調査場所 は山形県新庄市 3)増 殖・育苗技術 していなかった。育苗技術の開発 では,種根が比 タラノキの増殖 は,種 根 (増 殖用の根,一 般的 較的潤沢 に確保できること,降 霜期以降の定植 , には一年根 を用 いる。以下,同 様 とする。)を 栽 優良系統 ,品 種が存在す ること等 を技術開発 の 培 ほ場へ直接定植 格的な普及が図られた。しかしながら,定植後 に 前提条件 にした。本畑 における欠株 のす くない 育苗方法 は以下のとお りである。 (表 -4,表 ― 土壌の水分条件の変化 により,種 根 の腐敗 によ 5)。 (指 し根)す る方法により,本 る欠株が多 く,株 養成 ほ場 での初期生育は安定 表-4 種根の腐敗防止処理の効果 育苗 日数では,暖 地の栽培事例 よ り,本畑の生 (丸 子,1998) 種根 処理 サ ィズ 重量 (cm) 15 IPN浸 漬 チオファネートメチル 15 塗布 75 (lul) 4.4 59 43 5.5 4.4 75 15 75 楊 (g) 6.2 0 6 6 9 10 Ⅲl:腐 敗せ ず出芽 しない種根 Ⅲ 2:出 芽 した魯根 も含 む Ⅲ 3:Σ (腐 敗指数 ×個体数) (4× 供試数 ) 腐敗指数 1:切 り口部柔らかい 2:腐 敗が種根の1/4 100 100 0 0 0 0 3:腐 敗が種根の1/3 4:腐 敗が種根の1/2 出茅始 鉢上げ 8 り0 0ん 0ん 8 4/30 4/29 4/29 育苗終了時*4 葉数 地上部 新鮮重 (g) (枚 ) 9 9 0 04 ′■ ウι 6 4 8 8 1 6 1■ 04 う0 1 2 4 9 3 6 1 0ん 0一 90 5 1 9 1 2 5 8 1 6 1 工 0一 ●● 5 417 667 (本 ) 9 7 1 6 26.9 献難 ⑤ (m) (%) 4/27 4/25 4/25 6.6 100 0 嶽嬢 m 根 率 根数 鼻 査発 0 0 0 100 0 67 100 0 800 86.7 融 0 腐敗 0 (茅 /種恨 ) 100 100 数月 /日 7濁 /日 度 α)α )溝ぷ程 " 月 鉢 上 げ時 芽数 100 79.2 (丸 子,1998) 8 7 38 72 8 2.6 100 91.7 35.7 8.3 917 出芽率 未出芽率」 8 15cm 種根 酔m 5cm 75m 菫0 種根の 大きさ 0 0 0 643 表-5 種根の大きさが苗の生育に及ぼす影響 *3 - 250 6 度 溝 ぶ程 (%) (%) 10 腐敗 未出芽率コ 出芽率 直径 地下部 種根 新鮮重 (g) 22 37 6.9 新根 新鮮重 (g) 0.7 2.2 26 中 4:新 鮮重 は5株 6/5調 査 -40- 70 ︵ ぷ︶排翠 嘔橿 0 0 6 4 0 0 0 4 3 2 貧\望︶劇挙 3月 4月 蔵 王2号 収量 (10a当 た り) │ │ あや の収量 (10a当 た り) 譲 一 薔 鰍 20 2月 ‐ 率 5月 育苗開始時期 図-1 タラノメの育苗開始時期の違いが収量 と商品化率に及ぼす影響 (斎藤,1999) 育期間が長いほど穂木の生育が良好であることか が可能になる。とともに,タ ラノキの増殖用 とし ら,育 苗開始時期が早いほど,定 植初年目の生産 て約 15 力が向上 した。 った。 cln長 の種根が一般的に流通するようにな 育苗中の種根 の腐敗等 により苗立ち率 の低下 本県では,平 成 10年 度 より社団法人山形県種 は,魯根の切 り口を保護剤 で塗布する方法が優れ た。 (図 -1)。 苗センターを通 じてタラノキの優良種苗が供給 4)株 養成技術 具体的な育苗の手順 は以下のとお りである。 芽だしに先立ち,あ らか じめ種根 を晩秋に掘 り 上げ,湿 潤状態で低温貯蔵する。種根 は約 5 されている。 タラノキの仕立 て方法 は,側 芽 を主体 にした cllに 栽培 になるにしたがって,株 当た りの穂木 (当 該 切断 し,切 り口を保護剤で保護 し,湿 ったオガ粉 年 に伸長 した主茎,以 下,同 様 とする。 )の 本数 若 しくはパー ミキュライ ト等の用上に植込み,地 を1∼ 2本 とし,充 実 した穂木 を生産する方法 に 温 節℃で芽 だしを行 う。萌芽長約 l 変化 した。現地では,10● 当た りの穂木数 は700 cnl以 内の頃 , 鉢上げを行う。用土は,気 相の高い用土 とし,鉢 ∼1,000本 に仕立てるのが一般的で,株 当たりの 上げ容器 は,定 植適期の3葉 期 には根鉢の形成が 穂木数 は 2本 以下とする事例が増加 している。 ないことから,紙 ポット (SRポ ット等,再 生紙 施肥 は,10a当 たり窒素成分で,基 肥お よび追 施用す る事例が多いが,他 ポット)や ジフイポット等の鉢容器の状態で定植 肥を合わせて20 で きるものを用いる。育苗期間はおおよそ311∼ 40 の落葉果樹同様 に,施 肥時期 との関係が深 いこ 日であ り,本 葉 3枚 が定植適期 となる。 とが指摘されていた。穂木養成における,省 力か つ多収のための施肥方法 り は以下のとお りであ 以上のような育苗方法 によ り,安 定 した株養成 -41- kgを の来展開葉の葉柄 における硝酸 イオン濃度は,全 る。 緩効性肥料による全量基肥は,生 育初期から中 量基肥区は慣行区 と比べ,生 育中期以降は安定 し 期において安定 した窒素吸収が認められ,慣 行の た濃度で推移 した。このことから,タ ラノキの側 追肥体系と同等若 しくはそれ以上の生育を示す。 芽は連続的に形成 されることから,生 青中期以降 促成芽の収量においても,慣 行区 と同等若 しくは も安定 した肥効 により増収効果が高いことが推察 それ以上の結果を示 したことから,タ ラノキ施肥 される (図 -2,表 -6)。 方法 として優 れていた。具体的には,生 育期間中 2500 ―…… ―慣行区 1 2000 ‐ ヽ -― ― 慣行区 2 、 \ 目 1500 0 -―― 全量基肥区 ` ` \‐ ‐ 、 、 ヾ ミヽ 、 1000 \;---.=----.2 ´ ´´ ヽ -':ヽ 500 いヽ\∞ nHヽ∞ いヽ∞ Φ゛ヽト 月 0日ヽト ロ ロ 0ヽト 0一\Φ Φ︼ヽ0 0ヽ0 卜ヽヽい 図-2 級効性肥料 を施肥 した場合の硝酸 イオン濃度 の推移 (大 木 ,1996, 山形県新庄市査 ,品 種名 :あ やの,3年 生株 ,RQフ レックス法 により 最上位展開葉 の葉柄 の汁液を調査 ) , 表 -6 緩効性肥料 を施肥 した場合の促成時の収量 (大 木 ,1999) 調査穂木 区 分 樹高 (cm) 慣行 区 1 慣行 区 2 全量基肥区 235 185 239 樹径 節数 ∼収種 (日 数) 商品収量 kg/10a)。 収量 〈 (g) 30 241 181 219 29 245 156 188 30 233 182 220 (nll) 33 32 33 伏込 み (個 ) 注)1)1209本 (う ね幅 18m株 間06m換 算係数087) 促成調査 は山形県新庄市 -42- 5)促 成技術 培事例を整理すると,側 芽の場合 は,自 発休眠の 促成技術 につい ては,昭 和 60年 代 以 降 に,筆 程度が極浅い ものと考 えられる。促成の可否は 者 ら山形県新庄農業改良普及 センターの現地技術 促成日数 との関係で判断する。一方,頂 芽は,比 開発 によ り,合 理 的な方法 を組 み立 てた。駒木 較的深い 自発休眠があると推察 され,H月 中旬 (穂 本 をおおむね1芽 毎 に切断 した もの。以下 ,同 から12月 中旬 は,促 成が困難である場合が多い 様 とす る。)を 調製 し,促 成す る方法 で あ る。実 (表 -8)。 , 証 ほ等 によ り技術 が組 み立て られ,高 品質なた ら 促成中の大 きな障害は,駒 木の腐敗である。そ の 芽が生産 されてい る。 の大半は糸状菌による腐敗 であると推察され,湿 代表 的な管理方法 を示す と以 下 の とお りで あ ,閂 (密 閉管理),温 暖等の促成環境が原因になっ る。(表 -7)促 成開始か ら数 日間の高温処理法 は ていると推察 される。近紫外線除去 フイルムは 伊藤 ら (199o)の ウ ドの半緑化栽培 にお け る促成 糸状菌の増殖抑制効果があることが知 られてお に,現 地 で実証 されたデ ー タを もと り,タ ラノキの促成における トンネル被覆資材 と 温度 "を 参考 , に組 み立 て られてい る。 して効果が高い 体眠 との 関係 があ り,落 葉期 を基準 に,現 地の栽 できる。 タラノキの促成時 の管理 スケジュール例 促成後 の 日数 主 要な管理 温度管理 水分管理 昼温 ︲ ︲ ︲ ︱ L 0 ・2 ︲ ︲ ︲ 収穫 最盛期 収穫終 了 後片 づ け -43- 淋漱淋漱淋 ︲ ︲ 収穫 開始 水︱ ︱︱︲︲ 滞 5 ︲ ・ ジ ベ レリ ン処 理 一 一 ℃ 一 ︲ ﹂ 9 10 14 15 18 19 20 21 25 29 30 8 ・︲ 3 3 1 ﹂ 2 伏込 み,消 毒 ジベ レリン処理 遮光管理 ,そ の他 夜温 3 01上 8 ︲︲ ︲ ︲ ︲ ︱ 上 0111 2︲上 1 1 駒木調 整 一 ℃ 一 一 -2日 -1 0 -3)。 また,葉 鞘や葉へのア ン トシアニ ンによる着色程度を低下させることが 促成開始時期 は,タ ラノキの側芽お よび頂 茅 の 表 -7 (図 遮光 半遮光 表-8 現地の栽培事例 から推察 した促成開始期の違いによる促成の可否 (1998) あやの 半句 蔵王 2号 側芽の促成 日数 (日 ) あやの 蔵王 2号 10 : 8 8 8 8 `: :: ― ― ― ― ― ― ― ― ― 側芽 -1-― ― 2 11 1 ― O 0 ― 側芽 ― 0 8 O ― o ― ― 25 含 頂芽 × × × 30 ― 25 35 O― 2 含 △ △ △ △ × × × × △〇 〇 〇 9乙 うハ︶ ■ にυ ´U , △ △〇 〇 〇 △ △ △ 0 O― × ×○ ○ ○ 5 6 1 頂芽 × 0 0 0 :: 35 35 35 35 35 25 30 20 20 25 35 35 35 35 35 :: 25 注)可 否 ○ :可 能,△ :や や難,× :困 難,現 地の栽培事例による判定 側芽の促成 日数 標準的な促成方法による推定値 へ︶ ハυ 〓O ΛU ハU 〓O AV 一 3 o4 つ4 1 1 ぶ翠期想 ^︵ S︶絆期線談擦 ■ 腐敗発生率 El腐 敗発生指数 近紫外線除去フイルム 図-3 (2)ギ ポウシ類 対照 促成中の駒木の腐敗 に対する近紫外線除去 フイルムの効果 (1997,未 発表 腐敗発生程度 :甚 (4)∼ 微 1ヽ 腐敗発生率 :総 駒木数に対す る腐敗発生数,腐 敗発生指数 :Σ (腐 敗発生程度 *個 数)/総 駒木数/4) , (ウ ルイ) る。ウルイの産地化 は,比 較的新 しく平成になっ ウルイは,本 県では比較的なじみの深い山莱で てから開始され,現在ではタラノキに次 ぐ主要な ある。やや滑 りがあ り,く せの無い食感 は,現 代 山莱 として栽培 されている。 風 の新たな食材 として消費拡大が期待 されてい ― 研究開発 は,1987年 ∼ 1992年 に山形県立園芸 ― “ 試験場において,半 緑化栽培 に関す る技術開発を ギボウシに躍 のゥラジロギボウシと考 えられ (未 発表)し たことを契機 に本格的に普及が る。現在,本 県で栽培が多 いウルイは,山 採 り山 開始 された。その後,出 荷形態の変更等,諸 般の 菜 として一般的に食される「 うるい」であるオオ 事情によ り,軟 白に近い商品形態に変化 し (通 称 バギボウシとは異なり,通 称「谷地 うるい」と呼 「つぼみ」 という。 ),販 売促進活動が成果を上げ ばれ,コ バギボウシの近縁種であるバ ランギボウ たことも相まって,本 県の庄内地方を中心に主産 シのように,種子が稔実 しない,専 ら栄養繁殖す 地が形成 されるに至った。当農業研究研修 セン る種 を栽培 に用 いるのが一般的にな っている。 ター中山間地農業研究部では 1996年 以降に,中 (理 由は後述す る。 ) 開発 山間地域での技術実証を目的にした研究開発 (未 以降のウルイに関する説明は,特 に説明をしな 発表)を 実施 している。 い場合は,コ バギボウシ近縁種 と考 えられる栽培 1)生 理・生態的特性 種 に関する記述 とする。 ウルイはユ リ科ギボウシ属の山菜 で,日 本全国 ウルイは,春 の萌芽後,長 日条件により花芽分 の山野に自生 してお り,そ の中の数種は山菜 とし 化 し,発 達する。通常,春 期 までに花芽分イヒし て食されている。また,観賞用 として数多 くの園 6月 下旬以降に抽 だい,開 花す るが,同 年の秋期 芸品種が知 られている。 に抽だい,開 花する場合 も多い。この現象 は,一 本県で食用にされてきたギボウシは,「 うるい」 および「 ぎんl珂 と呼ばれ食用 にされてきたが , , 般的に同年に新 しく形成 された腋芽が抽 だいする もので,栽 培現場では 2次 抽だい と呼んでいる。 長 く,種 の分類が不明確であった。藤田 (1976 2次 抽だい した株 は,促 成 した場合の収量が低下 年)に よ り日本産ギボウシ属の分類が行 われ', する。 それによれば,本 県の「 うるい」はコバギボウシ 近縁種又 はオオバギポウシ,「 ぎんぼ」はオオバ 表-9 また,現在,栽培 に使用す る系統 は種子の稔実 はほとんど認められない。 ウルイの促成開始期が収穫,収 量に及ぼす影響 (1996,山 形県中山間農試,未 発表) 株養成場所 収穫期間 促成開始期 平均 1 9 9 1 2/5 6 9 2/ 8 2 4 1/29 12/18 12/27 1 9 1/29 1/27 1/30 6 1 2/13 2/16 2/13 9 7 1/11 1/16 1/11 2 4 11/27 12/6 0 4 2/1 3 4 2′ / 5 0.37 2 5 1//25 1/29 3 6 1/19 12/18 12/27 020 6 3 1/30 1/23 1/26 9 3 金山町山崎 2/13 2/16 8 4 新庄市松本 1/16 1//11 4 6 11/27 12/6 奮 t 電 簿 學 最 線 [タテ 045 043 0.19 045 043 0.51 注)供 試系統 :東 根系 栽培条件 :1芽 分割苗 ,1年 養成 促成率 :商 品収量/伏 せ込み株重 8℃ 以下の低温遭遇量 (新 庄市松本)11/2:410h,12/6:608h,12/18:880h,12/27:1,088h -45- 葉腋 には腋芽が分化 し,夏 季から秋季 にかけて は,オ オバギボウシに比較 して,軟 自した場合の (葉 の開きが違 いことを表す。 )等 充実 し体眠す る。腋芽は,短 日条件で前休眠,そ しまりが良 く の後,自 発休眠に入 り,一 定量の低温に遭遇す る の品質が優れる特性 を有す る。 ことにより覚醒す るといわれている。自発休眠の 栽培系統間の差異 は,葉 形の差異 ,葉 色の濃 程度 は,系 統によって異なるが,概 ね8℃ で900時 淡,草 丈の違い (栽 培系統間では違いは少ない。 ) 間遭遇する必要があり,山 形県内では,1月 第 1 および増殖する腋芽の数等 に明らかな差異があ 半旬 には覚醒する り,県 内の農業者のニーズに沿 つて,各 産地で適 (表 -9)。 2)栽 培系統の特性 した系統が選ばれている。 現在,栽 培に供されている系統 は,全 て県内の 一部ではオオバギボウシを栽培する産地事例 も 自生種から選抜 した系統 (明 確な名称 は定 まって あるが,専 ら露地栽培が主体 で,主 産物の形態も いないが,便 宜上,自 生地の地名で呼称す ること 山採 り物 と同様な荷姿で出荷 している。 にする。 )で あ り,上 山系,東 根系,藤 島系およ 3)株 養成技術 び遊佐系等である。これらの系統 はコバギボウシ ウルイは栄養繁殖する系統 を用いているため , 近縁種 と考 えられる系統で,種 子力ヽまとんど稔実 増殖は腋芽 しなく,オ オバギボウシに比較 して葉が小さい特 よる。 (以 降「芽」 と表現す る。 )の 分割 に 徴を有す る。また,観 察では,オ オバギポウシに 株養成 に関す る研究は,1989年 よ り山形園試 比較 し,1株 当た りの葉数が多いことから,腋 芽 で組 み立 て られた (未 発表 )1芽 分割法 が一般的 の数が多 い特性 を有す る。 これらの系統 を促生 に普及 してい る。 した場合に,外観上の違 いは少ないが,一 般的に 定植時 の分割株 の大 きさは,根 を含 む全 重 で 0 8 6 4 2 0 8 6 含8 \ぜ ︶嘲挙 4 2 l kg 2 kg 3 kg l[驚 フ 亀 lkg l芽 分 割 図 -4 2kg 3kg I[驚 2分割 蓼亀 苗 の芽 の処理方法 と追肥 の量が促成物 の収量 に及 ぼす効果 (2000,山 形農研 セ ンター中山間地農業研究部 ,未 発表 ,供 試系統 :東 根系 肥効調節区以外 の基肥 は窒素成分で l kg/a) -46- , 表-10 ウルイの促成株の断根処理が収量品質に及ぼす影響 (2000,山 形農研センター中山間地農業研究部,未 発表) 4 4 8 3 3/7 無処理 1 3/27 3/19 3 100% 50% 平均重量 (g) 茎径 商品収量 (10株 当 た り) (aln) 96 104 ︲5 4Ш 3 収穫開始日 重量 (g) 10.7 注)商 品 :10g以 上で,形 状が正常 供試系統 :東 根系 30∼ 50gの 大 きさが適 し,春期 に定植す ると晩秋 ね30日 ∼45日 である。自発休眠がやや深い状態 期 には促成に適 した大 きさになる。芽数 は,上 山 での促成の場合,50日 以上を要する場合がある 系の場合,約 4∼ 5芽 (潜 芽等小さい芽は含めな が,実 際栽培では現実的ではない (表 -9)。 い。 )に 増殖す る。定植後 の生育量 との関係で,2 なお,養 成株の掘 り取 り作業 との関係で,断 根 茅苗 に分割す る方法や 1茅 苗 を2年 間株養成す る の程度 と促成物の収量および品質について調査 し 方法 も試みられているが,い ずれも,1芽 に分割 たところ,断根の程度が大 きくなるにつれて,促 した苗を早春 に定植 し,同 年に掘 り上げる方法が 成物の収量 は低下す る傾向が認め られた。養成 最 も優 れていた 株の掘 り上げ作業や促成床への伏せ込み作業 を勘 (図 -4)。 施肥 は,緩 効性肥料 を活用 し,秋季 まで肥効が 継続す る方法が優れている。 (図 -4) 案す ると,断 根の程度が大きいほど作業能率は向 上するが,収 量の低下は大 きくなる (表 -10)。 4)促 成技術 促成開始時期 は,自 発休眠がほとんど覚醒 した 時期か ら可能であ り,山 形園試 (山 形県寒河江 2Kl日 近年,山 菜類は野菜類の中では比較的高価格 で (山 形県新 販売され,多 くの農業者の栽培意欲 を高めてい 頃 と推察 されている (表 る。一方,生 産面では,栽 培品種が少 ない,ま た 市)の 場合 は 12月 25日 頃,当 研究部 庄市)の 場合 は12月 3.ま とめ 種苗が十分流通 されていない,収穫まで年数 を要 -9)。 促成 は,軟 白ウ ドと同様 に,促 成床に伏せ込 する種類が多い,栽 培 を支援する技術開発が遅れ ている等が,阻 害要因になっている。 な, もみがら等の軟自資材 を敷 き込む。 促成温度 は,促 成開始から数日間はやや高温気 今回取 り上げたタラノキは,増 殖法の開発,合 味 に管理 し',初 期の生育 を促進す る方法が優れ 理的な促成法および有望 な特性 を有する品種およ ている。 この傾向は 自発体眠の程度 によって効 び系統の選抜や育種により,飛 躍的 に産地化が進 果が異なり,自 発休眠が残る場合に,促 成 日数や んだ。山採 りの穂木 を促成栽培する初期段階の 収穫日数の短縮 に効果が大 きく,自 発休眠の覚醒 栽培法から,技術開発により,ま さに野菜化 され 後 は,そ の効果が少ない傾向が認められた (山 形 た山莱 として産地が形成 された。技術が主産地 県中山間地農試 :未 発表)。 を形成 した事例である。 促成 日数は,促 成時期によ りやや異なるが,概 -47- ウルイでは,技 術開発のみならず,野菜化 にふ さわ しい商品開発が産地化の初期段階では非常 に め,今後 とも,山 莱類 は消費者の高い支持を集め 重要であることが示唆 され,山 採 りのウルイと てい くものと思 われる。生産面では,主 力の作型 は異なった商品形態が消費者ニーズに適合 した事 が促成栽培であることが,一 層,そ の可能性を高 例である。生理,生 態の解明等の技術開発 と商品 めているものと考 えられる。 開発が相乗効果を発揮 し,産 地化の気運 を押 し上 げた好例である。 今回紹介 したタラノキやウルイの技術開発の事 例 は,技 術開発の歴史が浅いこともあるが,栽培 その他 の山菜類では,ミ ズ,コ ゴミ,イ メ ドウ 技術の開発が農業者の生産意欲を醸成するとい う ナ,ワ ラビおよびゼ ンマイ等の多 くの種類につい 技術の流れを,直 接感 じることがで きる事例に て栽培技術 の開発が実施 されつつある。多 くの なった。山菜類のような研究例が少ない作 目で 山菜類は,生 産地ではよ く知 られているが消費 は,技 術開発 と産地化のサイクルを短縮す るた 地では馴染みが少ない種類であることが多い。そ め,生 理,生 態の解明等 の基礎的な研究の重要性 のため,産 地化 の初期段階では,商 品開発や販売 も明確 になった。 促進活動等の流通対策が効果的であ り,技術開発 消費動向の変化は激 しいが,農 業者のニーズ と を経て,順 次,野 菜化 され,主 産地が形成 されて 研究シーズを効率的に組み合わせるような研究課 い くものと考 えられる。 題の選定がますます重要になって くるものと考え また,山 菜類は,新 たな食感,食 味や旬,ま た られる。 安全,安 心志向に応えられる野菜である。そのた 引 用 文 献 1)阿 部清 ,大 木淳 ,川 村啓造 1999 タラノキの品種特性 東北農業研究 52:225-226 2)藤 田昇 1976 日本産ギボウシ属 植物分類・地理 27:66-96 3)伊 藤政憲,黒 日吉則 ,舟 越利弘,岡 崎良子 ,横 川庄栄 1990 ウ ドの半緑化促成栽培技術 の確立 第 1報 4 5 促成温度が収量及 び品質 に及 ぼす影響 東北農業研究 43:245-246 丸子武志 ,斎 藤克哉,岡 部和広 1999 タラノキの育苗法 東北農業研究 52:227-228 6 大木淳,阿 部清 ,川 村啓造 1999 タラノキの施肥方法 東北農業研究 52:229-230 斎藤克哉,丸 子武志 ,岡 部和広 2111Xl タラノキの育苗開始時期が収量 品質 に及 ぼす影響 .東 北農業研 究 53:219-220 -48-